アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第57話 因縁の鎖

「お前から全てを奪ってやる……」

 

 

 

 

「これは俺の復讐だ……」

 

 

 

 

「お前だけは許さない……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……死ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああああぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

辺りを見回す。見慣れた自室。身体中に汗をかいている。暑さのせいではない。

 

 

 

またあの夢だ。どす黒い"龍"が自分から全てを奪おうとしている。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……ちくしょう……」

 

大橋高校に通う佐古田隆弘(さこだたかひろ)は再び悪夢に悩まされていた。

かつて自分がいじめていたあの少年に返り討ちにあってから全てが狂った。

どす黒い気を纏ったあいつに……斎藤龍馬に命を狙われる夢。

ようやく斎藤龍馬のいない高校生活にも馴染め、心も落ち着きを取り戻した矢先……出会ってしまった。あの福間海岸で。

しかも奴は以前より強くなっている。間違いない。

いじめていた相手に負けるなど、屈辱なことこの上ない。しかし今の佐古田には龍馬に勝つ力も人脈もない。

このまま奴の影に怯えて暮らすしかないのかと絶望していた佐古田。学生の身分では県外にそう易々と逃げることも出来ない。

こんなことならば進学の時に県外の高校を目指せば良かったと後悔するが時既に遅し。

そんな佐古田がある日夏休み中に街に出ると何だかいかにも怪しい男に接触された。

 

「……あんた、佐古田隆弘だろう?」

 

「……何で俺の名前を?」

 

「あんたに会いたがっている人間がいる。ついてきな。なあに、別に危害を加えようってわけじゃねぇよ。あんたにとっても悪い話じゃないはずだ」

 

「……」

 

佐古田はその男についていくことにした。理由はわからない。ただ何となく、と言ってしまえばそれまでだ。とにかく理由はない。

男が案内したのはある古い雑居ビルの一室。そこに"奴"はいた。

 

「……よう……佐古田さんよお……」

 

「お前は……?」

 

「……俺ぁ高橋ってんだ。……まぁ、座れよ。いい話がある」

 

そこにいたのは高橋。何度も龍馬を狙っては返り討ちにあったあの高橋だ。

身体はやつれ、手は震えており、目の焦点も合っていない。一目で薬物に溺れているとわかった。

佐古田は危険な香りを感じ取ったが、何故か彼の話を聞きたくなった。

思えばそれは二人とも斎藤龍馬という存在に打ちのめされたという共通の過去があったからかもしれない。

 

「"斎藤龍馬"を知っているな?」

 

「……!!」

 

またその名だ。もう嫌だ。思い出したくもない。佐古田のトラウマが呼び起こされる。

 

「……その反応を見るにやっぱり話は真実だったみてぇだな。ふふ……お前、そのまま斎藤の影に怯えたままでいいのか?」

 

「なに……?」

 

「なあ、佐古田。俺ぁ斎藤が憎い。殺してやりたいほどにな。奴一人さえ殺れればあとはどうだっていい。自分の命だって惜しくはねえ。……どうだ、佐古田?俺と手を組まねえか?お前だって過去のトラウマを克服したいだろ?」

 

「……」

 

確かにその通りだ。自分だって斎藤が憎い。だが奴は昔よりも遥かに強くなっている。

もはやいじめられっ子だったという過去など最初から存在しなかったと思うほどに。

 

「……俺は……斎藤が憎い。同じ気持ちだ。だけど奴は強い。昔よりも。……勝算はあるのか?」

 

「なに、作戦は考えてある。お前は俺の手伝いをしてくれればそれでいい。……まずは下準備が必要だ。お前の今の仲間や昔の仲間……特に斎藤に恨みを持っているような奴がいいな。集められるだけでいい。一人でも二人でもな。そいつらを集めろ。まずはそれからだ」

 

「……わかった」

 

