「おかえりルーク、今日も穫れたか?」
「罠はあっちこっち仕掛けてんだ。下手な弓矢も数打ちゃ当たる、何も穫れない日なんてないよ」
門番件衛士のアルクに挨拶して袋の中から今日の成果を取り出し見せる。ザフエロ商会との交渉で買ったマジックアイテムで、見た目に反して抱えるサイズの箱並みに物が収入出来る。高い出費ではあったが一日に穫れる量が増えたので十分もとは取れた。
「ははは。頼もしいな、泣き虫だったルークがこんなに立派になるなんてなぁ。子供の頃に一生分泣いたからか?」
「フリックさんに比べたらまだまだですよ」
「そりゃあ、村の猟師に代々受け継がれる道具袋と長年の経験があるからだ。お前さんの年の頃は彼奴は鼻くそ食べてるガキだったぞ」
「俺はほら、精神の成長が早いから」
「泣き虫がよく言う。あまり無理をするなよ?」
アルクは少年、ルークの頭をグシグシと乱暴になでる。乱暴に見えて、しかしそこまで痛くない。彼には子もいるし孫もいる。子供の扱いには馴れているのだ。まあ両方とも男の子だったが。女の子にこんな撫で方すれば年頃に嫌われることだろう。
「解ってるよ。この辺りは弱い魔物しかでないから大丈夫」
「そうだな。魔族なんて攻めてこないから安心だ。そりゃ、御伽噺で散々聞かされているがもう千年もせめてこれないのだろう?心配しすぎだ」
「………………」
「なぁに、魔族が来たとしても俺が命にかけてもお前等を守ってやる。俺は老人、お前等は子供。未来ある子供に託すのは当然だろう?」
「命は、かけて欲しくないな」
「おいおいそんな悲しそうな顔をするな。解った解った。時間を稼いだら、お前の作った隠れ家に隠れるよ。全く、子供の隠れん坊で何であんなに隠れ家を作るんだか……」
命を懸ける、という言葉に悲しそうな顔で苦笑するルークに肩をすくめるアルク。彼が村の子供達と隠れん坊で作った大の大人も数人は隠れられる木の皮を使うことで外からは解らなくする木のウロや小さな崖の洞窟などに隠れるというと安心したような顔をする。
昔はよく泣く子だった。父や母がそこにいるのに、会いたいと泣く。落ち着くと人が変わったように子供とは思えぬ聡明さを見せ商人に交渉し始める。アラビア数字と言う自分で作った数字を商品として交渉する様などとても子供には見えなかった。そんな聡明な彼は、何故か魔族が攻めてくることを異様に恐れていた。いや、村の住人が死ぬことが、だろう。その辺りを理解しているアルクは立ち去る小さな背中を見て「腰痛が日常化するまでは現役を務めてやる!」と気合いを入れ直した。
「ルーク、遊ぼうぜ!」
「ヤンク、ルークだって疲れてんだよ?」
アルクさんと別れた後家に向かっていると同い年の少年が二人やってきた。主人公の幼馴染みにしてゲームでストーリーにだいたい登場するキャラ達だ。俺に話しかけてきた活発そうなのはヤンク、もう一人の真面目そうなのがアレン。この世界はゲームらしくキャラが美形なので当然この二人も美形だ。子供だからどんな年でも可愛く見えるか……。
「明日は狩りをせず罠の確認だけだから、明日な」
「何だよつまんねーな。まだ日は暮れてねーし遊ぼうぜ」
「ルークは朝早いんだよ?罠の確認して、畑仕事も手伝って……遊んでばかりの僕らとは違うんだ」
「良いよ、アレン。解った解った、少しの間だけだぞ」
「そうこなくっちゃな」
「はぁ……ごめん、ルーク」
「気にするな。悪いのは遊びたがりのヤンクとガキのくせに仕事の真似ごとしている俺だ」
