赤目をさらったダークエルフの襲撃者の一人に容赦のない拷問をかけた涼子。
ダークエルフの男は遂に観念し、自分達の正体と赤目を連れ去った理由を話す。
「我等は北にある黒の渓谷に住まう"黒の一族"……お前達が赤目と呼ぶあの子供は……いてはならない存在なのだ」
"いてはならない"という言葉に涼子の眉がピクリと動くが、彼女は怒りを抑えて話を聞く。
「……我等黒の一族は代々ガルダーンという神を信仰している。そして伝承によれば一万年に一度、赤い目を持つ"忌まわしき魔の子"が生まれ、一族に災いをもたらすとされている。
……だが、その子供が10歳になる日に神ガルダーン様に生け贄として捧げられれば一族には安寧が訪れるのだ。だが……」
男は言葉を続ける。
「10歳になったあの子供は自らが生け贄になると知って里から逃げ出したのだ。以来、我等一族には病気や災害といった災いが降りかかるようになった。それから我等は四年の間、あの子供を探し続けた。そしてようやく見つけたのだ」
その言葉を聞いていた涼子の額に血管が浮き出ている。もはや彼女は我慢の限界だった。
「……そしたら何や。あんたらはそのガンダーラとか何とかいう神様のためにあの女の子を殺そうっちゅう腹でおるんかい」
「ガルダーンだ。……そうだ。あの子を生け贄に捧げぬ限り、我が一族は滅びの道を辿る。ガルダーン様を怒らせてはならぬのだ。ガルダーン様こそ我が一族を守り、導いて下さる偉大な……ぐはぁっ!?」
淡々と喋るダークエルフの男の顔面に再び涼子の鉄拳が炸裂する。
椅子ごと倒れた男にさらに飛び掛かって顔面を殴りまくる涼子。
「ふざくんなよ貴様ら!!そんな神とか何とかいう存在のために子供を生け贄に捧げるぅ!?馬鹿らしいことばっか言うのも大概にしとけよキサンこの!!」
男が血まみれになってもまだ殴る手を止めない涼子。あまりの光景に龍一郎が止めに入る。
「涼子、やめろ!!そいつを殺す気か!!子供の前だぞ!!」
「ハァ……ハァ……」
龍一郎からそう言われてようやく落ち着きを取り戻した涼子。
男は既に意識を失っており、アルバートによって医者の元に連れていかれた。
……龍馬はこの時、改めて母の恐ろしさを思い知った。
「……あんた、車出せるね?」
「何?」
「車を出しちゃりぃ。私はあいつが言う"黒の渓谷"とかいう場所にあの子を助けにいく」
「何だと!?馬鹿を言うな、危険すぎる!」
「このままやったらあの子は訳のわからん神のために生け贄にされるんばい!?あの子は好きで赤い目に生まれてきたわけやない!子供は生まれてくる場所も親も選べんのや!なんでそれだけでこんなふざけた仕打ちを受けないけんのね!?