佐古田は決心した。過去の因縁……トラウマを断ち切るには今しかないと。これがチャンスなのだと。

佐古田は高橋の言う通りに昔の仲間を当たった。幸いにもあの"龍"が目覚めた日、龍馬に一瞬で倒された二人……小学校の頃からの取り巻きの二人はすぐに話に乗ってくれた。

だが、それ以外は駄目だった。やはり龍馬の強さを知ってか、彼にーー"博多の怒龍"に喧嘩を売ろうなどという人間はなかなか出てこない。

仕方なく佐古田は二人を連れて高橋と後日再び合流した。

二人だけにも関わらず、高橋は満足そうだった。

 

「よしよし、上出来だ。それでいい」

 

「……たった二人だけだぜ?俺とお前、それにお前のチームの奴を含めても十人程度……これじゃ奴には勝てねえだろ?」

 

「焦んなよ。まだ準備は終わっちゃいねぇ……第二段階だ。俺の言う通りに動くんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐはっ……!て、てめぇ……!!高橋ぃっ……!!」

 

「よう久龍……悪いがおめぇんとこの"兵隊"もらうぜ……」

 

高橋はかつてのリーダー・久龍が一人になった所を不意討ちし、再起不能になるまで徹底的な暴力を加えた。

あの異界人のメイドを人質に取った時に自分に対して久龍が行った仕打ち。その恨みも込めて彼を痛め付ける。

突然の奇襲に久龍は成す術もなく、打ちのめされた。

 

「高橋……!て……てめぇ……」

 

「久龍よぉ……てめぇがタイマンなんかに拘らずにあの時斎藤をとっとと殺っちまえばこんなことにはならなかったんだ……恨むんならてめぇを恨むんだな」

 

高橋は狂った笑顔で手に持った鉄パイプを振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

「これで九龍の兵隊は俺達のものだ……ククク……ハハハハ……!!」

 

狂った笑い声を上げる高橋。そして力を付けた佐古田も龍馬への復讐心を燃やしていた。

今度こそあいつを、斎藤龍馬という過去のトラウマを断ち切る時だと。

だが、身を持って龍馬の強さを知っている二人は慎重に行動を重ねた。

特に高橋はーーーー薬物に依存してなお、龍馬への復讐心のみでかろうじて爆発しそうな怒りと狂気を寸前で抑えている。

久龍を滅多打ちにし、高橋は九龍のメンバーをまとめあげた。

ここで高橋にとって嬉しい誤算があった。久龍は不良ではあったが元々姑息なやり方や集団リンチなどを好まなかった彼の生ぬるいやり方に不良(ワル)として疑問を持つメンバーが多かったのだ。

万引き、強盗、引ったくり、恐喝、器物損壊、薬物……高橋はそういった久龍の好まないやり方を九龍のメンバーに許可したため、高橋に賛同し、寝返るメンバーが大勢いた。

散々痛め付けられた久龍はボロボロの状態で人気のない場所に放置された。まるでゴミを捨てるかのように。

アジトに戻った高橋は九龍の大多数を味方にしたことで更なる自信をつけていた。

そしてもうひとつーーーー彼にはある"切り札"があった。

 

「高橋、なんだよその箱は?」

 

「ククク……いくら奴が喧嘩が強くてもこれには勝てねえさ……」

 

高橋が用意したアタッシュケースの中に入っていたのはーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ち……ちくしょう……高橋め……」

 

久龍は傷だらけの身体を這いずって裏路地を歩いていた。

ーーーー九龍も奴に奪われてしまった。いや、九龍のメンバーも元々は自分のやり方に反発していた。彼は最初からひとりぼっちだったのだ。

チームこそが、自らの居場所だと信じていた結果がこのザマだ。乾いた微笑を久龍は浮かべながらある場所に向かう。

 

「さ……斎藤……頼む……間に合ってくれ……」

 

久龍は激痛の走る身体に鞭を打ちながら必死に歩いた。

そしてようやく辿り着いた先はーー"ふくまる"。あの食堂だ。龍馬と一緒にいるエルフがここで働いていると以前に聞いたことがあった久龍は何とか店まで辿り着き、フラフラと力なくドアを開ける。

 

