アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第70話 揺れ動く思惑

「……で、何で僕が連れて来られたのか説明して欲しい訳だが」

 

オメガは目の前の赤と白の丼に入れられた白濁のスープと熱々の麺を前にしながら不満そうに漏らした。

 

「まあまあ。せっかくそこでまた会ったんだし」

 

「だからって連れてった先がお前の勤め先のラーメン屋って軽いな、オイ」

 

「いいから早く食えよオメガ、伸びるぞ」

 

「そうそう、博多のラーメンは"バリカタ"が基本だぜ?」

 

「はあ……やれやれ」

 

肩をすくめるオメガの向かい側で龍馬と勇斗は既にラーメンをすすっている。

あの事件の後、レナは度々この辺を飛び回るオメガを見かけては大声で呼び、ふくまるにしつこく呼んだ。

そして先ほどのこと。食料品の買い出しにラグーンと共に出ていた所に同じく買い出しに来たレナとばったり出くわし、その後彼女の熱意に負けて渋々このふくまるへとやってきてしまった。

意外と軽いノリの再会となってしまったが、それなりに腹も減っていたオメガは箸を手にし、ラーメンを口にする。

 

「……箸使えんの?」

 

「……こう見えて学習能力は高く作られているのでな」

 

「おい、発言と行動が矛盾してるぞ」

 

「……も、問題ない」

 

オメガは慣れない箸を強がって使い、ラーメンを口に運ぶ。

めちゃめちゃ食いにくそうに見えるが、まあ本人がいいのならいいんだろう。龍馬も再びラーメンを口に運ぶ。

 

「ラーメンって美味しいね!ボク、初めて食べたよ!」

 

オメガの隣に座っているのはラグーン。彼もたまたま一緒だったので結局連れてきてしまった。初めて食べるとんこつラーメンの味がかなり気に入ったようだ。

五つあるラグーンの複眼も普通の人間やエルフに比べれば異様な外見だが、よく見ると可愛いと愛華はラグーンのことを気に入っているようだ。

さらに美味しそうに食べてくれるのでおばちゃんも「いっぱい食べな!」と餃子やライスをラグーンとオメガにサービスしてくれる。

 

「ねえねえ、もう一回あれやって!」

 

「ハア……またか……ほら」

 

愛華の頼みでオメガがめんどくさそうに指先に炎を灯す。熱ではなく、冷気を感じるその不思議な炎に手をかざして愛華ははしゃいでいる。ついでにディレットも。

 

「わー、冷たくて気持ちいいー!」

 

「ほんとほんと!こんな魔法、私の世界でも見たことないよ!」

 

「……僕の炎はお前達のオモチャじゃないんだぞ……全く……」

 

不思議な冷たい炎と"カーテンウォール"なる彼の特殊能力。彼曰く、「炎の仕組みは企業秘密」とのこと。まあ、実際のところは彼自身にもよくわからないのだが。

そうしている間にも龍馬と勇斗は黙々とラーメンを食べる。

 

「おばちゃん!替え玉バリカタで!」

 

「あ、おばちゃん!俺も!」

 

「はいよ、ちょっと待ってな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんで本題に入るけど……オメガとラグーンは一体何のために日本に来たんだ?」

 

ラーメンを食べ終わった龍馬はオメガに質問をぶつける。

彼等には謎が多い。彼等の容姿はもちろん、一番気になるのが"彼等が日本に来た理由"だ。

遠く離れたドイツで彼等が生み出されたのは聞いたが、何故生体兵器の彼等が日本の……それもわざわざ福岡を選んでやってきたのか。疑問は尽きない。

 

「僕は……"兄弟"……あるいは"家族"というべきか……それを探すために日本に来た」

 

「兄弟……?家族……?」

 

「ああ。僕はマジック・ソルジャー計画24番目にして最後の被験体。そして唯一の成功例だ。だが僕の前に生み出された被験体は全て失敗作として廃棄処分された。だがある日、放棄された研究所で隠された文書を見つけた。私はE.V.S.O.の協力もあって計画の最初に生み出された型……No.B7A01-αが廃棄処分されたはずなのに別の組織に引き取られている事を突き止めた。お前達と出会うほんの一日前まで組織の正体はわからなかったが……それもようやくわかった。さらにその組織に関与しているのがリオングループだということもな」