……あたしは納得いかん。あんたが車を出さんなら鍵を貸せ。あたし一人でも行ってやる」
涼子は本気だった。ここで断ればおそらく龍一郎を殴り倒してでも一人でいくだろう。長年連れ添った妻だ。龍一郎は涼子のそんな性格をよく知っていた。
「……わかった。ただし車は俺が出す。それでいいな?」
「……おう」
「母さん!俺も行くぞ!」
龍馬がずいと前へ出る。
いくら母が強くても彼女は丸腰だ。もしダークエルフの集団に囲まれたらひとたまりもないかもしれない。それならば神の武器ルナ・アームを所持し、聖霊の魔法を使える自分がついていった方がいいはずだ。
「……子供を危険な目に遭わせたくはないんやけどね。もうそれも今さらっちゅう話たいね。わかった……龍馬、あんたも着いてきなさい。あんたはアレクちゃんから貰った"神の武器"があるけんね」
本心で言えば我が子を危険に晒したくはない。
だがかつていじめられっ子で泣き虫だった目の前の息子はーーーー己の命を賭して数々の猛者を打ち破って様々な人々を救い、王国最強と言われたあのバルガスという騎士を倒すまでに強い男に成長した。
さらに神から授かった武器まで持っている。これほど頼もしい存在はない。
「私も行きます、リョーコさん!」
「俺も行くぜ!」
ディレットと勇斗も同行を求める。弓と精霊魔法が使えるディレットなら少なくとも足手まといにはならないだろう。勇斗に至っては龍馬が長年信頼する喧嘩仲間だ。
さらに二人ともヴィヴェルタニアの四騎士を相手に勝利している。実力は充分だ。
涼子もそれを分かっていた。そのため、同行を許可した。
ただし、ルミナと千春に関しては許可しなかった。戦闘能力のない彼女らを連れていくのはいささか危険すぎる。二人は城に残ることになった。
早く彼女を……赤目を助けなければ。
生まれつき目が赤いというだけで一体何の罪があるというのか。黒の一族が崇拝する神という存在。いくら神だろうがいたずらに子供の命を奪うことなど許されるはずはない。
涼子はその気になれば……その手を汚すことすら覚悟していた。
「準備はいいね?」
「ああ」
龍馬達の準備が終わり、縄で縛られたあのダークエルフの男が涼子に連れられて車に押し込まれる。案内役として連れていくことにしたのだ。
アルバートも同行しようとしたが、涼子はそれを断った。彼はまだ王国での戦いの傷が癒えていない。それに今回の黒の渓谷を目指す旅は完全に自分のワガママだ。怪我人のアルバートを巻き込むわけにはいかない。
「よし……出発するぞ……黒の渓谷へ!」
龍一郎は覚悟を決めてエンジンを始動する。
黒の渓谷は北のロイド山脈にある。前にメルク村へ行った道とは反対側の街道へ行くのだ。
北の街道をひたすら北上する。山が近づくに連れ、徐々に道が荒れてきた。それに伴い、車の振動も増す。
ようやくロイド山脈の山の麓まで来た時には日が傾きつつあった。だが止まっている暇はない。早く先へ進まなければ。
険しい山道を走っていくと段々と緑が無くなり、ゴツゴツとした岩山だらけの場所になっていく。ある場所に来たところで龍一郎は車を止めた。
「……これ以上車で進むのは無理だ。道が狭い上に険しすぎる」
それは谷の入り口だ。おそらくは落石であろう岩が道の所々に落下して道幅を狭くしており、とても車が通れる場所ではない。
ここからは徒歩で行かなければならない。涼子は車からダークエルフの男を降ろすと先頭を歩かせる。
「逃げようとか思いなさんな。ちょっとでも怪しい真似をしたらあんたの両腕をへし折ってやるけんね」
「……こっちだ」
男は黙って先頭を歩く。
険しい岩山の谷をひたすら歩き、進む。
それにしても……全く緑のない場所だ。野生動物の気配もほとんど感じない。
本当にこんな場所にダークエルフの住む集落などあるのだろうか?もしかしたら罠ではないのか?
だが、そんなことを考えていても仕方がない。もはや前に進むしか道はないのだ。
