アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第80話 双龍

龍馬とレナは扉を蹴破り、リーがいるであろう部屋へと突入する。

ーーーーしかし、そこにはリーの姿はなかった。代わりに見覚えのある……眼鏡をかけた聡明そうな美女が一人。

 

「……!?あんたは……」

 

龍馬は記憶の糸を手繰り寄せる。確かあれは友人達を連れて大名のリオングループ傘下の店に行った時のことだ。そこで初めて対面したリーの隣に目の前の美女がいたことを思い出した。

 

「……斎藤龍馬様に真龍寺レナ様、ですね。私はリー社長の秘書を務めております、林花(リンファ)と申します。社長からあなた方へ伝言を承っております」

 

「……何よ?」

 

「"屋上・ヘリポートにて待つ"。それだけでございます」

 

林花は表情を全く変えぬまま淡々と言い放つ。

どうやらリーは屋上にいるようだ。そこで待つということはいよいよリーも直接対決する気でいるのだろう。龍馬とレナは顔を見合わせて頷き、部屋を出て屋上を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーヒルトン福岡シーホーク屋上・ヘリポートー

 

 

 

 

 

リーはいつも愛用している紺のスーツではなく、青い応龍の刺繍が施された黒い武術服を着ていた。

これは20歳の時に父から会社を任されることになった時に父からプレゼントされたものだ。

以来、リーは武術に関する勝負どころではいつもこの服を着用していた。

ヘリポートの端から夜の福岡の街を無言で見渡す。

しばらくの静寂の後、扉の開く音とこちらに迫り来る二人分の足音が聞こえる。

 

「リー!!」

 

「もう逃がさないよ!!」

 

「……来たか。真龍寺レナ。そして斎藤龍馬」

 

リーはゆっくりと振り向き、龍馬達を見据える。

 

「ここまで来れたのは流石の私でも予想外だったよ。本来ならば既に全員死んでいたはずだったからな」

 

「リー……!!てめえ……!!よくも俺達の街を!!」

 

「何故ここまでする必要があったの!?」

 

「"何故"……?決まっているだろう。真龍寺レナ、お前の居場所を奪い、絶望を味わわせてやるためさ。そして全てを奪われたお前を殺してお前の父に死よりも辛い絶望のどん底に叩き落としてやるためだ。私が望むのはそれだけだよ」

 

「リー、お前……!!たったそれだけのために……!!」

 

「あんたは……最低のクズ野郎よ!!」

 

龍馬とレナは拳を握り締め、歯ぎしりをしながら今にもリーに殴りかかる勢いでギロリと睨み付けた。

リーはふっと鼻で笑うと突然目付きを鋭くして言い放つ。

 

「何とでも言うがいい。そんなもの……私と父が受けた苦しみに比べればちっぽけなものだ」

 

「苦しみ……だと?」

 

「……ここまで来れた褒美だ。冥土の土産に聞かせてやろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー十年前ー

 

 

 

 

それは李王龍(リー・ワンロン)が14歳の時であった。いつものように父の厳しい修行に耐え、勉学に励む日々を送っていた。

父は師としてはとても厳しかったが、父親としてはとても優しかった。

ただただ厳しいだけではない。多忙な身の傍ら、妻や子との時間をとても大事にしていたまさに理想の父親だった。

中国国内でもかなりの大手に成長したリオングループの経営と共に積極的に門下生も入門させていた。

"中国四千年の歴史上最強の男"とまで言われた父・レイ。

そんな父の修行を終えたある日、リーは父から不穏な話を聞いた。

 

「……道場破り?」

 

「ああ。最近、日本からやってきた武術家が次々とこちらの武術家を負かしているらしい」

 

「ふーん、でも父さんに敵う相手なんているわけないよ!なんたって父さんは"中国四千年史上最強の男"なんだから!」

 

「…………ああ、そうだな。私は負けないさ」

 

 

 

 

今思えば父は……この時既に自分の敗北を予感していたのかもしれない。

 

 

 

その"武術家"は遂に父の元へもやってきた。

その武術家こそレナの父・真龍寺誠だったのだ。

 

