アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第83話 バルガス、日本に立つ

龍馬達が博多での騒動を解決した日とそう変わらぬ日。バルガスは帝国ギルドより日本への渡航資格を受け取っていた。

異例のスピードで必要課目の履修を終え、試験に合格したバルガスは日本行きの準備を進めていたのである。

 

「いよいよニホンか……ある程度学校で知識は得たものの、年甲斐もなく気持ちが高ぶってしまうな」

 

学校で教えられるものはまず、"文化の違いや技術の差"について。

日本人の名前は【名字→名前】の順で表記されることや"銃刀法"という許可や正当な理由なく刃物やその他の武器を携帯することを禁止している法律などだ。

特に剣や弓などを持ち歩くのが一般的なこの世界では銃刀法を知って驚く人間も多い。バルガスもその一人であった。

さらに乗り物やインフラ設備も学ばなければならない。

一般的な自動車やそれに関する簡単な仕組みの説明と危険性。バルガスは一月前に乗った斎藤家のランドクルーザーがなぜあれほどまでに快適な乗り物だったのかここでようやく理解した。

その他にも食文化や食事のマナー、地球に存在する日本以外の国家や宗教に倫理観など、日本における滞在について色々と学ばねばならない。

特に就労・留学目的の場合は滞在記間が長期になるため、より多くの事を学んで課題をクリアする必要があった。

バルガスはそのどれもをスムーズにこなし、教員の日本人達を驚かせた。

そして今月。バルガスは全ての課程を終えて卒検を受け、めでたく卒業となった。

バルガスは既に日本での滞在先が龍馬の祖父・五十嵐平蔵の家に決まっているため、渡航は数日以内となる。

バルガスは卒業証書を受け取って世話になった日本人講師達に礼を述べると、下宿先である"竜の髭亭"へ帰宅する。

 

「おかみさん、今戻りました」

 

「おや、バルガスさん。おかえりなさい」

 

「バルガスさん!卒検、どうでした?」

 

おかみのアンナと給仕のレベッカが帰宅したバルガスを迎える。

バルガスは傍らに抱えたカバンから一枚の紙を取り出し、二人に見せる。

 

「なになに……?"卒業証書 バルガス・ディアガルド殿 右の者は帝国運営ギルド管轄・ニホン渡航資格学校において全課程を修了し、ニホンへの渡航資格を有することを証明する"……ええ!!バルガスさん、凄いじゃないですか!!」

 

「これでバルガスさんもニホンに行くんだねえ。めでたいことだけど、ちょっと寂しくなるね」

 

「……短い間でしたが、お世話になりました」

 

バルガスはアンナとレベッカに深々と頭を下げる。

思えば龍馬からここを紹介されたとき、二人は嫌な顔ひとつせず、快く迎えてくれた。

そんな二人の恩義に報いるため、バルガスは渡航資格の勉強の傍ら、店の仕事も全力で取り組んだ。

バルガスのような人間がいたおかげであの時涼子が倒したようなゴロツキは近寄らず、いい魔除けにもなっていた。流石にヴィヴェルタニア最強の男に喧嘩を売ろうという命知らずはいないようだ。

バルガスは主に皿洗いや洗濯、宿泊部屋のメイキングや買い出しを担当しており、力や体力の必要な仕事なので男手は本当に助かっていた。

短い間とわかってはいたが、いざその時が来ると寂しいものだ。

 

「バルガスさん、出発はいつになるんだい?」

 

「はっきりとはわかりませんが、数日以内、とだけ」

 

「確か……リョーマ君のおじいさんの家に行くんだっけ?」

 

「ああ」

 

この前のフェスで龍馬の祖父をレベッカとアンナは見ていた。

あのイガラシという老人はまるでバルガスの動きを出玉に取るようにかわし、捌いていった。

ヴィヴェルタニア最強の騎士が素手の戦いとはいえ、一撃も当てられないなどにわかには信じがたい光景だった。

あれのせいでバルガスは余計に火が付いたらしく、「彼から早く武術を学びたい」とよく漏らしていた。

 

 

 

そんな日の翌々日。手続きは普通よりも早く終わったらしく、竜の髭亭へバルガス宛に通知が届いた。

 

 

"バルガス・ディアガルド様

あなたの就労のための日本滞在における手続きが完了致しましたのでお知らせ致します。

つきましては三日後に渡航が可能なので、ご予定に差し支えがなければ帝国ギルドまでお越しくださいますようお願い致します。"

