9月最終日。この日龍馬、勇斗、千春、ディレットの四人はふくまるに集まってあることを話し合っていた。
それは10月の"修学旅行"である。
今年の修学旅行ではディレット達異界人の特別学級も合同で参加が決定し、龍馬達と共に同行出来ることとなった。
今回は南国・沖縄への修学旅行が決まっており、四人はそれのプランを練っていたのだ。
修学旅行の日程は三泊四日。自由行動が二日目と三日目にある。
10月の沖縄はまだ暑くて海水浴も楽しめる気温なので海辺のリゾートホテルを取る客も多い。
四人とも沖縄ははじめてなので嫌が応にもテンションが上がってしまう。
特にディレットは南国というのは初めての体験なので特に胸を躍らせている。
「修学旅行のオキナワ、楽しみだね!」
「勇斗、お前自由行動はどこ行く?」
「そりゃあ、国際通りは外せんでしょ」
「一日目は首里城と
一日目はバスであちこちを観光する。
まずは福岡空港に集合。そこから飛行機で一時間半かけて那覇空港へ。
そこでバスに乗り、第二次世界大戦時代に日本軍の司令部があった防空壕を見学し、その
最後に沖縄の人気スポットのひとつである
「私も沖縄楽しみだよ!早く行きたいなあ!」
勤務中のレナが四人の元にラーメンを持ってきつつ、龍馬達のしおりやガイドブックを覗きこんでくる。
レナは現在龍馬達の通う学校へ通っており、学年も同じなので彼女も沖縄行きが決定している。
そんな龍馬達の話をたまたま聞いていたカウンターのブラッドとラグーンの二人。ラグーンはヒソヒソと隣のブラッドに話し掛ける。
「ねえ、ブラッド……"沖縄"ってどんなとこ?」
「僕も行ったことはないから詳しくは知らないが……日本最南端の県で日本の南国リゾート的な場所らしい……」
「え!南国!僕も行きたい!行きたい!」
「馬鹿……!龍馬達は学校の修学旅行なんだぞ……!行けるわけがないだろ……!」
「じゃあ、ブラッド連れてってよ」
「無茶言うなよ……」
龍馬達が和気あいあいと沖縄の修学旅行について語っている反対側でヒソヒソと会話を続ける二人。
ラグーンにしてみれば日本自体が特異な環境であるし、その心はまだまだ育ち盛りの少年とあってか好奇心も旺盛だ。
しかも南国と聞けばどうしてもこう、何か胸躍る響きである。それは少年の心を揺さぶるには充分な材料だった。
ブラッドはその後も沖縄行きをねだるラグーンにうんざりしながらラーメンを食べる羽目になったのである。
数日後、修学旅行を翌日に控えた龍馬はスーツケースに荷物を詰めていた。
忘れ物がないかどうかきちんとチェックをする。そこへルビィがやってきた。
「あれ?リョーマ兄ィ、どこか行くの?」
「明日から沖縄に修学旅行だよ」
「シューガク……リョコー?」
「学校の行事で行く旅行のことだよ」
「え!旅行!アタシも行きたい!」
「無茶言うなよ。学校行事の一環なんだから学校の生徒しか行けないに決まってるだろ」
「ケチ」
それを聞いてルビィはぷう、と頬を膨らませる。
彼女にしてみればこの世界はまだまだ知らないことが多い。旅行ともなれば行ってみたいのが彼女の年頃の
機嫌を損ねたルビィを何とか説得し、「沖縄の美味しい菓子を買ってくるから」と言ってようやく納得させた。
そして翌日。
「よっし、じゃあ行くか!」
「行ってきまーす!」
「気を付けて行ってきーよ!」
涼子、ルビィ、ルミナに見送られて龍馬とディレットは自宅を出発する。二人ともリュックとキャリーケースを持っており、完全に旅行客スタイルだ。
ゴロゴロとキャリーケースを引きずって地下鉄まで向かい、福岡空港を目指す。
空港の指定された集合場所には龍馬達二年生と異界人の特別学級クラスの生徒が集まり始めており、その中に勇斗と千春を見つけた。
「おーっす龍馬」
「どうやらちゃんと起きれたみたいね」
「当たり前だろ」
「楽しみにはしてたけど、休養はちゃんと取らないといけないからね」
四人の雑談が続くと同時にさらに同級生が集まり、点呼が始まる。
これから登場手続きを行ってターミナルから飛行機に乗る。搭乗までは少し時間があるので各々が空港の売店に寄ったり、スマホをいじったりしながら時間を潰した。
