アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第79話 摩天楼の戦い・哀しき宿命

ラグーンが囮になり、龍馬達は三人になってしまった。

しかし嘆いてはいられない。彼が命を賭けて作ってくれたチャンスを無駄にしてはならない。

そのためにも最上階まで辿り着き、必ずリーを倒さなければならない。

来た道を引き返した龍馬達だが階段は軒並み封鎖されており、上へ行く道は無さそうだ。

しかし龍馬は考えた。無ければ作ればいいのだと。

 

「おおりゃあっ!!」

 

龍馬は天井に向けて火炎弾を連発する。天井が徐々に破壊され、遂には上の階に届くほどの穴が開いたのだ。

 

「龍馬!ナイス!」

 

「へっ、意地でも上に行ってやるぜ!」

 

天井の穴から上階へと登る龍馬達。しかしあれだけ派手に穴を開けたせいか火炎弾の轟音と瓦礫の崩れる音を聞き付けてこのフロアの敵達が集まってきた。

 

「雑魚がワラワラと……!!」

 

「突破するぞ!!」

 

「行くよ!!」

 

三人は襲い来る敵を殴り倒し、投げ飛ばし、叩き伏せて敵の集団を正面から切り抜けていく。

こんなところで止まってはいられないのだ。そうでなければ彼に……ラグーンに申し訳が立たない。

レナやブラッド、ラグーンとは長い付き合いというわけではない。一番長いレナですら龍馬とは見知って数ヶ月程度のものだ。

だがわずかな期間で多くの戦いを共にしてきた彼等には誰にも負けない、強い信頼関係が築かれていた。その強い想いが、絆が、彼等を圧倒的なまでに強い存在へと昇華させた。

もはやヤクザやマフィア、いや、軍隊だって彼等を止められはしないだろう。彼等の怒りはどちらかが倒れるまで止まらないのである。

 

「でりゃあぁっ!!」

 

「ぐわっ!!」

 

龍馬のハイキックが直撃したSPが床に張り倒される。

彼の怒りは既に振り切れている。あのリーに味方するものは誰だって容赦はしない。

"龍"はかつてないほどに怒り、震えていた。

大切な人々を傷付けるだけでは飽き足らず、自らの欲望のためだけに奴は……リーは自分達の街を……故郷をメチャメチャにした。

今こうして龍馬達が戦っている間にも暴動は続いている。街は破壊され、人々は傷付いて逃げ惑っているのだ。

龍馬の自宅も、商店街も、オフィス街も、駅前も。まるで内戦のような状態になっている。

もはや情けも容赦も必要ない。ここまで来たらリーをぶちのめす。それだけだ。

龍馬は決意を新たに最上階を目指す。そしてようやく見つけた。エレベーターだ。

 

「……よし、大丈夫だ。封鎖はされてない」

 

エレベーターの扉は溶接されておらず、使用が可能な状態であった。これなら最上階を目指せる。

 

「みんな、最上階へ行くぞ!リーを倒すんだ!」

 

「ああ!」

 

「任せて!」

 

三人はエレベーターへと乗り込み、最上階を目指す。

最上階は36階のようだが、エレベーターで行けるのは35階までのようだ。龍馬は35階のスイッチを押し、エレベーターの扉を閉める。

エレベーターが動きだし、階層表記が少しずつ上がっていく。

表記が34階になった時、"それ"は起こった。

突如轟音と共にエレベーターが激しく揺れ、龍馬達は思わず壁にぶつかってしまう。

 

「な、なんだ!?」

 

「クソッ……!エレベーターが停止している!」

 

「一体誰の仕業!?」

 

龍馬がスイッチを押すが、やはりエレベーターはブラッドの言うとおり完全に停止していて使い物にならない。

仕方なくブラッドがカーテンウォールを潜り込ませて扉をこじ開ける。

エレベーターは表記のとおり34階で停止していた。ここには三つのペントハウスが存在していてほぼ最上階に近いこの階層からは絶景を眺めながらのパーティーが可能な空間となっている。

