アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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異世界フェス編、クライマックス!
一夜限りの帝都の祭りは、夜の部で最高潮に達します!


第67話 異世界フェス・その⑩

「おりゃあ!!」

 

「甘いぞ、小僧!!」

 

シルヴィアの夜間外出を巡ってベルスティード侯爵と殴り合いの勝負になった龍馬。

龍馬のストレートをかわし、ベルスティード侯爵は素早く右フックを打ち込む。

龍馬はかがんでそれを避けると、ベルスティード侯爵の鳩尾にボディーブローを打ち込んだ。

 

「ぐうっ……!!おのれぇっ!!」

 

侯爵はすかさず反撃し、龍馬の横っ腹にキックを叩き込んだ。

 

「ぐおっ……!!」

 

「喰らえっ!!」

 

怯んだ龍馬の隙を逃すまいとベルスティード侯爵はさらに龍馬の顔面にパンチを加えた。だがそれを龍馬は受け止め、逆に侯爵の顔面にストレートを喰らわせる。

二人の殴り合いの勝負を固唾を飲んで見守るシルヴィアと相変わらず震え上がっているカーティス。

そんな中でカップとソーサーを持って部屋の隅に避難しつつ、のんびり茶を嗜むトレヴァー侯爵。

 

「ハハハ、クリストファーも相変わらずだな」

 

「相変わらず……とは?」

 

「シルヴィアよ。クリストファーはやはり君には話していなかったようだな。まあ、無理もない。ベルスティード家の侯爵として、そして父としてあいつは君には昔のことを話したがらなかったからな」

 

「お父様の……昔のこと?」

 

「ああ。今でこそあんなカタブツだが、昔は私もあいつも貴族でありながらとんだ出来損ないの不良だったのだ。クリストファーと彼の両親がうちに来た時はよく屋敷を抜け出して二人で喧嘩に明け暮れたものだよ」

 

シルヴィアは驚いた。

父は昔から言っていた。「争いを自ら仕掛けるのは野蛮な者である証拠。真の貴族とは争わずして民と共に生き、領地を守るものだ」と。

争いを嫌い、あくまで貴族の誇りを貫き通す父が喧嘩に明け暮れる不良だったなどとは信じがたい。

 

「私達は喧嘩じゃ帝都では負けなしだった。そして後でそれがバレてはお互いの親にこっぴどく叱られたものだよ」

 

「父が……まさか……」

 

「しかし、あのリョーマという少年もなかなかやるな。年を取ったとはいえ、あの"荒くれ貴族のクリストファー"の異名を持つあいつに喧嘩を売るとは」

 

「おおっと。肩書きなら龍馬だって負けちゃいないぜ、トレヴァーさん」

 

茶を飲んでいたトレヴァー侯爵に勇斗がすかさずそう言った。

 

「俺達が住んでいる福岡の博多って街ではあいつは"博多の怒龍"って言われて不良達から恐れられてるんだ。あいつをキレさせたが最後、無事でいられたヤツなんて一人もいない。なんたってあのガルム騎士団団長のバルガスすら倒したんだからな」

 

「あ、あのヴィヴェルタニア最強と名高いガルム騎士団団長を!?」

 

「なんと!?それはかなりの実力者だな。こいつは面白くなってきたぞ!」

 

二人は龍馬があのガルム騎士団団長・バルガスを倒したと知って驚いた。しかしトレヴァーはさらに歓喜し、茶を飲みつつこの状況を楽しんでいる。

 

「うおおおお!!」

 

「うわっ!?」

 

ベルスティード侯爵に投げ飛ばされた龍馬は本棚に叩き付けられ、彼の頭上に本がバラバラと落ちる。

 

「野郎ォオ!!」

 

龍馬は分厚い本の一冊を投げ付けるとベルスティード侯爵がそれを防御した瞬間を狙って近づき、鳩尾に攻撃を叩き込む。

 

