アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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この回では再びEDENのフレアバーテンダー・ナックルさんがゲスト出演します!
更に同じくEDEN所属のフレアバーテンダー・プリンスも本人役でゲスト出演!


第64話 異世界フェス・その⑦

パン、パンと色のついた号砲が帝都の空に上がる。

今日は遂に収穫祭当日。そして異世界フェス決行の日である。

ステージイベントは昼から開催し、昼の部と夜の部に別れている。

当日に帝都を訪れた人のため、島袋が事前に用意したシルワ語のフライヤー(チラシ)をあちこちに貼り出し、道行く人々に配ったり、店先に置かせてもらったりしている。

収穫祭は大盛況で朝から帝都は昨日以上に人で溢れ返っている。

 

「さあさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!取れ立ての新鮮な野菜が沢山だよ!甘くて美味い果物も一緒にいかがかね!」

 

「うちの(ポルタット)はそんじょそこらのものとはわけが違うよ!味も食べ応えも抜群!おまけに保存も長く利くよ!さあ、買ってって、買ってって!」

 

「今日さばいたばかりのレッドボアの串焼きはどうだい!身が柔らかくて美味しいよ!」

 

露店も屋台も凄い熱気だ。様々な店に多くの人々が集中している。

だが中でも人だかりが凄いのが日本人と共同で開いている屋台だ。

 

「はい、らっしゃいらっしゃい!!美味しい美味しい焼き鳥はいかが!!」

 

「"食べられる雲"、わたがしはいらんかねー!」

 

「焼きりんご!焼きりんご美味しいよー!」

 

珍しい日本の屋台の品々に人々が集中する。

もはや半分は日本の縁日だ。ステージイベントの始まる昼までは時間があるので龍馬とディレットは二人で帝都を回ることにした。ちなみにルビィとルミナは涼子と龍一郎と共に別行動を取っている。

 

「す、すげー人だ……昨日の比じゃないぜこりゃ……ディレット、はぐれないように気を付けろよ」

 

「う、うん」

 

二人はバザー通りに向けて進む。

いつものあの場所ーーーーカムラン一家の屋台にまで来るとこれまでにないくらいの大盛況であった。

 

「ヤキウドンひとつ!」

 

「こっちはオコノミヤキふたつだ!」

 

「はい!!ヤキウドンですね!!少々お待ちを!!」

 

「あいよ!!オコノミヤキふたつだな!」

 

「はい!注文のヤキウドン、お待たせしました!」

 

「ヤキウドンは300トラム、オコノミヤキは400トラムでーす!」

 

増設した鉄板を使ってキースとグレッグが慣れたヘラさばきで焼きうどんとお好み焼きを焼き上げていく。

その隣ではマルタが出来上がった品を箱に包み、シャルルが会計を担当している。

他国から来た人々にもこの二つは大人気で、ソースの香りに釣られて多くの人々が我先にと集まってくる。中にはグレッグとつるんでいたあのゴロツキ達もいた。もちろん、ちゃんと並んで金を払っている。

小麦を使った全く新しい料理に庶民も貴族も舌鼓を打っており、カムラン一家はかなりの売上を上げていた。

そして予想通り、薬味はだいぶ減っていたので今朝までに龍馬の手配で追加で届けられている。これなら安心だろう。

忙しそうなので龍馬とディレットは黙ってその場を離れることにした。

次に彼等は噴水広場の手前までやってきた。

すると何故かテントを張った露店のひとつがやけに賑わっている。何事かと龍馬とディレットは人混みをかき分けて進む。

店からは音楽が流れており、二人がかつて出会ったある眼鏡をかけたバーテンダーがそこにいた。

 

「よっ!……っと!」

 

「おお~~~!!」

 

「すごーい!」

 

「どうやったらあんな芸が出来るんだ!?」

 

バーテンダーは酒の入ったボトルを空中に投げては巧みに操り、音楽に乗せてスタイリッシュに、そして優雅にカクテルを入れる。

その正体は……龍馬とディレットが福間海岸で出会ったフレアバーテンダー・ナックルその人であった。

 

「な、ナックルさん!?」

 

「ど、どうしてここに!?」

 

「おや、君達は……龍馬君にディレットちゃん、だっけ?いやぁ、実はさ。君のおじいさんが祭りのためにみんなに声をかけた時、その中に俺の知り合いがいてさ。俺にも声がかかったっちゃね。んで俺もこうして異世界までフレアしに来たっていうわけなんよ。せっかくだから君らもフレアを見てってよ」

