アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第40話 神をも恐れぬ男(前編)

龍馬は中庭に出ると見知った顔に会った。

青い髪を持つメイドの少女……以前我が家にもやってきたマリーだ。彼女は龍馬達一行の宿泊に関する身の回りのことを任されている。城にいる時は何度か顔を会わせていた。初日に再会した時はマリーは嬉しさのあまり龍馬に飛び付いてしまったほどだ。

 

「あら、リョーマさん。こんばんわ」

 

「ああマリー、こんばんわ……ってすまない、今急いで……ん?」

 

挨拶も早々に龍馬は立ち去ろうとしたが、マリーを見てあることを思い出した。

 

「マリー、お前確か噂話に詳しかったよな?」

 

「ええ、まあそれなりに。最近だとアルフォンス様がポエムを書いているとかいないとか、アルバート様は最近痔に悩んでいるとかいないとか……あくまで噂ですけど」

 

アルフォンスのポエムやらアルバートの痔やらはこの際どうでもいい。もし彼女が帝都の噂にも明るいのであれば"黒衣の刃"に繋がる情報を持っているかもしれない。

 

「マリー!"黒衣の刃"について何か知らないか!?」

 

「"黒衣の刃"……?ええと、アルバート様達が話しているのを聞いたことはありますけど……ごめんなさい、それ以上はわかりません」

 

「そうか……」

 

やはり情報収集というのはそう簡単にはいかないようだ。内心ガックリとしつつも龍馬はダメ元で事情を話してみる。

 

「そうなのですか……それでしたら"その筋の人"に聞いてみるのも一つの手かもしれません」

 

「"その筋"?」

 

「ええ。裏の界隈に詳しそうな方です。例えば傭兵。それに冒険者とか。ちょっと危険ですが若干ガラの悪い人。そしてそういう人が集まる場所といえば……」

 

「……酒場か!」

 

「その通り。ただ、ガラの悪い人に関しては危険ですのであまりおすすめはしませんけどね……」

 

「わかった!ありがとう!じゃあ急ぐから俺は行くぜマリー!おやすみ」

 

「え!?ちょ、ちょっとリョーマさん!」

 

龍馬はそう言ってバイクに跨がるとエンジンをかけて疾風のごとく颯爽と駆け出して城を飛び出していってしまった。

 

 

 

 

龍馬はまずカムラン一家の元に向かった。"ヤツ"はまだいるだろうか。

龍馬はマリーの言うとおり裏事情に詳しい人間を当たることにした。となれば"ヤツ"しかいない。

龍馬がカムラン一家の屋台に戻ると丁度"ヤツ"が片付けを終えてカムラン一家と別れたところだった。

 

「おい、グレッグ!!」

 

「ん?うおっ!あぶねえっ!」

 

龍馬は帰ろうとしていたグレッグの背後から近づき、横にバイクを止める。

 

「んだよ、リョーマかよビックリさせるなよ……そんな鉄の馬乗り回してたら衛兵に捕まっちまうぞ?」

 

「オメーにゃ言われたくねーよ!つーか、俺がバイク乗ってるのは国の許可があるからだよ!いや、そんなことはどうでもいい!グレッグ、"黒衣の刃"について何か知らないか!?」

 

「"黒衣の刃"ぁ?……ああ、まあ裏の界隈では結構有名だな。それがどうかしたのか?」

 

龍馬はグレッグに迫った。黒衣の刃について何か知っているのならば何としてでも情報が欲しい。

 

「そいつらが帝国が保護するはずだったキャラバンの"ある物"を奪った可能性が高い。俺の勘では奴等は帝都にいるはずだ。何とかして奴等を見つけ出さないと……」

 

「そういうことか。うーん……悪いが俺も詳しくは知らねえんだ。だがその筋に詳しい情報屋なら知ってる。グラントって男だ。黒い肌でツルッパゲだからすぐわかる。この時間ならどこかの酒場に出入りしている筈だ」

 

「わかった、ありがとよ!助かったぜ!」

 

