アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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異界旅行・帰国と新たな家族編
第51話 赤目の盗賊


「ふむ、"ジドウシャ"とはなかなか快適だな。それに馬車よりは揺れが少ない。おまけに何故か涼しい。一体どうなっているのだ?」

 

ランドクルーザーに乗って帝都まで龍馬達一行に同行したバルガスは自動車の快適さに感心しつつ、興味を抱いていた。

革張りの快適な座席、揺れの少ない車体、そしてエアコンの効いた車内は快適そのものだった。

 

「どうじゃバルガス。ジドウシャは快適じゃろう?」

 

「何で陛下が自慢気なんですか……」

 

「アタイも隊長に同じ。アタイ知ってるぜ。陛下のその顔、ニホンでは"ドヤガオ"っていうやつだ」

 

「……お主ら最近儂に対して辛辣すぎない?」

 

助手席のソフォスに対し、後部座席からツッコミを入れるアルバートとレイラ。

この三人、皇帝と騎士ではなく漫才師になった方がいいのではないかと運転しながら心の中で密かに思う龍一郎。

 

「バルガスさん、あんたうちの息子とやり合ったっちね。強かろ?うちの息子は」

 

「……ええ。リョーコ殿、あなたのご子息は真の戦士です。我がガルム騎士団に欲しいくらいだ」

 

その言葉に偽りはない。実際龍馬ほどの実力があればガルム騎士団ですぐに昇進し四騎士が五騎士になるレベルだ。

そして何より龍馬には自分とは違う、真に他者を思いやり、物事を決断できる心がある。

実力だけで言えば自分の方に部があった。だが、その心の強さの違い故に自分は龍馬に敗けたのだ。

今回のバルガスの日本を目指す旅の目的は武術だけではなく、そういった未熟な自分の心を見つめ直し、鍛えるためでもある。

 

「モニカ皇女……チハル殿。すまなかった。私が王子を諌めていれば君達を危険な目に合わせることはなかったかもしれないというのに……」

 

モニカはおろか、無関係の千春まで巻き込んでしまった。そのことにバルガスは深い後悔と謝罪の念を隠せない。

 

「バルガス。あなたは悪くはないわ。アルバートも言っていたでしょう?あなたは騎士として自分の役目を全うしたに過ぎない。あなたがそこを気にする必要はないわ」

 

「そうよ。大体悪いのはレオンハルトでしょ?それに私達が城に連れていかれる時に丁重に扱えって兵士達に言ってくれたの、バルガスさんじゃない」

 

「モニカ皇女……チハル殿……」

 

二人がヴィヴェルタニア王城へ連れていかれる際にバルガスは部下に可能な限り彼女らを丁重にもてなすように指示した。

さらに千春を乱暴に引っ張った兵士をその場で殴り倒して一喝するなど、レオンハルトに逆らわない範囲でのバルガスの彼女らに対する気遣いが見てとれたのだ。

 

「バルガスさん、周りもこう言ってますしもう気にしない方がいいですよ。あんまりウジウジしてると隣にいる俺の嫁さんからぶん殴られますよ」

 

龍一郎が車を運転しつつ、苦笑しながら言う。涼子はいつまでもウジウジしている男が大嫌いだ。その会話を車内のスピーカーと連動させたヘッドセットから聞いていた龍馬は確かにその通りだと思うのであった。

 

「む……すまない……ところでその……リョーコ殿は女性だが……強いのか?」

 

「バルガスさん、やめといた方がいいですよ。多分あなたでも勝てませんから」

 

「人を悪魔みたいに言いなさんなこのバカチン」

 

「"そうそう!何せドワーフと力比べして勝つもんな!"」

 

「ドワーフと……力比べ……!?」

 