「いらっしゃいま……えっ!?お、お客さん!?大丈夫ですか!?」

 

久龍が意識を失う直前に見たものはーー自分に声をかける金髪のエルフの少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

久龍が目を覚ますとそこはどこかの和室だった。

身体中に包帯が巻かれ、傷口に処置が施されている。

 

「あ……気が付いたみたいね」

 

「大丈夫?」

 

見覚えのあるエルフの少女と見覚えのない白いハチマキを巻いた少女。久龍はゆっくりと身体を起こした。

 

「……ぐっ……!!」

 

「あっ……まだ動いちゃダメだって!大人しくしとかなきゃ!」

 

「だ、大丈夫だ……このくらい……」

 

「何言ってんのよ!そんな酷い傷で強がってないで今は安静にしてなさい!」

 

「レナの言う通りよ。とりあえずヒールの魔法はかけておいたけど……まだ痛むみたいね」

 

「あんたらが手当てしてくれたのか……悪いな……」

 

「それよりあなた……もしかして……」

 

ディレットはその男に見覚えがあった。

かつて龍馬と一対一(サシ)で戦って敗れた、暴走族チーム"九龍"のリーダー。名前は確か……クリュウ。

 

「あなたクリュウよね?なんでここに?その傷は?」

 

「ああ……エルフの嬢ちゃん……それが……まずいことになった……高橋がまた動き出した」

 

「タカハシが!?」

 

一度目は自分をさらい、二度目は凛のライブを台無しにし、三度目は帝国からの来客であるマリーをさらい、幾度となく卑劣な手段で龍馬の前に立ち塞がったあのタカハシという男。ディレットもよく覚えていた。

 

「奴は……斎藤に復讐する気だ……今の奴は完全に狂っている……奴は斎藤に復讐するためなら何だってやるぞ……お嬢ちゃん、頼む……このことを斎藤に伝えてくれ……早くしねえと……いくらあいつでも俺の二の舞になっちまう……」

 

「クリュウ……わかったわ。すぐリョーマに伝える」

 

ディレットはすぐに龍馬に電話をし、この状況を伝えた。

 

「"ディレットか、どうした?今バイト中だろ?これから丁度ラーメン食いに行こうとおもってたんだが……"」

 

「リョーマ!気を付けて!タカハシが……タカハシがまた……!」

 

「"なに?高橋だと?おい、一体どういう……なんだテメーらは!?……くっ!すまねえ、ディレット!後で連絡する!"」

 

「ちょっと!?リョーマ!!リョーマ!?」

 

ディレットの呼び掛けも虚しく通話は切れてしまう。久龍の言う通り、高橋が動き出したに違いない。

 

「クリュウ……!リョーマが……!」

 

「遅かったか……!!クソッ……今は斎藤の腕っぷしを信じるしかねぇ……負けんじゃねぇぞ、斎藤……!!」

 

 

 

 

 

 

 

その頃龍馬は謎の刺客から突然の奇襲を受けていた。

奇襲の直前にかかってきたディレットからの電話。そしてあの忌まわしき高橋との因縁。それはまだ終わってはいなかったことを龍馬は悟る。

 

「テメーら、高橋の差し金か」

 

男達は何も言わない。この暑い中、フードやニット帽で顔を隠してただ黙って龍馬を取り囲み、戦闘態勢に入る。

龍馬一人に対し、数はおよそ十人以上。高橋もいよいよ本腰を上げてきたようだ。

 

だがーーーー龍馬には最早そんな雑魚は脅威ではない。

こちとらモノホンの衛兵や騎士を相手に戦ってきたのだ。今さらこんなチンピラどもに負ける自分ではない。

 

 

「かかってこいやぁ!!」

 

龍馬もすぐに戦闘態勢に入り、猛烈な攻撃を仕掛けた。

最初のパンチとキックで二人がノックアウト、襲い掛かる複数人も"狼牙捌き"で難なく捌いては背後からの一撃で戦闘不能にし、羽交い締めにしてきた男には強烈な裏拳で顔面を砕く。

 

「どうした!そんなもんか!」

 

