アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第41話 神をも恐れぬ男(後編)

大聖堂に到着した二人。急いでバイクを降りて大聖堂の中へ向かう。中に入ろうとすると他の司祭達が龍馬達を止めようとする。

 

「何をしているのです!!夜間の一般の立ち入りは禁止されて……!!」

 

「うるせえ!!黙れ!!」

 

「ひっ!?」

 

龍馬がそう怒鳴ると彼のあまりの形相と声に怯んで司祭達は後ずさる。だが龍馬達がズンズンと進むと我に返った司祭達はディレットの前を歩く龍馬を再び止めに入る。

 

「離しやがれ!!」

 

「離しませぬ!!これより先は我等が教団の神聖なる領域!!賊を入れるわけにはいきません!!」

 

「ゴチャゴチャうるせえんだよ!!どけっつってんだろうが!!」

 

怒り心頭の龍馬は自分の服にしがみついていた司祭を背負い投げで投げ飛ばし、ラリアットで周りの司祭達も吹き飛ばす。ディレットは少しやりすぎではと思ってたが、今は事態が事態だ。純粋に神と大司教を信じる司祭達に申し訳なく思いながら龍馬の後に付いていく。

礼拝堂に辿り着くと龍馬はアレクの女神像を見上げて呟いた。

 

「何が神だよ、クソが……!!」

 

女神像をしばらく睨み付けると、再び前を見据えて礼拝堂の奥へ進んでいく。

篝火の灯された廊下を進み、部屋を調べる。

途中で遭遇した別の司祭をひっ捕まえてヴォルティスの部屋を聞き出す。

司祭は怯えながらヴォルティスの部屋を指し示す。龍馬とディレットはその方向に歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

その頃ノエルは"黒衣の刃"の男に連れられてヴォルティスの私室にいた。

手は後ろで縛られ、口も塞がれている。そんなノエルを見てヴォルティスはニヤリと笑う。

 

「神の救いはなかったようだな?」

 

「~~~~!!」

 

ノエルは涙目になりつつも、ヴォルティスを睨み付ける。だがヴォルティスは意にも介さない。

 

「秘密を知られた以上、お前を生かしておくわけにはいかん。……とはいえ、お前はあまりにも美しい。それ故に殺すのはあまりにも惜しい。どうだ?私の奴隷として仕えるのであれば命は助けてやらんこともないぞ?」

 

だがヴォルティスのその言葉にノエルは首を横に振る。

 

「……そうか、仕方ない。多少心は痛むが……おい、殺れ」

 

ヴォルティスの命令で黒衣の刃の男はダガーを取り出し、ノエルの首筋に刃先を当てる。ノエルは今まさに自分の命を奪おうとしている凶器に恐怖を感じ、身体を震わせている。

 

「(助けて……!誰か……!)」

 

 

 

 

 

 

「ヴォルティスぅぅぅぅ!!!!どこだあぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

三人はハッとして扉を見る。地の底から鳴り響くような怒鳴り声がどんどん近くなっている。黒衣の刃の男はノエルからダガーを離すと彼女を突き飛ばした。

 

「……どうやら邪魔者が来たようだ。先に奴を片付けよう」

 

男は扉を開け、外に出ていく。廊下をしばらく歩くとニホン人の少年とエルフがこちらに歩いてくる。龍馬達だ。

 

「……リョーマ!こいつって……!」

 

「……"黒衣の刃"の残りか。テメーがいるってことはこの先にヤツがいるんだな?」

 

「……そうだ。女もそこにいる。助けたければ行くがいい。ただし、私を倒せればの話だがな」

 

そう言った瞬間、男はナイフを投げた。ナイフは真っ直ぐ龍馬の顔目掛けて飛んでいくが、龍馬は軽く顔を動かしただけでかわした。

 

「……ほう。威勢だけではないようだ」

 

「うるせえ!!RPGの悪役のテンプレみてーなセリフ吐きやがって、ムカつくんだよテメー!!」

 

龍馬は思い切り殴りかかるが、男は素早くかわして龍馬の背後に回り込み、背中に蹴りを入れる。よろけた龍馬にダガーを刺そうとするが、反対から飛んできたディレットのフルゥムの火球を見て天井に飛び上がって避ける。それを見て龍馬は近くにあった壁の燭台をもぎ取ると天井にぶん投げる。だがそれもかわされ、再び床に降り立った男と対峙する。

 

「リョーマ、気を付けて!こいつ強いよ!」

 

「大事なイベント前のボス戦ってとこか!おもしれえじゃねぇか!」

 

