主人公転生   作:超高校級の切望

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魔女との出会い

 名無し。文字通り名前を持たず、自身をそう称する少女はニコニコと微笑み俺を見てくる。

 敵意は、抱けない。そういった感情も食われているのだろう。

 

「辛かったね、苦しかったね。でも大丈夫だよ。私がもう二度とそんな思いはさせないから」

 

 首の後ろに腕を回しスリスリと頬ずりしてくる馴れ馴れしい名無し。俺の不快感でも食いたいのだろう。それを感じているはずなのに、感じることができない。

 だからこそ、原作でノエルは此奴に依存した。原作では親父も母さんも、ノエルを庇おうとして魔物の攻撃を喰らい、俺や他の子供達と隠れている間に、目の前で死んだ。その罪悪感と無力感から逃げるために、名無しに食わせていた。

 嗚呼、だが解る。俺もあの苦しみから逃れるためなら、此奴に魂を差し出して良いと思ってしまっている。親父と母さん、村の皆を死なせてしまった苦しみを忘れられるなら……。

 

「なんだ起きたのか。しかし、起きて早々抱き合うとは仲の良いことだ」

「あ、ルセリア」

 

 と、扉を開け入ってきた女に名無しが親しげに手を振る。年は12程、水色の髪をした美少女だ。

 ジッと俺を見つめてくる。

 

「飯は用意した。起きたなら食え」

「………あ、貴方は?」

「ルセリア。ただのしがない魔女だ」

「………魔女…?魔女!?」

 

 魔女だと!?()()

 ゲームでは暗黒領域に向かう前に、阻んでくる敵キャラ達の名称。その全てが、HPをある程度削ると魔女が逃げるという流れ。ファンの間では実は魔王より強いなんて言われている。

 俺が思わず警戒するとルセリアと名乗った少女はふん、と鼻を鳴らす。

 

「怯えるな、鬱陶しい。別にとって食おうとは思わん」

「……お前が、魔族の言ってた母か?」

 

 しゃべり方は違うが、思わず訪ねる。今でこそ恐怖心を名無しが食っているからか特に恐ろしいとは思わないが、この大質量の恒星が目の前に現れたかのような戦う気すら起きない圧迫感はあの声に通じるものがある。するとルセリア……さんはますます不機嫌そうな顔になった。

 

「あんな行動理由も解らん連中の母だと?冗談も休み休み言え……」

「す、すまない………」

 

 嘘を、ついているように見えない。冷静な分しっかり観察している。まあ前世併せて20年と少ししか生きてない俺が顔だけで嘘を見抜けるかと言われたら微妙だが。

 

「ふん。それより飯だ。はやくしないと冷めるぞ……」

 

 そういって部屋から出ていくルセリアさんに、俺は大人しく付いていこうとして背中に引っ付いてきてきた名無しを肩越しに睨む。「?」と笑顔で首を傾げてきた。

 

「俺の警戒心を食うな」

「え~?人を警戒するのは、人を信じられない証だよ?そんなのつまんないじゃん」

「良いから、やめろ」

「…………は~い。ま、君はもっと美味しいもの持ってるしね」

 

 何が可笑しいのかケラケラ笑う。いや、確かゲームで『あれ、ここって笑うところじゃなかった?』なんて台詞があった。設定にも、人の喜びや思いやりが理解できないという設定があった。可笑しいというわけではないのだろう。

 …………設定?

 

「ッ!そ、そうだ!あんた、魔女なんだろ!?な、なら蘇生魔法使えないか!?」

「蘇生魔法?」

 

 確か、ゲームでは主人公が使えたはずだ!パーティーメンバーだと主人公しか使えないから主人公がHP0になった時点で仲間が何人残っていようとゲームオーバーになっていた。

 魔女は名の通り強力な魔法を数多く使う。なら、もしかしたら──

 

「そんな魔法は存在しない」

「……………へ?」

「死者を蘇らせる魔法があるなら、私が使いたい。まあ、死者の魔女たる私ならば死体の記憶を使って生前と変わらぬように操ることはできるが、魂がない以上肉体も精神も成長しない。そんな人形と遊んだところで、虚しいだけだぞ」

