アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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今回から【中国大企業福岡侵攻編】に入ります。
このシナリオでは異世界要素は薄めになり、龍が如くシリーズをモチーフとした物語が展開します。


中国大企業福岡侵攻編
第68話 大企業の影


2016年9月。依然として夏の暑さが続くものの、少しずつ涼しさを感じ、秋の訪れをかすかに感じ始めた頃。

ある日、龍馬が自室でテレビを見ていると丁度ローカルニュース番組をやっていた。

 

「"……続いてのニュースです。中国の一大企業リオングループが日本各地に進出し、ここ福岡でも様々な土地やビルを買収し、『チャイナタウン・モール』を建設するとの発表がありました"」

 

……最近日本にも進出を始めたリオングループの特集をやっている。

番組内のテレビリポートでレポーターが東京にあるリオングループ支社ビルを訪ねていた。

丁度風呂から上がったディレットが龍馬の部屋にやってきたので一緒に見る。

 

「リョーマ、これ何の話?」

 

「リオングループって中国の一大企業の特集だよ。世界各地に中華料理を中心とした外食産業を展開していて福岡を含めた日本全国に一大展開するんだと」

 

「チュウゴクって確かニホンの北西にある大陸の国だよね……ふうん……」

 

テレビを見るとリポーターがオフィスビルの廊下を進んでいく。

 

「"本日は日本への進出について、リオングループの若社長にインタビューしてみたいと思います!……失礼しまーす……"」

 

リポーターが会議室のドアを開けるとだだっ広い会議室のテーブルにスーツを着た青髪の若い中国人が座っていた。どうやらこの人物が社長のようだ。

 

「"あっ、こんにちはー!ニーハオ!"」

 

「"ニーハオ。初めまして"」

 

「"あっ、日本語お上手ですね!"」

 

「"ええ、母国語の他に日本語・英語・ロシア語・フランス語・ドイツ語も話せますよ"」

 

「"すごーい!あの、失礼ですが、社長さんですか?"」

 

「"はい、私がリオングループ社長の李王龍(リー・ワンロン)です。どうぞよろしく"」

 

おおよそ社長とは思えないほど若い青年はにこやかに笑いながらリポーターと握手を交わした。

リーはどうやら世界的に活躍するリオングループの会長である父の仕事を手助けするためにこうやって社長として日夜激務に励んでいるという。

しかも年齢のリポーターが尋ねるとなんと24歳だという。あまりの若さに驚くリポーター。

 

「24歳だって。若いねー」

 

「ディレットがそれ言うと言葉がかなり重く聞こえるからやめろ」

 

見た目の若さから忘れてしまいがちだが、彼女は長命の種族エルフであり、齢150歳を越えている。それでもエルフの中では若い方で人間で言うと丁度龍馬と同じくらいの年頃なのだ。

 

「"……それで、福岡にも色々店舗を展開するとお聞きしましたが?"」

 

「"ええ。まずは福岡の中心部・博多にいくつか小規模の店舗を展開しています。それからヤフオクドーム前のモールですが、あの土地は我が社が買い取りました。あそこには『チャイナタウン・モール』を建設致します。実は既に開発に取り掛かっているのですよ"」

 

「"ええ!?凄い!ちなみにオープンの予定は……?"」

 

「"スムーズに行けば2017年の夏までにはオープンしたいと考えています。我が母国の中国を日本にいながらにして体験できる……その感覚を日本の皆様にも味わって頂きたいのです"」

 

「"素晴らしいですね!オープンが楽しみです!"」

 

その後はシーンが代わり、博多に既にオープンしているリオングループ傘下の中華料理店が映し出された。

リポーターが次々と出される豪勢な中華料理を食し、リポートする。

 

「ああ、チュウカ料理美味しそうだね~」

 

「さすが、食い意地大魔人」

 

「だ、誰が食い意地大魔人よ!」

 

