アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第90話 デッドヒート・モトクロッサー!(前編)

沖縄修学旅行を終えてからの龍馬達はバタバタとした高校生活を迎えることになる。

修学旅行の次に控えている学校行事は文化祭。10月の間にこんな一大イベントが二つもあるのだから福岡中央高校の二年生は特に忙しいのだ。

それは修学旅行合同参加を迎えた異界人特別学級クラスも同じで、しかも彼等彼女等にとってはこれが初の文化祭なのだから右も左もわからない。

不安に駆られるディレットやアメリア達異界人クラスだったが、幸いにも今年は速水校長の配慮で異界人単体の出し物はないとのこと。

その代わり龍馬達通常の学級の出し物への自由参加が認められており、もし参加したいのであればクラスに混じって参加することができる。

この日、龍馬達のクラスでは出し物を決める会議が行われていた。実行委員の須崎が壇上に立ち、"文化祭の出し物"と黒板に書いて意見を聞いている。

 

「はい、じゃあ何か意見がある人は?」

 

こういう時は大体意見が集まらず、ダラダラしたやる気のないクラスに実行委員が腹を立てる光景がどの学校でも見られるものだが、意外にも男女から様々な意見が集まっている。

 

「はいはい!俺焼きそば屋!」

 

「私は劇で"ロミオとジュリエット"やりたい!」

 

「ここはお化け屋敷でしょ!」

 

ワイワイと様々な意見が集う。ここまで文化祭が盛り上がるのはある理由がある。

実は福岡中央高校はテレビで取り上げられるほどの盛大なイベントを執り行う高校として有名で、ステージイベントでは有名なアーティストやパフォーマーを呼んでまで会場を盛り上げるのだ。

元々どこにでもあるような文化祭を行っていた学校に活気を呼び起こすため、速水校長は就任時にそれまでの旧体制を廃止、『生徒も教師も校外参加者も全力で楽しむ』をモットーに自分の趣味と人脈やコネを駆使してそれまでにない文化祭を演出したことで生徒の人気を博した。そのため、生徒達も出し物に対して積極的なのである。

龍馬と勇斗も出し物を考えていたが、言おうとしたものを片っ端から言われてしまったためにアイデアが追い付かなくなってしまう。

 

「斎藤、城島。言ってないのあんた達だけよ」

 

「え?」

 

「マジかよ……もうアイデア言われちゃって出てこねえよ……」

 

飲食店や劇の演目などほとんどはもう黒板に書かれてしまっている。これ以上の案はもう出てこない。

 

「はあ……全く仕方ないわね……まあ、いいわ。結構案もまとまったし、もしあるなら明日までに何か考えてきてね。いい?明日は出し物の絞り込み行うからね」

 

「「ういーす」」

 

龍馬と勇斗は低い声で返事をした。丁度終了のチャイムが鳴り響き、担任が立ち上がってHRの準備をする。

放課後、龍馬は何か案はないかとブツブツ呟きつつバイト先への道をブラブラ歩いた。

大体の案は出されてしまっている。もう別に出さなくてもいいのかもしれないが後で千春に嫌味を言われるのも癪だし、何かしら案のひとつは言っておいた方がいいのも事実なのだが。

 

「うーん……」

 

やはり大概の意見が出てしまった以上、何も思い付かない。ディレットも勇斗も自分もバイトで隣に話し掛けられるような人間はおらず、龍馬は仕方なくバイト先へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつものバイト先の酒屋の仕事を終えると、龍馬は店長やパートのおばちゃん達に挨拶をして店を出た。ディレットも丁度バイトが終わったようで家に向かっているそうな。

そんな時、龍馬のスマホに着信が入る。画面には"陛下"の文字が映る。この名前はもちろん……ソフォス皇帝だ。

 

「もしもし、龍馬です。陛下ですか?」

 

「"おお、リョーマ君。今大丈夫かの?"」

 

「はい、どうしました?」

 

「"実は今度のフェスについて少し相談があっての。実はじゃな……"」

 

