「はぁ……はぁ……」
エドワードは龍馬に助けを求めるため、街道をひたすらに走っていた。
ルミナが先を先導しつつ、既に傾きつつある日の下で必死に帝都を目指して走る。
「あっ!」
そんな時、足元の石に躓いて転んだ。
もう何回目だろう。ここに来るまでにも何度も何度も転び、白い礼装は土ぼこりで汚れ、手は擦りむき、顔も傷だらけになっていた。
転ぶ度に泣きそうになる心と自分にはやっぱり無理だ、何もかも投げ出してしまいたいという負の感情を抑えつつ、再び立ち上がって走る。
もう日没だ。早くしなければ日が沈む。
夜になれば街道にもモンスターやならず者達が出没するようになる。そうなれば戦えない自分は終わりだ。エドワードは一心不乱に走った。
日が沈んだころ、龍馬は客室のベッドに腰掛けてアルバートの言葉を思い出していた。
「"もし、戦が起きればもうアティウス王ですら止めることは出来ない。そうなれば多くの民が血を流すことになる。……君はその覚悟と責任を負うことが出来るのか?"」
「くっ……!」
ただの学生である龍馬にとって国を守る軍人としてのアルバートの言葉はあまりにも重い。
彼は騎士として戦にでるだけではなく、国民の安全を命を賭けて守らねばならぬ責務がある。
だがーーーー。
「……それでも俺はあいつを……レオンハルトを許せねえ。大事な人を笑って傷付けるようなあのゲス野郎はな……!」
龍馬は決心した。そして椅子にかけてあるいつもの赤いレザージャケットを着ると、城の中庭に停めてあるバイクを押して城をこっそりと抜け出した。
そして城を出てしばらくすると意外な人物に会ったのである。
「よう」
「やっぱりね……ハヤトの言う通りだったわ」
そこには既にバイクを持ち出して待ち構えている勇斗とディレットの姿が。
「お前ら……何で……」
そういえば中庭に二人のバイクが見当たらなかった。ただ出掛けているだろうと思っただけだが、まさか先回りされていたとは。
「龍馬、水臭いじゃねぇか。喧嘩祭りなら俺も誘えよ」
「リョーマ、一緒にモニカとチハルを助けだそう!」
二人は任せろと言わんばかりに胸を叩く。
「……俺も大概馬鹿だが、お前らはもっと大馬鹿野郎だよ。全く」
龍馬は苦笑する。この二人がいれば怖いものなどない。やはり持つべきものは仲間だ。
龍馬達はバイクに跨がり、帝都の出口を目指す。
ーーーーだが、アルバートの方が一枚上手だった。
「リョーマ君、どこへ行くつもりだ」
「夜の街道は危険だぜ?さっさと城に帰りな」
アルバートがレイラと共に帝都の門で待ち構えていたのである。
龍馬の性格を知っていたアルバートは龍馬がこっそりと帝都を抜け出すと予測してこの門に先回りをしていた。
「……アルバートさん、退いてください」
「いいや、退けないな。君のせいで国民が命の危機に晒されるかもしれないんだ。ならばそれを止めるのが我々の役目だ」
「リョーマ、あんたの気持ちはアタイにも嫌と言うほどわかる。アタイだって今すぐヴィヴェルタニア王国へ行ってあの王子をぶちのめしてやりたいさ。でもそれ以前にアタイらは騎士だ。団長の言う通り、アタイらには国の脅威から国民を守らなきゃならねえんだ。……城に帰ってくれ」
アルバートも、レイラの言っていることも至極真っ当な意見だ。それでもーー龍馬の決心は固かった。
「……アルバートさん、レイラさん。もう一度言います。そこを退いてください」
「……どうしても行くつもりか?」
「……ええ」
「そうか……ならば仕方ない」
そう言うとアルバートは驚くべき行動に出る。
