ーヒルトン福岡シーホーク4F・メインエントランスー
「どけっ!!」
「グハァッ!!」
龍馬が右ストレートで殴り付けたSPが吹き飛び、床に大の字に倒れる。
これだけの人数をものともせずに突撃する龍馬達を前にある者は怒り、ある者は恐怖している。
もちろん龍馬だけではなく、他の三人も怒濤の攻撃を見せる。レナの"血"の力を込めた拳はかなりの威力を誇り、ラグーンの素早さとウェブは敵を翻弄し、ブラッドのカーテンウォールは攻防一体の強力で頼もしい能力である。
それぞれがそれぞれの特技・能力を活かした陣形と戦法で戦い、神鳥会とリオングループSPを撃破していった。
敵の本拠地に乗り込んでからあの謎のロボットも含め、攻撃がさらに苛烈さを増す。
これほどの騒ぎにも関わらず、警察が来ないのはやはり博多の街の暴動の対応に追われているからなのだろうか。おそらく県警の助けは得られないだろう。ということはこの四人だけで制圧するしかない。もとよりそのつもりだが。
「さて……この辺にエレベーターがあるはずだが……」
フロアマップを頼りにエレベーターを探し、ようやく辿り着く。だが。
「チィッ!!クソが!!」
龍馬は壁を殴る。なんとエレベーターの扉は溶接されており、扉が開かなくなっているのだ。
「そう簡単には行かせてくれないみたいね……」
「畜生……てっぺんまで階段で行くしかねえのか?」
「いや……待て二人とも。おそらくどこかの階は使えるエレベーターの扉があるはずだ。考えてもみろ。僕達をエレベーターに乗せたくないだけなら溶接なんて面倒なことはしないで動力を落とせばいいだけの話だ。ということは奴等もエレベーターを使っているはずだ。扉が開放されている階を探そう。きっとある」
ブラッドは言う。動力まで落としてしまえば自分達の移動も苦労することになるため、龍馬達に近い低い階のエレベーターだけが溶接により封鎖されていると。
確かにエレベーターの階層表記を見るとランプが階層を移動している。止まった階は……5階。
「5階だ!5階を目指せ!」
「よっしゃ!行くぜ!」
すぐさま階段へと向かい、5階を目指す。
階段には敵はおらず、すんなりと辿り着きそうだ。
だが、現実はやはり甘くなかった。
なんと5階の踊場で階段が大量のバリケードで封鎖されているのだ。様々な家具やガラクタで隙間なく封じられていて通るのは無理そうだ。
「こりゃ無理だよ……」
「う~ん……!だ、ダメだぁ……押しても引いてもビクともしないよ……」
「クソがッ!」
「別の道を探そう。階段はまだあるはずだ」
四人は一度5階へ出て道を捜索する。
ここでも敵が押し寄せ、龍馬達の行く手を阻んだ。おまけに通路にも多数のバリケードが。
しかし、こんなところで足止めを喰らっている場合ではない。彼等は行けそうな場所をくまなく探す。
しかしブラッドはこの時何か違和感を感じていた。それは点在するこの数々のバリケードだ。
「(おかしい……私達の行き道を塞いでいるというよりは……"どこかに誘導している"ように見える……)」
もし行く手を塞ぎたいだけなら全てを塞げばいいはずだ。なのに"必ずどこか一箇所に抜け道がある"。まるでどこかに誘い込むかのように。ブラッドは嫌な予感がした。
そして辿り着いた場所は5階にある中宴会場。だが中にはテーブルも椅子もなく、だだっ広い空間になっている。敵の姿はない。
「……ここは……宴会用のホールのようだが……」
そしてブラッドは知ることになる。自分の悪い予感が当たってしまったことに。
この宴会場には庭園を模した広いテラスへの窓がある。
最初はよくわからなかったが、そのテラスから黒い影がこちらに迫って来ているのがわかった。
「……みんな、警戒しろ!何か来るぞ!」
ブラッドがそう叫んだ瞬間、窓ガラスが激しく割れ、二体の巨大な影が飛び込んでくる。
黄色い身体に縞模様の毛並み。筋骨隆々とした四肢。獲物を狙う恐ろしい目に鋭い牙。
それは紛れもなく"虎"であった。
「と……虎だ!本物の虎だよ!」
「リーはこんなもんまで持ってんのかよ!?狂ってやがるぜ!!」
「「ゴアアアァァァァァァッ!!」」
二対の猛虎が地の底から響くような恐ろしい咆哮を同時に上げる。どうやら腹を空かせているらしく、かなり気が立っているようだ。