「ぐはっ……!!」

 

「どりゃあああ!!」

 

お返しとばかりに龍馬はベルスティード侯爵に背負い投げを仕掛ける。

床に激しく叩きつけられた侯爵は悶えつつも起き上がって反撃を仕掛ける。

 

「何となくこんな展開になるんじゃないかって予想はしてたわ……まったく、喧嘩馬鹿なんだから……」

 

「でもチハル、まさかのベルスティード侯爵も喧嘩馬鹿だったね」

 

呆れる千春と苦笑するディレット。

もはやこんな状況は大体見慣れているので特別驚きもしなかった。

 

「くたばれえぇ!!」

 

素早いベルスティード侯爵の右ストレートが飛んでくる。それを寸前で回避した龍馬は右フックを渾身の力を込めてベルスティード侯爵の横っ面に打ち込んだ。

 

「寝てろおぉぉ!!」

 

「ぐわぁっ!!」

 

ベルスティード侯爵はうつ伏せに床に思い切り叩き付けられる。

頭を強く打ち、意識が朦朧とする。もはや立てる状態ではない。

 

「ば……バカ……な……この私……が……!」

 

「それまで!!勝負はついた!!少年よ、拳を下ろすがよい!!」

 

トレヴァー侯爵がレフェリーばりに龍馬とベルスティード侯爵の間に割って入り、シルヴィアが父親に近寄る。

 

「お、お父様!」

 

「シルヴィアよ!大丈夫だ。クリストファーは軽い脳震盪を起こしているだけだ。しばらく休ませれば良くなる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

回復したベルスティード侯爵はシルヴィアによって手当てを受けていた。

初めて触れる父の生身の上半身。昔から父は貴族にしては体つきが大柄だとは思っていたが、これほどまでに鍛えぬかれているとは。

 

「お父様……大丈夫……?」

 

「すまない……シルヴィアよ……情けない姿を見せてしまったな……普段からお前には争いをするなと教えている私が激昂した挙げ句、このザマだ……」

 

「旦那様、お水をお持ちしました」

 

「ああ、すまぬなカーティスよ……」

 

気を利かせて水を持ってきたカーティス。

コップの水を飲み干すとベルスティード侯爵はふう、と一息ついてから立ち上がる。

 

「……見事だ、リョーマよ。約束通りシルヴィアの外出を許そう。ただし、娘に何かあったら容赦はせんぞ」

 

「お、お父様……!!」

 

「へっ!負けたくせに口だけは減らないな、クリストファーのおっさん。……でもまあ、これで夜の部も楽しめるな、シルヴィアさん」

 

「……ええ!ありがとう、リョーマさん!」

 

こうして父親の許しを得たシルヴィアはフェス夜の部を楽しめることになった。

シルヴィアが喜んでいると突如辺りに音楽が流れ始め、シルヴィア達異界の人間は混乱する。

正体は龍馬のスマホ。着信だ。相手は祖母のヨネ子である。

 

「もしもし、ばーちゃん?どうしたの?」

 

「"ぼちぼち夜さいなるけん、お城まで戻ってきんしゃい!『あれ』をみんなに着せちゃるけん!"」

 

「おー!あれか!いいねえ!あ、ばーちゃん、あれって余分にある?」

 

「"おお!帝国の人達に体験してもらうために大量に持ってきたけん、なんぼでもあるが!"」

 

「わかった、じゃああとで城に行くよ!じゃあね!」

 

龍馬は電話を切った。光る板に向かって一人で会話をする龍馬をシルヴィアとベルスティード侯爵は不思議そうな顔つきで見る。

それを見たトレヴァーが二人に説明する。

 

「そうか。二人は帝都に住んでいないからあまり異世界のことは知らなかったな。あれは異世界の者達が持つ"すまあとほん"という機械で遠く離れた相手と交信できる機械だ。交信だけでなく景色や映像を記録したり、文面での相手とのやり取りもできる優れものだよ」

