アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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異界旅行・ヴィヴェルタニア王国潜入編
第46話 隣国の暴君


イレーナの救出から一夜明け、村にいつもの平穏な日々が戻ってきた。

 

「いやっほう!」

 

龍馬は森を仲間達と共にバイクで駆け巡って遊んでいた。

村には明日の朝まで滞在する。それまでディレットの故郷のこの村でのんびりとするのも悪くない。

交代で龍一郎も森を走る。若い頃トライアルレースの経験がある龍一郎は悪路も難なく走破し、龍馬達と村のエルフ達を驚かせた。

さらに「バイクに乗ってみたい」というエルフ達の要望で後ろに乗せて走ったりもした。

馬とは違うパワーとスピード、そして乗り心地にある者は興奮し、ある者は「生きた心地がしない」と恐怖する。

ディレットの両親は次第に興味が出てきたのか、最初こそ龍馬や龍一郎に乗せていてもらっていたものの、なんと「自分で運転してみたい」と言い出した。

ヘルメットを借りたノーブルが跨がり、龍一郎が指導する。

 

「この"へるめっと"という兜、見た目以上に軽いが、視界は狭いな……」

 

「はい、じゃあ左手のクラッチレバーを握りながら左足の爪先にあるシフトペダルを踏んでください」

 

「こうか?」

 

ノーブルがシフトペダルを踏むが、ガクンと動いた直後にエンストしてしまう。

初心者によくありがちなクラッチレバーのミスによるエンストだ。

 

「おおっと!クラッチレバーはきちんと握りっぱなしにしないとエンジンが止まってしまいますよ!さあ、もう一回やってみましょう」

 

「あなたー!頑張ってー!」

 

「お父さん、頑張れー!」

 

遠くからマリアとディレットが声援を送る。妻と娘の前でカッコ悪いところは見せられないと張り切るノーブルだが、初めて触れる異界の乗り物。そうはいかないのが現状だ。

エンストを繰り返しながら何とか発進のコツを掴んだが、ギアチェンジが上手くいかない。

前も言ったがこのギアチェンジ、車にしろバイクにしろ、一度頭と身体が理解すればまるで呼吸をするように出来るようになるのだが、仕組みを理解するまでが難しい。

これは日本人でも同じで教習の際に差が出る。

技術をモノに出来るのが早い人種は幼い頃から車やバイクが好きでそれに詳しい人間などは早く修得しやすい。

反対に乗り物に興味のない人間は仕組みも何も知らないままなのでなかなか覚えづらい傾向にある。下手をすればマニュアルというカテゴリすら知らない人間もいるぐらいだ。

だがノーブルはエルフ特有の手先の器用さで徐々に低速でならば走らせる事が出来るようになった。

 

「上手い上手い!ノーブルさん、その調子です!」

 

「最初は難しいが、乗れれば楽しいな!」

 

アクセルを回した時に車体が進みだす感覚を初めて味わうあの感動は異界人でも同じらしい。

時として感情に左右される馬と違い、技術さえ覚えればまるで自分の手足のように動き、乗り手をどこへでも連れていってくれる乗り物・バイク。

車とは違う、永遠の感動とロマンに溢れた乗り物。

興味のない人間からすれば雨は防げず、人も二人までしか乗せられず、荷物も積めず、転倒すれば重傷や死の危険が遥かに大きいバイクの何がいいのか、車の方が遥かに便利ではないかと思うかもしれないが、バイクにはそれを凌駕する語り尽くせない魅力があるのだ。

ノーブルはバイクの魅力を存分に味わった。だが彼がまた娘のように異界そのものに魅了されつつあったことはまだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、アルカ帝国の東に位置するヴィヴェルタニア王国では不穏な動きがあった。

ヴィヴェルタニア王国を治める国王アティウスはヴィヴェルタニアからさらに南に位置する隣国のアロンド小国の王との会合のために先日から王国を留守にしていた。

そんなアティウス王の第一子であるレオンハルト王子は弟のエドワードと共にアルカ帝国へ向かう準備をしていた。

 

「に、兄さん……本当に行くの……?やっぱりやめた方が……」

 

「今さら怖じ気付いたか、エドワード!いいか、次期国王であるこの僕が人の上に立つ者としての立場をお前に勉強させてやろうと言うんだ!

