アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第43話 トロール・ザ・テイクダウン

幻術で守られているはずの花の里に突如として踏み込んできたトロールの群れ。ミラベルは守備隊に命じ、弓をつがえさせる。

 

「今だ!放て!」

 

トロールに一斉に矢の雨が降り注ぐ。が、ピクシーの小さな矢では軽く怯ませただけで大してダメージは与えられない。

 

「魔導部隊!一斉に攻撃しろ!」

 

続いて魔法による攻撃を得意とする部隊が先頭を歩くトロールをマジックアローによる集中砲火で攻撃すると頭に連続で攻撃を受けたトロールは地響きを上げて地面に倒れた。しかし他の四体は仲間の死に動じることなく、こちらに向かってくる。

 

「ミラベル隊長!このままでは敵に攻めこまれてしまいます!」

 

「クソッ!」

 

ミラベルが歯軋りをすると横から一つの影がトロール達目掛けて飛び出していった。龍馬だ。

 

「!?リョーマ!?」

 

「うおらああああああぁぁぁぁ!!!!」

 

龍馬は跳躍し、ルナ・アームを装着した右手でトロールの顔面に思い切り打撃を加えた。頑丈な白銀の籠手による強烈な拳の攻撃が一撃でトロールの頭蓋を叩き割る。まずは一匹。

 

「グオオオォォォ!」

 

別のトロールが雄叫びを上げ、拳を振り下ろすが龍馬は素早く避ける。

トロールの拳は空を裂き、地面に激突する。その瞬間地面が陥没した。

 

「っ!……確かに殴られたらひとたまりもないな……だけど動きが鈍すぎるんだよ!」

 

龍馬はすかさず蹴りを足に入れてトロールをひっくり返す。五十嵐流・鬼崩しだ。すかさず顔面に一撃を加えて叩き殺す。

その直後、背後にいたトロールの膝に拳の一撃を打ち込み、膝の骨を破壊。倒れてのたうち回るトロールの頭部にミラベル率いる守備隊の弓とマジックアローが再び集中砲火を浴びせ続けて最後のトロールを始末した。

 

「……終わったか」

 

「リョーマ、助太刀感謝する。お主は強いのだな」

 

「喧嘩だけが俺の取り柄だからな」

 

龍馬はそう言いながら構えを解き、ルナ・アームの装備を解除した。

 

「……不思議な籠手だ。使用者の意思で姿を現したり消えたりするとは」

 

「車の中でイビキかいて寝てる女神サマがくれたのさ。どうやら使う人間に一番ピッタリな姿に変わる武器らしい」

 

「確かにリョーマは格闘に長けているようだ。武器に間違いはないらしい」

 

ミラベルはそう言ってクスリと笑った。

 

 

 

 

翌朝、龍馬は広場にてルミナの両親、そしてミラベルから直々に"ある依頼"をされる。

 

「リョーマ様、この度は我が里を守っていただき、ありがとうございました。……ルミナだけでなく里の者全員があなた方に感謝しております。それでいてこんなことをお願いするのは厚かましいと心得ておりますが……どうかトロールの退治をしていただけないでしょうか?」

 

「え?俺がトロールの退治?」

 

「リョーマ様は非常にお強い。さらに女神様より与えられた神の武器を持っておられる。非力な我等ではトロール一、二体を倒すのが精一杯。次に来られたら里は壊滅してしまうやもしれませぬ。どうか……どうかお力をお貸しくださいませ……!」

 

アドニスは妻のジェナと共に龍馬に深く頭を下げる。

実は龍馬自身は引き受けても良いと考えていたのだがやはり両親が反対する。

昨日の道中はゴブリンのような小型モンスターが相手だったがトロールのような大型、それも群れとくれば危険は大幅に上がる。しまいには両親のどちらかがルナ・アームを受け取って行こうとしたがアレクに突っぱねられた。

 

「馬鹿者。私が選んだ者以外に神の武器は使えぬ。無理矢理リョーマから奪ったとしても武器は奴の手に戻ってしまうのだ」

 