龍馬はグレッグに礼を言って素早くターンするとまずは竜の髭亭へ向かう。

だがここでは収穫は得られなかった。グラントらしき男は見当たらず、レベッカに他の酒場を聞いて外へ出る。龍馬は次に帝都の南にある酒場へ向かう。

そこで再び情報を集めるが、やはり収穫は無し。しかも酔っ払いのチンピラに絡まれて無駄な時間を食った。まあ、全員叩きのめしてやったが。

龍馬は次に港近くの薄暗い酒場へ向かった。辺りはゴロツキだらけだ。そこでグラントらしき男を見つけた。

黒い肌にスキンヘッド。特徴は一致する。

 

「あんたがグラントか?」

 

「……何の用だ。ここはガキが来る所じゃねぇぞ」

 

「……あんたが情報屋だと聞いた。"黒衣の刃"について聞きたい」

 

「……金貨100枚だ。ビタ一文まけねぇぜ」

 

「……」

 

情報屋ならば金を要求してくることも想定していたがあまりにも法外な金額を要求してくるグラント。龍馬はただでさえあちこちを走り回り、 なかなか進展しない現状にイライラしていた。ようやく情報屋を見つけて進展があったと思ったが、今度はこの男は明らかに払えるはずもない金額をふっかけてきたのだ。龍馬が子供だと思って舐めてかかっているのだろう。

 

「払えるわけねぇよなあ?だったらとっとと帰んな」

 

そう言って再びジョッキのエールに手を付ける。その会話を聞いていた辺りのゴロツキの男達から嘲笑を含んだ野次が飛ぶ。

 

「帰れ帰れ!」

 

「ガキは帰ってママのオッパイでも飲んでな!」

 

さらに後ろから空のジョッキが飛んできて龍馬の背中に当たった。

この瞬間、龍馬の怒りが爆発した。

龍馬はジョッキを拾うと近くにいたゴロツキの顔面に思い切り投げ付けた。

 

「や、野郎!!」

 

それを見た別のゴロツキが龍馬に殴りかかってくるが、龍馬は顔面に思い切り拳を叩き込んで一撃でノックアウトした。

さらに別の男を投げ飛ばし、カウンター奥の酒棚に叩き付ける。瓶の割れる派手な音が響き渡り、破片と中身が辺りに飛び散った。人相の悪い店主はカウンターの奥で怯えている。

 

「もうめんどくせえ!!この場にいる全員かかってこいや!!」

 

龍馬は怒りを露にし、手当たり次第にゴロツキ達を殴り倒した。一人は顔面に蹴りを受け、一人は椅子で横っ面をぶん殴られ、一人は頭を瓶で殴られた。ガタイのよいゴロツキ達を相手に怒りのパワーで圧倒する龍馬。"博多の怒龍"の名は伊達ではない。

あっという間に全員を叩きのめした龍馬は部屋の隅で怯えるグラントの胸ぐらをひっつかむと怒鳴った。

 

「言え!!"黒衣の刃"はどこにいる!?」

 

「ひぃ!!し、知らねえ!!知らねえよ!!」

 

龍馬はそう言うグラントの胸ぐらを掴んだまま顔面に拳をぶち込む。さらにもう一発。

 

「後ろでぶっ倒れてる連中より傷が増える前に早く言ったらどうだ!!」

 

ダメ押しに龍馬はもう一発拳を浴びせ、さらにもう一発を打ち込もうと構えたところでグラントはようやく観念した。

 

「わ、わかった!言う!言うよ!だからもう殴らないで……!」

 

龍馬が胸ぐらを離すとグラントはその場にへたりと座り込んだ。

 

「こ、"黒衣の刃"は……最近貴族街に出入りしているらしい……目的までは知らねえよ……」

 

「貴族街はどこだ?」

 

「帝都の南西だ……」

 

「ったく、たったそれだけ言うのに手間かけさせやがって!」

 

龍馬はグラントに踵を返して酒場を後にした。

再びバイクに跨がり、次は貴族街を目指す。

貴族街はその名の通り、貴族達の住まう豪邸が建ち並ぶエリアだ。役人の住居もここにある。

龍馬は貴族街の大通りまで来るとバイクを止めた。

 

「さて……この辺に奴等が……ん?」

 

龍馬がバイクを降りてヘルメットを脱ぐと両側の路地から黒ずくめの男達が近づいてくる。

 

「何だオメーらは」

 

「……」

 

黒い外套に黒いフード。ただ者ではないその雰囲気。龍馬はこの時確信した。

 

「オメーらが"黒衣の刃"か?」

 

