アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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出会いと現代日本の生活編
第5話 出会い


2016年2月、福岡。

 

「お、手紙来とるやん」

 

買い物から帰った涼子がポストを確認すると手紙が入っていた。送り主は日本政府からだ。

中には滞在する異界人の情報が書かれた書類が入っていた。

 

「ほお……ほおほお……ほおおおおーー?こらべっぴんさんやんけ!」

 

「ホオホオうるせえな。アンタはフクロウか何か?」

 

リビングでテレビを見ていた龍馬がだるそうにこっちへやってくる。

 

「いや、これ見てん?」

 

涼子が見せた書類には異界人の情報と一緒に写真も掲載してあった。

 

「"アルカ帝国領内トルトの森の村出身。エルフ族のディレット・アドミラシル"さんだって。金髪のべっぴんさんやんか」

 

「はいはい、金髪美女のエルフね…………ってええ!?」

 

「よかったね~あんた。ドワーフのむさ苦しいおっさんじゃなくて」

 

写真に映っているディレットという名のエルフは美しく整った顔立ちをしており、金色の髪と透き通るような水色の瞳は写真でも見る者を惹き付ける魅力があった。

 

「……一応確認しとくけど、それ新手の詐欺とかじゃないよな?」

 

「日本政府を騙って詐欺しきるような度胸のあるやつぁおらんやろー。大丈夫やって」

 

「……ならいいけど」

 

「あんたほんとはかわいい女の子が来ると知って内心舞い上がっとろ?」

 

「ばっ、何言ってんだよ!!」

 

「隠したってあたしにはわかるけん、恥ずかしがらんでいいとよ。こちとら腹に死ぬような激痛喰らってお前を生んでから何年お前の親やってきたと思っとんじゃ。伊達に母親やっとらんぞ」

 

「うう……」

 

龍馬だって年頃の男子高校生だ。女に興味がないわけではない。が、いかんせん女に縁がなかった。異世界のエルフとはいえ、ここまでの美女が我が家に来ると知って嬉しくないはずがなかった。

 

「3月の……おっ、丁度あんたが春休みの時期に来るってよ。良かったやんけ」

 

「家わかるのか?」

 

「異世界の住人にこっちの住所教えてわかるわけないやろバーカ」

 

「バカはないだろ!」

 

「通知の書類によれば東京湾にフェリーで入港したあと、そこから羽田空港から福岡空港まで政府の案内で飛行機で来るってよ。だから当日はあたしが空港までディレットちゃん車で迎えに行くけん、あんたも着いてきなさいよ」

 

「……わかったよ」

 

 

 

 

 

 

 

「ってなことがあったんだよ」

 

「やべえ。発言から一年後にフラグ回収しちゃったよ」

 

「お前占い師にでもなった方がいいんじゃねえの?」

 

「遠慮しとくよ。絵師より食うのが大変そうだ」

 

後日、ふくまるにて。龍馬は先日の出来事を勇斗に話していた。

一年前に"金髪エルフの子が家に来たらどうする?"とか言って盛大なフラグを立ておって、と思った龍馬であった。

 

「なんかすっげー美人なんだって?こっち来たら紹介しろよ?」

 

「わかってるよ。……おばちゃん、替え玉バリカタおかわり!」

 

「はいよ。……って、龍ちゃんあんた食いすぎじゃない?そんなに炭水化物取りすぎてると太るよ?」

 

ふとましい体格をしたおばちゃんがそう言いながらも龍馬のどんぶりに替え玉を入れる。

 

「おばちゃん、その言葉盛大なブーメランだよ」

 

「あたしはいいんだよ。痩せてたところでこんなババア相手にする男なんているもんかい。それにあたしは死んだ旦那一筋だからね。それより異世界の人来るんだって?楽しそうでいいねぇ。こっちに来た時は店にも連れてきておくれよ?」

 

おばちゃんは若い頃、娘の愛華を生んでから二年後に夫を亡くしている。それからは女手ひとつで娘を育ててきたのだ。

そんな彼女の作る料理は多くの人々の胃袋を支えてきた。今やふくまるはこの商店街にとってなくてはならない必要不可欠の存在だ。龍馬もそのうちの一人である。

 

「わかったって……あぁ、ラーメンうめえ」

 

 

龍馬は本日三杯目の替え玉を食べつつ、悦に浸るのであった。

 

 

 

 

 

 

一ヶ月後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とうとう、ディレットがニホンへ行く日がやってきた。