 

ナックルのその誘いで龍馬達は最前列でそのパフォーマンスを見ることになった。

しかし彼がとびっきりのショーを見せると準備をした時に後ろからズカズカと割って入ってくる男がいた。

 

「何やら騒がしいが……この店は一体何の店なのだ?」

 

服装からしておそらく貴族。かなり偉そうな男だ。

 

「お、おい……あれ……」

 

「ああ。ありゃ珍しい物好きで有名なヒューイット伯爵だ……」

 

人々にざわめきが走る。

男の名はアドルファス・ヒューイット伯爵。ヒューイット領を治める貴族であり、領主である。

彼は非常に珍しい物を集めたり見たりすることを至上の娯楽としていることで有名な貴族だ。

しかしもし彼が「つまらない」と言ってしまえばそれらは彼によってボロクソに酷評され、彼の評論によって職を失ったものまで存在する。

いきなり店の前にズカズカとやってきたヒューイット伯爵に龍馬は腹を立て、文句を言おうとした。

 

「おい、あんた……!」

 

だが、彼の前にナックルが立ちはだかりヒューイット伯爵に余裕の笑みで返す。

 

「ここではフレアと言って華麗なパフォーマンスでお酒を作ってお客さんを目と舌の両方で楽しませる場所です。これからとっておきのパフォーマンスをお見せしますのでどうぞご覧になっていってください」

 

「……よかろう。ただし、このヒューイット伯爵を楽しませられなかったら……どうなるかわかっているな?」

 

「ご安心ください。きっと素晴らしい体験になると思いますよ」

 

「では、さっさと始めるがよい」

 

ヒューイット伯爵が鼻を鳴らして腕を組む。

ナックルはカウンターに入り、パフォーマンスの準備をして音楽を流す。

 

「な、なんだ!?この音楽はどこから流れている!?奏者はどこにいるのだ!?」

 

「それは説明すると長くなるので今はお気になさらず。それじゃあ……イッツ・ショータイム!!」

 

同様するヒューイット伯爵をよそにナックルは二つのボトルを華麗に操り、ボトルの酒をシェイカーに入れていく。

さらに中身が入ったままのシェイカーを空中でクルリと一回転させて観客の度肝を抜いた。

 

「な、なんで中身がこぼれねーんだ!?」

 

「ま、魔法かしら……!?」

 

「よっと!!」

 

続けて彼は空中に回転を付けて投げたボトルを空のシェイカーですっぽりと嵌め込んでキャッチした。

 

「はい、拍手ー!!」

 

「すげー!!」

 

「いいぞー!!」

 

観客から拍手が巻き起こり、場が熱狂する。

だが、ヒューイット伯爵はしかめっ面のまま睨んでいるだけだ。

 

「(確かに見たことのない催しだ。だが酒の入った瓶や容器をただ振り回しているだけではないか。このような物、大道芸人となんら変わらぬ。どうやら時間の無駄だったか)」

 

全く驚いていないわけではないがヒューイット伯爵の評価は芳しくなかった。

確かに珍しいがとびきり目を引く物ではないと既に見下した表情だった。

だがそんな中ヒューイット伯爵と目が合ったナックルはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

「(な……なんだこの男は……まだ何かあるというのか……?)」

 

ヒューイット伯爵はゴクリと唾を飲んだ。

ナックルは再びパフォーマンスを続けると今度は三つのボトルをお手玉のように空中で操り始めた。

再び拍手が巻き起こり、口笛も鳴り響く。

そしてここからがフレアバーテンダー・ナックルの真骨頂であった。

どうやらカクテルが出来上がったらしく、ナックルはカウンターに小さなグラスを取り出した。

しかしひとつではない。その数は七つ。対してシェイカーの数はひとつ。一体何を始める気なのか。

 

「はい!じゃあ皆さんよーく見ててください!世にも不思議なカクテルを今から注ぎます!」

 

皆の視線がカウンター上のグラスに集中する。

そしてナックルが手に持ったシェイカーからカクテルを注いだ。

すると青色のカクテルがグラスに注がれていく。

 

「(ふん……大げさに言うから何かと思えばただの色つきの酒か……こんなもの…………な!?)」

 