ならばアレクに頼んでみるが、彼女は神界の掟で必要以上に神の力を人間界で使ってはいけないらしく、彼女の力を借りるのは難しかった。どうやらルナ・アームを授けたあたりのこともどちらかというとグレーゾーンに近いようだ。

ただし、いざという時は龍馬を守るくらいのことはよいらしいのでそれを聞いた両親は里で待つことにし、龍馬とミラベルがトロール退治へ出向くことになった。

丸腰では危険なため、武器を持たない勇斗達は里で同じく里で待つことになった。

そして準備をすると龍馬・ミラベル・アレクの三人はトロール退治に出発する。

花の里の入り口付近、篝火のある場所まで来るとミラベルがあることに気付いた。

 

「……やはり幻術が破られている」

 

「入ってきた人間を惑わせるあれか?」

 

「ああ、前に数体トロールが襲ってきた時もこうだった。しかしどうもおかしい。トロールには魔術を使えるほどの知能はない。だが幻術を破るならばそれなりの魔術の腕が必要になるはずだ」

 

ミラベルは辺りを飛び、注意深く観察してみる。すると人間のそれとは違う、大きな足跡が見つかった。

 

「トロールの足跡だ。追うぞ」

 

複数の足跡はワガタの森北東に続いている。ミラベルの先導で龍馬とアレクは後に続く。

足跡を辿ると開けた場所が見えてきた。そしてそこにはトロール達が築いたと思われる簡素な住居の数々が。何体かのトロールもいる。

 

「ここがトロールの住処のようだな。しかし一体何体いるのかここからではわからないな……」

 

「ならこいつで偵察してみるか」

 

龍馬はバッグからドローンを取り出して起動する。操作端末はタブレットだ。

 

「なんだその変な虫のような道具は?」

 

「まあ、見てなって」

 

龍馬はドローンを起動し、空中に飛ばす。ドローンに搭載されたカメラが辺りを映し出し、それにミラベルもアレクも驚く。

 

「な、なんだこれは!?」

 

「これは……なんと不可思議な道具だ。実に面白い」

 

「幸いある程度場所は開けてるし、上空からこのドローンで敵の位置を確認しよう」

 

こういったFPSやTPS系ゲームではドローンや双眼鏡で敵の位置をマーキングしてからのステルスプレイが相場というものだ。なるべくなら気付かれないように一体ずつテイクダウンと行きたいところであるが。

とにもかくにもドローンを飛ばし、偵察する。

 

「まずここから見えるのが二体、家の陰に一体、奥の木のそばに二体……焚き火のそばに三体か」

 

集落の入り口らしき場所にまるで門番だと言わんばかりのトロールが二体いる。これは気付かれずに仕留めるのは難しい。龍馬達は家の陰にいる一体のトロールの背後に回り込んだ。

トロールがこちらに背を向けている隙に龍馬は素早く近づき、そしてーーーー

 

「ッ!?!?」

 

トロールの背後から後頭部に向けてルナ・アームの一撃を喰らわせてテイクダウン、だ。周りのトロール達が気付いた様子はない。

 

「ステルスキル完了、っと……」

 

今更だがモンスターとはいえ、命を奪うのは気分は良くない。だがやらなければルミナ達の身が危なくなる。龍馬はさらに集落の入り口付近にいるトロールの背後に近付くと地殻にあった石を掴んで遠くに投げる。

 

「グゥッ!?グォォォ……!」

 

狙い通りだ。左のトロールは石が落ちた方角へ音に誘われてその場を離れた。

 

「まさかゲームで培った経験がこんなとこで活かせるとはな……」

 

龍馬はそう小声で呟きながらもう一方のトロールへ近より、そしてーーーー

 

「ふんっ!!」

 

「ムグゥッ!?」

 

後頭部をジャンプして掴み、そのまま顔面を地面に叩き付けて最後に後頭部に拳の一撃。物音に気付いたもう一方のトロールが振り返るがもう遅い。素早く近づいた龍馬に顔面へのパンチを受けてその場に倒れた。茂みに隠れていたミラベルとアレクがこちらまで出てくる。

 

「やるな、リョーマ」

 

