アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第92話 デッドヒート・モトクロッサー!(後編)

軍旗を構えた騎士を先頭に舞台上に颯爽と登場したアルバート達。スピーカーからは壮大なBGMが流れている。これは学校との事前の打ち合わせでアルバートが今回の演武に一番イメージの近いものを選んだのだ。

 

「ーーーー我が誓いは、偉大なる皇帝陛下のために」

 

「ーーーー我が剣は、帝国の民のために」

 

「ーーーー我が信念は、栄光のために」

 

 

 

 

「「「我等、オールデン騎士団なり!!」」」

 

 

 

 

三人が剣と槍を掲げ、交差させる。その瞬間会場から再び拍手が起きた。次にアルバート達の前に部下の騎士達が出て、実戦さながらに剣をぶつける。剣と剣のぶつかり合う音が会場内に響き渡り、観客の「おお!」という驚きの声が同時に聞こえる。

ここでアルフォンスから順に騎士達との剣戟(けんげき)が始まり、次にレイラ、アルバートと混ざっていき、最終的には部下の騎士達が一人ずつ幕内に退場していきアルバート達三人のみが舞台に残される。ここからが見せ場だ。

 

「"業火"!!」

 

アルバートが剣に彫られたルーンの魔法を発動し、彼の身体を炎の渦が包む。ルーン魔法による派手な演出が舞台を彩り、なんと幕までをも燃やしていく。もちろんこれも学校側との協議の上で行う演出であり、万が一に備えて消防団も控えている。実はこれ、アルバート達ではなく校長からの強い希望で付け足した演出なのだがそれでも危険なためにアルバートはやめた方がいいのではと忠告はしたが、業火のルーン魔法をも越える速水校長の熱意に負けて渋々了解したのだ。

幕に燃え移る火。ここで次はレイラとアルフォンスの出番だ。"速さの加護"のルーンを発動したレイラが跳躍から目にも止まらぬ速さで槍を振り回して燃え盛る幕を切り刻み、複数の焔となった幕の破片に対し、アルフォンスが仕上げのルーンを発動した。

 

「"水の(やいば)"!!」

 

アルフォンスの剣の周囲から突如出現した水が剣の刃を包み込み、彼はその剣を三方向に向けて振る。すると剣の刃の形状を取った水の塊がまるで真空波のように飛び出し、幕を切り裂いて火を消し止める。水の刃は壁に当たると激しく飛び散り、照明の光を受けてまるで美しい宝石の如くその姿を煌めかせながら周囲に散らばった。

火が消し止められた後にしばしの静寂が会場を包む。そしてアルバート達は武器をしまうと観客に向けて一礼した。客席からは拍手が巻き起こり、それに応えるようにアルバート達ももう一度一礼して手を振る。それと同時に一度退場した騎士達も再び舞台へと出てきて一礼した。

 

「"ありがとうございました!ルーン魔法による迫力の演武を披露してくれたオールデン騎士団の皆様にもう一度盛大な拍手をお贈りください!"」

 

放送部員の女子生徒の声が会場に響いた後、再び会場から惜しみない大きな拍手がアルバート達オールデン騎士団に贈られる。多忙な身ながらアルバートはたまにはこういう仕事も悪くないと思いながら部下達と共に舞台を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞台の演目はアルバート達含め、全てが終了した。 学校の卒業生として駆け付けたメジャー歌手などもステージを大いに盛り上げることに成功し、ひとまずは文化祭も一段落したと言えるだろう。

だがここからが再び熱くなる時だ。まだ残っている。この文化祭のメインディッシュともいえるレースの後半戦が。準決勝に勝ち進んだ龍馬はCブロックでの競技となる。なお勇斗はA、ディレットはBブロックで龍馬よりも先にレースに出、それぞれ2位という結果で見事決勝戦進出を果たしたのだ。

そして龍馬はというとーーーー

 

 