明らかに身のこなしは先ほど戦った黒衣達とは違う。そしてその身から漂わせるオーラも。

龍馬は再び殴りかかり、そのパンチをかわす男。カウンターでダガーを繰り出すが、龍馬も素早くそれを避ける。

一瞬の隙を見て五十嵐流・鬼崩しを繰り出す龍馬だが、転ばせた瞬間男は宙で身を翻して距離を取るという離れ業をやってのける。

 

「ちぃっ!!」

 

ディレットもフルゥムやブレイズで攻撃するが、ことごとく避けられるか手に持ったダガーで魔法を受け流されるかのどちらかであった。

お互いに一進一退の攻防が続く。このままでは埒が開かないと判断した龍馬は一か八かの賭けに出た。

一気に間合いを詰め、殴りかかる。男はやはりカウンターによるダガー攻撃を行ってきた。

すると龍馬は信じられない行動に出た。なんと、男のダガーを手のひらで受け止めたのだ。

 

「ぐぅっ!!」

 

「リョーマっ!?」

 

ダガーの刃が龍馬の手のひらを貫通し、辺りに鮮血が飛び散り、彼は激しい激痛に顔を歪ませる。が、すぐに龍馬はニヤリと笑った。

 

「へへ……やっと捕まえたぜ……!!」

 

「!?しまっ……!!」

 

男は自分が誘われたことに気付き、龍馬から距離を取ろうとするが、この一瞬のチャンスを龍馬は逃さなかった。

龍馬は男の腕を掴み、関節に手刀ーーーー"五十嵐流・断骨"を喰らわせる。

 

「おりゃああ!!」

 

「ぐわああっ!!」

 

骨の砕ける音と感触。気持ちのいいものではない。だがそんなことを気にしている暇ではない。

龍馬はさらにそこから男を地面に引き倒し、追撃を行おうとする。だが、ディレットは見た。男のブーツの先に仕込まれた刃が光るのを。

 

「リョーマ!危ない!」

 

ブレイズを繰り出し、男の両足に氷の刃が突き刺さる。

 

「味な真似しやがって!寝てろやぁ!!」

 

黒衣の刃の男が最後に見たものは己の顔に向かって飛んでくる拳の一撃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いてて……」

 

「もう……リョーマったら無茶しちゃって……」

 

「へへ……肉を切らせて骨を断つってなぁ」

 

ディレットはヒールで龍馬の手のひらの傷を治療する。ある程度回復した龍馬は立ち上がり、ディレットと共に先を急いだ。

その頃、ヴォルティスは扉に鍵をかけ私室に立て籠っていた。

 

「……ノエルよ。命が少しだけ延びたな。だがいずれ奴が侵入者を殺して戻ってくる。奴は盗賊だが凄腕の暗殺者でもある。無駄な希望は捨てることだ。助けなど来な……」

 

床に倒れたままのノエルを見下ろしてそう言い放った時、部屋の扉のドアノブがガチャガチャと音を立てたかと思うと次の瞬間ドォン、と凄まじい力で扉を叩く音が響いた。

 

「ヴォルティスぅぅぅぅ!!!!」

 

まるで怒れるドラゴンのような怒鳴り声がドアの向こうから響く。ヴォルティスは慌てて息を殺した。

 

「(ば、馬鹿な!?奴はしくじったのか!?)」

 

ドォン、ドォンと扉が音を立てて揺れる。だが頑丈なこの扉が破られることはまずないだろう。ヴォルティスは息を殺して彼等が過ぎ去るのを待った。だがーーーー、

 

 

 

「おおおおりゃあああああああ!!!!」

 

 

 

龍馬は渾身の力を込めて扉にタックルをかます。その瞬間頑丈なはずの扉は轟音を立てて破られた。

 

「ヴォルティスぅぅぅぅ!!」

 

「ひ、ひえっ!!」

 

破られたドアから怒りに満ちた顔の龍馬が現れた。部屋を見渡すと隅で縮こまるヴォルティスとーーーー縄で縛られ、拘束されたノエルの姿が。

 

「ノエルさん!」

 

「ノエル様!」

 

二人は急いで彼女に駆け寄り、縄を解く。拘束を解くとノエルはそれまでの恐怖と助けが来た安堵からか涙を溢れさせながら龍馬にしがみついた。

 

「……リョーマさん……!ありがとう……!私……私……怖かった……!」

 

「もう大丈夫です。安心してください。……ディレット、ひとまず彼女を安全なところへ。俺は……今から"お楽しみ"の時間だからよ……」

 