そしていよいよ時間が迫り、全員が飛行機へ移動する。ディレットは久々の飛行機にテンションが上がっているようだ。
「わーい!飛行機、飛行機!」
「子供かお前は」
この前のフェスの往復で四回も飛行機に乗る羽目になった龍馬はそれほど新鮮さは感じない。が、よほど特殊な環境でない限りは高校生ならしょっちゅう飛行機に乗る機会などそうないだろう。
ならば自然と感情が高ぶってしまうのも仕方のない話である。ましてやディレットは異世界のエルフ。こちらの世界にだいぶ慣れたとはいえ、現代の人類の乗り物は好奇心旺盛な彼女には落ち着いていろという方が無理な話だ。
シートベルトを締めてしばらく待つと飛行機が離陸の準備に入り始める。機体がゆっくりと前進を始め、滑走路に進入して一度止まった。
次の瞬間、ジェットエンジンの轟音が響き渡り、飛行機が急加速してGがかかる。
飛行機は離陸を始め、龍馬達を乗せた飛行機は沖縄へ向けて飛び立ったのだった。
「「「「沖縄だー!!」」」」
一時間半のフライトののちに、龍馬達を乗せた飛行機は那覇空港に到着した。
空港の外に出るとさすが沖縄、10月に入ったばかりだというのに暑い。それもそのはず、この日の那覇市の気温は29度。真夏に比べたら下がった方ではあるが、まだまだ"夏"と呼べる気温だ。
「イエーイ、沖縄~!フゥーフゥー!」
いつになく勇斗のテンションが高い。180cmを越える巨体でドスドス跳び跳ねてうるさいのでケツを蹴っ飛ばしておく。
「あ、痛ァーい!酷いですね君!」
「デカい図体して目の前で跳び跳ねんな邪魔なんだよ」
喚く勇斗を無視して進む。教師達が観光バスの止まっている場所へと先導し、生徒達を案内した。
龍馬達のバスは前から三番目のバスだ。一番目と二番目に乗る生徒達が次々に乗り込んでいく。まだ自分達が乗り込むまでには時間がかかりそうだ。
龍馬が暇潰しにスマホをいじっていると誰かからメッセージが入る。
相手は……ラグーンだ。そういえば最近スマホを契約したから連絡先を交換しろとせがまれたのを思い出した。
ラグーン
『龍馬、沖縄楽しんでる?』
『ああ、今着いたとこだよ』
ラグーン
『そうなんだ。それはよかった』
メッセージの送り主はラグーンだ。しかしタイミングがいい。
ラグーン
『今龍馬が何してるか当ててあげようか。……バスに乗るの待ってるね?』
「!?」
龍馬はそのメッセージに驚愕する。何故福岡にいるはずのラグーンが自分の状況を知っているのか。
まさかと思い、龍馬は周囲を見渡す。
「……マジかよ」
肩をすくめた龍馬の視線の先には……見知った顔の二人が。
龍馬は呆れ顔のまま彼等に近寄る。
「……お前ら何やってんだよ」
「旅行だよ」
あっけらかんと答えるラグーン。そして隣のブラッドは青いハイビスカスがデザインされたアロハシャツを着てサングラスをかけている。
「どうやってここまで来たんだよ」
「まあ、E.V.S.O.のコネでな。小さいがプライベートジェットを使ってこいつらも連れてきたんだ。ラグーンがどうしても沖縄へ行きたいと言い出してな。僕はあまり乗り気ではなかったのだが」
「そうそう」
「嘘つけ、だったら何だよそのアロハシャツは。オメーもノリノリじゃねぇか。しかもプライベートジェットとかE.V.S.O.職員どんだけすげーんだよ畜生。修学旅行でテンション上がってた自分が惨めになってきたわ」
再び呆れる龍馬。まさかプライベートジェットを使ってくるとは思わなかった。E.V.S.O.職員とはどれだけセレブなのだろうか。
まあ、ブラッドだけが特別という可能性もあるがぶっちゃけ聞く気も起きない。というか聞きたくもない。
彼等はレンタカーを借りて移動するようで空港から迎えのマイクロバスでレンタカーショップへ移動していった。
それと同時に龍馬達もようやくバスに乗る。
バスが動きだし、まずは第一の目的地・海軍司令部壕へと向かった。
ここは那覇市と
施設内部に入った龍馬達はその迷路のような防空壕に圧倒される。
「へー、これが日本海軍の司令部か」
「すごいね、まるで鉱山みたい」
龍馬とディレットが内部を見渡す。
この司令部となった防空壕が設営されたのは1944
当時の重要軍事拠点である
