沖縄修学旅行二日目の朝。
龍馬達はホテルで朝食を取った後、教師達から今日の日程について説明を受ける。
本日は午前から自由行動である。那覇市内を自由に散策していいそうだ。
龍馬達は勇斗の強い希望で国際通りへとやってきた。
沖縄県国際通り牧志は観光客でごった返す有名な歓楽街で数多くのお土産屋や飲食店が建ち並んでいる。
「おー、ここが国際通りか」
「楽しそうなお店がいっぱいだね!」
「やっぱり沖縄といえばここだよなぁ」
「さて、どこから行くの?」
さすが観光地の歓楽街だけあって様々な店があって目移りしてしまう。彼等がまず向かったのはアーケード街にある第一牧志公設市場。
ここは沖縄の新鮮で様々な食材が集まる場所で普通の生鮮市場では見ることのできない食材に彼等は興味深々だ。
「沖縄の方言名の魚とか食材多くて一体何だかわからねえや」
「りょ、リョーマあそこ……豚の生首がある……」
ディレットが恐る恐る指差す先には肉屋。そしてその脇に豚の頭が丸々置いてある。……なぜかサングラスをかけているが。
最初見たときはぎょっとしたが、よく見るとなかなか愛嬌がある……気がする。
しかし先ほどから店のおばちゃん達の勧誘が凄まじい。事あるごとに龍馬達に店の食べ物の試食を勧めまくってくる。
漬物屋のおばちゃんの勧めで島らっきょうを食べた勇斗は口が臭くてやばかったのでしばらくこちらを向くなと言っておく。
「あ、リョーマ。二階があるみたいだよ」
市場を歩いていると中央辺りにディレットが階段を発見した。
二階のある生鮮市場など珍しいと思いつつも、やはり好奇心は抑えられない。二階に上がった彼等がそこで目にしたものはなんと食堂。
ここ公設市場の二階は食堂になっていて沖縄料理を堪能できるうえ、一階で買った食材を有料で料理してくれたりもする。
興味本意で上がっただけなのだが、龍馬達は食堂のおばちゃんに捕まってしまい、何か食べることにした。
「そういえばまだこっち来て沖縄そば食べてないな」
沖縄名物のひとつである沖縄そばをまだ食べていない龍馬達は勇斗のその言葉で全員でそばを食べることにした。
頼んだのは"ソーキそば"だ。
"ソーキ"とは"豚の骨付きのあばら肉"(いわゆるスペアリブ)のことで、ソーキの語源は"
大きなソーキが乗ったそばが運ばれ、龍馬達は沖縄に来てから初の沖縄そばを食した。
「う、うめえ!」
「めっちゃ美味い!」
「麺もお肉も美味しいね!」
「ソーキがすごく食べごたえあるわ!」
沖縄そばは"そば"とは言われるものの、蕎麦粉を使った麺ではなく平麺の料理であるため、厳密には"そば"ではない。どちらかといえば"うどん"に近いものだ。
(※ど○兵衛を想像してもらえるとわかりやすいです)
だが食べごたえのある麺やスープ、そして大きなソーキがこれまた非常に美味い。
勇斗に至っては途中から毎度お馴染みコーレーグースを入れながらスープを楽しんでいた。
公設市場を出た龍馬達が次に向かったのはアイスクリーム屋。
店名は『ブルーシールアイスクリーム』。沖縄ではポピュラーなアメリカ産まれのアイスクリームチェーン店だ。
気温の高い南国の沖縄の気候に合わせたさっぱりとしたフレーバーを数多く取り扱っていて、沖縄ならではのフレーバーも存在する。
店員のオススメで龍馬達は全員"紅芋"のアイスクリームを購入する。
ひんやりとした紫色のアイスクリーム。紅芋の甘い香りが食欲を誘う。
「ん!うまい!」
龍馬が一口食べるとアイスクリームの滑らかな食感とともに紅芋のコクのある甘みが口の中いっぱいに広がる。たかがアイスクリームと多少は侮っていたがここまで美味いとは。
「すみません!おかわりください!あ、この"サトウキビ"のアイスクリームも一緒に!」
早くもペロリと食べ終わったディレットは同じものをおかわりするだけでは飽きたらず、追加でサトウキビフレーバーのアイスクリームまで注文している。心なしか店員さんが苦笑しつつ少し量を多めにおまけしてくれていた。
