アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第75話 愛華救出作戦

仁の仕入れた情報によればどうやら博聖会二代目会長の川崎は不定期に神鳥会やその他の海外組織と取引しているらしい。

そしてその取引によく使われている場所が"香椎浜埠頭"との情報を入手した。

仁は川崎が黒幕であったことにあまり驚きはなかったようだ。それと言うのも最近川崎のシノギの出所が不明な点があり、仁も不審には感じていたものの、黒狼会は博聖会の上納金に組織の中で一番大きな恩恵を受けていたために仁も深く追求はしなかったという。

だが仁もよくよく考えてみると今回の一件で博聖会が絡んでいることには全ての辻褄が合うと言っていた。

それは博聖会が金だけではなく、構成員の武装に必要な装備をどこからか取引しては持ち込んでいたのだ。

その辺の密輸ルートで手に入る粗悪な武器とは違って博聖会の仕入れる銃器は非常に信頼性が高く状態が良い。

信頼出来る武器というのは非常に重要だ。いざというときに動作不良など起こしてしまえば命に関わる。博聖会のシノギが黒狼会のほとんどを支えていると言っても過言ではなかった。

だが、そんな良質な武器の密輸ルートを博聖会は明かさなかった。仁にしてみれば上納金さえ入れてくれていればそれに越したことはなかったし、博聖会はそれ以上の利益をもたらしてくれていたので文句などつけようもあるはずがない。

だが、敵対組織と取引をしているとなれば話は別だ。もしかしたら金だけではなくこちらの内部情報まで売り渡している可能性も高い。仁は決めた。……博聖会に"ケジメ"をつけさせると。

 

「"龍馬、作戦を話すぞ。奴等の取引の時間は午前0時きっかりだ。その前に例の場所に集合する。俺らがカチコミかけたら騒ぎに乗じて女を探せ"」

 

「……愛華姉ちゃんを助け出したら、あんたはどうするんだ?」

 

「"そこから先はヤクザの仕事だ。お前らはとっと逃げろ。いいな?"」

 

「……ああ、わかった」

 

龍馬は電話を切る。

取引の時間は午前0時。その前に香椎浜埠頭に集合する。龍馬はその時に向けて準備をしていた。

ブラッド達にも情報は通達してある。そしてこの襲撃に勇斗も参加するつもりでいたようだが、龍馬は"別の事"を勇斗に頼んだ。

 

「勇斗、お前は残れ」

 

「何でだよ!?愛華姉ちゃんがさらわれてるんだろ!?なら俺も……」

 

「いや、もしかしたら商店街に神鳥会の人間が報復に来るかもしれねえ。お前は万が一のためにここに残って商店街の人達を助けてやってくれ。頼む」

 

「……はぁ。しょうがねぇな。親友の頼みなら断るわけにはいかねえよ。そん代わり、絶対愛華姉ちゃんを助け出せよ!失敗したら地獄まで追っ掛けてやるからな!頼んだぜ……"博多の怒龍"。龍を怒らせたらどうなるか……奴等に思い知らせてやれ」

 

「言われなくても……そのつもりだよ!」

 

龍馬は拳をゴキゴキと鳴らす。

今夜の襲撃に備えて早めに休んでおこうと龍馬は家に戻ることにしたが、勇斗と別れようとした時に商店街の向こう側からレナが駆け足でやってくるのが見えた。

 

「龍馬~!」

 

「レナ?どうしたんだ?」

 

「龍馬、それに勇斗もふくまるに来なよ!おばちゃんがご飯食べさせてくれるって!」

 

聞けば先ほどの商店街での乱闘の一件以来、塞ぎ込んでいたおばちゃんが活力をみなぎらせて鍋を振るっているのだという。

レナについていき、店に到着するとそこではいつものようにおばちゃんが厨房で調理に勤しんでいた。

中では既にブラッドとラグーンも待機している。

 

