龍馬達修学旅行の生徒達がバスに乗ってやってきた場所は沖縄本島最北端の地・
本日はここで沖縄の美しい自然を楽しんだ後にナゴパイナップルパークへと向かうことになっている。
「うわあ、すごい眺め!」
「ここが沖縄本島最北端の場所なんだな」
龍馬のディレットの二人は思わずスマホを構えて写真を撮る。
雄大な沖縄の美しい海。南国ならではの美しい海だ。
龍馬達はヤンバルクイナ展望台からの眺めを写真に撮ってから移動しようとスマホを構える。
フォーカスを併せようと海の方にスマホを向けた龍馬。そんな彼のスマホの画面に"異質"な存在が映り込み、龍馬はスマホを下ろして海岸を見る。
「……!?」
誰もいない海岸に赤い髪色をした少女が佇んでいる。龍馬はその少女にどこか不思議な感覚を覚えた。
ハイビスカスの花のように赤く美しいその長い髪は遠くからでも目を引く。龍馬は目を擦り、今度は目を凝らしてよく見ようとした。
「あれ……?」
龍馬が再び海岸に目を向けると少女はいなくなっていた。まるでそこに存在していなかったかのように。
その周囲にも目を向けて見るが、どこにも人影はない。まだ頭が目覚めていないのかと自分の感覚を疑う龍馬。
「……まだ寝ぼけてんのかな」
念のためもう一度目を擦ってさっきと同じ場所を見てみるが、やはり先ほどの少女はどこにも見えない。
結局夢か幻なのかわからないまま、龍馬は友人達と共に展望台を降りた。
バスに乗ってナゴパイナップルパークへ向かう龍馬だったが、ずっと頭がぼんやりしていて何だか変だ。身体がフワフワしているような感覚に時たま陥ってしまう。
昨日何らかの夢を見たとはいえ、何かがおかしい。担任教師に体調不良を訴えた龍馬はパークの見学途中でバスに戻って休むことにした。
フラフラする龍馬を見かねてか、ディレットがわざわざ付き添いで一緒にやってきてくれた。彼女もこのパークの見学を楽しみにしてただろうに……非常に申し訳ない。
「リョーマ、大丈夫?」
「ああ……なんとか……」
バスに戻ると龍馬はディレットと共に適当な座席に座る。待機していた運転手の男性が「大丈夫かい?」と言いながら飴と水を持ってきてくれたのでありがたく頂く。
熱中症……というわけでもなさそうだ。だが龍馬の顔色はどんどん悪くなる一方である。
ディレットが呼ぶ声が聞こえるが意識がだんだん薄れていく。
そして龍馬は……完全に気を失ってしまった。
何か柔らかいサラサラしたものの感触で目を覚ました龍馬。うつ伏せに倒れていた自分の前にあったのは……砂だ。
美しい黄金の砂。辺りに響き渡るさざなみの音。龍馬は服に付着した砂を払い、立ち上がった。
「ここは……」
さっきまで寝ていたバスではない。辺りは見覚えのない砂浜だ。ディレットの姿も見当たらない。龍馬は自分が夢を見ているとしか思えなかったが、響く波の音やそよぐ風の心地よさ、何より太陽の日差しの暑さが夢にしてはリアルすぎる。
「気が付いた?」
後ろから響く声に反応して龍馬は後ろを振り向く。
ーーーーそこには赤い髪に緑色のワンピースを着た少女が佇んでいた。
「君は……」
「私?私は
「俺は……龍馬。斎藤……龍馬だ」
「龍馬?ふうん……あなた"ナイチャー"の人?」
「な……ないちゃー?」
「ああ、ゴメンゴメン。"ナイチャー"は"内地"、つまり日本本土から来た人ってこと。日本のどこから来たの?」
「俺は福岡から来た。修学旅行でな」
「フク……オカ……?シューガク……リョコー?何それ?」
アヤは首を傾げた。地名を知らないのはまだしも"修学旅行"という単語が通じないことなどあるのだろうか。彼女の様子を見る限り、ふざけているようには見えない。
そもそもここはどこなのだろうか。沖縄には間違いないようだが。