 

 

バルガスは通知を受け取ったその足で帝国ギルドへ向かい、渡航のための最後の手続きを行った。

ギルドの受付嬢が書類を見て内容を確認する。

 

「バルガス・ディアガルド様。ヴィヴェルタニア王国出身。滞在希望先はフクオカ県フクツ市にお住まいのイガラシ・ヘイゾウ様宅でお間違いないですか?」

 

「ああ……」

 

「渡航は三日後となりますが、ご予定やご都合はよろしいですか?」

 

「問題ない」

 

「では、アルカ港より朝の便の船で海洋港へとお進みください。そこで入国手続きを済ませていただいたらあとはニホンの職員の方の案内に従ってください」

 

「わかった」

 

バルガスは渡航の手続きを済ませ、竜の髭亭へと戻る。自室で龍馬宛への手紙を書くとそれをハーピー達の郵便局にそれを出し、渡航の旨を知らせる。

その二日後、竜の髭亭に兵士がやってきてバルガスを呼んだ。どうやらソフォス皇帝より呼び出しがかかったらしい。

バルガスは呼ばれる理由に心当たりがなかったが、仕方なく兵士に連れられて城へと向かう。

謁見の間にてソフォスと対面し、深々と頭を下げる。

 

「よいよい、バルガスよ。それよりも(ちこ)う寄れ。お主に話させたい人間がおる」

 

するとソフォスは何やら小さな折り畳みの板のようなものを取り出して耳に当てると、しばらくして話始める。

そしてソフォスはその板をバルガスに差し出す。耳に当てる仕草をして「同じようにして"もしもし"と言うんじゃ」と言うので言われた通りにしてみる。

 

「……もしもし?」

 

「"よう、バルガス!俺だ、龍馬だよ!"」

 

「!?」

 

バルガスは驚いた。この小さな板の向こうから龍馬の声が聞こえてくる。

なるほど、これが学校で学んだ"デンワ"というやつか。遠く離れた人間との会話を可能にする……話には聞いていたが、いざ実際に自分が使ってみるとやはり驚きを隠せない。というか、こんなものをソフォス皇帝が持っていることも驚きだが。

 

「"手紙見たぜ。明日来るのか?"」

 

「あ、ああ……そうだ」

 

「"じゃー、明日は俺が福岡空港まで迎えに行ってやるよ。そこから福津市まで案内するからそこからはじーちゃんが迎えに来てくれるだろうからさ"」

 

「そ、そうか……悪いな」

 

「"いいってことよ。じゃーなー!"」

 

ツー、ツーという音が鳴り、龍馬の声が聞こえなくなる。これは会話が終わったという合図か。

 

「どうじゃ、バルガス。これで素早く連絡が取れたじゃろう?」

 

「え、ええ。ありがとうございます。おかげで手紙を待つ必要はなさそうです」

 

ソフォスはパチンとデンワを折り畳み、懐へしまう。どうやらだいぶ慣れているようだ。

しかも龍馬とすぐに連絡が取れたことで道に迷う心配もなさそうだ。ソフォスは龍馬からの連絡を受けてこの対応を取ったとのこと。

皇帝直々の気遣いに感謝しつつ、バルガスは城を後にした。

出発前夜、アンナとレベッカはバルガスと最後の食事を共にした。

アンナは貴重なレッドボアのステーキをバルガスに振る舞い、バルガスは彼女らに深く感謝しながらありがたくステーキを頂く。

 

 

 

そして、翌日の朝。

 

 

 

 

「アンナさん、それにレベッカ。お世話になりました」

 

「ニホンでも元気でね」

 

「バルガスさん、身体に気を付けてくださいね」

 

バルガスは荷物の入った革袋を抱えると、二人に深く頭を下げて礼を言った。

わずか1ヶ月の下宿だったが、バルガスはまるで家族を持ったような感覚を覚えていた。

何か大事な絆を持ったバルガスは二人にもう一度礼を述べて港へ向かって歩き出した。

港へ着き、沖合いを眺める。彼方に見える海上の建物。あそこが異世界・ニホンへの入口だ。

いくらバルガスのような男でも期待と同時に若干の不安があるのは否めない。

だが、これは自分が選んだ道だ。そしてこのような道を選ばせてくれたアティウス王に感謝しつつ、バルガスは船を待つ。

しばらくして海洋港行きの船がやってきた。バルガスは船に乗り込み、海洋港で入国の手続きへ向かう。

手続きを済ませると今度はニホンのフェリーなる船に乗り換える。帆船と違って広く快適な鉄の船だ。

門を抜けるとバルガスの目に飛び込んできたのは帝都の光景とは違うーーーーまさに、異世界。

高くそびえる鉄の塔に城よりも高い四角い建物が無数に並ぶ異様な光景。流石のバルガスも圧巻であった。

 