お前はいずれ国王となる僕の右腕として仕えてもらわなければならない!だがお前は気が小さすぎる!そんなお前のために兄である僕が一肌脱いでやろうと言ってるんだぞ!」

 

「で、でも……」

 

「ええい、イライラさせる奴だな!だからお前はいつまでたっても駄目な男なんだ!お前は黙って僕の言うことを聞いていればいいんだ!」

 

レオンハルトは気弱な弟の態度にいらつきを覚えながら悪態を突く。そんな兄に強く言われたとあってはエドワードも大人しく従わざるを得ない。

渋々エドワードも出掛ける身支度を整える。

 

「……レオンハルト王子。馬の準備は出来ております。ご命令いただければいつでも出発できます」

 

現れたのはガルム騎士団団長のバルガス。"鬼神のバルガス"と呼ばれる、あの隻眼の剣士だ。

 

「ご苦労、バルガス!早速出発するぞ!……おい、エドワード!早くしろ!」

 

「ま、待ってよ兄さん……!」

 

慌てて兄レオンハルトの後を追うエドワード。

二人は護衛の兵士、騎士、そして騎士団長のバルガスを引き連れ、アルカ帝国へと出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

再びここはトルトの森の村。

バイクで遊んだ後は龍馬のドローンを飛ばして村人達を驚かせたり、タブレットで動画を見たりして楽しむ。

 

「お父さん!お母さん!写真撮ろう!」

 

ディレットはスマホを取り出して構える。

不思議な異界の道具に驚きつつも、ディレットは両親とスマホで写真を撮る。

 

「不思議な道具ね。遠くの人と話したり、文面を送ったり、風景を記録したり……」

 

「ああ、私達にもこれがあればいつでも娘と話せるのにな」

 

ディレットは両親と写真を撮ると次に龍馬達も加えて写真を撮影した。

皆いい顔だ。異界の文面の利器を持ち帰った故郷で新しい思い出が出来、さらにそれを記録できるとは何と素晴らしいことなのだろう。

さらに動画撮影まで披露したことでますます驚く両親。風景だけではなく映像まで記録出来る異界の文明の利器に触れながらディレットは思い出を残し、故郷での最後の夜を迎える。

 

 

 

 

そして、翌日ーーーー。

 

 

 

 

「リュウイチロウさん、リョーコさん、リョーマ君、そしてお友達の皆様方。どうかうちの娘をこれからもよろしくお願いします」

 

「また機会があればこの村に皆様でいつでもいらっしゃってくださいな」

 

ノーブルとマリアは丁寧に頭を下げる。今日は遂に村を離れる日だ。

 

「こちらこそ、お世話になりました。ディレットちゃんは引き続き、うちで責任を持って預からせていただきます」

 

「今度はノーブルさんとマリアさんも福岡さい来てくださいよ。向こうの上手い飯ご馳走しちゃりますけん」

 

そう言って龍一郎と涼子も頭を下げる。

幻想的な風景が広がるトルトの森とも今日でお別れだ。龍馬達はディレットの両親、村のエルフ達との別れを名残惜しんだ。そしてイレーナとも。

 

「……リョーマ……その……」

 

「ん?」

 

「……また、来てよね」

 

「……ああ。もちろん」

 

イレーナは寂しそうに龍馬に別れを告げる。

……彼女の胸の内は誰にも分かることはない。その叶わぬ恋の哀しみも、涙も、彼女だけの真実だ。

イレーナはその感情を圧し殺して不器用な笑顔を作り、龍馬を見送る。

 

「お父さん、お母さん、"もう一度"行ってきます」

 

「ああ、行ってきなさい」

 

「身体に気を付けてね。"ばいく"で怪我しちゃだめよ」

 

ディレットは両親と抱き合うと、名残惜しそうに二人から離れる。そして皆が車とバイクに乗り、エンジンをかける。

 

「さよーならー!」

 

龍馬達はバイクを発進させながら、或いは車の窓から身を乗り出して徐々に小さくなっていくディレットの両親、そして村のエルフ達に最後まで手を振り続けたのだった。

 

 

 

 

 

トルトの森を出て街道を進み、帝都へ戻る。

これからの予定は帝都でお土産の品々を買い、帰宅準備を整えたら迎えのフェリーで元の世界へ帰る。そこからフェリーを乗り換えて福岡県・門司まで帰り、九州自動車道を南下して博多へと戻るのだ。