スピーカーから前を走る龍馬の声が聞こえる。

正直言ってうちの母は悪魔ですら裸足で逃げ出しそうな予感がする。

バルガスはこの時、踏み入ってはいけない深淵の片鱗を垣間見たような気がした。

そして一行は国境付近の町、アーディルの町を抜けてガルザック砦を抜け、帝国領に戻ってきた。

アラバト山脈を南に迂回してマルセラ街道を西に向かい、ピャルナチの森に向かう。

森近くのアレーヌ川に着いた頃に太陽も真上に登り、そろそろ腹の虫が鳴り始めた。

龍一郎は前を走る三人に指示して川のほとりに車を止める。龍馬達も一度Uターンして車のそばにバイクを止める。

一行はここで休憩をすることにした。龍一郎が手際よく準備をし、龍馬達は焚き火の準備をする。

真っ昼間だが、豪快に肉といこう。そう考えていた龍一郎は王都ヴィリルでちゃっかり買っていたブラウンボアの肉を分厚く切ったステーキを作ることにした。

焚き火とは別に焚き火台を用意する。キャンパー達に人気のブランドである"ナノフレーム社"の焚き火台だ。まず焚き火台に燃えている薪をいくつか入れてさらにグレンディルお手製の備長炭をその上から入れて着火していく。

 

「……む。何だかこの炭はいい香りがするな」

 

どうやらバルガスはすぐに気付いたようだ。備長炭の香りはとても良い香りだ。福岡県民風に言うなら"焼き鳥屋の香り"だろうか。

龍一郎は火が落ち着いて来た頃に塩コショウで下味を付けたブラウンボアのステーキを焼いていく。徐々に炭の香りが焼ける肉の香りと絡み、全員の腹の虫が激しく鳴り始める。

じっくりと焼いたステーキの香りにさすがのバルガスもついソワソワとしてしまう。

まず女性陣のステーキを先に焼き、次に男性陣のステーキを龍一郎は焼き始めた。既に女性陣はステーキにかぶりつき、舌を唸らせている。

そして龍一郎はソワソワとしていたバルガスに気を利かせて男性陣でステーキを最初に出してあげた。

 

「はい、バルガスさんどうぞ。一応塩コショウで下味は付いてるけど足りなかったらこのステーキソースを使ってくださいね」

 

「う、うむ。かたじけない」

 

腹が減っているのもあってバルガスはステーキにかぶりつく。ブラウンボアの柔らかな肉質に塩加減、そして本来は貴重なはずのコショウの風味が絶妙な味を引き出していた。さらに炭で焼いたことによる焼き加減と炭の香りが付いた肉は食べなれたブラウンボアの肉のはずなのに新鮮な味わいを生み出している。

さらに異界の調味料……ステーキソースなる物もかけて食べてみる。

少しドロリとしたそのソースは様々な果実や野菜の旨味が濃縮した酸味のある味わいで焼いた肉とよく合う。……酒が欲しくなる味だ。

 

「うむ、うまい。珍しくはないブラウンボアの肉がこんなに美味くなるとは。武術だけでなく食にも興味が湧いてきたな」

 

「バルガスさんの口に合ったようでよかった。ビールが無いのが残念だなあ」

 

「あー!確かにこれはビールが合うよなー!」

 

「レイラ……お前ってやつは……」

 

確かに焼いた肉にはよく冷えたビールがよく合う。よく焼いた肉を食べながら飲むビールは酒飲みにとって格別だ。

日本でビールを経験している酒好きのレイラにはよくわかりすぎる話である。そんなレイラをアルバートは呆れた表情で見る。

穏やかな晴天の中、食事を終えた一行は再び帝都を目指した。

ピャルナチの森を抜けてアテリ村を過ぎるとアルカ東街道に入り、いよいよ帝都が見えてきた。馬ならもっとかかる距離もバイクと車ならあっという間だ。

帝都に戻るとまず先に城に向かい、ソフォス・アルバート・レイラ・モニカの四人を降ろす。

その後龍馬達バイク勢も車に乗り込んで"ある場所"に向かう。

行き先は竜の髭亭だ。理由はバルガスの下宿先である。

日本への渡航資格を得るには最短でも一ヶ月はかかる。その間のバルガスの下宿先として竜の髭亭で受け入れてもらえないか尋ねてみた。

龍馬達が説明すると、アンナは快く受け入れてくれた。最近は繁盛しすぎて人手が足りないらしい。まさしく"猫の手も借りたい"といったところだそうだ。

そしてバルガスは竜の髭亭で働きつつ、学校に通うことになり、そこで龍馬達に別れを告げる。

 