「ルナ・アームを見事に使いこなしているな。お前こっちの世界で暮らした方がいいんじゃないか?」

 

「いや、遠慮しとくよ」

 

苦笑しつつ龍馬は二人を安全な場所に再び移動させると今度は焚き火のある場所へ近づいた。焚き火のそばではトロール達が何かの肉にかじりついて食事を取っている。

 

「……流石に三体を一気に仕留めるのは無理があるな」

 

トロール達は食事に夢中になっているとはいえ、固まった奴等を一気にステルスキルするのは難しい。さて、どうしたものか。

 

「こりゃ音で誘き出すのも難しいな……ん?」

 

龍馬がふと後ろを向いた瞬間、そこには先ほど倒したはずのトロールが鬼の形相でこん棒を振り上げている。

 

「グオオオォォォ!!!!」

 

「!?しまっ……!!」

 

どうやらまだ息があったらしい。怒りに燃えるトロールはこん棒を振り下ろす。すんでのところで龍馬はかわすが、その音で残りのトロールがこちらに気付いてしまった。

 

「クソッ!ステルスプレイは失敗か!」

 

龍馬はそんな悪態を突きながら応戦する。

こん棒をかわすと間髪入れずに顔面に思い切り拳を入れる。

だがその直後、背後から迫ってきたトロールに背中から強力なパワーで殴られた。

 

「ぐはっ……!」

 

2、3メートルは吹き飛ばされ、そのまま倒れる龍馬。直後に近づいてきた別のトロールがこん棒を振りかざす。

痛む身体を必死に動かし、なんとかこん棒をかわす。だが目の前には別のトロールが。

 

「グアァァァァ!!」

 

トロールが雄叫びを上げてこん棒を振り上げた。死を覚悟した龍馬だったが、なんとか火事場の馬鹿力とでも言うべきか、身体を捻って数センチの差でこん棒を避ける。

追撃をしようとトロールが再びこん棒を振り下ろすと、龍馬の前に光の壁が出現して彼を守った。

 

「大丈夫か、リョーマ!ボサッとするな!」

 

アレクが魔力で作り出したバリアを龍馬に張ったのだ。さらにトロールの気を引くためにミラベルがマジックアローを発射する。

トロールがミラベル達に向かおうとしたその瞬間、トロールの右腕にどこからともなく矢が飛んできて突き刺さる。

 

「ギャアアアア!?」

 

見ると里で待っているはずのディレットが弓を構えて立っていた。さらに勇斗や千春も弓を構えている。若干ぎこちないが。

 

「リョーマ!大丈夫!?」

 

「龍馬!助けに来たぜ!」

 

「斎藤!シャキッとしなさい!男でしょ!」

 

勇斗と千春がぎこちない手つきで弓を引く。矢はあらぬ方向へ飛んでいくがそんなことは関係ない。とにかく撃ちまくって牽制あるのみだ。

放たれる矢の雨に怯んだトロールの胸にディレットの放った本命の矢が突き刺さる。

 

「グオォォォ!!」

 

トロールは悲鳴を上げて暴れだす。その直後ーーーー

 

「どこ見てんだコラァ!!」

 

ルナ・アームを装備した龍馬の手刀がトロールの頭蓋を叩き割る。直後に隣にいたトロールも怒りの拳の直撃を受けて大地に沈む。そこへ龍馬を攻撃しようとしたトロールの頭にディレットの矢が深く突き刺さり、その巨体が地響きを上げて地面に倒れる。

 

 

 

 

「助かったぜ、みんな」

 

「リョーマ達が出てった後に即席で弓と矢を作ったの」

 

「俺は弓より剣がいいんだがなあ」

 

「ぶっつけ本番だったけどなんとかなるものね」

 

実は龍馬達が出発後、不安に思ったディレットは弓を即席で作り、勇斗と千春に簡単な撃ち方を教えて援護に向かったのだ。

ただ、弓未経験の二人が当てるのは難しいので二人が適当に牽制で矢を飛ばしまくってディレットが本命の矢を打ち込む作戦を立てた。

結果は上々。トロールは殲滅し、龍馬も助け出せた。

全員が合流後、集落をくまなく探索してトロールの殲滅を確認する。

どうやら全部倒したようだ。これにて依頼は完了……かに思われたが。

 