やがて険しい岩山を二時間ほど登ったところでダークエルフの男は足を止めた。
「ここだ」
そこはやや開けた山の中腹であり、複数の民家が建てられている。
どうやら間違いない。ここが黒の一族の里のようだ。
男が里へと入ろうとする。
それは一瞬の出来事だった。
「がはっ……!!」
突如飛来した矢。それが男の喉元に突き刺さり、血が吹き出す。
男は倒れ、その場所に血だまりが徐々に広がり……彼は物言わぬ屍と化した。
「!?」
涼子が里の方を見ると武装したダークエルフ達がゾロゾロとこちらに向かって集まってくる。
弓・槍・剣・クロスボウ……数は30人強といったところだろうか。
「愚か者が……この里に余所者を招くようなことをしおって」
ダークエルフ達の後ろから杖をついた老齢のダークエルフが現れた。見た目からして村長或いは族長といったところだろうか。
「……お前は誰や」
涼子が怒りに震える声で老齢のダークエルフに問いかける。
「わしはこの黒の一族の族長のレドリー。……貴様らこそ誰じゃ。ここは黒の一族以外の余所者は歓迎せん」
「余所者を歓迎せんならそこでおっ死んでるダークエルフの男はどういうことか?なんであいつを殺したんか!?」
「……そやつは"忌まわしき魔の子"を見つけ出す密命を帯びた我が一族の戦士。じゃが、敵に捕まった挙げ句にこうして貴様らのような余所者を里に招き入れる手引きまでしおった。もはやそやつは我が一族の戦士ではない。ただの裏切り者じゃ」
族長・レドリーは淡々と話す。
一族の仲間さえ簡単に切り捨てるそのあまりの非情さに涼子は怒りに声を震わせる。
「……あたし達はその"忌まわしき魔の子"を狂ったカルト野郎のバカチンどもから助けるためにここに来たったい。……あの子はどこおるんか?」
「ふん……そういうことか……あれを見るがよい」
レドリーが指差した先には村の禍々しい装飾が施された祭壇。そして全身傷だらけになり、十字架に
「っ……!!!!」
「本来四年前にその命を捧げるはずじゃったあやつは愚かにもその身を弁えずに里から逃げ出した。以来、我が里には数々の災いが起きた。そしてようやくあやつが帝都に潜んでいることを我が一族の密偵が掴んだ。……ようやくこれでガルダーン様より安寧がもたらされるわい」
酷く衰弱し、磔になった赤目は自身の首を動かす力すら残されていないようだ。
涼子が何度も呼び掛けるが、彼女は反応しない。
「キサンらこの……!!!!」
もはや涼子の怒りは既に限界を通り越していた。
赤目のダークエルフの少女はただこの世に生を受けただけだ。その時に目が赤いというだけで悪魔の子供扱いとは。
ーーーーこいつらは完全に狂っている。もはや問答は無用だ。
「……生け贄の儀式の前にまずは貴様らの命をもらうぞ。そして貴様らの命もガルダーン様に捧げられ、我が一族の繁栄の礎となるのだ!」
「ほざけや!!キサンら全員、ぶち殺しちゃるけぇのぉ!!!!」
涼子が怒りを爆発させ叫んだ瞬間、一人のダークエルフが矢を放った。
矢は真っ直ぐ涼子の喉元を狙いーーーー、
「!?」
矢を放ったダークエルフは我が目を疑った。
なんと涼子は人差し指と中指だけで矢を挟んで受け止めーーーーそれをその男に投げ返した。
「ぐわあっ!!」
「なっ……なんじゃと!?」
誰もが目の前の光景に唖然とする。
相手はただの人間、それも中年の女である。一体あの女のどこにこれほどの戦闘能力があるというのか。
「母さん、凄すぎだろ……!?」
「龍馬の母さん、北○神拳の伝承者かなにかかよ!?」
「リョーコさん、そもそも人間なの……?」
息子の龍馬ですら母のここまでの戦闘能力を見たことはない。そして母がここまで激怒した所も。
黒の一族のダークエルフ達は触れてしまったのだ。神よりも恐ろしいーーーーかつて"鬼"、そして古代中国の猛将である"呂布"に例えられるほどの力を持った斎藤涼子という女の逆鱗に。