 

 

 

そして父はーーーー負けた。たった一人の、しかも日本人の武術家に。

父の敗北を目の当たりにしたリーは深い絶望と怒りに襲われた。

そして彼に挑んだものの……父すら倒す武術家にまだ未熟なリーが勝てるはずもなく、完膚なきまでに叩きのめされたのだ。

尊敬していた父は敗れ、自らも圧倒的な力の差を見せつけられてしまったリー。

 

 

 

だが、悲劇はこれで終わらなかった。

父が真龍寺誠に負けたあの日から父に対する世間の目は冷たくなり、あれだけ父を持て囃していた世間は一転、父を"中国四千年の恥さらし"、"日本人に負けた軟弱者"と罵るようになった。

それは会社経営にも響き、リオングループの利益はがた落ち。一時期は倒産寸前にまで追い込まれた。

そしてある日。リー少年を更なる悲劇が襲う。

 

 

 

「か……母さん……!?母さあぁぁぁぁん!!!!」

 

 

 

 

 

リーが見たものは自室で首を吊って死んでいた母親の姿だった。

 

 

 

 

 

 

世間からの酷評や罵詈雑言、果ては会社や自宅にまで心ない者の嫌がらせが続く生活に辟易したリーの母親は精神を病み、遂にその生活に耐えかねて自ら命を絶つことを選んだ。

リーは父の威光も、己のプライドや誇りも、愛する母親の命さえも失ってしまったのだ。

 

 

 

 

それからリーは"力と勝利こそが全てである"と考えるようになり始めた。

父の修行の傍ら独学でも修行を重ね、道場破りを行い、経営学や帝王学などあらゆる勉学も学んで死に物狂いで己を鍛え上げた。

ようやく会社を復活させ始めた頃にマフィアや裏組織との取引も行い、彼らに出資する代わりに自分や父を邪魔する者、亡くなった母を批判する者は誰であろうと容赦なく闇に葬ってきた。

表社会でも裏社会でも実権を握ったリーはリオングループをわずか数年で中国一どころか世界有数の一大企業にまで復活・昇華させた。

それから日本への進出を実行に移しーーーー今に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わかるか。真龍寺レナ。私は貴様の父に全てを奪われたも同然なのだ。貴様の父さえいなければ……!父は失墜もしなかったし、母も自ら命を絶たずに済んだのだ!最愛の父が目の前で苦しんでいるのに自分には何もしてやれない悔しさが…………最愛の母を失う苦しみが……貴様に理解できるか、真龍寺レナぁ!!」

 

「…………!!」

 

レナはーーーー何も言えなかった。

もしそれが事実であれば父は……間接的にとはいえ、人を死に追いやったことになる。

 

「で……でも……それなら私やお父さんだけを狙えばいいじゃない……!!なんでここまでしたのよ!?」

 

「……私も最初はそのつもりだったさ。ここまで騒ぎを大きくする必要はなかった。だが……」

 

リーは次の瞬間、龍馬を指差して言い放つ。

 

「斎藤龍馬。お前だ。お前という存在がここまで騒ぎをこじらせたのだ」

 

「俺……だと?」

 

「そうだ。お前がことごとく私の邪魔をした。その結果私も真龍寺レナを追い詰めるための手段をより大きなものに変更せざるを得なかったのだ」

 

彼は言う。最初は真龍寺レナ一人を確保し、いたぶり、最後は亡き者にして誠に死よりも辛い"肉親を失う"という苦しみを味わわせてやるつもりだったと。

そこへ斎藤龍馬という男が現れた。彼はマフィアやヤクザすら物怖じせず、ブラッドやラグーンといった仲間達と共にリーの思惑を結果的にことごとく妨害した。

そのせいで龍馬の周囲にも手を回さざるを得なくなったというのが彼の言い分だ。

 

「ふ……ふざけんなテメェェェェ!!!!」

 

龍馬は激怒し、リーに向かって大声で怒鳴る。

 

「テメェの親の件は気の毒かもしれねぇ……だからってここまでしていい理由にはならねぇだろうが!!」

 