「待て。里の幻術を破った原因がまだ掴めない。このままではいずれ他のモンスターや悪意ある人間にも見つかってしまう可能性がある」

 

そう言ったミラベルは辺りを調査し始める。

確かにトロールには幻術を破るような高度な魔法が使えない。そうなると幻術を解いた何者かの存在があるはず。だがこの集落には原因になりそうなものは見当たらない。

 

「たまたま頭のおかしい魔法使いでも森に入り込んだんじゃねぇの?」

 

「二度もか?有り得ぬ。これは里への侵入、或いは里にモンスターを入り込ませるための明確な意志を持った何者かの仕業だ」

 

龍馬の意見はミラベルによってばっさりと切り捨てられる。

確かに魔法使いが何の考えもなしに短期間のうちに二度も入り込んで幻術を破ったとは考えにくい。ならば必ずこの森に元凶となる存在がいるはず。

 

「そんなこと言ってもここにはトロールしか……」

 

「……リョーマ!!伏せろっ!!」

 

「へっ!?」

 

アレクが叫ぶと龍馬は慌ててその場に伏せた。

その瞬間、龍馬の頭の上を禍々しい刃が恐ろしい速度でかすめていった。

龍馬は四つん這いになりながら距離を取ると背後にいつの間にかいた謎の存在を確認する。

そこには宙に浮き、ボロボロのローブを纏った骸骨が巨大な鎌を携えてこちらを見ていた。

その姿はまさしく"死神"と呼ぶにふさわしい。

 

「な、な、な、なんだよあいつは!?」

 

「気を付けろリョーマ!!あいつはレイスだ!!」

 

レイス。冥界の住人でこの世に強い後悔或いは欲望を残して死んだ人間の魂が理性を失い、邪悪なものへと変異した存在だ。

レイスは再び鎌を振り上げ、こちらに振り下ろした。

 

「うわわっ!」

 

龍馬はなんとかかわしたが、もしあの鎌に当たれば命はまず無いものと思っていいだろう。

 

「こいつが里の幻術を破った元凶か!?このっ!!」

 

ミラベルは無数のマジックアローをレイスに向けて放つ。さらに続けてディレットがフルゥムを飛ばした。

だがレイスは左手を二人の魔法に向けると、それらを全て自らの魔術によってかき消してしまった。

 

「私達の魔法が!?」

 

「やはりダメか……気を付けろ!奴は魔法を無効化する力を持っている!」

 

直後に勇斗と千春が弓の雨を浴びせるが、明らかに当たっている矢も突き抜けてしまう。

レイスはこの世のものならざる存在。いわば悪霊だ。物理攻撃はまず効かない。

 

「畜生!やっぱりダメか!」

 

「何か手はないの!?」

 

魔法も、物理攻撃も通じない。一体どうすればあのレイスを退治できるのだろうか。

 

「リョーマ!ルナ・アームで殴れ!」

 

「え!?」

 

「我が鍛えし武器は神の加護を受けている!たとえレイスであろうとお前のルナ・アームならば攻撃できるはずだ!私が隙を作るから一気に攻撃を叩き込め!」

 

アレクはそう言って槍をレイスに向ける。槍の先から放たれる聖なる浄化の光によってレイスが苦しみだした。

 

「オオオオオォォォォ……!!」

 

おぞましい声で悲鳴を上げるレイス。そこへ一気に距離を詰めた龍馬が跳躍する。

 

「地獄に……戻りやがれ!!」

 

レイスの顔めがけてルナ・アームの一撃を叩き込む。するといかなる攻撃も通じなかったレイスが殴り飛ばされ、地面に叩き付けられる。

致命的な一撃を喰らったレイスは鎌を落とし、もがき苦しみながら地面を這いずり、どこかへ行こうとする。

 

「往生際が悪りぃんだよ、死に損ないが!!」

 

龍馬は這いずり回るレイスの頭部へ向け、思い切り手刀を振り下ろした。

 