次の瞬間、ヒューイット伯爵は信じられない光景を目にする。

なんとナックルはひとつのシェイカーで更に隣のグラスへと酒を注いでいるのだが、青かったカクテルが注がれるたびに青からエメラルドブルーへ、エメラルドブルーから純粋なグリーンへ、グリーンから黄色へ、黄色から朱色へ、朱色から赤へとカクテルの色が変化しているのだ。

そして注ぎ終わる頃には七色のカクテルが完成していた。

 

「はい!これがわたくしフレアバーテンダー・ナックルの必殺技……七色のカクテル"レインボーショット"です!」

 

「すげえぇぇぇー!!」

 

「魔法のお酒だわ!!」

 

「なんて美しいんだ……!!」

 

観客達から次々に驚きの完成が上がる。

 

「(バカな!!奴は全て同じ容器で酒を混ぜていたはずだ!!ならば酒は全てひとつに混ざり、色もひとつにしかならないはず!!)」

 

ヒューイットはレインボーショットのカクテルを凝視して歯ぎしりした。

そんな彼にナックルは青いカクテルのグラスを持って近寄る。

 

「どうぞ、ヒューイット伯爵。このカクテルは全てあなたに捧げましょう。……どうぞお飲みください」

 

「むむ……」

 

ヒューイット伯爵は仕方なくカクテルを受け取り、口にする。

さらにナックルは隣のカクテルを彼に渡す。

 

「伯爵。違うのは色だけではありませんよ」

 

「なに……!?」

 

ヒューイット伯爵はそのカクテルも飲み干す。

 

「(むうっ……!?これは……まさか……!?)」

 

何かに気付いた彼は隣の、さらに隣のカクテルをも飲み干し、最終的に全ての色のカクテルを飲み干した。ナックルはそんなヒューイット伯爵を見て眼鏡を光らせてニヤリと笑った。

 

「……どうですか、伯爵?」

 

「(ば……バカな……そんな……そんなことが……!!)」

 

グラスをゆっくりとカウンターに置いたヒューイットはしばらく黙り込み、そして呟いた。

 

「あ……味が……違う……!!」

 

「味が違うだって!?」

 

「どういうこと!?」

 

そう。味が違うのだ。"全てのカクテルが"。

どう見ても酒はひとつの容器(シェイカー)の中で混ざっているはずなのに色も味も七色に変化しているのだ。

 

「味が違うのだ!全て!ひとつの容器で混ぜて作られたはずの酒が……七つ全て違う味になっている!」

 

「どうです?これがフレアバーテンダーです。言ったでしょう?目と舌でお客さんを楽しませると」

 

「……す……」

 

「す?」

 

ヒューイット伯爵はわなわなと震えながら何かを言おうとしている。

 

「素晴らしい!!なんと素晴らしい技だ!!いいものを見せてもらった!!いや、すまない。今までの非礼は詫びよう。貴殿の名はなんという?」

 

「私はナックル。異世界の国日本でフレアバーテンダーとしてバー……酒場を経営しています」

 

「そうか。ではナックルよ。貴殿は私の元で働く気はないか?褒美もたんまりやろう。それだけではない。領地も爵位も与えようぞ」

 

「……ありがたいお話ですが、私は日本を離れるつもりはありません。ですが、よろしければ伯爵。私の店に一度遊びに来てくれませんか?その時はサービスしますよ」

 

「……そうか。それは残念だ。だが異世界というのにも興味が湧いた。その時は是非行かせてもらうとしよう」

 

「ありがとうございます。……これ、名刺です。店の場所も書いてあるので。あ、文字は自分で勉強してください」

 

「うむ。かたじけない。……ナックルよ、これは代金だ。釣りはいらん。とっておけ」

 

ヒューイット伯爵はそう言って懐から大量の金貨が詰まった袋を取り出した。

 

「こんなに!?いいんですか!?」

 

「良いものには対価を支払うのは当然のことだろう。いいからとっておけ!その代わり私が貴殿の店に行った時にはまたその"れいんぼーしょっと"を見せてくれ!ははは!」

 

「……ええ、もちろん!」

 

ヒューイット伯爵は上機嫌でその場を去ろうとした。

するとその時一台の馬車が前に止まり、豪華な馬車の中からは白いドレスに身を包んだ美女が白い日傘を差しながら降りてくる。

ヒューイット伯爵はその美女を見た瞬間にぎょっとした。

 

「な……し……シルヴィア侯爵令嬢!こ、これはご機嫌麗しゅう……」

 