 

「リオングループ……!」

 

やはり奴等は真っ当な組織ではなかった。なんとなく予感はしていたが、間違いなく最近の中国人による博多の治安の悪化にも関係しているはずだ。龍馬はそう確信した。

 

「僕を生み出した組織のエントヴィックルング社は研究の資金の確保のため、廃棄処分されるはずだったNo.B7A01-αをある組織に売り渡したんだ。そいつらが利用価値のないはずのNo.B7A01-αを引き取った理由までは不明だがな。そして実際にエントヴィックルング社と取引を行ったのが……チャイニーズ・マフィアの神鳥会(シェンウーかい)だ」

 

神鳥会。中国でもかなりの勢力を誇る大規模なマフィアで主に兵器開発分野への投資や兵器の密輸販売によって組織を運営している。

オメガの調査によればリオングループは神鳥会への出資者の一つであり、持ちつ持たれつの関係であるという。

中国をはじめ、大陸では日本の極道とは違い、マフィア化した大規模な組織が数多く存在する。

そのような中で組織が生き残っていくには様々な分野へのパイプが必要になる。リオングループは神鳥会にとってそのパイプのひとつというわけだ。

 

「ねえ、リョーマ。"まふぃあ"とか"ゴクドー"って何なの?」

 

「そうか……ディレットにはその辺りの説明は避けてたからな……。マフィアや極道ってのは俺達の世界の裏社会の組織を表す。極道は日本では一般的に"暴力団"、あるいは"ヤクザ"って言われてるな。特にこの福岡が"修羅の国"って言われてる大きな要因のひとつが暴力団組織の本部が日本で一番多いことだ。こないだ、薬院で発砲事件があっただろ?あんなのがしょっちゅうなんだよ、福岡は」

 

「……ええ、怖いな……なんでフクオカはそんなに組織が多いの?」

 

「……はっきりしたことはわかってないが、福岡は元々製鉄と炭鉱の街だったことに原因があるらしい」

 

第二次世界大戦の時代。福岡は北九州を中心に大日本帝国の製鉄産業のほとんどを担う、軍にとって重要な産業を持つ街であった。当時のアメリカ軍もその事をよく知っており、長崎に落とされた原爆も本来ならば福岡に落とされるはずだったのだ。決行日になって悪天候のために急遽長崎に原爆の投下地点を変更されたことで福岡はギリギリで被爆を逃れたのである。

そんな製鉄の街・福岡は石炭の採掘も盛んであり、福岡には荒くれ者の炭鉱夫が非常に多かった。

第二次世界大戦終結後、GHQの改革により米軍兵士が日本には多く溢れ、中には勝戦国であるのをいいことに横暴を働いた米兵もいた。そんな人間達から土地を守るために荒くれ者達が多くの自警団を結成した。それが巨大化・組織化し、今日(こんにち)の暴力団、いわゆるヤクザ化したと一説には言われている。

 

「……確かに私達の世界でも炭鉱や鍛冶の仕事を得意とするドワーフは気性の荒い人が多いわ。その話を聞いて納得しちゃった……」

 

炭鉱夫に荒くれ者が多いのは異世界といえど同じようだ。実際のところ、帝都で出会ったドワーフのグレンディルもどちらかといえばその方である。

 

「……話を戻そう。僕はNo.B7A01-αを助け出したい。もし死んでいるのならそれでも構わない。同じ境遇で生まれた身として、せめて僕は弔ってやりたいんだ」

 

彼等は傲慢な人間の手によって望まぬ生を受け、失敗したからといってまるでゴミのように扱われ、散っていった。

自我に目覚めたオメガはそんな扱いをしたエントヴィックルング社を許せなかったし、顔も知らぬ仲間達の境遇を知って哀しみに暮れた。

だからこそ生きている可能性の高いNo.B7A01-αを放ってはおけない。E.V.S.O.の助けを借りて彼女ははるばる日本までやってきたのだ。

 

