アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第72話 "血"の力

「この野郎ォォ!!」

 

素早く繰り出される龍馬の蹴りをしゃがんでかわすチャン。そのままアッパーをするようにナイフを振り上げるが龍馬は後ろに下がって回避する。

素早く間合いを詰めるチャンのナイフが再び龍馬を襲う。

 

「しゃらくせぇっ!!」

 

「ウグッ!」

 

龍馬は一瞬の隙を突いてチャンの腕にパンチを叩き込む。怯んだ隙を見逃さない龍馬はさらにチャンの左側面に蹴りを入れた。

龍馬の追撃により怯んだチャンを龍馬は掴んで背負い投げを喰らわせる。

だが空中でヒラリと華麗に受け身を取ったチャンはうまく着地して体制を立て直すとまたしても素早く間合いを詰めてナイフの連撃を浴びせる。

 

「この……クソ野郎がぁっ!!」

 

チャンのナイフをルナ・アームで防御した龍馬はそのままつばぜり合いのようになりつつもナイフを弾いて距離を取り、チャンを睨み付ける。

 

「何で愛華姉ちゃんをさらいやがった……!あの人は関係ないだろうが!!」

 

「フッ。その通りダ。ダガ計画ヲ変更する必要がアッタのダ」

 

「……計画だと?」

 

「我々の目的ハ"真龍寺レナの身柄"。それさえあれば後はドウデモ良かったノダ。ダガ奴の拠点に行ってミレバ運がイイノカ悪イノカ、奴は留守ダッタ。だから誘き寄せルタメニ奴の身内ヲ誘拐シタ。タダそれダケノことダ」

 

「そんな理由で……愛華姉ちゃんを……!!」

 

あまりにも身勝手すぎる理由。そんな理由で無関係の人達にまで手を出したのだ、こいつらは。

愛華は今もどこかで恐怖に怯え、おばちゃんは娘を拐われたショックで絶望のどん底にいる。

 

「テメエら……!!生きて帰れると思うな!!!!」

 

「ソレハこっちのセリフダ、小僧。マフィアを敵に回シテ、タダで済むと思ウナヨ」

 

「ぬかせ!!」

 

龍馬は怒りを爆発させ、チャンに殴りかかる。

だがチャンは龍馬の攻撃を素早くかわしてバク転で距離を取る。

 

「何ヤラ怪しい籠手ヲ持ッテイルヨウだがそんなものハ何の役ニモ立たナイゾ」

 

「……そうかな!」

 

龍馬はその瞬間、ルナ・アームにバレンの獄炎を宿す。燃え盛る龍馬の籠手を前にしてさすがのチャンも驚きを隠せない。

 

「!?」

 

「こいつは異世界の女神サマからもらった特殊な武器でね。こんなことも出来るんだよ。……そらっ!!」

 

龍馬は両手から交互に火炎弾を放つ。チャンは慌てて横に側転をしながら人間とは思えない身のこなしでかわしていく。

部屋中のものが火炎弾で吹き飛び、破壊されていく中、チャンは龍馬の火炎弾発射による一瞬の隙をついて姿勢を低くしながら突っ込んだ。

 

「っ!?」

 

龍馬は慌てて上半身を反らしたがチャンのナイフの切っ先が龍馬の顎をかすめ、わずかな切り傷を作る。

ナイフの先から龍馬の血が滴り落ち、チャンがニヤリと不気味な笑みを浮かべた。

 

「こう見エテモ元ヒットマンでネ。タダのマフィアだと思って甘く見テルト痛い目に合うヨ?」

 

「……っ!!」

 

やはり相手は大陸のマフィアだ。尋常ではない殺気に殺しの技術。そして"人を殺すことに何のためらいも持たない"裏社会の恐ろしさを龍馬は改めて実感した。

だが怯んではいられない。確かに恐怖はあるが、それ以上に怒りが勝っていた。

龍馬は恐怖を、恐れを、"怒り"に変えた。彼を怒らせること。それはまさしく"破滅"を意味する。

己が甘い汁を吸うためだけに他者を虐げ、命を奪う者など許してはならない。……許すわけにはいかない!!