「……私は勝つためなら手段を選ばぬ男だ。そしてそのためには"相手の周囲から徹底的に潰す"が信条でね。家族、友人、同僚、行きつけの店の店員まで徹底的に潰し、追い詰める。二度と逆らう気が起きないようにな」

 

そこまで言うとリーはヘリポートからの福岡の夜景を眺め、一度静かに……ゆっくりと深呼吸して目を見開き、そして構えた。

 

「……おしゃべりはここまでにしよう。お前達も私と雑談をしに来たわけではあるまい。ここまで来れた褒美だ。私自ら貴様等を地獄に送ってやる」

 

「上等だよ……!!」

 

龍馬はルナ・アームを解除して素手で対峙する。

奴には奴なりの信念がある。怒りながらもそれを感じ取った龍馬なりの敬意からか、或いは意地か誇りかーーーー龍馬はルナ・アームは使おうとしなかった。

そんな龍馬の前に小柄な影がずいと出る。

 

「龍馬、待って!……こいつは私が倒す。龍馬は下がってて」

 

「レナ!?」

 

「ほう、これは面白い。貴様が?私を倒すだと?……フッ、私も舐められたものだ。いいだろう。かかってこい、真龍寺レナ。まずは貴様を殺してやる。そして次は斎藤龍馬、お前だ」

 

構えたリーに近づき、レナが我流の構えを取る。呼吸法で"血"の力を最大限に引き出し、全神経を集中させる。

 

「来い!!真龍寺レナ!!」

 

「行くわよ!!はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

一気にお互いが間合いを詰め、素早い拳の連打、そして攻撃の避け合いが続く。

まるでカンフー映画さながらの攻防に龍馬も思わず息を飲む。

レナの拳法はまだまだ粗いといえど、伝説に等しい真龍寺一族の血が流れているだけあってそのセンスは天才的としか言い様がない。あのリーの攻撃を捌きながら互角の戦いを繰り広げている。

リーの蹴り、レナの拳が交差し、お互いにヒットした。衝撃で二人が後退する。

 

「ふん!!」

 

「はっ!!」

 

同時の跳躍。そして飛び蹴り。

しかし一瞬リーの方がわずかに早かった。レナは蹴りを受けて体勢を崩し、地面に叩きつけられる。

起き上がろうとしたのも束の間、すかさず近づいたリーの蹴りが腹部に直撃する。

 

「うぐっ……!!」

 

「どうした。もう終わりか」

 

レナはダウンしたまま蹴りを執拗に受け続けるか、まるでヘッドスピンのように足を振り回しながらリーを牽制しつつ起き上がると痛む身体に鞭を打ちながら拳を連続で打ち込む。

レナの拳を捌くリー。そこへレナが一瞬の隙をついて肩と背中の当て身を行う。

 

「でやぁっ!!」

 

八極拳ベースのその技を受けたリーは大きく後ろに飛ばされたが、足を強く地に着けて踏みとどまる。

 

「ほう……やるではないか。だが、まだまだ甘い。そろそろ遊びは終わりにしよう」

 

リーが構えを変えた。それと同時に雰囲気もどこかおかしい。レナは得体の知れない不気味さを感じ取り、背筋に寒気を覚える。

 

「恐怖したな、真龍寺レナ。わかるぞ。貴様が恐怖に怯えているのを」

 

「な、何を……!」

 

「行くぞ…………そして死ね」

 

次の瞬間リーの姿が一瞬で目の前まで迫ってきた。避けることはおろか、何も反応すらできないまま顔の右側面に拳を受けるレナ。

それでは終わらない。直後に鳩尾に一撃、顔左側面に一撃、再び鳩尾や胸に七発以上の打撃を連続で受ける。

 

「う……あ……あ…………」

 

「馬鹿が。貴様のような奴がわずかでも私に敵うとでも思ったのか。今までは貴様に合わせてやっていたのだ。簡単に殺しては面白くないからな。

……貴様がのうのうと生活していた間、私は血の滲むような努力をしてきた。何度も心が折れそうになった。しかし父の無念と母の苦しみを考えれば諦める訳にはいかなかった。そんな私に……生ぬるい修行しかせず、真龍寺一族の血が流れているという"才能"だけで勝負をしてきた貴様のような奴が私に勝とうなどおこがましいにもほどがあるぞ!!!!」