「オオオォォォオオォォォォ……!!!!」

 

とどめの一撃を受けたレイスは必死に何かに手を伸ばしながら遂に動かなくなり、鎌と共に青白い炎に包まれて跡形もなく消滅した。

 

 

 

 

 

レイスを退治した一行はミラベルの提案で先を探索する。龍馬に倒される間際、何かにすがるようにレイスがある方向へ執着したように見えた、というのが理由だ。

先を探索すると小さな洞窟があった。洞窟はそれほど深くはなく、龍馬が父から借りたライトとランタンを借りて奥へと進んだ。

行き止まりの所には先ほどのレイスによく似たローブを着た魔術師らしき人間の白骨化した死体があり、それは大事そうに本を抱えたまま息絶えていた。

ディレットが本を読むとそれは日記だった。日記はある魔術師のもので、魔術師の男はどうやら単身花の里に行こうとしていたらしい。

 

 

 

 

"……私はかねてより考えていた花の里のある森を突き止めた。ピクシー共の秘宝を奪い、我が魔術の糧とするためだ。"

 

 

 

 

 

"森にやってきたのは良かったが、幻術によって私は道に迷った。そこで私は魔力を練り上げ、維持でもこの幻術を破ってやろうと考えた。"

 

 

 

 

 

"運よく幻術の綻びを突いて幻惑から脱出した私は洞窟に居を構え、あらゆる魔術を試した。"

 

 

 

 

 

"森でトロールに襲われ、重傷を負った。出血が酷い。骨も折れている。もはや私の命は長くないだろう。こんなことなら治癒の魔法も学ぶべきだった。

死ぬのは怖くないが、花の里の秘宝を見ることなくこの世を去るのが唯一の心残りだ……。"

 

 

 

 

 

やはりこの死体の魔術師がレイスの正体だった。

なぜレイス化したこの男が幻術を破るだけで花の里に入って来なかったのかは謎だが、アレクによれば「花の里よりも幻術を破ることに執着し過ぎたため」らしい。

とにかくこれで原因は取り除かれた。あとは里へ帰るだけだ。

トロールをレイスを倒した龍馬達は里へと戻り、王アドニスへ報告をする。

 

「リョーマ様、アレク様、そして皆様方。あなた方のおかげで里は救われました。本当にありがとうございます」

 

アドニスからはお礼として全員に貴重なピクシー族の加工した花の蜜が贈られた。国中の貴族達が喉から手が出るほど欲しがる蜜をたっぷりと、だ。

さらに龍馬は個別にアドニスによって森の聖域と呼ばれる場所へ案内された。

強力な結界の張られた場所には祭壇があり、そこには"ピクシー族の秘宝"が祀られていた。

それは赤く輝く宝玉で内部でまるで炎が灯っているように見える物体だ。

 

「アドニスさん、これは?」

 

「わかりません。ですが我々ピクシー族に代々伝わる秘宝です。リョーマ様、これをあなたに差し上げます」

 

「そんな!一族でずっと守ってきたものをもらうなんて!」

 

「いいのです。娘だけでなく里まであなたは救ってくれた。それに私には秘宝よりも家族や里の皆のほうが大事なのです。これぐらい惜しくはありません。さあ」

 

「……」

 

アドニスがあまりにそう言うので龍馬は好意を無下にするのもいかがなものかと感じ、祭壇の宝玉に手を伸ばした。

そして龍馬が宝玉に触れた瞬間目の前が真っ白になり、彼は業火が燃え盛る空間に立っていた。

 

「!?」

 

不思議と熱さは感じない。その時、龍馬の頭の中に声が響く。

 

「"待ちわびたぞ!神の武器に選ばれし者よ!我は獄炎の聖霊バレン!さあ、我と契約せよ!さすればお主は我が力の一部を使いこなせるだろう!"」

 

「け、契約?」

 

「"難しく考えなくともよい!お主に不利益なことは何もない!お主の名は!?"」

 

「りょ、龍馬……斎藤……龍馬……です」

 

「"よかろう、リョーマ!!さあ、右手を掲げよ!"」

 

