アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第49話 鬼と龍

玉座の間に辿り着いた龍馬達。仲間達から託された思い、それに応えるように龍馬はアルバートやエドワードと共にここまでたどり着き、遂にレオンハルトを追い詰めたのだ。

 

 

ーーーーだが、そんな龍馬の前に最大の敵が立ち塞がる。

 

「来たか、異界の小僧。そしてアルカ帝国の騎士よ」

 

玉座へ伸びる赤い絨毯の真ん中に佇んでいた漆黒の騎士がマントを翻してこちらを向いた。その手に巨大な剣・ガルムを携えて。

 

「バルガス……!!」

 

バルガス・ディアガルド。王国最強と言われる剣士。ガルム騎士団を率いる隻眼の男。

その鋭い眼光と威圧感、そして凄まじいまでの殺気。部屋全体の空気が重く感じる。まるでその場にいるだけで周囲のものを切り裂いてしまいそうなそのオーラに龍馬もアルバートも思わず額に汗を浮かべる。

 

「レオンハルト王子に手は出させぬ。ここで貴様ら全員、叩き斬ってくれようぞ」

 

「兄さん!!バルガス!!もうやめてよ!!」

 

エドワードが叫ぶ。だがバルガスは顔色ひとつ変えず、レオンハルトもニヤニヤと見下した笑みを浮かべている。まるで実の弟すらくだらない存在だとでも言いたげに。

 

「おや?泣き虫のエドワードじゃないか。大方帝国とそこの異界の男に泣き付いて助けを求めたのだろう。そのまま逃げていれば追放だけで済んだものを……貴様は賊を城に入れる手引きをした。よって貴様を王国への反逆罪とみなす。バルガス!エドワードも斬り捨ててしまえ!」

 

レオンハルトのその言葉にバルガスがピクリと反応する。だが彼は返事をしない。辺りに重い沈黙が流れる。

 

「どうした、バルガス!主の言うことが聞けないのか!?」

 

「……承知」

 

「兄さん!!」

 

その言葉を聞いた龍馬は怒りを露にし、近くにあった柱を思い切り殴り付けた。柱が大きく陥没し、破片がパラパラと下に転がり落ちる。

 

「てめえぇぇぇっ!!!!レオンハルトぉぉぉぉっ!!!!このクソッタレのゲス野郎がぁぁぁ!!!!実の弟すら手にかけようってのかぁぁぁぁ!!!!」

 

龍馬の怒りの声が玉座の間に響き渡る。

もはや問答は無用だ。実の弟を、しかも自分の部下に殺させようとするなど正気の沙汰ではあるまい。

 

 

……この男には、情けも容赦も必要ない。

 

 

 

「レオンハルトぉぉぉぉ!!!!テメーの精神はウジの湧いた生ゴミ以下に腐りきってやがるぜこのクソ野郎がぁぁぁぁ!!!!」

 

怒りを拳に込め、龍馬は大きく叫ぶ。今にも飛び掛かってきそうな龍馬の気迫に怯むレオンハルト。

 

「ふ、ふん!そうやって強がってられるのも今のうちだ!……バルガス!あとは任せたぞ!」

 

「……」

 

レオンハルトはそう言うと玉座を降り、脇にある通路へと姿を消す。

 

「……小僧、友人を助けたいか?王子と貴様の友人はあの通路の先にある塔の最上階にいる。先に進みたくば……私を倒すしかないぞ」

 

バルガスは背後にある通路を指差した。あの先に、モニカと千春がいる。そしてレオンハルトもそこに向かった。

 

 

もはや戦いは避けられない。遂にヴィヴェルタニア最強の剣士、バルガス・ディアガルドとの直接対決の時が来たのだ。

一度は遅れを取った龍馬だが、もう二度とあのようなヘマはしない。持てる力の全てを駆使して、この男を倒すのだと決意する。

 

「……上等だよ。……エドワード、お前は下がってろ」

 

龍馬の言葉にエドワードは頷き、部屋の隅へと退避する。そして龍馬はルナ・アームを、アルバートは剣を構えた。

 

「……リョーマ君。気を抜くな。奴は相当強い。私達二人がかりでも勝てるかどうか危ういぞ」

 

「……ああ。わかってるよアルバートさん。だけど……もう後戻りは出来ねえんだ。そして俺のために身体張ってくれたあいつらのためにも……俺は負けるわけにはいかねぇんだよ!」

 

そうだ。仲間達は自分の勝利を信じて、自分のために道を切り開いてくれた。そんな仲間達の信頼を裏切るわけにはいかない。

二人が武器を構えると、バルガスは背中から愛剣・ガルムを引き抜き、横に一振りする。

 