「……リョーマとやら。我が主との契約に従い、死んでもらう」

 

「……なるほどな。まさかそっちからやってきてくれるたぁ好都合だぜ。上等だ!かかってきやがれ!」

 

二人の黒ずくめの男はダガーを取り出して素早い身のこなしで龍馬に襲いかかる。

龍馬は素早くそれをかわし、キックを繰り出す。だが、黒ずくめの男はそれをバク転で回避する。

すかさず次の男が間合いを詰めるが、龍馬はケンカキックで男を突き放す。

 

「くっ……!」

 

「どうした、かかってこいよ!」

 

龍馬が挑発すると男は再びダガーを構え、素早く懐に入り、ダガーを振り上げる。

すんでのところで回避する龍馬だが、ダガーの切っ先が彼の顔をかすめてわずかな傷を負わせた。男のダガーの刃先から龍馬の血が滴り落ちる。

やはり盗賊であり、暗殺者であるその身のこなしは今までに戦ったゴロツキ達とは比べ物にならない。龍馬の背中に汗が滲む。

再び襲い来る男のダガー。だが龍馬は素早くかわすと一瞬の隙を突いて男の腕を掴んで拘束した。

そしてもう一人の男が攻撃するよりも早く、龍馬は掴んだ男の肘の関節に手刀を打ち込んだ。

 

「ふんっ!!」

 

「ぎゃあああっ!!」

 

骨の砕ける嫌な音と感触がした。

五十嵐流・断骨。小刀封じの動作からの派生技だ。

相手に重傷が負わせるが故の技なため、今まで龍馬はこの技を祖父の教えを守り、意図的に使わなかった。

だが今は違う。相手は暗殺者であり、殺らなければ自分が殺られる。しかも相手は二人。手段など選んではいられない。少年は覚悟を決めたのだ。

龍馬が断骨を決めたのと同時にもう一人の男のダガーが襲い掛かった。龍馬は掴んでいる男を離し、ダガーを避けてすかさず顔面にパンチを入れる。

 

「ぐはっ……!く、くそっ……!」

 

男達と龍馬のにらみ合いが続く。その時、違うバイクのエンジン音が聞こえてきた。

 

「龍馬ー!!」

 

見ると勇斗とディレットがそれぞれのバイクに跨がり、こちらへやってくる。その瞬間、一瞬の隙を突いて男達はバラバラに逃げ出した。

 

「あっ!待ちやがれ!」

 

しかし男達は暗い路地裏に逃げ込み、すぐに姿を消してしまった。

追跡を諦めた龍馬は勇斗とディレットに合流することにした。

 

「龍馬!探したぜ!突然飛び出して行ったってアルバートさんから聞いて慌てて後を追ったんだ」

 

「リョーマを見たって帝都の人の情報辿って追っ掛けてきたんだよ!もう……!一人で飛び出しちゃうなんて……」

 

「悪い悪い。つい、な。……それより"手掛かり"が逃げちまった」

 

「今お前とやり合ってた連中はなんだ?」

 

「奴等は"黒衣の刃"っていうコソドロアサシン野郎共だ。奴等がルミナの故郷への行き方を記した暗号のメモを奪った犯人だ」

 

「マジか!?」

 

龍馬はこれまでの経緯を二人に説明する。

それを聞いた勇斗は龍馬にある提案をした。

 

「龍馬、お前確かドローン持ってなかったか?」

 

「ああ」

 

「そいつで上空から奴等を探せないか?」

 

龍馬が祖父の平蔵からもらったソーラー・ドローン。龍馬は手持ちのメッセンジャーバッグに入れて帝国へ持ち込んでいた。勇斗の提案を受けて龍馬はドローンを取り出して起動する。

日本では航空法により夜間のドローン飛行は禁止されているが、ここは帝国だ。大丈夫だろう。龍馬はそう考えつつ、上空へ飛ばした。……が、ここでようやくあることに気が付く。

 

「……って、暗くて何も見えねえよ!!」

 

「いや、気付くのが遅えよ」

 

「気付いてたんなら早く言えよクソゴリラ!!」

 

「えぇ……いやまあそうだけどさ、ちょっと言葉が辛辣過ぎない?」

 

現在は夜間だ。ドローンを飛ばしても何も見えない。これでは意味がない。

 

「ったく……ん?」

 

