アイシア
──私達は
「…はい先生」
──私達はこの世で最も多く繁栄した
「……はい姉様」
──ほかの種族と僕たちは子を残せる。きっと彼らは僕らの出来損ない。きちんと管理してあげるのが優しさだ。いいね?
「………はい兄様」
──最近は
「…………はい母様」
──我が国でも亜人奴隷が権利を求めてきた。全く馬鹿げた事だ。ほら、鞭を持ちなさい。解らせてやりなさい
「……………はい、父様」
それが先生の教えだもの、私達は凡人族ではないのでしょう。
優しい姉様が言っていたもの、私達は繁栄しているのでしょう。
賢い兄様の言葉だもの、他の10種族は私達の出来損ないなのでしょう。
温厚な母様が怒っていたのだもの。トルウスの王は間違っているのだろう。
偉大な父様が仰っていたのだもの。対等に立とうとする
────本当に?
「…………」
目の前で震える
狼系の
けど、泣きそうな顔をしている。いや、泣いている。涙を流して、怖がっている。
痛いのは嫌だ。私だってそうです。だって、痛いのは辛くて苦しい。
彼女達
「あの、お父様。この奴隷は、愛玩用ですよね?その、傷物にするのは───」
──………駄目だ。まず上下関係を解らせなさい。其奴は、人間のなり損ないの分際で権利だ何だと吼える。大丈夫、『奴隷の枷』でどうせ逆らえない。さあ……
「…………」
──サーカスの猛獣使いも、あれだけ仲良く見えてもまず痛みを覚えさせる。さあ……
喧騒が響く。
何処かで誰かの命が振るわれた剣に奪われ、魔法で焼かれ、凍り付かされ、落ちてきた瓦礫に潰される。
怨嗟の声が、怒号が、悲鳴が、帝都中から聞こえる。
『
差別というのは、自分を大きくする。10種族を奴隷として扱い、ただ当然で働かせる。そうなれば金が貯まる。とはいえ奴隷をそう何人も買えるのは貴族や大きな商会の商人ぐらいだ。
そうして貧富の差が開く。
金を手に入れた者は、今度は力を求める。優秀な兵士を金で雇い、自分より地位がある者に金を差しだし権力を得て、その味を占めると力のために金を求める。そこで誰から奪うかというと、当然弱いもの。権力に逆らえず逆らったとしても兵力で言うことを聞かせられる、地位が下の存在。
下の者がどんどん飢え、上の者は肥えていく。
異世界の者が見たら
奴隷当然の扱いを受けていた
そもそも
そもそも彼らからすれば何時でも潰せた。数が違う。それでも奴隷という人質が居るから、また帝国の広大な領地を前に11種族の王達はともかく貴族達が領地を求めて争いを起こさぬか警戒しなくてはならないから見逃されていた。
しかし魔族が襲撃して、11種族が手を組んだ以上、主義国家は必要ない。魔族大戦以降の初の合同殲滅戦がよりによって結界の中で、とは皮肉な話だ。
とはいえ11の王達もこんなに早く行動に移るとは思っていなかった。支援は、あくまで後少し手を貸せば何時でも革命を起こせる、程度だったはずだが……。
故に、一時的にとはいえノーランスの民達だけの革命劇が起きた。支援した金や武器は自分達のものだったが、今の彼等は権力にあらがった自分達に酔っている。それを盾に強請ることは不可能だろう。
誰だか知らないが余計なことを、というのが11の王達の心境だろう。とはいえ、交渉次第では奴隷制を廃止できるかもしれない。交渉の余地が出来たことは儲けものだ。
当然、皇族や貴族の保護など受け付けない。
逃げ場がない彼等はしかし生き延びようと隠し通路や私兵を使い必死に逃げる。そんな隠し通路の一つ、地下水路で、16程の白髪の
「ハク、私はもう良いわ。置いていって」
「出来ません」
「第二皇女である私の首を差し出せば、まだ向こうに受け入れられるから」
「出来ません!」
彼女達の関係は奴隷の主人。しかも主人は本来なら奴隷達に恨まれている皇族。分家ではなく、本家の血筋の、だ……。
奴隷の名はハク。主人の名はアイシア・ノーランス。
「ハク、私は良いの。私達は、それだけのことをあなた達に……お願い、これは命令よ」
「出来ないって言ってるでしょ!───ぐぅ!?」
『命令』に逆らったことにより、奴隷の枷がハクに痛みを与える。顔を歪めうずくまりそうになるが必死に耐える。
「だって、アイシアは、違うじゃない……優しいもの。絶対、彼奴等と同じ扱いを受けるのは間違ってる」
「でも、私は……」
「アイシアは、優しいよ!」
ハクにとって、アイシアは友達だ。失いたくないのだ。奴隷として捕まり、皇族のペットとして売られ、怯えることしか出来なかった自分に優しくしてくれた。初めて出会った日、彼女がしてくれた手当を、忘れない。
と、地下通路をかける中狼系の
皇族派の者ではないだろう。そんな楽観視は出来ない。速い。追い付かれる。
此方が気づいた以上、向こうだって気づいている可能性は高い。というかこの迷いのない足音は闇雲ではなく此方に気付いているからだろう。
ならば、とハクはアイシアを抱き寄せる。
「アイシア、息止めて」
「……へ?あ、うん」
なるべく大声を出さずに囁く。そして、水路に入る。水音を立てぬようにそっと入ると直ぐに潜り水中を泳ぐ。角を曲がったところで水上に灯りが見えた。なるべく早くその場から離れようとする。出来るだけ深く潜って………。と、その時
「────!?」