フロアには敵の姿はなく、罠が仕掛けられている様子もない。だが念のため彼等は34階の探索をしておくことにした。リーとの対決時に挟み撃ちにされてはたまらない。

二つのペントハウスを見るが何もない。三つめのペントハウス……眼下にヤフオクドームが見え、福岡の夜景を一望できるペントハウスに龍馬達はやってきた。

やはりここにも誰もいない。どうやら待ち伏せなどはないようだ。

しかしブラッドには嫌な予感があった。そしてーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーこういう時の勘ほどよく当たるものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞き覚えのある轟音と共に響く窓ガラスの割れる音。赤い装甲に青く光るモノアイ。あの謎のロボットだ。

 

「くっ……!またテメエかよ!」

 

「いい加減しつこいよ!さっさとスクラップになっちゃえよ!」

 

仁王立ちするロボットに襲い掛かろうとする龍馬とレナ。だがそんな彼等をブラッドは制止する。

 

「……二人とも、ここは僕に任せろ。お前達は先に行け」

 

「おい、!?」

 

『目標、補足。戦闘モードに移行。状態異常無(オールグリーン)

 

ブラッドは前に出てロボットと対峙する。ロボットの腕がガトリングガンへと変形し、ブラッドへと向けられた。

 

「……行け!龍馬、レナ!こいつは僕が倒す!お前達はリーを止めるんだ!」

 

「ブラッド……!……わかった……死ぬなよ!」

 

「絶対生きて帰るんだよ、ブラッド!死んだら許さないから!」

 

「安心しろ。僕はそれほどヤワじゃない」

 

ブラッドもラグーンと同じようにーーーー仲間のために自ら単独で残ることを決意したのだ。

彼等を信じ、意志を託して。

龍馬とレナはブラッドをペントハウスに残し、最上階を目指すべく、その場を離れた。

 

「さて……これで二人っきりだ。ロボットのお前に聞いてもわからないだろうが……何故お前が"僕の開発番号を知っていた"のか……興味が湧いてな」

 

『……』

 

「まあ、だんまりだろうな。ロボットなら仕方あるまい。……行くぞ!」

 

『……戦闘開始。標的(ターゲット)を排除する!』

 

ロボットのガトリングガンから弾丸の雨がばらまかれ、辺りの壁やガラスを穿ち、部屋をメチャメチャにしていく。

ブラッドはカーテンウォールで弾丸を防ぎつつ、素早く走って一気にロボットに迫る。

 

「くたばれ!!」

 

ブラッドの青い炎とカーテンウォールによる攻撃がガトリングガンを凍結させて粉々に粉砕し、更にアッパーによる攻撃がロボットの顔面に直撃する。

その瞬間ロボットの頭部が外れ、床に転がり落ちた。

そしてブラッドはーーーーその下から現れたものを見て絶句した。

 

「な……!?」

 

奴はロボットなどではなかった。外れた頭部の下から現れたのは"自分と全く同じ顔"。しかしその目に感情はなく、ただただ命令を遂行するだけの戦闘マシーンと化したーーーー"No.B7A01-α"……被験体1号の姿であった。

 

「ま、まさか……アルファ……"No.B7A01-α"……!!お前なのか……!?」

 

『……』

 

アルファは無言で左腕を振るい、ブラッドを弾き飛ばす。ブラッドは受け身を取ってアルファを睨み付け、再び対峙した。自分のような能力はないようだがまるでーーーー鏡を見ているようだ。

ブラッドは全ての真実を理解した。兵器として完成度の高かったアルファだったが、彼は生命維持に問題があった。

おそらくリオングループは彼をサイボーグ化することで生命維持の問題を回避し、殺戮兵器として運用することに成功したのであろうブラッドは拳を握り締め、アルファを睨み付けた。

 

『……ガトリングガン、破損。使用不能。破損部位を分離(パージ)し、予備武装(セカンダリ)に変更する』

 

アルファは破損したガトリングガンを切り離して通常の右手に戻し、左大腿部から出現した大口径のハンドガンを左手に構える。

 

「……どうやら感動の再会、とはいかないらしいな。いいだろう。お前が戦いを望むと言うのであれば……」

 