「あら、お久しぶりですわね、ヒューイット伯爵」

 

シルヴィア侯爵令嬢と聞いてまた辺りがざわつき始めた。

彼女の名はシルヴィア・ベルスティード。

この辺りの領地でもかなりの権力を持つクリストファー・ベルスティード侯爵の娘である。

 

「な、なぜ貴女がここに?」

 

「こちらで面白い催しを行っていると人々から聞いてやってきましたの。それで……どこにあるのかしら?」

 

「し、少々お待ちを!」

 

ヒューイット伯爵は慌ててナックルの元に戻り、彼の首に手を回して耳打ちする。

 

「(な、ナックルよ。必ず彼女を楽しませてくれ)」

 

「(いや、ちょ、あの方誰なんです?)」

 

「(彼女はクリストファー・ベルスティード侯爵の一人娘だ!頼むぞ、ナックルよ!もし彼女の機嫌を損ねるようなことがあれば私の首まで危うくなる!) 」

 

「(ええ!?何とんでもないプレッシャーかけてくれちゃってるんですか!?)」

 

「(仕方ないだろう!まさかこの場に彼女が現れるなど私だって予想もしていなかったのだ!とにかく頼んだぞ!)」

 

そしてナックルから離れた伯爵は引きつった笑顔で「こちらです、シルヴィア侯爵令嬢」と店の前に案内するとそそくさと姿を消した。

ナックルは仕方なくもう一度レインボーショットを披露することにした。再びボトルを握り、空中を舞わせ、カクテルを作っていく。

 

「お酒を混ぜて作っているのね。不思議な音楽……それに宙を舞う瓶……こんな催しは見たことがないわ」

 

そしてクライマックス。七色のカクテルが注がれ、シルヴィアが目を見張る。

 

「まあ……!なんて不思議で素敵なお酒なのかしら!まるで宝石のようだわ!…………あら、味も違うのね。本当に不思議なお酒ね」

 

「(よかった。喜んでもらえたっぽいな)」

 

シルヴィアは満面の笑みを浮かべており、ナックルは内心ホッと胸を撫で下ろしていた。

だがその時辺りにゴロゴロと何か転がるような音が響き、ナックルが音のした方を見る。

 

「ほ~い、追加の酒と氷持ってきたよ~」

 

台車にクーラーボックスを乗せてナックルと同じバーテンダーの服を着たホクロが特徴的な男性がやってきた。

 

「(だああ!一番めんどくせえ時に一番やらかしそうな奴が戻ってきやがった!)」

 

ナックルは内心焦りを感じた。

その男性はシルヴィアに気付くと声をかける。

 

「そこの綺麗なお嬢さん、うちの店のカクテル飲んだの?」

 

「ええ。とっても美味しかったわ。ところで貴方は?ここのお店の方かしら?」

 

「ええ。申し遅れました。俺プリンスっていいます!なんなら略してPさんって呼んでくれても……いいんだZE☆」

 

「(終わった。俺の人生異世界で終わった)」

 

指を差しながらポーズを取り、名乗りを上げる彼の名はプリンス。ナックルと同じ店で働くバーテンダーだ。

 

「まあ、面白い殿方ですこと。あなたもお酒を作れるのかしら?」

 

「ええ。あちらのマスターには叶いませんが俺も多少は。そうだ、俺がお嬢さんのために特別なカクテルを作ってあげますよ!」

 

「あら?それは嬉しいわ。是非お願いするわね、うふふ」

 

「オッケーイ!じゃあ、行くぜ!ミュージックゥ……スタートォ!」

 

 

 

\オマエノコトスキダケド…オレ…ホストダカラ…ヨロシクゥ!/

 

 

 

 

そのBGMが流れた瞬間、今まで空気になっていた龍馬とディレットがつぶやいた。

 

「何だよこの変な曲」

 

「完全にネタ臭がするね」

 

「ところでナックルさん、なんか顔が死んでね?」

 

そんな二人の呟きと死人の顔になっているナックルにはお構い無しにプリンスはフレアを行う。

 

「はい、お嬢さん!好きな数字は!?」

 

「数字?そうね……7かしらね」

 

「はい、7ぁ!じゃあ、今からボトルを7回連続でシェイカーで連続キャッチしますよ!さあ、皆さんご一緒に!せーの……1!2!3!4!5!6!」

 

プリンスは見事に空中で何度も連続でボトルをキャッチする。

そして運命の7回目。

 