ディレットがタオルで龍馬をバシバシと叩く。

ムチのようにしなるのでタオルは結構痛い。

 

「いて、いてて!やめろ!わかったよ!今度連れてってやるからタオルで叩くのやめろ!あっ、ケツはやめてケツは!やめっ……アッー!」

 

ディレットと龍馬がドタバタと騒がしくしている間にもテレビリポートは続き、そのうちリオングループの特集が終わると別のニュース特集に切り替わる。

 

「……では、続いてのニュースです。今、世界中で深刻化する"人体実験"の被害者。そんな事態を重く見た国連は人体実験の被害に遭い、生き残った被験者を保護し、社会復帰とそのための教育を被験者に施して彼等の身の安全を護り、支援する国連管轄組織"Experiment Victim Support Organization"、通称"E.V.S.O."を結成することを表明しました……」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして明くる日の夕方。龍馬はディレット、勇斗、千春を連れて博多は大名にある中華料理店"龍晩餐(ロンワンチャン)"へとやってきた。

本格的な中国風の内装の店内に圧倒されつつも、テーブルにつく四人。

 

「なかなか本格的だな」

 

「俺、こんなに本格的な中華料理店来たのはじめてだよ……」

 

「ニホンとは全然違う雰囲気があるよね、チュウゴクって」

 

「……お金、大丈夫かしら」

 

龍馬達がついたテーブルはよくテレビで見た記憶のある回転テーブル。

中華料理というのは非常にレパートリーが多く、それを複数で色々と取り分けられるようにこうした回転テーブルを置いている店がほとんどだ。

料理をコースで注文すると中華料理の数々が運ばれてくる。定番のものから本場中国でしか食べられないような本格的なものまで様々だ。

しかもよく見ると値段も安い。もちろん激安とまではいかないが、このような本格的な中華を食べられてこの値段はなかなかリーズナブルだ。

 

「うまいな」

 

「リョーマ!これどれも美味しいよ!」

 

彩り豊かな中華の数々。そして店内に流れるアジアンテイストな音楽とまるで中国の宮廷風の内装と相まって中国に旅行に来たかのような気分にさせてくれる。

龍馬達が食事に夢中になっていると、店の入り口の方から二人の人物が入ってくる。

一人は眼鏡をかけた聡明そうなスーツ姿の女性。もう一人は紺のスーツを着た青髪の……あれは間違いない。リオングループの社長の李王龍(リー・ワンロン)だ。

 

「やあ!ご来店中の皆様、お食事中のところ申し訳ありません。私、リオングループ社長の李王龍(リー・ワンロン)と申します。本日は当グループが経営する店舗にご来店頂き、誠にありがとうございます。

本日私は現場の視察のためにこの店舗を訪れたのですが、こうしてここにいる皆様と会えたのも何らかの縁。お近づきの印として私からささやかなプレゼントを贈らせていただきます」

 

リーはそう言って隣の秘書らしき女性に耳打ちする。すると女性は店の奥へと入っていった。

しばらくすると店の料理人が杏仁豆腐やマンゴープリン、胡麻団子の入った容器を抱えて来店している客のテーブルに置いていく。

 

「皆様には当店自慢のデザートの贈り物をさせていただきます。どうぞごゆっくりお楽しみください」

 

リーがにこやかに挨拶をすると客達が拍手を彼に贈る。

若くて、いわゆる"イケメン"なリーの容姿に女性達は大はしゃぎである。

そしてリーはゆっくりと店内を視察すると、龍馬達に気付いたようでこちらへと向かってくる。

 

「やあ、こんにちは。学生さんかな?」

 

「あ、はい……福岡中央高校の生徒です」

 

「そうか。それは嬉しいね。どうしても中華料理店っていうのは雰囲気だったり値段が高かったりとかでなかなか学生さんには敷居が高いからね。でもうちは価格を抑えて誰でも気軽に中華を楽しめるように日夜努力しているからいつでも気軽に寄ってくれたまえ。あ、もちろん最低限のお代は持ってきてくれよ?ハハハ」

