ステージイベントまでには時間があるため、露店を再び見て回る龍馬とディレット。
そろそろ腹の虫も鳴り出したのでここらで何か食べておきたい。
何か美味そうなものはないかと探していると何やら嗅ぎ慣れた香りが漂ってくる。
この濃厚な香りは……
「帝国の皆さん、美味しい美味しいとんこつラーメンに甘くてうまい、焼き菓子はいかがですかー?そのほか色んな飲み物やデザートも揃えてますよー!」
やはりふくまるのとんこつラーメンの香りだ。
大きめのテントの中はちょっとした店になっており、調理場ではおばちゃんが鍋でラーメンを作っており、愛華が配膳をレナとともにやっている。
作られる料理の他に大きな業務用クーラーボックスが置かれ、中には冷たいラムネやお茶やジュース、アイスクリームなどが入っており、ひっきりなしに売れている。なお、設備の電気はガソリン駆動式のバッテリーで動かしているようだ。そのため周辺がちょっとやかましい。
「レナの奴、やってるなぁ」
「あっ、龍馬にディレットちゃん!いらっしゃい!食べてく?」
わざわざ異世界まで来てふくまるのメニューを食べるというのもどうかと思うが、あの香りには抗えない。これは福岡県民の性なのだ。
というわけで出張:ふくまるアルカ帝国帝都店にて食べ慣れた味を堪能しようと注文をする龍馬とディレット。
「おばちゃん!」
「はいよ、龍ちゃんはラーメンバリカタね。ディレットちゃんも同じでいいかい?」
「はい!」
二人をよく知っているおばちゃんは注文をせずとも内容を既に悟っていた。
そしていつものあの味を食べた時、言い様のない安心感を感じた。
ラーメンを食べ終えた時、目の前にプリンが置かれた。
「はい、これはサービスね」
色も形も整ったプリン。
レナ特製のそのプリンは生クリームとさくらんぼが添えられていて、ほろ苦いカラメルソースと相まって非常に美味い。ぷるんとした感触が口の中でとろけるようだ。
龍馬達が食べている間も異界の食べ物に興味深々の人々が店に集まってくる。
特に人気なのが"辛い料理"だ。レナやおばちゃん特製の庶民も貴族も、唐辛子というこの世界の人々に珍しい刺激の強い香辛料は目を引いた。
大盛況の最中、店の暖簾をくぐったある団体が店内の客の度肝を抜いた。
「ほう、このような作りになっているのか」
「見たことがない作りの露店ですね、父上」
褐色の肌に髭をたくわえた逞しい男性と整った顔立ちの少年。誰が見ても一目で王族だとわかる。
忘れるはずがない。彼等はーーーー
「あ、アティウス王に……エドワード!?」
「む……そなたは……まさかリョーマ君か?これは奇遇だな!」
「リョーマ!久しぶり!ここで会えるなんて!」
アティウスもエドワードも異界の友である龍馬との再会を喜ぶ。
よく見ると騎士団のアーヴィング、ゴドム、オフィーリアの三人も一緒に同行していた。
「やあ、リョーマにディレット。ここで会えるなんてね」
「全く奇遇だなぁ!ハッハッハ!」
「久しぶりだな、ディレット。元気にしていたか?」
ヴィヴェルタニアの王族と王国最強の騎士達が勢揃いというこの状況に周囲の客達はどよめく。
いくら祭りとはいえ、露店のひとつにこのような顔ぶれが揃うなど絶対に有り得ないことであった。
龍馬は彼等と共に一番隅にある大きなテーブルに移動する。
そんな彼等を見て客達は皆食べる手が止まってしまっている。
「おっと。流石に王族がいては皆緊張するなと言うほうが無理だろうな。そこな女主人と給仕の娘たち。少しよろしいかな?」
「は……はい!」
「え?!あ、はい!」
「な、何でしょう!?」
相手が他国の王族と知って固くなるおばちゃんとレナと愛華。
そしてアティウスはレナに近付くと大量の金貨が詰まった袋を渡す。
「え!?」
「今この店にいる全ての者達よ!今宵は無礼講である!この場の支払いは全て私が受け持とう!皆存分に食い、飲むがよい!……給仕の娘よ。それで皆に好きなだけ食わせてやってほしい。……もし足りぬのならば追加で払うが」