ディレットは無言で頷くと足元のおぼつかないノエルに肩を貸しながら礼拝堂の方へ向かった。

そして龍馬はゆっくりと立ち上がり、ヴォルティスの方を向く。

 

「さて……ヴォルティス。二人っきりだな。ゆっくり楽しもうじゃねぇか」

 

「こ、この私に手を出すつもりか!?レクシオン教団大司教のこの私に!!」

 

「知るかボケェェェ!!!!」

 

龍馬は怒りを込めてヴォルティスの顔をぶん殴る。

 

「ぎゃひぃっ!!」

 

「何がレクシオン教団だ!!何が神の祝福だ!!ふざけたことぬかしてんじゃねぇぞこのドグサレがっ!!オラァッ!!」

 

龍馬は吹き飛んで倒れたヴォルティスの顔をサッカーボールのように蹴飛ばす。

 

「ぐふっ!!」

 

「テメーがラオグリッドと組んで悪事を働いてたのはもう割れてんだ!!何が大司教だ!!テメーはもう終わりだ!!」

 

龍馬はヴォルティスの胸ぐらを掴んで無理矢理引き起こすと再び顔を殴り、床に叩き付ける。だがやはり龍馬の怒りはまだ収まらない。

 

「ノエルさんにまで手を出しやがって!!聖職者の皮を被ったクソ野郎が!!」

 

髪を引っ付かんで再び引き起こし、顔面にさらに二発の拳を入れる。ラオグリッド同様、ヴォルティスもアザと血まみれになり、白く美しい大司教の服は赤く染まっている。

 

「ハァ……ハァ……クソが……」

 

もう十発くらい殴ってやりたい所だが、それを抑えて龍馬はヴォルティスを縛り上げる。後は衛兵に任せよう。

 

 

 

 

 

 

 

礼拝堂に戻ると椅子に腰掛けてノエルは泣き続けていた。ディレットが必死に慰めるが彼女の涙は止まらない。

 

「ノエル様……しっかりしてください……もう大丈夫ですから」

 

「ノエルさん……」

 

戻ってきた龍馬に気付くとノエルは龍馬にしがみつき、さらに涙を溢しながら感情を爆発させた。

 

「リョーマさん……!ディレットさん……!私が……私が今まで信じてきたものは何だったのでしょうか……!?私はずっと女神アレク様を信じ、大司教様を信じ、全ての人々に女神の祝福を与えるべくその人生を捧げてきました……!でも……大司教様に裏切られて……私が信じてきたものは一瞬で崩れ去りました……!私は……私はこれから何を信じて生きていけばいいのですか……!?」

 

そう言って泣き続けるノエル。龍馬とディレットは言葉が見つからなかった。

無理もない。彼女は一番信頼していた人物に裏切られ、自分が信じてきた神を否定され、さらには命の危機に晒された。そのショックは計り知れない。

 

「……クソっ!!何が神だ!!」

 

龍馬はアレク像を見上げて悪態を付いた。そしてーーーー

 

「テメーなんかいなくてもな……人はやっていけんだよ!!!!」

 

龍馬は礼拝堂の椅子を抱えるとなんと女神像を叩き始めた。椅子が壊れると辺りにあるものを手当たり次第に叩き付けて女神像にヒビを入れていく。

 

「リョーマ!?何やってるの!?やめて!!」

 

「うるせぇ!!こんなもんがあるからヴォルティスみてぇな弱者を食い物にする奴が現れんだよ!!」

 

何が女神だ。何が希望だ。何が祝福だ。そんなもののために今こうして傷付いている人がいる。ならばーーーー神など必要ない。

 

「おりゃあああ!!」

 

龍馬はヒビに蹴りを入れていく。さらに近くにあった燭台を掴んで叩き付ける。あの巨大な女神像がたった一人の力によって破壊されていく。

 

「どぉりゃああああああ!!!!」

 

龍馬がさらに力を込めて燭台を叩き付けるとヒビはさらに大きくなり、そしてーーーー女神像は崩れた。

 

「ざまあみやがれ!!どうだ!!神がいるならこの場に姿を見せてみやがれ!!俺に天罰でも与えてみろってんだ!!どうせいないくせによぉ!!」

 

「リョーマ!何てことを……!」

 

女神像を破壊した龍馬はディレットのノエルの元に戻ろうとする。

すると薄暗い礼拝堂が突然まばゆい光に包まれ、龍馬は思わず目を覆う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーー神がいない、だと?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