「よ、蘇らせる魔法が無いって………だって、ゲームで……」

「ゲーム?」

「ルークは異世界から転生したみたい何だよねぇ………この世界の未来が、ゲームで知れる」

 

 俺の代わりに答えたのは名無し。俺の自分に対する悪感情を食ったから俺の記憶を知っているんだろう。記憶を読まれたのは不快だが、直ぐにその感情も消える。名無しを睨むと矢張り微笑んできた。

 

「ゲームの………成る程。観測点か……」

「観測点?」

 

 あの声だけの女も言っていた………何だそれは?俺が疑問に思っているとルセリアは自分の片目を指さす。

 

「観測点というのは別世界から世界を覗く目のことだ。この世界の物語の一割は観測点と波長が合った者が観測した異世界の物語だと言われている。事実、異世界に移動した連中の中には本の世界に入ったという奴も居る」

「い、異世界ってそんな簡単にいける者なのか?」

 

 あの声の女は無理があると言っていた気がするが………。

 

「簡単ではない。大概異世界に行った者が居た村が吹き飛んだり、帰ってきた瞬間山が枯れたなど聞く……お前のように魂が落ちてきたなどというのは聞かぬが、肉体ではないからお前の周りも恐らく無事だ。質量を持った肉体を送るよりは影響も少ないだろうからな」

「ま、待て!じゃあ俺は、俺達は観測点である主人公を通して、この世界の歴史を見ていたのか?そ、そこまでは良い……!」

 

 この世界の親父も、母さんも、アレン達やアルクさんやフリックさん達をゲームの住人と、人に設定を決められた存在だと思ったことはないはずだ。それが正しかったのは寧ろ嬉しい。だけど、納得できないことがある──

 

「あの声は俺を観測点だと行った。俺を使い俺の世界を観測したから、俺がこの世界に転生したと言っていた……けど、観測するだけなら問題ないんじゃないのか?」

「恐らくは、波長が合わぬのに覗こうとしたのだろう。その結果だ………まああくまで予測だがな……」

 

 つまり、あの声の主が余所の波長が合う者が居ないのに異世界を覗こうと無茶をした結果、観測点である俺がこの世界に迷い込んだ?

 

「どうしてそこまで余所の世界を?下手したら、村や山が滅びる結果になったのに」

「当事者でもない私が知るか。移住できる世界でも探していたか、或いは異種族が争わぬ世界でも観測して学ぼうとしていたのかもしれぬな……」

「……………」

 

 そんな理由で、とは言えない。この世界は命の価値が低い。良く知らぬが暗黒領域はもっと低いかもしれない。そんな世界で、過去の戦争で排他される魔族が生きたいと願うのを否定する権利は俺にはない。

 

「ん~。ルークったらそんな美味しそうな臭い出しちゃって♡後から後から溢れてくる。本当に良い拾いものしたなぁ」

「………………」

 

 納得、できているのだろうか?此奴が居る以上俺の感情がどんな状態なのか自分でも解らない。

 

「………拾った?同郷のものではないのか?」

「違う………そういえば、俺は魔族に攫われていたはずだよな?お前が?」

「うん。私がブチ殺したよ♪」

「……………そうか、ありがとう」

「ふむ。妙な気配を放っているとは思ったが………結局お前は何なんだ?」

「私は名無しだってば~」

「種族を聞いているのだ」

「闇精霊だよ♪」

 

 俺から離れると両手の人差し指で自分を指さす名無し。ルセリアさんははぁ?と訝しむ。

 

「闇精霊だと?馬鹿を言うな、闇精霊など()()()()()()()()()()だろう」

「?精霊っていうのは全属性で存在するんじゃないのか?」

「全属性ではない。『聖』と『闇』、この二つは存在しない。絶対にだ」

「ええ~、じゃあこれ影なの?私ったら勘違いしてたのかなぁ?」

 

 ゾワリと名無しの全身から黒い煙のようなものが溢れ掌に集まり野球ボール程の球体になる。それを見てルセリアさんは目を見開く。

 