ソフォスが言うにはあのフェスは異界だけでなく日本でも反響を呼んだようで、日本の様々な企業がソフォス達に「是非ともフェスに協力させてほしい」とこぞって言ってきたのでソフォス達はその対応に追われててんてこ舞いだそうだ。

 

「"それでの……リョーマ君達もまた招待したいと考えておる。どうじゃ?"」

 

「それはありがたいですけど……でもそこまで大事になっているなんて……凄いですね……」

 

「"そうなんじゃよ。なのでリョーマ君は今回は純粋にフェスを楽しんでほしい。以前お世話になったシマブクロ殿やリンさん達にも既に依頼は出してあるからの。ただ……"」

 

「……ただ?」

 

「"実はのう……ひとつだけお願いしたいことがあるんじゃ"」

 

何やら申し訳なさそうなソフォスの声が向こうから聞こえてくる。また無理難題を押し付けられてはたまったものではない。こちとら今は文化祭の準備で忙しいのだ。招待してもらえるのはありがたいがフェスの準備に文化祭の時間を取られたくはない。

 

「うーん……俺も今文化祭の準備で忙しいからあんまり手間は割けませんよ?それで良ければ出来る範囲でお手伝いします」

 

「"おお、そうか!それはありがたい!いや、実はのう……ベルスティード侯爵家を覚えておるか?"」

 

「まあ……シルヴィアさんとは結構話したし、クリストファーのおっさんとも殴り合いの喧嘩までしましたしね」

 

異世界フェスにてシルヴィアの夜間外出を巡って父親のクリストファー・ベルスティードと拳で語る話し合いをした記憶が龍馬の脳裏に蘇る。今思えば貴族と殴り合いの喧嘩などよくやったものだ。一歩間違えば大事になっていたかもしれない。

 

「"そのベルスティード家が君のことを他の領地の貴族に話したらしくての。その中で……その……ちょっと変わり者の貴族が君に大層興味を抱いたらしく、是非とも君を自分の城に招待したいと言って聞かんのだ……。頼む、リョーマ君。その貴族と一度会ってやってはくれまいか?"」

 

「えぇ……」

 

また面倒くさいことになる予感しかしない。ベルスティード家でさえ龍馬からしてみればクセ者なのだ。変わり者の貴族などいかにも面倒くさそうな人間と会うなど出来ればごめん被りたい。

しかしソフォスもだいぶ困っているようだ。無下に断るのも少々気が引ける。

 

「"頼む、リョーマ君。礼はする。(わし)も出来ることは協力するので会ってやってほしい"」

 

「協力ったって……あっ」

 

龍馬はそこで思い付いた。そうだ。こんな素晴らしい人脈があったのだ。これは利用しない手はない。

 

「陛下、物は相談なんですが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。再び訪れた文化祭会議の時間で千春が決定した出し物を発表する。

1クラスにつき最大二つの出し物が出せる。龍馬のクラスはたこ焼き屋と、演劇の演目として"ロミオとジュリエット"を演じることになった。龍馬と勇斗は照明係だ。

そして……"ある協力者"によって未だかつてない催しが開かれようとしていたことにクラスの皆は気付いていない。千春には詳細を伝達済みだ。

 

「えー、これは正確に言えば私達クラスの出し物ではありませんが……なんとステージ演目に異世界・アルカ帝国のオールデン騎士団の方々がゲストとして来てくださることになりました。そこで彼等は現職の騎士として演武を披露してくれるようです」

 

その言葉に教室全体がどよめいた。龍馬はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

「帝国の騎士!?」

 

「マジかよ!?何でうちの学校に!?」

 

「あの騎士の人達に会えるの!?楽しみ!」

 

「やべー!超テンション上がってきたー!」

 

実は昨日の電話で龍馬は文化祭を盛り上げるためにゲストとしてアルバート達オールデン騎士団を文化祭に招けないかと考えていたのだ。

ソフォスを通じて相談してみるとアルバート達も多忙な中OKしてくれた。しかもアルバートとレイラだけでなく、なんとアルフォンスも来てくれるというのだから驚きだ。これはありがたい。既に担任や速水校長に話はつけてある。彼等を迎える準備は出来ている。