「龍ちゃん、来たね!さあ、そこに座んな!」

 

「おばちゃん、これは……」

 

「今日は私の奢りだよ!好きなモンを好きなだけ食いな!……腹が減っては何とやら、ってやつだよ!」

 

おばちゃんは言う。いつまでも落ち込んではいられないと。まるで息子のように見守ってきた子達が大事な娘を救い出すために命をかけて戦ってくれているのに自分は何もしないなどおこがましいにもほどがあると。

今だってそうだ。年端もいかない学生達であるはずの彼等は今夜、いよいよ娘を助け出すために裏社会の組織を相手に決死の救出作戦を実行しようとしている。

ならば今は自分に出来ることをやろう。せめて彼等が全力を出せるように、自分に出来る最高の料理で彼等を応援しようと考えたのだ。

 

「龍ちゃん……みんな……私にはこれぐらいしか出来なくてごめんね。娘を……愛華を必ず助け出しておくれ……」

 

「ああ。約束するよおばちゃん。次にここに来る時は愛華姉ちゃんも一緒だ」

 

腹が減っては戦は出来ぬ。龍馬達は存分におばちゃんの厚意に甘えることにし、いつものおばちゃんのラーメンやギョーザ、炒飯などをたらふく食べた。

いつもの空間。いつもの味。そんなおばちゃんの料理が彼等に力を与えてくれる。

 

 

 

ーーーー今なら、どんなヤツが相手でも負けはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後23時半ごろ。香椎浜埠頭。黒狼会からの迎えの車で龍馬達は合流地点に到着した。

車から降りると既に仁が待っている。

 

「おう、龍馬か。やっぱり逃げずに来たか」

 

「当たり前だろ。誰が逃げるかよ」

 

「だろうな。ま、"博多の怒龍"はこんなことで逃げ出すほどヤワじゃねぇよな」

 

「……どこでそれを」

 

「……俺にはヤンチャな甥が一人いてね。そいつの話を思い出したのさ。お前に喧嘩を挑んで見事に返り討ちにあったらしい。

……一度怒らせれば相手を全てぶちのめすまで止まらない、その姿はまるで"怒れる龍そのものだ"……ってな」

 

龍馬が本部を去ったあの後に仁は思い出した。

龍馬と同じ歳で近辺の高校に通う甥がかつて言っていたことを。異常なほど喧嘩が強く、怒らせればただでは済まないという一人の学生の話を。"博多の怒龍"の異名で恐れられるその男の名を。

 

「他の奴等も準備はいいか?」

 

「いつでも行けるよ!」

 

「愚問だな」

 

「任せて!」

 

龍馬と行動を共にしているレナ、ブラッド、ラグーンの三人。皆準備は万端である。

 

「……よし、奴等は北西の方角……あのタンカーの停泊している場所で取引している。俺達は東側から攻め込むからお前らは騒ぎに乗じて南から攻めろ。なるべく川崎の野郎に気付かれる前に女を探せ。コンテナか皆にある事務所……どこかに監禁されているはずだ」

 

この香椎浜埠頭には多くのコンテナが並び、南に埠頭を管理する会社の事務所がある。

博聖会がここを取引の場所として使っているなら周辺の組織も博聖会の息の掛かった場所である可能性が高い。奴等が愛華を監禁するならそのどこかだろう。

だが愛華の正確な位置に関する情報は何もない。怪しい場所を総当たりで探していくしかないが、時間が経てば経つほど多くの博聖会構成員や神鳥会構成員と戦うことになるだろう。

なるべく素早く行動し、愛華を見つけて救い出したら急いで脱出しなければならない。

 

「……時間だ。じゃあ、俺達から先に行くぞ」

 

午前0時。仁と龍馬は二手に別れて行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドウモ、川崎サン」

 

「こんばんは。時間通りですね。早速取引を始めましょう」

 

博聖会二代目会長・川崎聖也はいつも通りに取引に現れた。神鳥会との武器の取引……そして……

 