「どけえぇぇ!!斎藤ぉぉぉ!!」

 

「どけと言われてどくヤツがいるかバカ野郎!!」

 

自動車科三年生の強敵・久龍和人と激戦を繰り広げていた。久龍はあれから真面目に学校に通うようになってから時々龍馬とも交流するほどそれなりに仲は良かった。

 

だが、今は別だ。

 

今回のレースに満を持して出場した久龍は今はトップを目指して龍馬と争うライバルと化していたのである。予選よりもさらに激しさを増した準決勝で既に転倒やクラッシュでリタイアを余儀なくされた生徒も少なくない中、二人はコースの爆走を続けていた。

 

「"準決勝Cブロック、凄まじい戦いだぁ!首位を争っているのは自動車科三年生の久龍和人選手!対するは普通科二年生の斎藤龍馬選手だぁ!どちらも予選をトップで駆け抜けた猛者同士の対決であります!これは目が離せないぞぉ!!"」

 

凛の実況と同時に歓声が沸き起こる。観客席近くのコーナーに差し掛かり、二人が同時にタイヤを滑らせながら見事なコーナーリングを見せる。タイヤから舞う土煙が派手に辺りに舞い上がり観客席に降りかかるも、観客の熱気はそれによってさらに倍増する。

依然として続く龍馬と久龍の勝負。お互い周回数は同じ。そして残り時間は僅か。これはタイムアップ時にどちらが先に進んでいたかで決まる。

 

「"残り時間あと10秒!9……8……7……6……5……4……3……2……1……"」

 

カウントダウンが迫る。その瞬間龍馬は思いきり加速し、急な坂をジャンプして飛び越える。

 

「もらった!」

 

「甘ぇぜ、斎藤!!」

 

「!?」

 

龍馬が着地した瞬間、それを上回るスピードで更に高くジャンプした久龍が龍馬に僅かな差をつけて着地した。そしてーーーー

 

「"タイムアーップ!Cブロック準決勝、トップは久龍和人選手!斎藤龍馬選手、惜しくも2位!ですがこれで二人の決勝進出が確定しました!彼等の戦いは決勝戦へもつれ込む形となります!"」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ、あとちょっとだったのに」

 

「でもすごいよリョーマ!これで決勝戦確定だね!」

 

レースを終えた龍馬の健闘をディレットが称える。久龍に僅かなリードを許してしまったのは悔しいが、何とか決勝戦進出を果たすことは出来た。いよいよ正念場だ。龍馬は強くハンドルを握り締めながらバイクを押して駐輪スペースへ停める。決勝戦は二時間後。遂にこの白熱の文化祭のクライマックスが迫る。

 

「お疲れ様ですリョーマ君、お見事でした」

 

「ああ、素晴らしいものを見せてもらったよ」

 

「"ばいく"のレースもなかなかに熱いんだな!リョーマ、決勝戦も頑張れよ!応援してるからな!」

 

オールデン騎士団のアルバート達三人も龍馬に称賛と激励の言葉を贈りにやってきた。彼等の前で無様な戦いは見せられない。龍馬の拳に自然と力が入る。しかしあまり力みすぎるのも良くないだろう。決勝戦までは二時間ある。少し心を落ち着かせよう。……と、そう思ったのも束の間、次のイベントを知らせるアナウンスが入る。

 

「"次はプロのモトクロスライダーの方々によるジャンプスタントの披露を行います。是非皆様グラウンドにお集まりください……"」

 

普段はなかなか見ることの出来ないプロのライダーによるジャンプスタント。それを間近で見ることが出来るこの催し目当てにさらに多くの人々が集まることになる。龍馬とディレットは食べ物と飲み物を色々買って観客席に向かった。グラウンドにはさっきまでなかったジャンプ台が設置されており、取材に来ているマスコミ陣も多くなっている。