龍馬はスマホを取り出して時刻と現在地を確認しようとする。しかし……
「……ない!?」
スマホがない。確かに胸のポケットに入れたはず。それどころか財布も見当たらない。
着ている服以外には一切の持ち物が見当たらないのだ。
「どうしたの?」
「俺のスマホがない……!財布も……!」
「すまほ……?何それ?」
「はぁ?今の時代にスマホを知らないって…………いや、ちょっと待て。アヤ、まずここはどこだ?そして"今は何年何月何日だ?"」
アヤの反応を見るに何だか色々と違和感を覚えてきた。そもそも持ち物が全て無くなっているのがおかしいし、なぜパークのバスにいた自分がこんなところにいるのか。夢や夢遊病にしてはあまりにも不可解だ。
「え?今はえっと……1964年の8月3日だよ?それでここは辺戸岬近くの
「……ウソだろ……マジかよ……」
1964年といえば……昭和39年だ。龍馬がいた2016年より50年以上前の時代。まだ父と母すら生まれていない。アメリカとソ連が冷戦の真っ只中にある時代である。
なぜ自分がそんな過去の時代にいるのか、龍馬には見当も付かない。悪い夢なら覚めてほしい。
「異世界どころかまさか過去の世界にまで来ちまうとはな……」
現実でも異世界でも、最近は行く先々で面倒なことに巻き込まれている。加えて今度は過去の世界ときた。せっかくの修学旅行なのだからもう少しゆっくりさせてほしいと願う龍馬だが、やはりそうもいかないようだ。
「ねえ、龍馬。私暇なんだ。一緒に遊ぼ」
「えぇ?こちとらそれどころじゃ……うっ」
アヤの目がうるうるとして輝きながら龍馬の胸に突き刺さるような何かを訴えてくる。まるで大量の星が無数に自分の心臓に刺さっているようだ。これは断りづらい。どうしたものか。
しかしよく考えてみたら元の時代に帰る方法がわからない以上、一人でジタバタしても仕方がないのだ。龍馬はため息をつくと、アヤの誘いを了承した。
「……わかったよ」
「やったぁ!じゃあ、行こう!」
アヤは跳び跳ねて喜ぶと、龍馬の手を引っ張ってどこかへ連れていこうとするので龍馬も仕方なく手を引っ張られながらついていく。
アヤの手はとても柔らかく、こんな日差しの強い沖縄だというのに日焼けひとつしていない。龍馬はそんなアヤの素肌の感触に少し赤面しながら彼女の"遊び場"に向かうのだった。
「ゼエ……ゼエ……」
龍馬はすっかり息が上がってしまっていた。あの後彼女の遊びに付き合わされていたためだ。
この時代にはスマホもパソコンもない。加えてこんな田舎ならば皆自然の中で遊んで育つのが普通のことなのだ。
そんな場所で鬼ごっこやかくれんぼといった昔ながらの遊びをするのだから、都会に慣れた龍馬にはなかなかキツいものがあった。
今はアヤが「連れていきたい場所がある」と言うので半ばジャングルのような沖縄の山道を歩いている最中である。
息が上がっている龍馬に対してアヤは表情一つ崩してはいない。これが自然と共に育った人間と都会っ子の差なのか。
「龍馬!早く、こっちこっち!」
「ま、待てよ……もう少しゆっくり……」
「んもう……だらしないなあ……」
アヤはすっかり息の上がった龍馬に呆れつつ、彼の手を再び取る。
「さ、もうちょっとだから。頑張ろ?」
「あ、ああ……」
ニコリと笑うアヤの笑顔に龍馬はまたしても心臓の高鳴りを感じ、赤面してしまう。
それにしてもアヤはエメラルドグリーンのワンピースにサンダルという出で立ちにも関わらず、この大自然の中を悠々と歩いている。流石は昔の時代の人間だ。
ただ、それにしては赤い髪というこの時代に似つかわしくない特徴があるのも些か疑問だが……まあいいだろう。独自の文化が現代に至るまで色濃く残る沖縄という場所だし龍馬はあまり深くは考えないようにした。
