アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第7話 入学準備とうまいもの

「ううん……もう朝か」

 

龍馬はベッドからもそもそと出てスマホを手にする。

時刻は11時半。朝と言うよりもう昼だ。春休みでバイトも無いなのでついつい長く寝てしまう。

 

「母さんからLINE来てる……」

 

 

 

『ディレットちゃんの入学手続きして制服やら教材やら買いに行ってくる。朝飯はカレーぬくめて食べときー』(※ぬくめて=『温めて』の意)

 

 

 

「そうか……二人は出掛けたのか……」

 

龍馬は目を擦りながら洗面所に向かい、歯磨きと洗顔を済ませる。

その後台所へ向かい、カレーを温めて食べる。うん、カレーはやっぱり一晩置いたものが美味い。そう思いつつ、二杯目のおかわりをする。朝は腹が減るのだ。

カレーを食べながら、天気予報を見る。今日は一日快晴と表示されている。雨は降らないらしい。2分後には……誰も来るわけない。

 

「天気いいみたいだし、ゲームするのもあれだしな……よし……ちょっくらバイク乗り回してくるか」

 

朝食を終えた龍馬は自室に戻ってライダースジャケットを着込んでバイク用のブーツを履く。

プロテクター入りのグローブと白いフルフェイスヘルメットを持ってガレージの愛車へと向かう。

そこには黒いカラーリングのカワサキ・Ninja250。一年前、免許を取得して買った龍馬の愛車だ。

 

エンジンをかけ、しばらく暖気した後、ヘルメットを被ってグローブをはめ、バイクにまたがる。

 

「よっしゃ、行くか!」

 

軽快なエンジン音と共に龍馬のNinja250は走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、制服似合っとるね~」

 

ディレットを連れて入学手続きを終えた涼子は、次は制服の採寸に来ていた。

彼女は龍馬と同じ、福岡中央高校へ通う予定だ。

異世界と日本が繋がってから一年。異界人の留学先として受け入れを始める学校も全国で増えてきた。龍馬の通う福岡中央高校もそんな学校のひとつだ。

福岡中央高校の女子生徒の制服は黒と緑のチェックのスカートに青のブレザーと白のワイシャツ、それに赤いネクタイだ。異界人であるディレットは初めて着る学校の制服をとても気に入っていた。

 

「ありがとうございます。これ、とても素敵な制服ですね!」

 

「せやろ?ここの制服はあたしも福岡の高校の中じゃかなりしゃれとんしゃ~ね~と思いよったんよ」

 

「しゃ……しゃれ……?」

 

よくわからない単語を発した涼子の発言にディレットは困惑する。

 

「ああ、ごめんね。"しゃれとんしゃー"というのは福岡の方言、つまり博多弁で"お洒落だね"って意味たい」

 

「へ、へえ……」

 

涼子はかなり訛りがきついので時々話している内容がわからない時がある。昨日の夜もそうだ。「すまんけど、この皿出しっぱやと明日しゃーしぃけん、なおしとって」と言われてディレットはわけがわからなかった。

"しゃーしぃ"というのは博多弁で"うるさい"、"やかましい"、"鬱陶しい"、"めんどくさい"などのニュアンスで使われ、"なおす"は修理や治療という意味ではなく、"しまう"、"片付ける"という意味である。

 

「採寸終わったらご飯食べに行こか。もうお昼やし」

 

「は、はい!」

 

そうして採寸を終え、二人は昼食を取るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

バイクで家を出た龍馬は、志賀島(しかのしま)へと来ていた。隣には黒いアメリカンのバイク。

ヤマハ・ビラーゴ。勇斗の愛車だ。

 

「エルフのお嬢さんは制服の採寸ね……んで、暇潰しの相手に俺が選ばれた、と」

 

「なんだよ、お前も暇だったんだろ?」

 

「まあな。だけどお前から連絡来た時はてっきり紹介してくれるって話かと思って少し期待したんだがな」

 

「心配しなくてもあとで紹介してやるって。もう昼過ぎだし、俺が帰る頃にはあっちも帰ってくるだろうよ」

 