龍馬は獄炎の聖霊バレンに気迫に気圧されて仕方なく右手を掲げる。するとルナ・アームが勝手に実体化し、赤く燃え盛るような深紅の光に包まれる。

 

「うわあっ!?」

 

光が収まると、目の前には獄炎の聖霊バレンの姿が。その姿は赤い鎧を着た赤毛の獅子であり、身体のあちこちから火が吹き出している。

 

「"ここに契約は完了した!!全てを焼き尽くす我が獄炎の力、存分に振るうがいい!!"」

 

バレンは凄まじい炎を噴出させる。バレンの姿も、龍馬の身体も、地獄のような業火が包み込み、世界は炎の"紅(あか)"で包まれるーーーー。

 

 

 

 

 

気が付くと龍馬は祭壇の前にいた。

あれほどの業火も、炎に包まれた世界も、どこにもない。

 

「……リョーマ様!?大丈夫ですか!?」

 

「……へっ?あっ、は、はい……」

 

「ほう、聖霊と契約したか」

 

龍馬がきょとんとしていると、いつの間にか後ろにアレクの姿が。そして宝玉が無くなっている。

 

「あれ!?宝がない!?」

 

「ふふ、リョーマよ。ルナ・アームを見てみろ」

 

龍馬がルナ・アームを見ると右手の甲の部分に深紅の光が宿っていることに気付いた。

 

「獄炎の聖霊バレンの力だ。お前が触れた宝玉は聖霊の力が封じられた遥か古代の秘宝。我々はそれを"オーブ"と呼んでいる。一部ではあるがお前はバレンの力で炎を操る事が可能になる」

 

「……属性エンチャントってやつか?」

 

「……魔法がない世界の人間なのによくその言葉を知ってたな?物は試しだ。ルナ・アームを装備する時と同じように、自分の四肢に宿る炎をイメージしろ」

 

龍馬は目を閉じてアレクに言われた通りに念じる。するとどうだろうか。龍馬の四肢に炎が宿る。だが熱さは感じない。

 

「これが……獄炎の聖霊バレンの力……!」

 

「魔力のないお前では今はまだ大した力は発揮出来ぬ。しかし火炎の球を撃ち出すくらいは出来るだろう。バレンは根っからの戦馬鹿だ。存分に使ってやれ」

 

アレクはクスクスと笑いながら龍馬の肩を叩く。

こうして龍馬は獄炎のオーブを入手し、そして聖霊バレンと契約し、その力の片鱗を使うことが可能になった。

その後、龍馬達は里の救世主として里全体で再び盛大な宴が催された。

 

 

 

そしてーー別れの時が来た。

 

 

 

 

龍馬達は車に乗る準備をする。里のピクシー達は総出で彼等を見送りにきている。

アドニス、ジェナ、ミラベルが先頭に立ち、それぞれが別れの言葉を告げる。

 

「リョーマ様。リョーマ様のお父様、お母様。そしてアレク様に皆様方。今回の事は決して忘れません。あなた方の事は我等ピクシー族に永く語り継いで行くことになるでしょう」

 

「本当にありがとうございました。またいつでも里にいらしてくださいませ。私達はあなた方をいつでも歓迎いたしますわ」

 

「この里を守る守備隊長として私からも礼を言わせてもらう。本当に世話になった。皆、達者でな」

 

三人は深々と頭を下げる。その横で浮かない顔をするルミナ。

 

「ルミナ。お前が一番世話になったのだぞ。お礼を言わないか……」

 

「う、うん……」

 

すると涼子が前に出てルミナに目線を合わせる。

 

「ルミちゃん。別れるのはあたし達も辛い。もうルミちゃんとああして福岡の家で昼間はお菓子食いながらどうでもいい話して……夜んなったら旦那と息子とディレットちゃんで飯食いながらみんなで笑って話して……もうそうする事が出来んのは寂しいけどくさ……今生の別れやないんやけん、最後は笑って別れようや。……ね?」

 

「……りょ……リョーコさん……!!」

 

