アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第45話 絶体絶命

イレーナを発見したが、彼女を狙うワイルドベアーに襲撃され、木の根の空洞から身動きが取れない龍馬達。

 

「クソッ……どうすりゃいいんだ……」

 

ワイルドベアーはしばらく中を睨んでは離れ、油断させたところで再び咆哮を上げながら空洞に手を突っ込むという流れを繰り返している。

熊は一度狙った獲物は仕留めるまで執着する。おそらく諦めて帰るということはないだろう。

しかも熊は自動車並みのスピードで走ることが出来るため、イレーナを背負って運良くバイクに乗れたとしても木々が立ち並び地形の悪いこの禁域の森では追い付かれてしまうだろう。

最初こそワイルドベアーの凶悪さにたじろいでいた龍馬だが、そのうちあまりのしつこさに彼の怒りのボルテージが上がってきた。

 

「クソッタレのクマ公が……こうなったら……!!」

 

龍馬は腹を括り、イレーナのナイフを握り締める。

 

「リョーマ……!?まさか……!!」

 

「……奴を仕留めてやる。もうこの場で立ち往生をするのは御免だ。こっちには怪我人もいるんだ。助けがいつ来るかもわからない。やるかやられるかだ」

 

「……あんた……馬鹿じゃないの……!?ただの人間がナイフ一本でワイルドベアーに勝てるわけないでしょう……!?」

 

「残念ながら俺にも武器はあるんだよな」

 

龍馬はそう言って立ち上がると、念じた。その瞬間、龍馬の手足に光が宿り、ルナ・アームが現れる。

 

「な……なにそれ……!?」

 

「"ルナ・アーム"。駄女神サマのアレクに授かった神界の武器だ。使い手によって形を変えるらしい。俺は喧嘩が得意だから籠手になったんだと」

 

「ばっ、馬鹿じゃないの!?いくら神の武器ったって所詮は籠手でしょ!?ワイルドベアーと殴り合おうなんて命がいくつあっても足りないわよ!?」

 

「"これだけ"ならな。でもここに来る前に新しい力が増えたんだ」

 

再び龍馬は念じる。すると今度は龍馬の両手と両足のルナ・アームに炎が宿る。これはディレットも初めて目の当たりにした。

 

「な……なんなの……!?」

 

「りょ、リョーマ!それは何!?」

 

「ルミナのお父さんからピクシー族に伝わる宝を貰ったんだが、それが"聖霊"の宿るオーブだったんだ。成り行きで獄炎の聖霊バレンと契約したんだよ」

 

「せ、聖霊って……リョーマ、聖霊と契約したの!?」

 

「ああ。成り行きだがな」

 

聖霊は読みは同じだが"精霊"とは違い、いわば精霊達の上位の存在。そんな存在と契約するなど人間はおろか、エルフですらなかなかいないはずだ。一体この少年の運命とはどのようなものになっているのだろう。

 

「まだこの力は使ったことはないが、牽制くらいにはなるだろ。実戦演習と行こうじゃねえか」

 

龍馬が両方の拳を打ちならすと火の粉がほとばしる。ワイルドベアーは再び木から離れているがおそらくまた戻ってくるに違いない。龍馬は腕を隙間に向けてじっと待った。そしてーーーー

 

「グオアァァァァ!!!!」

 

再び現れたワイルドベアーが咆哮を上げる。

 

「ギャーギャーうるせえんだよ、クマ公が!!」

 

龍馬が念じると、腕の先から火炎弾が放たれた。

放たれた火炎の弾はこちらを睨み付けるワイルドベアーの顔にクリーンヒットした。

 

「グオオオォォォ!?!?」

 

思わぬ反撃を受けて思わず仰け反るワイルドベアー。毛皮に火が燃え移り、顔を押さえてもがき苦しむ。

 

「うへぇっ!こりゃすげぇや!」

 

龍馬はその隙に外に飛び出してワイルドベアーに追撃をかける。

腕をワイルドベアーに向け、一発。さらにもう一発と火炎弾を撃ちまくる。

 

「オラ、オラァッ!!」

 

ドン、ドンという音と共に火炎弾が次々に撃ち出され、ワイルドベアーを獄炎が包んでいく。

 