ブラッドは両手をクロスさせてカーテンウォールを纏わせ、自身も戦闘体勢に入る。

 

 

 

 

 

 

 

「僕はそれを……全力で止めるだけだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラッドはそのまま素早くアルファへと突進する。

 

標的(ターゲット)、接近。攻撃を開始する!』

 

アルファが引き金を引き、銃を連続して発砲する。

ブラッドはその瞬間、姿勢を低くしながら弾丸を回避し、身体を回転させて足払いでアルファの足元を攻撃する。

アルファはそれを予測していたのか、ジャンプしてかわすとブラッドの後ろに回り込んで彼の後頭部に銃を突きつけた。

だがブラッドに対する背後への攻撃は全く死角にはならない。何故ならば、彼はカーテンウォールから感じる僅かな振動で敵の動きを察知できる。

アルファが発砲する瞬間、ブラッドは頭を前に倒して銃撃を回避すると振り向き様にアルファの銃を叩き落とし、ジャンプして身を翻しながら右手に纏ったカーテンウォールをアルファに振りかざす。

しかしアルファも素早くしゃがむと落とした銃を空中で掴み、そのままブラッドに向かって発砲する。右手のカーテンウォールに弾丸がヒットし、ブラッドは弾き飛ばされる形で距離を取った。

 

「ぐっ……!!やるな……!!」

 

装填(リロード)中……装填(リロード)完了。戦闘を続行する』

 

アルファが弾薬を装填し、再び銃を構える。

 

『チェーンブレード展開。予備武装(セカンダリ)による牽制射撃を交えつつ、近接戦闘を開始』

 

アルファの右手がチェーンブレードに換装され、高速で動く金属の刃と起動音がペントハウスに響き渡る。

アルファは左手に持った銃をブラッドに向かって発砲しつつ、背部と脚部のスラスターによる高速移動で瞬時に目前まで迫る。

 

「うっ!?」

 

チェーンブレードによる斬撃がブラッドに迫る。ただの刃物ならまだしも高速回転をしているチェーンソーのような刃が相手ではいくらカーテンウォールといえど防御がもたない。

ブラッドは慌てて距離を取るが、チェーンブレードの刃が左手をかすめ、そこから青色の人工血液が流れ出し、出血する。

 

「くっ……!!」

 

『チェーンブレードによる近接攻撃、極めて有効と判断。現在の戦術(モード)を維持』

 

負傷した左腕を押さえながらブラッドはアルファを睨み付ける。

アルファはそれが有効だと確信し、再び牽制射撃からのチェーンブレードによる接近戦に持ち込んだのだ。

スラスターを使った高速移動に加えて遠距離に武器による射撃。この射撃攻撃がまた厄介で弾丸が飛んでくる以上ブラッドはカーテンウォールで防御せざるを得ない。

牽制射撃を防御すればアルファは一瞬で間合いを詰めてくる。ブラッドは防戦一方になっていた。

しかしこちらも攻めるための隙が無いわけではない。アルファは拳銃を使っている以上、装填(リロード)を必要とする。攻め込むとすればそのタイミングだろう。

ギリギリでチェーンブレードをかわしたブラッドは一旦距離を取る。そしてアルファが再び装填(リロード)を始めた。

 

「そこだ!!」

 

絶好の機会。僅かなタイミング。それをブラッドは逃さなかった。

姿勢を低くして一気にアルファに詰め寄り、腕に纏ったカーテンウォールを叩き付けようとする。

 

『迎撃行動。マイクロミサイル、発射』

 

「なっ!?しまっ……!!」

 

せり上がった肩の装置から超小型ミサイルの嵐が襲い来る。ブラッドはいきなり射出したミサイルを避けきれず、爆発に巻き込まれた。

忘れていた。先ほどのドーム前の戦闘で奴にミサイルという武装があったことを。

爆風と煙が止むと……ブラッドはまだ立っていた。

だがその身体はミサイルの爆風と破片に晒されて全身傷だらけになっていた。

カーテンウォールによって急所はなんとか防御したもののあちこちから出血しており、かなりのダメージを受けている。

肌のあらゆる部位が青色の人工血液で染まり、失血しすぎたせいか身体の自由が徐々に効かなくなりつつあった。

 