ロボットやら虎やらリーは兵力には事欠かないらしい。まったく大したものだ。だがここで虎の餌になってやるつもりはない。龍馬達は二対の猛虎と戦う決意をしたのである。
猛虎が一瞬で間合いを詰めるほどの素早い跳躍で龍馬に飛び掛かる。素早く龍馬は横に転がってかわしたが、体勢を立て直す前に再び飛びかかってきた猛虎に押さえ付けられた。
「龍馬!!」
「ぐぅっ……!!」
異世界で戦ったワイルドベアーとは比べ物にならない力。腹を空かせた猛獣の口が龍馬の喉を食い千切ろうと目前まで迫るが、龍馬も必死に抵抗する。
龍馬を助けようとするが、レナもブラッドももう一体の猛虎に遮られて救助に行けない。
「うりゃあぁっ!!!!」
そんな中、ラグーンが龍馬を襲う猛虎の背中に飛び掛かった。
彼は龍馬を押さえ付ける猛虎を引き離すべく、両手の吸着力を活かして暴れる猛虎の背中に張り付いた。
さらに多脚で猛虎の身体を全力で攻撃するとその痛みに耐えかねて猛虎は遂に龍馬から離れる。
攻撃を受けたことで完全に怒りの矛先をラグーンに向けた猛虎はそちらへと向かっていく。
ここでラグーンは持ち前の素早さで一体目を翻弄しつつ、レナやブラッドと戦っていたもう一体の猛虎に小さなウェブを飛ばした。攻撃を受けた二体目の猛虎が怒り、ラグーンを追い掛ける。
「ラグーン!?お前一体何を……!?」
龍馬はラグーンが何かをしようとしていると直感で気付いた。
完全に二対の猛虎の注意を引き付けたラグーンはそのまま外の庭園へと飛び出す。そして猛虎二体までが外へ出た瞬間ーーーー
「そりゃあっ!!」
ラグーンは窓ガラス上部の壁や天井に大量のウェブを射出する。
するとウェブに引っ張られた建物の一部が剥がれてガラガラと音を立てて崩れて窓を塞いでしまい、ラグーンと龍馬達は瓦礫によって完全に分断された状態になってしまった。
「何やってんだラグーン!!お前死にたいのか!!」
「まさかあいつ……私達を逃がすために……!?」
ブラッドは気付いた。ラグーンは最初から囮になるつもりだったのだ。
仲間を守るために、自らの命を危険に晒してまで。
「……龍馬。上を目指すぞ」
「ふざけんな!!あいつは仲間だぞ!!俺はあいつを助け……!!」
「バカ野郎!!ラグーンの意志を無駄にするな!!あいつは私達のために囮になったんだぞ!!なら……私達で最上階を目指してリーを倒す!それしかないだろう!!」
「く……くそおぉぉぉぉ!!!!」
龍馬は瓦礫を殴る。この向こうからは猛虎の咆哮と戦うラグーンの叫び声が聞こえてくる。
ラグーンは強い。だがあの猛虎を相手にして二対一で勝てる見込みは薄い。龍馬は……最悪の光景、そしてシナリオを想像してしまう。
「……龍馬。行くよ。ラグーンが作ってくれたチャンス、無駄にしちゃ駄目よ」
レナが龍馬の肩に手を置いた。
龍馬はヴィヴェルタニア王城での戦いを思い出す。あの時と同じだ。あの時も仲間達が自分を先に進ませるために一人一人が残って四騎士達と戦いを繰り広げてくれた。
人間離れした見た目をしているが無邪気で優しい心を持つラグーンは龍馬達にとってもなくてはならない存在だった。そんな彼の想いを無駄にしないためにも、リーとの決着をつけねばならない。龍馬は振り向き、決意を胸に歩き出す。
「……行こう。リーの奴を絶対にぶちのめしてやるんだ」
「ああ。もちろんだ」
「合点承知!」
龍馬達は宴会場のドアを開けて外に出、再び上層階への道を探した。
「……頼んだよ、みんな。さて……ボクはボクの仕事を終わらせようか……」
ラグーンは二対の猛虎を前にしてニヤリと笑う。
本来彼は龍馬達に付き添う義理などあるはずがない。だがブラッドに助けられ、龍馬達と行動を共にするうちに不思議な、しかし強い感情が芽生えてきた。
そして自らを犠牲にしてでも彼等を先に行かせるべきだとーーーー何故かはわからないが、そう感じたのだ。
彼は今、二対の猛虎を相手にたった一人で戦いを繰り広げている。
「さあ来い!餌ならここにあるぞ!ボクが相手だ!」
「「グルル……ゴアアアァァッッ!!!!」」
咆哮と同時に猛虎が飛び掛かる。ラグーンは交互に来る攻撃を難なくかわし、片方に体当たりを仕掛ける。