 

「うおらあぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

龍馬は怒りの雄叫びを上げながらチャンに突っ込む。

籠手による拳のラッシュとチャンのナイフがぶつかり合い、火花を散らした。

 

「クソガキのくせにヤルネ!!デモ、まだまだヨ!!」

 

「うるせぇ!!でけぇ口叩く暇があるならそのクソガキの(タマ)、とっとと取ってみやがれ!!」

 

お互いに一瞬の隙をも見せぬ攻防。先手を打ったのはチャンだ。

 

「喰ラエ!!」

 

チャンの目にも止まらぬ回し蹴りが龍馬の横っ面に直撃する。

 

「ぐはっ!!」

 

「死ネ!!」

 

仰向けに倒れた龍馬に馬乗りになり、チャンは龍馬の目を串刺しにするべくナイフを振り下ろした。しかし龍馬もチャンの手を掴んで必死に抵抗する。

徐々に龍馬の眼球の目前までナイフの切っ先がジリジリと迫ってくる。

 

「串刺しにシテヤル!!」

 

「ぐっ……!この……!クソがぁ!!」

 

龍馬は右手でチャンの顔面を思い切り殴り飛ばした。その瞬間にチャンのナイフが宙を待って遠くの床に突き刺さり、さらにチャンの腹に蹴りを入れて突き離した隙に立ち上がる。

チャンは離れたナイフを回収すべく、龍馬はそれを阻止するべくナイフに向かってヘッドスライディングで突っ込んだ。

だが奇しくも僅かな差でチャンにナイフを奪い返されてしまう。

お互いに距離を取った状態でチャンはニヤリと笑みを浮かべ、龍馬は歯軋りをした。

 

「そろそろ終わラセルヨ!!」

 

チャンはナイフをクルクルと回すと逆手に持ち、龍馬との間合いを一瞬で詰めた。

そこから目にも止まらぬナイフの連撃。龍馬もそれをかわし、時にはルナ・アームでガードし、攻撃を捌く。

ナイフによるアッパーを繰り出したチャンはそのままナイフを頭上に放り投げ、素手による連続攻撃を繰り出し、龍馬に足払いをかけた。

 

「ぐっ!!」

 

何とか踏ん張る龍馬だが、その瞬間チャンは先ほど頭上に放り投げたナイフを逆手でキャッチし、そのまま龍馬の顔目掛けて思い切り振り下ろした。

 

「死ネ!!」

 

だが龍馬の反応は早かった。ナイフが当たる直前、チャンの腕を掴んで攻撃を止めた。

 

「な、何ダト!?」

 

「ガキだと思って甘く見たな!!喰らえ!!」

 

龍馬はチャンの鳩尾に膝蹴りを入れ、怯んだところに左フック、そして右アッパーだ。

 

「グハッ……!!」

 

「どぉらぁ!!」

 

ふらつくチャンのこの隙を龍馬は見逃さない。龍馬はさらに追撃を加える。チャンの髪の毛を引っ掴むと顔面へのパンチ、再び鳩尾への膝蹴り、そしてーーーー

 

「おぉぉらあぁぁぁっっ!!!!」

 

「ギャハァッ!!」

 

顔面への渾身のストレートが決まった。

ルナ・アームを装着した状態での龍馬の怒りの一撃はとてつもない威力である。チャンは鼻血を噴き出し、前歯を全てへし折られて数メートル先へ吹き飛ばされた。

 

ーーーー決着は、ついた。

 

吹き飛ばされたチャンは怒りに震える龍馬の表情を見て恐怖を覚えた。

 

「ヒ、ヒィッ……ば……バケモノ……!!」

 

チャンが見たものはただの子供などではない。

底知れぬ怒りの炎……尽きぬことのない憤怒の炎が宿る恐ろしい目をした"怪物"が目の前にいる。元暗殺者であるチャンすら恐怖を覚えるほどの。

龍馬は這いずって逃げようとするチャンの頭を掴むと無理矢理引き起こす。そしてーーーー

 

「誰がバケモノだ、コラァ!!」

 

「ギャフッ!!」

 

龍馬はチャンの顔面に容赦なく拳を叩き込む。床に再び突っ伏すチャンをなおも引き起こし、さらに顔面に執拗に攻撃を加えていく。

 

「テメーらの利益のためだけに他人を踏みにじって、気に入らなけりゃ簡単に殺すマフィア風情が人をバケモノ呼ばわりしてんじゃねぇぞ、この野郎ォォ!!バケモノはどっちだゴラアァァァァ!!!!」