「むぅんっ!!」

 

「ぐっ!!」

 

「うっ!!」

 

剣から発せられた凄まじい風圧と剣圧が二人の身体を襲い吹き飛ばそうとするが、二人はなんとか耐える。

バルガスは一振りした愛剣・ガルムを両手で構え、龍馬達を見据えた。

恐ろしいまでの怪力、そして尋常ではない殺気と眼光。並みの兵士なら武器を捨てて逃げ出してしまうだろう。だが、龍馬達にはどれほどの恐れがあろうとも決して退くわけにはいかないのだ。モニカと千春を助けるため、あの憎きレオンハルトを成敗するため、そして何より仲間達のために。

 

「来るがいい!!異界の小僧!!そしてアルカ帝国の騎士よ!!我が名はバルガス・ディアガルド!!ヴィヴェルタニア王家の剣となり、盾となる者!!王家に仇なす全てを断ち切る我が太刀筋、その身を持って味わうがいい!!」

 

「望むところだ!!今度は負けねえぞ、バルガス!!おりゃあぁぁぁぁぁ!!」

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

二人は一斉にバルガスに襲い掛かる。遂に戦いの火蓋が切って落とされた。

龍馬のルナ・アームを装着した無数の拳のラッシュとアルバートの剣が同時にバルガスを攻撃する。だがバルガスは巨大な剣を巧みに操り、二人の攻撃をいとも簡単に受け流していく。

 

「甘い!!」

 

「!?ぐわっ!!」

 

龍馬が一瞬の隙を突かれ、龍馬が吹き飛ばされる。彼は数メートル先の柱に叩き付けられ、地面に落下した。

 

「ぐうっ……!」

 

「リョーマ君!!……ぐわっ!?」

 

吹き飛ばされた龍馬に視線を一瞬そらした瞬間、アルバートも吹き飛ばされ、壁に叩き付けられた。

 

「戦場で敵から目を反らすとは笑止千万!貴様らのような奴に我が相手は務まらぬわ!!」

 

大剣を構えたバルガスがゆっくりと迫り来る。

アルバートは素早く立ち上がり、遂にルーン魔法を使用した。

 

「ぬおおおおっ!!」

 

「むっ!?」

 

目にも止まらぬ速さで迫り来るアルバートと素早い剣擊。レイラと同じ"速さの加護"のルーンだ。剣と剣がぶつかり合う金属音が響き、火花が飛び散る。

 

「なるほど……ルーンか。そういえばアルカ帝国の騎士団はルーンを装備していると聞いた。だが!!」

 

バルガスは身の丈ほどもある愛剣ガルムをまるで重さすら感じていないかのような恐ろしいまでの剣捌きでルーンで速度を上げたアルバートの剣すら受け流す。

 

「な……!?馬鹿な!?」

 

「我が太刀筋はルーンをも凌駕する!!そのような小細工は私には通じぬ!!」

 

直後、アルバートの正面に僅かな隙をついて大剣の斬擊が迫る。アルバートは慌てて防御するがバルガスのパワーを受け止めるには体勢が悪すぎた。衝撃に耐えきれず、再び吹き飛ばされるアルバート。

 

「んの野郎ぉぉぉぉ!!」

 

起き上がった龍馬が再度バルガスに拳のラッシュを仕掛ける。大剣と籠手が火花を散らし、辺りに金属のぶつかり合う音が派手に響いた。

 

「この……クソがぁぁぁ!!」

 

渾身の右ストレートを繰り出す龍馬。バルガスはそれを剣で受け止め、剣と籠手がせめぎ合う状態になる。

龍馬はバルガスの剣に拳を当てたまま、力を込めながら彼を睨み付けて言い放った。

 

「てめえぇ……バルガス……!そんだけクソ真面目なくせに、何でレオンハルトなんかに従ってやがる……!!」

 

「貴様には関係の無いことだ。私は自分が着いていくと決めた主に従うまで。それがどんな命令であってもだ…………むぅん!」

 

バルガスが龍馬を弾き飛ばし、龍馬は後ろに大きく後ずさる形になる。龍馬は態勢を立て直すと彼の言葉に苦笑し、バルガスを鼻で笑い飛ばした。

 

「……ハッ!じゃあテメーはレオンハルトが死ねっつったら死ぬのか?」

 

「それが主の望みであればな」

 

「とんだサイコ野郎だぜ。結局テメーは自分一人じゃ決断もできねー腰抜け野郎ってことだ」

 