「おお……これがニホンか……」

 

フェリーは東京湾へと入港し、そこでようやく異界の国ニホンの地を踏んだバルガス。

案内役のニホン人男性がバルガスを含む異界人達をマイクロバスへと案内し、バスはそのまま羽田空港へ。

巨大な空港という建物に依然として驚いたままのバルガス。

 

「えーと、バルガス・ディアガルド様。こちらへどうぞ。飛行機の搭乗まで私がご案内します」

 

ヒコウキ。異世界の巨大な空飛ぶ鉄の鳥。学校で学んだもののひとつではあるが、未だにあのような鉄の塊が空を飛ぶなどにわかには信じがたい。

が、やはりバルガスもターミナルから見える他の飛行機が離陸する様を見てさらに驚かざるを得なかったのは言うまでもない。

いくらバルガスといえど、元いた世界とはまるで勝手が違うために右も左もわからない状態で案内役がいるのは非常に心強い。

男性は気を利かせてバルガスに売店で買った冷たいお茶を振る舞う。

 

「普段は複数案内するからこんなことはしないんですけどね。福岡行きの便に乗る異界人はあなた一人だったので。今回は特別ですよ」

 

「ああ、ありがたい」

 

本来なら案内役は複数人を同時にガイドし、空港に着いたら目的地の便に合わせてそれぞれのグループや個人に担当の人間がついて案内する形になっている。

ディレットが初めて来た時のように福岡行きはバルガス一人だったため、運良くマンツーマンだ。

ターミナルの先の搭乗口まで男性が案内し、そこからは一人だ。向こうに着けば龍馬が迎えに来てくれるはずだが、それまでが不安だ。

飛行機に乗ったバルガスは今まで体感したことのない離陸時の加速とそれによって引き起こされるGに冷や汗を流したが、それをあまり感じなくなった時に窓の外を見て驚いた。

 

「(海と雲があんなに下の方に……本当に今私は空にいるのだな……)」

 

これだけでも驚くべき体験だ。ニホン人はこのような物に普通に乗っていることを考えると改めて文明の差を思い知らされる。

離陸から約一時間半。飛行機は福岡空港へと到着する。

羽田空港で預けた荷物を回収し、バルガスはターミナルを出た。

辺りをキョロキョロと見回す。すると……

 

「お、いたいた。バルガス、無事に着いたみたいじゃん」

 

「おお、リョーマか。わざわざすまないな」

 

「いいってことよ。おかげで学校サボれたしな。さ、行こうぜ」

 

龍馬はバルガスを案内するべく、歩き出す。

本来ならば今日は学校なのだが、バルガスの案内という名目で学校を休んでいる。

 

「どーだった?空の旅は」

 

「……最初は生きた心地がしなかったが……慣れれば快適なものだ。空を飛びながら食事まで楽しめるとはな」

 

「あっという間だったろ?俺達の世界の乗り物は」

 

「ああ。こんな乗り物を日常的に使えるとはな。ある意味魔法よりも凄いんじゃないか?」

 

「俺らからしたら魔法が実在してるほうが凄いんだけどな」

 

魔法というものは古来より解明できない事象の解釈や迷信、あるいはおとぎ話の中に存在していたものであって本当に使える方が龍馬達の世界からしてみれば凄いことだし、羨ましい。

龍馬も火炎弾を撃てるが、あれは魔法を行使しているというより力を借りているといった感じなので純粋な魔力で魔法を放てる異界人への憧れは現代人なら誰しもあるはずだ。

龍馬はバルガスを地下鉄へと案内し、そこから博多駅を目指す。

迫る電車に気圧されるバルガスだが、龍馬が普通に乗っているのを見て仕方なく後に続く。

暗いトンネルを抜ける長い蛇のように連なる乗り物に乗って到着した先の建物はまるで空港のように大勢の人々でごった返している。

バルガスは龍馬に案内されてJR鹿児島本線の列車へと乗り換え、そのまま福津市の福間駅まで。

暗いトンネルの地下鉄とは違い、街の景色を眺められる地上の列車はバルガスに新しい驚きと感動を与えた。

 