龍馬は暇そうにしていた勇斗を捕まえ、福岡で有名なツーリングスポット、志賀島へと誘ったのだ。

ここ志賀島は福岡県新宮町と"海の中道"と呼ばれる陸の通路で繋がっている小さな島である。

しかしこの島にはある歴史がある。ここ志賀島はあの有名な漢委奴国王(かんのわのなのこくおう)の金印が出土した島なのだ。天明4(西暦1784年)2月23日に甚兵衛(じんべえ)という地元の百姓がたまたま発見したと言われている。

歴史の教科書にも載るほど有名な金印が出土した場所ではあるのだが、集まる客はどちらかというとツーリングやドライブ目当ての客が多い。

島の自販機でコーヒーを買って一息ついた二人は他にやることもないので適当にぶらつきながら帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

ディレットと共に昼食を取り終えて帰宅した涼子は自宅でディレットからある物を受け取った。

 

「まあー……これは見事なタペストリーやね」

 

ディレットの母マリアが織ったエルフのタペストリーである。

 

「昨日バタバタして渡すの忘れちゃって……それ、お母さんが織ったんです。サイトウさん一家によろしくって。気に入っていただけるといいんですけど……」

 

「エルフのタペストリーっていったらかなり高いやつやん。こら立派なお土産をもろうたばい。ありがとね。さて、どこに飾ろうかね」

 

涼子はタペストリーをいたく気に入ったらしく、ウキウキしながら飾る場所を探している。

 

「(お母さん、ありがとう)」

 

ディレットは心の中で故郷の母に礼を言った。

涼子はしばらく迷ったあと、タペストリーを玄関の靴箱の上に飾ることにした。

タペストリーを飾り終えた頃、外からバイクのエンジン音が聞こえてきた。

 

「お、あいつ帰ってきたな。ディレットちゃんあんたガレージまで出迎えに行っちゃりぃ。あいつ喜ぶやろうけん」

 

「リョーマが?わかりました、行ってきます」

 

ディレットは靴を履いてガレージへと向かった。ガレージには黒い鉄の馬を乗り入れている龍馬がいた。

龍馬は黒く分厚い服にブーツを履き、頭には不思議な材質の丸く白い兜のようなものを被っている。

 

「おかえり、リョーマ!…すごいね!この鉄の馬はなに?」

 

「ああ、ただいまディレット。こいつはバイクって乗り物さ。車と同じくエンジンで走るんだ」

 

「へぇ、すごい!馬よりも速いの?」

 

「そりゃもちろん。馬なんか軽くブチ抜けるぜ。ちょっと見てみるかい?」

 

「うん!」

 

龍馬はバイクをガレージから出して家の前の通りを軽く走る。バイクと龍馬の姿はみるみるうちに遠ざかってしまった。しばらくしてまた家の前に龍馬は戻ってくる。

 

「……どうだ?」

 

「すごいすごい!ねぇ、これ私も乗れるかなぁ?」

 

「あー、すまん、そりゃ無理だ。車やバイクってのは免許が必要なんだ。金出して学校に通って試験受けて通らないと乗れないんだよ。それにクラッチとかギアチェンジとか複雑な操作が必要だからディレットには難しいと思うぞ」

 

「そっかぁ……ちょっと残念」

 

ディレットは残念そうに肩を落とした。

 

「あ!じゃあ後ろに乗ったりとかは!」

 

「すまん、それも無理だ。日本の法律では二輪車、つまりバイクに二人乗りするには免許を取得してから一年経たないと乗せちゃいけないんだよ。俺は去年の5月に取ったからあと2ヶ月経たないと乗せられないな」

 

「うぅ、ニホンって厳しいのね……」

 

「ま、たぶん向こうの世界よりはめんどくさいルールまみれだからな」

 

「じゃあ、リョーマ!2ヶ月経ったら"ばいく"の後ろに乗せてね!絶対だよ?」

 

「え?お、おう……」

 

反射的に龍馬は了承の返事をしてしまう。

金髪エルフの美女とバイクでタンデム。なんだこのギャルゲーみたいな展開。クラスの男子にバレたら袋叩きに合うかもしれない。

 

「そ、そうだ。もし時間があるならあとで出掛けないか?俺の友達がディレットに会いたがっててさ」

 

「リョーマの友達?わあ、会ってみたい!そういえばね、帰る途中でリョーコさんが私の服とか色々買ってくれたの!丁度着て出掛けてみたかったんだ!じゃあ、着替えてくるね!」

 

「ああ」

 