「……なに?」

 

今までどのような言葉にも全く動じなかったバルガスだが龍馬のその一言に彼の眉がピクリと動き、僅かではあるが動揺が見て取れた。

 

「いいか、バルガス。テメーがレオンハルトにどんな恩があるのかは知らねえ。だがテメーはあのバカ王子に依存しすぎてんだよ。そのせいでテメーには"自分が無い"。自分で何かを決断すんのを恐れてんだ。結果としてテメーはあの大バカ野郎のレオンハルトの都合のいいように動くただの駒なんだよ。普通、主が誤った道に進もうとしたならそれを咎めたり、正したりするのも臣下の仕事じゃねーのか、ああ!?」

 

龍馬から見ればバルガスはいくら強くともレオンハルトのような人間の言うことに何も言わずただ従うだけの都合のいい駒にしか見えなかったのだ。

臣下とは時に主を諌めるもの。それが出来ない次点でバルガスなどたかが知れているというのが龍馬の意見であった。

龍馬のその言葉に一切の感情を見せなかったバルガスの様子が一変する。拳をわなわなと震わせ、歯軋りをすると剣を強く握り締めて龍馬に襲い掛かる。

 

「知ったような口を聞くな!!……貴様ごときに……貴様ごときに我が主の何がわかる!!!!」

 

龍馬の言葉に激昂したバルガスは目にも止まらぬ速さで剣を一振りし、防御をした龍馬を弾き飛ばした。そのまま再び柱に叩き付けられる龍馬。

 

「ぐあっ!!」

 

「私は主に!!レオンハルト王子に命を救われたのだ!!そして私は王子に忠誠を誓った!!ならば!その主が如何なる命令をしようと従うのが我が定め!!何者であろうと主の侮辱は許さぬ!!」

 

柱にもたれ掛かり、力なく座り込む龍馬にバルガスは剣を構えて近づく。……頭がクラクラとして意識が朦朧とする。全身を二度も強く打ったせいか、拳に力が入らず、身体が上手く動かない。

 

「小僧。ここまで来れたことは褒めてやる。だが、これまでだ。我が主を侮辱したその罪は重い。我が剣の錆となれ!異界の小僧よ!」

 

「くっ……!」

 

バルガスが大きく剣を振り上げる。

ーーーーこれまでか。龍馬は自らの死を悟った。

友人も助けられず、レオンハルトに一矢報いることすら出来なかった。そんな力の無い自分が悔しかった。

何が"博多の怒龍"だ。結局自分もちょっと喧嘩が出来るくらいのただの学生なのだ。死の間際においてそんなふてくされた感情すら浮かんできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

そんな龍馬の耳に誰かの雄叫びが聞こえてくる。声の主は……アルバートだ!

 

「喰らえ!"業火"!!」

 

アルバートが"業火"のルーンを発動し、炎を纏ってバルガスに突進する。バルガスはたまらず防御するが、剣擊と炎のコンビネーションがバルガスを襲い、隙を見せない。

だがこのルーンは強力な力を持つ代わりに使用者への負担も激しい。段々とアルバートの動きが鈍り始める。そしてーーーー

 

「ぬぅん!!」

 

「ぐわあぁっ!!」

 

 

 

 

 

 

バルガスの縦一閃の斬擊がーーーーアルバートの胴を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

アルバートは血を噴き出しながらその場に仰向けに倒れてしまう。

 

「あっ……アルバートさあぁぁぁん!!!!」

 

目の前で大きく血を流しながら倒れるアルバートを見て龍馬は身体の痛みすらも忘れ、倒れたアルバートに駆け寄り、彼の上半身を抱え起こす。

 

「……アルバートさん……!アルバートさん、しっかりしてください……!!」

 

「す、すまない……リョーマ君……しくじってしまった……ぐふっ!」

 

アルバートは吐血し、胴からは大きく出血している。呼吸が安定していない。このままでは危険だ。

 

「りょ、リョーマ君……諦めるな……君なら……きっと……バルガスに勝てる……」

 

「……え!?」

 

「君がさっき彼に言い放ったことだ……君には……バルガスとは違う……強い意志がある……そして自分や誰かのために決断できる勇気がある……そんな君ならば……きっと奴に勝てるはずだ……がはっ!」

 

再び血を吐き出すアルバート。彼の血が龍馬の手や衣服を赤く染めた。

尋常ではない出血。アルバートの生暖かい血で染まった自らの両手を見て龍馬は身体を震わせた。

 

「あ……あ……あああ……!!」

 