彼女はオルディオの大樹の葉で作られたお守りとサイトウ家への手土産にと母が作ったタペストリーを持って馬を駆っていた。

帝都に付くとまずギルドへと向かう。

そこで本人確認と渡航手続きをしたのち、まず帝国の船に乗る。

異世界をまたにかけて建設された海洋港に入るとそこは見たこともない立派な施設だった。

白く光る不思議な物体で明るく照らされた施設内部には多くの帝国民やニホン人で賑わっており、もうすでにニホンに入ったかのような感覚になった。

だがここはまだ自分の世界だ。こちらの世界の文字とニホン語で"異界人渡航受付カウンター"と書いてある場所へ向かって手続きをすると受付のニホン人女性が丁寧に説明をする。

 

「……はい、留学希望渡航のディレット・アドミラシルさんですね。ではこちらのチケットを持って渡航用ターミナルにお進みください。ターミナルはあちら、小さなゲートがいくつも並んだ場所がそうです」

 

ニホン人女性が手で示した場所には多くの帝国民が並んで手荷物の検査を受けている。

 

「日本国内への入国について注意事項があります。一部の例外を除き、食品の持ち込みは出来ません。それから刃物や鉄製の鎧や爆発物に可燃性の高い物体などの危険物、マジックアイテムやルーン石の持ち込みも不可能です。もしそれら該当するものを所持しているならばこちらで申告していただければ預かることが出来ます。万が一、不当に所持していることが検査や国内で発覚した場合は入国拒否・強制送還といった措置を取らせていただくことがあります。よろしいですか?」

 

傭兵や冒険者なら誰しもが武器を持っていて当たり前のこの世界の常識は通用しない。ニホンには"ジュウトウ法"という決まりがあり、一般市民が資格や正当な理由なく武器を所持することは禁止されている。ニホンで生活する以上はこれに従わなくてはならない。

また、マジックアイテムは不要な混乱を招き、下手をすれば犯罪に利用される恐れがあるためにこちらも持ち込みに制限がかけられている。

 

「はい、わかりました」

 

「それではターミナルへどうぞ。良き旅を」

 

ディレットは案内通りにターミナルへ向かい、手荷物の検査を受けた。検査を通過したあとはしばらく待つ。

20分ほど待つと、アナウンスが流れてきた。

 

「"アルカ帝国発・東京湾行きフェリー、出航15分前となりました。乗船されるお客様は係員の指示に従って乗船してください"」

 

「(どうやってあの声出してるのかしら)」

 

ディレットは施設内に響くアナウンスの仕組みを不思議に思いながらも、指示の通りに係員に従い、フェリーに乗船する。

 

「わぁ……大きな鉄の船ね……帆無しでどうやって進むんだろう……」

 

フェリーはかなり大きい。こちらの世界の客船にもひけを取らないほどに。これに乗って次元の門をくぐるのだ。見たこともない不思議な船の旅にディレットはちょっぴり心を躍らせる。

ディレットがフェリーに乗船してしばらく経つとフェリー内部にアナウンスが流れる。

 

「"お待たせ致しました。アルカ帝国発・東京湾行きフェリー、間もなく出航となります。動き出しますのでご注意下さい"」

 

フェリーがゆっくりと動き出し、異界の門を目指して進んでいく。最初はフェリー内部にいたディレットだが、いてもたってもいられず、甲板へと足を運んでいた。

異界の門が近付き、向こうの世界の景色が大きくなってくる。

そして遂に船は門を抜け、東京湾沖へと出た。

 

「わあ……!!」

 

夢にまで見たニホン。その景色はまさに異世界であった。

帝都の景色とは違う、灰色や白黒の巨大な建物。天を貫くようなそびえ立つ鉄の塔。周りには自分が乗っているフェリーよりも遥かに大きな鉄の船があり、見るもの全てがディレットの好奇心を刺激した。

フェリーは東京湾沖にある海洋港に一旦入港し、入国管理ゲートで再び検査を受けてから行き先別に政府の案内で別々の小型フェリーによって帝国民がニホンへ入国していく。

 

「福岡県福岡市行き留学希望渡航者のディレット・アドミラシルさーん?」

 

「はーい」

 

「お待たせ致しました。あちらから入国用フェリーに乗船して東京湾へ向かってください。送迎用のバスが待機しています」

 

係員の案内で先程よりも小さなフェリーで東京湾へと入港。フェリーから降りたディレットはついに憧れのニホンの地を踏めたことに感動していた。

 

「ここがニホン……本当に一面が石の地面ね……」

 

ブーツのつま先でコツコツとコンクリートの地面を軽くつついていると、案内役の政府の関係者が話しかけてくる。

 

