アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第66話 異世界フェス・その⑨

ふくまる出張店舗を後にした龍馬とディレットはそろそろステージイベントの始まる時間のため、噴水広場へと向かう。

丁度広場に着いた辺りで別行動を取っていた勇斗や千春とも合流した。

 

「お、龍馬。楽しんでるか?」

 

「ああ、結構な。それよりさっきさ……」

 

 

 

 

 

 

 

「へえ、なるほどねえ。ふくまる出張店舗にアティウス王達が……」

 

「大層喜んで帰ってったよ。バルガスに会いに行くって言ってたから今頃は竜の髭亭にいるんじゃないかな」

 

「斎藤、あんた失礼なこと言わなかったでしょうね」

 

「オメーは一言多いんだよ須崎!」

 

龍馬はアティウス王一行と出会った先ほどの話をしながらステージの開幕を待つ。

ステージには噂を聞き付けた多くの人々が集まってきている。周囲にはバーカウンターの露店をはじめとした様々な店がバザー通りに負けないくらい集まっており、人だかりが出来ている。

特に普段は飲めないよく冷えた飲み物がたっぷりあるので人々は集中していた。

本来ならば夏の時期の氷は貴族や王族しか使えない貴重品。冬の間に作っておいた氷を洞窟に保管したものを夏に取り出して使うのである。

もちろん、取り出せば運び終える前に大半が溶けてしまうのでそういった一部の階級の人間ですら僅かにしか使えなかった。

そんな貴重な氷をそれを日本から船で手配して帝都のあちこちに冷凍庫を設置して使っているのだ。

そんな貴重な氷をふんだんに使われた異世界の飲み物やデザートが安い価格で誰でも買える。誰しもが店に殺到した。

 

「"カンビール"をひとつくれ!」

 

「"カキゴオリ"をひとつ!」

 

「"らむね"とやらを二本ちょうだい!」

 

冷たく冷えたビールやラムネに麦茶。氷を贅沢に削ったものにシロップをかけたかき氷は瞬く間に売れていく。

龍馬達もラムネを買って飲みながらステージを眺める。

いよいよ時間になり、主催(オーガナイザー)の島袋がマイクを持ってステージに現れる。

 

「"アルカ帝国の皆様!そして収穫祭にご足労いただきました他国の皆様!こんにちは!

本日は私達日本人によるステージイベントをお披露目したいと思います!我々はこれをお祭りを表す言葉『フェスティバル』を略して『フェス』と呼んでいます!"

フェスは夜の部もありますのでどうぞ皆様楽しんでいってください!"」

 

マイクによる大きな音声に民衆は少し驚いたが、冒頭のスピーチを終えて頭を下げた島袋に皆拍手を贈る。

しかし見たことのない道具が沢山置かれていて一体何が始まるのか、人々には皆目見当も付かない。

 

「あのニホン人達は一体何を始める気だ?」

 

「さあ……お芝居ってわけじゃなさそうだけど……」

 

未知の催しに人々から好奇の目が向けられる。

トップバッターであるDJの島袋が機材をセッティングして再びマイクを握った。

 

「"これから皆さんにお見せするのは僕達の世界で『DJ』と呼ばれているものです。今から僕を初め、DJ達が音楽を流し続けます!皆さんは存分にお酒を飲みながら、踊って楽しんでください!"」

 

島袋のその言葉を聞いて人々は首を傾げ、ある者は怪訝な顔をする。

「音楽を流す」と言っていたがイマイチピンとこない。

 

「でぃーじぇい……ってなんだ?」

 

「音楽を流すとか言ってたけど……宮廷音楽師みたいなものかな?」

 

「でも舞台にはあの人しかいないわよ。どうやって音楽を演奏するのかしら?」

 

人々がざわつきはじめる中、島袋は今日のこのために組んだセトリ(※『セットリスト』の略。アーティストやDJが演奏したり流したりする曲の順番を記したリストのこと)の曲を流し始めた。

大音量でスピーカーから音楽が流れ、人々が動揺し始める。

 

「な、なんだこの大きな音は!?」

 

「一体どこから出ているんだ!?」

 