「7ぁ!!」ツルッ

 

「あ」

 

「あ」

 

「あ」

 

キャッチし損ねたボトルは地面に落下して派手に割れ、辺り一体の時が止まった。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……はい!というわけでね!練習はここまで!それじゃあ、本番行っちゃうよ!?レディー、ゴー!」

 

プリンスは割れたボトルをそそくさと片付けて新しいボトルとシェイカーを用意するとまるで何事もなかったかのようにフレアを再開する。

龍馬達がチラリとシルヴィアを見ると彼女はクスクスと笑っている。意外にも受けているようだ。

そして無事に(どこが無事だ)カクテルを入れ終えて差し出すとそれを飲んだシルヴィアは「美味しい」ととても喜んでいた。

どうやらシルヴィアの機嫌を損ねずに済んだようだ。ナックルは自分の寿命が縮まったような気がした。

そしてシルヴィアから二人に"ある物"が渡された。

 

「"ふれあ"という異世界の催し……とても素敵でしたわ。……こちらの方々に礼金とあれをお渡ししなさい」

 

「はっ」

 

従者が金貨の詰まった袋と装飾の施された箱を用意する。

ナックルが箱を開けるとそこには一枚のスカーフが入っており、生地には紋章が刺繍されている。

 

「ふう……少し酔ってしまったみたいだわ。涼しい場所で休むとしましょうか。……それでは皆様、ごきげんよう」

 

シルヴィアは優雅に馬車に戻ると従者を引き連れて馬車を進ませ、帝都の川の方へと姿を消した。

ナックルがスカーフを広げるとそれを見た観客が驚く。

 

「そ……!それは……!ベルスティード侯爵家の紋章!ベルスティード侯爵かシルヴィア侯爵令嬢が認めたほんの一部の人間にしか渡さないという信頼の証だぞ!」

 

「ま、マジかよ!あんたらすげえな!」

 

観客から再び歓声が巻き起こり、場はヒートアップする。

そして再びナックルとプリンスはフレアを行う。

宙を舞うボトルが夏の日差しに照らされて美しい光を放っていた。

 

 

 

 

 

 

観客が落ち着いたころ、龍馬とディレットはナックルとプリンスの二人と会話をする。

 

「それにしてもナックルさん凄いですね。異世界の貴族に認められるなんて」

 

「私達もヒヤヒヤしましたよ。そしてあの七色のお酒!ほんとに綺麗だったなぁ」

 

「ありがとう、二人とも。いや~しかし……一時はどうなるかと思ったけど……何とか乗りきったね」

 

「まさかあのお嬢さんが侯爵令嬢とか知らんやったけんさ……」

 

「服装で察しろや。ここは異世界やぞ。コスプレイヤーやないんやぞ」

 

「まあまあまあ……言うじゃない、終わりは良ければ全て良し、ってね」

 

「下手すりゃ俺達の人生ここで終わっとったぞ。マジで勘弁してくれ」

 

「まあ、反省してます。……それより君達は?」

 

プリンスが話題を反らすように龍馬達に話し掛けてきた。

龍馬達は自分とナックルの関係を彼に説明する。

 

「そーかそーか……君達はまだ学生なんやねぇ。じゃあお酒は飲めんね。でも大丈夫。この俺がノンアルコールでスペシャルなカクテルを作ってやるZE☆」

 

「いや、お前はさっき落としたシェイカーを洗ってこい。彼等のカクテルは俺が作るよ」

 

「んもぅ、いけずぅ。……じゃあ君達大人になったらうちの店に来なよ。その時こそ……俺が……スペシャルでアダルティーなカクテルを作ってやるんDA☆ZE☆」

 

「は、はあ……どうも……」

 

「んじゃ、またね。バーイ」

 

プリンスはシェイカーを洗うために二人に別れを告げて店から離れていく。去り際にナックルさんが「キモッ」と言っていたような気がするが多分気のせいだろう。

そして龍馬のディレットにはナックルから夏ということでトロピカルなノンアルコールのカクテルが振る舞われた。

二人はそれをご馳走になると礼と別れを告げて店を去っていった。

二人が去った後ナックルはベルスティード侯爵家の紋章が入ったスカーフを再び手に取る。

 

「(ま、でも……異世界来て良かったな。いい体験出来たし)」

 

その後このスカーフは店の壁に額縁に入れて飾られ、フレアバー・EDENの家宝としていつまでも大切に保管されることとなる。

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