龍馬の怒涛の攻撃で既に半数が地に付せている。襲撃してきた男達も本能的に悟った。

 

 

この男には、敵わないと。

 

 

「おぉりゃあ!!」

 

猛烈は背負い投げ。そして追撃の顔面ストンプ攻撃。さらに龍馬は近くにあった自転車を振り回して一気に二人を叩きのめす。

直後にスタンガンを持った男の攻撃を受けるが、難なくかわして腕を掴み、力をセーブした"断骨"でスタンガンをはたき落とす。

さらに顔面へのパンチで殴り飛ばすと、スタンガンを素早く拾って近くの男の顔面にスタンガンのスパークを容赦なく浴びせた。

力なくうつ伏せに倒れる男の後頭部に強烈なストンプ攻撃。

最後に残った一人は龍馬必殺のニーキックで鼻っ柱をへし折ってやった。

 

「ふう……片付いたな……今はとにかくふくまるへ急ごう!」

 

龍馬はふくまるへと走り、その道中で電話を再びかける。

 

「ディレットか!?今ゴミを片付けた。さっきの話、詳しく聞かせろ!」

 

「"リョーマ、まずはフクマルへ来て。会わせたい人がいるの!"」

 

「……?わかった、すぐにそっちへ向かう!」

 

比較的近辺まで来ていた龍馬はふくまるへの道をさらに急いだ。

道中は襲撃もなく、無事にふくまるへ辿り着く。店に入るとおばちゃんと愛華がいて龍馬に二階の自宅へ上がるように促した。

丁度奥からレナも出てきて龍馬は彼女に案内され、階段を登る。

 

「レナ、ディレットが会わせたい人って?」

 

「……あまり龍馬にとっては嬉しい来客じゃないかもね」

 

「……?」

 

レナが案内した先はある和室。

そこにいたのは……あの久龍だった。

 

「ディレット……それに久龍……!?」

 

「よう……斎藤……へへ、やっぱり無事だったみてぇだな。テメーはやっぱりバケモンだぜ……」

 

「……リョーマ、詳しくはクリュウから聞いて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどな……しかし久龍、手酷くやられたな?」

 

「はは、情けねえ話だぜ……高橋に遅れを取ったどころかてめぇの部下にまで見放されちまった……九龍ももうおしまいだな……」

 

久龍は苦笑しながら項垂れた。

チームは彼にとって家族同然だった。彼の家庭は父親が日常的に暴力を振るう、荒れた家庭だった。

必然的に彼も荒れていき、その腕っぷしでチームを結成。さらには父親を家から追い出し、今は母と二人暮らしだ。

だが母は鬱病になり、昔のような家庭は戻らなかった。九龍はそんな彼の唯一の心の拠り所だった。

 

「……斎藤、気を付けろ。奴は九龍のメンバーをまとめあげてお前を虎視眈々と狙っている。しかも新しい仲間もいるようだぜ。名前は確か……"佐古田"とか言ったか?」

 

「佐古田!?佐古田だと!?」

 

小・中と龍馬を悪質ないじめで追い詰め、ターボに大怪我を負わせたあのいじめグループのリーダー格・佐古田。福間海岸の短期バイトでのあの一件以来成りを潜めているかと思ったが、まさか高橋と手を組んでいるとは思わなかった龍馬。

彼は決心した。今こそ深く絡みつく過去の因縁の鎖を断ち切ると。忌まわしい過去を克服するべきなのだと。

 

「久龍……奴等はどこにいる?」

 

「……はっきりとはわからねぇ。だがどこかの雑居ビルを根城にしているらしいことは耳にした。俺が襲われたのは北天神のあたりだ」

 

「北天神っであいつらがいそうな場所と言えば……親不孝通りあたりか?」

 

「ああ」

 

"親不孝通り"とは天神北に位置する小規模の繁華街でクラブやバー、居酒屋が多く建ち並ぶエリアだ。

その不名誉な名の由来は昔、この地区に予備校が多く建ち並んでいてそこに通う学生が親からの仕送りを使って飲み明かし、遊び回る"親不孝者"が多くいたことから名付けられ、いつしかそれが地名となっていった。