「福岡に潜んでいる神鳥会、そしてリオングループを辿ればきっとNo.B7A01-αに辿り着く。僕はそう確信している」

 

そう言ってオメガは目の前にある水の入ったグラスを見つめ、表面に映る自分の姿を見る。

 

「……ひとつ、私には疑問が残るんだよね、オメガ」

 

「何だ?」

 

厨房で片付けをしていたレナが作業を一段落させてオメガのいるテーブルまでやってくる。

 

「神鳥会がリオングループとツルんでるのはわかった。でもなんで神鳥会は福岡に居座ってるの?いくらリオングループが福岡を中心に存在しているとはいえ、いくつもヤクザのいる福岡にいれば周囲の組との抗争は避けられない。なぜわざわざそんな面倒な方法を選んだの?」

 

「……さあな。そこまでは僕もわからん。ただ確かなのは神鳥会、そしてリオングループ社長のリーを辿ればNo.B7A01-αに辿り着くということだけだ。僕にはそれ以外はどうでもいい。……ラーメン、美味かった。勘定だ」

 

「ごちそうさまです!」

 

オメガは二人分のラーメン代を置いて立ち上がり、店を去ろうとする。

 

「待てよ、オメガ」

 

「……何だ」

 

去ろうとしたオメガの背後から龍馬が呼び止めた。

 

「お前から最初に聞いた話……お前はちゃんとした名前がないんだったよな?」

 

「……それがどうしたんだ」

 

「俺で良かったらお前の名付け親になってもいいぜ。案はあるからな」

 

龍馬は最初にオメガから聞いた話ーーーー彼には名前が無いという事を聞いた辺りからあることを考えていた。

ずっと"オメガ"と開発ナンバーで呼ぶのも忍びない。彼が気に入るかどうかは別として彼の名前のアイデアだけでも言っておこうと思ったのだ。

 

「いいじゃん、オメガ!ボクも君のことをきちんとした名前で呼びたいよ!せっかくだし、龍馬の案、聞くだけ聞いてみようよ!」

 

ラグーンは自分だけが名前があって恩人の彼にきちんとした名前がない現状を内心憂いていた。ただ、彼に名付けられた自分が名前を勝手に付けるのもどうかと思って口には出さなかったが。

 

「……わかったよ、とりあえず話だけでも聞こう」

 

「よっしゃ!そうこなくっちゃな!」

 

立ち去りかけたオメガとラグーンはテーブルにいそいそと戻り、龍馬が何やらスマホをチェックしている。

そしてしばらくスマホとにらめっこをする龍馬を見て勇斗が怪訝な顔で口を開いた。

 

「龍馬……お前何してんの?」

 

「ん、いや、昔の記録をちょっとな」

 

「昔の記録?」

 

「おう。……なあ、オメガ。お前の開発ナンバーって"B7A24-Ω"だったよな?」

 

「ああ……それがどうした?」

 

「頭文字はB……能力も似てる……なら……よし、オメガ!お前の名前はこれなんてどうだ?」

 

龍馬がスマホの画面を見せてきたのでオメガは龍馬のスマホを受け取って画面を見てみる。

するとそこには色鉛筆で描かれた変なキャラクターの絵の上に"ブラッド=アリュシオン"というカタカナ文字が書かれていた。

 

「ブラッド……アリュシオン……?」

 

「!!!!龍馬!!!!てめぇまさか!?!?」

 

オメガがその名前を口にした瞬間、勇斗が凄い勢いで立ち上がってオメガの手からスマホをむしりとる。その画面には勇斗のかつての"闇"が映し出されていた。

 

「龍馬!!!!てめぇコノヤロー!!!!」

 

「"『ブラッド=アリュシオン』。青き闇の炎を操る魔術師。非常に冷徹でひたすらに力のみを追い求める究極の存在。主人公達と幾度に渡り死闘を繰り広げ……"」

 

「うわああああああああやめろおおおおおおおやめてくれえええええええ!!!!!!」

 