破壊した女神像の上には美しい羽衣と鎧を纏った淡い青色の髪を持つ一人の女性が。その女性は宙に浮いており、背中からはまばゆいばかりの光が差している。

 

「……なんだテメェは?」

 

「私か?私はーーーー女神アレク。戦いと希望を司る神だ」

 

「……神!?」

 

「……あ、アレク様……!?」

 

なんと彼女は自らを神だと語ったのだ。

だがこの神々しさからしておそらく本当なのだろう。龍馬は直感でそう感じた。だが彼は退かない。

 

「……神だからなんだ?たかが石像壊したくらいで天罰ってか?今まで何もしなかったくせに」

 

「……口の減らない小僧だ。神に刃向かうか」

 

「そっちがその気なら神だろうが悪魔だろうがぶっ飛ばしてやるよ」

 

「そうか。では死ね。神を侮辱した罪は重いぞ」

 

女神アレクは持っていた槍を龍馬に向ける。槍の先には強力がエネルギーが集中し、今にも龍馬に放たれそうだ。

 

「リョーマ!!逃げて!!」

 

「遅い!!もう無駄だ!!」

 

槍から魔力によるエネルギー弾が放たれる。龍馬を真っ直ぐ捉えーーーー龍馬は光に飲み込まれた。

 

「リョーマぁぁぁぁ!!!!」

 

ディレットが叫ぶが龍馬の声は聞こえない。神の力によって消滅してしまったのだろうか。

しかし光が止むと龍馬の姿はまだそこにあった。

 

「……え?」

 

「……プッ、あっはっはっは!!!!いやあ、愉快!愉快!面白い小僧だ!」

 

女神アレクは膝を叩いて笑っている。どういうことなのか。

 

「いやなに、神を目の前にして一歩も退かない奴は珍しくてな。ついからかってしまった。まあ、許せ」

 

「……タチの悪い神様だぜ」

 

「まあ、そう言うな。小僧、名はなんという?」

 

「……斎藤龍馬だ」

 

「ふむ。最近繋がったという異世界の国の人間か。なるほど。リョーマよ、お前にいい物をやろう。自分の右手を開いてみろ」

 

龍馬はアレクの言うとおり、握り締めた右手を開いてみる。すると白銀の球体がいつの間にか握られていた。

 

「そいつはルナ・アーム。私が鍛えた神界の武器だ」

 

「ルナ・アーム……?これが武器だって?」

 

アレクは武器だと言うがその見た目はただの玉だ。とても武器には見えない。

 

「何だよ?敵に投げ付けて使えってか?」

 

「いいや、そうではない。……そら、ルナ・アームがもうすぐ姿を変えるぞ」

 

「……!?」

 

龍馬の手の中でルナ・アームは四つの光に分裂して宙へと舞い上がり、頭上をグルグルと回転している。そして狙いを定めたかのように四つの光は龍馬の両手両足を包み込んだ。

 

「おわっ!?なんだこれ!?」

 

まばゆい光が収まると龍馬の手足には白銀の籠手と(すね)当てが装着されていた。

礼拝堂のステンドグラスから差し込む月明かりに照らされて鈍く輝いている。

 

「……驚いた!こいつは面白い!私も神として永い時を生きてきたが、ルナ・アームのこんな姿を見るのは初めてだ!」

 

「い、一体何なんだよこれは!?」

 

「そのルナ・アームは決まった形を持たぬ。武器自身が使用者に一番相応しい形を選ぶのだ。これまで剣や槍、弓や盾や斧に鎚と様々な形を見てきたが、籠手など初めてだよ」

 

龍馬は自分に装着されたルナ・アームをまじまじと眺める。

白銀の籠手は美しい装飾が施されているにも関わらず羽のように軽い。それでいて頑丈だ。

 

「リョーマよ、お前は一体今までどのような戦いを繰り広げてきたのだ?」

 

「……うーん……喧嘩?」

 

「喧嘩……?喧嘩だと!?はっはっは!なるほどな!お前にぴったりじゃないか!」

 

 

 

 

 

 

 

その後衛兵が到着し、ヴォルティスは捕らえられた。後から追い付いた勇斗によればラオグリッドも身柄を拘束されたようだ。ヴォルティスとラオグリッド、二人は並んで牢獄行きとなった。

さらに突如姿を現した女神アレクの存在によって場は一時騒然となった。そして……

 

 

「……で、何であんたまでいるんですかね」

 

「うん?」

 

傷心しきったノエルを伴い、城まで戻った龍馬達。だが、隣にはアレクもいる。

 

「『うん?』じゃねーよ!何であんたついてきてるんだよ!?」

 