久龍から情報を聞いた龍馬は立ち上がる。

 

「リョーマ……どこへ行くの?」

 

「決まってんだろ。高橋と佐古田を叩き潰しに行く」

 

「……!いくらリョーマでも危険すぎるわ!私も行く!」

 

「龍馬、待ちなよ。私も加勢するよ」

 

危険を危惧し、ディレットとレナが助太刀を申し出るが、龍馬はそれを断る。

 

「いいや、二人はここにいろ。これは俺の過去が招いた事だ。それに……佐古田は俺を六年以上苦しめたクソッタレだ。俺にやられてからビビりっぱなしだった腰抜けが性懲りもなく俺に仕掛けてくるっつーんなら……俺は奴を叩き潰してやる。二度と立ち上がれないようにな。

つーか、ディレット。お前はまだバイト中だろうが」

 

龍馬の決意は固かった。因縁の相手が二人もいるとなればこれは自分の力だけで決着(ケリ)をつけるべきなのだと。

それにあの高橋のことだ。どんな卑劣な手を使ってくるかわからない。二人を自分の過去によるいざこざに巻き込みたくはなかった。

部屋を出ようとする龍馬に久龍が背後から声をかける。

 

「……斎藤」

 

「なんだ?」

 

「……高橋はおそらくまだ何かを隠してる。絶対に油断すんじゃねぇぞ」

 

「忠告どうも。じゃあ、行ってくるわ」

 

「リョーマ、気を付けて……」

 

「龍馬、無理はしちゃダメだよ」

 

「ああ……」

 

龍馬は三人に別れを告げ、部屋を出る。

そして歩き出す。己の過去を清算するために。

 

 

 

 

 

 

 

 

親不孝通りまでやってきた龍馬。まだ昼過ぎで夜の繁華街としての顔はあまり見た目にはわからない。

飲食店のほとんどは夜の営業ばかりでまだ閉店中だ。

さて、どこから手をつけたものかと龍馬が考え始めたのもつかの間、龍馬を取り囲む怪しげな男達。

 

「カモがネギしょってやってきやがったか。丁度いい。テメーら洗いざらい吐いてもらうぜ!」

 

龍馬は拳を鳴らし、男達に飛び掛かる。

人数はさっきよりも少ない。もはや奴等ごときに龍馬は止められなかった。

龍馬は攻撃をかわして鳩尾に膝の一撃を叩き込むと近くにいた男に頭突きを浴びせて背負い投げを繰り出す。

さらに続けて飛び蹴りからのマウントパンチでノックアウトさせた。

 

「まだやるか!?」

 

「くっ……!」

 

龍馬が凄むと残った僅かな男達は逃げていく。

龍馬は倒れている男の一人の胸ぐらを引っ掴んで無理矢理引き起こすと拳を構えながら問う。

 

「一度しか言わねえぞ。答えなきゃテメーの鼻をへし折る。"高橋の野郎はどこにいる?"」

 

「ひっ……!こ……ここから北東の"天神北第二ビル"にいるよ……!」

 

「そうか、ご苦労さん。寝てていいぞ」

 

龍馬はそれだけ言うと男の顔面を殴り、気絶させる。

天神北第二ビル……そこに高橋と佐古田がいる。龍馬はビルへと急いだ。

ビルへと辿り着くと入り口前で既に待ち構えている九龍の連中が。先ほど逃走した男達も一緒だ。

 

「どきやがれ!!」

 

龍馬は先制で攻撃を仕掛け、一気に二人をなぎ倒す。続けざま龍馬は回し蹴りで一人を倒し、直後に背負い投げからの顔面ストンプで一人をノックアウト。

残るは二人。その二人も頭突きとニーキックであっという間に倒した龍馬はビル内へと突入する。

ビルに入り二階へ上がると、鉄パイプやバットで武装した九龍のメンバー達が龍馬を待ち構えていた。

龍馬は近くにあったスタンド灰皿を投げ付けてそれを牽制代わりに一気に突っ込んだ。

最初に倒した男から金属バットを奪い取ると容赦なく連中の顔面にバットを叩き込み、ひねくれたカーブどもにホームランをお見舞いしてやる。

この狭いビル内では人数の多さは龍馬に対して脅威にはならない。むしろ連中にとって不利でさえあった。

 