彼は腰に差したロングソードを引き抜き、その切っ先を龍馬に向けたのである。
「……おい、アルバートさん……あんた、気でも狂ったか?剣を向ける相手……間違えてんじゃねぇのか?」
「それはこっちのセリフだ。君こそ帝国を危機に晒すような真似はやめてもらおう。……恩人に剣を向けたくはない……だが、君がどうしても行くというのならば……私はここで君を止める」
「……どうやら話し合いの余地はなさそうだな」
龍馬もバイクから降りてルナ・アームを装着し、アルバートと対峙する。
「龍馬!」
「リョーマ!やめて!」
「オメーらは手を出すな!頭の固いこの騎士サマに……力ずくでも退いてもらう」
「神の武器があるからと調子に乗るな。戦を経験した事が無い者に国を危険に晒す覚悟など背負えないと思え。……レイラ、お前は手を出すなよ」
アルバートがそう言うとレイラはへいへい、と言ってめんどくさそうに城門の壁に寄り掛かって傍観を決め込む。
龍馬はルナ・アームを、アルバートは剣を構え、お互いに睨み合う。
ーーーー踏み込んだのは同時だった。
「オラァッ!!」
「ふんっ!!」
籠手と剣が激しくぶつかり合い、火花を散らす。
アルバートの剣戟が龍馬を襲い、龍馬はルナ・アームで剣を弾きながらアルバートにパンチを繰り出す。
だが、アルバートの剣はさすが騎士団長というだけあって隙がない。しかし龍馬も負けてはいない。
修羅の国福岡で鍛えた喧嘩技は伊達ではない。いくらアルバートが強かろうが、この喧嘩技でねじ伏せてやる。龍馬はそう考えながらアルバートと戦う。
「でりゃあっ!!」
「遅いぞ!!」
龍馬の蹴りを剣でガードし、逆に龍馬の腹に蹴りを入れるアルバート。
「くっ……!」
龍馬は一瞬怯んだが、すぐに再びパンチを繰り出す。アルバートは素早く剣でガードするが、力を込めた龍馬のパンチは相当な威力であった。
「アルバートさん!!アンタのその剣ごとへし折ってやる!!修羅の国福岡で鍛えた喧嘩技なめんじゃねぇぞ!!」
「どうかな!!やれるものならやってみるがいい、リョーマ君!!」
両者一歩も譲らぬ戦いだ。龍馬はアルバートの剣を叩き折らんとばかりに力を込めた一撃を何度も繰り出す。
ガキン、ガキンと剣と籠手がぶつかり合う金属音が何度も辺りに響いた。
しかしそんな戦いは突然の予期せぬ来訪者によって中断させられる。
ぶつかり合った剣と籠手がつばぜり合いを続ける中、一人の少年がボロボロになりながら走ってきたのだ。
さらに少年と共にやってきたのはルミナ。これには流石の二人も驚いて戦うのを止めた。
「リョーマ!アルバートさん!やめて!」
「ルミナ!?お前どこへ行ってたんだ!?一体そいつは誰……ん?」
よく見れば見たことのある顔だ。あの時、レオンハルトの一団と一緒にいた……
「はぁ……はぁ……」
よほど急いで走ってきたのか、息は上がり、服はボロボロで顔中に転んだような傷がある。
「リョーマ、詳しいことは私から説明するわ」
「なるほどな……こいつがレオンハルトの弟の……」
ルミナから大体の事情を聞いた龍馬。
目の前にいるこのエドワードはレオンハルトの弟でその気弱な性格にしびれを切らした兄から見放され、置き去りにされたというのだ。
そして一団に忍び込んでいたルミナと出会い、彼女から龍馬に助けを求めるよう促され、帝都まで戻ってきたらしい。
「リョーマ君……君にこんなことを頼むのは厚かましいかもしれないけど……兄さんを止めてほしい……僕じゃ……僕一人だけじゃどうにもならないんだよ……うっ……うっ……」