プロのライダー達が続々とグラウンド入りし、中には外国のプロライダーまでいた。……本当にあの校長一体何者なのだろうか。

スピード感あるBGMが会場に流れ始めると同時にスタート地点に設置されたスパークラー(※電磁波で加熱したチタン合金粉末を吹き出して"吹き出し型花火"のように見せる演出。舞台装置の一種)から火が吹き出してライダー達がスタートする。龍馬達を凌ぐ勢いでぐんぐん加速するとジャンプ台に差し掛かり……勢いよくジャンプした。

 

「おぉ!!」

 

「すごい!!」

 

龍馬とディレットの視線が宙を舞うライダーに釘付けになる。それもそのはず、彼等は空中で軽々とバイクを一回転させて華麗に着地するのだ。さらに後に続くライダー達は空中で完全にバンザイをしてバイクから手を放したり、ジャンプした瞬間にバイクではなく自分がバイクの上で一回転するなどして観客の肝を冷やすような危険なスタントをいともあっさりこなしていくのだ。肝の冷えるような命知らずの大技の数々を目の当たりににして龍馬達はもちろん、観客も大いに熱狂している。

ライダー達はその後もド迫力のスタントを披露しながら観客を熱狂の渦に巻き込み、その出番を終えた。

 

 

 

 

 

そして、遂に決勝戦の時がやってきた。

 

 

 

 

 

ここまで勝ち残ったのは龍馬、ディレット、勇斗、久龍、そして残りは二名の機械科三年生の生徒である。龍馬達が再びレースの準備をしていると、西の空から黒い雲がやってきているのが見えた。

 

「雲行きが怪しいな……」

 

先ほどまで晴れていたというのに急激にこちらに迫ってきている。これは一雨来るかもしれない。もし雨に降られれば……この決勝戦、かなりの危険なレースになり得ることは想像に難くない。さらに決勝戦では制限時間がさらに伸び、これまで以上の戦いを要求される。龍馬だけではない、決勝戦に残った生徒皆が来るべき熱い戦いを前に真剣な眼差しで前を見据えていた。

 

「"さあ、いよいよこの時がやってまいりました!福岡中央高校オフロードレース、遂に決勝戦です!ここまで勝ち残った6人のうち、勝利の女神が微笑むのは一体誰なのか!?校長先生、これは目が離せませんね!"」

 

「"うむ、確かに。そしてここまで勝ち進んだ生徒達。よくここまで戦いました。泣いても笑ってもこれが最後。悔いのないように……存分に戦いなさい!"」

 

その瞬間、会場が喝采に包まれる。いよいよ決勝の時だ。龍馬達がスタートラインにつき、エンジンの音が響き渡る。

 

「"カウント5秒前!4……3……2……1……"」

 

 

 

 

 

 

「"GO!!"」

 

 

 

 

 

 

 

 

カウントがゼロになった瞬間、6名のライダーが一斉に走り出す。遂に始まった。福岡中央高校オフロードレース、最後の大舞台が。けたたましいエンジンの音が響き、タイヤに削られた土が煙となって辺りに舞う。最初にトップに立ったのは……ディレットだ。

 

「みんな、お先!!」

 

他のライダーを尻目にディレットは加速と巧みなブレーキングを駆使したコーナーリングで早くも差をつけ始める。ここまで唯一の異世界人ライダーとして勝ち残ってきたのだ。このレース、何が何でも負けられない。ディレットは更に加速する。

……と、そんな彼女を凄い勢いで追い上げる一台のオレンジ色のマシンが。あれは……

 

「……クリュウ!」

 

「悪いな、エルフの嬢ちゃん!優勝は渡さねえぜ!」

 

ディレットとほぼ同時に並ぶ久龍のマシンはKTM250EXC。オーストリアのオートバイメーカーであるKTM社の製造するバイクのひとつである。そんな久龍の駆るKTM250EXCが唸りを上げてディレットを追い抜こうとするがディレットもインラインを塞ぐようにして久龍の追い抜きを許さない。

 