「ハァ……ハァ……」

 

身体だけではなく、口の中も切れて出血していて口の中に鉄の味が広がる。ブラッドは口内の血を吐き出して口を拭った。

……強い。非常に合理的でーーーー弱点を正確に把握した戦法を仕掛けてくる。

ブラッド最大の強みであるカーテンウォールや青い炎による攻撃もあの高速移動とチェーンブレードによる攻撃に容易く破られてしまう。

ここまで奴には決定打となるようなダメージを全く与えられていない。このままではジリ貧となり、遅かれ早かれーーーー負ける。

 

標的(ターゲット)、深刻なダメージと判断。残存弾薬を全て使用し、標的(ターゲット)を抹殺する』

 

言うが早いか、アルファの大口径ハンドガンが三連続で火を噴いた。

弾丸はまっすぐブラッドの頭目掛けて飛来するが、ブラッドは直前でなんとか頭を傾けて避ける。

弾丸はブラッドの顔をかすめ、背後の窓に弾痕を穿つ。

 

「……くそっ……」

 

ブラッドは腕を押さえ、アルファを睨み付けた。

 

『全弾、命中せず。引き続き、射撃による…………牽制…………をっ…………!?』

 

アルファはブラッドに銃を向けて再び構えるが、何だか様子がおかしい。

銃を構える左手が震えだし、狙いが安定していない。徐々にアルファは苦悶の表情を浮かべながらブラッドへの狙いを必死に修正してはブレるという動作を繰り返した。

 

『ああっ……!!うああっ…………!!やめろ……!!その"顔"で……………"目"で私をっ…………!!私を見るなぁっ…………!!』

 

アルファは突然頭を抱えて苦しみだす。

先ほどまでの機械のような言動はもはや見られない。

 

「アルファ……!!おい、どうした……!?」

 

『うぐあああぁぁっ……!!た、標的(ターゲット)……排除……わ、私は…………任務を…………遂行…………!!』

 

「……まさか……お前にも自我が!?」

 

アルファは遂に銃をその場に落とし、床に膝と手をついてうずくまってしまった。

ブラッドは傷付いた身体を庇いながらアルファに慌てて駆け寄る。

 

「おい、アルファ!しっかりしろ!おい!」

 

『う……うぐぐ……私に…………私に触るなぁ!!』

 

アルファは頭を押さえ、未だに苦しみつつも駆け寄ったぶりを恐ろしい力で弾き飛ばし、ブラッドは壁に叩きつけられる。

 

「ぐあっ!!」

 

痛む身体。止まらない出血。さらにここまでカーテンウォールを多用した長期戦を続けたせいでブラッドの体力は限界に近づいていた。

満身創痍の身体に鞭を打ってどうにか起き上がり、再びアルファと対峙する。

 

「や……やめろアルファ……お前に自我があるなら……僕とお前が戦う理由はない……」

 

『う……ぐ……ぐ……!!黙……れ……!!私は……任務を遂行……する……!!標的(ターゲット)……を……抹殺し、排除……!!』

 

アルファは再び銃を握り締め、ブラッドに向けて発砲する。しかしその弾道は先ほどとはうってかわって照準が定まっておらず、ほとんどが明後日の方向へ向かっている。

これはチャンスだ、ブラッドはそう考えて最後の力を振り絞ってアルファに攻撃を仕掛けた。

カーテンウォールではなく近接格闘によるパンチの連打。

この動きは龍馬の喧嘩技と同じもの。彼と共にした戦いの中で彼から"学んだ"動きである。

 

『ぐはっ……!!』

 

アルファはそのまま吹き飛ばされて先ほどのブラッドのように壁に叩きつけられる。さらにブラッドはカーテンウォールを操った攻撃の連打を叩き込み、その衝撃でアルファは装甲ーーーーパワードスーツの一部が破損し、ショートしていた。

 

装甲(アーマー)……ダメージ甚大……!!使用不可能部位の一部を分離(パージ)……!!』

 