龍馬がキャラクターの設定らしき文を読み上げると勇斗は頭を抱えたまま、床に倒れてゴロゴロと左右に激しく転がりのたうち回る。

龍馬が見ていたのは昔のSNSサイトに中学時代の勇斗が掲載していた"オリジナルキャラクターの絵"。

そう、かつて"中二病"を発症していた者ならわかるであろう、いわゆる"黒歴史"というやつだ。

 

「勇斗、そんなに気にするなよ。俺は結構好きだぜ」

 

「そういう問題じゃないんだよおおおお!!!!」

 

過去の傷を蒸し返された上、塩どころか唐辛子を塗られた気分だ。

そして悲しいことに勇斗を更なる悲劇が襲う。

 

「……いいじゃん!オメガ……いや、ブラッド!君の名前はブラッド=アリュシオンだよ!」

 

「ブラッド=アリュシオン……僕の……名前……」

 

「いや何いい感じの流れで半ば決定したみたいな雰囲気になってんすかやめてくださいマジでぼく死んじゃう」

 

もう顔が死んでいる勇斗だが、オメガも意外にこの名前を気に入った様子だ。

こうして被験体No.B7A24-Ωは"ブラッド=アリュシオン"という名前を受けて一人の人間として生きる価値を見出だし、勇斗は自らの黒歴史と同じ名前を持つ存在にこれから先向き合わなければならないことが決定したのである。

 

「コロシテ…………コロシテ…………」

 

口から半ば魂が抜けながらテーブルに力なく突っ伏してボソボソと何かをつぶやく勇斗をよそにオメガ、いや、ブラッドはラグーンと共に礼を言ってふくまるを去ったのである。

店内からはおばちゃんが心配そうに去り行く外の二人を見つめている。

 

「あの子達……不憫なもんだねえ……戦争するために作られた命なんて……それにレナちゃんも何か危険なことに巻き込まれなきゃいいけど……」

 

レナの父から身を預かるおばちゃんとしては彼女は大事な娘のような存在であり、また大事な従業員である。

数日前の中国人の襲撃といい、日に日に博多の治安は悪化しているような気がする。

古本屋の長谷川も中国人の襲撃を気にしてか、あれ以来店を臨時休業で閉めたままだ。

今のところはこうしてふくまるも営業出来ているが、明日は我が身かもしれない。おばちゃんの不安は尽きない。

 

「……おばちゃん!おばちゃんってば!」

 

「……え!?ああ、なんだい龍ちゃん?」

 

「おばちゃん大丈夫?なんか上の空だったけど……」

 

「ああ……ちょっと考え事してたからね……でも大したことじゃないよ。ところで何の用だい?」

 

「お会計だよ」

 

「ああ……ラーメンと替え玉で……750円だね」

 

龍馬は博多の治安と周りの人々の安全を案ずるおばちゃんの難しい表情に首を傾げながら店を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

李王龍(リー・ワンロン)は幼い頃より父である雷王龍(レイ・ワンロン)の元で修行を積んでいた。

あらゆる流派を研究した末に辿り着いた拳法をレイは自分の息子に継がせるべく伝授していた。厳しいがとても強く聡明だった父をリーは誇りに思っていた。

そんなある日、無敗を誇っていた父が日本から来た武術家に敗北したという話を聞いた。

怒りに震えるリーはまだ少年でありながらその武術家に無謀にも戦いを挑んだ。

 

 

結果は言わずもがな、散々なものであった。

 

 

父の誇りも、己のプライドも打ち砕かれたリーは彼を激しく憎んだ。しかし実力ではどうやっても彼に勝つことはできない。

彼の憎しみは肥大化し、いかなる手を使ってでも彼に復讐をすると誓ったのだ。その過程で憎しみのあまり彼の思想は次第に歪んだものになり、もはや『彼に勝つこと』ではなく『屈辱と苦しみを味わわせること』に目的が変わっていった。

