アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第50話 誠の王

龍馬はバルガスとの戦いでボロボロになった身体を引きずり、上着を着るのも忘れてモニカと千春が囚われている塔へと向かおうとする。

 

「りょ……リョーマよ……待て……」

 

倒れていたバルガスがゴロリと転がって仰向けになりハァハァと荒い息の中、龍馬を呼び止める。

 

「……しつけえ野郎だ。まだやるってのか……」

 

「いいや……もはや私に……戦える力は残っておらぬ……ただ……聞いてくれ、リョーマよ…………お前の言う通りだ…………私は……自分で決断をすることを……恐れていた…………怖かったのだ…………主との絆が壊れてしまうのが…………」

 

龍馬は黙ってバルガスの言葉を聞く。

 

「主の愚行は……目に余るものがあった……帝国での暴虐な振る舞いも……モニカ皇女をさらったことも……お前の友人をさらったことも……実の弟であるエドワード王子すら見捨てたことも……心の中ではわかっていた……私は主を止めようとした……だが出来なかった…………私は主との関係や絆が壊れてしまうのを恐れて…………主の愚行を見て見ぬふりをした…………忠誠という口実を盾にしてな…………だが……そのあとに残ったものは…………例えようもない…………取り返しのつかない…………後悔だけだった…………」

 

バルガスは本心では分かっていた。レオンハルトの行為は許されぬものであると。

それでも彼はーーレオンハルトとの主従関係の崩壊を恐れーー或いはきっと昔のような良き王子に戻ってくれるはずだとありもしない淡い期待を抱いてレオンハルトのどんな命令にも従った。

だが、レオンハルトの愚行は留まることを知らなかった。もし龍馬が自分を止めてくれなければ……どんな結果になっていたか。

バルガスは朦朧とする意識の中、レオンハルトとの出会いを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつてバルガスは各地を放浪する雇われの傭兵だった。

日銭を稼ぎ、その日暮らしの生活を続ける日々。

だがある時、よく組んで仕事をしていた傭兵仲間からデカい仕事を持ち掛けられたのだ。

報酬は山分けしても数ヶ月遊んで暮らせるほどの額がある。バルガスは迷わずそれに乗った。

 

依頼内容は……ある悪徳貴族の暗殺だった。

 

依頼は成功した。バルガスが貴族を暗殺し、目的を達成して帰ろうとした瞬間、彼は衛兵に囲まれた。彼は仲間から報酬を独り占めしたいがために衛兵に情報を売り渡されてしまったのだ。

バルガスは必死に抵抗した。だが、多勢に無勢。彼はこの時の負傷で右目を失った。そして彼は投獄された。

ある時、彼の身柄を移送する日が来た。バルガスは一瞬の隙を突いて脱走し、徒歩で逃げた。その先こそヴィヴェルタニア王国であった。

だがここまでの旅路で怪我を負っていた彼は王都を目の前にして遂に力尽きてしまう。

……目が覚めるとそこは城の一室だった。身体を見るときちんとした手当てがされており、部屋にメイドと共に幼い王子が現れた。

 

「きがついたか?ぼくはおうじのレオンハルトだ!おまえはぼくがたすけてやったんだ!かんしゃしろよ!」

 

「……!」

 

「おまえはつよそうだ!きょうからおまえをぼくのけらいにしてやる!なまえをいえ!」

 

「……俺は……バルガス……。バルガス……ディアガルド……」

 

「よし、バルガス!しっかりぼくのことをまもるんだぞ!たよりにしてるからな!」

 

少々生意気だが活気に満ち溢れた純粋な目。バルガスはこうしてまだ幼いレオンハルトによって助けられたのだ。

そしてバルガスは誓った。この命に代えても、彼を守ると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もはや今の王子はあの時の純粋な少年ではない。私が恐れを抱き、行動しなかったせいで王子は多くの人々を傷付けてしまった。実の弟であるエドワード様ですら……エドワード王子よ……申し訳ありません……私のせいで……あなたを辛い目に……」

 

バルガスは倒れたまま、涙ながらにエドワードに謝罪した。

 

「……バルガス、気にしないでくれ。結果、僕はリョーマ達と出会えた。そのおかげでこうして君も目を覚ましてくれた。それに君は次期国王である兄さんの命令に従っただけだ。君は何も悪くない。だがら……そんなに自分を責めないでくれ……」

 

「エドワード王子……」

 