思えば色々な出来事があった。雑貨屋カムラン一家やノエルとの出会いに竜の髭亭の騒動、放火からカムラン一家の娘シャルルを救い、みんなでカムラン一家の再起を手伝ったり、ゴロツキや暗殺者と戦ったり、悪徳商人や腹黒い聖職者を捕まえ、龍馬は神から武器を授かり、その神が半ば強引についてきたり、ピクシー達の住処でモンスター退治をしたり、エルフ達の森で人間嫌いのエルフを助けたり……何だか本当にRPGの主人公が体験するようなイベントの数々だった。

龍馬はこれまでの体験に思いを馳せながら帝都へ向けてバイクを走らせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

この先、この異界の旅で最大の事件が待ち受けているとも知らずに…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都に到着した龍馬達は真っ直ぐ城へと向かった。

そこではモニカが龍馬達の帰りを待っており、彼女は再びバイクに乗せて欲しいとせがんできた。

龍馬達はあと数日で帝国を去る。その前にモニカが思い出を作りたいのだそうだ。

モニカの申し入れを龍馬達は快諾し、龍馬は彼女を後ろに乗せて帝都をゆったりとバイクで散策することにした。

運転や連日の出来事で疲れた龍一郎と涼子は城でゆっくりと休みたいらしく、アレクもノエルの様子を見に大聖堂へと戻っていった。

龍馬はモニカの他にディレット、勇斗、千春、ルミナと共に城下町へと繰り出す。

 

「帝都を"ばいく"で散策出来るなんて夢みたいだわ!」

 

「そりゃ良かった。お姫様に喜んでもらえて俺も嬉しいよ」

 

いつも見慣れたはずの帝都の景色がバイクで走るだけで全く違って見える。

行き交う人々も、建ち並ぶ家屋や露店も、全てが新鮮に感じた。

龍馬達は帝都をツーリングしつつ、露店で買い食いをしたり、写真を撮ったりしながらモニカとのひとときを楽しんだ。

 

 

 

 

……だが、そんな思い出作りのツーリングは一変、"招かれざる客"によって打ち砕かれてしまう。

 

 

 

 

「おい、龍馬。なんか向こうが騒がしくねえか?」

 

「ん?ほんとだな……何があったんだ?」

 

勇斗がいち早く帝都の異常に気付く。

何やらバザー通りの方が騒がしい。龍馬達はそちらへバイクを走らせる。

位置的にはちょうどカムラン一家の屋台の近くだ。人々が怪訝な顔で見つめるその先にはーーーー

 

「どけ、愚民どもめ!!ヴィヴェルタニア王国が王子、レオンハルトのお通りだ!!」

 

白馬に跨がり白い礼装に身を包んだ少年がいた。

帝都の住民達を踏み潰さんとばかりに馬を大きく足踏みさせながら我が物顔で通りを歩いている。

 

「あれは……!」

 

「モニカ、知り合いか?」

 

「……ええ。彼はレオンハルト。隣国のヴィヴェルタニア王国の王、アティウスの第一子で王子よ」

 

「レオンハルト……」

 

龍馬は帝国の中枢とも言えるこの帝都で住民達をまるで家畜か何かのように見下しながら愚民、愚民と罵っては城へ向けて馬を進める。

 

「……クソが」

 

龍馬は奴の鼻っ柱をへし折ってやろうと、アクセルを握る右手に力を加える。が、

 

「……ダメよ……!リョーマ、彼に手を出してはダメ……!」

 

「何でだよ!?」

 

モニカが後ろから龍馬の手を掴み、彼の怒りを抑える。

 

「彼にはヴィヴェルタニア王国最強のガルム騎士団団長が付いているわ……あの片目の剣士よ……」

 

モニカが見る先には金の縁取りをした漆黒の鎧に身を包み、背中に大剣を背負った剣士がいる。

 

「彼はバルガス・ディアガルド。またの名を"鬼神のバルガス"。ヴィヴェルタニア王家に絶対の忠誠を誓う、王国最強の剣士よ。

リョーマ、いい?彼に手を出さないで。気が済めば帰っていくから……」

 

「クッ……」

 

モニカの頼みとあっては飛び出すわけにはいかない。龍馬は今いる路地の影でバイクを止めて降りると物陰から様子を伺う。

 

「リョーマ!あれ見て!カムランさんが……!」

 