「どきやがれクソ野郎が!!」

 

龍馬はバットを捨てて怒りの一撃を叩き込み、それに吹き飛ばされた男がドアに叩き付けられ、ドアが開く。龍馬は気絶した男を踏みつけながらビル内を抜けて上階へと上がる。

このビルは5階建てだ。龍馬はビル内の九龍メンバー達をたった一人で倒しながら突き進む。

こんなチンピラの集まりなど、あのヴィヴェルタニア王城での戦いに比べたらどうということはないーーーー龍馬はあの死闘を経て更に強くなっていた。

そして5階の事務室に辿り着くとそこには一人目の因縁の相手が待っていた。

 

「佐古田……!」

 

「来たな、斎藤……!」

 

龍馬の脳裏に壮絶ないじめを受けた記憶が甦る。だが、トラウマを呼び起こしているのは佐古田も同じであった。

 

「斎藤……!俺はテメーの悪夢にずっと悩まされてきた……!お前に叩きのめされたあの日からずっとだ……!」

 

「人を六年以上もいじめ続けて人んちの犬に大怪我負わせたバカ野郎がどの口で言ってやがる。自業自得だろうが」

 

「うるせえ!!俺は……俺はお前に勝たなきゃなんねぇんだ!!そうしなきゃ俺は……!!」

 

佐古田は二人の取り巻きと共にナイフを取り出した。それは軍用のシースナイフであり、ナイフと言うよりはもはや短剣である。それを見た龍馬はルナ・アームを装着しようかと考えたが、止めた。

理由は二つだ。まずひとつは"日本国内でのマジックアイテムの持ち込み及び使用は原則禁止されている"こと。

ルナ・アームは龍馬こそが所有者(マスター)であると認めており、元の持ち主である女神アレクですら引き離すことはできない。それが出来るのは神界を治める神の王くらいだ。

従ってルナ・アームは所有者(マスター)である龍馬が生涯を全うするまで彼に寄り添うのである。そのため帝国の計らいで龍馬は日本政府発行の"魔道具所持特別許可証"なる物を所持している。だが、無闇やたらに使えば法に触れる恐れがある。

それとどちらかといえばこちらの理由の方が大きいのだがーーーー佐古田のような存在にルナ・アームを使うまでもないということだ。

 

「斎藤ぉぉ!!」

 

「来いよ、佐古田ぁぁ!!」

 

取り巻きの二人と共に佐古田がナイフを構えて襲い掛かる。

龍馬は取り巻きの二人のナイフをかわし、突進する佐古田に拳を叩き込んで吹き飛ばした。

佐古田がダウンした瞬間、龍馬は素早く振り返って取り巻きの二人に攻撃を加えた。

左フックがそのうちの一人に炸裂し、続けて右にいる男を蹴飛ばす。ダウンしたところに近くにあったパイプ椅子を持ち上げて叩き付けてまずは一人を倒す。

続けて左フックを喰らわせた一人が体制を立て直す前に掴みかかってからの強烈なヘッドバッド。龍馬の頭の一撃を受けたもう一人も鼻血を吹き出しながら倒れた。

ダウンしていた佐古田がナイフを再び手にして龍馬に襲い掛かるが、もはや佐古田一人など龍馬の敵ではない。

佐古田のナイフをかわした龍馬はその腕を掴んで手首に手刀を喰らわせてナイフをはたき落とす。

そして直後にーー怒りを込めて佐古田の顔面に思い切り拳を叩き込んだ。

 

「おりゃぁ!!」

 

「ぐはっ……!!」

 

佐古田はそのまま地面に倒され、鬼の形相で迫る龍馬に怯えながら後ずさる。

 