龍馬はその時あることに気が付いた。スマホのドローン操作画面の設定項目にに"N"と書かれたアイコンがある。龍馬はそれを押してみた。

 

「うおっ!?」

 

するとドローンのカメラ画面が緑色に染まり、辺りが鮮明に見えるようになった。

これは……暗視機能(ナイトビジョンモード)だ。

 

「え!?リョーマ、これ暗い所が見えるよ!?」

 

「ナイトビジョンじゃねーか!?これ軍隊とかで使われてるマジモンの超高価なカメラだぞ!?お前のじーちゃん、何者だよ!?」

 

「あのじーさん、"夜間に飛ばすな"とか言っときながら何てモノを付けてやがる……」

 

平蔵はなんとドローンにナイトビジョンモードを密かに取り付けていた。おそらくは使うことがないと知りながらも機械いじりの血が騒ぎでもしてノリで付けでもしたのだろう。ともかくこれなら夜の町をドローンで見通すことができる。龍馬は早速ドローンを上空に飛ばし、辺りを索敵した。

するとここからそう遠くない通りに例の二人を見つけた。黒ずくめの外套に一人は龍馬に骨折を負わされた腕を庇っている。間違いない。

 

「いたぞ!こっちだ!」

 

龍馬達は徒歩で男達を追い掛ける。

ドローンを操作しつつ追走を続け、男達はある豪邸に入って行くのが見えた。

そしてその屋敷の前まで来た時、ディレットが驚くべき事を口にした。

 

「リョーマ……!ここ、ラオグリッドの屋敷だよ!」

 

「なにィ!?クソッタレが!!キャラバンの襲撃の裏で糸を引いていたのは奴だったか!!」

 

 

龍馬は鍵のかかった門を怒りに任せて蹴飛ばす。ガシャン、ガシャンと門が衝撃に震える音が鳴り響く中、二階の窓からラオグリッドは慌てた様子で龍馬達を見下ろしていた。

 

「な、何故奴等がここに!?お前達、尾けられていたのではないか!?」

 

すると傍らにいた黒ずくめの男の一人が前に出て言う。

 

「……それはない。この闇の中、撒くのは容易かった。尾行はありえない」

 

「だが、奴等は現にここを突き止めているではないか!!ええい、こうなったら我が私兵を総動員して奴等を止めろ!!お前達も行くのだ!!何としても奴等を食い止めよ!!」

 

「御意」

 

「……御意」

 

腕を負傷した方の男も共にラオグリッドの私室を出ていく。後にはラオグリッドだけが残された。

 

「おのれリョーマ……!!愚かなニホン人のガキめ……!!どこまでも私の邪魔をするつもりか……!!」

 

ラオグリッドは窓から門を蹴破ろうとする龍馬達を睨み付ける。

 

 

 

 

 

「龍馬!息を合わせろ!」

 

「っしゃ、行くぜ!!」

 

 

「「おおりゃああああああっ!!!!」」

 

 

龍馬と勇斗が同時に門を蹴飛ばす。すると頑丈な錠前が音を立てて砕け、門が開いた。三人が敷地内に入るとあちこちから武装した傭兵達が現れる。

 

「二人とも気を付けて!ラオグリッドの私兵達よ!」

 

「ようやく敵の居城にやってきた感じが出てきたな!龍馬、遅れるなよ!」

 

「おい、誰に言ってんだゴリラ?お前こそ足引っ張るなよ?」

 

龍馬と勇斗の二人は構える。修羅の国と言われる福岡で鍛えた喧嘩技は伊達ではない。寄せ集めの私兵など烏合の衆に過ぎない。そのことを身を持ってわからせてやろうではないか。

 

「行くぞおおおお!!」

 

「おりゃああああ!!」

 

龍馬達は戦闘を開始する。

ロングソードを振りかぶる傭兵を一撃で殴り倒し、勇斗は鎧を付けた者すら持ち上げて投げ飛ばす。

 

「死ねぇ!ガキが!」

 

「うるせえぇぇぇ!!!!」

 

斧を振りかぶった兵士がそれを振り下ろす前に龍馬の飛び蹴りが炸裂した。そのまま馬乗りになって顔面に拳を叩き込み、気絶させる。

 

「このガキがあぁぁ!!」

 

