夢を見た。現実に、日本に居る夢を。
黒髪に、茶色の目をした中肉中背の男。顔立ちは、まあ整っている方だろう。事実、多少は女子から人気があった。
剣道部に入っているから、そこそこ鍛えられた肉体をしていた。
俺はそれを、後ろから見ていた。
前世の自分を後ろから見るのは、何とも妙な気分になる。
話しかけても、触ろうとしても反応はない。何も出来ず、黙って前世の俺の行動を見る。ゲームをしていた。
ファンタジー世界で冒険と恋愛するゲーム。カチカチとボタンを押す音とゲームの音が響く。
パーティーメンバーが死んだ。が、直ぐに蘇生魔法を使い蘇らせる。
「「『蘇生術』………」」
俺と前世の俺の言葉が重なる。ゲームならば、簡単に蘇る。だが──
「あの世界では蘇らないんだってな」
前世の俺が振り返る。テレビの画面には、何時の間にか燃える村が写っていた。見覚えがある、俺の村だ。
「画面の向こうで、人が死のうと、俺は気にしない。憐れみも、嘆きも、怒りもしない。けど───」
「俺は画面の向こうにいた──」
「だけど何も出来なかった。出来る筈がない、お前の行動は、全部言い訳だ。そうだろ?」
「………そうだな。生まれてくる命を奪ってごめんなさい、家族のふりをしてごめんなさい。せめて村人が少しでも生き残れるように頑張るから、許してください、生きて良いと言ってください。俺はそんな心境で、行動していた」
「そのくせ傲慢にも愛してくださいと来たもんだ。はっ!何様だお前は」
「……ああ、俺は……皆、大好きだったからな。愛されたかった……でも、俺のせいだ」
「そうだ。お前が居なければ、アレンも、ヤンクも、アンも、ニーナも、ノエルも、死なずに済んだ。あの子達だけは、生き残れた。お前さえ、居なければ!」
「………」
「それだけじゃない。お前は、見捨てようとしていた」
何を、とは聞かない。世界の事だ。この世界の主人公が救ったはずの者達のことだ。
俺は、見て見ぬふりをした。俺がいく必要はないと、戦うのが怖いから逃げ出した。アレン達がいれば大丈夫と、言い訳して。
「……ああ、だから、責任はとるさ。罪は、必ず償う」
「どうやって……」
「世界を救う………違うな、救わせる。俺は弱い、村一つ守れぬ俺が世界を救えるはずないからな」
だから見つける。世界を救える者を。
俺に勇者の証は現れなかった。なら、本来主人公が得るはずだったそれを他の誰かが得ているはずだ。
「相応しい相手ならこの命に代えても、世界を救うまで守ってみせる。俺なりのやり方で、世界を救う……それが俺の償いだ」
「────あ、起きたぁ?んふふ、どんな夢を見てたのやら。とぉっても美味しかったよお?」
目を覚ますと名無しと目が合う。どうやらベッドに忍び込み、俺を抱き枕にしていたらしい。
「………助かる。アレと向き合えたのは、お前のおかげだ」
「どーいたしまして♪」
アレは間違いなく悪夢と言われる類だ。それでも俺が発狂しなかったのは、冷静にあの、昔の俺………の姿をした罪悪感と話せたのは、此奴がある程度食っていたからだろう。
「それで、どーするか決まったの?あんな悪感情を出してたんだ。村の夢を見たんでしょ?君は立ち止まるの?歩くの?」
「………歩くよ。俺は………でも、俺は一人じゃ歩けない。苦しくて、怖くて、辛くて、歩けない。だから、食ってくれ」
「いいよ。解った、私が食べてあげる……だからさ、頑張ってね。乗り越えるにしろ、折れるにしろ、ね……」
そう言って、俺が足掻くのを選んだのが嬉しいのかスリスリと胸に頬ずりしてくる名無し。乗り越えるにしろ、折れるにしろ、か。別にどちらでも良いのだろう。足掻き続けて心の闇を抱え続けるのも良い、折れて、最後に特濃な闇を放つでもいい。
「まあ、どうでも良いか」
此奴がいれば、俺は戦える。今はそれで、それだけで良い。
「戦い方を教えて欲しい、だと?」
俺の懇願に対し、ルセリアさんはまず俺の背中にひっついた名無しをギロリと睨みつける。名無しは相変わらず笑顔だ。
「私が導いた訳じゃないよ。ただ、罪悪感を少しだけ残して食べただけ。でも、恐怖も悲しみも自己嫌悪も全部発狂しない量、同じ量だけ食べた。だから、これは、紛れもないルークの本心だよ」
ルセリアさんはそうか、と呟くと目を閉じる。暫く考え込み、はぁぁ、と大きなため息を吐く。
「それが世界を救おうとする者の目か………なる程お前は人間だよ。何処にでもいる……ただ少し優しすぎて、弱すぎる、な……」
「………………」
優しい?それは解らないが、弱いというのは解る。だって、この動機は……これは言い訳だ。
俺のせいで村が滅んだから、俺のせいで皆が死んだんだから………世界を救おうとするから、どうか許してください。そう言いたいだけなのだ、俺は。
名無しのおかげでその辺りは冷静に気付けた。