「ひ、ひぃっ……!!」

 

「佐古田。テメーは高橋と組んだくらいで俺に勝てると思ったのか。こちとら異世界に行って最強だとか鬼神だとか言われてるバケモノみたいな騎士相手に喧嘩してたんだ。今さらお前らみたいなチンピラに負けるかよ。……さて、高橋はどこだ?」

 

「……お、屋上だ……お前を待ってる……」

 

「……そうか。ならもう用はない。とっとと帰れ」

 

龍馬は踵を返して屋上への道を目指す。

だが佐古田はそれを見ると傍らに落ちていた自分のナイフを握り締めるとニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「死ね斎藤ぉぉぉ!!」

 

龍馬の背中を目掛けてナイフを構え突進する佐古田。だがーーーー

 

「いい加減鬱陶しいんだよ、佐古田ぁぁぁ!!!!」

 

振り返り様、キレた龍馬の拳が佐古田のナイフよりも先に彼の顔面を直撃する。

佐古田の鼻の骨が折れる感触が拳に伝わり、鼻から鮮血を吹き出しながら佐古田は数メートル先の壁へ叩き付けられた。

 

「……佐古田。テメーは本当にどうしようもないクズだな」

 

既に気を失っている佐古田にそう呟きながら龍馬は屋上へと急ぐ。

屋上に行くと高橋が一人で龍馬を待ち構えていた。

 

「高橋!!」

 

「よう、斎藤……やっぱりここまで来たか」

 

高橋は不敵な笑みを浮かべて龍馬を睨み付ける。

 

「いい加減しつけえ野郎だ。今度こそ決着(ケリ)をつけてやるよ」

 

「へへ、それはどうかな。テメーは確かに喧嘩が強い。だけどなぁ……」

 

高橋はニヤニヤと笑いながら自分の腰に手を伸ばす。そして彼が取り出したものはーーーー

 

「!!」

 

なんと"銃"だ。見る限りおそらくは本物。

さすがの龍馬も一瞬冷や汗を流す。

 

「どうだ、斎藤ぉ?いいオモチャだろう……?苦労したぜぇ……こいつを手に入れるのは。いくらテメーが喧嘩が強くてもこいつなら関係ねえだろ?」

 

「……お前、自分が何してるかわかってんのか。もう遊びじゃすまねぇぞ」

 

「うるせぇ!!斎藤……俺はなぁ……!!テメーさえ殺せれば後はどうだっていいんだよ!!刑務所に行こうが、死刑になろうがなぁ!!」

 

「狂ってやがる……」

 

もはや高橋に理性は存在しない。

あるのは薬物に溺れた狂気と、龍馬への憎悪だけ。高橋は自動拳銃の銃口を龍馬に向ける。

 

「……!!」

 

「斎藤……これで終わりだ。せいぜい足掻けよ?ヒャハハッ!!」

 

龍馬はその瞬間、横方向へダッシュする。それと同時に銃声が響き渡り、龍馬のいた位置へ弾痕が穿たれる。

 

「ヒャーハッハッ!!逃げろ逃げろぉ!!」

 

龍馬は屋上の室外機の影に素早く隠れ、体制を整えた。しかし高橋の狂気に満ちた笑い声が徐々にこちらに近付いてくる。

……龍馬は覚悟を決めた。本物の銃に対抗するにはこちらも武装が必要だ。ならば……

 

「高橋ぃ!!」

 

龍馬は物陰から飛び出し、高橋に立ちはだかる。

 

「……どうした?俺に撃ち殺される覚悟が出来たのか?ヒヒッ!」

 

「今からお前に"いいモノ"を見せてやるよ」

 

「……あん?」

 

その瞬間、高橋は信じられない物を目撃する。

龍馬の両手と両足が目映い光に包まれ、光が収まると彼の手足には白銀に輝く籠手が装着されていた。

 

「な、なんだそれは!?」

 

「こいつは"ルナ・アーム"。異世界のある神様からもらった神の武器さ。本当はお前ごときにこれを使いたくはなかったが……仕方ねぇ。高橋、どうだ?"いいオモチャだろう?"」