よろけたところに脳天への多脚の一撃をお見舞いし、ダウンさせる。
直後に襲い来るもう一方の攻撃。その鋭い爪を避けてラグーンは多脚による攻撃を仕掛けようとする。だが、素早く起き上がった先ほどの一体がラグーンに飛びかかってきたため、彼は地面に押し倒された。
「くっ……!!」
「ゴアァッ!!」
猛虎の牙が唾液を滴らせながらすぐそばまで迫るが、ラグーンは右手の口を猛虎の目に向けてウェブを放つ。目がウェブで覆われた突然の事態に猛虎は暴れ出し、その隙にラグーンは離脱する。
悶える一体をよそにもう一方がラグーンに再び飛び掛かる。
「喰らえ!!」
そのタイミングに合わせてラグーンは猛虎の頭上に飛び上がり、空中からウェブを放つと猛虎に向かってウェブで高速接近し、その勢いで多脚を思い切り脳天に叩きつけた。
激しい衝撃と共に猛虎がふらつき、そして倒れた。
「まずは一体!」
「ガオォッッ!!」
ダウンから復帰したもう一方の猛虎が起き上がり、ラグーンに爪で攻撃を仕掛ける。彼はそれを跳躍して身を翻し、華麗にかわした。
今度はこちらが追撃する番だ。ラグーンは背中に飛び乗り、しっかりと吸着するとウェブを射出し続けて猛虎を包み込もうとする。
「ガアァッ!ゴアァッ!!」
「放さないぞ!!放すもんか!!」
なおも暴れる猛虎だが、ラグーンは決して手とウェブを放さない。それどころかますます力を強めてしがみつく。
だが猛虎も知恵はあるようだ。ラグーンが離れる様子がないとみるや、壁に体当たりしてラグーンを叩きつけ始めた。
「うあっ……!ち、ちくしょう……!」
ラグーンはたまらず背中から離れて距離を取る。
怒りが頂点に達した猛虎は姿勢を低くして構え、ラグーンに突進した。
「でやあっ!!」
ラグーンは突進からの跳躍を行った猛虎の脳天にまるで回し蹴りのように翻した身で多脚を思い切り叩きつけた。
その衝撃で猛虎は吹き飛ばされ、空中を舞って地面に叩きつけられて動かなくなる。
「ハァ……ハァ……!どうだ!これがボクの力だ!!」
どうやら完全に制圧したようだ。二対の猛虎は動く気配がない。
それにしてもだいぶ遅れてしまった。早く龍馬達に追いつかなければ。出入口を塞いでしまったためラグーンは壁を登って上を目指そうと考える。
「早いとこ龍馬達と合流しよう……しかし……この壁を登るのはかなり骨が折れそうだなぁ……」
そんなことを考えながらラグーンは壁に手をかける。
その時であった。後ろで変な物音がしたのは。
「……なんだ?」
次の瞬間、彼は信じられないものを目撃することになる。
「社長。"
「そうか。それは貴重な実戦データになる。"変異後"のデータは必ず取っておけ。……ああ、それからデータの取得後は奴等ごと焼却処分をしてしまえ」
「はい。かしこまりました」
リンファからの報告を受け、指示を出すリー。
その口元は冷徹な笑みを浮かべており、見る者を震え上がらせるかのようだ。
「(ふん。"実験体"を味方につけているのはお前達だけではないぞ。斎藤龍馬に真龍寺レナよ。"トウコツ"はただの虎ではないからな。ククク……)」
ラグーンが目にしたのはまるでホラー映画のようなおぞましい光景だった。
倒れたままの猛虎二体が突然激しく痙攣したかと思うと身体を突き破って大量の触手や肉塊が現れ、瞬く間に猛虎達を飲み込んでいった。
そして触手と肉塊はまるで人間の顔と上半身のような巨大な肉体を形成し、両手にあたる部位の先端にはあの猛虎の首がそれぞれ付いていた。
「待ってくれよ……!!冗談だろ……!!なんだよあれ!?」
10メートルはあろうかという上半身だけのグロテスクな怪物がそこに鎮座していた。
これこそリーが"
実はリーはエントヴィックルング社の地下組織が開発していた研究中のウィルス"ミューテーション・ウィルス"を奪って独自の研究機関で研究させており、それをバイオ兵器へと作り替えていたのだ。
名前の由来となった
トウコツは退却するということを知らず、一度暴れれば死ぬまで戦い続け、天下に争乱をもたらし続ける存在とされている。
「ウオオオオオォォォ!!!!」
「うわッ!!」
トウコツの人の頭の部分が大きな叫び声を上げ、猛虎の首となった右手を振り下ろす。ラグーンは横に飛んでかわした。が、次の瞬間に左手の猛虎の首の牙がラグーンの胴体を捉えた。