「リョーマ、世話になった。お前には助けられてばかりだな」

 

「気にするなよ。資格の勉強、頑張れよバルガス。……そうだ。あんたのこと、じーちゃんに伝えといてやるよ。日本に来るときは手紙寄越してくれ。陛下かアルバートさんが宛先知ってるからよ」

 

「すまない、恩に着る」

 

「いいってことよ。……じゃーな、バルガス」

 

龍馬はバルガスに別れを告げ、車に乗り込んでまた城へと戻る。

……長いようで短かった二週間の異界旅行は様々な人々の出会いと別れや騒動、そして戦いを経てもうすぐ終わりを告げようとしている。

明日、龍馬達は帰国する。福岡まで帰るにはまたそこから一日以上かかるので帰宅できるのは明後日の昼頃だ。そうなればまた福岡でのいつもの日常が帰ってくる。

しかし夏休みはまだまだ続く。8月は何をしようか。龍馬の頭の中には故郷での夏休みの過ごし方プランが練られていた。

今日が帝国最後の滞在ということで龍馬は友人達と共にバイクではなく、徒歩で帝都をぶらついてみることにした。

バザー通りを歩くと屋台で焼きうどんを作るカムラン一家の姿が。元ゴロツキのグレッグも真面目に働いている。

さらに空き地だった場所に新たな家が建てられようとしており、建築ギルド長のニコラスが汗を流しながら男達と共に建築作業に勤しんでいる。

龍馬達は露店でお土産を買ったり、串焼きを食べたりして帝都をしばらくぶらついた。

歩いていると綺麗なブレスレットを売っている装飾品店を見つけ、それらもおみやげに少し買っていくことにした。

いつも愛用しているメッセンジャーバッグを外して金貨用の袋を取り出す。

 

 

それは龍馬が足元にバッグを置いた、わずか一瞬の出来事であった。

 

 

龍馬のメッセンジャーバッグを一迅の風のように駆け抜けた黒い影が引ったくっていったのだ。

 

「あっ!」

 

その影は異様に早く、龍馬が気付いた時には既に遠くに走り去っており、見失いそうになっていた。

あのバッグの中には金貨袋とは別の財布やキャッシュカード、ドローンやタブレットにパスポートが入っている。あれを奪われるわけにはいかない。

 

「待てっ!!」

 

龍馬は仲間達を残したまま走り出し、ローブを着た黒い影の人物を追い掛ける。

バザー通りを駆け抜け、裏路地に入る。

……だがその黒い影は異様に速く、徐々に龍馬は距離を離されていく。

次の角を曲がったところで龍馬は影を完全に見失ってしまった。

 

「クソッ……!」

 

辺りを見回すが、あの黒い影はどこにも見当たらない。龍馬は仕方なく先ほどの場所へ引き返す。

仲間達の元へ戻ると龍馬は泥棒を逃がしてしまった事を伝える。

すると装飾品店の店主が先ほどの泥棒について語った。

 

「あんちゃん、やられたな。ありゃ"赤目"っていう盗賊だ」

 

「赤目?」

 

「ああ。最近この帝都に出没するようになった奴でな。異常に足が早くて誰も追い付けねえ。おまけに顔を隠しているから顔もわからねえんだ。ただ、一度だけ暗闇でおぼろげに顔を見た奴がいてな。全体はわからなかったが、目が赤く光っていたらしく、それから"赤目"って呼ばれるようになったんだ。あいつはどんな奴でも簡単にまいちまうんだ。あんちゃんは運が悪かったなあ」

 