メイスを持った大男が勇斗に殴りかかるが、勇斗は持ち前の怪力で男の手首を握り締めて武装解除し、一発顔面を殴る。さらにそのメイスを拾って顔面に強烈な一撃をお見舞いした。

後ろからやってくる傭兵達はディレットがフルゥムの魔法で追い払う。

中庭の傭兵を一掃すると龍馬は正面玄関の扉を蹴破ってラオグリッド邸に突入する。

 

「ラオグリッドぉぉぉ!!どこだ!!出てきやがれ!!」

 

しかし次々に現れるのはラオグリッドの私兵達。さっきよりも数が多い。だがそんなことでたじろぐ龍馬達ではない。

 

「まとめてかかってこいや!!全員叩き潰してやらぁ!!」

 

エントランスでの乱戦が始まった。

博多の怒龍は手当たり次第に傭兵達を殴り倒し、さらに高級品であろう壺や絵画などを軒並み武器にしては振り回す。

勇斗の怪力の前には鎧をも意味を成さず、むしろ動きが重たい分、喧嘩を得意とする彼等の前では逆効果であった。

遠距離からはディレットのフルゥムによる火球やブレイズによる氷の刃が容赦なく飛んでくる。

そしてエントランスの敵を片付けた龍馬達は二階を目指す。

しかし二階の階段を上がった時、下から残党が追いかけてきた。

 

「龍馬!俺に任せろ!」

 

勇斗は二階の廊下にあった一際大きな壺を抱えると階下に向けて投げ飛ばした。転がる巨大な壺に次々となぎ倒される傭兵達。

 

「いっちょあがりぃ!」

 

「ナイス、勇斗!」

 

「ハヤトはやっぱり力もちだね!」

 

三人は部屋を片っ端から捜索する。そして一番大きな扉の前に行き当たった。

 

「如何にも、な扉だな」

 

「ああ、準備はいいか相棒?」

 

龍馬と勇斗は無言で顔を見合わせて頷く。ドアを蹴破ろうとしたその時であった。

 

「……二人とも!上よ!」

 

突如頭上から黒ずくめの男がダガーを構えて強襲してきた。慌てて横に回避する二人。いつの間にか後ろにはもう一人の負傷した男がダガーを構えて立っている。

 

「龍馬、お前はあの片腕をやれ。俺はこっちをやる」

 

「わかった、死ぬなよ!」

 

二人はそれぞれの相手と対峙し、戦闘を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラオグリッドは部屋にある机の下で震えていた。今まさに自分の部屋の前の廊下で戦闘が繰り広げられている。

 

「(くそっ……どうして私がこんな目に……私は天下のラオグリッド商会の取締役だぞ!)」

 

私兵も全て倒された今、頼みの綱はあの"黒衣の刃"の二人だけだ。しかし片方は負傷しており、不安が残る。

しばらく乱闘の音が続いた後、急に静かになった。ラオグリッドは立ち上がり、扉の方を凝視する。

 

「……お、おい!どうした!?ガキ共は殺ったのか!?」

 

そう言った瞬間扉が蹴破られ、鬼の形相をした二人が入ってきた。黒衣の刃の二人は後ろでディレットに縛られている。

 

「ラオグリッドぉぉぉ……探したぜえぇぇ……」

 

「ひっ、ひぃっ!!」

 

あまりの恐ろしい形相にラオグリッドは腰を抜かし、後ろに這いずるようにして後ずさる。しかし龍馬はラオグリッドの胸ぐらを掴んで引き起こすと顔を近付けてドスの効いた声で言う。

 

「暗号のメモはどこだ」

 

「し、知らんっ!そんなものは知らない!」

 

「そうか……」

 

龍馬はそう言うと胸ぐらを掴んだままラオグリッドの顔面を一発殴る。

 

「ぐへぇっ!」

 

「テメーがシラを切るたびに一発ずつそのツラを殴る。もう一度聞くぞ。『暗号のメモはどこにある?』」

 

「……わ、私の机の引き出しに暗号の解読書がある……」

 

それを聞いてディレットがラオグリッドの机を調べる。すると複数枚の解読書が見つかり、花の里への行き方が記されていた。

さらにディレットが気になる物を発見し、ページを開いてみる。

 

「リョーマ……これ……!」

 

「なんだ、どうした」

 