 

「ほう。異世界にはそんな便利なものもあるのだな」

 

「てっきり私はリョーマさんがおかしくなってしまったのかと……」

 

「いや、ならねえから」

 

それを聞いて勇斗達がどっと笑う。ディレットや千春はともかく、ゴリラが笑うのが必要以上にムカつくのでもう一回ケツを蹴っ飛ばしておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

龍馬達はシルヴィアだけでなく、何故かベルスティード侯爵達まで連れて城に戻った。

祖母のヨネ子と合流すると、メイド達と協力して"ある物"を人々に着せていく。

それは"浴衣"であった。夏の花火大会といえばやはり浴衣だ。この案を出したのはヨネ子であり、夏の日本の文化を帝国の人々にも触れてもらいたいとヨネ子はこの時のためにメイド達に浴衣の着付けを指導していた。

既にメイド達は全員浴衣を着ており、マリーやあのメイド長のノーラも浴衣に着替えている。

もちろん、ソフォスやモニカ、騎士団のアルバート、レイラ、アルフォンスといった面々もだ。

そしてベルスティード侯爵、シルヴィア、トレヴァー侯爵もそれぞれ浴衣を着て下駄を履き、うちわを持っている。

 

「これがニホンの"ユカタ"なる服か……ほう、中々に涼しいな」

 

「お父様!とっても似合ってますわ!」

 

「はは、シルヴィアよ。お前もよく似合っているぞ。しかしこのゲタというのは少々歩きにくいな……」

 

「でも歩く度にいい音がするわ。歩くのが楽しくなっちゃう」

 

 

「よし、みんな浴衣に着替えたところで噴水広場に行くぞ!フェスのクライマックスの始まりだ!」

 

 

 

 

 

 

 

噴水広場には多くの人々が集まっていた。

事前にセットしていた照明のおかげで広場は非常に明るくなっている。

ステージには島袋が立ち、マイクを握って夜の部開催のスピーチをしている。

 

「"お待たせしました、帝国の皆様!そして他国からご来場いただいた皆様!これから異世界フェス・夜の部を開始致します!……が、その前に……皆様にはあるものを見ていただきます。少し大きな音が鳴り響きますが、身の危険はないのでご安心ください!それでは、スタート!"」

 

その瞬間周囲の照明が落とされ、会場は真っ暗闇に包まれた。

人々が闇の中で不安そうにしている。

 

 

 

そして次の瞬間。

 

 

 

 

 

上空に巨大な花火が打ち上がった。

響く大きな爆発音に人々は悲鳴を上げるが、暗闇のままで島袋がスピーチを続ける。

 

「"皆様!ご安心ください!これは花火といって火薬を含んだ玉を打ち上げて夜空に光の花を咲かせる催しです!最初は少しびっくりするかもしれませんが、皆様落ち着いて、どうか夜空に咲く光の花をお楽しみください!"」

 

次々に花火が上がる。ドン、ドンという音とともに美しい花火が次々と夜空に花を咲かせ、だんだんと慣れてきた人々が空に釘付けになる。

 

「すげー!!空に光の花が!!」

 

「なんて綺麗なの……!!」

 

「こんなの見たことねえよ!!」

 

絶え間なく打ち上がる光の花。あまりに美しいその光景に帝都中の人々が花火を見上げていた。

しばらくすると会場の照明が灯り、ステージには既に島袋がスタンバイしている。

 

「"イエーイ!!みんなノッてるかーい!!フェスはこれからが本番だぜー!!みんなノリにノッて、最高の思い出を作ってくれー!!それじゃあ、夜の部スタートだー!!"」

 

夜空を花火が彩る最中、遂に異世界フェス・夜の部が始まった。

昼間をも凌ぐ人々の熱気。島袋のDJテクも最高潮に達していた。

EDMの曲が鳴り響く中、龍馬達もテンションが上がりまくっている。

ドリンクを片手に友と踊りまくり、大いに騒ぐ。

 

