不死の魔女達の会合、魔女集会。そこに紛れる脆弱な人間一人と魔獣一匹。
人間の契約者である闇精霊は国一つ二つ簡単に落とせる魔女達の集まりを物珍しげに見ていた。
「凄いねルーク。ここにいる戦力だけで銀河の一つや二つは簡単に消し飛ばせるよ」
「魔女ってのはそこまで強いのか」
「不死身って言うのは、それだけ膨大なエネルギーを持ってるってことだからね」
「……………」
まあ言われてみればルークも契約で魔力を引き替えにネロに回復させているからそう簡単に死なないだろう。逆に言えば魔力が尽きれば死ぬが……。
そうなると完全なる不死というのは無限のエネルギーを持っているということになるのだろうか?そんな事を思いながらルセリアを見る。
「?なんだ……」
「いや、魔女ってどれぐらい強いんだろうなって」
「まあ、今の人類種の平均的な強さから考えて、戦闘に特化した奴なら一ヶ月もあれば人類種を殺し尽くせるだろうな。他の魔女の邪魔さえなければ」
「……………」
ルセリアの言葉に何とも言えない顔をするルーク。この世界、実はかなりインフレだったらしい。魔女をうまく引き込めれば魔族なんて簡単に滅ぼせるのでは?いや、魔族達の母とやらも魔女らしいが……。
「……ん?」
そもそも魔女って子を残せないのではなかったか?ネロとルセリアから気絶した後の話は聞いていたが、今更ながら疑問に思うルーク。
まあその当たりは今回の話で知れるかもしれない。このタイミングでの集会だ、目的は間違いなく魔族の事だろうから。
「それでは皆さん。まず、今回の集会の目的は解りますね?」
恐らく今回の進行役であろうアルクメレアが切り出す。
「ルセリアの養子を見に来たんじゃないの?」
「あれ、精霊?契約者?珍しいね……」
「だから養子にした?」
「いえ、クリスさんに似ていませんか?」
「つまり燕?」
「血の臭いが濃いけど、そういう激しいプレイ?」
「え、どんなプレイですか?」
「これ魔物の血の臭い……」
「じゃあ森番として雇ったの?」
「いやクリスに似てるんでしょ?危険なことはさせないよ」
「でも血の臭いが染み着いてるわ。子供なのに、レベルも……大戦時代の子供みたい」
「そう?弱いわよ?」
「貴方の知る大戦時代はそうなのでしょうね」
最初の一言に、魔女達の視線がルークに集まる。蛇に睨まれた蛙どころか竜に睨まれた蠅にでもなった気分だ。蛙なら或いは逃げきれそうだが蠅如きでは千里逃げようと火で焼かれて消えることだろう。そんな感想を抱くほどの、圧倒的威圧感。
「………興味を引かれるのは仕方ないが、少しは気配を抑えろ。それと、私の操はクリスにのみ捧げている。此奴はあくまで養子だ。ふざけたこと抜かすとぶち殺すぞ」
「「「─────」」」
ピタリと魔女達の声が止んだ。殺すと言われても死なない筈だがそれでも黙るのは権力か、或いはルセリアが余程恐れられているかのどちらかだろう。
顔を青くして震える者も居るし、そもそも不死の魔女に地位など無意味そうだし恐らく後者だ。
「もう、皆さんあのルセリアさんが男の子を育ててると聞いて、邪推しすぎですよ。あのルセリアさんに限って、それはないですよ」
「私がルークを拾ったのをバラしたのは貴様だろうが」
何を他人事のように、とアルクメレアを睨み付けるルセリア。アルクメレアは我関せずとニコニコしている。そんな態度になれているのかチッ、と舌打ちするがそれ以上は何も言わないルセリア。
「………まあ良い。本題に入れ」
「はい。皆さんも知っていると思いますが、魔族がまた動きました。その上で、
「不参加。死なない私達が殺しただけで死ぬ者の争いに参加するのは、道理が合わないだろう」
そう言ったのは騎士風の魔女。見覚えがある。ゲームにも出てきた、『剣の魔女』タルトだろう。スチルと良く似ている。
ゲームの説明文だが剣の一振りで軍を凪ぎ払った強者だ。
「まあ、未だ戦地に立つべきでもない幼い子を御輿にしていたら流石に思うところはあるが……」
「『勇者』でも現れればともかく、幼子を御輿にする者はいないでしょう」
「あ、『勇者』なら現れましたよ」
「─────」
ピクリとルークが反応する。『勇者』が現れた。それはつまり『救世の勇者』というスキルを持つ者が現れたということ。そして、それは自分ではない。
まあ、当然か。所詮自分は『主人公』の体に生まれ人生を乗っ取った紛い物。戦う動機だって不幸な者を生み出さぬ為ではなく純粋に己の怒りに流されるまま。『勇者』などに選ばれるはずもない。
「ルーク君と同じくらいの子ですね。
あははは、と笑うアルクメレア。
要約すると愛し合っていたが身分故に結ばれることが出来ず逢瀬を繰り返していた女に子が宿り、王に迷惑をかけぬ為に城を出て女手一つで子を育て続け、その子供が勇者となり再び王家に返り咲く、と……。何とも庶子受けしそうな話だ。
娼婦に身を堕としたとなればそれはそれでやっかみもあるだろうが、それは子の活躍でどうとでもなる。何なら、一気に有名人になってしまいしかも
「母親は勇者の母と言うことで一気に有名人。でも、貴族御用達の妓楼ならともかく
「本人から?」
やけに早熟なガキだ。『救世の勇者』の影響だろうか?それとも元々聡明な子なのか………或いは──
──1人は力を、1人は愛を求めました
「……………」
最低でも、
子に聞かせる寝物語のような一文だったが、要するに自分同様この世界に産まれてきてしまった者達がいて、そのうち一人が力、一人が愛とやらを願ったのだろう。力…………『勇者』、同年齢。聡明。何とも崇め奉られそうな動機……。
偶然か?