 

リーは気さくに笑いつつ、龍馬達に接してくれた。

こうして見るとスーツこそ似合っているものの、やはりその若さもあって大企業の社長には見えない。それに愛想も良いしサービスも良い。

 

「おや……そちらの耳の長いお嬢さんは……もしかして今日本で話題の異界人かな?」

 

「あ、はい!私エルフ族で留学のためにニホンに来ています!」

 

「そうか。いや、なかなか異界の人と話す機会はなくてね。光栄だよ。……ところでうちの料理は異界人の舌にも気に入ってもらえたかな?」

 

「はい!とっても美味しいです!」

 

「それはよかった。喜んでもらえて何よりだ。引き続き食事を楽しんでくれたまえ。……では、私は厨房の視察があるので失礼するよ」

 

ディレットの感想を聞いたリーは満足そうに笑みを浮かべながら厨房の方に歩いていく。

龍馬達は運ばれたデザートを堪能し、腹を満たしたのちに大満足で店を後にした。

 

「あー、食った食った」

 

「美味しかったね、リョーマ」

 

「しかも安いし、最高だな」

 

「そうね、社長さんもとてもいい人みたいだったし」

 

たらふく食べた腹をさすりながら四人は帰途につく。いい店だった。また行きたいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視察を終えたリーは専属運転手のいる車へ向かう。

店舗のスタッフが車まで見送りに来てくれたので彼は手を振りながら笑顔で車に乗り込む。

秘書とともに車に乗り、運転手に命じて発進させた。

 

 

そしてあのにこやかな好青年だった笑顔は一瞬にして冷徹な表情へと変貌する。

 

 

彼の他人の前でのあの笑顔はあくまで表の顔。

その正体は己が力を握ることしか考えぬ冷酷な男であった。

秘書の林花(リンファ)がタブレットをチェックしながら今後のスケジュールを伝えている。

 

「……リンファ、頼んでおいた情報は?」

 

「……少々お待ち下さい…………はい、彼女は今年の6月にこの福岡にやってきているとの情報があります。おそらくこの博多のどこかにいるかと」

 

「よくやった。引き続き情報収集に当たれ。絶対に見つけ出すんだ。……あの憎き真龍寺誠の娘をな」

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、龍馬はふくまるへと足を運んでいた。

今日はシフトでないためディレットはいない。愛華も大学で留守にしており、店にはおばちゃんとレナだけだ。

いつものようにおばちゃんにラーメンをバリカタで頼み、食べ慣れたラーメンをすする。

二回も替え玉を食べて水を一杯飲む。そんな時おばちゃんが元気がないことに気付いた。

 

「おばちゃん、どうしたの?」

 

「それがさあ……最近、大名に例の中華料理店出来ただろ?それで客足が少し減ってるんだよ……」

 

あの若社長・リーの連日の積極的なメディア出演もあって商店街の、とりわけおばちゃん達のような外食系の自営業者は主要な客をリオングループに取られてしまっているようだ。

最近は客足が伸び悩み、それが頭痛の種となっている。

確かにあの店は内装も雰囲気も料理の質もいい。皆確かに行きたくなるだろう。

 

「あんな奴の店より絶対おばさんや私の料理の方が美味しいのに……!ねぇ、龍馬もそう思わない!?」

 

レナが龍馬に顔をすごい勢いで近付けながら力説する。実は自分達もあの店に行きました、なんて答えたら頭突きでもかまされそうなので黙っておく。

 

「お、思う思う。思うからレナ、落ち着いてくれ。顔が近い」

 

まあ確かに人間、新しいものには目がない生き物だ。今でこそこうして客足を奪われているものの、それは単なる一過性のブームに過ぎないだろうと軽く考えていた龍馬であった。

 

 

 

