中央領域。
四つの結界に囲まれた暗黒領域からの災害に対してもっとも安全な領域の更に中央に存在する共同都市『エレベン』、そのまた中央の会議室で顔を合わせる11人。
「さて、本日緊急収集を行った理由は……まあ、説明するまでもないか」
そう言ったのは後ろ向きに伸びた角と鱗を持った緑髪の男。彼の名はオウリュウ・ケン。
「魔族共が動いたか。1000年前……妾はまだ、前線にも立てぬ童であったが……」
と、昔を懐かしむのは白に近い金髪を持った女性、
「それはここにいる誰でも同じであろうよ」
肩を竦め呟いたのは長い耳を持つ黄金の髪を持った青年、ダリウス・リュースアールブ。
「ちなみにだが、結界を復活させる方法を知る者はいるか?」
小柄な褐色肌の女性が手を挙げ周囲を見回す。彼女は
『不可能です。11英雄の遺した
機械的な声を返すその少女は、事実機械の種族、
「無い物を強請っても仕方あるまい。今は早急に軍を派遣すべきだ」
「リカルド殿の言うとおりだな。我が国も人材を派遣する」
「陸は任せるね~。私達は海の民を守るからね」
そう答えるのは
「俺と旦那は直ぐに送ったけどな」
「数は多いからな、俺達は……」
「向こうの数は不明。私達からも後援を送ります」
「しかし、何故今更になって……」
前に向かって伸びた角を持つ男、
彼らが話しているのは魔族の襲撃。しかも、結界の一つが破壊された。一つが破壊できて二つが破壊できない道理はない。
「事情が解った所でまず黙らせる必要がある。ならば、考えるのを後回しにして今は対応するべきだろう」
「そうだな……1000年前の公約だが……」
ケンの言葉にルドガーが言葉に詰まり、頭をかく。チラリと周囲を見るその目は同意を求めるようにも見えた。
「まあ、ウチは特に難しいであろうな。他でもない、貴様等の民の行いで」
「虐めてくれるなロイド殿。我等とて良しとしているわけではないのだが……しかし、代が変わりにくい我等は価値観も変わりにくい」
「短命な俺等や
彼等が言っているのは、
「まあ、同盟を締結させるのに一番の問題はそこじゃ無いがな」
「『種至上主義』共だな……どの国にもいる。全く、嘆かわしい」
リコリスが忌々しそうに呟く。種至上主義とは文字通り己の種族こそが最高の種族で、他の種族は自分達に従うべきと言い張る者達だ。若者、一部の貴族にこの傾向が多い。他の種族をとらえ奴隷にするなども平然と行う者達まで居る。
そういう輩は対処できるのだが明確な犯罪行為を起こさず、しかし影響力を持つ貴族などはやりにくい。
「900年ほど前までなら、思うところはあれどここまで明確な形にはならなかったのだがな」
「平穏が続けば心に余裕ができる。余裕ができると、それは自分のおかげだと考える。だから、自分は何をしても良いと勘違いする。とにかく、この馬鹿どもをどうにかしねーと同盟組むより先に魔族が攻めてくるかもしれねーぞ」
「一番手っ取り早いのは勇者が
勇者とは『救世の勇者』というスキルを持ち、その体に特別な紋様が刻まれた者の事だ。その力は例え初めは弱くともかなりの速度で成長するとされている。また、この世の理すら斬り伏せるとも。
名の通り世が乱れる時に現れるとされている。
「とは言え、1000年続いた戦争にも現れなかったがな」
「魔族大戦前の、11種族の大戦には確認されたと聞く。その結果が終戦だともな……」
勇者のもっとも注目される点は、仲間にも同様の成長を促せること………ではない。その強さを子にある程度引き継がせることが出来る事だ。勿論強い者から生まれた子が強くなりやすいのは当たり前だが、勇者のそれは格が違う。かの11英雄も勇者の子、或いは勇者の眷属の子や子孫とされている。
そして何故、
つまり
「まあ所詮は皮算用。どうせだ、この機会を利用して若者の意識を変えるぞ」
「魔族共が攻めてこなけりゃ領域内で争う事になってたな。そういう意味では、感謝すべきか?」
根付いた意識を変えるのは難しいが、根付く前なら話は別だ。前々から計画していた、しかし実行に移すには『種至上主義』が邪魔で出来なかった計画。それを行うことにした。現状、またとない正当性を示す理由があるのだ。
「エレベンに全種族が通う魔導騎士育成学園を設立する」