 

リーは怒りの叫びと共にふらついたレナの鳩尾に掌底の一撃を叩き込む。

もはや防御も回避も叶わぬレナにとってそれは致命的な一撃であった。

吹き飛ばされたレナは地面に叩きつけられて二度跳ね、力なく横たわる。

 

「れ、レナぁっ!!」

 

龍馬は慌ててレナに駆け寄り、彼女を起こした。

顔はボロボロになり、目は腫れ、いつもの魅力的な彼女の姿はそこにはなかった。

 

「ごめ……ん…………龍……馬…………私じゃ…………勝て……なかっ……た……………」

 

「もういい。喋るな。お前はゆっくり休んでろ。……あいつは……俺が倒す!!」

 

龍馬は傷付いたレナを地面に寝かせると静かに、だが強い怒りを抱きながらゆっくりと立ち上がる。

 

「リー、オメーはただじゃあ済まさねえ……この俺を怒らせて無事でいられると思うな」

 

龍馬は上着を脱ぎ捨てる。幾多の戦いで鍛えられた彼の肉体が露になった。

 

「……フッ、いいだろう。斎藤龍馬、次は貴様の番だ。二人仲良く地獄に堕ちるがいい」

 

「……行くぞ、李王龍(リー・ワンロン)!!」

 

「来い!!斎藤龍馬ぁ!!」

 

リーもそう言い放ちつつ、武術服の上着を脱ぎ捨てた。

二人の"龍"が睨み合う。天に近い摩天楼の(いただき)で。今、龍たちの戦いの火蓋は切って落とされた。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉ!!!!」

 

「はああああああぁぁぁぁ!!!!」

 

レナの時と同じく、同時の跳躍。そして蹴り。

龍馬の飛び蹴りで繰り出された足とリーの飛び回し蹴りにより繰り出された足が空中で交差する。

 

 

 

 

 

まるで天高く昇る二つの龍が組み合うかのごとく。

 

 

 

 

 

蹴りを同時に受けた龍馬とリーは空中でもつれ合って地面に落下するが、両者とも受け身を取って起き上がり、素早く近づいて攻撃に移る。

 

「うぉらぁ!!!!」

 

龍馬の拳がリーを捉え、放たれた。リーは腕を交差させて防御するとカウンターの拳擊を放つ。

龍馬は胸にそれを受けてしまうが、負けじとこちらも反撃してリーの腹に蹴りを入れた。

 

「ぐっ!……やるな、龍馬!」

 

「行くぞこの野郎ぉぉぉぉ!!」

 

龍馬のワンツーパンチ、それをかわして龍馬の顔に裏拳を入れるリー。

 

「ぐおっ……!!」

 

「どうした、そんなものか!!」

 

さらにリーの攻撃が続き、龍馬の顔面に攻撃を繰り出すリーだが、龍馬はそれを左手で受け止める。

 

「ぐ……ぐぅっ……!!小癪な……!!」

 

「やられっぱなしで……終わるかってんだ、ボケがぁ!!」

 

龍馬の拳がリーの顔面に直撃する。彼の歯が口の中で折れ、血で満たされる。

だがリーも踏みとどまると龍馬の顔面に拳を叩き込んだ。

まともにその攻撃を喰らった龍馬は後ろに飛ばされ、思わず顔を押さえる。

 

「ぐわっ……!!」

 

「甘いぞ、龍馬!!」

 