「闇属性の魔力……?そんな陽気なお前が?ありえん……いや、しかし実際……お、おいこれはどんな力が?」

「身体強化でしょ。それと魔物、魔族に対して呪いじみた効果を発揮するよ……ただこれ、ルークに取っても毒だね」

「俺にも?」

「だってルーク自分嫌いでしょ?これ、ルークの心から溢れた闇だしね」

「属性の大本となる感情を喰らい、本人以上に使う。この辺りは精霊同様か………意思によって変質するというのも闇属性と同じ………どうやって生まれた、お前」

 

 ルセリアさんの言葉にん~?と首を傾げる名無し。満面の笑みで、さぁと応えた。

 

「まあ、良い……飯が冷める。さっさと居間に来い……」

「…………………」

「落ち着いてる自分に困惑しているのか?なら、取り合えずはその名無しとやらに食わせ続けていろ。発狂した状態じゃ話もできん」

 

 俺が叫んでいたのは聞こえていたのだろう。確かにルセリアさんの言うとおりだ。あの状態だと、俺はただ死のうとするだけだろう。

 

「何を突っ立っている。早く来い」

「ごっ飯~、ごっ飯~♪」

「お前飯は食うんだな」

「人間だって味付けなんて必要ないのにご飯に味付けるでしょ?必要なくても、したりはするよ」

 

 

 

 居間に移動するとルセリアが鍋で暖められたスープを椀によそい、机に並べる。野菜のスープにベーコン、それにパン。

 

「ほれ、さっさと食え」

「い、いただきます……」

 

 パンをスープに浸し軟らかくして食う。野菜の甘みと、塩の僅かなしょっぱさが口に広がる。ベーコンを噛み千切る。美味い……。何というか、優しい味だ。母さんの料理を思い出す。

 

「お、おい……どうした?」

「……え?」

 

 ルセリアさんが心配そうに俺を見てきて、何事かと思えば気付かぬ内に涙を流していたらしい。

 

「口に合わなかったか?」

「あれ、涙止まらないね。悲しいって気持ちは食べたのに……あれ、何で悲しいの?これ、ルークのお母さん?」

「………母さんの料理を、思い出して……昨日食ったのに、懐かしくて……悲しい、のは……名無しが食ったけど、でも、なんか……まだ、生きてるって実感できて」

「…………そうか」

 

 ルセリアさんの目は、どこか母さんに似ていた。そういえば、一つ気になることがある。

 

「……どうして俺を助けたんだ?」

 

 どうも名無しとは知り合いでも無いらしい。ゲームではこの世の理に背こうとして世を乱し、暗黒領域のような死の大地にこそ安寧を求めるなんて依頼者が言っていた。それに暗黒領域に向かおうとする主人公達と戦っていたし、魔族の味方と思っていた。軍も壊滅に追いやられかけたし………その事を説明し尋ねるとルセリアさんは顎に手を当てる。

 

「ふむ……まあ、普通子供が暗黒領域に向かえば止めるし、子供を先頭に危険地帯に向かう軍が居たら半壊させて追い返そうとする奴もいるだろう。人の良い奴が多いからな」

 

 私は違うがな、と付け足すルセリアさん。見ず知らずの俺を助ける辺り人が良いと思うのだが………。そんな俺の疑問を察したのかルセリアさんはふん、と鼻を鳴らす。

 

「私は見ず知らずのガキなど知ったことではない。ガキを前線に立たせる大人連中は確かに気に入らんが、そのガキとて覚悟を決め戦場に立つ以上他人である私達が口を出すことでもあるまいよ」

「俺を助けたのは、何でだ?」

「かつて私が愛した男との間に生まれたらつけるつもりだった名前と、同じ名をしていた。それだけだ」

「ぷぷー!愛した男との間って、魔女が?人の子も生めないその体で!?」

 

 ルセリアさんの言葉に名無しがケラケラと笑う。その言葉に俺が不快感を抱き、ルセリアさんも明らかに不快そうな顔をするとあれ?と首を傾げる。

 