「グオ、グオワアアァァァァッ!!」

 

あまりの熱さにその場で暴れだすワイルドベアー。龍馬は火炎弾を撃ちながらずんずんと近付いていった。

 

「いい加減寝てろや、このクマ公!オラアァッ!!」

 

苦しむワイルドベアーの顔面にルナ・アームを装着した腕で思い切りストレートをぶちかます龍馬。ワイルドベアーは龍馬の拳を受けて数メートル先へ吹き飛ばされて転がった。

それを見ていたイレーナが驚きの声を上げる。

 

「嘘でしょ……!?あのワイルドベアーを籠手があるとはいえ、拳で吹き飛ばすなんて……!」

 

龍馬は怒れば怒るほど生身でも恐るべきパワーを発揮する。彼が"博多の怒龍"と呼ばれている所以(ゆえん)だ。

彼はとどめを刺すためにイレーナのナイフを抜き、近付いた。

だが、喉元にナイフを突き立てようとした瞬間ワイルドベアーは急に立ち上がって暴れ出し、龍馬のナイフを弾きとばす。

 

「なっ!?クソッ!」

 

ナイフは宙を舞ってイレーナの足元の地面へと突き刺さる。

ワイルドベアーは龍馬をも弾き飛ばし、倒れた龍馬に掴みかかった。

 

「グオォ!!グオゥッ!!」

 

「くっ、クソがぁっ!!」

 

倒れた龍馬の喉元を食い千切ろうとワイルドベアーは大きく口を開けて噛みつこうとするが、龍馬も両手でワイルドベアーの顔と口を押さえて必死に抵抗する。

両手は塞がり、この至近距離では火炎弾を撃つのは危険すぎる。それでも龍馬は渾身の力を込めてワイルドベアーに抵抗した。

 

「リョーマ!!受け取って!!」

 

「!?」

 

イレーナの声が響いた。次の瞬間、弾かれたナイフが龍馬のすぐそばに突き刺さる。

龍馬はワイルドベアーの力が緩んだ一瞬の隙を突いて片方の手をナイフに伸ばした。

 

「くたばれやぁっ!!」

 

龍馬はイレーナのナイフを思い切りワイルドベアーの喉元に突き刺す。

 

「グオワアアアァァァァッ!!」

 

「オラッ!」

 

仰け反ったワイルドベアーの顔面を殴り飛ばして素早く起き上がる。そして顔面に向かって火炎弾を浴びせつつ牽制して再び近づく。

喉に突き刺さったままのナイフを抜き、龍馬はワイルドベアーの背中にしがみついて首や頭にナイフを何度も突き立てる。

その度にワイルドベアーは暴れ、龍馬を振り落とそうとするが、龍馬は背中にしがみついて離さない。

 

「乗り名人スキル発動……ってなぁ!」

 

龍馬はさらにナイフによる攻撃を加える。段々とワイルドベアーの動きが鈍くなってきた。確実にダメージは与えている。あと少しだ。

 

「いい加減死ねよこの野郎!!」

 

龍馬はナイフを口に咥えると、ワイルドベアーの頭に思い切り拳を振り下ろした。

 

「グオォッ!!」

 

ワイルドベアーがふらつき、龍馬は背中から飛び降りる。もはや奴は虫の息だ。だがそれでも奴はこちらを吠えながら睨み付ける。

 

「グゥッ……!!グオォ……!!」

 

正面から対峙する両者。手負いの獣と"龍"と呼ばれた男が一触即発の睨み合いとなる。

 

「いいぜ。かかってきな!」

 

龍馬はナイフをしまい、ルナ・アームを構えた。そしてーー

 

「グゥゥゥ…………グオアァァァァッ!!」

 

ワイルドベアーが龍馬に向かって突進する。

龍馬はその瞬間、ルナ・アームに再びバレンの炎を宿し、右手を構えた。

 

「どおらああぁぁあああぁぁッ!!!!」

 

両者が激突する瞬間、龍馬の炎のアッパーカットがワイルドベアーの顎を捉え、殴り飛ばした。

顎を砕かれたワイルドベアーの巨体が宙を舞い、地響きを上げて地面に倒れる。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

「ほ、ほんとにワイルドベアーに勝っちゃった……」

 