だがその思惑は大きく外れ、博多の街に大企業による暗雲が立ち込めるとはこの時誰も思いもしなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな福岡と時を同じくして遠く離れた海外で"ある事件"が起きていた。

ドイツ北部・ハンブルク北西にある島、フェール島。

この西には古城の痕跡が見つかっており、さらにドイツとデンマークで見つかった文献から観光地化を目的とした古城再建計画が数十年前に持ち上がった。

しかし復元・再建された古城は結局維持費の困難により、とある企業に売却された。

その企業とは製薬企業エントヴィックルング社。

エントヴィックルングは古城とその地下に大規模な研究施設を展開し、そこである研究を行っていた。

表向きには"更なる製薬研究と医療設備の開発により、難病への治療法を確固たるものにする"と言っているが、実はこれには"真の目的"があった。

 

 

 

本当の目的はーーーー"生物兵器"の開発。

 

 

 

異世界の魔力を帯びた"魔紅石"と人間を融合させた生命を如何なる攻撃にも倒れぬ最強の"兵士"となる存在を作り出す"マジック・ソルジャー計画"の研究。

ただただ命令だけを遂行し、一切の感情を持たず相手を殲滅する生きた戦闘マシーン。

だがその研究は上手くいかず、既に23体の被験体が廃棄処分された。融合する魔紅石に適した人間、或いは紅石がないのだ。

これまでエントヴィックルング社が帝国に送り込んだ調査員が手に入れたのはわずかな欠片ばかり。これではエネルギーが小さすぎるのだ。

そんな中、ある一大イベントが帝国で起きた。あの"異世界フェス"である。

調査員はあらゆる場所から珍しい物が集まるこのフェスはチャンスだと確信した。

そしてーーーー見つけたのだ。とある"商品"を。

それは"竜の血晶石"と呼ばれる竜の血と魔力純度の高い鉱石が長い年月をかけて一体化した珍しい品であった。

売っていた商人からはかなりの高額を吹っ掛けられたが、手間や金を惜しんでいる場合ではない。調査員はこれに賭け、この鉱石を持ち帰って現在研究中の被験体ーーーー"No.B7A24-Ω"に使用した。

するとどうだろうか。No.B7A24-Ωの頭の皮膚は青白く変化し、目は魔紅石のように紅く輝き、頭髪は薄い紫色へと変化していく。

この結果に研究員達は驚いたが、さらに驚くことにNo.B7A24-Ωの容態は非常に安定しており、これは唯一の成功例になるであろうと確信した。

その後の研究で何やら微弱なエネルギー波のようなものを発し始めたことが明らかになった。

このエネルギー波を解析してみたところ、これは未知の物質でありさらに解析を進めた結果、このエネルギー波のようなものは"竜の血晶石"と同じエネルギー波であることが明らかになった。

どうやらNo.B7A24-Ωは魔力を纏わせる実験に成功し、その身体に魔力を宿したようだ。

この実験は生物兵器というカテゴリに革命を起こし、ひいてはこの世界の軍事力の在り方すらも変えてしまうだろうとエントヴィックルング社の研究員達はほくそ笑んだ。

 

 

 

 

だが……研究が進められたある日、研究所で二つの事件が同時に起きた。

 

 

 

 

生体兵器であるはずのNo.B7A24-Ωに"自我"が芽生えたのだ。

No.B7A24-Ωは突如として魔力を操り、"カーテンウォール"と研究段階で名付けられたその魔力の波動を駆使して研究所の職員を襲撃した。

それと同時にエントヴィックルング社の生体兵器開発の証拠を掴んだE.V.S.O.が研究所に突入してきたのだ。

E.V.S.O.の本業は生体兵器開発の被害者の保護・支援・監視だが、こうして密かに研究機関に戦闘員を送り込み、組織を解体する任務も行っている。

No.B7A24-Ωはその後E.V.S.O.によって保護されたが、自我に目覚めたNo.B7A24-Ωは城から離れようとしなかった。

 