どうやら"赤目"は非常に逃走能力の高い盗賊らしく、捕縛は困難だそうだ。

衛兵達も総出で帝都を捜索するが、一行に見つからないらしい。

打つ手なしと思われていたが、そこで千春からある方法が。

 

「斎藤、あんたのバッグってiPad入ってなかった?それをスマホから捜索出来ない?」

 

なるほど。その手があったか。

龍馬は早速スマホから端末を紛失した場合に探せるアプリを使って捜索する。

……そういえばこの世界でGPS機能はないはずだが、ちゃんと機能するのだろうか。

ダメ元で龍馬は起動してみる。するとマップには地形が表示されないものの、タブレットの位置だけが表示されている。場所は帝都の北東だ。

龍馬達は手分けして帝都北東を徹底的に探すが、なかなか見つからない。

そんな時、再び事件が。

 

「ドロボーっ!!」

 

向こうから住民の大きな声が聞こえてくる。

見ると再び別の人間から荷物を奪って逃走する"赤目"の姿が。

龍馬達は身を隠し、先回りをしながら赤目を尾行する。アジトを特定した方が確実に捕まえられると判断したからだ。

すると赤目はとある路地に入ると空き家のはずの家の中に入っていくのが見えた。

龍馬達は慌てて後を追い、空き家の中に入った。

中を捜索するが、人影はおろか盗んだ荷物すら見当たらない。

 

「バカな!奴は確かにここに入ったぞ!?」

 

「リョーマ!屋根裏にも何もないわ!」

 

身軽なディレットが屋根裏に飛び移り、奥まで調べたが人が生活した形跡すらない。

だが1階の奥の部屋を調べていた千春が何かを発見した。

 

「斎藤!ちょっと来て!」

 

龍馬が急いで駆け付けるとある一室の床を指差して千春が言った。

 

「ねえ……この床なんか変じゃない?」

 

日当たりの悪いその部屋は昼間でも薄暗く、不気味な部屋だった。

目を凝らして千春が指差した場所を見ると微妙に床の木目の位置がズレていて確かにおかしい。

まさかと思った龍馬はイレーナからもらったナイフを隙間に突き立て、てこの原理で床に力を加える。すると床が一部浮き上がり、その下からは地下に続く階段が出現した。

 

「地下室……!ビンゴだ、須崎!よく見つけたな!」

 

「ま、まあね。私ならこのくらい……」

 

「よし、お前は上にいるディレットと勇斗に伝えろ。赤目は武器を持っているかもしれない。この先は俺一人で行く」

 

懐中電灯やLEDランタンを父に返しため、現在は持っていなかった龍馬はスマホのライトを使おうとしたが、もしかしたら赤目が襲い掛かってくるかもしれない。龍馬はすぐさま防御出来るようにルナ・アームを装着してバレンの獄炎を宿し、それを松明代わりに地下へと降りていく。

暗い階段を降りていくと、その先は古い下水道に繋がっていた。

下水道を進み、さらに奥の細い通路に入る。

 

「(……なーんか嫌な予感がするんだよなぁ)」

 

そう龍馬に訴えたのはゲーマーとしての"勘"だった。

勇斗も好きなとあるダークファンタジーなアクションRPGではこういう暗い地下の細い通路から開けた所に出る時、大体その死角に雑魚敵が待ち伏せしているのだ。

龍馬は次の通路が開けた地点を警戒する。

その通路から出る瞬間、龍馬は身体を低くして飛び出した!