「な、何をしておる!!やれ!!あの女を魔の子に近づけてはならぬ!!儀式の邪魔をさせるな!!」
レドリーが命じるとダークエルフ達が一斉に涼子達に襲いかかる。
龍馬達も参戦し、黒の一族との戦闘が始まった。
だがその戦いはあまりにも力の差がありすぎた。
涼子は一人で十人以上のダークエルフを相手に傷ひとつ負わずになぎ倒していくのた。
「このカスどもがあぁぁぁぁ!!!!!!」
「ぐふっ!?」
「がはっ!!」
「ぐああっ!!」
ある者は顔面を陥没させられるほど殴られ、ある者は鳩尾に拳を叩き込まれ、ある者は持っていた短剣を奪われて手の甲を壁に押し付けられ、そして串刺しにされる。
もはや龍馬達の出る幕がないほど、涼子はあまりにも強かった。
そして驚いたのは、龍一郎も母に次いで強かったことだ。
龍一郎は昔、ボクシングをはじめとした様々な格闘技を会得していた。武器を持った相手ですらハンデにならない。むしろ武器がある分隙が出来て武器ごと鼻っ柱を叩き折られるのが関の山だったのだ。
「子供をあんな目に遭わせるような奴等は俺だって容赦しねえ!!死にたい奴から前に出ろ!!」
龍一郎の叫びがこだまする。
そして斎藤夫妻はーーーーあっという間に里のダークエルフの戦士達を全滅させてしまったのだ。
そして残るは族長のレドリー一人だ。腰を抜かしたレドリーは尻餅をついて後ろへと這いずって逃げようとする。
「おいこらジジイ。もうあんた一人だけやぞ。どうするんね?」
「ひいっ……あ……悪魔……!!」
「悪魔ぁ……!?あんな子供を勝手な盲信で殺そうとしとるキサンらの方がよっぽど悪魔やろうが、このど阿呆が!!」
涼子はレドリーの足、膝の関節を思い切り踏みつける。その瞬間、骨の粉砕する嫌な音が聞こえた。
「ぎぃやあああああぁぁぁっ!!!!足!!足がああああぁぁぁっ!!!!」
「しゃーしぃんじゃ!!人殺そうっちゅう奴が足の二本や三本でギャーギャー喚くな!!!!」
涼子はさらに反対の足を踏みつける。再びレドリーの悲痛な悲鳴が響き渡る。
「よお喋る口やのぉ……しばらく寝とけや!!」
涼子はレドリーの顔面に怒りの鉄拳を叩き込む。そのまま彼は気絶し、辺りに静寂が訪れる。
「……赤目ちゃん!!」
涼子は祭壇に駆け寄る。手足が縄で何十にも縛られており、ほどくのは難しそうだ。
「龍馬!!あんたのナイフ貸しぃ!!」
「あ、ああ!!」
龍馬はイレーナのナイフを母に渡し、涼子はそれで縄を切っていく。
縄を全て切った涼子は赤目を優しく抱き抱えてゆっくりと下ろした。
「赤目ちゃん……!赤目ちゃん……!しっかりせんね……!助けに来たばい!」
「……う……うう……」
涼子が呼び掛けると赤目は目を覚まし、目の前にいた見覚えのある人物に驚く。
「あんたは……あの時の……なんでここに……」
「赤目ちゃんを助けに来たに決まっとろーも!黒の一族なら族長ごと全員ぶっ飛ばしてやったばい!もう大丈夫!」
「……アタシを……助けに……?」
「そうたい。さ、あたし達と一緒に帰ろう」
涼子は優しく赤目を抱き締めた。まるで我が子のように。
かつて、息子である龍馬に仕事を言い訳に辛い思いをさせた自分に親の在り方を語る資格はないかもしれない。
だが、目の前の幼い命を神などというくだらないもののために失わせるわけにはいかない。
涼子はそんな思いを胸に彼女を抱き締める。
一方で赤目にも今まで抱いたことのない感情が芽生えていた。
赤い目を持つが故に実の親にすら愛情を受けずに彼女は育った。
彼女には家族はいなかった。そしていずれ殺される運命を悟った。だから逃げた。そして盗賊になり、ずっと孤独に生きてきた。
だがこの女性はどうだ。無関係のはずの自分のために身体を張り、自らの危険も省みず助けに来てくれた。そして傷だらけ、泥だらけで薄汚れたこんな自分を抱き締めてくれている。赤目はこの時初めて"人の愛"に触れたのだ。
それを感じた赤目の頬に一筋の涙が流れる。そして彼女も涼子の背中にそっと手を回して……泣いた。