 

 

 

 

 

"麻薬"の取引のために。

本来、黒狼会では麻薬の取引は禁止されているが、川崎にはそんなことは関係なかった。

金を得るためなら何でもする。それが川崎のやり方だ。麻薬の売買は食いっぱぐれることはない。

武器の密輸が主な"商売"である神鳥会にとって麻薬は非常にありがたいものだった。

 

「"商品"ハドコデスカ?」

 

「この近くに大量に確保してある。まずはそちらからだ」

 

「……マア、イイデショウ。アナタハ信頼デキル方ダ。……オイ」

 

神鳥会幹部の男が側近の二人に黒いケースを二つ、持ってくるように指示する。

川崎はそれを受け取ると中身を確認する。

中を開けると……一つには複数の拳銃、そしてもう一つには自動小銃(アサルトライフル)狙撃銃(スナイパーライフル)が。

拳銃はグロック17。オーストリアで製造された拳銃であり、プラスチック素材を使用した非常に軽量で使いやすい銃だ。

自動小銃(アサルトライフル)はM4A1カービン。アメリカ陸軍のM4A2の銃身長を短縮したもので取り回しが良く、アタッチメントによるカスタムも豊富だ。

狙撃銃(スナイパーライフル)はPSG-1。ドイツのH&K社製造のセミオートライフルで対テロ特殊部隊向けに製造された狙撃用のライフルである。

 

「ソレラハ見本デス。注文ノ数ハ後程トラックデオ届ケシマス」

 

「……素晴らしい。やはりあなた方の武器は最高だ。……それでは今度はこちらの番です。"商品"の場所にご案内します」

 

川崎は銃をガンケースにしまうと幹部の男を案内して場所を移動しようとする。

その瞬間だった。大量の黒い車が取引現場に押し寄せてきたのは。

照らされるヘッドライトの光に思わず目を覆う川崎達。

 

「……よう、川崎」

 

「……五代目!?なぜここに!?」

 

車から降りてきたのは仁だ。川崎は取引の現場に仁が現れた事に動揺を隠せない。

 

「お前……誰と取引してるんだ?ああ?」

 

「くっ……!」

 

「神鳥会との取引はするなと組員全てに伝えてあるはずだが?」

 

「……博聖会(うち)のシノギに支えられてる組織が何を言っているんですか」

 

仁と川崎。両者のにらみ合いは続く。そんな中響く一発の銃声。神鳥会幹部の男が上空に向かって銃を放ったのだ。

銃声に反応してすぐさま黒狼会の構成員達も車を盾に銃を構え、同じように博聖会の構成員と神鳥会の構成員も銃を向ける。

そしてまだ硝煙の立ち上る銃を構えたまま幹部の男は言う。

 

「川崎サン。アナタモソロソロ決断スルトキデス。組ヲ抜ケルカ、私達トビジネスヲ共二スルカ」

 

「……っ!」

 

川崎は歯軋りをして躊躇する……が、ふっ切れたかのように懐から銃を取り出してなんと仁に向けたのだ。

 

「……それがテメーの答えか、川崎」

 

「……ええ、そうです五代目。任侠だの男気だのと拘っている今の日本の極道に未来はありません。表社会も裏社会も、今はグローバルの時代なんです。海外勢力と取引をして力を付けていかなければ生き残れないんですよ」

 

「……そうか。だったらもう容赦はしねえ。……野郎ども!戦争だあぁ!!!!」

 

仁が大声を上げると同時に銃撃戦が始まり、埠頭は無数の弾丸が飛び交う戦場と化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始まったようだな。かなり激しい銃撃戦だ」

 

ブラッドが上空からの偵察を終えてコンテナの影に隠れた龍馬達の元に戻ってくる。

どうやら黒狼会と博聖会、そして神鳥会の入り乱れる抗争が始まったらしい。龍馬はルナ・アームを装着して戦闘体勢に入る。

 