バルガスはその時悟った。

王の器としてふさわしいのはレオンハルトではなく、エドワードの方だと。

他者を思いやり、過ちを許せる心を持った彼こそが次なる王なのだと。

 

「……リョーマよ……頼みがある……」

 

「なんだ?」

 

「……王子を……レオンハルト王子を止めてくれ……お前になら……出来るはずだ……」

 

「……言われなくても、そのつもりだっての」

 

龍馬はバルガスの頼みを聞き入れるとすっと立ち上がり、上半身裸のまま塔へ続く扉をエドワードと共に目指す。

 

「行くぞ、エドワード。これで最後だ」

 

「……うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーヴィヴェルタニア王城・離れの塔ー

 

 

 

 

 

 

 

レオンハルトは二人を軟禁している部屋のソファに座り、悠々とくつろいでいた。

 

「なあ、モニカ。お前とつるんでたあのリョーマとかいう男、遂に上まで来たぞ。だが、バルガスには勝てないだろうな!ハハハ!」

 

高笑いを上げるレオンハルトを睨み付け、モニカと千春は言い放つ。

 

「いいえ、リョーマは強いわ。いくらバルガスが相手でも必ず彼は勝ってここに来る。そうなれば貴方も終わりよ、レオンハルト」

 

「斎藤が負けるわけないでしょ!あの喧嘩バカが負けるなんて考えられないわ!」

 

「ふん!どうだか。所詮はただの喧嘩自慢だ。王国最強の剣士に勝てるわけないだろ!見てろ、バルガスが奴を倒したらあいつの首を切り落として晒し首にしてやる。その時のお前らの顔を拝むのが楽しみだよ!ハハハ!」

 

レオンハルトが再び高笑いを上げていると塔の階段を登る音が聞こえてきた。コツン、コツンとゆっくり迫ってくる。

だが何かおかしい。足音は二人分聞こえる。バルガスが他の騎士と合流したのだろうか?

そして足音は扉の前で止まった。

 

「バルガスか?それに他に誰かいるのか?全く、遅いじゃないか!守備はどうだ?」

 

扉の向こうから反応はない。

 

「おい、バルガス!黙ってないで何とか言えよこの馬鹿野郎!」

 

レオンハルトがそうやって扉の向こうの存在を罵倒した瞬間、扉がドォン、ドォンと物凄い音を立てて揺れ始めた。

 

「な、なんだ!?」

 

「まさか……リョーマ!?リョーマなの!?」

 

「斎藤!?」

 

扉には鍵がかかっており、分厚い鉄板や鉄の部品で補強されている。だが、そんな頑丈な扉が何度も衝撃を受け、ミシミシと音を立て始めた。

 

「レオンハルトぉぉぉぉぉ!!!!」

 

扉の向こうから龍馬の怒鳴り声が聞こえる。

そして再び扉が轟音を上げて揺れ始める。

 

「ま、まさか!?バルガスの奴、負けたのか!?あの役立たずめ!」

 

レオンハルトはバルガスが敗北した事実に悪態を突きつつ、動揺する。

バルガスが負けた今、もはや彼を守るのは誰もいない。"龍"の怒りは今まさに、レオンハルトに襲い掛かろうとしていた。

 

「おおおりゃああああああぁぁぁぁ!!!!」

 

龍馬がルナ・アームを装備した腕で思い切り扉を殴る。その瞬間、扉は音を立てて破壊され、土煙を上げながら倒れた。

そして土煙の向こうからは……

 

「レオンハルトぉぉぉぉぉ…………!!会いたかったぜぇぇぇぇ……!!」

 

「ひ、ヒィッ!」

 

顔はアザだらけの血まみれになった龍馬が怒りの形相でそこに立っていた。そばにはエドワードもいる。

 

「リョーマ!」

 

「斎藤……!あんた……!」

 

「遅くなって悪いな、二人とも。助けに来たぜ」

 

龍馬のニヤリとした笑顔を見た瞬間、二人の目から涙が溢れる。

やはり龍馬は来てくれた。自分達を助けに、こんなに傷だらけになってまで。

 

「リョーマ……!ありがとう……!」

 

「来るのが遅いのよ……馬鹿……!」

 

「悪い悪い。下にでっかいゴキブリがいてよ。手こずっちまった。さて……」

 

龍馬はルナ・アームを解除して拳を鳴らし、レオンハルトを睨む。

こいつはーーこいつだけはーー自らの拳で殴らなければ気が済まない。

 