「なあ、バルガス……ちょっと聞きたいことあんだけどよ……」

 

「何だ?」

 

「その……あんたの恩人の……レオンハルトは……今どうしてるか知ってるのか?」

 

電車の中で龍馬はレオンハルトについて訪ねてみる。王子と次期国王という立場を利用し、厳格な父親がいないのをいいことにあらゆる横暴を働いたあの哀れな男は今どうしているのだろうか。

少し聞くのを躊躇う龍馬だったが、意を決して聞いてみることにした。

 

「……王子は……この前のフェスで会った王の話を聞いた限りでは現在は王の許可がない限りはほぼ軟禁に近い状態で暮らしているらしい。

アティウス王より厳しい訓練を強いられ、さらには無償で国民の様々な職の手伝いをさせられ、下の者達がいかに大変な思いをして日々を暮らしているか、身を持って知らされているのだとか」

 

あの事件で完全に父の怒りを買ってしまったレオンハルトは次期国王の座を降ろされただけではなく、"愚民"と称して見下していた国民達の労働を"奉仕活動"として無償で手伝わされているとのことだ。

国民あっての王族であるという考え方を真っ向から否定し、権力ばかりを振りかざした男にはこれ以上ないくらいの罰だろう。

さらに外出も制限され、城の外に出るには王の許可がない限り出れないらしく、城内では様々な勉学を叩き込まれているのだとか。あの情けない泣き顔が目に浮かぶようだ。

 

「そ、そうか……悪かったな、変なこと聞いて……」

 

「気にするな。私ももうレオンハルト王子に忠実な昔の私ではない。王子にはあれくらいキツい仕置きが必要だろうよ」

 

龍馬に負けたあの日。バルガスは己の考えをあらためた。

レオンハルトへの処遇を聞いた時は流石にやりすぎではと思ったが、あれくらいで丁度いいのかもしれない。

何せ、彼は幼い命を自分のその傲慢さのためだけに手にかけようとした。あそこでバイクに乗った龍馬が突っ込んで来なければどうなっていたことか。おそらくバルガスは一生を後悔して生きる羽目になっただろう。

そういう意味でも龍馬と彼の仲間達には感謝している。

 

「"次は福間、福間です"」

 

アナウンスが鳴り響く。いつの間にか福間駅についてしまったようだ。

バルガスは龍馬の後に続いて電車を降りる。

改札を抜けて駅のロータリーでしばらく待つと、しばらくして見覚えのあるハイゼットカーゴが現れた。

 

「じーちゃん!」

 

「おう、時間ピッタシやったな。さ、二人とも乗りぃや」

 

「お世話になります」

 

龍馬は助手席に、バルガスは後部座席に座る。

辺りに車が走り、街行く人々は皆"ジテンシャ"に乗ったり"すまあとほん"を見ている。

見回りの衛兵も、仕事を探す傭兵や冒険者も、露店や道端で商いに精を出す商人も、農作物を積んだ馬車も、ここにはまったく見当たらない。

遥かに文明の進んだこの異世界で今日からバルガスの新しい生活が始まる。

車はまっすぐ平蔵宅へと向かった。車から降り、平蔵がドアを開けるとターボが尻尾を振りながら三人を出迎えた。

 

「ワンワンッ!ヘッヘッヘッヘ」

 

「おー、ターボ!元気にしてたかー?」

 

「クゥーン」

 

バルガスは短い毛並みの中型犬を見た。龍馬がターボと呼んだその犬は龍馬によくなついているようだ。彼はバルガスを見ると少し警戒をしたが、しばらくじっと顔を見上げるとゆっくりと近づき、足元にすり寄る。

 

「……お前はターボというのか。俺はバルガスだ。今日からこの家に世話になる。よろしくな」

 

「クゥン」

 

バルガスがしゃがんで頭を撫でると、ターボは気持ち良さそうにしている。どうやら警戒心は解けたようだ。

靴を脱ぐという新鮮な行為を体験し、バルガスは家へと上がった。

どうやら祖母のヨネ子は出掛けているようだ。そういえば納屋に軽トラがなかったから買い物か畑にでも行っているのかもしれない。

龍馬が居間でターボとくつろいでいる間に平蔵は二階にある空き部屋へとバルガスを案内する。

 

「ここがあんたの部屋たい。家具はタンスと布団くらいしかないけん、今度一緒に買いに行こうかね」

 

「ありがとうございます、ヘイゾウさん」

 