「勇斗!ノッてるかー!?」

 

「あったりまえよぉ!ここでノらなきゃいつノるんだよ!あ、なんか場酔いしてきた」

 

「リョーマ!もっと踊ろうよ!ほら、チハルも!」

 

「ええ!今日は楽しむわ!」

 

龍馬達だけではない。帝都中の人々がフェスの熱狂の渦に包まれて、飲めや踊れの大騒ぎであった。

会場にいたアルバートとレイラ、アルフォンスも浴衣姿でビールを片手に大盛り上がりだ。

 

「かーっ!!ビールがうめえ!!それにフェスって楽しいなぁ!!アタイ、こんなに楽しいの生まれて初めてだぜ!!」

 

「ええ!今日は私も羽目を外して楽しみますよ!ほら、団長も!」

 

「ああ!今日は久々に飲んで騒ぐぞ、みんな!!」

 

アルバート達の後ろにいる兵士や騎士達もドリンクの入ったカップを高く掲げて「おーっ!!」と声を上げる。

龍馬達のすぐ前ではシルヴィアとベルスティード侯爵とトレヴァー侯爵が早くも酔って上機嫌になり、EDMを聴きながらさらに酒を進ませている。

 

「はーっはっは!クリストファー!今日は昔の俺達に戻った気分で存分に飲んで楽しもうじゃねえか!先に酔い潰れるんじゃねぇぞ?」

 

「ぬかせ、ハリスン!お前こそ俺より先に潰れたら承知しねえからなあ!?」

 

「年寄りは引っ込んでて頂戴!勝つのはあたしよぉ!今は若モンの世代なんだからねぇ!」

 

「お、お嬢様……少し飲みすぎでは……」

 

「あぁ!?従者の分際で何言ってんのよこのスットコドッコイ!ほら、あんたも飲みなさいよぉ!」

 

「もがっ!?」

 

完全に酒乱と化したシルヴィアがカーティスに無理矢理酒を飲ませる。

ベルスティード侯爵もトレヴァー侯爵もまるで若き日の自分に戻ったような口調になっており、酒乱に絡まれてはたまらないと龍馬達は距離を取った。

 

「ね、リョーマ!少し会場を見て回ろうよ!」

 

「ああ、いいぜ」

 

「やったあ!じゃあ、行こう!」

 

ディレットに手を引かれて龍馬は会場を探索することにした。

まずはすぐ近くの露店。ここには座って飲食もできるテントのスペースがある。

龍馬達はかき氷を買ってテントに入ると見知った顔を見つけた。

 

「あっ!リョーマにディレット!こっちこっち!」

 

浴衣姿のエドワードが龍馬達に気付き、立ち上がって手を振っている。傍らにはアティウスやバルガスを含むガルム騎士団の面々もいる。

龍馬達は彼等のいるテーブルについた。

 

「エドワードに王様、楽しんでます?」

 

「もちろんだとも、リョーマ君!これが"フェス"というものか!いやはや、久しぶりに美味い酒が飲めたぞ!」

 

浴衣を着たアティウスは顔を赤くしながら上機嫌でビールをあおる。ゴドムはさっきから焼き鳥とビールを交互に食べては飲み、アーヴィングはカクテルを楽しみ、浴衣姿が色っぽいオフィーリアはバルガスの隣でモジモジとしている。

 

「あの……その……団長……団長のユカタ姿……とても素敵でございます……」

 

「ふむ、そうか。礼を言うぞオフィーリアよ。それと……お前も美しい。なかなかよく似合ってるぞ」

 

「そ、そんな……美しいだなんて……私には勿体なきお言葉でございます……」

 