「ディレット、あなたお腹壊すわよ……?」
「へーきへーき!エルフの胃は強いんだよ!」
エルフの胃が頑丈なんて設定初めて聞いたが。
まあ、本人が大丈夫と言うなら大丈夫なんだろう。
そういえば彼女が
アイスを食べ終わった後は国際通りをブラブラ歩く。
様々なお土産を売っている店があって、どうしても色々目移りしてしまう。
龍馬はその中で泡盛を多く取り扱う店を見つけ、じっと見ている。
「どうしたの、リョーマ?」
「ん?ああ、母さんがお酒好きだから泡盛買ってあげたいなーって思ってんだけど……」
基本的に今の時代はお使いやお土産用でも未成年が酒類を買うことは禁止されている。
よしんば買えたとしてももし学校に見つかれば大事になってしまう。
どうしたものかと悩んでいた時、彼の前に"救世主"が現れた。
「ラグーン、お前少し食い過ぎだぞ」
「へーきへーき!ボクの胃は丈夫だから!」
やはりデジャヴを感じるやり取りをしながらあの二人が向かい側から歩いてきたのだ。
これはチャンスだと思い、龍馬は彼等に駆け寄ると頭を下げながらブラッドの前で手を合わせた。
「ブラッド!いいところに来てくれた!頼みがあるんだけど……」
「サンキュー、ブラッド。悪いな」
「ったく、貸しひとつだからな」
ブラッドの手には泡盛の瓶が入った箱を入れた紙袋が握られている。
龍馬はブラッドに頼んで代わりに泡盛を買ってもらい、このまま近くのコンビニから龍馬の自宅へブラッド名義で発送することにしたのだ。これで母に泡盛が渡せる。
龍馬は彼に何度も礼を言って別れ、再び仲間と合流する。
「斎藤、終わったの?」
「ああ、悪いな。……おい委員長、先生にチクらないでくれよ?」
「誰が委員長よ。しないわよそんな無粋なこと。お母さんのためなんでしょ?」
昔の自分ならもしかしたらしていたかもしれないが、さすがにこれだけ彼等と行動を共にしていれば教師に密告をしようなどとは思わない。
それに龍馬は酒が好きな母親のためにとやっているのだし、一応合法的な手段でブラッドに金を渡して入手しているのだからとやかく言うつもりはない。
「なあ、なんかまた腹減ってきたよ。ちょっと行ってみたいとこあんだけどさ、行かないか?」
そろそろ時刻は昼過ぎだ。確かに先ほど食べた沖縄そばだけでは物足りない。何か腹に溜まるものが食べたいところだ。
勇斗はあらかじめリサーチしていたらしく、スマホのマップ機能を使い、その場所へと皆を案内した。
「着いたぜ。ここだ」
「なんだここ?"サムズ……マウイ"?」
勇斗が連れてきた場所は"ステーキハウス・サムズマウイ"と看板に書かれたステーキ専門店だった。店先まで肉の焼けるいい香りが漂ってくる。
ここはサムズグループと呼ばれるステーキレストランチェーンの会社が運営する店のひとつであり、沖縄では馴染みのあるステーキレストランだ。
中に入ると大きな鉄板を囲むようにボックス席が設置されており、龍馬達はそこで鉄板を囲んで座る。
ほどなくして長いコック帽を被ったシェフの男性がテーブルへとやってくる。
「本日は私がこちらのテーブルでの調理を担当させていただきます。どうぞよろしくお願い致します」
このサムズマウイが他のステーキレストランと違うところはひとつのテーブルにシェフが一人ついて目の前でステーキを調理してくれるのだ。
龍馬達が注文したステーキのコースの食材が届くとまずは野菜とポテトから鉄板で炒め始める。
そしてここからがこのステーキレストランの見所だ。
半分に切ったピーマンをスティックに刺してナイフで削ぐように素早く細かく華麗な手さばきで切り刻むと、味付けのために塩とコショウの入った金属容器を用意する。それをシェフがまるで大道芸のようにクルクルとジャグリングをしてパフォーマンスを披露していく。容器同士がぶつかるカン、コン、という音が小気味良い。
「おお!」
「すごいすごい!何これ!?」