「い、いえ!じゅ、充分すぎです!」
「そうか。ならば良い。皆にも私達にも美味い料理を頼むぞ」
ニッコリと笑うアティウスのその言葉を受けてレナ達は固くなりつつも調理場へ向かう。
しばしの静寂の後、店内は大いに盛り上がった。
「やったぜー!!今日はアティウス王の奢りだー!!」
「ヴィヴェルタニア万歳!アティウス王万歳!」
ほとんどが帝国在住にも関わらず皆がアティウスを持ち上げている。現金なものだ。
そこへ気を利かせたおばちゃんと愛華がプラスチックのコップにビールサーバーからビールを注いで全員に配る。
全員で乾杯をした後、皆が一気にビールをあおる。
「ふむ。これがビールか。冷やしたエールといったところだが、この冷たさとキレと苦味……暑い夏にはたまらない酒だな」
黄金色に輝く異界の酒を眺め、アティウスはぐいっとビールを飲み干した。
騎士団の三人も初めて飲むビールに舌鼓を打った。
「かーっ!!うめえ!!なんだこのよく冷えたエールは!?」
「これがビールか。異界にはこんな美味い酒があるんだね」
「このキレと苦味と爽快なのど越し……暑さで火照った身体にはたまらない一品だな」
そんな大人達を見ながら龍馬、ディレット、エドワードのお酒飲めない三人組はコーラを飲んでいる。
「うーんこの。未成年の俺にはイマイチピンとこない」
「僕らにお酒はまだ早いもんね。しかしこの"こーら"も刺激があるけどなかなかに甘くてクセになるね。……ゲェェップ」
「ちょっと、エドワード!」
「はは、ゴメンゴメン。しかしこれは絶対にゲップが出ちゃうね」
どこかで見たようなデジャブを感じるやり取りをしたところでアティウス王が頼んだふくまるオススメの料理が運ばれてくる。もちろんとんこつラーメンだ。
白く濁ったスープに麺が入っている様はアティウス達からすればなかなかに異様だが、濃厚な香りに釣られて遂に口にする。
「……うむ!美味い!脂がなかなかに濃厚だが味わい深いスープ……それに麺に対しそのスープがよく絡んでさらに美味さを引き出している!」
アティウスが美味そうに食べる様子を見て最初は躊躇していた騎士団の三人もラーメンを食べ始め、やはりフォークとスプーンが止まらなくなっていた。
そんな中、エドワードだけが巧みに箸を使ってラーメンを食べている。
「おっ、エドワード。お前箸の使い方美味くなったじゃん」
「あれから小さな棒を使って少し練習したんだ。だいぶ上手く使えるようになったよ」
龍馬の脳裏にあの夜、焚き火を皆で囲んでカップラーメンを食べた記憶が甦る。
そういえばあの時にエドワードは異界の食文化に初めて触れたのだった。
「エドワード、この店ちなみにディレットのバイト先な」
「え?そうなのかい?」
「異世界フェス計画の一環で帝都にふくまるは福岡から出張店舗をこうやって出してんだよ。ようやくふくまるのラーメンを食うことが出来たな、エドワード」
「そうか……これが彼女が働いているお店の味なんだね」
さらにラーメンをすすり、完食した彼等の前に餃子に唐揚げ、さらに帝都で水揚げされた魚のフライがレナ特製のタルタルソースと共にテーブルに置かれる。
その料理の数々にビールを合わせながらたらふく飲み食いするアティウス王一行。
この中でオフィーリアが特に辛い料理に高い関心を示した。
「給仕の娘。先ほどの料理の中にあった"キンピラ"とやら、辛くてなかなかに美味だった。よければ他にも何か辛い物を頼む」
「あれ、お姉さん辛党?なら任せてよ!」
レナはすぐにおばちゃんと調理に取り掛かる。
そして出来上がった料理をテーブルに運んできた。
「お待たせ!中華の定番"麻婆豆腐"!それに唐辛子ソースで炒めたチャーハンだよ!」
「ほう。よい香りだ。なかなかに美味そうだな。では……」
オフィーリアは躊躇なく麻婆豆腐とチャーハンを口にする。
しかしかなり辛く作ってあるにも関わらず、オフィーリアは黙々と食べていく。