自分のせいだ。自分のせいでアルバートは命の危険に晒されている。

龍馬は目の前で命が失われようとしている恐怖心で泣きそうになりながら帝都を出発する前に自分を止めようと立ち塞がったアルバートの言葉を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もし、戦が起きればもうアティウス王ですら止めることは出来ない。そうなれば多くの民が血を流すことになる。……君はその覚悟と責任を負うことが出来るのか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

「ううっ……クソッ……俺が……俺があなたの忠告を聞かなかったばっかりに……!」

 

龍馬は悔し涙を流しながら己の軽率な行動を呪った。

自分が、アルバートの言うことを聞いていれば。こうはならずに済んだかもしれない。誰かの命を危険に晒すとはこういうことなのだと龍馬はようやくあの時のアルバートの言葉を理解した。

多くの死を目の当たりにし、誰かを守るために危険と戦うアルバートだからこそ言えるその言葉。龍馬は気付くのがあまりにも遅すぎたと後悔するしかなかった。

しかしアルバートは倒れた自分に寄り添う龍馬の手を弱々しくもしっかりと握ると朦朧とする意識の中、彼に向けて再び言葉を発する。

 

「はあ……はあ……りょ、リョーマ君……恐れるな……!立ち止まるな……!君ならバルガスにきっと勝てると私は信じている……!だからこそ……君の仲間達も……君に想いを託したんだ……!彼等の想いを……無駄に……するな……!姫様達を……頼んだぞ……"ハカタの怒龍"よ……!はあ……はあ……がはっ……!」

 

「アルバートさん!もう喋らないでください!傷が……!はっ、そうだ……!」

 

再び吐血するアルバート。龍馬はその時カムラン一家に貰ったブルーポーションを思い出し、それを半分アルバートの傷にかけ、半分は飲ませた。

すると出血は収まり、ある程度は落ち着いた。だがただちに手当てをしなければ危険な状態なのは間違いない。

アルバートが自らの身を賭して作ってくれたチャンス。これを無駄にするわけにはいかない。

いや、アルバートだけではない。レイラも、勇斗も、ディレットも、ルミナも、エドワードも、皆が自分を信じてくれている。

 

 

 

 

このチャンスは、仲間達がくれたものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ならばーーーー自分も応えなければなるまい。

仲間達のために!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

龍馬はゆっくりと立ち上がると、もうひとつのブルーポーションを飲み干し、そして瓶を握り潰した。

 

「……話は終わったか?小僧。別れの会話くらいのチャンスは与えてやったぞ」

 

「……ああ。……エドワード、アルバートさんを安全なところに」

 

「えっ!?う、うん、わかったよ!」

 

後ろに避難していたエドワードが駆け寄り、ぐったりとしているアルバートを部屋の隅に連れていく。

 

そしてーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"龍"が再び目覚める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

龍馬は天空に舞う龍が咆哮を上げるかのように、雄叫びを上げた。

 

 

 

許さぬ。決して許さぬ。許してなるものか。

弱者を踏みつけ、いたぶる悪党を。忠誠を盾にしてそれに付き従う目の前の愚か者も。

 

 

 

逆鱗に触れられた龍は怒りの声を、天をも裂かん勢いで大きく叫んだ。

もはや龍馬の心に迷いはない。王国最強の剣士?鬼神?ーーーー上等だ。かかってきやがれ、クソッタレが!

 

 

 

 

 

「バルガスぅぅぅぅ!!!!」

 

「……ほう。まだやるのか?もはや帝国の騎士も倒れた。残るはお前だけ。貴様一人で何ができ……」

 

「うるせえええええぇぇぇぇぇ!!!!」

 

バルガスの言葉を遮って龍馬はさらに叫び、ルナ・アームに力を込めた。するとルナ・アームの籠手が彼に応えるように輝きを増し、彼に力を与える。

 

「バルガス……テメーは……テメーだけは許さねぇ!!絶対にぶちのめしてやる!!」

 

「……なるほど。顔付きが変わったな。認めよう、小僧。貴様は真の戦士のようだ。ならば、私も全力を持って相手をせねばなるまい。……小僧、名を聞いておこう」

 

「龍馬!斎藤龍馬だ!覚えとけ!」

 

「……リョーマか。……ふふ、リョーマよ。私は久しく強者に出会っていなかった……そして貴様も……雑兵に過ぎぬ小僧だと侮っていた。だが、今のお前の目には迷いや恐怖はない。あるのはただ、闘志だけ。リョーマよ、覚悟はいいな?」

 