「クッ、やるな嬢ちゃん!」

 

「エルフの身軽さを舐めないでよね!」

 

熾烈なトップ争いを続ける後ろでは龍馬と勇斗が機械科の生徒二人を交えて今か今かと前方の二人の隙を虎視眈々と狙っている。そして一瞬の隙をついて龍馬が勇斗の前へ出た。

 

「あっ!龍馬てめぇ!」

 

「じゃーな、ゴリラ野郎!」

 

丁度コーナーが迫り、全員がコーナーリングの体勢に入る。ここで抜かれたのは勇斗にとって痛かった。勇斗は体重が他の参加者に比べて一番重い。いくらオフロード車で馬力が強いといえど体重の重い勇斗ではどうしてもコーナーリング後の立ち上がりの加速に差が出てしまうのだ。勇斗は龍馬の先行を許してしまうことになる。

 

「あーあ、俺も細身のイケメンだったらなぁ!」

 

そんな風にぼやきながら勇斗は龍馬を追い上げるべく、一気に加速する。そんな彼のマシンが巻き上げた土煙が後方の二人の視界を塞いだ。

 

「うわっ!?」

 

「わあっ!?」

 

コーナーリングからの立ち上がりに差し掛かろうとした機械科三年生の二人は突然の事態に焦り、ハンドル操作を誤ってしまう。その結果、うまく立ち上がることが出来ずに遂に転倒してしまった。

 

「"ああーっと!早くも二名の選手が転倒でリタイアだ!凄まじい戦いです!何が起こるかわからない決勝戦、残るは四名のみ!これは目が離せないぞぉ!"」

 

凛の実況がグラウンドに響き渡り、観客の歓声が上がる。会場の熱気は本日の最高潮に達しようとしていた。

 

 

 

 

 

そんな中、彼等を試練が襲う。

 

 

 

 

 

 

ポツ、ポツと大きな水滴がヘルメットのゴーグルに当たるのが見えた。雨だ。遂に雨が降り始めた。雨粒は次第に多く降り注ぎ、グラウンドを突然の雨が覆い尽くす。

 

「クソッ!やっぱり降り始めたか!」

 

龍馬が恐れていた事態が起きた。雨が降れば路面の状況は変わる。アスファルトでも土でもだ。土は水を含めば柔らかくなり、柔らかくなった箇所を走行すればタイヤの食い付きが上手くいかずに空転し、スリップの可能性が大幅に上がる。さらに雨は視界を悪くし、これまで以上に慎重な操作が求められるのだ。

 

「"雨!突然の雨です!だがしかし、彼等は雨にも負けず走り続ける!皆さん、生憎の天気となりましたが、どうか彼等の勇姿を最後まで見届けてあげてください!"」

 

凛のその言葉通り、身体を濡らす激しい雨も何のその、観客はグラウンドを離れようとしない。各々が歓声を上げながらレースの行く末を見守っている。

 

「うおおおおお!!」

 

降りしきる雨が足を取り、視界を塞ぐ中で龍馬はアクセルを更に回して加速する。下位二名のリタイアによって事実上最下位になった勇斗もさらにそれを追い上げ、龍馬とほぼ同じにまで並んだ。一方、ディレットと久龍も依然としてデッドヒートを続けていた。

 

「いい加減……諦めなさいよ!!」

 

「クッ……なかなかしぶとい女だぜ!!」

 

車体がぶつかり合うほどにまで接近しながら雨の中二人のバトルが続く。そしてその二人の後ろから寸前まで追い上げる龍馬と勇斗。レースはギリギリのせめぎ合いを保ったまま、遂に制限時間の半分を過ぎた。

そんな中、前方を走る二人の前のコーナーに大きな水溜まりを龍馬は発見した。二人がその水溜まりに差し掛かろうとした瞬間、龍馬はスピードを落として車体を安定させ、慌てて腕で顔を防御する。

 

「くっ!!」

 