そのために今まで以上の鍛練を積み、父の指導の元であらゆる分野の勉学も叩き込んだ。

中国を跋扈するマフィアと取引し、ある時は邪魔な組織は表社会・裏社会のものかは問わず殲滅さえした。

そしていよいよ迎えた日本進出の時。リオングループのビジネス拡大という口実で彼は日本社会に根を張り、彼を追い詰める準備をしていた。

ただ勝ったのでは面白味がない。入念に下準備をして徹底的に屈辱を与えてこそ意味があるのだ。リーはそう考えていた。

そしてその過程であることを知った。

リーが憎む武術家……真龍寺誠の娘、"真龍寺レナ"の存在だ。

彼女が現在福岡に住んでいることを知ったリーはレナを利用することで父の誠に屈辱と苦しみ、そして絶望を味わわせようと企んだ。

こういう手の人間は親族の身の危険には滅法弱い。リーは誠を徹底的に絶望のどん底に落とすため、あえて今は大人しくしているのだ。

だが……手を組んでいるはずの神鳥会の末端構成員が最近博多の街で暴れているようだ。

リオングループに害がない限りは奴等が何をしようと知ったことではないが、高い金を払っているのだからあまり目を引くような真似はやめてもらいたい。

万が一、リオングループとの関連性が明るみに出ればもはや真龍寺誠に復讐をするどころではなくなる。それだけは何としても避けねば。

 

「社長……どうされました?」

 

林花(リンファ)が心配そうに尋ねる。

彼女はよく出来た秘書だ。社長の業務の補佐やスケジュールの管理、乗り物や宿の手配、そして常に体調にまで気を使ってくれている。彼女はリーが唯一心を許せる存在だった。

 

「お顔が優れません。体調が悪いのでは……」

 

「……心配するな、リンファ。ちょっと考え事をしていただけだ」

 

「それならばよろしいのですが……社長にもしもの事があったらと思うと……」

 

「大丈夫だ。身体は鍛えているしな。……それよりお前こそもう休め。日本(こっち)に来てから働きづめだろう」

 

「しかし……」

 

「社長命令だ。休養も業務の一部と知れ。お前に倒れられては私が困る。休める時に休んでおくんだ」

 

「……わかりました。ですが社長も無理はなさらずに。……では、失礼します」

 

リンファは一礼すると名残惜しそうにチラリとこちらを見てから部屋を出ていった。

一人きりになったリーは夕日の落ちる博多の街並みをビルから見下ろしながら真龍寺誠への復讐を誓い、拳を握り締めた。

 

 

 

 

「この……クソ野郎がっ!!」

 

「グエッ!!」

 

「寝てろやぁ!!」

 

「ギャアッ!!」

 

嫌がる若い女性を商店街で無理矢理連れ去ろうとするガラの悪い中国人達の集団に対し、学校から帰る途中でその現場に居合わせた龍馬と勇斗は再び拳を振るっていた。

この間以上に中国人がまた増えた気がする。まるで福岡そのものが中国という国に侵食されているような……そんな気味の悪いものを龍馬達は感じていた。

報復する気など起きないように徹底的に奴等を叩きのめした龍馬と勇斗は女性に礼を言われた後、近くにいた店の人に警察への通報を任せ、伸びている男達を尻目にその場を去った。

 

「……龍馬」

 

「……何だ?」

 

「やっぱり……リオングループの仕業だと思うか?」

 

「……そうだとは思うが、俺はブラッドの言っていた"神鳥会(シェンウーかい)"とかいう中国の組織も絡んでるんじゃないかと思う」

 

これだけ中国人が幅をきかせているにも関わらず、警察の対応も国や市の対応もイマイチだ。

とすると……裏社会からの圧力か或いは贈賄が絡んでいる可能性が高い。最近はニュースでも治安の悪さが取り沙汰され、地元民は怯えるばかりだ。

 

「神鳥会……チャイニーズ・マフィアの奴等か。龍馬、事態は俺達が思っているより深刻かもしれないぞ」

 

勇斗は空を見上げる。空はどんよりと曇っており、今にも降りだしそうな重苦しい雰囲気を漂わせている。

 

「……俺達みたいなガキがどうにかできるような話じゃないってことか……」

 