 

「グハァッ!!」

 

再び顔面、そして腹部への一撃。なおも龍馬の怒りはとどまることを知らない。

ーーーー"殺される"。組織のために殺しを続けてきた男が、初めて死への恐怖を抱いた瞬間であった。

それは神の裁きか、或いは報いか。どちらにしろチャンには絶望しか残っていなかった。

さらに龍馬の攻撃が苛烈になろうとした時、部屋のドアが開く。

 

「……無事か、龍馬!!」

 

「ああ。幹部の男をシメた」

 

「……よくやった。さすが"博多の怒龍"だな」

 

「……誰に聞いたんだよ」

 

「レナだ」

 

「ったく……まあいいや。さて……」

 

龍馬は虫の息のチャンの胸ぐらを掴み、ゆっくりと問う。

 

「さて……お前らがさらった愛華姉ちゃんはどこにいる?」

 

「ググ……ここには……イナイ……!」

 

「何……!?」

 

「フ、フフ、残念だったナ。女は……既ニ博多へと移シタ……トンだ無駄足ダッタというわけダ……」

 

「……クソがぁ!!」

 

龍馬はチャンを再びぶん殴る。

 

「言え!彼女をどこへやった!?」

 

口を開くまで何度も。

 

「死にてぇか、コラァ!!」

 

「ウグ……ぐ……"黒狼会"ダ……ソイツらに渡シタ……場所マデは……知らん……」

 

「クソッタレが!!」

 

吹っ飛んで壁に激突したチャンは気絶したのかそのまま動かなくなる。

チャンが言っていた"黒狼会"。それは薬院周辺をシマにしている暴力団のひとつで最近活動が活発になりつつあるらしい。

 

「……博多に戻ろう。愛華姉ちゃんの足取りを追うんだ」

 

「わかった!……!?」

 

龍馬と向かい合った位置にいるレナは何かに気付く。それは彼が倒したはずのチャンの姿。チャンは気絶したフリをして素早く起き上がり、ナイフを構えて龍馬の後ろから襲い掛かる。

 

「龍馬!!危ない!!」

 

レナは龍馬を横に突き飛ばすと自らがチャンの攻撃を受け止める。そして次の瞬間ーーーー

 

「でやあああぁぁぁっっっ!!!!」

 

レナの掌底がチャンの腹部を直撃する。

ーーーーその瞬間、チャンはまるで全身に何か得体の知れないエネルギーのような"何か"を感じ、まるで弾丸のようなスピードで弾き飛ばされ、壁を突き破って隣の部屋にまで到達してしまった。龍馬もブラッドもあまりのレナのパワーに驚いて目を見開く。

 

「な、なんというパワーだ……驚いたな……」

 

「レナ……すげえぜ!やるじゃないか!……レナ……?」

 

龍馬はレナの様子がおかしいことに気付く。呼吸が荒く、膝を突いたかと思うとそのまま床に突っ伏してしまい、意識を失ってしてしまった。

 

「レナ!?どうしたおいしっかりしろ!!」

 

しかし呼吸は荒いまま意識は戻らず、苦しそうにしている。

龍馬が彼女を抱え起こすのと同時に外からはパトカーのサイレンが聞こえてきた。どうやら騒ぎを聞き付けた警察がやってきたらしい。

 

「クソッ……こんな時に……!」

 

「龍馬。とりあえずこの場を離れよう。隣のビルに逃げられるポイントがある。そこまでレナを運んで逃げるぞ」

 

「チッ……!わかったよ……!……レナ、しっかりしろ。今助けてやるからな」

 

未だ呼吸が荒く、意識の戻らないレナを龍馬は背負うとブラッドを先頭にし、後ろをラグーンに任せながら警察が来る前に隣の雑居ビルへと移る。

警察に見つからないよう慎重に移動しつつ、何とか現場を離れた龍馬達。しかし龍馬の背中で未だに意識を失ったままのレナ。とにかく彼女を休ませられる場所を探す。

ここでブラッドが近くのホテルを取り、一旦彼女をそこで休ませることに。ホテルを取るような金はないのだがブラッドにはそれなりにあるらしく「金の心配はするな」と言っていたので大丈夫だろう。