バルガスはこの状況において久々に心を躍らせていた。騎士という立場上、如何なる脅威も排除することが彼の務め。しかし彼は生まれついての戦士であった。

戦士ならば強者との出会いに心を震わせるもの。そしてその好敵手が目の前にいる。バルガスは笑みすら溢していた。

 

「……当たり前だろうが。余裕ぶっこいて後悔するんじゃねぇぞ、バルガス!」

 

「後悔だと?ふっ、それはこちらのセリフだ」

 

龍馬はルナ・アームを構え、バルガスが剣を構える。

 

「行くぞ!!バルガスぅ!!!!」

 

「来い!!リョーマぁ!!!!」

 

玉座の間に設置された燭台の炎が、一瞬の揺らめきを見せる。

その瞬間、同時に踏み出した二人の武器がぶつかり合い、激しい火花と衝撃波を起こした。

 

 

 

果たして、勝つのは"鬼神"と恐れられた男か、それとも"龍"と呼ばれた男か。

 

 

 

 

今、真の戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

「でりゃああああぁぁぁ!!!!」

 

「ぬうっ!?」

 

龍馬の猛烈なパンチがバルガスを襲う。

バルガスは剣でガードするが、もはや龍馬には相手の防御も攻撃も関係ない。

 

 

 

立ちはだかるものは、何であろうと全てこの拳で叩き潰すのみ。剣があれば剣を砕き、鎧があれば鎧を砕く。攻撃は最大の防御なり。それを上回る攻撃はーーーー最大の攻撃なり!

 

 

 

「オラオラオラオラオラアァァァァッ!!!!」

 

「ぐっ!!なに!?」

 

バルガスに一瞬の攻撃も許さぬ拳の連打。

これにはさすがのバルガスも驚きを隠せなかった。一度は戦いを諦めたはずの少年。そんな彼にまだこんな力が残っていようとは。

 

「ぶっ飛びやがれ!!!!」

 

龍馬は渾身の右ストレートをバルガスの剣に叩き込んだ。巨岩が激突したかのような衝撃。バルガスの手に剣を伝わってビリビリとした振動と衝撃が伝わり、バルガスは吹き飛ばされた。

 

「ぐはっ!!……な、バカな!?」

 

「どこ見てんだコラァァァァ!!!!」

 

「ぐほあっ!?」

 

一瞬で間を詰めた龍馬の拳がバルガスの顔面にクリーンヒットする。彼の歯が一本抜け、血とともに吹き飛ぶ。しかしバルガスは鎧を付けているにも関わらず空中で軽々と身を翻して龍馬から距離を取る。

 

「く……!おのれ……!むぅん!」

 

バルガスは柱に近付くと如何なる物をも断ち切るその愛剣ガルムで柱を切断し、それを蹴飛ばして龍馬に向かって倒した。

 

「んなもんが効くかボケナスがぁ!!」

 

龍馬は力を込めたアッパーカットで倒れてきた柱を粉々に叩き割る。だがこの"柱"はバルガスの"隠れ蓑"に過ぎなかった。

柱を破壊した瞬間、粉々になった柱の向こうからバルガスが跳躍して龍馬に真っ直ぐ剣を振り下ろしてきていたのだ。

 

「なにっ!?」

 

「喰らえぇ!!」

 

バルガスの斬擊。しかし身体を翻して寸前でそれを回避する龍馬。

さらにローリングで距離を取り、振り返り様に彼はルナ・アームに宿る聖霊バレンの炎を宿す。

 

「喰らいやがれ!!火えん……なっ!?」

 

振り返った瞬間、火炎弾を発しようとした左手が"飛来した何か"に弾かれる。

その正体は……ボルト(クロスボウの矢)だ。バルガスが片手にクロスボウを構えてこちらを向いていた。

 

「やはりまだ隠し玉を持っていたか。抜け目のない奴だ」

 

「……チッ!」

 

龍馬は燃え盛る両手を構えたまま、バルガスはクロスボウを向けたま互いにゆっくりと円を描くように向かい合って移動する。

先に放ったのはバルガスだ。特注で作らせた連射式クロスボウのボルトが龍馬を襲う。龍馬はボルトの雨を避けて火炎弾を放った。

 

「ぬうっ!?」

 

バルガスは火炎弾を回避したが、マントが火炎弾を掠め、燃えてしまう。だがそんなことを気にしている暇はない。

次の瞬間、バルガスはクロスボウをいきなり上空に投げた。龍馬の視線は頭上を舞うクロスボウに引き付けられ、その一瞬の隙にバルガスの激しい突進突きが龍馬に襲い掛かり、龍馬は咄嗟にそれをかわす。