リーの飛び二段蹴り、そして掌底が龍馬に全て直撃する。

龍馬はあちこちにダメージを受けながら吹き飛ばされ、地面にうつ伏せに倒れるも、何とか起き上がった。

ーーーー強い。今まで出会った敵の中で恐らくリーは最強だ。

彼はただひたすらにその執念を糧に修行を重ねてきた。その強さはまごうことなき"武"の体現。龍馬は身に染みてそれを感じていた。

一方、リーも龍馬に対してわずかだが驚きを隠せなかった。

目の前にいるのはただの日本人の学生だ。普通の家庭に産まれ、何不自由なく育ってきたようなこんな少年がーーーー何故これほどまでに強靭な肉体と精神力を持っているのか。

確かに斎藤龍馬という少年は"博多の怒龍"と呼ばれるほど喧嘩が強いという情報は聞いている。だが、喧嘩自慢だけでここまでの力を発揮できるものだろうか?リーは疑問を抱かずにはいられなかった。

どれだけダメージを受けてもーーーー彼は立ち上がってくる。そしてその度に彼の怒りも増していく。

 

「おりゃああぁぁ!!!!」

 

「遅い!!」

 

龍馬はさらに拳を振るう。それを捌き、龍馬の鳩尾に一撃を加える。

 

「ぐはっ……!!」

 

「ふん!!」

 

リーの回し蹴りが龍馬に炸裂し、龍馬は顔面に彼の蹴りをまともに受けてしまい、地面に顔から叩きつけられた。

倒れた龍馬の後頭部を踏みつけ、執拗に攻撃するリー。

 

「ぐううう……!!」

 

「斎藤龍馬。なかなかやるようだが、貴様でも私には勝てん。真龍寺レナと同じだ。ただの喧嘩しかしてこなかった貴様のような奴にずっと鍛練を積み続けてきた私が負ける要素はどこにもない」

 

「ただの…………喧嘩…………だと……!?」

 

龍馬の中で何かが切れた。彼は素早く後頭部を踏みつけるリーの足を掴んで引っ張り、彼を転ばせた。

そこからマウントポジションでリーの顔面を何度も殴りつける。

 

「ぐわっ!?ぐはっ!!」

 

「舐めてんじゃねーぞ、クソッタレが!!喧嘩は喧嘩でもこちとら異世界に行ってまで騎士やら亡霊やらモンスターと命懸けの喧嘩をしてきたんだよ!!そう簡単にやられてたまるかってんだ!!」

 

なおも殴り続ける龍馬。だがリーは龍馬の腹を蹴飛ばして突き放すとすぐに起き上がり、再び攻撃を仕掛ける。

 

「この……!!ただのガキの分際でぇぇぇぇ!!」

 

「ゴチャゴチャうるせえんだよぉぉぉ!!」

 

二人の殴り合いが続く。だがダメージがより大きいのは龍馬の方だ。

それにここに来るまでの度重なる戦闘もあって龍馬の体力も限界に近づきつつあった。

 

「死ねぇ!!」

 

リーの拳の連打、そして蹴りが龍馬に全て叩き込まれた。

 

「ぐわぁっ!!」

 

龍馬は傷だらけになり、もはや防御をする体力も無いに等しい。その状態で大ダメージを受けた彼はふらつきながら遂に地に膝をついてしまう。

 

「ハァ……ハァ……!!く、クソがっ……!!」

 

「終わりだ。斎藤龍馬。久々に骨のあるやつに出会えたよ。……だが、それもここまでだ。私に楯突いたこと、あの世で後悔するがいい」

 

見上げる龍馬の前に立ちはだかるリー。自分の力を持ってしても彼には勝てなかった。龍馬は自身の敗北とーーーー死を覚悟した。

リーは拳を構え、龍馬に止めを刺そうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーその時、気を失っていたレナは夢を見た。

夢の中で彼女は、尊敬する師である父の姿を目にしていた。

 

「……お父さん……?」

 

「レナ。何寝てるんだ。そんな暇がお前にあるのか?」

 

「……ごめん、お父さん……でも……私じゃ……リーに勝てなかった……せっかくお父さんや……周りの人達に助けられてここまで来たのに……」

 

悔しい。誰よりも強く、誰よりも優しい大好きな父ーーーー真龍寺誠の教えを受けたにも関わらずーーーー周囲の人々を得てやっとここまで辿り着いたと言うのにーーーー

 

 

 

 

自分は無様にも、負けてしまった。

 

 

 