「うおっ!?」

 

案の定、二人が跳ねた泥水が飛び散る。だが龍馬と違って勇斗は顔の防御をしていなかったため、モロに泥水を受けてしまい、ゴーグルのほとんどを泥で塞がれてしまう。突如塞がれてしまったゴーグルを拭おうと手を伸ばした瞬間、レインコンディションによって状態が大きく変化したコースの窪みに勇斗は突っ込んでしまい、大きくバランスを崩す。

 

「しまっ……!!」

 

慌てて体勢を立て直そうとするが、時すでに遅し。勇斗は完全にバランスを崩してしまい、遂に転倒して泥の中に突っ込んでしまった。泥にまみれたまま勇斗は痛む身体をゆっくりと起こして走り去る前の三人を眺める。

 

「"ああーっと!城島勇斗選手、決勝にまで勝ち残ってきたがここでまさかの転倒!無念のリタイアだぁー!"」

 

「いてて……あーあ、負けちまったかぁ……結構いい線行ってたのになぁ……」

 

ここまで勝ち残ってきたが、とうとう負けてしまった。しかし不思議と悔しさはなかった。負けたのが彼等とあってはまあ、仕方ないと思えるし、自分を負かしたのだから龍馬かディレットには優勝を勝ち取ってほしいと思う勇斗であった。

コースを出て、泥だらけのレーシングスーツのまま勇斗はヘルメットを取る。冷たい雨の感触が逆に心地よい。そんな彼に雨に濡れながら駆け寄る一人の女性の姿が。

 

「ハヤト君!大丈夫!?」

 

「リリィさん……ごめん、負けちまった……」

 

勇斗は学校の文化祭の開催をリリィにも伝え、彼女を文化祭に誘っていた。彼女はそれを快諾し、予選からずっと勇斗を応援していたのだ。

負けた悔しさはなかったが、彼女にかっこいいところを見せられなかったのは残念でならない。そんな勇斗の泥だらけのグローブをはめた手をリリィは優しく握る。

 

「ううん、気にしないで。ハヤト君、とってもかっこよかったわ。さあ、着替えましょ。風邪引いちゃうわよ」

 

「……リリィさん……へへ、そうっすね……ありがとうございます……」

 

勝負には負けたが、これはこれでラッキーだ。怪我の功名というヤツか。勇斗は赤面しながらリリィに手を引かれ、泥だらけのレーシングスーツを着替えるために屋内の更衣スペースへと向かうのであった。

一方、残り三人となった決勝戦は激しさを増し、いよいよ残り時間も少なくなってきた。龍馬は勝負を仕掛けるべく、ディレットよりやや遅れた位置を走る久龍に近づく。

 

「(クッ……やるな、斎藤!)」

 

久龍のすぐ後ろに迫る龍馬のマシンのエンジン音。龍馬は勝負を仕掛けるならジャンプ台前の次のコーナーだと確信する。

 

「ここだっ!!」

 

「な……なにィッ!?」

 

水溜まりの出来たコーナーのイン側に敢えて龍馬は突っ込む。もちろん水溜まりを走れば転倒のリスクは高まる。久龍はそこを避け、龍馬もそれを避けると思ったが結果は違った。彼は転倒覚悟のコーナーリングを行ったのだ。これには久龍も度肝を抜かれる。

 

「(何てヤロウだ!!頭のネジがぶっ飛んでやがるぜ!!)」

 

遂に龍馬に追い抜かれる久龍。だが彼も負けじと立ち上がりからの加速で龍馬を追い上げる。この先はジャンプ台だ。そこでもう一度抜き返して差をつける!