「……おいおい、泣くなよ……ところでアルバートさん、どうするんだ?まださっきの続きをやるか?」
「……さすがにこの状況で再び剣を抜くのは野暮というものだろう。ハァ……全く、ストレスで胃が破裂しそうだ。
王子の頼みとあっては私も無下に断るわけにはいかない。
……リョーマ君、私とレイラも同行しよう。それならば王国行きを許可してもいい」
エドワード王子からの直々の願いだ。それならば多少の無茶も効くだろう。アルバートはレイラに命じて出発の準備をする。
「よし、そうと決まれば早速出発だ。勇斗、お前はアルバートさんを乗せろ!ディレット、初の2ケツ運転だ。お前はレイラさんを頼む!」
「よしきた!」
「任せて、リョーマ!」
「よし、頼んだぜ。……エドワード、お前は俺のバイクに乗れ」
龍馬は自分のバイクに跨がると困惑するエドワードに後ろに乗るよう促す。
「これ……あの時乗ってた鉄の馬だよね?」
「ああ、そうだ。バイクってんだ。こいつは馬より早い。王国だってあっという間に着けるだろうさ」
龍馬はエンジンをかけてエドワードが後ろに乗ったのを確認すると、アクセルをふかす。
ルミナは龍馬のメッセンジャーバッグに入り、アルバートとレイラもそれぞれ後ろの二人を乗せて準備万端だ。
「さあ、行くぞエドワード!振り落とされないようにしっかり掴まってろ!」
「うわわっ!?」
龍馬はアクセルを回し、バイクを発進させる。そして後の二人も続く。
満月の夜、異界の平原を三台のバイクが唸りを上げながら駆け抜けてゆく。
ヴィヴェルタニア王国へは馬なら急げば二日の距離だ。バイクならばもっと早く着けるはず。
幸いにも満月のおかげで夜道は比較的明るく、バイクでも走りやすい。
龍馬のアクセルを握る手に自然と力が入る。
とにかく急がなければ。モニカはともかく千春はあの性格だからレオンハルトを怒らせてしまうかもしれない。そうなれば彼女の命の保証はない。
龍馬は焦る気持ちを抑えつつ、アクセルを回した。
ヴィヴェルタニア王国へ行くにはまず帝都東のアルカ東街道をひたすらに突き進む。途中の別れ道を直進すればアテリ村という集落に着く。
龍馬達はアテリ村を突っ切ってその先にある森……ピャルナチの森を抜ける。
比較的整備されたピャルナチの森は規模もあまり広くなく、突っ切るのは用意だった。
森を抜けたらアレーヌ川という川の橋を渡り、さらにマルセラ街道を東へ。
東に行くとアラバト山脈へぶち当たるので山脈に沿って北へ進む。マルセラ街道を北に進んでアラバト山脈を北側から迂回してさらに東に進むと国境の砦・ガルザック砦に辿り着いた。
アルバートのおかげで龍馬達は何事もなくガルザック砦を抜けた。ここから先はいよいよヴィヴェルタニア王国領だ。
砦を抜けた先の小さな川のほとりで龍馬達は一旦休憩することにした。
アルバートとレイラが薪を集めて焚き火をし、六人で火を囲む中、アルバートが言った。
「リョーマ君。ここからはヴィヴェルタニア王国の領土だ。帝国の助けは期待できない。覚悟はいいな?」
「当たり前だぜ、アルバートさん。こちとら今すぐにでも城に乗り込んでやりたいくらいだ」
「よし、ならばいい。この先にアーディルという小さな町がある。少し休んだら出発してその町の宿屋で休もう。……疲弊した身体で勝てるほどガルム騎士団は甘くないぞ」
アルバートは焚き火の前に腰を下ろし、水の入った革袋で水分を補給する。
「"ばいく"ってすごいね。もう王国領に来ちゃったよ。君達は一体……?」