「どうせなら今の貴族共もいれかえたいな……学園内で貴族権の行使は禁止にするか」
「それと、成績次第で爵位も渡すか」
「貴族至上も多いから、その辺りの平民は種族問わず仲良くできるかも知れねーな。その辺りの奴等も無償で入学させるか?」
「その場合、ある程度才能がある者に限られますね」
と、11人の王達が話し合う。が、まずは………
「第三結界に迫る魔族共だな。今回の兵に、働き次第で爵位を与える。下地作りは早いうちにやる方がいい」
「同感ですね。では、行きましょうか」
と、各々剣や槍、杖や斧などを持って、立ち上がる。
「行くか」
「ああ」
「魔物との戦いは経験しましたが、魔族となると全員初ですね。頑張りましょう」
「ねえルーク。ルークはこれからどうするの?」
瓦礫に座りただボーッと空を眺めていると勝手に人の膝を枕にしていた名無しが訪ねてくる。どうする、か。
「何でそんな事を尋ねる」
「人ってね、憎み続けるのって案外疲れるんだよ。代わりを見つければ、憎しみはやがて消えていく。けど動き出すと燃料にするために憎しみを忘れない……私としては魔族を殺し尽くす、ってなるのが理想なんだよね」
「復讐心を食っといて良く言う」
「後から後から溢れるから良いじゃん。何なら、返そうか?」
「──────」
俺が押し黙るとニヤリと笑う名無し。俺がまだ、その感情を思い出すのを恐れているのに気付いているのだろう。恐れているという事は、その感情を見逃されているという事なのだから。
「この恐怖は食わないんだな………」
「経験則だよ。私は知ってるんだ……『もう大丈夫よ』、『俺はもう、前に進める』なーんて台詞を吐いて、返した途端発狂して壊れる人達を。壊れたら、食べれない……だから私は、その恐怖を乗り越える程度の強さを持つ心を持ってない人には返さないと決めてるんだ」
つまり俺が、返せと言えたら返す。しかしそれは、下手したら食事を失うのではないだろうか?
「ん?だって、この感情は本人のモノだしね。苦しみから逃れたい人なんて探せば案外見つかるものだし。今はルークに憑いてるだけで、ルークがやめてほしいならやめるよ」
偉い?偉いでしょ?と頭を少しだけ持ち上げてくる名無し。これは、つまり撫でろと言うことだろうか?
撫でてやると嬉しそうに目を細めた。しかし、やめてほしいという感情すら食うだろうに何を言っているのか。
「私ね、人が足掻くの、大好き。それは人が進もうとしてる証拠だからね」
「その結果お前の大好きな感情を出さなくなるかもしれないのに、か?」
「うーん………だから、私も自分で不思議なんだよねえ。折角のご飯がご飯じゃ無くなるのに、何でだろ?確かに足掻いて、結局無理で余計絶望することはあるけどね……わざわざご飯を減らす理由としては薄いし………うーん………」
まあどーでもいっか、と細かいことをすぐさま忘れる名無し。
「足掻くなら応援するよ。何なら私の中で増幅した闇魔法を使わせてあげる……けどまあ、強くなりたいならルセリアにでも頼みなよ。何せ私より6000歳近く年上の魔女だし、きっと色々知ってるよ」
「………お前2000歳なのか」
「11種族と魔族が争い始める少し前に生まれたって言うのは覚えてる。詳しい年齢は、自分でもわかんない………あ」
「?」
「女性に年齢の話ししちゃ駄目なんだよ?」
気にもしてないくせに何言ってんだろうか此奴は。俺のそんな視線を受け、クスクス笑う。
「俺が、後悔や自責を返せといったら返すのか?」
「恐怖を乗り越えて本人が向き合えるならね」
「俺は、向き合えてないのか?」
「向き合おうとするのは怖いでしょ?そして、行動に移せない。それが全てだよ。本当、可愛いなぁ」
体を起こしぎゅーっと抱き締めてくる名無し。そのまま頭を撫でてくる。
返す言葉もない。俺は、俺が今感じているであろう感情に向き合えずにいる。向き合ったら、きっとまた死のうとする。贖罪のため?違う、罪悪感に耐えられないからだ。
あの時の精神状態ならきっと贖罪の為だなどと言い訳をした事だろう。冷静になり、名無しの話を聞いたから、客観的に自分を見直せた。お礼に此方も抱き締め頭を撫でてやると、名無しはヘニャリと笑った。
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