「怖かった……怖かったよぉぉ……!」
「よーしよし、もう大丈夫やけん心配しなさんな。あんたを傷付ける奴はこのあたしが絶対に許さん。例え神やろうが悪魔やろうが全員ぶちのめしてあんたを守っちゃるけんね!」
そう言って涼子は赤目を抱えたまま立ち上がる。
「さ、ここはあんたの家やない。あたし達と一緒に行こう」
「うん……!」
だが、涼子が彼女を抱えて立ち去ろうとした時、辺りに急に雷が鳴り始めた。
不気味な風が唸りを上げ、空に稲妻が走る。
あまりにも不自然な天候の変化に涼子達は辺りを見回す。
「……我が
どす黒い、地獄の底から響くような声が辺りに響いた。
次の瞬間、空から落ちた一筋の落雷が祭壇の十字架に直撃し、その根元に魔方陣が現れる。
「なんだ!?」
龍馬は本能的に何かヤバいという空気を感じ、母と赤目を庇うように目の前に立ち、魔方陣を睨む。
魔方陣からゆっくりと現れたのは渦を巻いた角に5メートル近い青い身体、そして翼を持つ異様な存在だった。
「なんだアイツは!?」
まさか、これがダークエルフ達が言っていた神なのか。龍馬はバレンの獄炎を宿して最大の戦闘体勢を取る。
「我が名はガルダーン……!いにしえの神なり……!我が眷属である黒の一族の捧げし贄を奪うとは……人間どもよ、それは神に対する冒涜と知ってのことか!」
「神ガルダーン!?こいつが!?」
「あんたが……ガルダーンね……クソッタレの神が……」
龍馬と涼子はガルダーンを睨み付け、ディレットはいつでも矢を放てるように弓をつがえる。
そんなガルダーンを見て赤目が叫んだ。
「あいつは神なんかじゃない!あいつは……アークデーモンだ!」
「アークデーモンだと!?」
アークデーモンは魔界の悪魔の中でも中級~上級に位置する人型の悪魔である。
いにしえの神などとは程遠い……奴こそが真の悪魔だった。
「アタシは知ってんだ!魔の子なんてのは嘘っぱちだ!黒の一族には……一万年に一度だけ魔力の大きな子が産まれる!それがアタシだ!奴は神のフリをして一族に災いを起こし、それを起こさない見返りに自分が力を得るための生け贄を用意させてたんだ!」
「何だと!?」
赤目は盗賊生活の中で独学で文字を学び、魔術師から奪った荷物の中に見つけたある文献を読んだ。すると黒の一族とそれに関するアークデーモンの記述を見つけたことをしっかりと覚えている。
それを聞いたアークデーモン……ガルダーンはニヤリと笑った。
「知っていたか、ダークエルフの娘。そうだ。私は神ではない。アークデーモンだ。一万年に一度産まれる魔力に満ちた子……その魂を喰らうために里に災いを起こした。その赤目の子供が災いの元だと言ったらダークエルフどもは喜んで子供を差し出しおったわ!はっはっはっ!」
ガルダーンは高笑いを上げる。
涼子は歯軋りをしてガルダーンを睨み付けた。
「……この子をどうするつもりや」
「知れたこと!その子供を殺して魂を喰らうのだ!そして貴様らも殺して魂を喰らってやる!」
その瞬間、ガルダーンの顔面に火炎弾が直撃する。……龍馬だ。
「黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって。三流悪魔が寝言ほざいてんじゃねーぞ」
「……小僧、人間の分際で悪魔に歯向かうか」
ガルダーンが顔を押さえて燃え盛る炎をはらう。
「こちとら何度も修羅場をくぐってんだ。人間だからって舐めてると痛い目に合うぜ」
「……よかろう。ならばこの場で惨殺してくれよう!!」
ガルダーンが龍馬に電撃を飛ばし、龍馬はそれを火炎弾で相殺する。
炎と雷撃がぶつかり合う中、突然ガルダーンの顔面に衝撃が走り、彼はその場に倒れた。
「な……なに……!?」
「あの子に手は出させん。そしてあたしも死ぬつもりはあらぁせん。あんたを地獄に叩き返してやるわい」
涼子が跳躍し、ガルダーンの顔面に蹴りを入れたのだ。ただの人間にこれほどの力があることにガルダーンも驚く。