部屋にあるベッドに寝かせ、龍馬は近くのドラッグストアやコンビニへ飲料水や冷却シートなどの買い出しに出かける。

買い物から戻るとベッドの脇の椅子にブラッドが座り、ラグーンがベッドにしがみついて心配そうにレナを見る。

 

「レナ……大丈夫なのか……?」

 

「……先ほどよりは呼吸が落ち着いている。もう少し休ませれば良くなるだろう」

 

「それにしてもレナはどうしちまったんだ?あの中国人の男から俺を守った瞬間からおかしくなったぞ」

 

「流石に僕にもそれはわからん。……が、しかし……ある程度見当はつく。レナのあのパワーを見ただろう?私の見立てではあれが何らかの原因と見た」

 

大の男を壁を突き破って吹き飛ばすほどの力。今までのレナにはなかったものだ。あれ以降レナはこの有様だ。何の攻撃も受けてない以上、あれが原因なのは明らかだった。

 

「もしかすると……あれはレナの潜在能力なのかもしれん。本人ですら気付いていないような……な」

 

「もしかして、その力の反動でか?」

 

「それが何かはわからないが、おそらくその可能性が高い。だとすると彼女は内なる力のコントロールがまだ出来ていないのだ。この状態を解決するには……"彼女をよく知る人物"に話を聞くべきだろうな」

 

レナをよく知る人物といえば……肉親以外ではおばちゃんだろうか。

もし可能であるならばレナがよく話していた肉親の一人……彼女の父親に話を聞く必要がある。

 

「龍馬。レナは一晩ここで僕とラグーンが面倒を見ておく。お前は一足先に博多へ戻ってレナがこうなった理由を探ってほしい」

 

「大丈夫なのか?」

 

「ああ。いざとなったら組織の後ろ楯もある。心配するな」

 

「……わかった。じゃあ俺は先に博多へ帰るぜ」

 

龍馬はレナをブラッドとラグーンに任せ、その足で小倉駅に向かうと一人で博多へと戻った。

博多に戻ると龍馬は真っ先にふくまるへと向かう。店の脇の階段から二階へ上がり、インターホンを押す。

しばらくすると目の下にクマができたおばちゃんが現れた。ショックで食事も喉を通らないのだろう。ふくよかな体型の割に一日でかなりやつれた印象である。

 

「ああ……龍ちゃん……何か用かい?」

 

「おばちゃん。愛華姉ちゃんのことと、それからレナのことでお話が」

 

「……立ち話もなんだ。上がりな」

 

龍馬はおばちゃんに案内されて家へと入る。

居間の畳に座ると龍馬はまず愛華のことを話した。

 

「おばちゃん、まず愛華姉ちゃんのことだけど……足取りが掴めたよ」

 

「……それは本当かい!?」

 

「間違いないよ。なんせさらった連中をぶちのめして聞き出したからね」

 

龍馬は先ほど神鳥会幹部・チャンを叩きのめして聞き出した情報を全ておばちゃんに教える。

 

「……というわけで愛華姉ちゃんの身柄はそのヤクザ連中に引き渡されたはずだ。俺はすぐにでも奴等のいる場所にカチコミかけてやるつもりだよ」

 

「……龍ちゃん。ありがとうね。でも危ない事はなるべくしないでおくれ。あんたにまで何かあったら私は……」

 

「大丈夫だよ、おばちゃん。俺はそんなにヤワじゃない。……それよりもレナのことについて聞きたいんだ」

 

「あの子がどうかしたのかい?」

 

龍馬は事情を説明する。

 

「そうかい……けどごめんよ。私には見当もつかないね……だけど誠さんなら……何か知ってるかもしれないねぇ。電話番号……教えとこうかね」

 

おばちゃんはそう言って立ち上がるとタンスにあった引き出しからメモ帳と鉛筆を取り出してある電話番号を書いて龍馬に渡した。

 

「レナちゃんのお父さん……真龍寺誠さんの道場の電話番号だ。……龍ちゃん、大して何も出来なくてごめんね」

 

「気にしないで、おばちゃん。それと……愛華姉ちゃんは俺が必ず助け出す。……ヤクザだろうがマフィアだろうが全員ぶっ飛ばしてやるよ」

 