そしてしばらく山道を歩き続けるとーーーー龍馬は思わず息を飲む光景を目の当たりにした。
「おお……」
「ここだよ。ここを見せたかったんだ」
目の前に広がるのは無数の太い枝が伸びた巨大なガジュマルの木だった。大小様々な太さの幹が一番太い幹に絡みついたようなその形状は普通の巨木とは全く違う外観である。
ガジュマルは沖縄において"精霊の宿る木"として古くから崇められてきた神聖な木なのだ。それにここまで巨大ならば息を飲むのも頷ける。
ガジュマルの枝の葉の隙間から差し込む木漏れ日も相まってこの場所はとても神聖な雰囲気に満ち溢れていた。
「沖縄に来てから何回かはガジュマルを見たけどこんなにでかいガジュマルを見たのは初めてだ。すごいな」
「でしょ?私のお気に入りの場所なんだ」
そう言ってアヤはガジュマルに近づくと幹に手を伸ばす。
その後ろ姿はどこか儚げで、今にも消えてしまいそうなーーーー
「……?」
龍馬は不可思議な感覚に襲われた。どこか既視感に似たものを感じる彼女の後ろ姿。だがその既視感のようなものの感情の正体がモヤモヤしてよく分からない。
「ね……龍馬はさ、"精霊"って信じる?」
「……どうしたんだよ、突然」
「沖縄ではさ、ガジュマルの木には精霊が住んでるって昔から言い伝えがあるんだ。龍馬はどう思う?」
「どうって……」
どうもなにも、龍馬は精霊達の上位の存在である"聖霊"を見たことがある。
無論、あれは異世界での話だがこちらの世界にも"もしかしたら"というものもあるかもしれない。龍馬は首を縦に振る。
「信じるよ。ってか、俺は精霊よりもさらに格上の存在に会ったことあるしな」
「え!?どういうこと!?ね、ね、詳しく聞かせてよ!」
アヤがものすごい勢いで食い付いてくるので龍馬は彼女とともにガジュマルの根元に腰を下ろす。
龍馬は自分が2016年の時代から来たこと、その時代は異世界と繋がる大事件が起きたこと。
そして龍馬自身が異世界で体験したことをアヤに話した。
アヤは龍馬の話をずっと食い入るように聞いていた。しかし彼女は時折寂しそうな、申し訳なさそうな表情を見せた。龍馬はアヤのそんな表情の変化に気付いていたが、気付かないフリをしてそのまま話した。
「俺……元の時代に帰れるのかな」
「……大丈夫、きっと帰れるよ。安心して、龍馬」
「……なんかアヤがそう言うと安心するんだよな」
二人は笑い合う。しかしやはりアヤの表情はどこか寂しげだった。龍馬は気付いていないフリを続けたが、どうも彼女の態度が気になる。
そんな時、一人の少女がガジュマルのもとへやってきた。地元の人間だろうか、彼女の姿を見つけるとアヤは近寄る。
「フミ!」
「アヤ!元気にしてた?」
アヤがフミと呼んだその少女は名前を知っているあたり、どうやら顔見知りのようだ。
しばらく話し込んだ後に龍馬の姿に気付いたフミはアヤに彼のことを尋ねる。
「アヤ、そこの男の子は誰?」
「彼は龍馬っていうんだ。私の友達」
「"友達"?ええと……龍馬君?あなた……」
「?」
フミは少し口ごもったが、意を決したように彼に言う。
「あなた……"アヤの姿が見えるの?"」
「……は?何言ってんだ、あんた?」
「あなた……年は?」
「……17だけど?」
「……有り得ないわ。だってアヤは……」
不可解な発言を繰り返すフミと状況が飲み込めない龍馬。そして寂しげな顔をするアヤ。
フミが話の核心を口走ろうとした時、山全体から動物達の鳴き声が響き渡る。
動物の声は常に聞こえていたが、明らかに様子がおかしい。まるで何かに怯えているような……危険を知らせているようなそんな慌ただしい大きな鳴き声だ。