「……おばさん!どうして!?なんでそこまでアタシのために!?」
安全な距離に避難させられた赤目が涼子に向かって叫ぶ。
「言ったやろ?"あんたに手ぇ出す奴は、神やろうが悪魔やろうが全員ブチのめす"って」
涼子は赤目に向かい、親指を立ててニヤリと笑う。
ガルダーンは再び立ち上がり、今度は両手を掲げる。
「小賢しい人間どもが!!我が雷撃で消し炭に……ぐおっ!?」
両手に雷光を宿した瞬間、ガルダーンの両足に力が入らなくなった。なんと素早く飛び込んだ龍馬と涼子に膝を叩き割られたのだ。
「そんなことする前にボテボテにくらしあげちゃるわいこのアホ!」
「そんなんで今さら俺らがビビると思うなよ!」
さらに龍馬がガルダーンの鳩尾にアッパーカットを喰らわせ、直後にディレットの矢が顔中に突き刺さる。
さらに直後に背後に回り込んでいた勇斗と龍一郎がダークエルフ達の持っていた剣を背中に突き刺した。あまりの激痛に膝をつくガルダーン。
「お、おのれ人間風情が!!いでよ、我が雷光!!」
空を包む暗雲がゴロゴロと唸りを上げながら渦を巻いて稲妻を走らせーーーー次の瞬間、無数の
悪魔の強大な魔力から引き起こされるその威力は凄まじい。まるで隕石でも衝突したかのようなクレーターが大地に出来上がってしまう。
もしあんなものが直撃すれば間違いなく命はない。
大小様々な
龍一郎が赤目を抱えて民家の影へと隠れ、ディレットと勇斗も別々の場所へ隠れる。
その時龍馬は母の頭上に稲妻がほとばしるのを見つけた瞬間、涼子を突き飛ばして母を庇った。
「母さん、危ねぇっ!!」
「龍馬!?」
彼は腕を交差させて頭上に向けーーーーその雷を受けた。
白く激しい稲妻の光に龍馬の姿は包まれて見えなくなる。
「龍馬!!龍馬あぁぁぁぁ!!!!」
「はーっはっは!愚かな小僧よ!人間の分際で悪魔に歯向かうからこうなるのだ!」
涼子の悲痛な叫びとガルダーンの高笑いが辺りにこだまする。煙が晴れ、徐々に辺りの景色が鮮明になってきた。
だがその時ガルダーンは絶句した。なんと自らの雷に打たれたはずの人間が生きている。
有り得ない。ただの人間が。あの雷を浴びて無事でいられるはずがないのだ。
「な、なに!?バカな!!有り得ぬ!!」
「ふう……ありがとよ、女神様。あんたのおかげで命拾いしたぜ」
いかなる攻撃をも通さぬ女神アレクが鍛えた武器ルナ・アーム。それはたとえ強大な魔力を有した悪魔の雷といえど例外ではない。龍馬は女神の力に助けられたのだ。
「龍馬……!びっくりさせなさんな!死んだかと思うたやないね!」
「いや、マジで死んだかと思ったわ。よっしゃ、反撃開始だ!」
龍馬と涼子は素早くガルダーンに駆け寄り、まず龍馬がバレンの獄炎を宿した手で思い切りガルダーンの足を殴りまくる。
ガルダーンが怯み、再び膝をついた瞬間に涼子がもう片方の足の膝に強烈な蹴りをお見舞いした。
「ぐわあぁっ!」
ガルダーンは大地に両膝と両手をついた。顔の位置が低くなった瞬間に龍馬が跳躍し、ガルダーンの顔面に怒りの鉄拳を思い切り打ち込む。
相手が悪魔だろうが神だろうが関係ない。龍馬にとって大事なのはただひとつ。
"気に入らない奴は、ブチのめす"、それだけだ。
「ぐはっ……!」
ガルダーンは龍馬の拳を受けて思い切り後ろに仰け反り、そのまま仰向けに倒れる。
彼は完全に侮っていた。異界人の戦闘能力を。
反撃しようとした瞬間、ディレットの放った無数の矢と魔法が彼を攻撃し、その隙を許さない。
「リョーマ!今だよ!」
「俺達を甘く見たな!喰らいやがれ!」
龍馬は倒れたガルダーンの腹に飛び乗ると、腹部に両方の拳を突き立てて、バレンの獄炎を燃え盛らせ、火攻めにする。その瞬間ーーー
「ぐわああぁっ!」
ガルダーンが苦しみ始めた。その彼の額には赤く光る不気味な"第三の目"が開き、ギョロギョロと動いている。
「あれだ!!あれがアークデーモンの弱点だ!!」