もはや自分にはリーと戦う力はおろか、立ち上がる力すら残ってはいない。

そんな不甲斐ない自分の未熟さと、父の期待に応えられなかったことが悔しくて彼女は涙を流した。

 

「……何言ってるんだ。お前はまだ負けていない。真龍寺は……あんな青二才に負けるほどヤワじゃないぞ。それに……お前の大事な友達は今もお前とみんなのために死力を尽くして戦ってる。お前はそこで寝てるだけでいいのか?」

 

「でも……!でも……私の力じゃリーには勝てなかった……!もう私に出来ることは……」

 

「レナ、いいか……よく聞け。"強さ"っていうのはな、修行や才能だけじゃ到達できない領域があるのさ。お前のお友達……龍馬君がなぜあそこまで強いと思う?」

 

「そ……それは……」

 

……わからない。なぜ龍馬があそこまで強いのか。

多少は祖父に古武術を教わっていると聞いたことはあるが、それだけであそこまで強くなれるものだろうか。

自分が真龍寺流の才能と血筋、そして重ねた修行の成果を持ってしてもリーの足元にも及ばなかった。

それなのに大した修行もしていない龍馬が何故あそこまでリーと渡り合えるのか。

 

「……龍馬君の力はね、あの"怒り"だ。彼の怒りこそが彼を強くしている。ただしそれはただの怒りじゃない。その怒りを生み出す根源こそが彼の強さなんだ」

 

「そ、それは……?」

 

「……それは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼は常に"誰かのために強くある"。そして"誰かのために怒ることが出来る"からなんだよ」

 

 

 

 

 

「誰かの……ために……」

 

龍馬は、誰かのために怒ることが出来る。

龍馬は、誰かのために哀しむことが出来る。

彼の怒りは、哀しみは、大切な家族のため、仲間のためにある。

それこそが、龍馬の強さの源なのだ。

 

「誰かのために怒りや哀しみを力にして全力で振るうことは誰でもできるものじゃないさ。俺も強さをずっと追い求めてきたその先でようやくそのことに気付いた。

それをあの若さで発揮できる彼は……本当に凄い存在さ。

最も……彼自身はそのことには気付いてないだろうがな」

 

「お父さん……」

 

そうだ。思い出した。

自分が父のような強い存在に憧れたその理由を。きっかけを。

"誰かのために、誰かを守るために強くありたい"ーーーーそう思ったからこそ、強くなるために修行をした。

それこそが本当の強さ。自分のために強くなることには限界がある。レナは改めてその事実に気付き、涙で濡れた顔をぬぐった。

 

「……お父さん、ありがとう。私、まだいけるよ。龍馬や、みんなのために!」

 

「……どうやらふっ切れたみたいだな。さあ、起きな。龍馬君が危ない。今度はお前が彼を助ける番だ。

"誰かのために強くあること"ーーーーそれを理解した今のお前なら……きっと真龍寺の真の強さを発揮できるはずさ!

そしてあの青二才に見せてやれ。真龍寺流が何故最強と呼ばれるのかーーーーその本当の力をな!」

 

「うん!」

 

 

父の姿がかき消え、世界が白い光に包まれーーーー徐々に身体の感覚が鮮明になってくる。

 

 

 

行ける。立ち上がれる。拳に力がみなぎるのを感じる。

彼女の瞳に強い光が宿り、意識がはっきりしてくる。

 

 

見せてやろう。真龍寺流の真の力を。

(リー)では辿り着けぬ、その領域を。

見るがいい、これが真龍寺流だ。

思い知るがいい、これこそが真龍寺流だ。

 

 

 

 

 

今こそ、その力を放つ時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

師と仰ぎ、愛した父から受け継いだ真龍寺流の究極の領域ーーーー"血"の力を!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

龍馬にとどめを刺そうとしたリーは何か恐ろしいものを背後に感じ取った。

 

 

「(……!?)」

 

ふと、後ろを見るとそこには誰もいない。しかし"あるはずのものも無い"。

後ろで倒れていたレナの姿が消えている。リーは慌てて周囲を見回す。

 

「(馬鹿な!?奴は既に虫の息のはずだ!!一体どこへ……!?)」

 