「なあに、自分の家と思って好きに使って構わんばい。それとその服はちょっと目立つけん、なんか適当に持ってくるけんさ。ちょい待っときーや」

 

平蔵は自分の服から何かバルガスが着れそうな服を探す。が、大柄なバルガスには合うサイズが見つからない。

色々探して結局唯一合ったのが、平蔵が昔買ってサイズの大きさ故に結局一度も袖を通していない黒の作務衣(さむえ)であった。

元々黒い鎧などを着用していたバルガスにはなかなか似合っており、龍馬に茶化された。

 

「バルガス、あんた日本の伝統工芸を学びに来た外人みてーだな」

 

「……よくわからんが、それは褒めてるのか?」

 

龍馬の評価はともかく、この作務衣はゆったりとしていて着心地がいい。家着とちょっとした外出ならこれだけで事足りそうだ。

元々バルガスは学校で日本文化を学んだ時に"和"の文化や工芸品を知ってそれに惹かれたのでこの服は内心かなり気に入っていた。

このサムエという服は本来は日本の宗教の修行僧が"テラ"という日本の教会で掃除などの作業用に着る服らしい。

だが、近年はファッションや家着として一般にも広がっているのだとか。

丁度三人で話していた時、ターボが何かに反応して急いで玄関へ向かう。直後に聞こえてきたエンジン音からヨネ子の軽トラであることがわかる。

出迎えたターボと共に居間にやってきたヨネ子にバルガスは挨拶し、ようやくこれで全員が揃ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

龍馬が帰った後、夜になってから歓迎会が開かれた。

たっぷりのビールと日本酒に芋焼酎。それから寿司やステーキにヨネ子の自慢の料理の数々が並べられた。

 

「ジジババ二人と犬しかおらんきたない家やけどゆっくりしていきーね」

 

「ありがとうございます、ヨネコさん」

 

「ところで……バルガスさん。あんたの事をあんまり俺ら聞いてないから色々話を聞きたいんやけど、いいかいな?」

 

「ええ。大したお話は出来ませんが、それでもよろしければ」

 

バルガスは缶ビールを片手に自分の事を話す。

自分は元々は各地を転々とする雇われの傭兵だったこと。その時の仕事で仲間に裏切られ、死にかけたところをレオンハルト王子に救われ、ヴィヴェルタニア王国の騎士の職務についたこと。レオンハルトの数々の愚行とそれを諌めなかった自分のこと。

 

 

 

そしてーーーー龍馬に負けたことも。

 

 

 

「私はあの時に理解しました。私は忠誠を盾に都合の悪いことから逃げていたと。それをリョーマ……お孫さんに指摘された時は本当に図星でしたよ」

 

「……難儀な人生歩んで来とるんやねぇ」

 

ヨネ子がお茶をすすりながらバルガスの小皿に料理を取り分けて差し出す。

バルガスは「どうも」と言って料理に手をつけた。

 

「私の今回のニホン滞在はそういった己の未熟な心を鍛え直すための旅でもあるのです。そうでなければガルム騎士団団長として……そして偉大なる我が王に仕える身として示しがつかない」

 

ヴィヴェルタニア最強の男・鬼神のバルガス。そんな立場と肩書きはいかにバルガスといえど大きなプレッシャーになる。

だがそれに押し潰されるような軟弱な精神では騎士団長など到底務まらない。騎士という立場には王家と国民の命がかかっているのだ。

 

「……あんたはよう出来た男やのう。今の日本人にそんな根性のある奴はもうほとんどおらんばい」

 

そう言いつつ平蔵は芋焼酎のお湯割りを一口飲む。

平蔵とヨネ子はバルガスを外国人のような感じに捉えていたが、改めてこの時理解した。彼はまぎれもなく異世界の人間なのだ。

騎士や王などというワードが飛び出し、剣と己の肉体を武器に圧倒的な力とカリスマで騎士達を率い、王家に仇なす者を斬る。それがバルガスの立場であり、職務なのだ。

 

「よし!今日は存分に飲みぃ!んで明日はあんたの生活用品やら服やら買いに行くばい!」

 

「ご飯もまだまだいっぱいあるけん、しっかり食べときぃね!」

 

「ありがとうございます。ヘイゾウさん、ヨネコさん」

 

バルガスが日本に来て最初の夜。五十嵐家に新たな家族が加わった夜。三人と一匹の夜は美味い酒と肴を前にして静かに過ぎてゆく。

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