ルミナはこれまで積み上げた斎藤一家との思い出の数々が蘇り、遂に溢れる涙を抑えられなくなった。そして彼女は涼子にしがみついて泣いた。

 

「うわあああああん!!!!」

 

「そげん泣くことないやろ?……最後まで仕方のない子やねぇ……よしよし……あんたも私の可愛い可愛い大事な娘やけんねぇ……」

 

涼子は泣きじゃくるルミナを優しく撫でる。涼子はルミナが泣き止むまでずっとそれを続けていた。

どれくらい泣いていたのだろうか。彼女の涙もおさまった頃、一行は遂に車に乗り込んだ。

 

「それじゃあアドニスさん、ジェナさん、ルミナちゃん、ミラベルさん、それから里のみんなもお元気で」

 

龍一郎はエンジンをかける。一行は窓から身を乗り出してそれぞれ別れを告げる。

 

「ルミナー!元気でなー!また来るからよ!」

 

「今度は悪いやつに捕まるんじゃないぞー!」

 

「ルミナー!また会おうねー!」

 

「お菓子ばかり食べ過ぎちゃダメよー!」

 

皆が別れの言葉を言い終わると同時に龍一郎はゆっくりと車を走らせる。

里のピクシー達は最後までずっと手を振り続けていた。

こうして一行は無事にルミナを故郷に送り届け、花の里を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ルミナ。本当にこれでいいのか?」

 

「……」

 

「決めるのはあなたよ。私達はどちらを選んでもそれを否定しないわ」

 

アドニスとジェナはうつむく我が娘にそう語りかける。

 

 

ーー二人とも、ルミナの本心には気付いていた。ならば親として出来ることはひとつだ。

 

「お父さん、お母さん……!私……私は……!!もっとみんなと一緒にいたい!!もっと異世界をみんなと見て回りたい!!」

 

ルミナはずっと悩んでいた。確かに故郷と両親は大事だ。だが不運な事件に巻き込まれて連れていかれたあの異世界で龍馬に出会ってからは毎日が楽しかった。

見たこともない建物や乗り物や機械。たべたこともない美味いものの数々。

そして何より斎藤家で過ごしたかけがえのない日々は別れの際にルミナに迷いをもたらした。

そんな贅沢でワガママな迷いを持つ自分を両親は後押ししてくれている。

 

「……行ってきなさい。ルミナ。その目でもっと色々なものを見て、人生を楽しみなさい」

 

「ええ。"可愛い子には旅をさせよ"ってね」

 

「……お父さん、お母さん!ありがとう……!」

 

アドニスとジェナは斎藤家宛の手紙をしたためるとルミナにそれを持たせた。ルミナは手紙を持つと両親に別れを告げて里を飛び出した。

 

「まったく、仕方のない娘だ……なあ、ジェナ?」

 

「そうね。リョーコさんも同じ事を言ってたわね。ふふ」

 

里を飛び出し、旅立つ娘を両親は優しさと寂しさの感情が混じる目で見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

篝火まで来ると龍一郎は車を止めた。

 

「親父、どうした?」

 

「まったく……仕方のない子だなぁ……ほら、あれ」

 

龍一郎がフロントガラスの先を指差すとそこには転移魔法で先回りしたルミナの姿が。

龍一郎がパワーウインドウを開けるとルミナは車内に飛び込んでくる。

 

「ルミナ!?お前なんで!?」

 

「おー、ルミちゃんなんね、あんた結局ついてくるんかい」

 

「はい!やっぱり私、もう少しお世話になります!ダメって言ってもついていきますからね!」

 

ルミナはそう言いながら涼子の膝の上に座る。

 

「そんな事言って実は日本のお菓子がまだ食いたいだけじゃねーのか?」

 

「ギクッ……ち、違うわよ!ハヤトは黙ってて!」

 

ニタニタと笑いながらからかう勇斗の頭に向かって飛び、ポカポカと頭を叩く。

 

「まあ、なんだ。改めてよろしくな、ルミナ」

 

「うん!こちらこそよろしくね、リョーマ!」

 

 

 

花の里のピクシー・ルミナ。

彼女と斎藤家の生活記はまだまだ続きそうだ。

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