その瞬間、リーの顔面にまるで岩石がぶち当たったような衝撃が響く。

あまりの突然の出来事に理解できないままリーは後ろに吹き飛ばされ、地面に手を付いた。

見上げるとそこには"赤い目"をしたレナの姿が。龍馬は地面に片膝と片腕を付いたまま、彼女の異様なその姿に目を丸くして驚く。

 

「れ……レナ……!?」

 

「許さない…………よくも私の大事な人達を…………仲間を…………傷付けたね…………絶対に許さない!!!!はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

レナの髪がほどけて逆立ち、身体中から赤いオーラが発生する。

次の瞬間、レナの姿が"消えた"。リーは何が起こったのか訳もわからずいきなり後頭部を攻撃された。

 

「がはっ!!ば、馬鹿な……!?貴様のどこにそんな力が……!?」

 

そう言った瞬間、今度はリーの顔面に衝撃が走る。そのまま見えない打撃を連続で受け、リーは手も足も出せなかった。

まるで今の真龍寺レナの姿は荒れ狂う"紅き龍"ーーーーまさしく"紅龍"のような姿であった。

リーはその瞬間理解した。噂に聞く"血"の力を。真龍寺流が真龍寺流たる強さの根源を。"努力"では決して辿り着けない武の極地を。

特殊な呼吸法より転じて"気"となる技は中国の武術にも多く存在する。しかしそれすら一握りの者だけが辿り着ける場所。

生命エネルギーを司る存在ともいえる"血の力"を使いこなせるのは真龍寺一族以外にはほとんど存在しない。だがそれを使うにはレナはかなり未熟なはず。リーは目の前の出来事が信じられなかった。

リーはその時再び感じた。14歳の時に真龍寺誠に負けた時の、あの圧倒的な力の差を。

 

「遅い!!遅すぎる!!!!でやぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

まるで分身に殴られているかのように襲い来る腹部と背中への"ほぼ同時"の打撃。

有り得ない。人間の力ではないーーーー防御も回避もかなわない。見えないほどの全方位からの攻撃に彼は成す術もない。

 

「ぐあぁっ!!ごはっ!!」

 

顔面、背中、腹部、腕、足、後頭部、右側頭部、左側頭部。

ありとあらゆる方向から無数に襲い来る打撃。

レナの姿どころか気配すらも察知出来ない。リーはただただ、打ちのめされるしかなかった。

 

「らぁっ!!!!」

 

「うぐぁっ……!!」

 

腹部への強烈な一撃に吹き飛ばされたリーは地面に落下し、両手と両膝をついて苦しむ。その様子を端から見ていた龍馬はレナに秘められた強大な力を前に、ただただ息を飲むばかりだった。

 

「(す、すげぇ……)」

 

人間の命そのものの力とも言える"血"を特殊な呼吸法によって操り、人間の肉体に秘められた潜在能力を極限まで引き出し、己が肉体を強化する真龍寺の"血の力"。

これこそが真龍寺一族の究極奥義。決して誰も辿り着くことの出来ぬ、"武"の世界の極地。

 

 

"誰かを思うが故の確固たる意志"から来るレナの怒りの力。

龍馬と同じ、誰かのために強くあるが故の怒り。

 

 

 

その怒りは、誰が為に。

 

 

 

全ては愛する父のため、仲間のため、自分が帰るべき場所で待つ人のため。

 

 

 

持てる全ての力を引き出し、リーを圧倒するレナの脳裏に過去の記憶が蘇る。

 

 

 

 

 

 

 

 

"『私、いつかお父さんのように強くなる!そしてみんなを守るヒーローになるんだ!』"

 

"『おやおや、そうかそうか。それは嬉しいな。それなら今から修行しないとだな』"

 

 

 

 

 

 

 

 

"『真っ直ぐ相手を見据えろ!そして拳を突き出せ!!』"

 

"『え……えいっ!!』"

 

"『よし、そうだ!なかなか筋がいいぞレナ。よし、もう一度だ!!』"

 

 

 

 

 

 

 

 

"『……え?私が福岡に?』"