「俺達は次元の門の向こう側にある異世界の日本という国から来た。本当はこのルミナの故郷探しとついでに帝国を観光するつもりで来たんだが……行く先々でおかしなことに巻き込まれてるんだな、これが」
「異世界……それで君達は不思議な道具を色々持ってるんだね」
龍馬は水筒の水を一杯飲むとエドワードにも差し出す。
「飲むか?」
「うん、ありがとう」
エドワードは水筒のカップを龍馬から受け取り、水を飲んだ。
龍馬は立ち上がるとバイクのサイドバッグからゴソゴソと何かを取り出す。
「みんな、腹減ってねえか?」
龍馬が取り出したのはカップ麺だ。龍一郎が非常用にと車に積んでいたのを拝借してきたのだ。多めに持っていたが丁度六人分ある。……全部とんこつなのは福岡県民ならではだろうか。
蓋を開けるとカチカチに固まった麺のようなものと具のようなものが入っていることにエドワードは首をかしげた。
だが同じ龍馬達にとって異世界の人間であるはずのアルバートやレイラは特に驚いた様子もない。
「リョーマ……これ……食べるの?」
「ああ。ただしお湯を入れて、だがな」
ガスバーナーとクッカーも父の荷物からくすねてきた。いきなり火が付いたことでエドワードが驚く。
大きめのクッカーで二回に分けて湯を沸かし、カップ麺に湯を注いで三分待つ。
するとカチカチに固まっていた麺が柔らかくなり、濃厚な香りのするスープのいい香りが辺りに漂う。
「お湯を入れるだけで暖かいスープの入った麺料理になるなんて不思議な食べ物だね」
「俺らの世界じゃどこにでも売ってるもんだけどな。……ごめん、箸しかないや。アルバートさんとレイラさんは大丈夫だったよな?」
「ああ、外交でニホンに行っているうちに慣れた」
「アタイも普通に使えるぜ」
「となると問題は……エドワードか」
龍馬はとりあえず割り箸をエドワードに渡したが、箸を初めて見るエドワードは当たり前だが困惑している。
龍馬が使い方を教え、エドワードは人生初の箸とカップ麺を体験する。
慣れない手つきで何とか麺とスープを口にすると、味わったことのない濃厚な味わいが口に広がり、疲れた身体に染み渡るようだ。
「ふぅ……」
思わず汗が出てきて袖で額を拭う。
アルバート達はというと慣れた手つきでカップ麺を食べている。
エドワードはおそるおそるその理由を訪ねてみた。
「あ……あの……アルバートさんとレイラさんはどうしてそんなに慣れているんですか?」
「私か?私は外交でニホンに行くことも多いからな。すぐに向こうの作法も覚えたのだ」
「アタイはリョーマの故郷に遊びに行った時に覚えたぜ。あ、団長も一緒だったな」
アルバートとレイラの二人はソフォス皇帝と一緒に龍馬の自宅を訪れたことがある。
思えばあれは6月の中旬頃の話だった。
もうなんだか凄く昔のことのように感じるが、実際はまだ1ヶ月強しか経っていない。そう感じるのはこの1ヶ月で事が目まぐるしく動きすぎたせいなのだろうか。
「異界の国ニホンか……噂には聞いていたけど、すごく文明の進んだ国なんだね」
「エドワード、お前もこの騒動が片付いたら遊びに来いよ。カップ麺より美味いラーメンを食わせてやるぜ。ディレットのバイト先の食堂のラーメン、うめえんだぜ!」
早くもカップ麺を食べ終えた勇斗が口を拭いつつ、エドワードに話しかける。
「彼女の……バイト先?」
エドワードがディレットをチラリと見ると彼女はルミナは二人でカップ麺を分けあって食べていた。
「フクマルっていう食堂なんだけど、おばさんの作るラーメンは美味しいんだよ!エドワードにも食べてほしいな」