神の武器とナイフがあるとはいえ、ワイルドベアーを仕留めるのは手練れの狩人や冒険者でもそう容易な話ではない。

だが目の前にいるこのリョーマという黒髪の少年は事もあろうにワイルドベアーを仕留めてしまった。それも最後は拳で。

確かにルナ・アームは頑丈だが、その頑丈さを破壊力にそのまま繋げられるのは彼自身の力に他ならない。

 

「リョーマ!大丈夫!?」

 

龍馬に慌ててディレットが駆け寄る。

 

「ああ。大丈夫だ。ちょっと身体を擦りむいた程度だが、この通りピンピンしてるよ」

 

「良かった……さあ、村へ帰りましょ!みんなが待ってるわ!」

 

「ああ。……!?」

 

龍馬は異様な気配を感じ、振り向く。すると仕留めたはずのワイルドベアーが立ち上がり、今にも二人に襲いかかろうとしていた。

 

「グオォアアアァァァ!!!!」

 

「ディレット!!リョーマ!!」

 

イレーナが叫ぶが、間に合わない。ワイルドベアーは咆哮と共にその鋭い爪を振り下ろす。

だがその爪は龍馬達に当たることはなかった。

何故かワイルドベアーはそのまま倒れ、背中には無数の矢が突き刺さっていた。同時に響き渡るバイクのエンジン音。

 

「龍馬!!大丈夫か!!」

 

「遅くなってすまない!助けに来たぞ!」

 

その先にはバイクに跨がった勇斗と後ろには弓を構えたアレンの姿があった。

アレンはバイクから降りると、イレーナの元へ駆け寄った。

 

「ああ、イレーナ……!無事で良かった……!」

 

「お父さん……ごめんなさい……!私……!」

 

「いいんだ。お前が無事ならそれで。さあ、家へ帰ろう」

 

「……うん!」

 

アレンは娘をしっかりと抱き締めた。それに答えるようにイレーナも父にしがみつく。

 

アレンは勇斗のバイクに再び跨がり、イレーナは龍馬のバイクに乗ることになった。

最初はディレットが乗せようとしたが、龍馬は「お前に2ケツはまだ早い」と突っぱねた。ある程度回復したとはいえイレーナは怪我人なのだ。二人乗り未経験のディレットがいきなり乗せるのは危なっかしい。この世界では日本の交通法がどうとかという問題ではないのだ。

ディレットはぷうと顔を膨らませたが、渋々一人でバイクに乗った。

 

「イレーナ、乗れよ」

 

龍馬はエンジンをかけてアクセルをふかす。

 

「……この鉄の馬、急に暴れ出したりしないでしょうね?」

 

「暴れるわけねーだろ!生き物じゃねーんだから!いいから早くそこのステップに足をかけて跨がれ」

 

イレーナは足をかばいつつ、ゆっくりと跨がる。踏み出すときに怪我した足が痛んだが、大丈夫だ。

 

「よし、乗ったな?いいか、しっかり掴まってろよ。それから曲がる時は傾いてる方向に俺と一緒に身体を倒してくれよ。無理に反対側に体重をかけるとバランス崩してスッ転ぶからな。それから走ってる最中は全然声が聞こえないから何かあれば肩を連続して叩いてくれ。いいな?じゃあ、行くぞ!」

 

龍馬はクラッチを握り、ギアを1速に入れる。龍馬とイレーナを乗せたKDX220SRはビイィィンというオフロードバイク特有のエンジン音を鳴らしながら走り始めた。

そして禁域を抜けたころ、地形が平坦に近付いてきたので徐々にスピードを上げる。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと!リョーマ!」

 

慌てて声をあげるが、ヘルメットを被っている上にエンジン音と風の音にかき消されて龍馬にはイレーナの声が聞こえない。

イレーナは龍馬の言っていた事を思い出し、彼の肩を叩く。すると龍馬は徐々にスピードを落とし、止まった。

 

「どうした?」

 

「こ、怖いわ!あんまりスピード出さないで!だってこの"ばいく"っていうの馬とは全然違うもの!」

 

「そうか。まあ、初めてだし仕方ないな。……おい、ディレット!勇斗!先に行っててくれ!後からゆっくり行くからよ!」

 