「そんなの決まってるじゃないか。面白そうだからだ」

 

何故か「面白そう」という理由だけでついてきたアレク。しかも勝手に龍馬のスマホをいじっている。

 

「面白い道具だな。こんなもの神界にだってないぞ」

 

「人のスマホを勝手にいじるな」

 

「"すまほ"というのかこの道具は。どうやって使うんだ?」

 

「あー!もう!何なのこの神様!?」

 

龍馬はアレクからスマホをむしり取る。

そうこうしていると部屋にアルバートがやってきた。手には報告書らしき書類を持っている。

 

「リョーマ君、お手柄だった。ラオグリッドの屋敷からは数々の悪事の証拠が見つかった。ヴォルティス大司教に関することも全て記録してあった。女神像の破壊はさすがにやりすぎだが……女神様ご本人が大して気にしていないみたいなので良しとしよう」

 

「別に石像があろうとなかろうと我々神々には大して支障はないしな。信仰する人間は信仰するし」

 

アレクはテーブルの果物をつまみながらそう答えた。

それにしてもこの女神、よく食う。さっきからテーブルに出されている来客用の茶請けの菓子や果物をボリボリ食べている。

人間の肉体を持って現界している間は普通に腹も減るらしい。

 

「……とまあ、今回の騒動はリョーマ君、君のおかげで解決した。それから花の里についても行き方がわかった。帝国領北東の森だ。メモはディレット君に渡しているから詳しいことは彼女に聞くといい」

 

「ありがとうございます、アルバートさん」

 

「ご苦労だった、リョーマ君。疲れているだろう?今日はもう休みたまえ」

 

「はい、そうします。ところでアルバートさん」

 

「何だ?」

 

「"コレ"どうします?」

 

そこには相変わらず食べ続けるアレクの姿。これが女神とは何とも信じがたい。

 

「コレとか言うな。一応神だぞ」

 

「だったらもう少し神らしくしろよ……」

 

 

 

 

 

 

その夜、一晩の保護といった形で城の客室に案内されたノエルは一人で月を眺めていた。

人生を否定され、信じていた者に裏切られ、更には命を奪われかけた。それで平静でいられるわけがない。

ーーああ、いっそもうこの窓から飛び降りてしまおうか。そんなことさえ考えていた。その時である。

 

「……誰?」

 

部屋の入口に気配を感じたノエル。振り向くとそこにはーーーー

 

「だいぶ打ちひしがれているようだな、ノエルよ」

 

「……アレク様?」

 

そこにいたのはアレクであった。

自分が生涯を通じて信じてきた古代の神。それが今目の前にいる。

 

「……わからないのです。もう何を信じればいいのか。こうして神であるあなたが目の前にいるのに……私が人生を捧げ信仰してきた女神アレク様ご本人が目の前にいるというのに……あなたはおろか、自分さえも信じられない……」

 

そう言って項垂れるノエルに対してアレクが言い放ったのはシンプルな一言であった。

 

「そうだな。別に何も信じなくていいんじゃないか?」

 

「えっ?」

 

「信じるものが何かは生きていく上で自然に見つかるものだろう。そりゃあ、裏切りだってある。人間とはそういう生き物だからな。今はとりあえず何も考えずにぼんやり生きて心を落ち着かせて……それから自分が信じられるものを探せばいいんじゃないか?」

 

「そんなこと急に言われても……」

 

「まあ、今はお前は傷心しきっているからな。こんなこと急に言ってもすぐには落ち着かないだろう。とりあえず"自ら命を断つ"事だけはやめておけ。神を崇めようが呪おうが私達は気にもしないが、自らの命を断つ事だけは神に対する一番の冒涜だぞ。それだけは私も許さん。それと"信じること"と"依存すること"は別物だ。覚えておくがいい」

 

「アレク様……」

 

見透かされていた。やはりこの方は神様なのだと改めて思い知った。

ノエルはアレクからの助言により今一度自分自身を見つめ直すことを決意する。

 

「アレク様。私、頑張ります。まずは自分のために」

 

「ん、いい顔になったなノエルよ。そうだ、それでいい。常に誰かのために生きるなぞ狂人の所業だ。神だってそんなのは御免被る。まずは自分を大事にしろ」

 

「はい!」

 

 

 

 

こうしてラオグリッドとヴォルティスの暗躍による事件は幕を閉じ、帝都に再び静かな夜が訪れた。




●龍馬&ディレットvs"黒衣の刃"頭領戦イメージBGM
『FM-Sound's Storm』
(『龍が如く3』より)
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