「よし、みんな行くぞ!愛華姉ちゃんを助け出すんだ!」

 

「了解!」

 

「ラジャー!」

 

龍馬の合図と共に一斉に飛び出す。

銃撃を警戒して黒狼会本部での戦闘の時のようにブラッドが先頭に立ち、二番目にラグーン、三番目にレナ、一番後ろを龍馬が努める。

四人は各ポジションを死守しつつ、銃撃戦の音で警戒している博聖会構成員に突っ込んでいく。

 

「な、なんだお前らは!?……ぐわっ!!」

 

「や、野郎!!このっ……ぐへっ!!」

 

ブラッドのカーテンウォールが二人を一度に弾き飛ばした。騒ぎを聞き付けて複数の博聖会構成員が駆け付ける。が、皆反対側の銃撃戦に駆り出されているのか数はそこまで多くはない。

ブラッドのカーテンウォールによるガードを受けながらレナと龍馬が突っ込んだ。

 

「でりゃあああ!!」

 

「うぉらあぁぁぁ!!」

 

レナの飛び蹴りが顔面にクリーンヒットし、龍馬のアッパーが身体を宙に舞わせるほどの力で繰り出される。

 

「寝てろぉぉ!!」

 

ルナ・アームの脛当てによる龍馬のハイキック。身体中の骨をブチ折ろうかというほどの衝撃が博聖会構成員の首筋に走り、きりもみ回転しながら吹き飛ばされた。

 

「こ、このガキ共がぁ!」

 

龍馬達に銃が向けられる。……手に握られているのはサブマシンガンだ。

 

「死ねえぇぇ!!」

 

男の指が引き金を引こうとするまさにその瞬間。

 

「ラグーン!!」

 

「オーケー!!」

 

ブラッドの声に反応してラグーンが素早く跳躍し、ウェブで銃を包んで発砲を防ぐ。

動揺した男は慌てて銃を捨て、懐から小刀(ドス)を取り出す、が。

 

「遅いよ!」

 

間合いを詰めたレナの肘打ちが男の鳩尾に鮮やかに決まった。男は悶えながらその場に倒れる。

レナの技のスピードもキレも以前とは比べ物にならない。"血"の力を抑えていてもこれほどのパワーが出せる彼女が以前より強くなっているのは誰が見ても明らかだった。

辺りに敵はいないかすぐさま確認する。ブラッドのカーテンウォールの波動が地を這い、壁を這い、そこから感じ取った振動で偵察を行う。

 

「どうだ、ブラッド?敵はいるか?」

 

「待てよ、今……上だ!狙撃手(スナイパー)がいる!」

 

建物の屋上に狙撃手がいることをブラッドは掴むが、その瞬間には既に銃口は彼等に向けられていた。

すんでのところで放たれた弾丸をブラッドが防御する。その瞬間。

 

「させるもんか!!」

 

ラグーンが高く跳躍して壁へと張り付き、さらにそこからウェブの発射と跳躍を繰り返して屋上へと飛び上がると狙撃手の男の前に迫る。

 

「ヒィッ!?な、なんだ!?あ、あっち行けバケモノ!!」

 

「行けと言われて簡単に行くわけないだろ!!」

 

狙撃手の男はライフルを向けるが、至近距離の戦闘で取り回しの悪い狙撃用のライフルを向けるのは自殺行為だ。相手はただでさえ身のこなしが素早いラグーン。彼は男のライフルの銃口に右手を向けてウェブを何発も撃つ。

ライフルは先端から銃床、内部の薬室から引き金に至るまでウェブに包まれて使えなくなり、ただのスクラップと化す。

次の瞬間、男はラグーンの多脚による攻撃により弾き飛ばされ、建物から落下した。

ラグーンは壁へと張り付きつつ、ウェブも併用しながら地上に降り立つと龍馬達の元へと戻る。

 