スーツの装甲が剥がれ落ちて腕や足、胸や首周りの一部が露出し、真っ白なアルファの肌が露になる。

その肌の色は美しいというよりはもはや生気のない死人の肌の色だった。

アルファは本来"失敗作"であり、自己による生命維持能力を持たない。機械に命を繋がれているその身体は"生きている"というよりは"生かされている"と言ったほうが正しいかもしれない。

 

『ぐぅあああ……!標的(ターゲット)……!排除……!抹殺……!いや……私は……戦いなど求めてはいない……!!』

 

アルファは再び床に手をついてうずくまってしまう。その時、ブラッドの目に"ある物"が飛び込んできた。

今までアルファのパワードスーツの下に隠れていたのか、うなじの辺りに赤いおかしな装置を見つけたのだ。それはアルファの肌に深く食い込んでおり、時折赤く激しく点滅している。

 

「(もしかしてあれは……洗脳のための制御装置か……!?だとしたらあれを破壊すれば……!!)」

 

あれがアルファの自我を抑えつけている装置だという絶対的な保証はない。だが確信はあった。

ブラッドは一か八かーーーーカーテンウォール、そして青い炎を駆使してで制御装置を狙う。が、しかし……

 

『ぐおおおおぉぉぉ!!!!』

 

苦しみとも雄叫びともつかぬ声を上げるアルファ。彼は滅茶苦茶に銃弾を放ち、ブラッドの動きを封じる。

 

「やめろ……!やめるんだ、アルファ!!」

 

『ハァッ……!!ハァッ……!!う、ぐぅぅぅ……!!た、標的(ターゲット)を排除……す……る……!!』

 

アルファは再び装填(リロード)を行う。空の弾倉(マガジン)が地面に落下し、アルファの持つ銃に再び弾薬が込められ、銃口がブラッドに向けられる。

 

「……アルファ。お前を探して……僕はようやくここまで来た。お前が既に死んでいる可能性……お前をこの手で殺さなければならない可能性……どちらも予想はしていた。だが……お前を少しでも救える可能性があるのならば……」

 

ブラッドは両手を構えた。血を分けた兄弟……とまではいかないが、同じ被験体という残酷な運命の鎖に繋がれた存在。

そんな彼を救う手立てが僅かにでも残っているのであればーーーー

 

 

 

 

 

 

「僕はお前を助けてみせる!!来い、アルファ!!」

 

『うぅぅおおおおおお!!!!!!』

 

激しい銃声と共に銃弾が放たれる。だが、狙いはやはり最初の頃よりブレている。

これならばーーーー

 

「避けるのは……容易い!!」

 

発射時の銃口の向きさえわかっていればそこからは最低限の身体の動きでかわせる。

弾丸をかわし、アルファに接近したブラッド。

ここからは龍馬達と同じくーーーー己の肉体のみで戦わねばならない。

もはや体力は限界に近い。能力は温存しなければ。

 

「はっ!!」

 

『ぐあっ!!』

 

腹部への正拳突き。レナの技だ。そこから銃を持つ左腕を掴み、武装を解除しようとする。

 

『ぐおおぉぉぉ!!』

 

アルファの背部と脚部のスラスターが火を噴き、ブラッドはアルファの右手で首を掴まれて高速で壁に叩き付けられる。

 

『うおぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

「ぐああぁっ!!!!」

 

壁にブラッドを押し付けたままアルファは壁に彼を擦り付けるようにスラスターで高速移動し、ブラッドの押し付けられている壁の表面がバキバキと音を立てて破壊されていく。

そしてーーーーその先には巨大な窓ガラスが。

次の瞬間、窓ガラスを破壊して二人の身体は空中へと投げ出された。

 

「くそっ……!!」

 

ブラッドは力を振り絞り、背中にカーテンウォールの翼を纏う。アルファも背部のブースターでホバリングしている。

 

標的(ターゲット)……!!排……除……!!』

 

再び銃弾がブラッドを襲うが彼は身体を捻って銃弾をかわすと、弾薬を撃ち尽くしたアルファの隙を突いて身体に体当たりを浴びせる。

 

「喰らえぇ!!」

 

『ぐはっ……!!』

 