「……フミ!急いで逃げて!」
「え!?どういうこと!?」
「いいから!!早く!!」
アヤは珍しく険しい表情で慌ただしくフミを避難させる。フミもアヤのただ事ではない雰囲気を感じ取り、すぐに山を降りた。
「龍馬!あなたも早く!」
「待てよ!一体何だってんだよ!」
「"マジムン"よ!!ヤツが現れたの!!」
「"マジムン"……って何だよ!?」
「説明はあと!いいから早くあなたも逃げて!」
ーーーーしかし、遅かった。ただならぬ殺気が近づくのが分かり、ズシン、ズシンと何か巨大なものの足音が近付くのがわかる。
足音の方角から鳥達が一斉に空へと逃げ、龍馬はその方向を睨む。
次の瞬間に木々の奥から現れたのはーーーー
「!?な、なんだあいつは!?」
アヤが"マジムン"と呼ぶ、二本足で歩く巨大な牛の化け物がそこにはいた。目は血のように真っ赤で口からは涎を垂らし、木々をもなぎ倒す太い腕を振り回しながらこちらに迫ってくる。
マジムンは沖縄に伝わる人間に害をなす悪霊、或いは妖怪であり、牛や豚、赤子や
「マジムンに股下を潜られると死ぬ」ーーーーそんな伝承もあった。
「龍馬、逃げて!アイツは恐ろしい妖怪よ!私が時間を稼ぐからその間に……!!」
「いいや、それは出来ねえ相談だ」
龍馬はアヤの前に立ち、牛のマジムンを見上げて睨み付けながら言った。
女を盾に逃げるなどそんなものは彼のプライドと信念が許さない。こちとら悪魔とだって戦ったのだ。何より人に害をなす存在ならばーーーー
"ブチのめす"、それだけだ。
「何言ってるの!?ただの人間が相手に出来る存在じゃないわ!早く逃げて!」
「うるせぇ!!女に守られて自分だけ逃げるなんざ出来っかよ!!」
龍馬は拳を構え、念じる。
果たして"アレ"がこの過去の世界にも来てくれるかどうかの保証はない。はっきり言って一か八かの賭けだ。
「(頼む……応えてくれ……ルナ・アーム!!)」
すると龍馬の手足が光に包まれる。そして光が消えるころにはーーーー数々の戦いを共にした神の武器ーーーー"ルナ・アーム"の姿がそこにはあった。
龍馬は「よし」と一言呟くとルナ・アームを装着した状態で再び構える。そんな龍馬の武器を見て驚くアヤ。
「りょ、龍馬……!それは……まさかさっき言ってた……!」
「ああ、女神サマからもらった"ルナ・アーム"。俺の相棒さ。さて……」
龍馬は再びマジムンを睨み上げる。
マジムンも龍馬を見据えて唸ると、天高く咆哮を上げた。
"牛"と"龍"はお互いを睨み、ジリジリと迫る。先に仕掛けたのはマジムンの方だ。雄叫びを上げながら龍馬に向かって拳を振り下ろす。龍馬は地を穿つその拳を避けてすかさずマジムンの横っ面に跳躍からの右フックを打ち込んだ。
「この……クソ牛頭ヤローが!!」
「グオオオォォォォ!!」
ルナ・アームを装着した龍馬の拳から繰り出される強力な一撃。規格外のパワーと体躯を誇るマジムンもこれにはたまらず顔を押さえて仰け反った。
続けて龍馬は追撃し、マジムンの鳩尾に飛び込んで拳の一撃を加える。今度は腹を押さえて苦しむマジムン。
「もらった!!」
片膝をついて腹を押さえるマジムンの脳天に特大の"ゲンコツ"をくれてやろうと再び跳躍し、拳を振り上げる。
しかし、一瞬の油断がーーーー龍馬を窮地に陥らせる。
「ゴアァァァァァッ!!」
「なっ!?」
マジムンはいきなり立ち上がるとその豪腕を振り回した。
空中で回避の取れない龍馬は咄嗟に防御するがマジムンの巨木のような太い腕の前では焼け石に水といえるほど効果は薄い。龍馬はマジムンの腕に吹き飛ばされるとガジュマルの木に叩き付けられた。
「ぐはっ!!」
「龍馬ぁ!!」