だがそうなると………。いや、難しく考えても意味はないか。
「まだ6だというのに………王も王だ。御旗が必要とは言え、そのような子供に……」
「本人が選んだ以上本人の自由だろうが」
「何?」
ルークが不機嫌そうに呟くとタルトの瞳がルークに向く。ルセリアが責めるように睨んできたが無視する。
「本人の覚悟を確かめるとでもいって試す気か?お前のその余計な行為で魔族共を滅ぼすのが遅れたらどうする気だ」
「………君は、魔族に挑む気か?その程度で?」
「鍛えるさ」
「頭打ちになるかもしれないが?志半ばで死ぬかもしれない。君はその時後悔しないと言い切れるのか?」
「後悔?まあ、するだろうな」
「私は、それが許せないんだ。いや、君の場合君の責任だが、勇者の場合、周りに流されたというのも否定できないだろう?」
「勘違いするな。俺が後悔するのは、もっと鍛えておけば、だ………魔族を滅ぼせないことを悔やみこそすれ、復讐を選んだことを後悔する気はない」
「…………人の心は本人も解らぬものだよ」
それはそうだろう。いざ死ぬ時に、こんなことをしなければ、そう思う者は少なくないはずだ。と、ルークはネロを抱き寄せる。
「そのための此奴だ。恐怖を食わせる。後悔も………俺はただ、この憎悪に任せて魔族を滅ぼす」
「………君の意思は尊重しよう。だが、勇者は別だ。私はね、子供が、こんな血筋に生まれなければ、あの時剣を執らなければ、そう後悔して死んでいく様を、見たくないのだよ」
「………………」
きっと沢山見たのだろう。沢山看取ったのだろう。その言葉には、重みがあった。思い返せば彼女は魔女に至るまで剣技を極め、永い時を生きていたのだ。その思いを、二十そこらのガキが計れるものではない。
「………悪かった。アンタの言葉、胸に刻もう」
「私も、ムキになりすぎた……君は、死ぬ存在だ。そういった存在と話すのは、久しくてね………それと……」
チラリとネロを見る。抱き寄せられ、そのまま抱きつきスリスリと己の物に臭いをつける動物のような行為をするネロは視線に気づき、しかしどうでも良さそうにルークに臭いをすり付ける。そんなネロに何とも言えぬ目を向けるタルト。
言いたいことは解る。恐怖がない者は早死にするとでも言いたいのだろう。しかしルークは恐怖を乗り越えて戦えると豪語するほど、己の評価を高くしていない。ネロが居なければ、命を懸けることも出来ずそんな自分に自己嫌悪が増し首でも括るだろう。
興味を持たないネロの代わりに見返すと、伝わったのかため息を吐く。
「難儀なものだ………しかし、ふむ………ルセリア、その子を私に育てさせてはくれまいか」
「む?」
「こうして会ったのも何かの縁だ。もちろん保護者である貴方や本人の意思を尊重するつもりではあるが……」
「私としては願ったりだ」
「俺も頼みたい。ステータスだけあがっても、技術が伴わないなら意味がない」
「ああ。承った」
と、タルトが笑みを浮かべる。次の瞬間──
「ずるイ!私も修行つけるヨ!」
「あ、じゃあ私も~!」
「え、いいの?なら私も薬学について教えるわ!」
「私、人形繰を……」
「獣について」
メイ・インを筆頭に魔女達が次々声を上げる。
「魔女は恐れられるのが常だ。己を魔女と明かしたまま弟子などとれない」
「つまり魔女と知りながら態度を変えない俺を鍛えたいと」
面倒くさい。薬学など戦いに役立ちそうにない事などは抜かしたいのだが………。とはいえ下手に断ることも出来そうにない。
助けを求めるようにルセリアを見る。
「………私としては受けるべきだと思うぞ?魔女の師事など受けたくても受けられるものではない」
「………了解」
「うーむ、しかし、言い出しっぺとはいえここまで魔女が関わるのはどうなのだろうか。いや、彼は殺せば死ぬのだが……」
と、魔女達が一個人に関与しすぎるのを良しとしないタルト。
「今更だろ。そもそも魔族だって魔女が産んだ種族だぞ」
「何?」
「え、てことは……ルセリアやネネ以外に発芽者が!?」
「………………」
一人の魔女の言葉にルークは何故ルセリアが?と視線を向ける。ルセリアはチッ、と舌打ちした。
感想お待ちしております