「ふむ、美味いな。だが辛さが物足りぬ。娘よ、もっと辛く出来ないか?」
「うっわ……お姉さん、なかなかの辛党だねぇ……なら兵器レベルで辛くしてあげる!後で泣いたって知らないよー!」
レナは追加でもう一度麻婆豆腐を作る。しかし麻婆豆腐はもはや麻婆豆腐と呼べないほど、まるで溶岩のように赤くなっている。
さらにもう一品、追加でおばちゃんにラーメンを頼み、それをとことんまで辛くしていく。
「お待たせ!真龍寺レナ特製、超激辛麻婆豆腐と溶岩ラーメンだよ!これ完食出来たらお姉さんバケモンだね!」
「ほほう……これはこれは……期待できそうだな」
「ただ、お姉さん気を付けてよ。こりゃもう料理ってレベルじゃないからね。大量の唐辛子はもちろん、たっぷりの豆板醤とカイエンペッパー、追加で最強の唐辛子のハバネロとブート・ジョロキアを刻んだものをたっぷり、さらに死人が出るほど辛いと有名なデスソースを麻婆豆腐とラーメンそれぞれに一本丸々ぶちこんでるんだから。無理だったら残していいからね」
「なかなかに強気じゃないか。どれ……」
オフィーリアはレナ特製の超激辛麻婆豆腐を掬って一口食べる。
「……なるほど、これは辛いな。死人が出てもおかしくないぞ」
しかしそう言いながらもオフィーリアは表情ひとつ崩さずに麻婆豆腐を食べ、溶岩ラーメンも何も感じないと言わんばかりにズルズルとすすっていく。
「いくら辛いからって死人が出るわけないだろ、オフィーリア。どれ、俺様にも一口食わせろ」
「あ、おい、ゴドム!お前はやめた方が……!」
オフィーリアは制止するがもう遅かった。
ゴドムは横からスプーンで超激辛麻婆豆腐を掬ってパクリと食べてしまう。
「ほらな。特にそんな…………………………」
「お、おい、ゴドム……?」
「……………………………………」
様子がおかしい。ゴドムは急にピクリとも動かなくなった。
そして次の瞬間。
「ぐぇえええぇええぇええっ!!!!か、辛ぇっ!!死ぬ!!死んじまうぅぅっ!!!!み、水ぅ!!!!」
まるで顔の内側が燃やされるような残虐的なまでの辛さにゴドムはその場でのたうち回る。
当然である。実はこの時レナが作った超激辛麻婆豆腐と溶岩ラーメンは辛さの単位を計るスコヴィル値と呼ばれる数値で言うならば約150万スコヴィルに達するほどの辛さを持っていた。
一般的なタバスコの辛さが5000スコヴィル前後なのでこの麻婆豆腐とラーメンはタバスコの約300倍の辛さということになる。
もはやそれは辛味というより"激痛"に近い。そんなものを食べれば常人ならゴドムのようになって当然だろう。
「ゴドムよ……一体何をやっておるのだ……そのようなもの、我々から見ても明らかに危険なのがくらいわかるだろうに。しかしオフィーリアよ。お主はこれを食べて平気なのか?」
アティウスはのたうち回るゴドムを見て呆れ返りつつ、これほどに危険な辛さと見ただけでもわかるものを食べてケロリとしているオフィーリアを見て驚きを隠せない。
「ええ。確かにかなり辛いですが、なかなかに美味です。よければ王もいかがですか?」
「……ゴドムのあの様子を見た後では死んでも嫌だとだけ言っておこう……私は辛いものは苦手でな。それならば甘いものを食べたいところだ」
「そんなアティウス王に私からサービスだよ。はい、皆さんもどうぞ」
レナは皿をアティウス王と騎士達の前に置く。
「おお、これは……一体何かな?何やら甘くていい香りがするが」
「これはプリンと言って牛乳と砂糖と卵液を加熱して凝固させたあとに冷やしたお菓子です。
ついでに私が出したものは"焼きプリン"で表面を高温の炎でさっと軽く炙ってるんですよ!」
「何、そのような菓子は聞いたこともない。どれ……おお」
アティウスはレナ特製の焼きプリンを一口食べる。ぷるんとした不思議な食感と共に口の中でそれはとろけ、続けてカスタードの滑らかな食感と炙った部分のほのかな香ばしさ、そしてカラメルソースのほどよい苦味が濃厚な甘味と共にやってくる。