 

"『ああ。昔の知り合いが困ってるみたいでな。お前も知っているだろう?芳子おばさんだよ。これも修行の一環だ』"

 

"『わかったよ、お父さん!』"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蘇る過去の光景。幼き頃の父との思い出。ヒーローのようになりたいと願ったあの日のこと。

そして、福岡に来て龍馬達と出会ったことや異世界で料理を振る舞ったこと。

全てが、彼女に取って大切な思い出だ。

その思い出を、居場所を、絆を壊そうとする者は何者であろうと、どんな理由があろうと決して許しはしない。

 

 

 

 

 

 

全ての思いと怒りを込めて……今、リーを倒す!!

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な……私が……この私が……貴様等なんぞに……!!」

 

リーはボロボロの身体のまま何とか立ち上がるが、既に彼は気力だけで立っている状態だ。

もはや戦う力は彼には残っていなかった。

 

「龍馬……立てる?」

 

「……ああ!」

 

レナが差し伸べた手を掴み、立ち上がる龍馬。

何故だろうか。身体に力がみなぎってくる。まるで身体の隅々にまで大きなエネルギーが広がるかのように。

 

「……龍馬、決着をつけるよ。私達の戦いに!!」

 

「ああ、わかってるさ。決着をつけよう。俺達の戦いにな!!」

 

 

 

 

 

 

数々の戦いを経て、仲間達の思いを託されて、ようやくここまで来たのだ。

そして遂にリーを追い詰めた。奴を倒すチャンスは今しかない。

 

 

 

 

 

今こそ、全てに決着(ケリ)をつけるときだ。そして終わらせようーーーーこの短いようで長かった戦いを。

 

 

 

 

 

 

我は青龍なり。我は紅龍なり。

 

 

 

 

 

 

我が怒りは友のため。

 

 

 

 

 

我が怒りは力を持たぬ人のため。

 

 

 

 

 

今こそ我等、修羅となりて悪逆非道の悪鬼羅刹を打ち倒さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

我等、無敵の"双龍"なり!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リーはその瞬間、"二つの龍"を見たような気がした。

応龍たる己を打ち倒さんとする、蒼き龍と紅き龍。すなわち"双龍"を。

 

 

 

 

 

「うおおおおおぉぉぉぉ!!!!」

 

「はあああああぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「 (そう)  (りゅう)  (きゃく)  ! ! 」」

 

 

 

 

 

 

 

 

龍馬とレナ、二人の合わせ技の強烈な飛び蹴りがリーの顔面を捉え、同時に直撃した。

二人分の蹴りの凄まじい攻撃を受け、後方へと吹き飛ばされるリー。

 

 

 

 

「(……馬鹿……な…………私が……この……私………が……こんな……奴等……に…………父さ……ん…………母さ…………ん…………申し…………訳…………ありま…………せ…………ん…………)」

 

 

 

 

走馬灯のようにリーの脳裏に父と母との幸せな日々の記憶が蘇る。

もうあの頃には戻れない。だからこそ非情に徹し進み続けて来たというのにーーーー真龍寺誠はおろか、娘の真龍寺レナにも敗北してしまった。

父の無念と屈辱を晴らすため、死に追いやられた母の復讐を果たすため、それだけを糧に生きてきたというのに。

 

 

悔しさだけが募る中、意識が薄れてゆく。

 

 

 

 

 

二人の攻撃を受け、応龍たるリーは倒れた。

 

 

 

龍馬とレナ、二人の絆が紡ぐ"双龍"の一撃。

 

 

 

 

 

天に近い摩天楼の頂にて夜空に舞うその姿、まさに全てを見下ろし、雄々しく天を舞うーーーー"龍が如く"。

 

 

 

 

 




●レナvs李王龍戦イメージBGM……
『Ogre has reborn』
(『龍が如く極』より)

●龍馬vs李王龍戦イメージBGM……
『The why of life』
(『龍が如く6 命の詩。』より)

●龍馬&レナ(覚醒後)vs李王龍戦イメージBGM……
『誰が為に・改』
(『龍が如く極』より)
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