ディレットはエドワードに向かい、ニコリと微笑む。その顔が可愛くてエドワードは頬を赤く染め、ぎこちなく返事しながら目をそらした。
龍馬達は食事と束の間の休息を終えると焚き火でゴミをしっかり燃やしてから火を消し、アーディルの町を目指して再びバイクを走らせた。
夜更けに着いた宿は一階が酒場になっており、まだ酒を飲んでいる町民や傭兵達がいた。
龍馬達はその際に彼等の会話に聞き耳を立てる。
「……ったくよぉ。レオンハルトとかいう王子のせいでひでぇ目に会ったぜ。何だか知らねえが俺の鎧が気に入らないとかで騎士団をけしかけやがって……」
「一体何があったんだ?」
「帝国から帰ってきた王子の一団に出くわしたんだよ。そしたらあのガキ、"薄汚い鎧を付けた愚民風情が!"なーんて言いやがって騎士団をけしかけて俺の鎧を無理矢理脱がせて目の前で叩き壊しやがったんだ。そりゃ確かに汚い鎧だけどよ……俺の仕事道具だぜ?勘弁してほしいよな。
俺も命は惜しいから大人しくしてたけどよ」
「お前さん傭兵だろ?悪い時期に来ちまったな。父親のアティウス王が外交でいない今、レオンハルトはやりたい放題さ。
とにかく早めに帝国にでも行った方がいいぞ。奴にあんまり関わったら鎧だけじゃ済まないかもしれないからな」
「ああ、そうするよ。全く、ついてない一日だったぜ……」
どうやらレオンハルトは自国でも嫌われ者らしい。あのような人格破綻者なら当然だろうが。
しかしどうやらレオンハルトの一団はかなり急いで城に戻っているそうだ。バイクでも追い付けなかったのはそれが原因か。
エドワードによると「モニカとの結婚式を急いでいるのではないか」とのこと。それならば尚更急がねばならないが、アルバートの言う通り休息も必要だ。
あの"鬼神のバルガス"はかなりの強さだ。しっかりコンディションを整えなければ前に立つことすらかなわない。
宿屋の一室に集まった龍馬達はエドワードからの提案を受ける。王城への侵入ルートだ。
「王城の北西には川を挟んで森と丘がある。王都の入口を左に迂回して森に入ったら森に"ばいく"を隠して徒歩で侵入しましょう」
「侵入出来るような場所があるのか?」
「ええ。ここを見てください」
エドワードは自分が書いた簡易的な王都の見取り図の北西にある川を指差した。
「この川のそばには古い地下水道があって、その地下水道は城の地下の牢獄に繋がってます。そこからなら城に入れる」
エドワードは言った。もし運が良ければそこにモニカと千春が囚われているはずだと。
「ただしモニカさんは妻、チハルさんは妾と言ってましたからそれなりに丁重には扱うはずです。兄が彼女達を牢屋に入れるという選択肢はかなり低い」
「……どっちにしてもレオンハルトの奴をぶちのめさねぇと俺は気が済まねぇ」
「ああ、俺もだ龍馬。福岡の喧嘩屋の恐ろしさをあのボンボンに思い知らせてやろうぜ」
龍馬と勇斗は拳を鳴らし、意気込みを露にする。
「……ただ、脅威はバルガスだけじゃない。バルガスは確かに強い。しかし彼が束ねるガルム騎士団の隊長達もかなりの強さを誇ります。まず第四部隊隊長のアーヴィング。第三部隊隊長のゴドム。第二部隊隊長のオフィーリア。彼等はバルガスと合わせて"四騎士"と呼ばれ、"四騎士なくしてヴィヴェルタニアなし"と周囲に言わしめるほどの実力者です」
第四部隊隊長のアーヴィングは槍を得意とする騎士でガルム騎士団の最年少だ。しかしそのあまりに素早い槍さばきから通称"神速のアーヴィング"と呼ばれる。