「……!!」

 

ディレットが指差す先にはカムラン一家の屋台があり、レオンハルトは馬から降りてそこに近付いていった。

 

「……ほう、なかなか美味そうな匂いだ。店主、ここは何を作っている?」

 

「こ、これはレオンハルト様……は、はい、異界より伝わりし料理"ヤキウドン"を作っております……」

 

「……異界?ヤキウドン?……ほう……なるほどな……。

本来ならば貴様等愚民の食う飯など見向きもせんが……異界のものとはなかなか面白い。店主、それをひとつ寄越すがいい」

 

「は、はいっ!ただちに!」

 

レオンハルトに詰め寄られたキースは慌てて妻のマルタと共に焼きうどんを作る。そしてシャルルがそれをレオンハルトに差し出した。

 

「ど、どうぞ……ヤキウドンです……」

 

「ふむ。麺料理か。安価な小麦を使うところが如何にも愚民らしい。まあ、いいだろう。どれ……」

 

レオンハルトは焼きうどんを口にする。甘みのあるソースが絡んだ麺と肉、そして野菜がマッチして食べたことのない味わいを醸し出す。

 

「…………ふむ。この濃い色のソースが濃厚な味わいを出しているのか。肉も安いブラウンボアとは思えぬ味。店主、なかなかいい腕だ。気に入ったぞ」

 

「も、勿体なきお言葉でございます。王子殿」

 

レオンハルトの上機嫌そうな態度に内心ホッと胸を撫で下ろす。

 

ーーが、しかし。

 

「だが、店主よ。これはなんだ?」

 

「……え?」

 

レオンハルトは自らの服の胸元を指差す。

そこには彼が先ほど焼きうどんを食する際に麺から跳ねたと思われるソースの飛沫が彼の真っ白な礼装にわずかなシミを作っていた。

 

「貴様の下浅な料理のせいで僕の一張羅が台無しだ。店主、この責任はどう取るつもりだ?」

 

「そ、そんな!それは王子殿がーー」

 

「あなた!」

 

マルタが止めるがもう遅かった。レオンハルトは眉間にシワを寄せてキースを睨み付けた。

 

「何……?貴様……愚民の分際でヴィヴェルタニアの次期国王たるこの僕に意見しようというのか!?愚民のくせに生意気な!!」

 

突如としてレオンハルトは激昂し、腰に差した豪華な装飾の剣を抜き、キースに向けたのだ。

 

「王家の人間に逆らったのだ!それなりの覚悟はあるのだろうな!?」

 

「や、やめてください!!」

 

剣を抜いたレオンハルトの前にシャルルが立ちはだかる。

 

「シャルル!」

 

「私が代わりに罰を受けます!だから……だからお父さんとお母さんに手を出さないでください……」

 

シャルルは涙を浮かべ、恐怖に身体を震わせながら必死にレオンハルトに訴える。

 

「ほう……?泣かせるじゃあないか。子が親を庇うとはな。いいだろう。その涙に免じて許してやる」

 

レオンハルトは振り上げた剣をゆっくりと下げる。

 

「あ、ありがとうございます……!ありがとうございます……!」

 

キースとマルタは必死に土下座をしながら涙ながらにレオンハルトに感謝の言葉を述べた。

 

 

 

 

だが、ヴィヴェルタニアの"暴君"が下したのはあまりにも無慈悲な現実だった。

 

「ただし!貴様等の子の命と引き換えに、だ!!」

 

「え!?」

 

「こいつは言った。"どんな罰でも受けるから両親には手を出すな"と。ならばそれを受け入れてやるのも王となる者の務めだ。

喜べ。貴様等の子のおかげで貴様等夫婦は僕に許されるのだ。まあ、子は死ぬがな!ハッハッハッ!」

 

レオンハルトは高らかに笑い声を上げる。

その様子を耐えながら見ていた龍馬だったが、もはや我慢の限界だ。

手は凄まじい握力で拳が握られ、腕全体に青い血管が浮き出るほどになっている。

 

「お、お願いします!娘は……娘だけは……!」

 

「もう遅い!……では少女よ。さらばだ。誇り高きヴィヴェルタニアの次期国王直々に裁かれる事に感謝しながら死ね」

 