「ラグーン、よくやったな。偉いぞ」

 

「えへへ……ありがとう」

 

龍馬はラグーンの頭をわしゃわしゃと撫でてやる。五つの目がへにゃりとした目付きになり、まるで犬のようだ。

辺りの敵影がないか確認すると龍馬達は直感で怪しいと感じた場所を片っ端から探す。

だがコンテナや埠頭の管理事務所などを当たったがどこにもいない。

そして遂に残ったのは倉庫一つだけ。

内部に突入すると武装した博聖会構成員達が。龍馬は"当たり"を確信した。

 

「おらあああぁぁ!!どけやああぁぁ!!」

 

龍馬のルナ・アームによる拳のラッシュが一騎当千と言わんばかりに博聖会構成員達をなぎ倒してゆく。

ある者はコンテナや壁に顔面を叩き付けられ、ある者は首筋をハイキックで思いきり蹴り飛ばされる。

こいつらマフィアやヤクザは力なき人々を踏みにじり、自分達のためだけに命を平気で奪うクソッタレ野郎どもなのだ。

ならばそこに情けも容赦もありはしない。龍馬の拳が唸りを上げ、次々と構成員達をなぎ倒してゆく。

 

「おりゃ!!どりゃあ!!せいやぁぁぁ!!」

 

ルナ・アームを装備した龍馬の素早いワンツーパンチからの回し蹴りが一人に対して炸裂し、続けて彼はその後ろにいる構成員に対してまるでバスケのダンクシュートとでもいわんばかりの跳躍からの拳の叩き付けを行い、二人を無力化する。

怒りに満ちた"博多の怒龍"は止まらない。大事な人達を次々と傷付けた輩どもにその牙を向ける。ーーーー奴等を全て倒すまで。

ブラッドやレナ、ラグーンも協力して辺りの敵を掃討し、遂に最後の一人を倒すと龍馬は倉庫の奥にある鍵のかけられた部屋にたどり着いた。

ルナ・アームの一撃で南京錠と鎖を叩き壊し、さらにドアを蹴破った。するとそこにはーーー、

 

「……愛華姉ちゃん!!」

 

見つけた。愛華だ。

しかし両手を後ろ手に縛られ、口は塞がれ、両足を縛られてぐったりとしている。龍馬は近くに落ちていた小刀(ドス)でロープやテープを切断すると愛華を優しく抱えて呼び掛けた。

 

「愛華姉ちゃん……!俺だ……!龍馬だ……!しっかりしろ!助けに来たぞ!」

 

「愛華姉ちゃん!もう大丈夫だよ!」

 

「…………龍…………ちゃん…………?レナ……ちゃ…………ん…………?」

 

愛華はゆっくりと目を開ける。

ぼんやりとだが視力が戻り、自分に呼び掛ける人物の顔が徐々に鮮明になってゆく。

 

「ああ……俺だよ、愛華姉ちゃん……!大丈夫か……!?」

 

「……うん……大丈夫……龍ちゃんにレナちゃん……助けに来てくれたんだね……」

 

助けが来たという安堵と嬉しさのあまり、愛華の目に涙が浮かび、頬を流れ落ちた。

いつも母の店にラーメンを食べに来てくれている彼が、喧嘩が強くてちょっと怒りっぽいけど誰よりも優しいあの彼が、仲間達と共に命を賭して助けに来てくれた。

そんな安堵の心からか愛華は再び気を失う。

 

「……姉ちゃん!?愛華姉ちゃん!」

 

「落ち着け、龍馬。彼女は気を失っているだけだ。どれ、僕が運ぼう」

 

ブラッドは愛華を抱え上げると彼女の身体を万が一に備えてカーテンウォールの膜で包む。

 

「龍馬、先導しろ。この状態で戦うのはいくら僕でも流石に厳しい。何、心配するな。お前達に盾を作ってやるくらいのことならできる。被弾の心配は無用だ」

 