 

「……何もねえな。杞憂ってやつか」

 

龍馬がふう、と息をつきながら立ち上がった瞬間、彼の喉元に光る何かが突き付けられる。それは……ナイフだ。

 

「止まれ、人間。動くな」

 

「……あちゃあ」

 

人が気を抜いた時に限ってこれだ。また篝火からやり直しかな。ーー龍馬はそんなことを思いつつ、両手を上げる。

 

「腕が燃えてる人間なんて見たことがないが……まあいい、歩け。両手は上げたままだ」

 

「へいへいっ……と。……なーんてな!」

 

龍馬は突き付けられたナイフを払ってその瞬間に"鬼崩し"を喰らわせて後ろの人物を転倒させ、素早く馬乗りになってナイフを奪う。

 

「これで形勢逆転だ。俺にそんな奇襲は通用しねえぞ。さて……そのツラを拝んでやる!」

 

龍馬はバレンの獄炎を右腕だけ解除してローブのフードを破るとそこにはーーーー、

 

「お、女!?」

 

現れたのは赤い目をした短い銀髪の少女。

耳はエルフのように尖って長いが、肌は褐色である。まさかこれは……

 

「まさか……ダークエルフってやつか……!?」

 

「は、放せっ!降りろっ!」

 

ダークエルフの少女は馬乗りになる龍馬に必死に抵抗する。が、龍馬は右手を放さない。

少女の背中には龍馬から盗んだメッセンジャーバッグが背負われており、それに気付いた龍馬はバッグを奪い返す。

龍馬はそのまま少女を抱え上げて地下道を引き返していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……まさか"赤目"の正体がダークエルフだったとは……」

 

龍馬は仲間と合流するとダークエルフの少女を野放しにするわけにもいかず、そのまま城に連れ帰った。

そしてここは応接室。ダークエルフの少女は椅子に拘束され、両親や仲間達もいる中、龍馬がアルバートに問う。

 

「アルバートさん、ダークエルフは珍しいんですか?」

 

「いや、ダークエルフも特に珍しい種族というわけではない。ただ、エルフと違ってダークエルフは高地で暮らしている場合が多く、結果的にあまり人里には関わらずにいることがほとんどだ。だが中には人里で生活しているダークエルフもいる。ただ……帝国領のダークエルフに関しては妙な噂があってな……」

 

「妙な噂?」

 

「ああ。帝国領のダークエルフ達が住まう"黒の渓谷"と呼ばれる、北のロイド山脈にある渓谷ではダークエルフ達が邪神を崇拝しているという噂があるんだ。黒の渓谷はかなり切り立った崖の多い危険な岩山で誰も近づかない。故に誰も真実は知らないがな。もし彼女が帝国領出身ならばそこのダークエルフである可能性が高いのだが……おい、赤目。どうなんだ?」

 

「アタシはそんなの知らない!とっととこの縄を解けよ!」

 

椅子に拘束されたままガタガタと暴れ出す赤目。アルバートが段々と苛々を募らせ、声を荒げて質問するが、そんなアルバートの前に割って入る人物が。それは涼子だった。

涼子はアルバートの静止を振り切ってなんと赤目の縄を解き、ぽかんとする彼女に視線の高さを合わせて優しく問う。

 

「……赤目ちゃん。きちんと聞かれた事には答えりぃ。そしたらあたしが助けちゃあけん」

 

「リョーコさん!?勝手な事をしないでいただきた……!!」

 

「しゃーしぃ!!少し黙っとかんかい!!……ごめんねぇ、このおじちゃん仕事馬鹿なもんやけん」

 

「あ、ああ……」

 

涼子はアルバートを一喝する。アルバートは涼子の剣幕に骨の髄まで一瞬恐怖を感じ、黙るしかなかった。

そして再び優しく赤目に語りかけ、それに赤目は困惑する。

涼子が話すと赤目は段々と大人しくなり、彼女にだけは幾分か心を開いたようだ。

 

「……それで、赤目ちゃん。名前は?」

 

「……アタシに名前なんてないよ」

 

「……そうね。それじゃあ、お父さんとお母さんは?」

 

「……!!」

 

その質問をした瞬間、赤目の表情が一変した。

身体は小刻みに震え、何かに怯えるように頭を抱えている。

 

「……アタシに……!アタシに親なんていない……!アタシは……ずっと一人だ……!生まれるべきじゃない存在だったんだ……!」

 

その瞬間、赤目の身体を何かが優しく包み込んだ。涼子だ。彼女は赤目の身体を優しく抱き締めたのだ。

 