 

「うりゃあ!!」

 

「どおりゃあ!!」

 

前方を走るディレットの後ろに二人はジャンプからの着地を行う。しかし……

 

「……ッやべえっ!!」

 

久龍の着地点には大きな水溜まりが。長く降り続いた雨によってレース序盤よりも水溜まりが遥かに大きくなっているのだ。久龍は着地時のスリップに備えてハンドルを強く握るがそこに着地した瞬間、車体は派手に傾いてしまう。

 

「ぐわぁっ!!」

 

投げ出される久龍の身体。彼はコース上の別の水溜まりに落ち、身体中を泥だらけにしながらしばらくしてゆっくりと起き上がる。

 

「"なんと!久龍和人選手もここで転倒し、リタイア!惜しくも敗退です!やはりこの雨では成す術もないのでしょうか!?残るはたった二人!斎藤龍馬選手とディレット・アドミラシル選手だけだぁ!"」

 

久龍はその場で起き上がるとヘルメットを取り、残った二人を見据えて呟いた。

 

「……斎藤、ディレットの嬢ちゃん……いいレースだったぜ。頑張れよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディレットおぉぉぉ!!」

 

「リョーマぁぁ!!」

 

遂に龍馬とディレットの一騎討ちとなった。二台のKX250Fが雨と風を切り、コースを走り抜ける。その白熱した戦いに会場の誰もが釘付けになっている。降りしきる雨をものともせずに。

そして遂に龍馬がディレットに並び、コーナーに差し掛かる。二人のハンドルを握る手に力が入り、泥水のしぶきを上げながら派手にコーナーを曲がる。

 

「"なんと激しい戦いでしょうか!残った二人の選手にとっては雨風すらも敵ではないのか!?この勝負、どっちが勝つか全く予想が出来ません!!"」

 

凛の実況と同時にコーナーを曲がりきった二人。そしてここで龍馬がディレットの前に出た。

 

「リョーマ……!!」

 

前方に見える彼の背中。それを追い掛けるディレット。順位が変わったとはいえ依然としてどちらも退かぬ戦いだ。既にスーツには雨が染み込んで全身は濡れ、グローブももはやずぶ濡れで冷えきった手は感覚が鈍りつつある。

 

 

 

 

それでもーーーーディレットは必死に龍馬を追い上げる。強い想いだけを胸にして。

 

 

 

 

 

「(リョーマ……私は……あなたに勝ちたい……!だって……だって私は……!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーあなたに憧れて、あなたの背中を追ってバイクの世界に足を踏み入れたのだからーーーー。

 

 

 

 

 

 

ずっと追い続けた龍馬の背中。それが今、目の前にある。彼と同じ世界に立ちたい。その気持ちだけを糧に自分はバイクに跨がったのだ。そして……ディレットは彼の背中に手が届く位置まで来ている。残り時間は僅か。言わずもがな、周回数は同じ。後はどちらがより多く走れたか。それで勝負が決まる。

 

「"凄い!何という激しいデッドヒートでしょうか!!残り時間は……なんと!あと十秒です!9……8……7……6……4……3……2……1……"」

 

カウントダウンが迫る。その声を聞いた龍馬とディレットはアクセルを思いきり回した。もはやコーナーリングもジャンプも転倒も関係ない。たとえ1ミリでも先行出来れば勝ちだ。二人はいわば捨て身の覚悟で思いきり加速する。

 

 

 

 

 

 

 

「"ゼロぉ!!"」

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁっ!!」

 

「どわっ!!」

 

その瞬間、コーナーが目の前まで迫った二人はそのあまりのスピードに曲がりきることが出来ず、派手に転倒する。二人は地面に叩き付けられ、水浸しのコースの上を派手に転がった。

 

「いたた……」

 

「ああ、いってぇなちくしょう……」

 

身体は痛むが、特に怪我はないようだ。龍馬とディレットはヨロヨロと起き上がるとお互いに肩を組んで痛む足を引きずりながらコースを離れる。

 

「リョーマ……大丈夫?」

 

「ああ、なんとかな……お前は?」

 

「私も大丈夫。へへ、二人揃って泥だらけだね」

 

ヘルメット越しにディレットは笑い、龍馬もそれを見てふっと笑った。

 