「バルガスなら下でのびてるぜ、レオンハルト。後はお前だけだ。もうお前を守る奴は誰もいない」

 

「や……やめろ……!僕に手を出したらどうなるかわかってるのか!?僕はヴィヴェルタニア王国の次期国王だぞ!?僕に手を出せば父上が黙っていない!お前も!仲間も!全員処刑されることになるぞ!それでもいいのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知るかボケェェェェェェ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐはぁぁっ!!」

 

レオンハルトの顔面に龍馬の怒りの鉄拳が炸裂した。

その身勝手な性格故にレオンハルトは多くの人々を傷付けてきた。龍馬の大切な仲間でさえも。

 

その全ての怒りを込めて、奴に鉄槌を下す!!

 

 

「テメーはあまりにもやりすぎた。国王?処刑?知ったことか!!今の俺にあるのは"テメーを徹底的にぶちのめす"。それだけだ!!」

 

龍馬は倒れたレオンハルトを引き起こし、さらにもう一発顔面を殴る。

 

殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。

 

レオンハルトの整った顔立ちはアザで見る影もなくなり、歯は何本も抜け落ち、白く美しい礼装は自らの血で真っ赤に染まっていた。

 

「まだ終わらねえぞレオンハルト……俺の怒りはこんなもんじゃねぇ……」

 

「は、はひっ……もうゆるひて……!」

 

レオンハルトのその言葉に龍馬は拳をピタリと止める。

 

「……許して欲しいか?」

 

龍馬がそう言うとレオンハルトは鼻血を流しながら何度も首を縦に振る。

 

「じゃあ、そのためにお前は何をしてくれる?」

 

「お、女は返ふ……!謝礼ひんもはりゃう……!だから……」

 

「……よし、いいだろう。もう殴るのは止めてやる」

 

レオンハルトは再び首をブンブンと縦に振る。

 

ーーだが、その瞬間。

 

 

 

「どりやぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「ぶへぁっ!?」

 

龍馬は再びレオンハルトの顔を殴り飛ばした。

 

「ひょ……ひょんな……やふほふがちはう……いま……"なふらない"って……」

 

「……何都合のいいこと言ってんだ。テメーがきちんと約束を守ったことがあんのか。許しを乞う人間を助けたことがあるっていうのか」

 

龍馬ははっきりと覚えている。こいつがカムラン一家にした仕打ちを。ならば許す道理も、こちらが約束を守る道理もない。

その時龍馬はレオンハルトの胸に光る"ある物"を見つけた。

それはレオンハルトが龍馬から奪った龍のネックレスだ。細い革紐でレオンハルトの胸にぶら下がっている。

 

「……これは俺の大切な宝物だ。こいつは返してもらうぞ」

 

龍馬はネックレスをレオンハルトの首から引き千切るとポケットにねじ込んだ。

 

「さて、クソ王子。なんか言いたいことはあるか?」

 

恐怖に歪む顔でレオンハルトは龍馬を見上げる。そして隣で哀れみに満ちた目でかつて兄と慕った人間を見つめている。

 

「え、エドワード……た、助けて……」

 

「……僕はもう王国を追放された身だ。あなたを助ける義理はない」

 

「……!!」

 

実の弟にすら見放されたレオンハルト。

ワガママで身勝手で自分の気分で人を傷付けてきた最悪の男は深い絶望と哀しみのどん底に叩き落とされた。

 

「哀れだな、レオンハルト。"因果応報"ってやつだ。これはテメーの身勝手さが招いたことなんだ。さて……覚悟しろよ。そのイケメン(ヅラ)の原型が無くなるまでぶちのめしてやる!!」

 

龍馬は拳を構えた。今一度、この男に鉄槌を下すべくパンチを繰り出す。

レオンハルトは怯えてうずくまり、頭を押さえる。

 

「ヒィッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめよ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如響き渡った声に龍馬は拳を止めた。

龍馬達全員が後ろを振り返るとそこにはーーーー

 

「ち、父上……!?」

 

逞しい身体つきにブラウンの髪と濃い髭を蓄えた男性。

そう、この男性こそヴィヴェルタニア王国を治める王、アティウス・ディ・ヴィヴェルタニアである。

 

「……ち、父上!助けてください!賊です!こいつら突然城にやってきてこんな真似を……!」

 

「……」

 