 

 

 

 

 

そして学校全体でクラスの出し物が決まった頃、校内放送で速水校長の声が響き渡った。

 

 

 

 

 

「"全校生徒にお知らせします。今年も文化祭の季節がやってきました。そこで……今回も恒例の『福岡中央高校オフロードレース』を開催します!自動二輪免許持ちで、オフロードバイクを愛するライダー達!我こそは、と思う者は早めに参加表明をするように!君達の熱い走りを今年も期待しているぞ!" 」

 

 

 

 

 

 

 

 

今年もやってきた。この福岡中央高校いち熱いイベントが。

福岡中央高校オフロードレース。自動二輪免許取得を許可しているこの学校ならではの一大イベント。

無駄に広いこの学校のグラウンドが、この日だけは巨大なオフロードレースのサーキットと化すのだ。

プロのレーサーのサーキットに比べればそれはまだ易しいコースだがそれでもなかなか本格的なサーキットで繰り広げられるオフロードライダーの生徒によるデッドヒートは白熱のイベントである。

無論、レースである以上は怪我人が出る可能性もある危険な競技であるために一部の保護者からは反発の声もあるが、生徒達からのあまりの人気ぶりと余興として速水校長の人脈によるプロのモトクロスライダーやスタントマンによる華麗なジャンプスタントの催しもあり、生徒だけではなくこれを目当てにやってくる校外からの参加者もこのイベントを楽しみにしている。

さらにこのオフロードレースにはエナジードリンクの製造メーカーまでスポンサーとしてやってくる始末であり、もはや学校行事の枠を越えた盛大なイベントのため一部の反発者はその熱意に負けて黙らざるを得ないのだ。

龍馬達が一年生の頃も上級生達が白熱のデッドヒートを繰り広げ、会場を熱狂の渦に包んだことは強く記憶に残っている。

 

 

 

 

 

 

そして……そんな一大イベントを聞いて"彼女"が黙っているはずはなかった。

 

 

 

 

 

 

「リョーマ!私、オフロードレースに出るよ!」

 

「やっぱりな」

 

ディレットは目を輝かせてそう報告してきた。どうやら既に参加表明を済ませたらしく、もうその瞳には熱い炎が灯っている。何だか彼女自身からエンジン音が聞こえてきそうな勢いだ。

そんな最中にゴリラ……もとい、勇斗もやってきて驚きの一言を発する。

 

「龍馬、今年は俺も参加するぜい」

 

「マジかよ」

 

なんと勇斗まで参加すると言い始めたのだ。ずっとアメリカン一筋だった奴が以前の異界旅行でオフロードに乗ったから何か自分でもイケると自惚れ……いや、影響を受けたのだろうか。

 

「ねえねえ、リョーマも参加しようよ!私、負けないよ!」

 

「いやいやいや、待てよ。俺あんなん無理だって」

 

「……はは~ん、さては私のライディングテクニックに恐れをなして逃げる気だね?」

 

「"博多の怒龍"もレースは怖いんですねぇ」

 

ディレットと勇斗のその言葉に龍馬はカチンときた。安っぽい挑発だ。だが、いいだろう。そんなに勝負したいのなら、その安い挑発……乗ってやろうではないか。

 

「……いいぜ、わかったよ。やってやるよ!その代わりお前ら負けて吠え面かくなよ!?」

 

「望むところだよ、リョーマ!」

 

「軽くぶっちぎってやるぜ!」

 

こうして三人のオフロードレース参加が決定した。

参加者はまず参加表明後に速水校長が用意したカタログからマシンを選ぶことになる。

オフロードレースで使用される競技用のオフロードバイク"モトクロッサー"は公道仕様のオフロードバイクとは違う作りであり、ミラーやヘッドライト、ウインカーなどの保安部品は一切取り付けられておらず、タイヤもオフロードサーキット走行用の摩擦が少なく凹凸が激しいタイヤになっている。

そもそもレースというのは金がかかるものだ。生徒ではそんな大金を積んでモトクロッサーを用意するのは無理だし、かと言って自前のオフロードバイクでは逆に危険すぎる。万が一壊れてしまえば泣きを見るのは生徒だ。