 

「くっ、クソがぁ!」

 

高橋は素早く龍馬に向けて銃弾を放つ。だが龍馬のルナ・アームは銃弾をも弾く。焦りから照準の定まらない高橋の銃弾は虚しく籠手に弾かれる。

そして一気に間合いを詰めた龍馬はそのまま高橋を殴り飛ばした。

 

「オラァ!!」

 

「ぐへぇっ!!」

 

顔の半分が陥没するほどの強力な拳撃。それを受けて高橋は屋上の柵に叩き付けられた。

 

「く……クソッ……!!」

 

龍馬に吹き飛ばされても決して離さなかった拳銃。高橋はそれを再び龍馬に向ける。

 

「甘ぇぞ、高橋」

 

高橋はさらに信じられないものを目撃する。なんと龍馬の手足が炎に包まれている。

高橋は自分が薬の過剰摂取(オーバードーズ)でおかしくなったのかと思った。

次の日瞬間、小さな火の玉が高橋の拳銃に命中し、吹き飛ばされた拳銃は柵を越えてビルの隙間へと吸い込まれていった。

 

「あ……あ……な……なんだよ……それは……」

 

「このルナ・アームには獄炎の聖霊バレンの力が宿っている。お前のピストルなんて屁でもねえぞ」

 

「なんだよそれ……わけわかんねぇよ……」

 

「わからなくて結構。テメーには理解できないだろうし、理解してもらうつもりもねぇ」

 

龍馬はルナ・アームを解除して高橋に迫り、胸ぐらを掴む。

 

 

 

今こそ、因縁を断つときだ。

 

 

 

 

「高橋、テメーじゃ俺には勝てねえ。俺に勝ちたきゃ……次は戦車でも持ってくるんだな」

 

 

 

 

そして高橋が最後に見たものは、自らの顔に迫り来る、怒れる"龍"の拳だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。龍馬はふくまるでラーメンを食べていた。向かい側には久龍も座ってラーメンを食べている。

 

「んで、久龍。その後九龍はどうなったんだ?」

 

「ああ、解散したよ。俺ももう将来のことを考えないといけないしな。いつまでも馬鹿なことはやってられねぇし……おっと、ディレットちゃん、替え玉頼むぜ」

 

「はーい!カエダマひとつね!」

 

バイト中のディレットが久龍からの注文を受けて替え玉の追加を厨房のおばちゃんに伝える。

 

「そういや、斎藤。高橋のことだけどよ」

 

「ん?」

 

「あいつ、遂に逮捕されたらしいぜ。まあ無理もないか。なんせハジキ持ってたらしいからな」

 

高橋はあの後逮捕され、警察の捜査でビルの隙間に落ちた拳銃から高橋の指紋が検出され、さらに硝煙反応もあったということで現在は勾留の身となっている。佐古田達も同様のようだ。

さらに久龍の話によるとどうやら強制的に更正施設へ送られる線が濃厚だそうだ。

 

「しかし斎藤……お前ハジキなんか持ってるヤツ相手によく勝てたな?しかも高橋はお前の両手が燃えてたとかなんとか言って怯えてたらしいが……」

 

「……クスリのキメすぎで幻覚でも視たんじゃねぇの?人間の両手が燃えるわけないだろ?」

 

「……まあ、そうだな」

 

龍馬は一瞬ドキリとしたが、ルナ・アームのことは伏せておいた。これは日本ではあまり大っぴらにしていいものではないからだ。

 

「それより久龍。お前これからどうするんだ?」

 

「ああ。とりあえずはきちんと学校に行って……整備士とか機械関係の資格を取るつもりだよ。機械いじりは好きだしな」

 

「そうか、まあ頑張れよ」

 

そう言って龍馬は再びラーメンをすする。

注文した替え玉がやってきた久龍も再びラーメンに手をつける。

 

 

 

 

因縁の鎖はこうして断ち切られ、平穏な夏休みが再び帰ってきたのであった。

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