龍馬とディレットは驚いて思わず動画を撮る。
ただのパフォーマンスではない。きちんと芸を交えつつもしっかりと塩とコショウが野菜に振られているのだ。
さらにペッパーミルも用意されており、二つのペッパーミルがシェフの手の上でまるで生きているかのように回転し、空中へと舞い上がる。
野菜が焼き上がると次に肉を食べやすい大きさに切ってから焼き始めた。
「ああ~、すげ~美味そうな匂い~」
「(ゴクリ……)」
肉の焼ける香りに勇斗は魅了され、千春は思わず唾を飲み込む。
まだか、まだかと肉を凝視する四人。同時に隣で焼いているニンニクの香りがさらに食欲を刺激する。
そして赤ワインやソースで味付けされたステーキが焼き上がり、龍馬達の皿に均等に盛り付けられた。
「「「「いただきまーす!」」」」
待ちに待った肉。それを一口頬張る。
うまい。ただひたすらにうまい。それしか感想が出てこない。
この肉の美味さの前には語彙力など欠如して当たり前だ。龍馬達は一心不乱に肉を食べる。
やはり、焼いた肉は正義だ。
「ああ、美味かった」
サムズマウイでステーキを堪能した龍馬達は再び国際通りを巡る。
お土産屋『おきなわ屋』に立ち寄り、そこで龍馬はルビィやルミナのためにキーホルダーなどのお土産を買っておく。お菓子は帰る前でいいだろう。
しかしそれにしても暑い。本当に今は10月なのだろうか。さすが南国沖縄。気候が夏そのものだ。
喉が乾いた龍馬は自販機に立ち寄り、飲み物を吟味する。
「……そういやこの"さんぴん茶"って沖縄のどの自販機にもあるよな」
沖縄にある自販機のほとんどに存在するこの"さんぴん茶"という透き通った色のお茶。まだ飲んだことがない龍馬はそれを買ってみた。
「……あっ、美味いなこれ」
華やかな香りとすっきりとした味わい。乾いた喉にはたまらない。
さんぴん茶はジャスミンの花で香り付けされた、いわゆる"ジャスミン茶"である。
一般的にジャスミン茶には緑茶が使われるが、沖縄のさんぴん茶には半発酵茶が使われている。
"さんぴん茶"という名称は中国語の"
かなり美味かったので後の三人の分も買っておいた。
すっきりとした味わいのさんぴん茶を飲んで水分を補給した彼等は次は何をしようかと再び国際通りを歩き出す。
と、その時。龍馬は道端で泣いている小学生の女の子を必死に慰めている凛とアメリアの班を見つけた。それにレナもいる。
「凛ちゃんにアメリアじゃん。どうしたんだ?」
「あっ、斎藤君……それにみんなも」
「リョーマ、私から説明するね……」
事情を知るアメリアが話す。
どうやら話によればこの女の子は母親の誕生日のためにお小遣いを貯めて買ったプレゼントを入れたバッグを無くしてしまったらしい。
それは龍馬達がここへ来るほんの十分ほど前のことらしく、周囲を探しているがどこにもないとのこと。
レナが必死になって聞き込みをしたがそれでも有益な情報は得られなかった。
「そうか……よし、わかった。俺も探してやるよ。まだ時間あるしな。お前らは?」
「私は大丈夫だよ」
「俺も」
「全く、斎藤ったらほんとお人好しなんだから……いいわ、みんなで手分けして探しましょ。……ところであなた、名前は?」
「わ、わたし……めぐみ……」
女の子は嗚咽混じりのか細い声でそう答えた。大切なプレゼントなのだろう。早く見つけてやらねば。
めぐみと名乗る女の子はレナ達に頼んで最寄りの交番に連れていってもらい、龍馬達は彼女の通ったルートを遡って探すことにする。
市場……お土産屋……アクセサリーショップ……彼女が通った場所とその周辺を探すが、それらしきバッグは見つからない。
龍馬達は付近でそういったものを見なかったかダメ元で聞き込みをする。レナは「情報は得られなかった」と言っていたが……
だがしかし、アーケード街でそれに繋がりそうな有力な情報を入手することに成功したのだ。何でもやってみるものである。