そしてバルガスはそのまま突進し、落ちてきたクロスボウを掴むとすぐに振り向き、龍馬に向けてボルトを放つ。龍馬も振り返り様に火炎弾を放った。

 

「くっ!」

 

「ぐうっ!」

 

龍馬はルナ・アームでボルトを弾き、バルガスは剣で火炎弾を弾く。

この時バルガスのクロスボウのボルトは既に切れていた。バルガスは何かを考えるようにボルトの切れたクロスボウをじっと見つめたのちに背後に投げ捨てる。

 

「流石だ、リョーマよ。このような物を使ったのは少々無粋だったな」

 

「……いいや。こっちもおあいこだよ」

 

「そうか……ならば正々堂々、決着をつけるか。リョーマ……!」

 

「望むところだ……!」

 

龍馬はバレンの炎を解除し、通常モードに戻り、クロスボウを捨てたバルガスも両手で再び剣を構えた。一瞬とも、永遠とも呼べる睨み合いののち、二人は叫ぶ。

 

「行くぞ!」

 

「来やがれ!」

 

再び激突する剣と籠手。玉座の間に何度も何度も、激しい金属音が響き渡る。

両者一歩も譲らぬ死闘。そのあまりに凄まじい戦いに部屋の隅で見ていたエドワードも思わず息を飲む。

 

「(な……なんて凄い戦いなんだ……!あのバルガスと対等に渡り合っている……!)」

 

"鬼神"と呼ばれる、王国最強の剣士・バルガス。その名を聞いただけで大抵の者は震え上がり、逃げ出し、無謀にも彼に挑んだ者は全て物言わぬ屍になっているのが当たり前だった。

そんなバルガスという男を前に自分とそう変わらないであろう年の少年が一歩も引かず、互角の戦いを繰り広げているという目の前の光景にエドワードは身動きひとつ取れなかった。バルガスの剣と龍馬の籠手がぶつかり合うたびに空気が大きく揺れているような感覚さえ感じる。

 

「うらあぁぁぁぁ!!」

 

「うおぉぉぉぉぉ!!」

 

ぶつかり合った二つの武器が再びせめぎ合いを繰り広げる。龍馬はここで決着をつけるべく、全力で攻撃を繰り出した。

ガキン、ガキンと響く金属音。そしてバルガスは"ある異常"に気付く。

 

「っ……!?剣が……!?」

 

なんと愛剣ガルムの刀身にヒビが入り始めているのだ。如何なる攻撃にもびくともしないはずの、バルガスの愛剣が。

 

「ま、まずい……!!このままでは……!!」

 

「どぉらあぁああぁぁぁぁ!!!!」

 

龍馬の渾身の右ストレートが再び炸裂し、ガルムに直撃する。

その瞬間、バルガスの愛剣ガルムの刀身全てに大きなヒビが走り、そしてーーーー砕けた。

 

「ばっ、バカな!?我が愛剣が……まさか……!!」

 

「くたばれえぇぇぇ!!!!」

 

次の瞬間、跳躍した龍馬の必殺のニーキックがバルガスの顔面に炸裂し、バルガスの鎧を纏った身体が宙を舞った。

 

「ぐはぁぁっ……!!」

 

口や鼻から出血しながらバルガスは地響きを上げて床に身体を打ちつけ、倒れた。

……やった。ついにやったのだ。龍馬は勝利を確信した。

 

「はぁ……はぁ……どうだバルガス!!参ったかこのヤロー!!」

 

龍馬はガッツポーズをして拳を高々と掲げる。剣は砕き、あのバルガスを地に伏せたのだ。

 

が、しかし……

 

「……ぐ……ぐぬぬ……まだだ……!」

 

バルガスは剣を失ってなお立ち上がり、龍馬を睨み付ける。

 

「私は……!負けるわけには……いかぬ!たとえ我が剣が砕かれようと……!たとえこの身が砕かれようと……!私は誇り高きヴィヴェルタニア王国の騎士!王家の剣となり、盾となる者!負けるわけにはいかんのだあぁぁ!!!!」

 

……何という忠誠心。何という揺らがぬ闘志。

それがバルガス・ディアガルドという男なのだ。

次の瞬間、バルガスは信じられない行動に出た。何と鎧を外し始めたのだ。ガシャガシャと鎧が下に落ち、幾多の戦場を駆けた証拠である生々しい傷と共に上半身が露になる。

 