バルガスの言葉にオフィーリアが顔を覆って赤面する。

早く爆発して結婚しろこのリア充ども、と冷めた目で見つめる龍馬であった。

隣ではそんなオフィーリアを見てゴドムとアーヴィングがクスクスと笑っている。

アティウス王たちも皆楽しそうだ。かき氷を食べ終えた龍馬とディレットは彼等に別れを告げて別の場所にいく。

小腹が減ったので焼き鳥を買おうと露店に立ち寄った龍馬とディレット。すると家族とばったりと遭遇した。

 

「おっ、あんたらね。楽しんどるね?」

 

「今日は特別なお祭りだからな。楽しまなきゃ損だぞ」

 

涼子も龍一郎もビールを片手にフェスを楽しんでいるようだ。

ルミナはわたがしを頬張り、ルビィはかき氷を食べている。二人とも浴衣姿だ。

 

「リョーマ!フェスって凄いね!こんなに帝都に人が集まってるなんて、私ワクワクしちゃう!」

 

「ねえねえ、リョーマ兄ィ!フェスって楽しいね!前に行った花火大会も楽しかったけど、今回はもっと楽しいね!」

 

「エンジョイしてるじゃねぇか。もっともっと楽しんでいけよな!」

 

「二人とも、冷たいもの食べすぎてお腹壊しちゃ駄目よ」

 

龍馬とディレットはその後家族と再び別れて帝都を探索する。

ステージからかなり離れたエリアの露店ではヨーヨー釣りや金魚すくいなどの遊べる露店が数多く点在し、帝都の子供達が群がっていた。

二人はその中に知り合いを再び見つけた。

 

「キースさん!マルタさん!シャルル!それにグレッグも!」

 

「やあ、リョーマさん。私達もフェスに参加させてもらってますよ」

 

「リョーマ、飲んでるか?……ってお前にはまだ早かったな、ガハハ!」

 

「とっても楽しくてシャルルがはしゃいでしょうがないの。ね、シャルル?」

 

「うん!……あ、ねえお母さん!私次あれに行きたい!」

 

シャルルが指を差したのはヨーヨー釣り。目の前の小さな流れるプールで流れるカラフルな風船ヨーヨーを見てシャルルがはしゃぐ。

一回目、挑戦するがヨーヨーは下に落ちてしまう。二回目も同じ結果。

見かねた龍馬が金を払い、ヨーヨーをうまく釣り上げた。

 

「わあ、リョーマお兄ちゃんすごいすごい!」

 

「ふっ。まあ、これが俺の実力よ」

 

風船ヨーヨーを釣り上げた龍馬が得意気にポーズを決める。

龍馬は風船ヨーヨーをシャルルに渡すと笑顔を見せる彼女の頭を撫でた。

 

「えへへ、リョーマお兄ちゃんだーい好き!あのね、大きくなったら私がリョーマお兄ちゃんのお嫁さんになってあげるね!」

 

「そうかそうか、そりゃ嬉しいな。十年後が楽しみだ」

 

「あらあら、この子ったら気が早いんだから……」

 

そんなシャルルの龍馬の未来の嫁発言を聞いて隣でゲホゲホとむせるディレット。

そんな彼女を見て龍馬は頭に"?"の文字をを浮かべながら首を傾げるのだった。

カムラン一家と別れた直後に二人は顔の赤いアレクとノエルの二人と遭遇した。

 

「あらぁ~リョーマひゃんにディレットひゃん~キグーですねぇ~」

 

「え……ノエルさん……?」

 

どうやらかなり泥酔しているようだ。まるで聖女と言わんばかりのいつもの清楚さ・可憐さはなく、その辺にいるただの酔っ払った女子大生の姉ちゃんのようになっていた。

 

「ああ……こいつ間違ってカクテルを飲んじゃってな……それからタガが外れたように飲みまくってこのザマだよ」

 

「何言ってるんですかぁ、アレクさまぁ~あなただっておしゃけすすめたじゃぁ~ありませんか~」

 

「……聖職者がそれでいいんですかね……」

 