再び、レオンハルトが剣を振り上げる。

そしてその刃が太陽に照らされ、今まさに振り下ろされようとしたその瞬間ーーーービィン、ビィンという異様な音が辺りに響き渡り、レオンハルトは手を止めた。

 

「……何の音だ!?」

 

辺りを見回すと少し先の路地から馬に乗った人間が現れた。

否、馬ではない。その身体は緑色で足には車輪が付き、馬とは似ても似つかないものに乗った何者かが聞いたこともないような音を立てながら一直線にこちらに向かってくる。

 

「な、なんだあれは!?」

 

乗っているのは自分とそう変わらない年頃の少年だ。しかし少年は怒りに顔を歪ませながら鉄の馬を駆り、こちらに突っ込んでくる。

 

「りょ……リョーマお兄ちゃん!?」

 

そう、龍馬の乗ったKDX220SRだ。龍馬はヘルメットを被るのも忘れ、レオンハルトに突っ込んでいく。

あまりの早さに護衛の騎士達も反応できず、接近を許してしまう。そしてーーーー

 

「うぉらああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

龍馬はバイクからジャンプし、上空からレオンハルトの顔面目掛けて怒りの鉄拳を振り下ろす。

 

「ぐはぁっ!?」

 

レオンハルトは龍馬に殴られた後、顔面から地面に突っ込み、鼻を強打した。

地面に着地し、拳をわなわなと震わせながら龍馬は怒鳴った。

 

「このゲス野郎が!!人にイチャモン付けて挙げ句の果てにはこんな小さな子供に手ェかけるなんざ、てめぇには人間の血が流れてるのか!?あぁ!?」

 

怒鳴り付ける龍馬をレオンハルトは顔を押さえながら睨み付ける。

 

「よ、よくもこの僕の美しい顔に傷を……!!い、行け!お前たち!こいつを殺せぇっ!!」

 

レオンハルトが命じた瞬間、騎士達が龍馬を取り囲む。しかし龍馬はすかさずルナ・アームを装着し、騎士達を次々と殴り倒していく。

さらにーー

 

「ぐふっ!!」

 

龍馬の背後にいた騎士がさらにその背後から殴り倒される。勇斗だ。

 

「ったく、お姫様が止めたのに勝手に飛び出しやがって……仕方のない奴だな、オメーは」

 

「ふん。お前はあの状況で黙ってられるっつーのかよ、ゴリラ野郎」

 

「いーや、無理だね」

 

「……だよなぁ!!」

 

龍馬と勇斗はニヤリと笑うと襲い来る騎士達を次々と倒していく。

いかなる鎧も武器も、彼ら二人の前には赤子同然。騎士達は徐々に追い詰められる。

そして騎士達が怯んだ瞬間、龍馬はその隙間を駆け抜けてレオンハルトに再び近づく。

 

「ヒ、ヒィッ……!」

 

「罰を受けるのはテメーの方だったな。喰らいやがれ!!」

 

そして龍馬が拳を振り下ろした。だがその拳はレオンハルトに届くことはなく、彼は何か物凄い力によって弾き飛ばされた。

 

「……王子。ご無事で」

 

「お、遅いぞバルガス!!何で早く助けてくれなかったんだよ!!」

 

立ちはだかったのは王国最強の剣士・ガルム騎士団団長のバルガスだ。

重い鎧、巨大な大剣、そして勇斗よりも大きな体躯を誇りながら異常なスピードでレオンハルトに近づき、龍馬を剣で弾き飛ばした。

 

「……申し訳ありません。奴等を少し侮っていまようです。まさかガルム騎士団員があのような子供にこれほどまでに押されるとは」

 

「言い訳はいい!さっさとあいつらを始末しろ!」

 

「……承知」

 

バルガスは一礼すると弾き飛ばされて倒れた龍馬が起き上がる前に彼の喉元に剣を突き付けた。

早い。あの体躯と重装備で何という早さだ。

防御体制を取る暇すら与えてくれなかった。

 

「……小僧。そこまでだ。大人しくするがいい。おい、小僧の仲間。お前もだ。抵抗すればこいつの命はないぞ」

 

「……クソ!」

 

「……やれやれ。ついてねぇな」

 

龍馬は仕方なくルナ・アームを解除し、勇斗も構えを解く。

その瞬間騎士達が龍馬と勇斗を取り押さえ、身動きが取れないように押さえ付ける。

 