「バッグは見てないけど、この辺にクセの悪い野良犬がいてねぇ。よく人の荷物をこっそり盗ってはどこかに隠してるんだよ。そいつのねぐらを見つけられればそこにあるかもしれないねぇ」
「ありがとうございます!」
龍馬は薬局のおばちゃんに礼を言って店を去る。
どうやらこの辺には観光客や店の物をくすねる"ドロ"という通称で呼ばれている野良犬がうるらしい。もしかしたらめぐみのバッグもそこにあるのかもしれない。
「しかし、そんなに簡単に目当ての野良犬が見つかるわけが……」
「このドロボーっ!!」
商店街のおっちゃんの叫び声と共に龍馬の前を小さな影がサッと駆け抜けていく。
その影の正体。それは口に靴を咥えた白い野良犬である。簡単に見つかった。あいつがドロだ。
「…………あいつだーっ!!追えーっ!!」
龍馬達は全速力でドラ猫ならぬドラ犬を追い掛ける。しかし犬の足に人間が追い付くのは無理がある。すぐに路地裏に逃げたドロを龍馬達は見失ってしまう。
どうしたものかと迷っているとディレットがずいと前に出る。
「ディレット?」
「静かに………………こっちよ。ゆっくりね」
ディレットはエルフ特有の長い耳を澄ませ、さらによく目を凝らす。
彼女は森と共に生きてきた種族だ。自然の中で鍛えられた動体視力とそして狩りの獲物を探し、追跡する
雑多な音の中から僅かに聞こえるドラの足音、そして地面のアスファルトにうっすらと残された足跡や痕跡を追跡し、ドラの居所に近づいていく。
彼女の後を追って路地裏を行くと売地の看板が立てられた小さな空き地を発見した。そこにーーーー
「いた!ドロよ!」
「あのクソ犬!」
ドロは空き地の隅っこに穴を掘って先ほどの商店街のおっちゃんのものであろう靴を隠そうとしていた。だが龍馬達に気付いた瞬間、すぐにまた逃げ出してしまう。
「クソッ!」
「龍馬、ほっとけ。それよりあいつが隠したものを探そう」
勇斗はドロが掘っていた穴の周辺を捜索する。
ポーク(ランチョンミート)の缶詰めの空き缶やサンダルや靴……泥まみれのネックレスや誰のものかもわからない男物のパンツまで色々隠されていた。
そんなガラクタの中にーーーー発見した。
「あった!これじゃないか!?」
勇斗が取り出した小さな肩掛け用のバッグ。めぐみの言っていた特徴と一致する。おそらく間違いないだろう。
龍馬達はバッグを持って交番へと急ぐ。ついでにおっちゃんの靴も途中で返しておいた。
交番で泣きじゃくっていためぐみに龍馬はバッグを差し出した。
「ほら、これだろ?」
「……私のバッグ!どこにあったの!?」
「商店街の泥棒猫……いや、泥棒犬が隠し持ってたんだ」
めぐみはバッグの中を確認する。大切な母親へのプレゼントの安否を。
「……よかった……ちゃんと入ってる……ありがとう、お兄ちゃん!」
「礼ならこっちのエルフのお姉ちゃんにいいな。ドロ……犬を見つけてくれたのはこのお姉ちゃんなんだ。俺達だけじゃ見失ってた」
「そうなんだ……ありがとう、エルフのお姉ちゃん!これでママにプレゼントが渡せるよ!」
「どういたしまして。もうなくしちゃダメよ」
「うん!……あ、そうだ……お姉ちゃん、これ……」
めぐみはバッグから何やら見たことのないキーホルダーを取り出す。……ゴーヤのような"何か"が黄色いシルクハットに青いマントを付けたキャラクターだ。なんとも頼りなさそうな、不安そうな顔をしている。
「これ……私とママとおそろいにするつもりで買ったんだけど……お姉ちゃんにあげるね!」
「え……?いいの?」
「へーきへーき!実はね、ちょっとデザインが違うやつだけど自分用にもう一個買ってあるんだ!えへへ……ママに渡すのは特別なやつだからダメだけどね」
「……うん、わかった。じゃあお言葉に甘えて貰うね」
ディレットはめぐみからそのキャラクターのキーホルダーを受け取る。
……しかし見れば見るほどヘンテコなキャラクターだ。一体何のキャラクターなのだろうか?