聞いたこともない音楽に奏者もいないのに大音量で流れる音楽。未知に対する恐怖心が人々の中にはあったが、徐々に落ち着いてくるとだんだんとテンションが上がってくる。

 

「なんだか楽しくなってきたな!」

 

「ああ!聴いたことがない音楽だが、身体が勝手に動いちまうぜ!」

 

一気にテンションが上がった人々は皆が一斉に踊り出した。さらに大きな音楽を遠くから聞き付けてさらに人が集まってきた。

次々に流れるEDMの音楽に乗せられて皆大いに飲み、躍り、楽しんでいる。

ラムネを飲み終えた龍馬はもう一本買おうとディレット達から離れて一人でラムネを買いに行く。

すると店の側で日傘を差した一人の女性がキョロキョロとしており、不安そうな顔をしている。

 

「あれは……」

 

龍馬はその顔に見覚えがあった。

白いドレスに白い日傘。先ほどナックルの店にやってきたシルヴィア侯爵令嬢だ。

 

「あの……」

 

「え……?な、なんでしょう?あら、あなたは……」

 

「はい、さっきナックルさんの店にいた者です。どうしたんですか?」

 

「こちらの部隊の催し物を聞いてやってきたのですが……人混みが激しくて従者とはぐれてしまったのです。困りましたわ……お金も何もかも従者が持っているのですよ……」

 

あまりのこの人の多さにシルヴィアはどうやら同行している従者の人間と離ればなれになってしまったようだ。あまり一人で出歩くことに慣れてないのか、とても不安そうである。

しかしこの人混みの中から従者を見つけ出すのは並大抵のことではない。それに彼女をここに置いておくわけにはいかなかった。

 

「シルヴィアさん、よかったら従者の方が見つかるまで俺と一緒にいませんか?」

 

「えっ?よいのですか?」

 

「金も持たずに困ってる女性をほっとくわけにもいかないでしょう。……ちょっと待っててください」

 

龍馬は店にいってラムネを二本買うと、そのうち一本のラムネの瓶の蓋を開ける準備をする。

 

「それは……?」

 

「これはラムネという甘い飲み物です。……シルヴィアさん、すぐに飲める準備を」

 

「えっ?一体何を……」

 

「よっ!」

 

龍馬はラムネの瓶の飲み口を塞いでいるビー玉にプラスチックの蓋を当てて上から叩く。

その瞬間、ポンといい音がしてビー玉が下に落ち、中のラムネが一気に泡立って噴き出しそうになる。

 

「さあ、早く飲んで!こぼれるから!」

 

「は、はい!」

 

慌ててシルヴィアはラムネの瓶を受け取って言われるがままにラムネを飲む。

シュワッとした炭酸の刺激とほのかな甘味のラムネが乾いた喉を潤してくれる。

 

「ふう……これはとても美味しいですわね」

 

「でしょ?俺達の国じゃ夏の風物詩なんですよ」

 

龍馬は話ながら歩き、ディレット達の元へ戻る。事情を説明すると三人は彼女を快く受け入れてくれた。

そのまま飲み物を飲みつつ、EDMフェスを楽しむ龍馬達。

シルヴィアも最初は日傘を差したままフェスの様子を眺めていたものの、徐々に身体がリズムを刻み初めた。そして日傘を閉じるとドレスの袖を捲って龍馬達と一緒に踊り始めた。

 

「なんだかとても楽しいわ!舞踏会や晩餐会とも違う……心も身体も踊って仕方がないの!ああ、こんなに楽しいのはいつぶりからしら!」

 

「フェスですからね!はっちゃけないと損ですよ!」

 

ーーーーシルヴィアは幼い頃から侯爵家の一人娘として英才教育を施されてきた。

貴族の娘として産まれた彼女に自由などあるはずもなかった。毎日毎日、父に雇われた複数の家庭教師に勉学を叩き込まれ、貴族の作法は父と母に厳しく教えられた。

だがシルヴィアはそれを苦とは思わなかった。

貴族として、人の上に立つ者としてそうするのは当たり前だと思っていたし、ベルスティード家の名を汚さぬように、父と母の想いには応えなければならないと自分を戒め、勉学に励んだ。