 

 

 

 

そして……E.V.S.O.突入とエントヴィックルング社の生物兵器開発の暴露の事件から一週間が経過したある日。

 

 

 

 

No.B7A24-Ωーーーー通称"オメガ"は……今は別のプロジェクトの被験体の少年、ラグーンと共に暮らしている。

紫色の肌に水色の髪。クモ由来の複数の目を持ち、基本は人間と同じように五本の指を持つ手足がある。

だがその背中からは六本の多脚が生えており、彼がクモの特徴を持つ新しい生命体であることを表している。

彼は異界で研究員が手に入れたアーマースパイダーの遺伝子をエントヴィックルング社の研究員に組み込まれ、結果としてクモの特徴を持つ人間ベースの生命体として更なる実験に使われそうになっていたところを先の騒動に乗じてオメガに助けられたのだ。それ以来、こうして生活を共にしている。

彼はオメガによって"ラグーン"と名付けられた。

 

「おかえり、オメガ」

 

「ああ……ただいま」

 

「……それで?"家族"の情報は見つかったの?」

 

「……いや」

 

オメガはかつてのエントヴィックルング社の研究施設だったこの城を徹底的に調べている。

理由は自分と同じ"生き残り"がいないか探すため。

彼は自分がマジック・ソルジャー計画最後の被験体であることを知り、自分の前に生き残った被験体がいないか独自に調査をしていた。

……自分は生まれるべきではなかった忌まわしい存在だ。もちろん、無関係の人間に危害を加えるつもりはないが……もし以前の被験体が生き残っていたとして制御が効かなくなっていたら……自らの手を汚すことも考えねばならない。

それに言うなれば他の被験体は"兄弟"、或いは"家族"とも言える。もし彼等が生き残っていて苦しんでいるとしたら、保護しなければならない……オメガはそう考えていた。

ふと、窓から城の入り口を見下ろすと門の前に誰かがいるのが見えた。……E.V.S.O.の職員だ。

彼はこうしてオメガとラグーンの食料品や生活用品を持ってくると同時に社会で生きられるように手筈を整えるからうちに来い、と説得を続けていた。

オメガは一人で門まで向かうとその職員の青年と対峙する。

 

「オメガ。やっぱり来る気はないかい?」

 

「……僕は戦うために生み出された兵器だ。人間の世界で生きることなど到底無理に等しい」

 

「……それがそうでもなさそうだよ」

 

「……何?」

 

「君はここから遥か離れた極東の国・日本を知っているか?」

 

「……いや、外国には詳しくなくてな」

 

「そうか……日本はアジア圏の経済大国だ。他の国とは違い、物資も豊富で治安も良い。そこなら君も……」

 

だがオメガは首を振る。

 

「だからなんだと言うんだ。僕はこんな見た目をしているんだぞ。気味悪がられるのがオチだ」

 

オメガの身体は青白い肌に包まれ、薄い紫色の髪という出で立ちだ。とても普通の人間として生活を出来る外見ではない。それにラグーンはもっと人間離れした外見をしている。

 

「人の話は最後まで聞きなよ。……実は日本は異世界と繋がっている」

 

「……異世界?」

 

「ああ、日本は異世界の国・アルカ帝国と同盟を結び、日本国内では異世界の様々な種族の人々が暮らしている。翼を持つ者やヒレを持つ者、全身が鱗に覆われたリザードマンなんて種族も少なくない。君やラグーンなんてまだ見た目が優しいほうだ。……どうだい?興味はないか?」

 

「…………」

 

「……まあ、すぐに決めろとは言わないよ。時間をかけて決めて、もし君が日本行きを願うならば、以前渡した通信端末から連絡してくれ。……ああ、今日の食料品はここに置いていくよ。それじゃあね」

 