「……もはや私に残された武器はこの肉体のみ。ならば!如何なる最期になろうとこの身体のみでお前と戦おうリョーマ!!それが忠誠を誓った我が主……そしてリョーマ!!お前に対する礼儀!!リョーマ、来るがよい!!」

 

「……何てガッツだ。呆れた根性だぜ。だけど……あんたがそう来るなら……俺も全力でやってやるよ」

 

龍馬はそう言うとルナ・アームを解除し、上着を脱いで彼も上半身を露にする。

 

「……何の真似だ」

 

「あんたが裸一貫でぶつかって来るなら……俺もそれに答える義務がある。武器はなしだ。あんたと……自分の力だけで勝負してやる」

 

「ふっ……そうか……。不思議なものだ……私にとって"闘い"とは日銭を稼ぐための仕事か、主からの命令……義務……或いは生き残るための手段でしかなかった。

だがリョーマよ。今のお前を目の前にして……私は今これ以上ないくらい高揚している」

 

兵士にとって戦いとは生き残るためのもの。そこに喜びも興奮もありはしない。あるのは生か死か、憎しみか絶望か。それだけしかないとバルガスは思っていた。

だが自分をここまで追い詰めた人間を前にしてどうだ。バルガスは今心の底から高揚し、喜びを感じている。これほどの強者とぶつかり合えるとは何と素晴らしいことか。

 

「俺もさ、バルガス。俺にとって喧嘩なんてのは身を守るか、鬱陶しい奴をぶちのめす手段でしかなかった。でも今あんたとこうして向かい合っているだけでワクワクが止まらねえ。戦うなんてめんどくせえと思ってたはずなのによ」

 

自分は決してバルガスのような戦馬鹿(いくさばか)ではないと思っていたが、ここまで来るとはどうやら馬鹿が移ってしまったらしい。龍馬は思わず苦笑する。

 

「……ふっ、何時の時代も、強者との出会いは己を変えるということか……」

 

「ああ……さて、お喋りはこのくらいにしようぜ、バルガス」

 

「ああ、そうだな……」

 

二人は拳を構え、睨み合う。もはやこの闘いの勝敗を決めるのは武器でも技術でもない。

それは"闘志"のみ。どちらの心が強いのかーーもうすぐそれもわかる。

 

「行くぞ……バルガスぅぅぅ!!!!」

 

「リョーマああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

「「うおおおおおおおぉぉぉ!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

二人の身体が激突する。

 

 

"鬼神"と"龍"がぶつかり合い、両者の決着の時は刻一刻と近付く。

 

 

 

 

「おりゃあぁ!」

 

「ぬぉうっ!」

 

龍馬の拳をガードしつつ、拳を繰り出すバルガス。龍馬はバルガスの拳を避け、カウンターストレートで攻撃した。顔面に拳を受けるも構わず攻撃し、龍馬もバルガスから一撃を貰う。

 

「ぐあっ!」

 

「うぐっ!」

 

直後に同時にハイキックを繰り出す龍馬。それを左腕で防御したバルガスはアッパーを龍馬の顎に喰らわせる。

 

「うぶっ!!」

 

龍馬の身体が宙を舞って地面に倒れる。バルガスは龍馬の身体に馬乗りになると龍馬の顔面に連続でパンチを浴びせた。

 

「うおぉぉぉ!」

 

「ぐはっ!ぐほっ!……こっの……!いてぇじゃねぇか、この野郎!!」

 

龍馬は蹴りでバルガスを突き放し、距離を取った。今度はこちらからバルガスに攻撃を仕掛け、タックルで動きを封じる。そのまま至近距離での殴り合いを繰り広げる二人。

 

「この……小癪な小僧がぁっ!!」

 

「ぐわぁっ!!」

 

龍馬は頭を掴まれ、柱に叩き付けられる。頭から出血し朦朧とする意識の中、龍馬は歯をくいしばって怒りの力だけで意識をとどまらせ、反撃のアッパーを繰り出す。

 

「野郎ォォ!!」

 

「ぐわっ!!」

 

バルガスの顎に強烈なアッパーが炸裂し、龍馬はさらに顎を掴んで顔面を殴りまくる。だが反対に龍馬もバルガスに首筋を掴まれ、左フックを受けた。

 

「私は……負けるわけにはいかぬ!!負けるわけには!!」

 

「クソがあぁぁぁぁ!!!!」

 

龍馬は攻撃を受けてもなお自分の攻撃の手を緩めない。何度も、何度も。バルガスの顔を殴る。その度に龍馬もバルガスの拳を身体中に受け、既に二人の体力は限界に近づきつつあった。その後のお互いの一撃を機に、両者は距離を取る。