 

 

 

ーーーー結果は、写真判定に持ち込まれた。

 

 

 

 

 

 

「"発表します!平成28年度開催・福岡中央高校文化祭オフロードレース、優勝は……"」

 

会場が静まり返り、辺りには雨がしとしとと降り注ぐ音だけが聞こえてくる。誰もが固唾を飲んでこのレースの勝者の発表を見守っていた。

龍馬とディレットもヘルメットを脱いで高鳴る心臓の音を響かせつつ、発表を待つ。そしてーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"優勝は………………異界人特別学級所属、ディレット・アドミラシル選手だぁぁぁ!!何ということでしょう!!彼女は福岡中央高校オフロードレースにおいて異界人による優勝という初の快挙を成し遂げました!!"」

 

 

 

 

 

勝利の女神が微笑んだのはーーーーディレットだった。

 

 

 

 

 

「うそ……!?私が……優勝……!?」

 

「……へっ、やるなディレット。……おめでとう、いい勝負だったよ」

 

ディレットは思わず両手で口を押さえて目を見開き、自分が優勝という事実を未だ信じられず唖然としている。無我夢中で追い続けた龍馬の背中。憧れた彼の背中。それをようやくディレットは追い越したのだ。そしてーー彼女の目には嬉しさのあまり涙が。

 

「お、おい……泣くなよディレット。お前勝ったんだぜ?もっと胸張れよ」

 

「だって……だって……」

 

そんな彼女は雨と涙で顔中グシャグシャになっている。まあ、龍馬も似たようなものなのだが。そんな雨は徐々に弱くなり、いつしか止んでいた。

 

 

 

 

ーーーーその後、表彰式が行われた。表彰台の真ん中に立つディレットには速水校長よりトロフィーが渡される。

 

「おめでとう、ディレットさん。異界から来たにも関わらず、よく頑張ったね。どうかね?優勝した気分は?」

 

「いえ……そんな……まだ何か実感が湧かなくて……でも、ありがとうございます。校長先生」

 

「うむ。君は素晴らしいライダーだ。これからも楽しくバイクに乗ってバイクライフを楽しみなさい」

 

校長がトロフィーを渡し、ディレットがそれを受け取ると同時に2位の龍馬、3位の久龍が表彰台の両側から拍手で彼女の健闘を称える。

 

「おめでとう、ディレット」

 

「エルフの嬢ちゃん、あんた本当に最高だぜ」

 

「二人とも……ありがとう!」

 

校長が手渡したトロフィーを片手にディレットは自分達を包み込む会場の拍手に照れつつも、観客に向かって手を振る。

 

「"皆様、異界人によるオフロードレース優勝という快挙を成し遂げたディレット・アドミラシル選手、そして惜しくも敗れましたが素晴らしい勇姿を見せてくれた斎藤選手、久龍選手にもう一度盛大な拍手をお贈りください!!"」

 

再び大きな拍手がディレット達を包み込む。観客の中にはアルバート達オールデン騎士団や涼子達、そして勇斗達の姿も見える。ディレットがトロフィーを高く掲げると同時に雨が止んだ曇り空の隙間から晴れ間が見え、そこから差し込む太陽の光が彼女のトロフィーを照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーまるで、天空の女神が彼女の勝利を祝福するかのように。




●準決勝・龍馬vs久龍戦イメージBGM
『Let's go come on』/Manuel
(『SUPER EUROBEAT』シリーズより)

●決勝戦・序盤イメージBGM
『Over the Rainbow』/POWERFUL.T
(『SUPER EUROBEAT』シリーズより)

●決勝戦・中盤イメージBGM
『Fall in the web of desire』/POWERFUL.T
(『SUPER EUROBEAT』シリーズより)

●決勝戦・龍馬vsディレット戦イメージBGM
『Crazy little love』/Nuage
(『SUPER EUROBEAT』シリーズより)
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