「あれ、ここって笑うところじゃなかった?」

「まあ、そうだが……闇精霊だというならその辺りの気遣いは出来なくても仕方ない、か。ルークが己を保つにはお前が必要だしな、大目に見てやる」

「………俺に対して、甘いな」

「なにぶん2000年は独り身でな。年に一度は、知己に会うのだが、まあ一日だけだ。その上で、未練がましくクリスとの子を夢見ていたのだ。名前だけとは言え、興味を持ち拾い、触れ合い多少思い入れは出来た……それに、その茶色の髪や青い目は勿論お前の容姿はあの馬鹿に何処か似てる。双子の弟が居たらしいし、その子孫かもな」

「………ルセリアさんって……あ、いや。悪い…」

 

 何歳?と尋ねようとして、やめた。女性にそれを尋ねるのは失礼だろう。

 

「8000程だ…」

「……そうですか」

「取り敢えず、腹は膨れたな?食器は彼処に置いておけ、後で洗う。この辺りには何もないが少し離れると魔物が出る。私の縄張りには滅多に侵入しないから村の範囲なら好きに見て回ると良い。どうせ、何もないからな」

 

 

 

 

 

 廃村を適当に回る。人の気配が全くない。

 大きな家具や小さな家具が残っている割に、人の死体は見つからず墓も一つだけ。恐らくルセリアさんの夫であろうクリスさんの墓。

 しかし妙だな、墓は手入れしてるとしても、廃村は手入れされてるようにはとても見えない。が、2000年前のものにもとても見えない。

 

「暗黒領域ってね、結界の外じゃなくて更にそこを囲う崖や山脈、大河、死の大地に切り離された向こう側なんだ。だから、結界が張られてなかったこの辺りでも人は住めるし、現代でも第四領域以降に住んでたよ?ま、結界について知れない距離は、だけど」

「ここは何で滅んだんだ?」

「んー、この辺りの霊達はみーんなルセリア嫌いみたいだね………あーん……ふむふむ。どうもルセリアの加護を得ようと勝手に村を作って、飢饉が流行ればルセリアのせい。疫病が流行ればルセリアのせい……でも守られてるから耐えて、とうとう我慢の限界がきてルセリアを殺そうとして、逆に殺されましたとさ。ちゃんちゃん♪」

 

 まあ、何千年も生きてしかも魔物を寄せ付けない強さを持っていたら、何でもできそうではあるが。

 災害なんかどうにもならないものが起きたら、誰かのせいにしたがるのだろう。誰かのせいにすれば、自分達でどうにか出きると思うから。

 

「村の殆どはその時に逃げたみたいだね。残った死体も、ルセリアがどっかに捨てて獣に食わせたんでしょ。ルセリア自身は、その時まで無視してたみたい。どーでも良かったんだろうね」

「…………今俺の感情を食ってるのか?」

「うん。人殺し、嫌いなんだね。でも悪いのは村人達だよ?それに、ルセリアが居なければ野垂れ死ぬのに敵対は駄目だよ~。私の大切なご飯なんだから死に急がないで」

「お前は俺を守ろうとはしないのか?」

「守ってほしいの?守ってあげても良いけど………魔女と殺し合うのはねぇ」

 

 まあ8000年も生きていればその分多くの経験が積める。レベルもかなり高くなっていることだろう。それこそ気配だけで魔物が寄ってこないほどに。

 

「………何か、実感が沸かなくなってきた。転生したことも、村のことも……全部、後悔も自己嫌悪も恐怖も喰われてるから」

「?返そうか?少しだけ……」

「………止めておく。怖いからな」

「私がその怖いって気持ちも食べてあげるよ?」

 

 ニコニコ笑って尋ねてくる名無し。此奴がいれば、俺はあの時の苦しみも日頃勝手に感じていた疎外感も、他者の人生を奪った罪悪感も感じずに済む。此奴はそれで腹を満たせる。まあ、共生と言えなくはないのではないだろうか。

 

「………取り敢えず、これからよろしくな名無し」

「?うんよろしくルーク!」




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