「ふむ……何とも贅沢な味わい……しかし良いものだ。このプルプルとした食感が……クセになるな……む」
食べたことのない美味さゆえに夢中になって食べていたら焼きプリンはあっという間に無くなってしまった。
少し残念そうなアティウスであったが、すぐに追加でレナが焼きプリンを置く。
「まだまだたくさんありますからいっぱい食べてってください!王様がそんなに喜んでくれるなら私、頑張っちゃいますよ?」
「おお。これはありがたい。実は私は甘いものには目がなくてな。普段は王という立場ゆえ、民に面子が立たないので甘い菓子はなるべく取らないようにしているのだが……たまにはよかろう。では、頂くとしよう」
アティウスはプリンにスプーンを立てると、さらに口に運ぶ。
普段は自分にも他人にも厳しいあのアティウス王が満面の笑みで異界の菓子を口に運ぶ姿を見てエドワードもアーヴィングもオフィーリアも驚いていた。
「(驚いたな……王があれほどまでに笑みを見せるなんて……僕は初めて見たよ……)」
「(僕も父上のあのような顔を見たのは初めてです……)」
「(しかし王が甘党だったとはな……)」
今食べていた焼きプリンをすぐに食べ終わり、さらにおかわりをしたアティウス。
結局彼は焼きプリンを五つもも平らげてしまったのであった。
食べ終わった後、食後の冷たい緑茶がレナから振る舞われた。
「ほう。この茶はよく冷えていてすっきりした味わいだな。暑い日には丁度いい」
「緑茶といって私達日本人の馴染みのお茶です。和菓子なんかと共に日本では熱いお茶をお出しするんですが、今日は暑いので冷たい緑茶にしました」
「ふむ。確かにこの茶は菓子とも揚げ物とも愛称が良いな。すっと身体に染み渡るようなすっきりとした渋みと味わいがある。しかも氷入りとは……至れり尽くせりだな」
カラカラとコップの中で音を立てる氷と透き通るような緑色の緑茶を眺め、アティウスは再び緑茶を口にして飲み干した。菓子を食べた後には丁度よい味だ。口の中をすっきりと洗い流してくれる。
「すまない、娘。超激辛マーボードウフのおかわりをいただけるかな」
そんな中、オフィーリアはあの兵器レベルの麻婆豆腐を平らげ、さらに同じものをおかわりした。
これにはアティウスもアーヴィングもエドワードもドン引きしており、"紅蓮のオフィーリア"は辛さという括りの中でも紅蓮の異名であることを思い知らされるのであった。
それからゴドムだが、おばちゃんからもらった氷を腫れた唇に当ててまだ悶えていた。
食事を終えたアティウス一行は店を出る。
龍馬とディレット、ふくまるの一同は店の外まで見送りに出た。
「ありがとうございました!」
「王様に来ていただけるなんてとても光栄です。本当にありがとうございました」
おばちゃんと愛華が深々と頭を下げる。
「何をおっしゃいますやら。礼を言うのはこちらの方でございます。異界の酒や料理や菓子……こちらの世界では味わえない一時を楽しめました。ありがとうございます」
アティウス、それにエドワードと騎士達も王にならって頭を下げる。
そしてアティウスの前に歩み出たレナが紙袋を彼に渡した。
「アティウス王、これはお土産です。私が焼いた特製のクッキーですよ!」
「これはありがたい。頂くとしよう。ところで娘よ、そなたの名は?」
「私ですか?真龍寺レナっていいます!」
「うむ、勇ましくも麗しさを感じる良い名だ。レナよ、ありがとう」
レナは甘党のアティウスのためにお土産用のクッキーも作っておいたのだ。アティウスは笑みを浮かべてそれを受け取る。
「押忍!こちらこそありがとうございました!」
「おす……?」
聞き慣れない言葉にアティウス王は困惑する。
「こちらの世界の空手という武道で使う挨拶です。こうやって拳を握って腰の横で構えて……」
「ほう、そうなのか。ではこちらも……"オス!"……これで良いのかな?」