「お前、まさか契約はしてないよな?」
「「契約?」」
「何故お前まで首を傾げる………まあ、してないならしてないで良いが」
名無しが俺同様に首を傾げると呆れたようにがくりとうなだれるルセリアさん。話から察するに、それは力を得る行為なのだろう。だが、デメリットもあるのだろう。
力を欲している俺が食いつきそうで、しかしルセリアさん的にはさせたくない。つまりそう言うことだ。
「まあ良いさ。それでお前が納得するなら、許そう。鍛えてやるとも。で、どの程度の厳しさがお好みだ?」
「死にかける程度以上」
「ふん。そうか……なら容赦はしない。とは言え、まずは知識を得てからだ………その前に、飯を食え。腹を膨らませなければ修行も勉強も出来ん」
「そもそもお前はステータスをどういうものだと思っている」
青空の下、椅子を持ってきて座る俺の背中に抱きついた名無しが暇そうに欠伸をする中ルセリアさんが黒板の前に立ち尋ねてきた。
「えっと、それが高ければ高いほど強くなる、的な………」
「逆だ。強いほど、数字が多く記載される」
「………?」
「昔はステータス封印なんかの研究もされていたのだ。ステータスが上がれば強くなるなら、下げれば勝てる。なんて言って非人道的な実験が繰り返された。大戦時代の、一万年以上前の研究だがな……」
当時は敵を倒すことにより、世界に功績を認められ力を与えられるのだと考えられており、それならば世界との繋がりを立つ方法を見つければ、と研究者たちが考えた。しかし実際はレベルアップは世界の恩恵ではなかった。本人の進化、それをある程度封印する術は生まれても切り離す術など作れるはずもなかった。
「そもそも魔女になってから知ったことだが、ステータスとは『全智の魔女』が己の目を世界に配った結果だ」
「………目?」
「ああ。全てを見通す目……良く解らんが、この世全ての情報が詰まっているとされている『ラフルの書庫』という概念に接続する術を見つけてしまい、魔女になってしまった奴だ……つまり私やお前、そこらの草木に至るまで全て知っている。そして個人の力を分かり易く数値化してくれたのがステータスだ」
なんか魔女関連に関して、言い方に違和感が……?
まあ、それは良い。取り敢えず解ったことは、良く転生もののラノベに出てくるレベル封じで技量勝負を強制的にする奴はこの世界には居ない、ということだろう。一応居るのか?一時的な封印は出来るみたいだし。
でも、この世界の強さはこの世界の法則によるブーストではないらしい。
「レベルアップは?」
「アレは簡単だ。殺すか、相手に負けを認めさせると強くなる。相手が強いほどにその幅も大きい」
「どういう法則なんだ?」
「この世界の殆どの生命を構築するのは三要素。物理世界に干渉する肉体。肉体の脳を受信機に肉体を動かし、現象に干渉する精神体。それらを繋げる存在とされ、世界から分離したエネルギー、闇魔法や聖魔法を起こす概念体……主に魂と呼ばれるものだ」
ルセリアさんは説明しながら黒板に二足歩行の熊っぽいのを三重に描く。
世界から?良く解らないのだけど………。
「魂というのは世界から切り離されたエネルギーの塊だ。そして、生きている者全てに宿る。植物は大地から星の力を吸い、草食獣が植物を喰らい、草食獣を肉食獣が喰らう。その際僅かに概念体を取り込む」
ただ食うだけでもある程度強くなれるのはつまりそう言うことだったのか。そして、殺せば強くなると言うことは……。
「その通り。お前の想像しているとおりだ」
そう言って動物らしきものを数種類描いて、それと同じ形をしたモノを描いてそれを熊っぽいのの絵に取り込ませるように伸ばす。
「殺すと相手の概念体の一部を吸収するのさ。食う食わない関係なく、な」
「じゃあ、魔物に殺された親父達は………」
「安心しろ。一部と言ったろ?何も全てではない。本来生命は生まれた時に十分な概念体を持っていて、生きているうちに食物や殺した相手から吸収し不必要な量になる。その不必要な分を吸収するのさ」
だから強い奴ほど強いエネルギー───経験値が手にはいると言うことか。その辺、ゲームの法則が適用されるのが謎だったが、なる程、魂を………。
「故にお前の親父の魂は星に還元…………まあ、その話は良いか………話の続きだ。そして吸収した概念体はやがて肉体と精神体の容量を超える。だから、器を作り替える。これがレベルアップだ」
「器を……」
「その際、器は最適化しようとする。良く走る者なら俊敏さが上がり重い物を運ぶ者なら力が上がり魔力を多く扱うものなら魔力があがる。解りやすいだろ?」
「ああ……」
足が一昔前のギャグマンガのようにグルグルしている熊っぽいのと力瘤らしきものを持った熊っぽいのと魔女帽子をかぶった熊っぽい絵を新たに描く。解りやすいんだが、ぶっちゃけそのファンシーな絵は何なのだろうか?気が抜け───