そのまま地面に落下し、うつ伏せになる形で倒れ込む龍馬。
幸い骨を折ってはいないようだが、全身を著しい痛みが襲い、身体が動かない。龍馬を振り払ったとみるやマジムンはその矛先をアヤに向けた。
ズシン、ズシンと足音を立ててゆっくりとアヤに近づく。
「や……やめろ……!アヤに……手を……出すな……!!」
痛む身体に鞭を打つものの、なかなか身体は言うことを聞こうとしない。それでも龍馬は何とか右手を動かしてマジムンに向け、念じる。
「バレン……!!あいつを焼き尽くせ!!」
龍馬のルナ・アームがバレンの獄炎に包まれる。それと同時に腕から放たれる火炎弾が連続で飛び出し、マジムンの顔と身体を攻撃した。次々と直撃する火炎弾に怯むマジムンだが今の攻撃で文字通り、完全に火がついたようで龍馬の方へ怒りの形相で迫ってくる。
だが龍馬もやられっぱなしではない。徐々に身体の感覚が元に戻ってきた。まだ身体は痛むが、いける。立ち上がれる。彼は拳を支えにして立ち上がり、再び拳を構えた。
「来やがれ、バケモンが!!」
「グオォアアァァァァッッッ!!!!」
龍馬はマジムンに向かって素早く走った。振り下ろされる拳。だが龍馬はその拳よりも内側ーーーーマジムンの懐に飛び込むとそのままスライディングで股の下を潜る。
人の股下を潜って命を奪うマジムンが股を潜られるという皮肉めいた出来事だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。龍馬はマジムンの背後から再び跳躍すると背中に飛び付き、頭部へとよじ登る。
「ゴアァッ!?」
「このっ……!大人しくしやがれ……!!」
しがみついた龍馬を引き剥がそうと暴れるマジムンだが、龍馬はマジムンの頭部から決して離れようとしない。そして龍馬はマジムンの角を掴むと両腕に渾身の力を込めた。
「うぅぅおりゃあぁぁぁぁぁッッッ!!!!」
龍馬が叫ぶと同時にマジムンの角が根元の肉ごと頭部から引き剥がされる。あまりの激痛にのたうち回るマジムン。さらに龍馬が火炎弾による容赦のない追撃を加えると引火した炎によってマジムンはさらに苦しんだ。
ーーーー絶好のチャンスだ。ヤツを倒すなら今しかない。龍馬は地面に投げ捨てたマジムンの頑丈な角を拾い上げた。
そのままマジムンに突進すると、ヤツの心臓を目掛けてーーーー角を突き刺した。
「くたばれ、バケモンがぁ!!!!」
「ギャアアアアァァァァッッッ!!!!」
とんでもない量の血が吹き出し、マジムンは龍馬を弾き飛ばして滅茶苦茶に暴れだす。
しかし声も動きも徐々に弱々しくなっている。
そして遂にーーーーマジムンは心臓を自身の角で貫かれて仰向けのまま動かなくなり……跡形もなく消滅した。
「龍馬!……龍馬!」
「あぁ……痛ってぇ……ちくしょう……ったく、リアルな夢だぜ、まったくよぉ……」
弾き飛ばされ、倒れた龍馬にアヤが駆け寄る。そして彼女は龍馬を抱え起こすと彼を抱き締めた。
「お、おい……アヤ……」
「龍馬のバカ!無茶ばっかりして……!龍馬が死んだらどうしようかと思ったよ……!」
アヤはそのままずっと龍馬を抱き締め続ける。そんな彼女の温もりを感じつつ龍馬はこの場にディレットがいなくて良かったと心底感じた。こんな現場を見られればあの鬼からどんな制裁を喰らうかわかったものではない。
過去に飛ばされるわ、山の中で鬼ごっこやらかくれんぼに付き合わされるわ、マジムンとかいう妖怪と戦う羽目になるわ、身体中は痛いわで全くロクなことがない。
だがーーーー悪い気はしない。
龍馬は身体の痛みをよそにもうしばらくアヤの温もりに甘えていたいと思うのであった。
●龍馬vsマジムン戦イメージBGM……
『赤カブト退治』
(『大神』より)