龍馬はヘッドセットで勇斗とディレットにメッセージを送る。その後マイクからは「了解!」と二人の声が聞こえてきた。

 

「……後ろにいる私の声は聞こえないのにディレットとあなたの友達には聞こえるの?」

 

「ああ。ヘルメット……まあ、今俺が被ってるこれだ。これの内側にヘッドセットって小さな機械が取り付けてあってな。これを付けた人間同士は離れてても声がやり取り出来るんだ」

 

「へえ……異世界にはそんな魔道具があるのね……」

 

「あんまり離れすぎると聞こえなくなるけどな。ちなみに俺達の世界に魔法はないぞ」

 

「えっ!?それは魔道具ではないの!?」

 

「全部機械だよ。ヘッドセットは電波で音声を飛ばしてるんだ。電波っていうのは……まあ、目に見えない電気みたいなもんかな。……しかしさっきは"怖い"って……イレーナにも可愛いとこあるじゃねぇか」

 

「な、な、何よ!?悪かったわね!?」

 

イレーナがクスクスと笑う龍馬の背中を叩く。

 

「"リョーマ!聞こえてるわよ!随分楽しそうね!?"」

 

「しまった、今話してたのにヘッドセットが付いていたのをまた忘れてた……!」

 

ヘッドセットから聞こえるディレットの不機嫌な声と後ろからギャアギャアと千春のような口調で叫ぶイレーナの板挟みになりながら龍馬はゆっくりとバイクを進めた。

イレーナが怖がらないように、なるべく低速でバイクを走らせる龍馬。

 

「…………ありがと…………」

 

龍馬の背中にしがみついて耳を当てながらイレーナはバツが悪そうにそう呟いたが、龍馬には聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

村に戻るとエルフ達が総出で迎えてくれた。

ワイルドベアーに襲われて身動きの取れなかったイレーナを助けたことを話すと、エルフ達は龍馬達を大いに称えた。

また、ワイルドベアーを倒した龍馬(とどめはアレンが刺したが)は勇敢なる人間として特に称えられ、礼としてアレンとイレーナの母・エミールからそれぞれ丈夫な弓とエルフ生地のマントが龍馬達一行に贈られた。

 

「リョーマ君、皆さん。私の娘を救ってくれて本当にありがとう。君達がいなければ娘は死んでいたかもしれない。本当に感謝している」

 

「リョーマさん、本当にありがとう。こうして娘が無事なのは他ならぬあなた達のおかげです。夫のアレンと共に深くお礼を申し上げます」

 

「いやあ、そんな……イレーナが無事で良かったですよ。しかしいいんですか?こんな立派な弓とマントをもらっちゃって……」

 

「構いません。私は弓作りは得意でしてね」

 

「これでもまだ足りないくらいですわ。イレーナ、あなたもきちんとお礼を言いなさいな」

 

「あ……ありがとう、リョーマ……その……助けてくれて……」

 

少し照れながらイレーナはぎこちなく礼の言葉を述べる。

人間嫌いの彼女なりに最大限歩み寄っているのだろう。あれほど拒絶していた龍馬に対して今は敵意は感じられない。

 

「お互い無事で良かったよ。ワイルドベアーに押さえつけられた時はさすがに死んだと思ったぜ。イレーナがナイフを投げてくれなかったらあのまま喰われてた。ありがとな」

 

「別に……そんな……私は……」

 

赤面しながら目線を反らすイレーナ。どうも龍馬の顔を直視できない。変に意識をしてしまう。

今まで見せなかったイレーナの表情に龍馬も思わず不意を突かれてしまった。

 

「リョーマ……あの……これ……」

 

そう言いながらイレーナはある物を差し出した。それはあのナイフだ。エルフの一族の装飾が施されたイレーナ愛用のナイフ。

ワイルドベアーの血は綺麗に取り除かれ、装飾品の付いた鞘に納められている。

 

「イレーナ……お前これ……」

 

「リョーマが使って。私には……これくらいしか出来ないけど……」

 

「……いいのか?」

 

「……うん。でもひとつだけ約束して。絶対にこのナイフを人を殺すために使わないって」

 

「……ああ。約束するよ」

 