そう言ってE.V.S.O.の職員の青年は去っていく。傍らには食料品と生活用品の入った大きな袋が残された。

オメガはそれを担ぐと城へと戻り、ラグーンと食事を共にする。

食事をした後は一人地下へと降りる。地下の放棄された研究所。自分と兄弟と呼べる者達が生み出された忌まわしき場所。

本当はオメガ自身もこの場を離れたかった。だが、生み出されていながら生を受ける前に死んでいった仲間達のことを考えるとそういうわけにはいかなかった。

だからこの場で兄弟達がせめて安らかに眠れるようにーーーー口には出さなかったが弔いをし続けようと彼は決めたのだ。

放棄された研究所を歩いているととある区画……その一室に不思議な壁を見つけた。

 

「……?」

 

何かおかしい。壁に描かれた、フロアを示す赤い文字に一部分にわずかだがズレがある。

オメガは軽くそこを叩いてみる。……中に空洞がある!

 

「……はっ!!」

 

カーテンウォールの波動を思い切り壁に叩き付ける。すると壁は音を立てて崩れ、中に隠された部屋を発見した。

 

「……隠し部屋……!!まさかこんなものがあったとは……」

 

巧妙に隠されたその部屋には一台のコンソールと机に置かれた複数の書類。

コンソールの起動を試みるが、ロックがかかっていて開くことが出来ない。

 

「クソッ!」

 

オメガは書類を漁った。そしてその中に気になる報告書を見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

No. B7A01-α

マジック・ソルジャー計画・被験体1号"アルファ"に関する報告書

 

(大半は黒く塗りつぶされており、読むことができない)

 

■月■■日

 

No.B7A01-α、(以降、被験体アルファと称する)は極めて高い完成度を誇る。

知能、任務遂行能力共に問題なし。

暴走の危険性:低。

 

■月■■日

 

被験体アルファの生命維持器官に問題が発生。

培養槽から離した場合、外気の中では生命維持が困難と発覚した。

兵器としては致命的である。

 

■月

 

生命維持法を確保出来ないため、被験体アルファは廃棄処分とする。

 

 

(改ざんされた後がある……)

 

■■を■■に■■し、以降は処分扱いとする。被験体1号に関するプロジェクトは破棄し、新たな被験体 No.B7A02-βの開発へと進む。

 

(黒く塗りつぶされてこれ以上は読めない)

 

 

 

 

 

 

「これは……最初の被験体の……?」

 

その報告書は大半が塗り潰されるか、改ざんされていてよくわからない。

だが廃棄処分されたはずのNo.B7A01-αのその後を何故改ざんする必要があったのか?

彼はひとつの答えに辿り着いた。

 

……No.B7A01-αは……生きている!

 

オメガはすぐさまあのE.V.S.O.の職員に連絡を取った。そしてある頼み事をする。

それは"No.B7A01-α"の真相を明らかにすること。E.V.S.O.が調査した結果、ある事実が判明した。

 

「No.B7A01-αはとある組織に引き取られている。が……すまない、その組織の名前まではわからなかった。

だが調査の結果、その謎の組織と関係のある企業は絞り出せた。……リオングループ。中国の一大企業だ。社長の李王龍(リー・ワンロン)は今は日本……福岡という場所に滞在している。

彼の周囲を調査すれば詳しいことがわかるかもしれない」

 

「……そうか。じゃあもうひとつ頼みがある。……私を……日本へ連れていってくれ」

 

「……わかった。すぐに手筈を整えよう。何かあればE.V.S.O.日本支部へ連絡してくれ」

 

「……すまない、恩に着る」

 

「いいよ。ようやく君が日本へ行く気になってくれたんだし」

 

 

 

 

 

こうしてオメガとラグーンは異界人の入り乱れる日本へとE.V.S.O.の助けを借りて向かうことになる。

 

 

 

……もしかしたら生きているかもしれない、自分の"兄弟"の安否を確かめるために。

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