「えーと、ディレット・アドミラシルさんですか?エルフ族の」

 

「え?は、はい!」

 

「日本への来日、歓迎致します。えーと……留学希望で福岡県行きの異界人は……今回はあなただけみたいですね。あちらに送迎用のバスがありますのでどうぞ」

 

案内役の男性はディレットをマイクロバスへと案内する。

 

「(凄い!本当に馬の無い乗り物だ!)」

 

馬車よりも遥かに大きな"クルマ"、"ジドウシャ"という乗り物。学校では習ったが、実際に見るのは初めてだ。

ディレットはマイクロバスへと乗り込み、案内役の男性にシートベルトの付け方を教わるとバスの出発を待つ。

 

「これでよし。今回は彼女だけです。運転手さん、お願いします」

 

「はい。では発車します」

 

エンジンの音と振動に少し驚くディレット。

驚きも束の間、馬の無い鉄の乗り物は走り出した。

 

「わあ!すごい!馬無しで走ってる!」

 

「ふふ、異界人のみなさんは皆バスに乗るとそう言うんですよ。我々にとっては当たり前の光景なんですがね」

 

「これはどうやって走ってるんですか?精霊魔法とか……じゃないですよね」

 

「ははは、ディレットさん、向こうの学校でも聞いたと思いますが私達の世界に魔法はありませんよ。これら車という乗り物はエンジンという機械の力で動かしているのです。先ほどから聞こえている大きな音がエンジンの音です」

 

「へえ……ニホンの技術ってすごいのね……」

 

ディレットが感心してキョロキョロと中を見渡していると、案内役の男性がこれからのことについて説明を始めた。

 

「では、ディレットさん。あなたのこれからの行動について説明させていただきます。まずこのバスで羽田空港へと向かい、そこで飛行機に搭乗、福岡空港へと向かっていただきます。あとは係員の指示に従って空港のターミナルを出ればあなたの滞在先となるご家族の方が迎えに来てくれているはずです。何か質問はありますか?」

 

「えっと……ヒコウキってあの空飛ぶ鉄の鳥ですよね……?私一人で乗れるかな……?」

 

「ご心配なく。搭乗するまでは私がご同行致します。残念ながら機内ではお一人ですが……客室乗務員が機内にいますので機内でわからないこと、不安なこと、質問があれば乗務員の女性に遠慮なく訊ねてください。他に質問は?」

 

「……いえ、大丈夫です」

 

「結構。ではもう少しで羽田空港へ到着しますのでそれまで車内でゆっくりされてください」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早くしろよ!!間に合わねーぞ!!東京から飛行機で福岡なんてあっという間だって言ってたのは誰だよ!!」

 

「ちょっと待ちーよ。煙草吸うけん」

 

「煙草なんてあとにしろよ!」

 

場所は変わってここは斎藤家。

向こうの飛行機の出発時間を聞いているのであとは到着に合わせて迎えに行くだけ……なのだが。

 

「なんで間に合わないかもしれないのにそんなに余裕ぶっこいてられるんだよ……」

 

涼子の悪い癖だ。彼女は時間にルーズな人間であった。"前もって早めに到着する"という考えは彼女にはなく、"時間までに付けばギリギリでもいい"といういい加減なところがある。

今だって空港に向かわなければいけないのにようやく準備が出来たかと思ったらのんきに煙草を吸い始める始末だ。

 

 

一方羽田空港に到着したディレットは空港の大きさや現代の建築物に驚きながらも手続きと検査を済ませ、ターミナルまで来ていた。

 

「……そろそろ搭乗の時間ですね。ディレットさん、チケットはありますか?」

 

「はい、ここに」

 

「ではそのチケットをあちらの搭乗口にいる女性に渡して下さい。座席の番号がわからない時は乗務員にお尋ねください。では、私がお供出来るのはここまでです。ディレットさん、よい旅を」

 

「はい、何から何までありがとうございました!」

 

「いえいえ。それでは失礼します」

 

そう言うと案内役の男性は一礼して去っていった。

 

「ヒコウキ……なんだかちょっと怖いけど……大丈夫かな……」

 

ディレットがおそるおそる搭乗口から飛行機に乗り込むと、CAの女性がディレットを見てすぐに異界人だと気付き、気を利かせて席まで案内してくれた。席は窓際なので景色がよく見える。

 

「"皆様、本日はスカイワンダラーをご利用頂きありがとうございます。お手荷物は座席上の物入れ、または前の座席の下奥深くにご収納ください。壊れやすい物や水漏れしやすいものは座席上の物入れにはお入れにならず、前の座席の下、またはシートポケットへご収納ください。