にししし、と悪びれる様子もないヤンクに呆れた視線を送り俺にすまなそうに謝るアレン。苦労してるな……。
と、そこへ新たに二つの影が現れる。今度は女の子二人だ。
「ルーク、帰ってたの。その様子じゃ、早速バカに捕まったみたいね」
「ア、アンちゃん。失礼だよぉ……」
強気な女がアン、おどおどして前髪で目元を隠しているのがニーナ。ゲームの幼馴染みキャラ二人だ。そこまで大きくない村で、年が同じ子供が五人というのは珍しい。アンが村長の娘と言うこともあって基本的には子供達が遊ぶことには寛容だ。必然的に仲良くなる。
「おうちょうど良い。一緒に遊ぼうぜ」
「はぁ、仕方ないわね。でも、今日は動きにくい服だから追いかけっこはなしよ?」
「あ、あの……騎士ごっこは?あれなら、私達あんまり動かないし……」
「ニーナったらまたヒロイン役やりたいのね。じゃあ、騎士役は誰がする?」
「俺は盗賊役で良いよ。何なら、二人で騎士団ってのはどうだ?」
二人揃ってかかってこいと言外に言ってやる。この時ニヤリと笑ってやると短気なヤンクはもちろん意外と負けず嫌いなアレンも突っかかってくる。
「上等だ!本気できやがれ!」
「まあそれでも勝てる気はしないけど、今日こそ一発は入れてみせるよ」
俺は怖いから魔導騎士育成学園なんかにゃ行く気はねーが、此奴等は行くかもしれない。原作と異なり何人か助けられたらどうなるか解らないが、同じ思いをさせたくないという理由だからきっと向かう。此奴等は、強くて優しいからな。
まあニーナは微妙なところか。ニーナルートによると流されただけで本当は怖いと主人公に縋りつくCGあるし、俺が行きたくないと言えば多分行かないだろう。
「ほら、持ってきたぞ」
と、ヤンクが布を何重にも巻かれた棒を渡してくる。チャンバラ用の棒だ。これなら大した怪我もしない。
「お、そうだ。アンはどうする?」
「じゃ、私は女騎士役ね……」
ふふん、と棒を持ち得意気に笑うアン。実を言うとアンはヤンクやアレンより強い。ゲームじゃ身体強化魔法や付与魔法、武技を主に使う近接主体の魔導騎士だったからなぁ。この頃から才能に目覚めかけていたのだろう。
「んじゃ、森に行くか」
ここで暴れるのも迷惑だしな。特に文句がでることもなく森の開けた場所に移動する俺達。
目的の場所に着くなりアンが叫ぶ。
「ここまでよ盗賊!大人しく捕まりなさい!」
恐らく森まで逃げてきた盗賊、というのが今回の設定なのだろう。俺は突然演技が始まり混乱するニーナを捕まえて棒を首もとに当てる。
「おおっと、動くな。動くとこの女を殺すぞ」
「ふぇ?あ、え……えっと……た、助けて騎士様ー」
ニーナが慌てて演技をする。ヤンクとアレンも慌てて悔しそうな顔を作る。
「くっ、卑怯だぞ。レベルが上のくせに人質まで!」
「ふん。この女は連れて帰って俺の女にしてやるのさ」
「ふへ!?あ、よ、よろ……よろしく、お願いします……?」
あ、ヤンクが滅茶苦茶ムカムカしてる。此奴、ニーナルートだとニーナ取り合って殴り合うイベントがあるからな。ニーナが好きなんだろう。因みにセルティエールという学園編で知り合う先輩のルートではアレンと戦う。ハーレムルートだと、この二人を含めた5人と戦うイベントがある。もちろん、ヒロイン達の親とも。
「───っと」
考え事をしていると氷が飛んでくる。棒を振るいた叩き落とすと、背後からヤンクが接近しており俺の顔を狙って棒を振るってくる。ニーナに回していた手を放し後ろに飛び退く。すぐさまアンが殴りかかって来たので棒で円を書くように回し攻撃を受け流し腹に手を当てると強く押す。