だが1945
その後午前7時、ほぼ全ての兵士達がわずかに残った武器を手に玉砕し、この司令部壕はアメリカ軍によって掌握された。
「うわ、なんだこの部屋……」
先頭にいた勇斗が入った部屋は壁や天井に無数の穴が開いている。まるで……何かがここで爆発したと言わんばかりに。
「ここは幕僚室ね。ここで司令官の大田実は手榴弾を使って自決したのよ。この穴は手榴弾の破片が直撃して出来たものらしいわ」
「ってことは、当時の痕がそのまま残ってるわけか」
パンフレットを見ながら千春が解説した。
海軍中将・大田実は手榴弾を使い、自らの命を絶った。その時に出来た71年前の破片の痕が今でもこうして生々しく残っている。
沖縄の、軍人も民間人も共に戦い、散っていった仲間を想いながら彼は一体どんな気持ちでここで最期を迎えたのか。龍馬達には想像も出来ない。
「戦争ってどこの世界も悲惨だね……」
そんなディレットの言葉がまるで重くのしかかるような気がする。
確かに戦争とは無駄に命が失われるばかりで何一ついいことなどありはしない。
同族でここまで殺し合いをする生物など人間くらいのものだ。龍馬達は平和に生きられる今の自分達の生活に感謝しつつ、海軍司令部壕を後にした。
「おー、デカい!」
「これがオキナワのお城なんだね!」
龍馬達が次にやってきたのは首里城。沖縄がまだ"琉球王国"だった時代の城だ。
中国との交易で建築物や文化にも中国文化の片鱗が見て取れる。
ただし首里城は第二次世界大戦の沖縄戦によってわずかに城壁跡を残して全て焼失してしまっている。そのため現在の首里城は昭和後期から平成初期にかけて文献をもとに復元されたもののため、厳密には正確な姿とは言えない。
龍馬達は有名な首里城の玉座前の広場である場所にいた。
ここは
四人で写真を撮っていると、またしても見覚えのある二人の顔が。龍馬は二人に近づく。
「……何やってんだよ」
「写真を撮ってる」
ラグーンがおろしたてのスマホを構えて嬉々として写真を撮っている。ブラッドはシークヮーサージュースを飲みながら城の外観を眺めており、さらに左手にはどこで買ってきたのかかじりかけのサーターアンダギーを持っている。
「ああ、なるほどね……ところで俺らはこれから城の中を見学してくるけど、ラグーン達はどうすんだ?」
「ボク達は中はもう見たから城を出るよ。それじゃ龍馬、会えたらまた」
どうやらブラッドとラグーンは既に城の中を見学したらしく、スマホで撮った写真を嬉しそうに眺めながらブラッドと去っていく。まるでクリスマスのプレゼントに新しいおもちゃをもらった子供のようだ。
首里城を去るラグーン達を見送ったのちに龍馬達は首里城の内部を見学し、そのあと売店に寄る。
「このキーホルダー可愛い!」
ディレットが手に取ったのはニッコリと笑うデフォルメされたシーサーのキーホルダーだ。彼女はウキウキしながらそれを迷わずレジで購入する。
「えへへ、買っちゃった。ところでこの"しーさー"ってオキナワの色んなとこで見かけるけどなんだろ?」
「え?ディレットあなたそれ今さらじゃない……?まあ、いいわ……シーサーはね、沖縄の守り神なの」
もはや解説役となった千春のシーサー講座が始まる。
「守り神?」
「そう。昔の沖縄……琉球の人達は一対のシーサーを家の屋根や屋敷に置くことで厄を退ける魔除けとして信仰してきたらしいわ」
シーサーの名の由来は"獅子"であるとされる。
一対で設置されることが多く、向かって右側のシーサーが雄で口を開いていて福を招くとされ、左側のシーサーは雌で口を閉じていて家に入り込もうとする邪悪な存在や厄から家を守ると言われている。
(※雌雄の口の開け閉めの分け方には様々な考え方があるようです)
「へえ、そうなんだ。あ、じゃあこのシーサーの置物、故郷のお父さんとお母さんに贈ってあげちゃおっと!」
ディレットは両親へのお土産に追加で小さなシーサーの置物を購入した。
雌雄の一対のシーサーがデザインされた、手軽で小さな置物だ。玄関付近に置くといいらしい。
買い物を終わらせて首里城を出ると今度は昼食だ。団体の入れるレストランで龍馬達は沖縄料理を楽しむ。