龍馬はイレーナからナイフを受け取る。

鞘には革紐が結び付けられており、いつでも右手で抜き出せるように龍馬は柄を右側に向けて腰の後ろに固定した。

 

「似合うか?」

 

「うん、なかなかサマになってるよ」

 

やはりモノホンのナイフや剣というのは男の子の永遠の憧れだ。小さなナイフといえど実際にこうして装備してみるとなんだか戦士にでもなった気がする。

相変わらず勇斗が羨ましがっているが、あいつは気にしないでおこう。

エルフの村でもお手柄を上げ、称えられた龍馬達。彼等のために村人総出で宴が開かれた。

広場で大きな火を焚いて皆で火を囲み、ご馳走が並べられる。

普段はあまり酒を飲まないノーブルやマリアも今日は龍馬の両親とともに酒を飲み、気持ち良さそうに酔っ払っている。

場酔いした勇斗がゴリラのモノマネをやり始め、村人がそれを見て高らかに笑う。そしてみっともないからやめろと千春にゲンコツを喰らう見慣れた光景が。

龍馬達も焚き火を前にしながら料理を口にしている。その時イレーナがディレットを立たせて人気のないーーーー聖域へと連れていった。

 

「イレーナ……どうしたの?」

 

「……ディレットはいつまでこの村にいるの?また帰っちゃうんでしょ?……ニホンって国に」

 

「う、うん……」

 

「そう……」

 

イレーナの顔は寂しそうだった。

ずっと村で一緒に育ってきた親友。彼女は未だ留学中の身だ。時が過ぎればまた異世界の国に帰ってしまう。

こうして故郷でまた会えたのに、再び離れ離れになってしまうのはやはり辛い。

そしてもう一つ。イレーナには気掛かりな事があった。

 

「ねえ、ディレット。リョーマのことだけど」

 

「え?リョーマ?」

 

何やらイレーナは彼について思うところがあるようだ。

 

「そう、リョーマ。ディレット、あなた……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼のこと、好きでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イレーナの口から飛び出した驚きの言葉。

その言葉を聞いてディレットは顔から火が吹き出しそうだった。

 

「ふぇ!?えっ、あっ、いや、あの……」

 

「わかりやすいわね……顔真っ赤よ?」

 

「ううう……」

 

何も言えず、赤面したままディレットは縮こまってしまう。

 

「全く……まあ、今こんな風に直球で聞いてもはい、そうですとは言えないのも無理ないか……でもね、親友として助言はしておくわ。

リョーマは……相当のお人好しだから時間が経てば経つほど彼に助けられて惚れる女は星の数ほど出てくるわよ?だから……行動するなら早めにしないと手遅れになっても知らないからね」

 

おそらくディレットの言う通り、龍馬は数多くの人を救ってきたのだろう。彼は決して弱者を見捨てない。困っている者を見過ごすことが出来ないタチなのだ。

最初は人間嫌いで龍馬を信用しておらず、拒絶したイレーナさえ彼は見捨てなかった。

恐らく彼はディレットと出会う前からもっと多くの人間を助けてきたに違いない。イレーナはそう考えた。

 

「あの時、涙ながらにリョーマの事を語ったあなたを見て確信したわ。普通はただの顔見知りや友達のことをあそこまで強く語ったりはしない。それはあなたがあの子に好意を寄せている証拠よ」

 

「イレーナ……」

 

「まあ、まだ時間はあるんでしょ?とにかく頑張りなさいな。親友の私が言えるのはここまで。あとは貴女次第よ」

 

イレーナはディレットの肩をポンポンと叩く。

 

「おーい!」

 

聖域の入口から声が聞こえた。龍馬だ。

彼はなかなか戻らない二人を心配してここまで追ってきていたのだ。

 

「何してんだよ二人とも。飯無くなっちまうぞ」

 

「ごめんね、リョーマ!すぐ戻るよ!」

 

ディレットはそう言って龍馬に向かって駆け出す。

龍馬に駆け寄るディレットの後ろ姿を見つめながらイレーナは寂しそうに笑った。

 

「ディレット……いい人に出会えたわね……」

 

 

 

 

 

そう呟いたイレーナの頬に一筋の涙が流れたことを二人は知る由もない。

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