「聞いたらいけん質問やったみたいやね。ごめんね。そげん怖がらんで。ここにはあんたを傷付ける人はおらんけん。……じゃあ、どこから来たと?」

 

「……う、うん……アタシは……」

 

赤目が落ち着きを取り戻し、涼子が彼女から離れたその瞬間、ガラスの割れる音が辺りに響いた。応接室の窓がいきなり割られたのだ。

窓からは黒いローブに身を包んだ三人の人物が乗り込んできて、床に爆弾のようなものを投げ付ける。

爆発音と同時に深い煙が辺りを包み込む。

 

「ゲホッ!ゲホッ!え、煙幕だ!」

 

部屋中を包み込む煙の中で視界は塞がれ、呼吸も困難になる。

そんな煙の中で赤目の悲鳴が聞こえた。

 

「キャアッ!や、やめろっ!放せっ!」

 

「ゲホッ!ゲホッ!……赤目ちゃん!!」

 

状況はわからないが、煙の向こうで赤目が手を出されてるのは間違いない。

涼子は赤目を必死に呼ぶが反応はない。

しかし煙がかすかに薄れた一瞬、目の前に黒い影が見えた。乗り込んで来た謎の人物だろう。

 

「この……アホンダラがぁっ!!」

 

涼子は素早く飛びかかり、その人物を取り押さえる。激しく抵抗するが、ドワーフにも勝てる涼子の腕力から逃げ出せる者など存在しないだろう。

煙が晴れると涼子が取り押さえた人物以外の襲撃者とーーーー赤目の姿はなかった。

割れた窓から入り込む風がむなしくカーテンを揺らしている。

 

 

 

 

 

 

 

「さて……取り調べと行こうやないね」

 

涼子は持ち前の腕力で襲撃者の一人を椅子に拘束した。そしてフードを破る。

 

「……!?」

 

襲撃者の正体はなんとダークエルフの男性だった。

目の下には赤い刺青がしてある。

 

「……大人しく答えた方が身のためばい。あんたらは何モンや?赤目ちゃんをどこやったんね?おお?」

 

「……貴様等にそれを教える義理はない」

 

「ほお、そうね。ちょっとばかりぶちくらされな気がすまんみたいやね」(※ぶちくらす=ぶん殴る)

 

涼子はいきなり右フックでダークエルフの男の顔面を殴る。一撃で歯が数本吹き飛び、男は椅子ごと倒れる。

涼子は男を起こすと再び質問した。

 

「もう一度聞くばい。"あんたらは何モンで、赤目ちゃんをどこにやったんね?"」

 

「……誰が……喋るものか……」

 

その瞬間、涼子は指を男の口に突っ込むとそのまま奥歯を引き抜いた。

 

「あがあぁぁぁぁぁ!!」

 

「あたしをただのオバハンと思いなさんな。あんたが喋るまで生かさず殺さず追い詰めていくけんね」

 

再び涼子は指を男の口に突っ込んで今度は反対側の前歯を引き抜く。

吹き出す血。聞くに耐えない男の悲鳴。あまりに凄惨なやり方に息子の龍馬を含め、見ている者は誰も声が出せなかった。

涼子がここまでやるのには訳があった。

あの時赤目が見せた態度。まだ幼いあの少女が親の話をした途端に異常に怯え始めた。

涼子はそれを見て何故だか知らないが「この子を助けなければ」という強い思いに駆られたのだ。

そのためにかつて鬼と呼ばれた女は再び鬼となる決意をした。

涼子は少しずつ男の歯を引き抜いていく。そして男は血まみれの口で遂に観念した。

 

「わかった!言う!言うよ!だからもうやめてくれ!」

 

「……さっさと言っときゃよかったんたい、このバカチンが」

 

涼子は右手を開き、中に握った男の歯をパラパラと床に落とす。

そして男は語りだした。自分達の正体、そしてあの"赤目"のダークエルフの少女に隠された秘密をーーーー。

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