まあ、その聖職者が崇める神自身も大酒飲みらしいのであまり大した問題ではないのかもしれない。

アレクは彼女を休ませるため、休憩所のテントへと連れていった。

再び小腹が減ったのでたこ焼きを露店で買って食べてるとふくまるの面々と遭遇した。

 

「龍馬!楽しんでる~!?」

 

「お、レナ。まあ、結構楽しんでるよ」

 

「いいねぇ!私、EDMとか大好きだから実は屋外フェスとか大好物なんだ!」

 

レナは赤と黒の浴衣を着ており(相変わらずハチマキは外さない)、愛華は白、おばちゃんは黒の浴衣を着ている。

 

「いや~まさか異世界で浴衣を着て花火を楽しめるとは思わなかったよ」

 

「中世の町並みを楽しみながら花火や露店ってのもなかなかオツなもんだねえ」

 

愛華とおばちゃんの二人はうちわで扇ぎながら夜空に上がる花火を見つめる。

会場の照明と花火の光に照らされたアルカ城が幻想的な雰囲気を醸し出していた。

しばらく花火を眺めた後、ステージが熱気に包まれているので戻ってみると再び凛とアメリアが歌っている。

そして出番を終えた彼女らも観客席に島袋と共に出てきて龍馬達とドリンクを飲む。

 

「凛ちゃん、アメリア、島袋さん、お疲れ様!!」

 

「リョーマと見てたけどすごく良かったよ!」

 

「ありがとう、斎藤君にディレット。最高のステージだったよ!ね?アメリア」

 

「そうね、忘れられない思い出になったわ!」

 

「俺の活躍良かったろ?"異世界DJ"なんてラノベ出したら売れるかもな!」

 

多分売れないし、そもそも誰が書くんだよと思った龍馬だったが愛想笑いでごまかしておいた。

ステージでは島袋が呼んだDJがさらに曲を回し続けている。

 

「おっと。俺はトリの前にもう一仕事あるからこのビール飲んだらちょっと控え室に行ってくるよ」

 

そう言って島袋はビールを飲み干し、再びステージ裏に向かう。

凛とアメリアの二人はしばらく露店を回りたいということでここで別れた。

再びステージを見ていると龍馬は後ろから誰かに肩を叩かれた。

振り向くとそこにはマリーが同僚のメイド達と共に浴衣姿でにこやかに笑っていた。

 

「リョーマさん!」

 

「おお、マリーか!どうだ?フェス、楽しんでるか?」

 

「ええ、とっても!食べ物も飲み物も美味しいし、珍しいお店はたくさんあるし、この"ユカタ"っていう服はとても素敵だし、私今とても楽しいです!こうやって私達メイドが"フェス"に参加出来たのもリョーマさんがメイド長に真っ向から向かってくれたおかげです!本当にありがとうございます!」

 

「礼はいいから、楽しんできな。まだまだフェスは終わらないんだぜ?」

 

「はい!じゃあ、また後で!」

 

マリーは手を振りながら同僚のメイド達と共に露店巡りへと向かう。

そんな彼女らと入れ替わりにやってきたのはこれまた浴衣姿のレベッカとアンナだ。

 

「あ、リョーマ君にディレットちゃんじゃーん。楽しんでるー?」

 

「いい祭りだねぇ。こんなのは人生で初めてだよ」

 

緑色の浴衣を着たレベッカは中々に色っぽくて可愛い。龍馬はいつもとは違うレベッカのその雰囲気に思わず赤面してしまう。

その瞬間、腰の辺りにつねられる痛みを感じた。しまった、背後に鬼がいる。

 

「……どうしたの、リョーマ君?」

「い、いや、ナンデモナイデスヨ、ハハハ」

 

額に脂汗を流しつつ、棒読みで答える龍馬。

しばらくレベッカ達と会話していると音楽が急に止み、ステージがざわつき始めたので戻ってみる。

すると島袋がステージに立ってマイクを握った。タイムテーブル的にまだ彼の出番ではないはずだが。

 

「"イエーイ!!みんな楽しんでるかーい!?ここでスペシャルなゲストの紹介だ!!みんなきっと驚くぞ!!