「わかった。……よし、じゃあ脱出するぞ!」

 

龍馬が先頭に立ち、レナが二番目、三番目が愛華を背負ったブラッド、殿をラグーンが努めるという隊列に変更し、倉庫を出る。

あらかた敵は片付けた。遠くではまだ銃声が聞こえるものの、こちらに来る気配はない。

龍馬は先導しつつ、念のため辺りを警戒しながら元来た道を慎重に進む。

そしてようやく最初の出発点まで戻ってきた。ここまで来れば安心だろう。もう少し離れたところで黒狼会の車が待機している。龍馬達は車までさらに退避した。

車に愛華を乗せ、埠頭を離れる準備は万端だ。

運転手の構成員に車を出させようとする。が、しかし……

 

「くっ……しまった!!追っ手だ」

 

後ろから複数の車がこちらに迫ってくる。おそらく博聖会の車だろう。

このまま愛華を乗せたまま逃げ切るのはさすがに厳しい。と、なればやるべきことはひとつだ。

 

「あいつらは僕が食い止める!!先に逃げろ!!」

 

ブラッドは車を降りるとからのを纏わせながら囮を買って出たのだ。

 

「ブラッド!!そんなの無茶だよ!」

 

「なにやってんだブラッド!!車に戻れ!!」

 

「ブラッド!!」

 

「黙れ!!この作戦の要は愛華の救出だ!!何としてでも愛華は助ける!!ここまで来て奴等に邪魔などさせるものか!!」

 

ブラッドは口にこそ出さなかったが、龍馬達やふくまるのおばちゃんや愛華は彼の心の中で大きな存在に膨れ上がっていた。兵器であるはずの自分やラグーンの真実を知っても"普通の人間"と何ら変わらない接し方をしてくれたのだ。ふくまるは彼の中で大事な場所になりつつあった。だからこそ、愛華を必ず助けると心に誓った。

ならば、振るおう。この"力"を。自分のためではない、"誰かのために"その力を使うとブラッドは決心した。それが自分を仲間だと言ってくれた人達に対する答えなのだと。彼はそう思った。

車から無数に放たれる銃弾をカーテンウォールで防御するブラッド。しかしあまりにも数が多すぎてさすがの彼も防戦一方だ。

 

「くっ……!!」

 

その瞬間ブラッドの脇を火の玉が飛んで行き、構成員達の車を攻撃した。炎上する車から慌てて降りる構成員達。

そう、それは龍馬のルナ・アームから放たれたバレンの獄炎による火炎弾だったのだ。

 

「龍馬……!!」

 

「ブラッド、オメーだけにいいカッコはさせねえ。何よりこんなところで仲間を見捨てて逃げるなんてたまるかってんだ」

 

「……全く、呆れた奴だなお前は」

 

そう言いながらもブラッドは口元をほころばせる。

どこまでも真っ直ぐで、仲間想いで、そのためならば己が傷付くことも厭わない男。

それが斎藤龍馬という人間なのだとブラッドは改めて知った。

 

「運転手さん!こいつらは俺達に任せな!……レナ!ラグーン!愛華姉ちゃんを頼んだぞ!」

 

「龍馬!ブラッド!」

 

「二人とも!無茶だよ!」

 

「……車を出すぜ!しっかり掴まってろ!」

 

タイヤのスキール音が鳴り響き、車が発進する。

愛華、レナ、ラグーンを乗せた車はすぐに見えなくなり、"愛華の救出"という目的は何とか果たせた。

あとは……目の前のゴミどもを片付けるだけだ。

 

「ブラッド、準備はいいな?」

 

「ああ、"ゴミ掃除"と行こうじゃないか、龍馬」

 

 

 

 

二人はそれぞれ構え、戦闘を開始した。




・vs博聖会構成員&神鳥会構成員戦イメージBGM……
『Extremely huge』
(『龍が如く極2』より)
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