その衝撃でアルファは拳銃を落としてしまい、拳銃は地上へと吸い込まれるように消えていった。

ブラッドはアルファと揉み合いになったまま、カーテンウォールの翼をさらに羽ばたかせ、アルファもまた背中のブースターの出力を上げたために二人はぐんぐん地上を離れ、雲の上まで達していた。

 

『ぐああぁ……!!排……じょ……!!ぐぅぅぅ……!!』

 

アルファは右手をチェーンブレードに変えてブラッドを攻撃しようとする。チェーンブレードが月夜の青白い灯りに照らされて鈍い輝きを放ち、ブラッドの肉を引き裂かんと襲い掛かった。

 

「させるかぁ!!」

 

ブラッドはアルファの顔面に拳を叩き込んだ。アルファはそのまま背後に回転しながら吹き飛ばされるが、ブースターで姿勢を安定させると再びブラッドにチェーンブレードで襲い掛かる。

 

「アルファぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

『うおおおぉぉぉぉぉ!!!!』

 

突き出すように襲い来るアルファのチェーンブレードに向かってブラッドは突進し、ギリギリで身体を右方向に反らして回避した。そしてそのままアルファの背後に回り込むと彼を拘束し、右手でうなじの制御装着を掴んで力を込める。

 

「ぐぅぅぅぅ!!!!」

 

『ぐああぁ……!!やめろ……やめろぉぉぉぉ!!!!』

 

チェーンブレードを振り回しながらアルファは滅茶苦茶に暴れるが、ブラッドは離れない。なおも力を込めて装着を引き剥がそうとする。

 

「うらあぁぁぁぁ!!!!」

 

ブラッドが思い切り引っ張った瞬間ーーーー装置はショートしながらアルファのうなじから引き剥がされた。

そしてその瞬間に、アルファは苦しんで暴れだした。

 

『ぐああぁっ!!あああぁぁぁぁっ!!!!』

 

ブラッドを引き離してその場で苦しみながら暴れ狂うアルファ。だがブラッドが離れてもなおもアルファは暴れ続けている。

そして……彼は突然糸の切れた人形のように動かなくなり、そのまま地上へと真っ逆さまに落下していく。

 

「アルファ!!」

 

ブラッドは落ちていくアルファを追い掛け、自身も垂直に高速で落下していく。

雲を突き抜け、夜の博多の街並みと百道浜(ももちはま)の海が眼下に広がる。

落下速度はどんどん加速し、地上が目の前に迫りつつある。

 

「クソッ!間に合え!間に合ってくれ!!」

 

ブラッドは必死にアルファへと手を伸ばす。

この高さから叩きつけられれば命を失うどころかバラバラの肉片になってしまうだろう。ブラッドは脳裏に最悪の光景を浮かべたが、それでも手を伸ばした。そしてーーーー

 

 

 

 

彼は、兄弟(とも)の身体を掴んだ。

 

 

 

 

そのまま力を振り絞ってカーテンウォールの翼を纏い、アルファのしっかり身体を抱えたまま夜空を舞う。

 

 

あともう少し遅ければーーーー間違いなく最悪の事態になっていた。

 

 

ブラッドはそのままシーホークホテルとドーム近くにある海岸に彼を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十分後、そこには仰向けで静かに横たわるアルファの姿が。

 

『……そこにいるのは……オメガか……?』

 

「……ああ。No.B7A24-Ω……僕だ。今はブラッドと名乗っている」

 

『"ブラッド"か……いい名前だ……私には名前など与えられなかった……与えられたのは"標的(ターゲット)を殺せ"、という命令だけ。身体の半分以上を機械化した私には機械に抗う術はなかった』

 

「アルファ……」

 

ブラッドは傷付いた身体のままアルファを見下ろし、そしてゆっくりとしゃがむと彼に告げた。

 

「ずっとお前を探していた。お前に会うためだけに……僕はここまで来たんだ」

 

『……私に……会うため?』

 

「ああ、そうだ。お前は僕にとって大切な兄弟であり、友でもある。唯一の家族のようなものだからな」

 

『ふふ……そうか……』

 