そのため速水校長は生徒が希望したモトクロッサーを参加人数分、どこからか毎年調達してくるのだ。……あの校長、一体何者なのだろう。

 

「ディレットは何にしたんだ?」

 

「カワサキのKX250Fだよ!ほんとは自分と同じ車種が良かったんだけど、カタログになかったんだ……だから一番見た目が近いこれにしたの」

 

やはりディレットはカワサキできたようだ。KX250Fは250ccクラスのカワサキのオフロードバイクとして今なおカワサキのモトクロスレーシングチームに使われている名車である。

 

「ゴ……勇斗は?」

 

「お前今素でゴリラって言おうとしただろ……まあいいや。俺はホンダのCRF250Rだよ」

 

なんと勇斗はホンダ車種での参加を表明したのだ。とにもかくにもバイクと言ったらヤマハという考えを持つ勇斗がホンダとは。

 

「CRF?ヤマハ一辺倒のお前がホンダなんて珍しいな?」

 

「俺もディレットと同じでセローがなかったんだよ……一応ヤマハにもYZ250Fっていうやつがあったけど……なんか見た目がしっくり来ないんだよな」

 

これは完全に勇斗の好みであろう。カラーのせいもあるかもしれない。

 

「あと……こういう機会なかなかないし、他のメーカーのバイクに乗ってみるのもいいかなって思ってさ」

 

「ふうん、なるほどね」

 

「リョーマ、そうと決まれば早速申請に行こうよ!職員室前にある長机で登録できるからさ!」

 

「あいあい」

 

龍馬とディレットは勇斗と別れ、職員室前の廊下に行く。ここに申請書類を入れるボックスと書類、選べるマシンのラインナップが記載されたカタログが置いてある。

龍馬はまず申請書類に名前と性別と学年、それからクラスを書き込み、次にカタログを開いてマシン一覧を見てみる。

……プロのモトクロスライダーも使っている本格的なマシンばかりだ。自宅に置いてある超高級ヴィンテージバイクといい、あの校長はどこにこんな財力を持っているのか不思議で仕方がない。

マシンはホンダ・ヤマハ・カワサキ・スズキの国内メーカーの他に海外メーカーであるオーストリアのKTMからも選択出来るようだ。排気量は250ccが中心のようだが、125ccなどの小型二輪のモデルもある。

もちろん龍馬は真っ先にカワサキのページを開いた。

 

「俺もお前と同じマシンで参加するぜ」

 

「おっ!いいチョイスだねリョーマ!負けないよー!」

 

龍馬は"希望車種"の欄にディレットと同じ、KX250Fと記載した。これで記入は完了だ。

後は職員室で免許証のコピーを取ってもらい、これを申請書類にホッチキスで挟んでボックスに投函すれば受付は完了だ。あとはレースを待つのみとなる。

 

「よし」

 

「文化祭もレースも楽しみだね!」

 

ディレットは跳び跳ねながらまるでクリスマスプレゼントを待ちわびる幼い子供か何かのようにはしゃぎながら胸を躍らせている。

 

 

 

 

文化祭本番は一週間後。福岡中央高校の最も熱いイベントが今年もやってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰宅した龍馬とディレットは家族にレースに出ることを伝える。

涼子は「すごいやないね!あたしらも行くけん頑張りぃ!」とエールを送り、龍一郎は「俺も学生だったらなぁ」と血が疼いて仕方ないようだ。

無理もない。龍一郎は若い頃にトライアルレースとモトクロスを経験しているからだ。出れるのならば自分が出たいはずだと龍馬は父のそんな胸の内を察した。

 

「ブンカサイ……ってお祭りなの?」

 

「え!お祭り!行きたい行きたい!」

 

文化祭の内容に興味津々のルビィとルミナ。本当に彼女達はお祭り好きだと龍馬はおかしくなってちょっと笑ってしまった。

 

「ああ、学校のな。美味しいものもいっぱいあるし、色んな劇や歌も見聞き出来るぞ。ルビィとルミナも絶対来いよ!」

 