だが、心のどこかで庶民の娘のように同じ年頃の子達と自由に遊びたいと願う心があったのも事実だ。

やろうと思えば機会はあった。だが誰しも彼女のことを"シルヴィア・ベルスティードという一人の女性"として見てくれる者など存在しなかった。

誰から見ても自分は"シルヴィア侯爵令嬢"であり、自分の影にいる父の権力に怯えて顔色を伺うばかり。先ほどのヒューイット伯爵などまさにそれだ。

だから彼女は望まなかった。いや、「望むことなど許されなかった」のである。

だが、目の前にいるこの少年達はどうだ。気遣いはしているものの、それはあくまで「困っている女性を助けよう」程度のものであり、自分が貴族であることはあまり気にしていない様子だ。

そんな彼等を見てシルヴィアも少し心のつかえが取れたような気がしたのだ。だからこそこうして抑えていた心を解放して楽しんでいる。

 

「"皆さーーん!!楽しんでますかーー!?フェスはまだまだ続きますよー!!"」

 

島袋が次のDJと交代し、違う音楽が流れはじめた。

歓声が上がり、人々の熱気が夏の日差しにも負けないほどにグングン上がっていく。

庶民も、貴族も、兵士も、騎士も、全てがフェスを平等に楽しみ、大いに熱狂した。

ある程度タイムテーブルが進むとここで一旦音楽が止み、照明が激しく光り始めた。

そしてステージに設置されたフォグマシンから排出されるスモークがステージを包み、見えなくなる。

 

「な、なんだ!?火事か!?」

 

人々は一瞬動揺するが、しばらくするとスモークがおさまり、そこには赤と青の貴族風の衣装を纏った凛とアメリアが立っていた。遂に彼女達の出番が来たのだ。

 

「"皆さん、こんにちは!私は日本からやってきた、伊月凛といいます!これからこの親友のアメリアと皆様に歌をお届けします!皆様どうかよろしくお願いします!"」

 

「"セイレーン族のアメリアと申します!今日私はニホンで出来た親友のリンと共に歌を披露したいと思いますので、皆様応援をよろしくお願い致します!"」

 

二人の挨拶に人々が惜しみない拍手を贈る。

そして音楽が流れ始め、二人がその高い歌唱力を披露した。

このフェスのためにスケジュールを詰めて練習を重ねた。その成果を今こそ見せる時だ。

最初は黙って見ていた人々も徐々にその歌唱力に魅せられて手拍子や声援を贈るようになる。

もちろん龍馬達も遠くからではあるが、手拍子をして声援を贈る。

 

「さすが凛ちゃん!歌うめえな!」

 

「あの方々は……リョーマさんのお知り合い?」

 

「はい。二人とも自分が通う学校の生徒です。この"異世界フェス"も彼女の案なんですよ」

 

「そうなのね……ふふ、とても素敵な方々ね」

 

二人のステージは数曲に渡って続く。

そしてラストの曲を終え、二人の出番は成功を収めた。

 

「"皆さん、ありがとうございました!でも、フェスはまだまだ続きます!それから、昼の部の終了後は帝都の町中を『何か』が走る催しがあるそうですよ!お楽しみに!"」

 

「"それでは、ありがとうございました!次は夜の部で会いましょう!"」

 

再び二人に惜しみない拍手が贈られる。

そして再びDJ陣にバトンタッチし、再び会場は熱気の渦に包まれる。

 

「『町中を何かが走る』……?一体何かしら?」

 

凛がステージの上で語った思わせぶりな告知にシルヴィアは首を傾げる。

走るということは馬車の類いか何かなのかと考えたが、彼女には皆目見当も付かない。

そうこうしているうちに昼の部は無事に終了し、会場は夜の部への準備に移った。

 

「みんな、城の前に行こうぜ」

 

「ああ、あれだな」

 

「あれだね」

 

「あれね」

 

龍馬達はどうやらこの後の催し物の正体を知っているようで、会場から移動をする。

 

「皆さん……これから一体何が始まるんです?」

 

「ああ、それはやm「第三次大戦だ」

 