「ああ。あのリオングループが来てから福岡……特にこの博多はおかしくなっちまった。みんな表情が何だか重たいように感じる……っと、降りだしてきたな」

 

ポツ、ポツと雨が降り始め、次第に雨足が強まりつつある。

傘を持っていなかった龍馬と勇斗は慌てて走り始め、それぞれの家路につく。

龍馬が自宅に帰る頃には制服がほとんど濡れてしまっており、身体も冷えていた。

 

「ハックショ!!……う~、寒みぃ。まだ9月だってのに風邪なんか引いちゃたまらねえな」

 

家には誰もいない。父はまだ仕事だろうし、ディレットはバイトだし、母とルビィとルミナは買い物にでも出掛けているのだろう。

龍馬は冷えきった身体を温めるために早めに入浴を済ませることにした。

ひとっ風呂浴びて部屋に戻った龍馬はベッドに大の字になるが、ブラッドやラグーンのこと、それにリオングループや神鳥会の事が気になる。

 

「……調べてみるか」

 

龍馬は思い立ったようにベッドから起き上がるとそのままPCに向かい、リオングループや神鳥会について独自に調べてみた。

存在自体はネットでも確認出来るものの、やはり裏社会の組織だけあって簡単には詳しい情報は見当たらない。

だが龍馬は探す。こういう時はSNSよりも昔ながらの"掲示板"に意外な情報が隠れているものだ。

そして……

 

 

「!これは……!!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

1:名無しさん 2016/9/**

 

最近、福岡で中国人が増えてて治安悪いんだけどやっぱりリオングループが関係してるの?

 

 

2:名無しさん 2016/9/**

 

>>2ゲト

 

 

3:名無しさん 2016/9/**

 

>>1

あいつらマフィアと繋がってるよ

 

 

4:名無しさん 2016/9/**

 

>>3

怖すぎワロエナイ

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

65:名無しさん 2016/9/**

 

俺の親戚、北九州のヤクザ(と言っても末端の組織だけど)の組長さんでさ、こないだ久々に会ったら「神鳥会っていう中国のマフィアが北九州にシマ持とうとしてる。お前も気を付けろよ」って言いながら怖い顔してた。仕事終わったら真っ直ぐ帰ろ

 

 

70:名無しさん 2016/9/**

 

>>65

マジ?北九州のどの辺?

 

 

71:名無しさん 2016/9/**

 

>>70

そらもうあれよ、そこは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやらリアルタイムで書き込みが進んでいるらしいスレッドを発見した。

カタカタ、カチカチとクリック音とキーボードを叩く音が静かな部屋に響き渡る。

 

 

 

 

 

 

その夜、龍馬はレナに頼んでブラッドとラグーンを家に呼んだ。

龍馬は家の前までレナやラグーンと共に立つブラッドに静かに告げる。

 

「……ブラッド、話がある。神鳥会に関する事だ」

 

「……!」

 

ブラッドの耳がピクリと動き、彼は静かに頷いた。

 

「立ち話も何だ。あがれよ。……俺の部屋で話そう」

 

母は帰宅したディレットと夕飯の支度をしているし、ルビィとルミナはリビングでテレビを見ている。父はまだ帰ってきていない。こっそり話すなら今だ。

二階の自室へと彼等を案内し、それぞれが適当な位置へ座る。

 

「それで?龍馬……お前が掴んだ情報というのは?」

 

「神鳥会の情報ってマジなの?」

 

「よく見つけたね?」

 

ブラッドとレナは龍馬のベッドに腰掛け、ラグーンは座布団に座り、龍馬は机の椅子に座って背もたれに腕を置き、こちらに向かって話す。

 

「……ちょっとネットで調べてみたんだ。そうしたらある掲示板のサイトに気になる情報が載っていた。神鳥会に関する匿名の情報だ」

 

「……信用できるの?」

 

「わからねえ。所詮はネットの掲示板だしな。だけどもしかしたら……ってこともあるだろ?」

 

「……勿体ぶらずに早く言え」

 

「神鳥会はどうやらとある場所に拠点を置いている可能性が高いようだ。そこは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「北九州……"小倉(こくら)"だ」


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