出てきたのは定食だ。メインのおかずは沖縄料理の定番・ゴーヤチャンプルー。それにラフテーと味噌汁に漬物、そしてご飯である。
「ん、初めて食べたけどゴーヤチャンプルーってなかなか美味いな。苦いばっかだと思ってたけど」
「うん、ご飯に合うわ。出汁が美味いな」
龍馬と勇斗は早くもゴーヤチャンプルーに適応している。ゴーヤとはニガウリの沖縄方言であり、チャンプルーとは沖縄方言で"混ぜこぜにしたもの"という意味がある。
ゴーヤチャンプルーはゴーヤ、島豆腐、ポークランチョンミート、ニンジンやタマネギ、キャベツやもやし、卵などを塩・胡椒・醤油・かつおだしで炒めた沖縄の伝統的な家庭料理であり、近年では日本全国でゴーヤチャンプルーを作る家庭も少なくない。
「ちょっと苦いけど……ご飯と食べると美味しいね!」
「こっちのラフテーも柔らかくて美味しいわ!」
ラフテーはいわゆる"豚の角煮"であり、皮付きの豚のもも肉を使用した琉球王朝時代からの保存食である。
このラフテーには沖縄県産の黒豚ブランド"アグー豚"が使われており、アグー豚は柔らかく臭みが少ないのが特徴だ。これはご飯が進むのも仕方ないことである。
(※『アグー』という言葉の意味や語源ははっきりとはわかっていませんが、一説では
「ん?なんだこりゃ?」
勇斗がテーブルに置かれた見かけない調味料の小瓶に手を伸ばした。
瓶のラベルにはひらがなで"こーれーぐーす"と書かれている。
中には唐辛子と透明な液体がぎっしりと詰まっており、明らかに辛そうな雰囲気だ。
「それは"コーレーグース"ね。沖縄産の島とうがらしを泡盛に漬けた調味料だそうよ。まあ、気になるなら試してみたら?味噌汁や沖縄そばの薬味にいいって聞いたわ」
「解説どうも、委員長。ま、使ってみるか」
勇斗はコーレーグースを数滴、味噌汁に入れて飲んでみる。
「……ゲホッ、ゲホッ!の、喉が……!」
辛い。いや、それだけではない。
喉や胃がカーッと熱くなるのを感じる。これは島とうがらしの辛さではない。これはアルコールの感覚だ。
それもそのはず。先ほど千春が説明した通り、コーレーグースは沖縄産の蒸留酒である"泡盛"を使用した調味料だ。そのため島とうがらしの辛さと共にアルコール独特の喉の奥が焼けるような感覚があるため、コーレーグースは好みが別れる。
ただ、沖縄の食堂には必ずと言っていいほど置いてあるのでそのクセの強さを好む者も多い。
勇斗も最初は咳き込んでいたが徐々に毒されたようで追加でコーレーグースを入れた味噌汁を美味そうに飲んでいた。
昼食を終えた龍馬達はバスで次なる目的地へと移動した。
目的地は
ここは世界遺産に登録された琉球王朝時代の拝所である。
斎場御嶽の内部には三つの拝所が設置されており、龍馬達が今いるのはその最奥部に位置する。
「うお、すっげぇ!」
「岩が倒れかかってるみたい……」
龍馬とディレットは思わずスマホを構えて写真を撮影する。
ディレットの言うとおり、まるで岩がもう片方の岩に倒れかかっているかのようなその光景は見る者を圧倒させる。
この岩の下をくぐった先が、琉球王朝の最も神聖な"
「島が見えるぜ」
「あれは"
勇斗が身を乗り出す。そこからは岩と木々の隙間に沖縄の美しい海が見え、さらにその果てに"神の島"として琉球の人々に信仰される
古代琉球王朝・第二尚氏の時代、琉球王朝には国王と国を霊的な力で守護する"
その聞得大君の就任の儀式"
「古代リュウキュウの人達は神様をとても大切にしてたんだね」
「そうね。それに沖縄には琉球王朝時代から続く信仰に"ニライカナイ"というものがあったそうよ」
「にらい……かない……?」
ニライカナイは琉球と鹿児島県・奄美大島の一部に伝わる他界概念のひとつであり、遥か東の彼方の海の底に広がる世界とされている。
そこは命が生まれ、また死者の魂が再び還る場所として信仰され、年の初めにはニライカナイの神が琉球へとやってきて豊穣をもたらし、年末に再び神が還る神界のような場所なのだと。
さらに琉球王朝の国王はこのニライカナイを"
「なんだか私の村のオルディオの大樹の伝説みたい」