「しまっ……!?」
「オオオォォォ……!!!!」
「ぐ……うああああぁぁぁぁ!!!!」
一瞬の隙からラグーンは猛虎の首で形成された左手で持ち上げられてしまう。彼の身体に猛虎の牙が鋭く食い込み、赤い血が噴き出す。
苦しむラグーン。そんな彼をトウコツの人面の赤く光る目が怪しく睨み付けた。
「……ちくしょうっ……!これでも喰らえっ……!!」
ラグーンは右手をトウコツの目に向けてウェブを放つ。トウコツの目にウェブが命中し、苦悶の声を上げると同時に力が緩み、ラグーンは地面に落下した。傷付いた身体を庇いながら距離を取るラグーン。
「なんてヤツだ……でも……きっとどこかに弱点があるはず!!」
必死にトウコツの弱点を探るラグーン。
よく観察してみるとトウコツの人面の口……その中に赤い"核"のようなものが見えた。
ただの勘か、何か確信に至る証拠があったのかはわからない。だがラグーンはあの口の中が弱点だと確信した。
「いちかばちか……やってやる!!」
ラグーンは未だ痛む傷口にウェブを当てて応急処置を行うと、痛みを堪えて走り出した。
遥かに巨大な目の前の敵。だが逃げ出すわけにはいかない。
もしこんな奴が野放しになれば多くの人々が犠牲になるだろう。それに何より"仲間"のためにも負けるわけにはいかなかった。
命を救ってくれたブラッド、そして……
自分を"仲間"として見てくれた龍馬やレナという存在のために。
彼は決して負けるわけには……諦めるわけにはいかなかったのだ。
大事な仲間達の居場所を傷付けた者達への怒りが、仲間への想いが、彼に力を与える。
「うおおおぉぉぉ!!」
「ゴアアアァァァァァァ!!!!」
トウコツの右手、そして左手がラグーンを襲う。
だが彼はヒラリと跳躍してかわすとトウコツの右腕に飛び乗って走り、まっすぐ顔を目指した。
そして顔に飛び付くとトウコツの口の中に連続してウェブを勢い放つ。
思い切り射出されたウェブの威力たるや、それは弾丸に近い。そのようなものが体内に直撃すればトウコツといえどかなりのダメージになるはず。
「ギャアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
トウコツが激しく苦しんでいる。やはりあれが弱点だったようだ。ラグーンがウェブでさらに攻撃を加えるともはやトウコツはラグーンを引き剥がす間もないほど苦しみだした。
ラグーンは素早く飛び降りて離れると、右手をトウコツの上部にあるホテルの壁へと向けた。
「これで……とどめだ!!」
ラグーンは壁にウェブを伸ばす。壁に対してロープ状の付着したウェブを彼が思い切り引っ張ると壁の一部が剥がれるように落下する。
落石と化した壁。そしてその下にはトウコツの頭が。
次の瞬間、トウコツの脳天に落石が頭部を叩き潰すほどに激しく直撃した。
トウコツの頭がひしゃげ、新たに形成されたその頭部の脳は破壊され、頭部という司令塔を失った巨体が地響きを上げて前のめりに倒れた。
トウコツの身体はその瞬間ドロドロと溶け始め、後には肉体が溶解した大量の粘液と……トウコツの両手を形成していた猛虎の頭部だけがその場に残されていた。
「どうだ!ボクの力……思い知ったか!」
辺りに漂う腐臭もなんのその、ラグーンは右手を高らかに上げて
敵は片付けた。龍馬達に早く追い付こう。ラグーンはそれだけを考えながらホテルの壁面に手をかけ、自慢の吸着とウェブで壁を登り始めたのだった。
「社長、トウコツが撃破されました」
「何!?バカな!?」
「残念ですが事実のようです。先ほど監視カメラによる映像で判明しました。しかもトウコツを倒したのは……龍馬達がラグーンと呼ぶ"ヒューマンスパイダー・プロトタイプ"ただ一人です」
「くっ……!役立たずの生物兵器めが……!……まあいい、まだこちらには"あいつ"が残っているからな。引き続き奴等の排除を指令しろ」
「……仰せのままに、社長」
●ラグーンvs猛虎戦イメージBGM……
『龍騰虎闘』
(『龍が如く極2』より)
●ラグーンvs実験変異体トウコツ戦イメージBGM……
『Cry...』
(『龍が如くOF THE END』より)