「……ククッ!ハハハハ!どうだ見たか!これが我が忠実な(しもべ)、バルガスの力だ!……さて、先ほどのお返しをさせてもらおうか。それ!」

 

「ぐっ!」

 

レオンハルトは騎士に拘束されている龍馬の顔を殴る。右手で一発。さらに左手で一発。

 

「そら!」

 

「ぐはっ……!」

 

「りょ、龍馬っ!!」

 

龍馬の鳩尾にさらに一発。そして今度は膝で一発。

 

「まだまだ行くぞ……それ!」

 

「うぐっ……!」

 

また右手でもう一発龍馬の顔面を殴る。龍馬は口や鼻から血を流しつつ、腫れ上がりつつある顔でレオンハルトを睨み付ける。

 

「何だぁ?その目は?生意気な奴め!!うらっ!!」

 

「ぐふっ!!」

 

さらにもう一発顔面にパンチを入れるレオンハルト。龍馬の顔は見るも無惨な状態だ。

後ろで拘束されている勇斗は何も出来ず、親友が殴られるのをただ黙って見ていることしか出来なかった。

レオンハルトはその時、龍馬の胸元にある光る装飾品に気付いた。

 

「ん?なんだこれは?」

 

それは龍馬が17歳の誕生日に母とディレットから贈られた龍を模したネックレスだ。彼は学校に行くときも、遊びに行くときも、いつもこの龍のネックレスを付けて大事にしていた。

 

「ふん、愚民の分際でこんなものを付けやがって!」

 

「よ……よせ……!やめろ……!」

 

レオンハルトは龍のネックレスをひっ掴むと強引に引っ張る。

瞬間、ネックレスの小さなチェーンが引き千切れ、辺りに千切れたチェーンの一部が散らばる。

 

「なかなか珍しい装飾品だ。これは詫びの品として僕がもらってやる。ありがたく思え」

 

「やめろ……!返せ……!」

 

「うるさい!黙れ!」

 

レオンハルトはダメ押しとばかりにさらに龍馬の鳩尾に拳を叩き込む。

 

「ぐ……はっ……!がっ……!」

 

「やめなさいレオンハルト!!」

 

「……何?」

 

レオンハルトは何者かが叫んだ声に反応し、後ろを向く。

すると後ろにはーーーーレオンハルトの帝国訪問の真の目的であるーーーーモニカがいた。

 

「……これはこれは。モニカじゃないか。まさかそっちから出向いてくれるとはな」

 

「彼等を解放しなさい。あなたの目的は私でしょう?」

 

「……ふん、まあいいだろう。おい」

 

レオンハルトが命じると騎士達は龍馬を拘束する手を離す。散々殴られた龍馬は糸が切れた人形のようにドサリとその場に倒れた。

 

「リョーマ!!」

 

「龍馬ぁ!!」

 

「斎藤!!」

 

解放された勇斗と後ろにいた千春とディレットが倒れた龍馬に駆け寄る。顔は腫れ上がって血まみれになり、ぐったりとしている。

千春が龍馬の上半身を抱え起こし、ディレットがヒールをかける。あまりの仕打ちに千春は憤慨し、レオンハルトを睨み付けた。

 

「あんた!隣の国の王子だか何だか知らないけど、無抵抗の人間を身勝手にいたぶって何が楽しいの!?」

 

「はあ?僕は王族だぞ。下で働く愚民どもを王族が好きにして何が悪い。そもそも先に手を出したのはそっちだろう。本来ならばこの場で首を切り落としてやりたいところだ」

 

「……あんた、本気で言ってんの?とんだイカれ王子ね」

 

「……生意気な女だ。今この場で斬り捨ててやろうか」

 

「やめなさい!レオンハルト、あなたの目的は私のはず。……そうでしょう?」

 

「クク……話が早い。ああ、そうだ。僕が来た目的……それはお前だ、モニカ。いい加減僕との結婚を承諾してもらおう。そうすれば奴等は見逃してやる」

 

レオンハルトの"結婚"という言葉に周囲がざわつく。勇斗達も目を丸くしてレオンハルトを見る。

 

「……わかったわ。あなたについていきます。騎士達を下げさせなさい」

 

「いいだろう。……おい、お前達!下がれ!」

 

レオンハルトの命令で全ての騎士達が後ろに下がる。そしてレオンハルトは自分の愛馬である白馬に跨がった。

モニカは騎士達に連れられ、列の後ろにある馬車へと向かう。

 