顔中腫れ上がり、頭からは出血し、もはやこれ以上戦える状態ではない。おそらく次の攻撃が正真正銘、最後の一撃になるだろう。

そして龍馬は、この極限状態の最中にありながらかつて祖父から教わった"禁じ手"を思い出していた。

下手をすれば相手の命すら奪いかねない五十嵐流の禁じられた奥義をーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"「何だよ、じーちゃん?」"

 

"「龍馬。本当はお前には教えたくなかったんやが……五十嵐流には禁じ手があってな」"

 

"「禁じ手?」"

 

"「そうたい。お前はディレットちゃんっていう女の子がそばにおるし……いざとなったら彼女を守れるくらいの力がないといかんたい。それが人の命を奪うことになってもや。最近は異世界と日本が繋がってからに、物騒になっていくかもしれんけのお。そいけん、お前を信じてこの禁じ手を教えちゃる。……使い道を間違えるなよ」"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(じーちゃんが教えてくれた"禁じ手"……!!これだけの執念を持つこいつに勝つにはこれしかねぇ!!)」

 

龍馬は覚悟を決めた。五十嵐流の"禁じ手"を使うのは今しかないと。

 

「リョーマ……どうやらお互いもう限界らしいな……」

 

「ああ……もう立つのがやっとだぜ……」

 

お互いに拳を構え、前を見据える。そしてーーーーバルガスが拳を構えて突進した。

 

「これで最後だ!!サイトウ・リョーマ!!うおおおおおぉぉぉぉ!!!!」

 

バルガスが迫り来るなか、龍馬は目を閉じて呼吸を整えた。

そしてゆっくりと右手の拳を構え、目を見開きーーーー身を屈めて一気に突進する!

 

 

 

 

 

「喰らえ!!五十嵐流無手術奥義……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(おに)   穿(うが)   ち   ! ! ! !」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、バルガスの鳩尾に今まで感じたことのないような衝撃が走る。まるで全身を巨大な剣で貫かれたかのような衝撃と激痛。呼吸が困難になり、悲鳴すら出せない。

 

 

「あ…………!が…………!おがぁぁ……!!」

 

口から血の混じった吐瀉物を吐き出し、バルガスはよろよろと二、三歩進みーーーーそしてーーーー

 

「も…………も……うし…………訳…………あり…………ませ…………ぬ…………我が…………ある…………じ………………」

 

そのままうつ伏せにバルガスは地響きを上げて倒れる。…………彼が起き上がる様子はない。

 

 

 

ーーーー勝った。遂に龍馬は、ヴィヴェルタニア王国最強にして"鬼神"と恐れられた男を打ち倒したのだ。

 

 

 

 

死闘を制したのはーー"龍"と呼ばれた男だった。

 

 

 

五十嵐流無手術の禁じ手"鬼穿(おにうが)ち"。呼吸を整え、身体の全エネルギーを拳の一点に集中させ、人間にとって急所となる水月に叩き込む技である。

鬼をも穿つその拳、まさに修羅の如くなり。

 

「……はぁ……はぁ……ぐうっ……!」

 

だが流石の龍馬も相当の負担が身体にかかっている。そのまま倒れてしまった龍馬にエドワードが駆け寄り、彼を引き起こした。

 

「リョーマ……!リョーマ、しっかりして……!」

 

「ああ……エドワード……へへ……どうだ……お前んとこの……最強の騎士サマ……倒してやったぜ……」

 

「うん……!うん……!凄いよ、リョーマは……!」

 

エドワードは涙を流しながら龍馬の健闘を讃えた。

おおよそ生きてるうちには決して目にすることが出来なかったであろう、バルガスの敗北。目の前の自分とそう変わらない年の少年はそれを成し遂げてしまったのだ。

エドワードは龍馬に肩を貸し、彼を立たせる。

 

「さて……まだ仕事が残ってるな……モニカと須崎を助け出して……お前の兄貴をぶっ飛ばすぞ……」

 

「リョーマ……」

 

エドワードの手を離れ、龍馬はフラフラと塔へ続く扉の道を目指す。

 

 

 

 

 

残るは、憎きレオンハルトのみだ。




・龍馬&アルバートvsバルガス戦イメージBGM……
『Fly』
(『龍が如く3』より)

・龍馬(覚醒後)vsバルガス戦イメージBGM……
『菩殺』
(『龍が如く 維新!』より)

・龍馬(素手)vsバルガス(素手)戦イメージBGM……
『Two Dragons』
(『龍が如く0 誓いの場所』より)
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