ゴリラが横から割って入って来たのでケツを思い切り蹴っ飛ばして無理矢理退かせる。

ケツを押さえながら悶える勇斗を放置して龍馬はシルヴィアに説明をする。

 

「このゴリラ野郎が大変失礼しました。今から始まるものは俺達の故郷・福岡の博多という町で700年以上の伝統を誇る"博多祇園山笠"という祭りの催し物です。まあ、見ればわかりますよ」

 

「???」

 

従者も以前として見つからないのでシルヴィアは龍馬達に同行することにした。

どうやらその"ハカタギオンヤマカサ"というものは城の城門前で始まるようで、既に多くの人々が集まっていた。

そして開門と同時に褌(ふんどし)と法被を着た男達が大きな舁き山を抱えて城から出てくる。

 

「オイサ!!」

 

「オイサ!!」

 

「オイサ!!」

 

「オイサ!!」

 

あの特徴的な掛け声とともに大勢の手によって大きな舁き山が帝都の町中を駆け抜ける。

しかしシルヴィアはそれを見て思わず赤面した。

 

「な、なんなのあれは!?お尻がほとんど丸見えじゃない!」

 

「まあ、そういうのを着て走る祭りですから。でも迫力はあるでしょう?」

 

確かに迫力は凄い。あのような装飾の施された飾り物を大勢の男達が掛け声とともに凄いスピードで運んでいく様は息を飲む迫力がある。

そしてよく見ると"台上がり"と呼ばれる山笠の上に乗って舁き手の男達を指揮する役目を担当しているのはまぎれもない、龍馬の祖父の平蔵だ。

 

「あ!あれじーちゃんだ!若い時は博多で山笠担いでたって言ってたもんなあ」

 

舁き山は城門を出て帝都の北に向かい、そこから東門前に向けて走る。その後、バザー通りを北上して噴水広場に向かい、そこから再びバザー通りを引き返して貴族街を走る。最後はレクシア大聖堂前でゴールインだ。

龍馬達はゴール地点へと移動し、クライマックスを見届けることにする。

舁き山が走るその様に帝都中の人々が驚き、中には掛け声を真似しながら後を追いかけてくる子供達もいた。

博多の伝統の祭りが異世界の町を駆け巡り、人々は大いに盛り上がった。

そしていよいよレクシア大聖堂前へ舁き山が到達する。

広い帝都を駆け抜け、走り終えた男達の前に大聖堂からノエルとアレクが現れ、賞賛の言葉を贈った。

 

「皆様、ここまで本当にお疲れ様でした。私達帝国の民は祭りのために異世界から足を運んでくださった貴殿方の勇姿を決して忘れません。本当にありがとうございました」

 

「異世界の祭りの行事、とくと見せてもらった。ニホンの民達よ。お前達のおかげで他の神へのよい土産話が出来たこと、感謝しよう」

 

そしてこの山笠を計画した平蔵に対し、ノエルから感謝の印として首飾りと草冠が贈られる。

その様子を遠くから見ていた龍馬達が拍手し、それをきっかけに周囲の人々も拍手をする。

その後、この舁き山は帝国と福岡・博多の交流の証としてレクシア大聖堂で保管され、飾られることとなった。

これでフェスの昼の催しは全て終了した。

後はクライマックス。花火が上がる夜の部だ。

 

「シルヴィアさん!夜は花火が上がりますよ!」

 

「ハナビ?」

 

「夜空に上がる光の花です!とても綺麗ですよ!」

 

「まあ!それは是非見てみたいわ!」

 

夜空に咲く光の花。そのようなものは今まで見たことがない。それは是非とも見てみたいとシルヴィアは胸を高鳴らせた。

だが、ここで思わぬ事態が起こる。

こちらに向かって息を切らしながら走ってくる男性。見覚えがある顔だ。

 

「お嬢様ーーーー!!やっと見つけましたぞーーーー!!」

 

「うわ、カーティスだわ……」

 

彼の名はカーティス。シルヴィアとはぐれた従者であった。かなり汗だくであり、様子からして相当走ったらしい。

 

「ハア……!ハア……!やっと見つけた……!さあ、お嬢様。旦那様がお待ちです。帰りますよ」

 