「…………名無し。少し食う量を減らせ」
「ええ~………まあ、良いけど」
「─────ッ!!」
不快感が戻ってくる。平穏に浸ろうとした脳裏に滅びた村が移る。やる気が、戻ってきた。
折角のご飯の量が減ったのが不満なのか名無しはぶー、と頬を膨らませていた。
「故に強くなりたいなら簡単だ。多くの経験を積み、多くの概念体の吸収………つまりは命を奪う。これの効率的な方法は、相手をいたぶることだ」
「………いたぶる?」
「そうだ。相手に、強く自分を思わせる。その意志が魂の残滓に混じり、より多く経験値を得る。強者を1対1で倒した時強くなるのは戦えば戦うほど強く意識するから。憎しみや敬意であれな。だから、敗北を認めさせても強くなるんだ。殺すよりは僅かだが、漏れた力を吸収できる」
そう言えばこんな昔話を聞かされた記憶がある。実力が自分より上の貴族に決闘を申し込まれ、死を覚悟した男がいた。決闘の理由は男の妻の美しさに貴族が惚れたから。妻は夫が死ぬのを拒み、また貴族の妻になることを嫌い命を絶った。すると男に力が宿った。
これは要するに、夫を思う妻の魂が夫に与えられレベルアップしたと言うことなのだろう。
「後は魂の残滓が染み付いた新鮮な食材を食らう事だな。焼いたり時間が立つとだいぶ離れるから」
「……………」
魂の、残滓………より強い敵をいたぶり、食らう。強者になるには、何とも嫌な道を歩かなくてはならないようだ………。
「取り敢えずは基礎づくりだ。これから飯は、お前が狩ってきた魔物をメインにしよう。ようは、戦ってこい」
「………この辺りには魔物は居ないんじゃ」
「奴らとて私が村から出ぬのを知っている。少し離れれば居る」
「……それは、勝てるのか?」
「勝て」
それは、あまりにもあっさりとした命令だった。スパルタとか言う次元じゃない。
「安心しろ、死拒魔法をかけておいてやる。一度死んだら戻ってこい」
「!?そ、蘇生魔法はないんじゃ………!」
「蘇生ではない。いや、似たようなモノか。だが、根本的に違う……蘇生魔法は死者を生き返らせる魔法。伝説上にのみ存在した魔法だ。死拒魔法は、その名の通り死を拒む魔法。肉体の損傷と概念体の剥離を防ぐ、要するに死んだばかりの相手にしか使えん………良くて10分。それ以降は確率……お前の村は、間違いなく無理だ。お前はここにきた時点で半日以上は眠っていたのだから」
「……………そう、か……」
なら、村は無理だ。俺はあの穴の中に一晩隠れていた。唯一の可能性があったとしたらニーナだけだったが、魔族が死体を運ぶとは思えないし、俺が魔族に攫われ無くてもルセリアさんの居場所も知らないし知ってたとしてもここが暗黒領域である以上村から半日でたどり着ける訳がない。
「………あぁ、そうだ………一度、村に戻って良いか?」
「何?」
「皆の、墓を造ってあげたいんだ………」
「あー、私が少し食べる量減らしたから、そう言う感情も出て来たんだ。どーするのルセリア」
「………大切な者の墓だ。気持ちも分からんでもない。が、お前は魔族に狙われているのだろう?」
「…………護衛を創ってやる。それからだ」
「…………ありがとう、ルセリアさん」
本当にありがたい。そもそも保護してくれるだけでもありがたいのに、本当に優しい人だ。
「ルークは君を優しい人だと思ってるよ。良かったね」
準備をすると森の奥に入ったルセリアに名無しがついて来る。ルセリアは不満げに名無しを睨む。
「ルークから離れて良いのか?」
「大丈夫だよ。この距離でも、食べれるし」
クスクス笑う名無しにルセリアは杖を振るう。ヒラリとかわす。
「私に何のようだ」
「契約って何?」
「……………」
チッ、と舌打ちしたルセリアは、その苛立ちをぶつけるように空に向かって光を放つ。グギャァ!という叫びが聞こえ、枝を折りながらワイバーンが降ってきた。
杖でトン、と叩くと明らかに心臓を貫かれ落下の衝撃で骨が折れたワイバーンが立ち上がる。
「知る必要はない」
「………意地悪」
拗ねたように飛びながら枝の上に立つ名無し。しかしニコッと微笑みルセリアを見る。
「随分ルークを気に入ってるね?愛した男に似てるのや、子に付けようとしていた名前と同じって言うのも……案外、寂しがりやなんだね。本当は、村の人達とも仲良くしたかった?怯えられなければ、仲良くしてた?」
「……知ったような口を利くな、小娘が」
「うん。知らない……寂しいという感覚は知ってても、誰も愛したことがない私は、君の気持ちを知れない。怒らせる気はなかったんだよ。ごめんね?」
そう言って謝る名無しに、ルセリアは再び舌打ちをした。
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