「わーい!やったー!」

 

「お祭り、お祭りー!」

 

その場でグルグル回りながら無邪気にはしゃぐ二人の様に笑みがこぼれる斎藤家。そこに今度は別の声が響き渡る。

 

「ちょっと!私を忘れてない!?」

 

「悪い、素で忘れてた」

 

「んもぅ……」

 

小さな鉢植えの隣で頬を膨らませているのはキジムナーのアヤだ。そうだ、すっかり忘れていた。彼女も連れていきたいが、流石にあの外見では……。

 

「リョーマ、今さら何言ってるの?ピクシーの一種だとでも言っとけば大丈夫でしょ?」

 

「……それもそーでした」

 

これだけ異界人が増えた世の中で今さらアヤのような存在が人前に出たところで何だというのだろうか。恐らく誰も気にしないし、聞いてきたところでディレットの言うとおり、ピクシーみたいな種族だとでも言っておけば簡単に誤魔化せるだろう。あのブラッドやラグーンだって馴染んでいるのだから大丈夫なはずだ。……多分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、アルカ帝国の城ではアルバート達が龍馬の文化祭へのゲスト出演のために旅支度を始めていた。

 

「団長。ただでさえ忙しいのによくニホン行きを決めたな?」

 

荷造りを終えたレイラがそう言った。現在の帝国はフェスの開催に向けて町中が大忙しだ。アルバート達オールデン騎士団にも雑用が回ってくるほどで城の人間を総動員しての多忙な日々が毎日続いている。

 

「リョーマ君には以前のフェスでかなり無理をしてもらったのだ。ならばその恩義には報いなければならないだろう」

 

皇帝や自分の頼みで龍馬達は収穫祭を"フェス"として大いに盛り上げるために尽力してくれたのだ。そんな大切な友人の頼みを断ったとあっては騎士団の名が廃るというものだ。

国のために力を尽くしてくれた友人達を今度は助ける番だとして多忙な中アルバートは快く引き受けたのだ。

 

「団長、準備は整いました」

 

「アルフォンスか。……なんだ、やけに嬉しそうだな?」

 

「ええ、そりゃもう。ようやく私もニホンに行く機会が出来たんですから」

 

アルフォンスは異界の門開通時には別の任務についていたため、まだ一度も日本の地を踏んだことがない。そこへ龍馬の依頼だ。実を言うと龍馬に会って話をした時からいつか行ってみたいと密かに思ってはいたものの、自分には騎士という務めがある。それを蔑ろにしてはオールデン騎士団の者として失格だ。アルフォンスはあくまで仕事を最優先する真面目なタイプの人間であった。

今回の文化祭の件、名目上は仕事とはいえようやく日本に行けるのだ。アルフォンスはそれが楽しみでたまらなかった。しかも行き先は龍馬の故郷。期待に心を躍らせるのも無理はない。

荷造りも終わり、それぞれが率いる部隊から選抜した何人かの騎士達も福岡中央高校の文化祭へ参加することが決定しており、皆準備は万端のようだ。

いつものよく手入れされた鎧やマント、それから剣や槍にアルカ帝国の紋章が印された軍旗。今回は荷物が多い。ちなみに武器はジュウトウ法対策でそれぞれが愛用しているいつもの装備を模した、それでいて刃を丸くしたものをドワーフの鍛冶屋に作らせたので安全面もバッチリだ。あとは出発を待つのみ。

 

「そうか。アルフォンス、お前も向こうにいったら楽しむといい。多少は自由時間も作るつもりだ。ただ、仕事は忘れないでくれよ?」

 

「団長、感謝致します。無論このアルフォンス、責務は全うします。お任せください」

 

「団長!アタイ、酒飲んでいい?」

 

「…………祭りが終わるまではダメだ」

 

レイラの「えーっ!?」という悲痛な声が部屋に響き渡る。

アルバートはやれやれと肩をすくめながらアルフォンスの真面目さをレイラにも見習ってほしいと思いつつ、ブーブーと文句を垂れてうるさいレイラを尻目に荷造りの続きに取りかかるのであった。


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