「──くっ!」
「もらったぁ!」
バランスを崩しながらも転ぶことはなかったアン。ほんの少し前なら確実に転んでいたのに、成長したなと感心しているとヤンクが迫る。対応しようとすると砂埃が目を襲う。とっさに風魔法を発動しそらすがヤンクの追撃は間に合わない。距離をとる。
今のはアレンの魔法だ。俺と同じく魔法の練習をしているのだ。俺と違いレベリングしてないのに魔法の威力は俺に僅かに劣る程度。
アレンは後衛魔法騎士、ヤンクは中距離戦魔法騎士だったからなぁ、やはり才能がある。此奴等なら、きっと世界を救えるだろう。
「よし、来い!」
「言われなくても、やってやるわよ!」
アンが向きになり迫る。ヤンクも背後に回り隙を伺う。布で巻いているとはいえカンコンとかなり音が鳴るがレベル差で俺の腕はあまり痺れないが、アンは少しずつではあるが顔をしかめていく。その隙を見逃すつもりなく、棒を弾こうとすると背後からヤンクが身を低くして接近する。
回転しながら棒を振るおうとすると地面が泥になり滑る。アレンの援護か。
「あめぇ!」
片手を地面につきながら転んだ勢いを利用してバク転。そのままヤンクの棒を蹴る。
クルクルと宙を舞う棒を呆然とみるヤンク。ヤンクの腕をつかみアレンに投げつける。怪我しないように空気のクッションを魔法で作ってから。
「うわ!?」
慌てて受け止めようとすれば見えない柔らかい何かに弾かれるアレン。尻餅をつきヤンクも風のクッションが消え地面に落ちて慌てて立ち上がる。
ルールでは尻餅や膝をついた時点でゲームオーバー。二人は死亡扱い。残るはアン。
「ふっ!」
弾き飛ばしたヤンクの棒を空中でキャッチして迫る。二刀流か……。
アンにも剣の型なんてない。ただ振り回すだけ。だが、その速さと手数は十分武器になる。防いでも弾いてももう一本が迫る。
「と、く………ふっ!」
だがただ振り回すだけなら俺には通じない。振り下ろされる棒に合わせるように突きを放ち弾く。動揺するもすぐさまもう一本を振るってくるが足で押さえつける。そしてアンの肩に棒をおいて強く押す。力は俺の方が遙かに上。そのまま押さえつけ膝を付かせる。
「ふははは!俺の勝ちだな、あの女は嫁としてもらっていくぞ!」
「ふ、ふつつか者ですがよろしくお願いします……」
「…………いや、逃げろよ」
全く流されやすすぎるだろニーナ。俺が盗賊役って事忘れてないか?
「何で悪役が勝ってるのよ、手加減しなさいよ!」
「お前は盗賊に悪なんだから負けてくれって頼むのか?」
「むぅ……」
「悔しかったら俺に習ってレベリングするんだな。なぁに、同じレベルになりゃ、俺なんてすぐに追い抜けるさ」
ぷくぅ、と頬を膨らませむくれるアンにケラケラ笑いながらそういう。実際、前線で戦うのが怖い俺と前線で戦うであろう此奴等ならきっと此奴等の方が強くなるに決まっている。
「早く強くなって俺に楽させてくれよ?」
「………あんたって本当、現役から退ける前の老人みたいな事言うわよね」
手を差し出すとその手に掴まりながら立ち上がるアン。俺の発言に呆れたように肩をすくめる。
老人って……確かに前線に行く気はないし現役から退こうとしてるって意味では正しいのかもしれないが前世の記憶合わせても俺の精神年齢は24才だぞ。前世が18だから。まぁ、それでも──
「老人結構。お前等の少し先輩になれるだけでも俺にとっては誇りだよ」
さてと、そろそろ家に帰らないとな。あんまり待たせるとノエルに叱られちまう。