小さなお子様はお膝の上にしっかりとお抱きください。また、飛行中の急な揺れに備えシートベルトは常にしっかりとお締めください…………"」

 

着席してしばらく経つと自動でアナウンスが流れる。しばらくアナウンスが続くと今度はCAのアナウンスが流れ始めた。

 

「"皆様、この飛行機はスカイワンダラー117便福岡空港行きでございます。出発に際し、スマートフォンなどの電波を発する状態にある電子機器は主電源をお切りいただくか、電波を発しない状態へ設定変更をお願い致します……"」

 

「("すまあとほん"ってニホン人の人達が持ってる小さな薄い板みたいなもののことよね何ができるのかしら)」

 

異界人のディレットにはアナウンスの所々の用語はわからぬ。ディレットは異界のエルフである。弓を射、エルフの生地を売って暮らしてきた。異界人だから当たり前である。

 

「"……御用の際またはお気付きの点などございましたら、お気軽に声をお掛けください。皆様の頭上には読書灯のスイッチと、空調設備などが備え付けられております。防風口を左右に回して調節ください。

それでは到着地までどうぞごゆっくりとお過ごしください"」

 

 

アナウンスが終わると飛行機はゆっくりと後ろに下がり始めた。

飛行機はしばらく後ろに下がると今度は全身し、ゆっくりと滑走路に入る。

 

「本当にこんな大きな乗り物が空を飛ぶのかなぁ……?」

 

ディレットは未だにゆっくりとしか動かない飛行機に半信半疑だった。

そして滑走路に入ると飛行機は一度停止した。その直後。

 

キュイイイイイイイン!!!!

 

「ひっ!?」

 

飛行機のジェットエンジンの凄まじい音が響き、物凄いスピードで飛行機が走り始め、思わず悲鳴を上げてしまうディレット。

次の瞬間、高速で動く飛行機によってかかるGで身体が座席に押し付けられるような感覚に陥る。だが異界の住人であるディレットにGなどわかるはずもなく、体験したことのない感覚に歯を食い縛るしかなかった。

そしてフワリとした感覚。飛行機ごと身体が宙に浮く感覚だ。乗っているこの巨大な鉄の鳥が空へ頭を向けて斜めになっているのがわかる。

おそるおそる窓の外に目をやるディレット。するとそこにはーーーー。

 

「(……と、飛んでる!本当に空を飛んでる!!)」

 

眼下には羽田空港と東京の街並みが広がり、みるみるうちに小さくなっていく。そしてあの巨大な鉄の塔よりも空高く飛び上がり、あっという間に雲の上まで到達してしまった。

 

「(わあ……!!私、雲の上にいるんだ……!!)」

 

あまりの感動に恐怖さえも忘れて窓からの光景に目を見張るディレット。

 

「(お父さんやお母さんにもいつか見せてあげたいなあ……)」

 

彼女はそんな事を思いつつ、ディレットを乗せた飛行機は目的地の福岡空港へと向けて空路を行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約一時間半のフライトの後、飛行機は福岡空港に着陸した。

飛行機が着陸する時の衝撃にディレットはまた驚いてしまったが、離陸の時よりはまだ恐怖心はなかった。

CAの一人が丁寧にも搭乗口の外まで案内してくれた後、福岡空港内の別の係員に説明して、そこからは係員の人が手荷物検査のゲートまで案内してくれた。

 

 

そしてーーーー。

 

 

 

「あ、おったおった。おーい!」

 

ディレットに向かって一人の中年の女性が手を振る。女性は傍らに一人の少年を連れている。年はヒト種で言う16、7歳くらいだろうか。

女性は少年と一緒にディレットに近づいてきた。

 

「えと、ディレット・アドミラシルさん?」

 

「は、はい。……あの……サイトウさん……ですか?」

 

「そう、あたし達があなたの滞在先の斎藤家です。よろしく。あたしは母親の涼子でこっちは息子の龍馬」

 

「さ、斎藤龍馬です。よろしく」

 

少しぎこちない言い方で龍馬は挨拶した。

 

「えと、ディレット・アドミラシルです。アルカ帝国領内・トルトの森の村出身です。よろしくお願いします」

 

 

異世界と現代日本が繋がってから約一年。

現代日本の高校生である斎藤 龍馬とエルフ族のディレット・アドミラシル。遂に両者は出会いを果たした。

 

現代日本の学生とファンタジー異世界のエルフ。この二人が織り成す"異界交流記"はここから始まるのだ。

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