鋭い眼光で龍馬を睨むアティウス王。だが龍馬は怯まない。アティウスは徐々に龍馬に近付く。

 

「なんだ、やろうってのか!?国王なんて身分、今の俺には通用しねーぞ!!」

 

だが、アティウスが向かったのは床に這いつくばるレオンハルトだった。そしてーーーー

 

 

 

 

「この…………馬鹿息子があぁぁぁぁっ!!!!」

 

「ぐふっ!?」

 

龍馬をも凌ぐ勢いでアティウスはレオンハルトを思い切り殴り付ける。レオンハルトは空中で一回転し、床に叩き付けられるほど勢いよく吹き飛ばされた。

 

「愚か者め!事情は全て聞いたわ!貴様、またしても帝国で勝手な事をしたらしいな!?もはや私も我慢の限界だ!レオンハルトよ、貴様は次期国王の器ではない!……おい、この馬鹿を牢屋へ連れていけ!!そこで頭を冷やすがよい!!」

 

アティウスが護衛の騎士に命じると騎士達はレオンハルトを抱え上げて拘束し、引きずるように城の地下へと連れて行ってしまった。

 

「そ、そんな……!!父上!!父上ぇぇぇぇ…………!!」

 

階下からは父親を必死に呼ぶレオンハルトの声がむなしく響き渡る。

一瞬の静寂の後、アティウスは龍馬に向き直った。

 

「さて……君がリョーマ君……だな?異界から来たという……」

 

「ああ……」

 

アティウスは直後に驚きの行動に出る。

なんと床に膝を突き、龍馬に頭を下げたのだ。

これには隣にいたエドワードも驚いた。

 

「すまなかった……!私の教育が至らぬばかりに君を始め、多くの人々をうちの馬鹿息子が傷付けてしまった……!だが、あんな奴でも私の息子なのだ……!どうか……どうか許してほしい……!」

 

一国の王がただの学生でしかない龍馬に土下座をして謝罪しているこの状況に彼は困惑してしまう。

 

「……ええと、その……まあ、あいつがもう悪さしないように見張るってんなら……別に後は……」

 

「そうか……すまない……恩に着る……!」

 

アティウスは再び床に頭を擦り付けて龍馬に礼を言う。

 

「もう立ってくださいよ……一国の王が何やってんすか……」

 

龍馬は流石に気まずくなってアティウスを立たせる。

そういえばエドワードは疑問に思うことがあった。外交のために南のアロンド小国に向かったはずだが。

馬では一日はかかる距離だ。それもだが何故父がこの事を知っていたのか?

 

「父上……アロンド小国に向かったはずでは?」

 

「確かにその通りだ。だが、彼等がレオンハルトの愚行を知らせ、私をここまで送り届けてくれたのだ」

 

アティウスが入り口を指す。するとそこにはーーー。

 

「……母さん!?親父!?それに陛下!?」

 

「お父様!?なぜここに!?」

 

「ほっほ。リョーマ君、どうやらあのバルガスを倒したらしいの。……モニカよ。遅れてすまなかったな」

 

何と龍馬の両親とソフォスがそこにいた。そして涼子は息子に駆け寄ると涙ながらに彼を抱き締める。

 

「このバカチンが……!!勝手に飛び出してこげなことしてから……どんだけあたし達が心配したと思うとんね!」

 

「い、いてて……」

 

「こげんボロボロになるまで戦って……ほんっと、あんたっちゃ人のために身体張りすぎたい!」

 

「龍馬。無事でよかった。俺も母さんも心配したんだぞ、全く……」

 

 

 

 

 

 

その後玉座の間へと移動した龍馬達は両親とソフォス、そしてアティウスから今回の件を聞いた。

あの夜、龍馬達が出発する時にアルバートは密かにアルフォンスにヴィヴェルタニア王国に行くことを通達していたのだ。

アルフォンスはソフォスに報告。さらに龍馬の両親はそれを聞いて「何か出来ることはないか」とソフォスと話し合った。

その結果、龍一郎と涼子はソフォスを車に乗せてヴィヴェルタニア王国の南、アロンド小国に滞在しているアティウスを呼び戻しに行った。

最初こそ困惑するアティウスだったが、旧友であるソフォスの娘の危機と聞いて龍一郎の車に乗り、全速力で帰国したのだ。

アティウスが説明していると、外から別れた仲間達も入ってきた。

 

「……リョーマ!」

 