「そうだ……黒髪の女、貴様も来い。貴様は口は悪いがなかなか度胸がある。見た目も美しい。僕の(めかけ)にしてやろう。ありがたく思うがいい」

 

「はあ!?何言ってんの!?……ちょ、ちょっと!離しなさいよ!!」

 

千春は騎士達に取り囲まれ、馬車へと連れていかれる。

 

「ちょっと!彼女は関係ないわ!レオンハルト、彼女を解放しなさい!約束が違うわよ!」

 

モニカが叫ぶが、レオンハルトは聞く耳を持たない。千春はモニカと同じ馬車に押し込められ、レオンハルト達は城門を目指して立ち去ってしまう。

龍馬達は目の前で仲間が連れ去られるのを黙って見ていることしか出来ないのであった。

 

 

 

 

 

 

龍馬はその後カムラン一家と買い出しに行っていたグレッグに礼を言われ、ディレットのヒールで何とか回復した。

一行は仕方なく城へと引き返し、先ほどの事件をソフォスとアルバートに報告する。

 

「……なるほど。レオンハルト王子……遂にやらかしてくれたのう」

 

「陛下……申し訳ありません。私がついていれば……」

 

「アルバートよ。お前が気に病む事ではない。大丈夫じゃ。アティウスは優れた王じゃ。儂等が交渉すればすぐにでもモニカとチハルさんを返してあのドラ息子を仕置きしてくれるじゃろう。問題はそのアティウスが今国を留守にしていることじゃ」

 

アティウスは厳格な王である。しかし外交や遠征などで国外に行っている間、あのレオンハルトは父の目がないのをいいことにやりたい放題だ。

これまでもモニカにしつこく結婚を迫っては帝国へ騎士達を引き連れてやってきていたらしい。

その度に大臣やアルバートがうまく動いて何とか追い返していたそうだが。

 

「……すみません、自分が手を出したせいで」

 

「リョーマ君が謝ることはない。実際君が止めなければあの王子のせいで幼い命が奪われていた。

しかし困ったことになったな……」

 

「……アルバートさん、俺が」

 

「リョーマ君、まさかヴィヴェルタニア王国に乗り込むつもりではあるまいな?」

 

龍馬の考えは読まれていた。

 

「……リョーマ君、気持ちは分かるがやめておけ」

 

「何故ですか!?モニカだけじゃなく須崎まであいつは連れてったんですよ!?このまま黙ってろって言うんですか!?」

 

「……いいか、リョーマ君。相手は王族だ。もし君がヴィヴェルタニア王国に乗り込んでいけばどうなると思う?まず、あちらには王国最強の剣士バルガスがいる。あの男には私ですら勝てるかどうかわからない。それにもし君が失敗すればアティウスが不在の今、レオンハルトはどんな行動に出るかわからん。報復として帝国を攻撃しかねない。

しかもニホン人である君が関わった以上、我等帝国と同盟を結んでいるニホンにすら奴は危害を加えるかもしれない。

もし、戦が起きればもうアティウス王ですら止めることは出来ない。そうなれば多くの民が血を流すことになる。……君はその覚悟と責任を負うことが出来るのか?」

 

「……」

 

龍馬は反論出来なかった。悔しいがアルバートの言う通りだ。

もし龍馬が負ければ今度こそ命はない。そうなればレオンハルトは帝国に対して報復措置を取るだろう。

結果、自分のせいで多くの人間が犠牲となってしまうのだ。

 

「……リョーマ君、モニカとチハルさんのことは儂らが責任を持って何とかする。君は帰国までゆっくり休んでいなさい」

 

「陛下……」

 

一国の王にそう言われてはリョーマも引き下がるしかない。

彼は唇を噛み締めながら自室に戻った。

 

「……あら?そういえばルミナは?」

 

ディレットが見渡すが、ルミナの姿が先ほどからずっと見当たらなかった。

一体彼女はどこに行ったのだろうか?