めぐみは念のため、交番の警官が母親へ連絡して迎えに来てもらい、やってきためぐみの母親から龍馬達は何度もお礼を言われた後に娘を連れて帰宅したのであった。
また、警官も「地域住民のためにご協力いただき感謝します」と彼等に対して丁寧に礼を述べた。
交番を出た龍馬達。ディレットはめぐみからもらったキーホルダーをプラプラと揺らしながら眺めている。
「見たことないキャラクターだな」
「オキナワのマスコット……なのかな?」
「そんなの見たことないわよ」
「ゆるキャラ的なアレじゃねぇか?」
こんなゴーヤを模したキャラなど見たことがない。それに言っちゃ悪いが……あまり可愛くない。
しかし好意を無下にするのもアレだし、ディレットはそれをカバンにしまおうとする。
……と、その瞬間にディレット目掛けて凄い形相の若い女性が駆け寄ってくる。ゼエゼエと息を切らしながら女性はディレットに頭を深く下げてーーーー
「お、お願いします!!そのキーホルダー、譲ってください!!」
「え……ええ!?」
突然の女性からの申し出に困惑するディレット。
「し、失礼しました!自分は東京から来たのですが、あなたの持っているそのキーホルダー……それは昔、沖縄を舞台にしたドラマに出てきたキャラクターなんですが、今は生産が終わっててほとんどどこにも売ってないんです!それでそのキャラクターのキーホルダーを私の姉が欲しがってて……お願いです!タダとはいいません!それを譲っていただけませんか!?もし譲ってくれたらこのシーサーの置物を差し上げます!」
女性が取り出したのは黒光りする高級そうなシーサーの置物。口を開けているので雄か。
どうやらアンダーグラウンドな店で手に入れたものらしく、手持ちがあまりない彼女はこれを交換条件として差し出してきた。
いまにも泣きそうな顔で頼んでくる女性。これは断りにくい。
ディレットは仕方なくその交換に応じた。
「あ、ありがとうございます!これで姉の喜ぶ顔が見れます!やったー!!あ、これ約束の置物です。勢いで買ったけどすごい掘り出し物らしいですよ!」
「あ……ありがとうございます……」
女性は跳び跳ねて喜びながら大事そうにゴーヤのキャラクターのキーホルダーを抱えてディレットに礼を言って去っていく。
ディレットの手には少々大きめなシーサーの置物が残された。その場に放置するわけにもいかず、どうしたものかと悩みつつ置物を持って歩いていると、眼鏡をかけた初老の男性に声をかけられる。
年は60代前半、と言ったところか。スーツを着こなし、なかなか裕福そうな身なりをしている。
「そこのエルフのお嬢さん、ちょっといいかな……」
「は、はい?私ですか?」
「うむ。いきなりですまないが、君の持っているシーサー……少し見せてくれないかな?」
「え、あ……ど、どうぞ」
男性はありがとう、と言うとディレットのシーサーを受け取って全身を組まなく観察している。
しばらくしかめっ面で見つめた後に男性はカッと見開いて驚いた様子で答えた。
「こ、これは……やはり……!!君、このシーサーをどこで!?」
「え、さっき旅行者の方がなんかお店で買ったものを譲ってもらったんですけど……どうしたんですか?」
「君、これは沖縄の人間国宝と言われた
そんな彼が作ったシーサーは昔、元の持ち主が盗難にあったそうでそれから数十年行方不明だったのをこの男性がようやく片方を探しだしたのだとか。
「君!これを譲ってはくれないか!タダとは言わん!今は持ち合わせがないのだが……そうだ!これと交換してくれないか!?」
男性は身に付けていた高級そうな腕時計を差し出す。どうやら100万円以上はする超高級時計のようだが、男性によればそれの10倍払っても惜しくはないほど探し求めたシーサーなのだそうだ。
男性の気迫に圧され、ディレットはシーサーと腕時計を交換する。
「ありがとう!ありがとう!ようやくこれで長年の夢が叶ったよ!本当にありがとう、エルフのお嬢さん!」
男性は涙まで流しながら何度もお礼を言う。よほど長い間これを追い求めていたのだろう。
まあ、ディレット達もシーサーに執着しているわけではないし、高級な腕時計を貰えるならその方がいいだろう。win-winの関係というやつだ。
男性と別れた後、金品が手に入ったことで龍馬と勇斗はウキウキしている。しかし悪いことをしたわけでもないのに千春の冷たい視線が痛い。
しかし、この一連の物々交換が後に大きな騒ぎを引き起こすことになるとは夢にも思わなかった龍馬達であった。