「そいつの……ラオグリッドが今までに取引をした相手のリストを見つけたわ……!その中に……"ヴォルティス・アランドルン"って……!」

 

「なに!?」

 

そのリストにはラオグリッドが今まで行ってきた取引の内容と取引をした相手の名前が記されていた。そこに書いてあった"ヴォルティス・アランドルン"のフルネーム。言うまでもない、レクシオン教団大司教のヴォルティスである。

 

「……賄賂、私兵の貸付、奪った土地の持ち主が持っていた財産の一部の横流し……カムランさんご一家の放火の件も書いてあるわ……!しかも帝国が禁止している人身売買の記録まで……!ラオグリッド、あなたとヴォルティス大司教が癒着していたという噂は本当だったのね……!」

 

龍馬はそれを聞いてラオグリッドを睨み付けると怒鳴った。

 

「このっ……!!最低のクソ外道野郎がぁっ!!」

 

龍馬はラオグリッドの顔面を渾身の力を込めて何発も殴る。

 

「うがっ!!がっ!!あがっ!!」

 

「このっ!!クソがっ!!テメーは一体何人の罪のない人達を傷付け、奪ってきたんだ!!」

 

さらにもう一発ぶん殴り、ラオグリッドは地面に倒れる。しかし龍馬の怒りは収まらない。

龍馬は倒れたラオグリッドに馬乗りになり、さらに顔面を何発も殴る。

 

「クソッタレが!!くたばれ!!今すぐくたばりやがれええぇ!!!!」

 

ラオグリッドを殴り続ける龍馬。しかしあまりの悲惨な光景にディレットが止めに入る。

 

「リョーマ!もうやめて!やりすぎだよ!」

 

「……っ!!」

 

既にラオグリッドは失神している。顔はアザだらけの血まみれで身にまとった高い服や装飾品も自らの血で無惨に汚れている。

 

「龍馬。もういいだろう。あとは衛兵に任せよう」

 

「……ああ、すまねえ」

 

勇斗はそう言って気絶したラオグリッドを縛り上げると、スマホを取り出して城にいる龍一郎に電話をかけた。

 

「もしもし、龍馬のお父さん?ちょっと代わって欲しい方がいるんですが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、勇斗は龍一郎に頼んでアルバートに代わってもらい、事の次第を伝えた。衛兵が来るまでの間にディレットは部屋を調べる。

するとさらに過去の暗い取引がどんどん明らかになった。その中にラオグリッドの手記を見つけたディレットはそれを読んでみる。

やはり過去の取引に関する胸糞の悪いラオグリッドの心情が書かれているが、一番新しい日付のページを見て目を見開いた。

 

 

 

 

"今日はヴォルティス大司教との取引だった。聖職者のくせに相変わらず金品に目が無いタヌキオヤジだ。まったく、よく大司教なんかになれたもんだ。

しかし私達の会話をノエルとかいう女に聞かれてしまった。だがまあ心配はない。すぐに捕らえたからな。

あのタヌキオヤジは女にも目が無い。今ごろはお楽しみだろう。ま、私は聖職者の女になど興味はないからくれてやるが……"

 

 

 

 

 

 

「……リョーマ!大変よ!ノエル様が危ない!」

 

「なんだと!?」

 

「ノエル様はヴォルティス大司教とラオグリッドの秘密を知ってしまって捕まってる!助けに行かないと!」

 

「マジかよ……こうしゃいれねぇ、早くノエルさんを助けに行くぞ!!」

 

「龍馬!ディレット!衛兵が来るまでこいつらは俺が見張っておく!ノエルさんは任せたぞ!」

 

「ああ!」

 

龍馬とディレットは勇斗に後始末を任せたのち、ラオグリッド邸を飛び出して大急ぎでバイクまで戻る。急いでバイクに跨がり、エンジンをかけた。

 

「(頼むぞ、ノエルさん……無事でいてくれ……!)」

 

二人の乗ったそれぞれのオフロードバイクは走り出し、夜の帝都を駆け抜けていく。

 

 

 

目指すは、レクシア大聖堂だ。




●龍馬vs"黒衣の刃"団員戦イメージBGM
『Fatal Conflict』
(『龍が如く0 誓いの場所』より)

●集団戦・vsラオグリッド私兵団員戦イメージBGM
『Tusk』
(『龍が如く0 誓いの場所』より)
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