「嫌よ。私は夜の"ハナビ"とやらを彼等と見るの。お父様にはそう伝えて」

 

「何を言います、お嬢様!……ムッ!貴様らだな!お嬢様をたぶらかしたのは!」

 

そう言ってカーティスは龍馬達を睨み付ける。

 

「カーティス、違うの彼等は私を助……」

 

「お嬢様!安心してください!お嬢様の身はこの私めが命に変えても守りますぞ!うおおおお!!」

 

早合点したカーティスはシルヴィアの制止も聞かず、龍馬に殴りかかる。

だがその攻撃は大ぶりで龍馬は難なくかわす。ついでに勇斗は鼻をほじりながらそれを見ている。

再び殴りかかるカーティスの拳を軽々と受け止め、龍馬は反射的にカーティスの横っ面を殴ってしまった。

 

「ぐはっ!」

 

「あ、やっべ」

 

倒れこむカーティスだがすぐに起き上がり、龍馬を再び睨み付けた。

 

「おのれ、お嬢様をたぶらかす不埒者め……!今度こそ……!」

 

「おやめなさい!!」

 

聞く耳を持たないカーティスに業を煮やしたシルヴィアがたたんだ日傘で頭を思い切り殴り付ける。

 

「ぎゃっ!!」

 

「いい加減になさい、カーティス!!彼等はあなたとはぐれてしまった私を助けてくれたのです!!恩人に手を出すのであればこの私が許しませんよ!!」

 

「し、しかし……」

 

「口答えは許しません!それともお給金を半分に減らされたいのですか!?」

 

「ひ、ひぃっ!それだけはご勘弁を!」

 

シルヴィアの一喝でようやく大人しくなったカーティス。

その後彼は約三十分に渡ってシルヴィアにこっぴどく叱られたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「大変失礼致しました……私の早とちりでご迷惑をお掛けしました……」

 

あの憤慨した様子が嘘のようにしおれてしまったカーティスは龍馬に深く頭を下げ、謝罪した。

どうやらカーティスは普段からシルヴィアを想うが故に早合点する悪い癖があるようで、その事を彼女に特に指摘されて落ち込んでいる。

 

「まあ、誤解が解けたならそれでいいですよ。それよりお願いがあるんですけど、シルヴィアさんを夜の部にも行かせてくれませんか?」

 

「うむう……お嬢様の恩人の頼みであれば断れないのですが……私の一存ではそれは……旦那様の許可がなければ……」

 

「……よし、じゃあシルヴィアさんの親父さんに直談判しに行こうぜ」

 

せっかくみんなで企画した異世界フェス。特に夜の部が本番と言っても過言ではない。

そんな一番の見所を見ずに帰るなどあまりにももったいない。龍馬はベルスティード侯爵に直接話を持ちかける気でいた。

 

「斎藤!あんたはそうやってまた面倒なことに首を突っ込んで……!第一、貴族の方が私達の話なんて聞いてくれるわけないでしょ」

 

「あー、須崎。多分もう何を言っても無駄だぜ。こいつ一度言い出したら聞かねえからな」

 

「チハル、私もハヤトと同じ考えよ。それにせっかくだし、頼むだけ頼んでみようよ。もしかしたら許してくれるかも」

 

「……ディレットまで……はあ……まったく、面倒なことになっても知らないからね」

 

勇斗とディレットに言いくるめられて千春も渋々了承した。

どうやらベルスティード侯爵は貴族街に住む貴族の一人でベルスティード家と交流のあるハリスン・トレヴァー伯爵家の屋敷に滞在しているらしい。龍馬達はカーティスの案内でトレヴァー邸へと足を運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

ベルスティード侯爵は屋敷の一室でトレヴァー侯爵と茶を嗜みながら会話をしていた。

 

「はっはっは。クリストファーよ。娘に振り回されてお前も大変だな」

 

「いや、まったくだ。あの娘は一体誰に似たんだか……」

 

もう日が傾いているというのに未だにシルヴィアとカーティスは戻らない。

日没までには帰ってこいと伝えたにも関わらず、だ。

その時部屋のドアがノックされ、向こうから聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

「……旦那様、私です。カーティスでございます」

 