 

 

 

 

 

その頃、レオンハルトの一団の馬車では……

 

 

 

「ごめんなさい、チハルさん。あなたまで巻き込んでしまって」

 

「気にしないでモニカ。あなたのせいじゃないわ」

 

馬車に揺られながらモニカはこんないざこざに千春を巻き込んでしまったことを深く悔やんでいた。

もっと私に力があればーーそう考えると現状を何も出来ずにレオンハルトの言いなりになるしかない自分の力量に腹が立つ。

一方馬車の外ではレオンハルトのそばで共に馬を進めるエドワードが相変わらず不安そうな声で兄に言った。

 

「兄さん……さすがにやりすぎなんじゃ……ねえ、やっぱり彼女達を……」

 

「ええい、うるさいぞエドワード!!この根性なしめ!!王族としての在り方を勉強させてやろうと思ったがやっぱりお前を連れてきたのは間違いだった!!お前には王族としての資格はない!!今日限りでお前は国から追放だ!!」

 

「そ、そんな……!!兄さん……!!」

 

「おい、こいつを馬から引きずり降ろせ!!」

 

レオンハルトが命じると騎士達はさすがに王族であるエドワードに手を出すことを躊躇うが、「どうした、早くしろ!」とレオンハルトから怒鳴られた以上、従うしかなかった。

 

「……良いのですか、王子?実の弟を」

 

「うるさい!こんな奴、もう弟じゃない!……なんだ、バルガス?お前も僕に逆らうのか?」

 

「……いえ。失礼しました」

 

バルガスは感情の読めぬ表情のままさらに馬を進める。

エドワードは騎士達に小声で「申し訳ありません、エドワード様」と涙ながらに謝罪しながら彼を馬から降ろし、一団は彼をその場に置き去りにしてしまった。

最低限の金貨と荷物だけを持たされ、平原に一人残されたエドワードはその場に座り込んで泣き出してしまった。

 

「……なんで……なんで僕がこんな目に……」

 

「だらしないわね。それでも男?」

 

嗚咽を漏らしながら泣き続けるエドワードの前に一人の少女が現れた。否、少女というよりは小人だ。エドワードの手の上に乗るくらいの大きさしかない。彼女は……ピクシーのルミナだった。

 

「……ピクシー族……?君は……?」

 

「私はルミナ。あなたの兄が傷付けたニホン人のリョーマの仲間よ。モニカとチハルがさらわれるときに馬車に潜り込んだの。そしたらあなたが国から追放だーとか言われて取り残されてたから慌てて駆け付けたの」

 

実はルミナはあの時転移魔法でこっそりとレオンハルトの一団の馬車に忍び込んでいたのである。

 

「あなた……エドワードって言ったわよね?あなたの反応を見る限り、あなたはまともそうだわ。わかってるんでしょ?あなたの兄は間違っているって」

 

「わかってるよ!だけど……僕は昔から気が弱くて……いつも兄さんがいなきゃダメなやつだった。僕だって彼女達を救いたい……!でも僕は一人じゃ何もできないヤツなんだ……」

 

エドワードは涙を流しながら膝を抱えて再びうずくまる。そんなエドワードの消極さにルミナはイライラしつつもある提案をする。

 

「……いいえ。あなたにはあなたにしか出来ないことがあるはずよ。もう追放された身でしょう?だったらとことんやってやりなさい。……ここからなら帝都はまだ近いわ。日が沈む前に辿り着けるかもしれない。帝都へ向かいましょう!」

 

「て……帝都って……一体そこで何を……?」

 

「リョーマを覚えてる?あなたの兄がタコ殴りにした私の大事な仲間よ。彼に助けを求めるの。リョーマなら多分……いいえ、彼ならきっと何とかしてくれるわ」

 

「……あのリョーマって子はそんなに頼りになるのかい?」

 

「ええ。彼は故郷でも帝国でも多くの人を助けて来たわ。そして私も私の一族もその一部。エドワード、彼に……サイトウ・リョーマに助けを求めなさい!それはあなたにしか出来ないことよ!」

 

そう言って決起を促すルミナ。エドワードは兄、そして自らの故郷である国と対峙することに未だ迷いを抱きつつも、遂に覚悟を決めた。

 

「……わかったよルミナ。彼の元に案内してくれ」

 

「……ええ、もちろん。それなら急ぎましょう。ろくに戦えない私達じゃ夜は危険よ。日が沈む前に帝都に帰らないと!」

 

ルミナはエドワードを先導し、エドワードはそれを追って走り出す。

 

 

 

国情により手を出せぬ龍馬。そして追放された王子エドワード。

両者の出会いは果たして運命を変えることが出来るのだろうか。

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