普段は民思いの優しき指導者!時々お茶目で皆から愛される帝国の素敵なリーダー!だーがしかぁし!今夜の彼はちょっと違うぞぉ!?今宵の彼は皆を楽しませるエンターテイナー!紹介しよう!アルカ帝国皇帝の座を持つ『DJソフォス』だぁー!!"」

 

スモークと共に現れたのはなんと浴衣姿に現代風の様々なアクセサリーを付けてキャップを被り、サングラスをかけたソフォス皇帝だった。

 

「へ、陛下!?」

 

「な、何あれ……!?」

 

「"イエーイ!!我が愛しき帝国の民達よー!!ノッておるかー!?今夜は夜通し楽しむぞー!!"」

 

それを見た人々はどっと笑い、次の瞬間歓声を上げていた。

 

「はっはっは!!なんだ陛下のあのカッコ!!」

 

「陛下ー!!ステキよー!!」

 

なんとソフォスはDJブースに立ち、島袋の補助を受けながら機材を扱い、曲を回していく。

実はDJに魅せられたソフォスは島袋に頼んで我々現代人ですら難解なDJの機材の扱い方を教えてもらい、この一週間祭りの準備の傍ら猛特訓を重ねていた。

そして島袋の補助があれば最低限のことは出来るようにまでなっていたのである。

あらかじめ島袋が組んだセトリを回すだけだが、ミキサーやエフェクターのかけ方などなかなかのものである。

しかもソフォスに続けて出てきたのはこれまた浴衣とサングラスにアクセサリーにキャップというスタイルのモニカであった。これを見ていたアルバートは二回もビールを吹いた。

 

「"お父様には負けないわ!!今度はこの『DJ MONICA』が夜の帝都を盛り上げちゃうわよー!!"」

 

皇帝に続いて皇女のモニカまでもDJを担当し、フェスの熱気は再び最高潮へ。

彼女の出番が終わり、いよいよ島袋のトリが始まる。

そして島袋が最後の曲を流し終わった瞬間、上空を数十発の巨大な花火がいくつも彩り、フェスのクライマックスを飾った。

 

「"みんな楽しんでくれたかーい!?これにてフェスは終了だ!!みんな、今日の夢のようなひとときの思い出を胸に気を付けて帰ってくれ!!"」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして日本と帝国による"異世界フェス"は大成功を収め、その幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして夏休みも終わり、一週間ほど経ったある日。

龍馬が郵便受けを学校帰りに覗くと一通の手紙が。

 

 

「あ、陛下からだ」

 

龍馬は部屋に戻り、ソフォスからの手紙を読む。

 

 

 

 

手紙によるとあのフェスは信じられないほどの反響を呼んだらしく、帝都の民からソフォスの元へ「またフェスをやってほしい」と多くの嘆願書が寄せられたらしい。

さらにフェスに参加しなかった各地の貴族にも異世界の要素が満載のこのフェスの内容が参加した貴族によって広まり、是非自分達も次のフェスに参加したいと多くの要望が集まっているのだとか。

フェスの一夜の思い出を思い返しながら龍馬は手紙の最後の一文を読む。

 

 

「……"そこでリョーマ君。秋の収穫祭でもまたフェスをやりたいので協力を頼みたい。前回よりも規模を大きくしたいので大変とは思うが、何、リョーマ君ならやってくれると信じているぞ。では、また会おう"」

 

 

 

 

「………………」

 

 

 

龍馬は手紙をそっと閉じた。

そして無言で傍らにあるスマホを取ると、ソフォスのプリペイド携帯に電話に出るまで鬼電をかけたのであった。

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