アルファはそっと目を閉じる。ああ、もっと早くにオメガとーーーーブラッドと出会いたかった。そうすればもっと違った結果になったかもしれないのに。彼はそう心の中で呟いた。

……身体が度重なる戦闘によりダメージを受けすぎている。体力も限界だ。もはや指を動かすことすらかなわない。

 

『オメガ……いや、ブラッド……頼みがある……』

 

「……何だ?」

 

『私にも……名前を……名前をつけてくれ……私は……私が生きたという証が……私が私であるという証が欲しい……』

 

「アルファ……」

 

ブラッドは目を閉じて考える。彼の名を。彼がこの世に生きた証を。

そして思いついた名前がひとつ。

 

「"ジーン"……お前の名は……"ジーン"だ」

 

『ジーン……ふふ……いい名だ。"ブラッド"に"ジーン"……"血"と"遺伝子"か。いいコンビじゃないか……』

 

アルファは名前を与えられた。"ジーン"という名を。自分が生きた証を。今、彼はようやくこの世に生を受けたのだ。

ただの兵器としてではなく、一人の人間として。自分を家族や友と呼んでくれる仲間の存在と"自己"という存在の確立。なんと喜ばしく、幸福なことだろうか。

もはや他には何もいらない。ただそれだけでーーーー自分が生まれた意味を見出だせた。

 

『あり……がと……う…………ブラッ…………ド…………さら…………ば…………だ………………』

 

ジーンの目から徐々に光が失われていく。

 

「ジーン……!?おい、ダメだ!!逝くな!!まだお前には話したいことが沢山あるんだ!!」

 

だがーーーーブラッドがどれだけ叫んでもゆっくりと閉じられたジーンの目が再び開くことはーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーもう、無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

ブラッドは無言でゆっくりと立ち上がった。だが彼の目に涙はない。

命はいつか死にゆくもの。目の前の彼はそれがたまたま早かったに過ぎない。

 

だが、何だろうか。この感情は。

生物はいつか死ぬ。それはわかっている。しかしブラッドの心には言い様のない感情が渦巻いている。

ようやく見つけた唯一の家族。仲間。友。それを失ったこと。自らの手で殺めてしまった事実。それらが複雑な感情となって、合理的で元々冷たい理性を持つはずのブラッドの中でよくわからないものになってこみ上げてくる。

 

 

 

 

「すまない……ジーン……僕にはお前を救うことが出来なかった……」

 

自分の出生の事情からジーンが既に処分され、死亡していることは覚悟していた。しかし実際に直面した現実はそれ以上に残酷な結果だった。

ブラッドはジーンの亡骸の横にしばらく寄り添い、そしてゆっくりと立ち上がった。

 

「ここで待っていてくれ、ジーン。全てにカタをつけたら……必ず戻ってくる」

 

命を弄んだ外道に、報いを受けさせるために。

我が最愛の兄弟(とも)の苦しみを味わわせるために。

今、彼は"作られた兵器"ではなく"修羅"と化す。

 

 

 

「……待ってろ、李王龍(リー・ワンロン)。地獄に送ってやる……」

 

 

修羅と化した彼は静かに、だが怒りに身を震わせながらカーテンウォールの翼を纏うとホテルへと向かって月を横切るように飛び立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーヒルトン福岡シーホーク・最上階ー

 

 

 

 

 

龍馬とレナは遂に最上階へと辿り着いた。

いよいよリーとの決戦の時だ。

 

「レナ、準備はいいか?」

 

「いつでも行けるよ、龍馬」

 

この階にリーがいるはずだ。龍馬達の大切な人と街をメチャクチャにした、今回の事件の最大の黒幕が。

そして二人はリーがいるであろう部屋の扉の前まで辿り着き、お互いにアイコンタクトを取ると扉を蹴破って中に侵入した。

 

 

 

 

遂に、決戦の時だ。




●ブラッドvs被験体No.B7A01-α戦(前半)イメージBGM……
『Update with gunfire』
(『龍が如く極2』より)

●ブラッドvs被験体No.B7A01-α戦(後半)イメージBGM……
『Sad but true』
(『バイオハザード5』より)
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