真っ先にディレットが龍馬に抱き付き、再会を喜ぶ。龍馬は照れながらもディレットに礼を言う。

 

「ディレット、ありがとう。お前の助けがなかったら俺はここまで来れなかった」

 

「ううん、気にしないで。私達、仲間じゃない」

 

「おーい、俺らは無視かこのリア充ども」

 

そう言ったのはボロボロになった勇斗。そして隣にはレイラとルミナがいる。

 

「やったな、リョーマ!」

 

「リョーマは強いね!勝てる人なんていないんじゃない?」

 

「それは言い過ぎだろ。実際ギリギリだったしな」

 

仲間達との再会を喜ぶ龍馬。

そしてアティウスから感謝とお詫びのしるしとして幾多の謝礼金が支払われ、宴が開かれた。

医務室に運ばれ手当てを受けていたアルバートとバルガスも軍人ならではの回復力で普通に歩けるまでになり、さらに四騎士達も交えて宴は盛大に進んだ。

アーヴィングは龍馬達のスマホやドローンに興味を示し、ゴドムは勇斗との腕相撲に興じている。オフィーリアはどうやら異界の食文化に興味があるようだ。

そんな宴の最中、龍馬はバルガスによってバルコニーに呼び出された。

 

「……何だよ、バルガス?」

 

「リョーマよ。お前が使っていた武術……あれはなんだ?私はあれに興味がある」

 

「あれ……?ああ、五十嵐流無手術のことか。ありゃあ、俺のじーちゃんが教えてくれた武術だよ」

 

「……リョーマの祖父殿は……強いのか?」

 

「当たり前だろ。どんなに攻撃したってじーちゃんにはかすりもしねーんだ。ある意味アンタに勝つより至難の技だよ」

 

「……」

 

この時バルガスの中には強さへの渇望、そして異界の武術への関心が芽生えていた。

そして宴も落ち着いた頃ーーーーバルガスはアティウスに呼び出された。

 

「王よ、お呼びですか」

 

「楽にするがいい、バルガス。……お主はレオンハルトの愚行を止めもせず、さらには異界から来た年端もいかぬ少年に敗北した。これは騎士団長としてあるまじきことだ。わかるな?」

 

「……申し訳ありません、王よ。こうなった以上、私はどんな厳罰も覚悟しております」

 

「……バルガスよ。その言葉に二言はないな?」

 

「……はい」

 

その言葉を聞いてアティウスはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

そしてバルガスは自らの耳を疑うような言葉をアティウスから聞くことになる。

 

「よし、ではバルガスよ。罰としてお主を無期限の謹慎処分とする。そして己を鍛え直すのだ」

 

「……王よ、どういうことですか……!?」

 

「バルガス。お主、リョーマ君が使っていた武術に興味を持っていたな?自分を打ち負かした相手の師が使う、異世界の武術に」

 

「そ、それは……!」

 

「隠さずともよい。武に生きるものとして強さを求めるのは当然のことだ。……行くがよい、バルガス。異世界へ。そしてもっと強くなって帰ってこい。留守の間は心配するな」

 

「アティウス王……ははっ!ありがたき幸せ!」

 

「明日、リョーマ君達は次元の門のある帝国へ帰るそうだ。お前はそれに同行するがいい。ソフォスから話を聞いてみた所、異世界への渡航には資格が必要らしいが、帝国の運営する学校で誰でも無料で学べるらしいぞ。うまくいけば最短一ヶ月で資格が取れるそうだ。……精進するがいい、バルガス」

 

「はい……!このバルガス、必ずや今よりも強くなって王の元へ戻ることを誓いましょう!」

 

バルガスは王に礼を言って部屋を去り、自室に戻って旅の支度をする。

と、言ってもバルガスは元々あまり私物を持たない性格なのでそんなに荷物はないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。龍馬達は森にあるバイクを取りに行き、一旦王城へ戻る。

ここでもやはりバイクを見て驚く人々が多く、龍馬達は反応を楽しんだ。

そして、別れの時が来た。

アティウスとエドワード、それに四騎士が見送りに来てくれている。

 

「じゃあな、エドワード。短かったけどお前との旅……楽しかったぜ」

 

「リョーマ、またヴィヴェルタニアに来てよ。今度会うときは今よりももっと強くなって、父上の後継ぎにふさわしい男になってみせるからさ!」

 