ディレットはニコニコしながら家に戻っていった。龍馬もライダースジャケットから普段着に着替えるため、自室に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせ、リョーマ。どうかな?似合ってる?」

 

着替えを済ませて出てきたディレットの服装は白いロングスカートに黒のキャミソールとグレーのカットソーTシャツ。落ち着いた色だが、スタイルの良いディレットにはよく似合っていて龍馬は返事を忘れて思わず見とれてしまっていた。

 

「……リョーマ?」

 

「……ん?あ、ああ!とてもよく似合ってるよ」

 

「ほんと?ありがとう!それにしても異界の服の生地って凄いのね。伸び縮みするんだもん」

 

ディレットはシャツの袖をつまんでクイクイと引っ張っている。ゴムなどが存在しない異界ではこのような生地は珍しいらしい。

 

「それじゃあ、行こうか。友達と待ち合わせているところがあるから」

 

 

 

 

しばらくして……大衆食堂・"ふくまる"

 

 

 

「おーす」

 

待ち合わせ場所であるふくまるに着くと、先に勇斗がカウンターに座っていた。

 

「よう」

 

「あらあら、龍ちゃん」

 

「龍ちゃん、いらっしゃい」

 

厨房にはおばちゃんと娘の愛華がいた。愛華は早くに夫を亡くしたおばちゃんが女手一つで育ててきた一人娘だ。今は美容師になるために専門学校に通う傍ら、家業を手伝っている。

 

「おばちゃん、愛華姉ちゃん、こんちわっす」

 

挨拶をする龍馬の傍らには耳の長い金髪の美女。一目で異界人のそれとわかる。

 

「おっ!龍馬、その娘が噂の?」

 

「まあまあ、凄くべっぴんさんだねぇ」

 

「すごーい!ほんとにエルフの女の子だ!髪きれーだね!」

 

「はじめまして。異界のアルカ帝国領内・トルトの森からニホンにやってきました、エルフ族のディレット・アドミラシルです。よろしくお願いします」

 

ディレットは前に出て丁寧にお辞儀をした。

 

「めっちゃいい娘じゃん!龍馬、お前も憎い男だねぇ、このこの」

 

にひひ、と笑いながら勇斗が肘で小突く動作を見せる。

 

「さあ、立ち話もなんだから座んなさい」

 

おばちゃんが二人に勇斗の隣の席に座るように促す。二人は勇斗の隣に続けて座った。

 

「ディレット、紹介するよ。このむさくて黒い奴が俺の高校の友達の城島勇斗。んで、厨房にいるのが店主のおばちゃんと娘の愛華姉ちゃん」

 

「むさくて黒いって随分な言われようだな、それ。まあいいや、勇斗でいいぜ。よろしくな、ディレット」

 

「ハヤトっていうのね。よろしくね」

 

それぞれ自己紹介を済ませた直後、ディレットの腹からなにやら音が鳴り響く。

 

「あ……あはは……ごめんなさい、ここすごくいい香りがするからお腹すいちゃって……」

 

「いいんだよ、うちは食堂なんだからね。さ、なんか食べるかい?」

 

おばちゃんがカウンターの上に立ててあるメニューをディレットの前に差し出す。

ひらがな表記が多いため、ある程度はディレットにも読めるのだが、いかんせん聞いたことのない料理ばかりで何がなにやらわからない。

 

「とりあえず、ラーメンでいいんじゃね?」

 

「ラーメン?」

 

「うどんとはまた違う麺料理さ。ラーメンって言ってもスープの味が色々あるけど、福岡って言ったらやっぱりとんこつラーメンだな」

 

「じゃあ、私はそれで!」

 

「俺もラーメンでいいや。龍馬、頼む」

 

「了解。おばちゃん、ラーメンバリカタ3つ!」

 

「はいよ、バリカタ3つね」

 

おばちゃんは注文を受けると、厨房奥の大きな鍋に向かってラーメンを作り始めた。

待っている間に愛華がお冷やを出してくれたのだが、ディレットはこれにも驚いた。

愛華がグラスをなにやら箱のようなものの窪みに置いてボタンを押しただけで氷と綺麗な水が注がれたではないか。

保存技術の発達していない異界側において、氷は貴重だ。その氷がこんなにも沢山使われていて、水も非常に美味しい。なんという贅沢であろうか。

 