「そうそう!そんな感じです!」
「はは、何だか気持ちが引き締まるような感じがするな」
「えへへ、それが目的でもあるんですよ、この挨拶は」
アティウスはレナにならって教えてもらった空手の挨拶で挨拶と礼を返す。彼なりの粋な対応だ。そして彼はレナにある物を渡した。
「これは……?」
それは剣と盾を象ったレリーフに猛き獅子の紋様が彫り込まれた首飾りであった。
「それはヴィヴェルタニア王家との親交の証。つまらぬものだが、生憎金以外には持ち合わせがこれしかなくてな。
……シンリュージ・レナ。そしてこの店の者達よ。そなたらの料理、とくと堪能させてもらった。久々に楽しい時を過ごせたぞ。またいつか、そなたらの料理を食べさせてくれ」
「……あ、ありがとうございます!押忍!」
父親の一連の粋な対応にエドワードも思わず笑みがこぼれた。そして彼等はふくまるに別れを告げて店を後にする。
この後は龍馬に教えてもらったバルガスの下宿先である竜の髭亭へと足を運ぶつもりだ。
「父上、不思議な雰囲気を持った娘でしたね」
「うむ、だがあれこそが彼女の魅力であり、それに皆引き付けられるのだろうな。ニホンでもおそらく商売繁盛していることだろう」
一般の人間とは毛並みが違う、それでいて人を引き寄せる不思議な魅力を持ったあの真龍寺レナという少女。
そんな彼女のいる"ふくまる"と出会ったこの思い出を大切にしつつ、アティウス達は歩を進める。
可能ならば、また彼女達の振る舞う料理を食べたいと願いながら。
「おーい!こっちに"とんこつらーめん"ひとつくれ!」
「こっちには"チャーハン"をお願いね!」
「はいよ!ラーメンひとつにチャーハンひとつね!」
「少々お待ちくださーい!」
ふくまる帝国出張店は更なる大盛況だ。
あの後、店内にいた者達が「ヴィヴェルタニア王家のお墨付きの店がある」と帝都の人々に話したおかげでその噂を聞き付けた人々が続々と集まってきたのだ。
龍馬とディレットが帰った後も客足は止まない。ふくまるは嬉しい悲鳴に包まれた。
そんな噂を聞き付けてやってきた男が一人。あのヒューイット伯爵である。
「(ヴィヴェルタニア王のお墨付きと聞き付けてやってきたが、最近は利益のために評判を騙る店も少なくない。どれ、このヒューイット伯爵が事の真相を確かめてやるとするか)」
昨今では利益を上げるために平気で有名な貴族や果ては王族のお墨付きなどという評判を流す悪質な店も少なくない。
もしそのような店であればただちにこのアドルファス・ヒューイットがその正体を暴いてやろうと意気込んでいた。
「お待たせしましたー、ご注文をお伺いします!」
頭に白いハチマキを巻いた活発そうな給仕の少女がヒューイット伯爵に注文を取るために近付いてきた。
シルワ語で書かれたメニューを見ながらヒューイット伯爵はチラリと少女に目をやる。
「ああ、そうだな……ん!?」
ヒューイット伯爵は少女の首に掛けられた首飾りに目がいった。そして彼はそれが何か分かった瞬間、度肝を抜かれることになる。
「(なっ……!?あ、あの首飾りは……まごうことなきヴィヴェルタニア王家の紋章!あれはヴィヴェルタニアのアティウス国王が直々に渡す以外には持ちようがないはずだ!ま、まさか王家のお墨付きというのは真実だったのか……!?一体何なのだ、ニホン人というやつは!!)」
暑さからではない、脂汗を額に浮かべながらヒューイット伯爵はわなわなと震え、戦慄した。
「?どうかしましたか?」
「……い、いや、何でもない。そうだな、この"らーめん"とやらと……それから噂の"ビール"という酒をくれ」
「はい!かしこまりました!……おばさん、ラーメンひとつとビールひとつ!」
「あいよ!ちょっと待ってね!」
アルカ帝国の隣国・ヴィヴェルタニア王国のアティウス王に直々に認められたふくまる出張店はのちに"王家の舌が認めた店"としてアルカ帝国とヴィヴェルタニア王国、両方で伝説として語り継がれることになる。