「……入れ」

 

「失礼します……」

 

ゆっくりとドアが開き、カーティスがおそるおそる部屋に入ってくる。

 

「カーティス。日没までには帰ってこいと言ったはずだが?それにシルヴィアはどうした?」

 

「それが……その……」

 

「お父様。それについては私から説明しますわ」

 

後からシルヴィアが龍馬達を引き連れてぞろぞろと入ってくる。

見知らぬ少年達を招き入れたことでベルスティード侯爵は怪訝な顔をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど。娘が世話になったな。だが夜の部に娘を出すのは許さん。夜は危険な輩もウロウロしている時間帯だ。娘を危険に晒すわけにはいかぬ」

 

「そこを何とかお願いします、ベルスティード侯爵。この異世界フェスは俺達が陛下達と協力して企画したんです。シルヴィアさんにもそれを楽しんで欲しいんです」

 

「……君の気持ちはわかった。だが私も貴族である娘が大事なのだ。……そうだ、礼はせねばな」

 

ベルスティード侯爵は怪訝な顔のまま立ち上がると鞄から袋を取り出して龍馬に渡す。

 

「それは娘が世話になった礼だ。すまんがそれで帰ってくれないか」

 

ベルスティード侯爵はしかめっ面のまま龍馬にそう言い渡した。

龍馬が中を覗くと大量の金貨が詰まっている。

だがその金貨を見た瞬間、龍馬の中で何かが切れた。

 

「ふざけんな!!!!」

 

龍馬は大声で怒鳴り付けると、ベルスティード侯爵の顔面に金貨の詰まった袋を思い切り投げ付けた。

袋が激しくぶち当たり、中の金貨が音を立てて辺りに散らばる。

 

「り、リョーマさん!?」

 

「あわ、あわわわわ……」

 

シルヴィアが驚き、カーティスは恐怖で震え上がっている。

 

「テメーの娘の面倒を従者に任せておいて何父親面してんだ、このアホが!!しかもこんな金を仏頂面で渡しやがって!!俺達をバカにしてんのか!!」

 

「き、貴様……!!言わせておけば……!!」

 

痛む顔を押さえながら、ベルスティード侯爵は怒りに震え、目の前の少年を睨み付ける。

今まで誰一人としてベルスティード家に逆らった者はいなかった。名前を聞くだけで皆、身を震わせたものだ。

だがこの少年はどうだ。身を震わせるどころか、激怒して自分を怒鳴り付けた。謝礼金を叩き付けてまで。こんな男は見たことがない。

 

「……よかろう!そこまで言うならシルヴィアの外出を許可してやろう!ただし!」

 

次の瞬間、ベルスティード侯爵は上着を脱ぎ捨てて上半身を露にする。

そこにあったのは貴族とは思えぬ鍛え抜かれた肉体。シルヴィアですら初めて見る父の屈強さに誰もが驚いた。

 

「軟弱な男に娘を預けるわけにはいかぬ!どうしてもというならこの私を倒してみせよ!」

 

「……へっ!上等だよ!!」

 

龍馬も上着を脱ぎ捨てて上半身を露にし、構えを取った。

 

「ほう。やはりこのクリストファー・ベルスティードに喧嘩を売るだけのことはあるな。貴様、小童の分際でなかなか修羅場を潜っているようだ」

 

「俺の故郷は"修羅の国"って言われててね。喧嘩なんて日常茶飯事なんだよ。おっさんこそ、貴族のくせによく鍛えてるじゃないか」

 

「私をそこらの貴族と一緒にしないでもらおう。いくら貴族といえど男たるもの他者に身の安全を委ねるようでは自分の身すら守れぬ。……さて、おしゃべりはここまでにしよう。小僧、名は?」

 

「龍馬。斎藤龍馬だ」

 

「そうか、ではリョーマよ……行くぞ!!」

 

「来やがれ!!」

 

 

「「おおおおお!!!!」」

 

ベルスティード侯爵と龍馬が雄叫びを上げながら突進し、取っ組み合いに入る。

 

 

 

思わぬところで始まった戦い。

勝利の軍配が上がるのは、果たして。

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