「すごい……あれどうなってるのかな?」

 

「何?ウォーターサーバーが珍しいの?」

 

「うぉーたーさーばー?」

 

「日本語だと"給水機"って言うんだけどね、まあ、簡単に言えば中のタンクに綺麗な水が入ってて機械の力で冷やしてるの。氷も同時に中で作ってるのよ」

 

ウォーターサーバーをまじまじと見つめるディレットに愛華が丁寧に説明してくれた。

 

「機械の力ってすごいのね……事前にニホンのことを学んでなかったらきっと氷の精霊を使役してるか魔法を使ってるって思うわ」

 

「ウォーターサーバーを珍しがるなんて、ディレットちゃんは本当に異世界の住人なんだねー。というか、向こうには精霊とか魔法とかほんとにあるんだね!ディレットちゃんは魔法を使えるの?」

 

「ええ。精霊魔法を少し。突風を起こしたりとかちょっとした火を起こしたりとか……」

 

「へええ!今度見てみたいなあ」

 

その時丁度ラーメンが出来上がったらしく、龍馬達三人の前に三つのラーメンが出てきた。

スープの表面に脂が浮かんでキラキラと光っていて、濃厚で深みのある香りが三人の食欲を刺激する。

 

「うわあ、美味しそう!いただきます!」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

(絵・かなめさん @kaname_pooh__)

 

 

 

ディレットはいくらか使い慣れてきた箸を手に取り、ラーメンの麺を口に運んだ。

硬めに茹でられた細長いストレート麺が濃厚なとんこつスープとよく合う。

さらにラーメンの上に乗ったチャーシューなる肉の薄切りも非常に美味しい。

レンゲを使ってスープを一口飲んでみると、濃厚なスープの味わいが麺を食べた時よりもより深く広く口の中に広がり、さらに食欲を増進させた。

 

「……ふぅ、美味しい!」

 

「だろ?ラーメン屋は多くあれど、おばちゃんの作るラーメンが一番うまいぜ」

 

「異世界の人にも気に入ってもらえてよかったよ。とんこつラーメンは味も脂も濃いから好きな人と嫌いな人が両極端でね。……はい、これはディレットちゃんにサービスさ」

 

そう言っておばちゃんが出したのは白い皮のようなものに包まれた何か。一部分がこんがりと焼き上がっていて香ばしい香りが漂ってくる。

 

「これは?」

 

「これは"餃子"って料理さ。そこにある"ギョーザのタレ"を付けて食べとくれ」

 

ディレットは龍馬にタレの容器を教えてもらい、タレに付けて餃子を食べた。

こんがりと焼けた白い皮はパリッとしている。その中にはジューシーな挽き肉と野菜が詰まっていて酸味のあるタレと絡んで思わず口を押さえてしまうほどだった。

 

「どうだい?」

 

「……とっても美味しいです!ありがとうございます!」

 

「ふふ、気に入ってもらえてよかったよ。あたしも作った甲斐があったもんさ。ほら、あんたらにも今日だけは特別だよ」

 

おばちゃんはそう言って龍馬と勇斗にも餃子を一皿ずつサービスしてくれた。

三人はラーメンと餃子を無言で貪るように食べ、しばらくするとスープまで飲み干した空のどんぶりと餃子の無くなった皿があるのみとなった。

 

「あぁ……美味しかった……ニホンに来て良かった……」

 

膨れたお腹をさすりつつ、ディレットはラーメンと餃子の余韻に浸る。

 

「よかったらこれからもうちの店をひいきにしておくれ。今日は来てくれてありがとね」

 

「はい!是非通わせていただきます!」

 

お金さえ確保出来れば、必ずこの店に通おう。そう、心の中で決めたディレットであった。

食事を終えてしばらく龍馬達はおばちゃんや愛華と雑談をし、その後商店街をディレットに案内してブラブラしつつ、夕方頃に帰宅するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜・斎藤家……夕食の席にて

 

「今日の晩飯は餃子やで」

 

「餃子さっき食ったっつーの!!」

 

「(ギョーザ……!!まだ食べたい……!!)」

 

「よかろうもん、別に。餃子うまいやんか。水入れて焼くやで~」

 

「おい!!それ水じゃない!!三ツ矢サイダー!!おいやめろこの酔っ払い!!」

 

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