次に第三部隊隊長のゴドム。バルガスよりも大きな体躯を誇る騎士でかつては異国のグラディエーターであり、"鋼のゴドム"の異名を持つほど頑丈な身体とそれに見合った怪力を持つ豪傑だそうだ。
その次が四騎士の紅一点、"紅蓮のオフィーリア"。
弓と火炎の魔法を駆使する美しい女騎士でその戦いには芸術すら感じさせるほど激しく、そして美しいという。
そしてその猛者達を束ねるのが、ヴィヴェルタニア王国最強の剣士にしてガルム騎士団団長を務める"鬼神のバルガス"である。
騎士団と同じ名を冠する大剣"ガルム"を軽々と振り回し、王家に仇なすあらゆる者を切り裂くこの剣で彼は幾多の戦いを勝ち抜いてきたのだ。
戦場を駆けるその姿は紛うことなき"鬼神"そのものであり、並の兵士ならば彼の姿を見ただけで裸足で逃げ出すという。
「おそらく彼等との戦いは避けては通れません。……皆さん、しっかり準備をしてください」
「……うむ」
「へへ。久々にアタイの槍が唸るぜ」
アルバートとレイラはしっかりと武器の手入れをし、龍馬達はすぐに眠りについた。
一方、ここはヴィヴェルタニア王城。
王城の中庭でバルガスは四騎士を召集していた。
「団長。一体何の用で?」
「今は訓練の途中なんだぜ、バルガスの旦那。一体どうしたってんだ?」
「団長が緊急召集かけるなんて、穏やかな話ではないですね。一体どうしたのです?」
赤黒い鎧を着た赤紫色の髪の女騎士は"紅蓮のオフィーリア"、髪を全て剃り落としている褐色の巨漢は"鋼のゴドム"、青い長髪の若者は"神速のアーヴィング"だ。ヴィヴェルタニア王国最強の四騎士達である。
「……お前達、戦いの準備をしておけ」
「はあ?旦那、何言ってんだ?」
「おそらく今日か明日……この城に侵入者が現れるだろう。数まではわからぬが」
「……団長。まさかモニカ嬢の?」
「察しがいいな、オフィーリア。そうだ、恐らく帝国の、いや、モニカ皇女と交友関係にある異世界の小僧が必ずここに来るはずだ」
「ハッ!ガキなんぞにそこまで警戒するなんて団長もヤキが回ったか?」
バルガスの言葉に呆れたゴドムはめんどくさそうにそう言い放った。
「ゴドム……奴を侮るな。奴は神より授かった武器を振るい、異界の鉄の馬を乗りこなす。私は帝国で奴を負かしたが、あの時の奴の目は……勝利を諦めた者の目ではない。奴はモニカ皇女と友人のあのチハルという少女を取り戻すために必ずここへとやって来るだろう」
バルガスは確信していた。あのリョーマと呼ばれている異界人は必ずここに来ると。
あの時の奴の目ーーーー最後まで怒りに燃える者の目だった。
きっと奴はこの城までモニカと友人のニホン人を取り戻しに来るはずだ。
「団長がそう言うのなら間違いはないでしょうね。僕は迎撃の準備をしておきましょう」
「ハァ~ァ、かったりいな。ま、来たら来たでこのゴドム様が捻り潰してやるよ」
アーヴィングとゴドムはそう言いながら各々の場所へと戻っていく。
「オフィーリア。お前は四騎士の中で最も信頼出来る。……城の警備とレオンハルト王子の警護を強化するように他の騎士達と兵士達に伝えろ」
「……了解しました、団長」
「頼んだぞ、オフィーリアよ。…………さて、異界の小僧よ。どう出る……?」
オフィーリアが去ったのを確認したバルガスは空を見上げ、呟いた。
決戦の時は、近い。
・王国への旅の道中イメージBGM……
『クシナダを乗せて』
『Moon Over the Castle』
(『大神』、『グランツーリスモ』より)