龍馬はそう言っておばちゃんの家を後にした。

手にはおばちゃんから渡されたレナの父親の道場の電話番号のメモが握られている。

龍馬はメモに書かれた番号へ早速電話した。

数回の発信音の後に年配の男性の声が聞こえてくる。

 

「"はい、真龍寺道場です"」

 

「……真龍寺誠さんですか?レナのお父さんの」

 

「"……君は誰だ?"」

 

「俺は斎藤龍馬と言います。福田芳子(ふくだよしこ)さんの店の常連でレナの友達です。……あなたにレナのことで聞きたいことがある」

 

「"斎藤龍馬……?まあ、いいだろう……何が聞きたいんだ?"」

 

龍馬はレナが恐ろしいまでの力を発揮した直後に意識を失い、今も意識が戻らない事を説明した。

 

「"……なるほどね。いつかはこの時が来ると思ってたが……"」

 

「どういうことですか?」

 

「"その前にまず龍馬君。中国拳法で『気』や『気功』というものを聞いたことはあるかい?"」

 

"気"、それに"気功"。よく漫画などでも耳にする言葉だ。

ざっくり言えば人間の体内には"気"というエネルギーが流れており、それを身体能力として発揮し、人間の身体の能力以上の力を出す、というものだ。

 

「はい……ちょっと聞きかじった程度ですが」

 

「"人間の身体には『気』の力が流れている。極限まで心・技・体を鍛えた人間はそれを使って己の限界以上の力を引き出すことができる。東洋の拳法ではこれを極めることこそ極意であり頂点とされているんだ。もちろん俺も使えるし、あの子も荒削りではあるが使えるんだ。

だけどね……『気』というエネルギーはあくまで鍛えた心身によって自ずと使えるもんなんだ。実はさらにその上がある"」

 

「上……?」

 

「"ああ。それはね……"」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"真龍寺流に伝わる『血の力』さ"」

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬の沈黙の後、龍馬は誠に問い掛ける。

 

「血の力……?」

 

「"そう、『血』だよ。真龍寺流に伝わる、ね。ある意味では『呪い』とも言うべきかな"」

 

誠の話によれば真龍寺家に伝わる"血の力"とは自らの意思によって血流を操ることによってそして身体全体の"気の流れ"を操作し、肉体の限界を超えた身体能力を引き出す力だという。

ただし血の力を使いこなすには並大抵の修行では不可能である。誠自身も相当の修行を長年積んだようだ。

そして何より血の力は身体の潜在能力限界以上に引き出す分ーーーー使用者への負担は大きくなる。

そしてレナは幸か不幸か……誠以上の力の素質を持って生まれてしまったのだ。

"血の力"は真龍寺一族ならば誰しもが持って生まれてくるようだが、そのあまりに強大な力故に存在を危険視され、命を狙われることも歴史の中で多かったらしい。

そのため真龍寺一族はその力の本質を偽装するためにある時は空手を、ある時は剣術を、ある時は古武術を、ある時は中国拳法のありふれた流派のひとつとして一族に迫る危険から身を遠ざけて来たのだとか。レナの空手に時々中国拳法のような技があるのもその名残だという。

今でこそ他流派や影の組織から命を狙われるようなことは無くなったが、身体を蝕む"血の力"の呪いは続いている。

その強すぎる力に意図せずして飲まれ、命を落とした者も多い。幼い頃は身体が弱かった誠も命の危険に晒されたと話す。

誠はレナが幼い当初から自分を越える娘の力に気付いていたようで、彼女が人生を歩み力をつけるなかで血の力を操る方法を授けるつもりであったらしい。だが……

 

「"まさかこんな早くにあの子が"血の力"を発揮してしまうとは……流石に俺にも予想外だったよ"」

 

「レナは……大丈夫なんですか?」

 

「"心配ない。命に別状はないよ。しばらく休めば良くなるさ。ただ……これはなかなかの非常事態だな。不本意だが、今から福岡へ行こう。着いたら連絡する。それまではあの子を安静にさせておいてくれないか"」

 

「……わかりました。お待ちしています」

 

龍馬は電話を切る。誠は明日福岡へ来るらしい。

とりあえずレナの件はこれで安心だろう。龍馬は次に愛華の足取りを追うべく、黒狼会を探る行動を開始した。

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