ディレットの村の奥にある聖地に存在するオルディオの大樹は全ての命が生まれ、また全ての命が還る場所として崇められる場所だ。なるほど、確かにニライカナイに通じるところがあるかもしれない。
龍馬達は
「すごい、すごーい!!」
ディレットがはしゃいで水槽に近寄る。
ここは沖縄きっての観光スポット、"
巨大水槽の中を泳ぐ無数の美しい魚と巨大なジンベエザメやマンタを見上げながらディレットは写真を撮りまくる。
元いた世界ではこのような施設はまずお目にかかれないだろう。まるで海の底を歩いているような美しい光景が目の前に広がっている。
龍馬達も大規模な水族館の光景を写真に納めようとスマホを構える。が、龍馬が薄暗い室内で誰かにぶつかってしまう。
「あっ、すみません」
「あ、いえ、こちらこそすみません」
「……ん?」
聞き覚えのある声と口調。よく見ると……
「あっ!スパイダー○ン!」
「誰がスパイ○ーマンだよ!ラグーンだよ!」
ス○イダーマン、もといラグーンの姿が。何となく予感はしていたがこうも鉢合わせになるとは。
隣を見てみるとブラッドがパンフレットを読みながら水槽を交互に眺めており、見た目の特異さを除けば完全にただの観光客だ。彼はラグーンとは違ってあまり写真には興味はないらしく、スマホもカメラも構えていない。「この目で見れれば充分」ということなのだろうか。
結局二人は龍馬の班と共にイルカショーまで行動を共にして龍馬達が水族館を後にするまでその場に留まっていた。
イルカショーを見て美ら海水族館を後にし、龍馬達はようやくホテルへやってきた。
ホテルで部屋を割り振られた後は入浴、そして夕食だ。
夕食後は午後九時の消灯まで自由時間となっている。
そんな中、龍馬はトランプとのにらみ合いを続けていた。
「よし、スリーカードだ」
「わしストレート」
「ボクはフラッシュ」
「僕はフルハウスだ」
部屋で龍馬や勇斗と共にポーカーをしていたのはブラッドとラグーンだ。
実は彼等二人は偶然にも龍馬達と同じホテルに予約を取っていた。
ロビーで二人と再び出くわし、一体の何の縁だと苦笑を浮かべつつも、自由時間を利用してブラッド達が龍馬達の部屋に遊びに来ている。
今は勇斗の持ってきたトランプでポーカーの真っ最中である。
「また俺の負けかよ!」
「悪いな、龍馬。このポーカーの勝ちは三人用なんだ」
「龍馬、弱いね……」
「三戦やって三戦全敗とはな」
「ぐぬぬ……」
「ほら、早くジュースを買いに行くがよい我が
「誰が
三戦やって二回負けた人間が全員にジュースを奢るという賭けをしていたのだが、二回負けた龍馬は泣きの一回で三戦目を頼んだ。しかしその努力も水の泡である。
龍馬は仕方なく、一回の売店へと足を運んだ。
「はあ……ったく、ついてねえな。……ん?」
龍馬の目に止まったのはお土産用のコーレーグースの小瓶。彼はそれを見てニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
そして自分の分と三人用のジュースを買うと龍馬は部屋へと戻った。
「ほら、買ってきたぞ」
「おお、我が
「だから誰が僕だこのゴリラ野郎」
ペットボトルのジュースを渡し、三人がそれを飲む。
「……ぶほぁっ!?」
「ぶふぉっ!?」
「ぶはっ!?」
ジュースの味と共に島とうがらしの辛味と泡盛のきつい味と香りが一気に襲ってきて三人はたまらず吹き出してしまう。
「だーはっはっは!!ひ、引っ掛かってやんのバッカでー!!イーヒッヒッ!!」
「りょ、龍馬てめえ~……!!」
「よ、よくもやったな……!!」
「お前、コーレーグースを大量に入れたな!?」
「ま、まさかフタが緩んでるのに疑いもせず飲むなんて……ヒーッヒッヒ!腹痛てぇ!……ぐはっ!?」
笑い転げる龍馬に枕が次々に飛んでくる。怒った三人が枕や座布団を次々に投げつけてくるのだ。
「おら、覚悟しやがれ!」
「食べ物の恨みは恐ろしいんだからね!」
「覚悟は……できてるんだろうな……!?」
「ちょ、痛い痛い!!そんな本気で投げつけんな!!……痛っ!!ちっくしょー、そっちがその気ならやってやらぁ!!」
ドタバタと枕投げ合戦が始まり、無数の枕が部屋を飛び交う。
沖縄修学旅行一日目の夜は騒がしく更けていくのであった。