水面から見える光が強くなる。急いで水底を蹴るが周りの水が邪魔してうまく動けない。次の瞬間、全身が針でも刺されたかのような激痛が走りゴボリと空気を吐き出す。
力なく浮かんだハクとアイシア。ハクはすぐさま岸に上がろうとするが、もう一度体が痺れる。
「皇女を捕らえろ」
岸にいたのは複数の男達。その中の一人が呟くと他の男達が気絶したアイシアを拾い縄で縛る。
「アイ、シアに………触るなぁぁぁぁ!」
それを良しとしないのはハクだ。起き上がり爪で引き裂こうと男達に迫る。
が、男達に命令していた男がハクの爪に触れぬよう手首で防ぎ拳をハクの腹にたたき込む。
「が───!!」
「見上げた忠誠心だな、犬っころ」
「ぐ、う……ぐるるるる!」
歯を剥き出しに唸るハク。首を押さえられ壁に押しつけられ、暴れるがビクともしない。
「ハ、ハク………」
と、弱々しくアイシアが呟き、男とハクの視線がそちらに移る。
「『我が契約を以て隷属を天に返す。此よりその身は世界のもの』」
「─────!」
パキンと枷が外れる。それに目を見開くハク。男はほう、と感嘆にしたように吐息を漏らす。
「逃げて、ハク──」
「い、嫌だ!」
『奴隷の枷』が外れた以上、ハクは自由だ。少女のために命を懸ける必要はない。
が、ハクは奴隷だからではなく友人として、アイシアを見捨てたくなかった。
「意外だな。てっきり、殺せとでも命じるのかと思っていた。まあ、それでも殺されてやる気はないが」
「───ッ!アイシアは、他の奴等と違うの!もう解ったでしょ、見逃してよ!」
なるほど確かに捕まるまで………捕まっても地位がどうだの高等な我等を下等な貴様等がなど喚き散らしていた皇族、貴族とは違うのだろう。だが──
「それがどうした?他の奴等と違うから、罪がないとでも?このガキが暖かい飯にありついている間、どれだけの子供が飢え、死んだと思っている。このガキが暖をとっている間、どれだけの子供が凍えて死んだと思っている。それだけで、このガキに罰を与えるには十分な罪だ」
「─────ッ!!」
ギリッ、とハクが歯を鳴らす。自身の首を押さえる男の手首を握り、力を込める。
「ふざ、けるな……富める者は飢える者に、奉仕しろっての?権力者の子供に生まれただけで、政治に全く関われない子供も責任もって死ねって言うの?平等を謳っておいて、お前等の方がよっぽど差別的じゃない!」
「…………………」
ハクの言葉に男は目を細め、ハクを地面に向かって叩きつける。床がひび割れ水路の水が大きく波立つほどの衝撃。ハクは白目をむいて気絶した。
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月に一度の墓参り。ルークは墓の前で数分間は目を閉じ立ち尽くす。
ネロは暇なのか廃村の近くに縄張りを移し、ルークが来ると様子を見に来るトライアイウルフ達と戯れていた。何気に墓守をしていたのでその報酬としてルークが狩った魔物の肉を与えられたトライアイウルフ達は栄養もしっかりとり、新しい命を繋いだ。
その子狼のお腹をワシャワシャ撫でる。
「ね~ね~聞いてよワンチャン」
「クゥン?」
「普通ね、墓参りってさ、死んだ人に近況報告したりするのが主なのにルークったら彼処で突っ立って憎悪しかはなってないんだよぉ?」
死者の声など届かない。ルークは、村人達が生き残った自分に何を望むのか解らない。少なくとも、復讐など望んではいないだろう。平穏に生きてくれ、幸せになってくれ、そんな事を願う人達だ。それは間違いなく
だからルークがここに来るのは、彼等に会いたいからでも話したいからでもない。忘れないためだ、憎悪を。
元より忘れるつもりはないが、一度目を失った後、二度目を受け入れようとしていた。三度目がないとは限らない。だから、こうして忘れぬよう月に一度、村に来る。
「………悪いな。待たせた」
「あ、終わった~?撫でる?」
「いや、良い」
戻ってきたルークに撫でていた子狼を抱えて差し出してくるネル。ルークが興味なさげに言うとそう、と呟いて下ろす。子狼はルークの足下にすり寄り、他のトライアイウルフ達も寄ってくる。撫でで欲しいのだろう。ボス狼の顎下を撫でてやる。
「………此奴等、何かでかくなったな」
「んー?まあ、ルークのお土産食べてるからじゃない?」
強い魔物はそれだけ概念体、魂が大きい。当然新鮮な肉の残される残滓の量も多い。ルークの持ってくる肉はこの辺りの魔物を狩るよりよほど成長できる。
「魔物や魔獣は器が一定以上成長すると進化するからねぇ……この子達はまだだけど。進化も近いんじゃないかな?」
「そういうものか……」
撫でるのを止め歩き出すルーク。ネロは子狼達を撫で回していた。
「行くぞ、早く来い」
「は~い♪」
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「ああ、戻ったか」
アンデッドワイバーンに乗り戻ってきたルークとネロを見て、ルセリアは読んでいた本を閉じる。
「……………」
「?何だ……?」
と、ルセリアが不意にジッとルークを見つめる。その視線に気づき首を傾げるとルセリアは一枚の封筒を取り出す。
「……魔女集会の誘いだ。お前を連れてこいとある……来るか?」
「魔女集会?」
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