赤目が指差して叫ぶ。それを聞いた龍馬は腰からイレーナのナイフを母の涼子の前へと投げる。
「母さん、今だ!!」
ガルダーンが龍馬に押さえつけられ、苦悶の声を上げる中、涼子は息子が投げたナイフを拾い、構えた。そしてーーーー
「往生せえや!!このクソ悪魔が!!!!」
涼子はガルダーンの顔の上に飛び乗ると額の"第三の目"に深くナイフを突き立てた。
グジュッという肉の潰れる嫌な感触と共に眼球からの返り血が涼子の顔を濡らす。
ガルダーンは激痛のあまり暴れ出し、龍馬達を弾き飛ばして起き上がってさらに滅茶苦茶に暴れ出す。
「ガアァァァァァ!!!!ゴアァァァァァ!!!!」
額にしがみつく涼子を引き剥がそうと暴れるガルダーン。その手に生えた爪が涼子の背中を無慈悲に引き裂き、背中の傷口から出血している。
「ぐうぅっ……!!そんなもんでこのあたしが……やられるとでも思うとんかいゴラアァァ!!!!」
しかしどれほどガルダーンが抵抗し、暴れても涼子は突き立てたナイフから決して手を放さない。
ここで手を放せば赤目も、息子達も危なくなる。何よりこの悪魔を葬る最大のチャンスなのだ。たとえこの命に代えても手を放すわけにはいかない。
「ゴアァ…………!…………ァ…………!!」
徐々にガルダーンの力と声が弱々しくなり……そしてガルダーンは……ついに倒れた。
ガルダーンの身体は細かい暗黒の物質となって空気中に散り、消滅した。後にはナイフだけが残る。
「ふんっ、手間かけさせてからに、バカチンが」
涼子はナイフを拾うと息子へとそれを返し、龍馬はそれを受け取る。
「はあ……全くアークデーモンなんていったらRPGじゃ大体強敵だぞ。それを倒すなんて我が母親ながら恐ろしいよ、ほんとに」
「なん言いよんね。あんたも人のこと言えんばい。さて……うっ」
傷だらけの龍馬とガルダーンの返り血まみれの涼子は背中の傷口の痛みで膝をつく。
「か、母さん!」
「涼子!」
「リョーコさん!」
龍馬、龍一郎、ディレットの三人が涼子に駆け寄る。ディレットは急いでヒールで涼子を回復させ、傷口を龍一郎がシャツを裂いた即席の包帯で圧迫し、止血した。
「喧嘩でこげん傷作ったのは……いつぶりやろうかねぇ……」
「涼子、無理をするな。ひどい怪我なんだぞ」
「……あの子は……赤目ちゃんは無事なんね?」
「涼子さん、大丈夫だよ。赤目はほら、この通り」
勇斗が背中に赤目を背負って涼子の前へと下ろす。赤目は涼子の前で膝をついて涙を流しながら口を開いた。
「どうして……アタシなんかのためにそこまで……」
「さっきも言ったけどねぇ……"神やろうが悪魔やろうがあんたに手ぇ出す奴は、全員ブチのめす"って……それにね……あたしは……子供を喰い物にするような奴は……絶対に許せんのたい……」
彼女は許さない。弱者に手を上げる存在を。子供に仇なす存在を。
大人は子供を守るためにある。それは自分の息子がかつて虐げられていた時に救ってやれなかった自らの強い後悔から生まれた気持ちだった。
たとえ神でも悪魔でもーーーー子供に手を上げるような"シャバ憎"を許すわけにはいかないのだ。
涼子は痛む背中もなんのその、ゆっくりと立ち上がった。
常人ならばまだ動けないであろう大怪我にも関わらず、立ち上がるその異常な回復力と生命力、そして悪魔にも屈しない強靭な精神力こそが彼女を"鬼の涼子"、"博多の呂布"と言わしめたる根源である。
「さ、これであんたを傷付ける邪魔者は全員片付けた。一緒に帰るばい」
「……うん!」
神を騙る悪魔は死に、現世を去った。
忌まわしき魔の子と呼ばれた少女は人の愛とぬくもりを知った。
異界の家族はまた一人、こうして命を救ったのだ。
斎藤一家と仲間達の異界旅行はもうすぐ終わりを告げようとしていた。
・vsガルダーン戦イメージBGM……
『襲い来る神話~複合神性ゴルゴーン戦~』
(『Fate/Grand Order』より)