昨日、エドワードは父より次期国王として指名された。

他者を思いやる心。誰かと喜びや悲しみを分かち合える心。他者を許すことのできる心。アティウスはエドワードにそれが備わっていると話した。

だがエドワードはまだ未熟だ。だからこそ彼は強くなると決心した。

ーーーー王国を救ってくれた、目の前の勇気ある少年のように。

いつか、ヴィヴェルタニアを導くにふさわしい"誠の王"となるために。

 

「リョーマ君。今回のことで君には迷惑をかけてしまった。だが、もし良ければまた遊びに来てほしい。私達一同、いつでも歓迎しよう」

 

「ええ。もちろん」

 

龍馬はアティウスとエドワードと別れの握手をする。

 

「ハヤトー!また来いよー!元気でなー!」

 

「へっ!ゴドムのおっさん、あんたもな!あばよ!」

 

勇斗とゴドムの間には奇妙な友情が芽生えたのか、二人は軽いノリながらも別れを惜しんだ。

 

「ルーンによる自己強化……興味深い。レイラ、また機会があれば手合わせ願うよ」

 

「いいぜ。ま、アタイが勝つけどな!」

 

レイラとアーヴィング。同じ槍使い同士、何か通ずるものがあったのだろうか。二人はいつかの再戦を誓い合う。

 

「ディレット……お前の弓さばき、見事だった。さすがエルフだな。しかしお前も異界の鉄の馬に乗るとは……」

 

「鉄の馬じゃないよ!これはバイクっていうの!……オフィーリアも乗る?」

 

「訓練も無しに無理だろう……遠慮しとくよ」

 

バイクに跨がって準備をするディレットにオフィーリアがそう言った。

ただ、やはり彼女も異界の文明にはかなり興味があるようだ。

別れの挨拶が済み、龍馬はヘルメットを被ってバイクに跨がりエンジンをかける。

その時であった。

 

「待ってくれ!私も……私も連れていってくれ!」

 

荷物を詰めた革袋を持ったバルガスが慌てて龍馬達に合流する。

 

「バルガス!?どういうことだよ!?」

 

「リョーマ。私を負かしたお前の武術……異世界の武術に興味が湧いた。聞けば帝国で資格を取れば異界の国ニホンへ行けるそうではないか。帝国までは私も同行させてもらおう」

 

「えぇ……マジかよ……」

 

バイクに跨がったまま、やれやれと肩をすくめる龍馬。

仕方なくランドクルーザーの運転席の父に言うと「いいんじゃないか、別に?」とあっけらかんとしていた。

後ろに乗っていた涼子が車のドアを開けてやる。

 

「では王よ。行って参ります」

 

「うむ。バルガスよ。行ってこい」

 

バルガスが車に乗ろうとしたその時、向こうから彼に駆け寄る人影が。それはオフィーリアであった。

 

「団長!話は王から聞きました……本当に行ってしまわれるのですか……?」

 

「……オフィーリアよ。私は今回の件で自分の未熟さを痛感した。これでは王家の守護者も、ガルム騎士団の団長も務まらぬ。私はきっと強くなって帰ってくる。その間は……お前がガルム騎士団を率いるのだ、オフィーリア。頼んだぞ」

 

「団長……!私……!私は……!」

 

オフィーリアの目から大粒の涙が溢れる。

その時のオフィーリアは騎士の顔ではなく……一人の女性の顔であった。そんなオフィーリアの頭をバルガスは撫でる。

 

「泣くでない、オフィーリアよ。その美しい顔が台無しではないか。……私は必ず戻ってくる。それまでは……しばしの別れだ。騎士団と王家を頼んだぞ」

 

「……はい、団長……!」

 

オフィーリアは涙を拭い、バルガスを見送った。バルガスは車に乗り込み、真ん中の座席に乗り込む。一番後ろの座席にはアルバートがいた。彼は重傷なのでレイラと共に車に乗っていたのだ。

 

「邪魔するぞ、アルカ帝国の騎士」

 

「バルガス……まさかお前がついてくるとはな」

 

「……私を恨んでいるか?」

 

「いいや。お前は職務を全うしたにすぎん。私が逆の立場でも同じようにしただろう。ニホンへ行くんだってな?健闘を祈る」

 

「……礼を言う」

 

そしていよいよ三台のバイクとランドクルーザーは走り始めた。

 

 

 

 

 

王国を救った英雄達に、彼等はいつまでも手を振り続けたのであった。

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