主人公転生   作:超高校級の切望

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タルトとの修行

 魔女集会の翌日、体調も回復したルークは森の中の開けた場所でタルトと対峙する。

 

「鍛えると言った手前悪いが、実は私は弟子をとるのは初めてでな」

「なら、どうやって鍛える気だ?」

「取り敢えず私が剣を振るうから、避けたり受けたりしながら動きを見てくれ。大丈夫、手加減はするから」

「………それで強くなれるのか?経験値かせ──概念体を吸収してた方が強くなれそうだが」

「ステータス上は確かに強くなれるだろうな。けど、強者を食らうには技術が要る………君の目的を考えるにレベルはもちろん技術は得ていた方がいい。なに、レベリングもするさ。私、メイ・インとの修行、そしてレベリングの順番で。今日は私だ………構えろ」

 

 取り敢えず木刀を構える。マルグスから習った構え。一通りの基礎は出来ているつもりだ。タルトはほぉ、と少し感心した様子で笑う。

 

「基礎は出来ているな。なら、ふむ………取り敢えず当てられるように頑張れ」

 

 その言葉と同時にルークは駆け出す。視線を喉に向け突きを放つ────フリをして伏せ足を狙う。身長差のある幼い体ではまともに打ち合うことなど出来ない。ならば搦め手を使う。

 

「うん。正しい。私も昔はそうしたからな」

「───!!」

 

 が、防がれる。タルトが地面に突き刺した木刀を叩き付けた瞬間、弾かれる。地面に深く刺さった鉄でも殴ったような感触。驚愕する中何時の間にかタルトが剣を掲げ、振り下ろしてくる光景が目に映る。

 目の前に迫る木刀に対してルークは体を回転させ、木刀に巻き込む形で剃らそうとする。が、押し切られる。肩に木刀が触れた瞬間大岩でも乗ったのでないかという程の重圧がかかり地面に押さえつけられた。少し埋まる。

 

「とはいえ遅いし力も弱い。君のステータスは見れば解るが、今の私はそれでも何とか勝てる程度には手加減しているはずだが?」

「本当か?」

「本当さ。君には才能がある……私か保証してやろう。ただ、転生だったか?イメージと実際の体が完全に釣り合っていない。まあ、前世の方が長く生きていたのだから仕方ないか」

 

 タルトは微笑みながらルークを掘り起こす。肩を思い切り叩かれたはずなのに骨は折れておらず、外れてすらいない。本当に手加減されている。

 

「そう不服そうな顔をされるのは心外だな。私は魔女にいたるほど剣を振るい続けた女だぞ?それに、何万という時を生き剣を振り続けたんだ。実力差があるのは当然だろう」

「………それは、そうだが」

「何、これは私の持論だが、百回の戦闘は百年の素振りに勝る。相手が格上となればなおさら……直ぐに追いつくさ」

「………それで、アンタは何万回の戦闘を経験したんだ?」

「………そうか、この持論で行けば定命の君が何億と戦闘を繰り返した私に追いつくなど無理な話か…………いや、でも才能があるのは本当だ。きっと追いつける」

「因みに聞くが、アンタ目立った傷痕がないけど魔女化して消えたのか?」

「私は戦場で痕が残る程の怪我をしたことはないな……」

「…………………」

「あ、いや……ほら、大戦時代は回復魔法も今よりずっと高性能だったし」

 

 ジト目で睨んでくるルークに慌てて言い訳をするタルト。

 流石魔女に至る才覚持ち、初めて戦場にたったその日から規格外だったらしい。

 

「ああ、うん……確かに私は才能があった。というか、魔女全員一つは才能があるな」

「努力家完全否定だな」

「そんな事は無い。私だって傷痕が残らなかっただけで怪我はしていたし、何の努力もなく世界に認められるものか」

「認められる?」

「………まあ、そこは良いだろう。要するに才能があって努力した者が強くなれる。才能にあぐらを掻けるのは単なるバカだ。私は家が特殊だったから、基本的に才能を持った子が産まれやすい血筋なんだ。つまり才能があり、それを鍛えられた」

「そういう家系なら幼少から剣の腕を鍛えるんだろ?才能も何もねーと思うが」

「私は私が殺してきた相手の中にいた年上や同世代が私より怠けていたなどと言うつもりはない。その上で勝ったのだから、私には才能があるのだろうさ」

 

 それはまあ、そうだろう。漫画や小説では神から才能を貰った奴や、最近では努力してそいつ等を倒すなんて言うのが多いが、その努力家だって才能があるはずだ。そうでなければ、そのキャラ以上に長生きしているはずの者達が何の努力もしていないことになる。そんな事あるはずないのに。

 

「幸運なことに君には才能があり、さらに幸運なことに君にはあぐらをかかせないだけの師がいる。まあ、復讐が生きる意味の君が、強くなろうとしないなんて初めからあり得ないことではあるけど……さぁ、来るが良い」

「───!」

 

 再び足を狙い駆ける───と、見せかけ土を掴み顔に向かって投げつける。卑怯などと言うまい、相手は遙か格上で、そもそも殺す気で行ってもまず勝てない化け物なのだ。死なないし。

 別に目潰しが出来るとは思わない。ただ、ほんの一瞬だけ──

 

「────!?」

 

 僅かな隙を付くつもりが何の躊躇もなく木刀が振るわれる。視線はこちらに向いていないどころか、目を閉じているのに木刀はルークを狙う。が、せめて一撃と無視して突っ込む。

 

「それは悪手だ」

「げが!?」

 

 下からすくい上げるように振るわれた木刀が胸を打ち付けた瞬間肺の中の空気を吐き出し激痛に悶える。

 

「食らう前提で突っ込むのは悪手だ。痛みを伴い覚えておけ───いや、そういえば君は死の恐怖も痛みへの忌避もその子に食わせてるんだったな」

 

 技術向上のための修行には霊装を使わないのですることもなく暇そうなネロを見るタルト。視線に気付いたネロは石で岩に絵を描く手を止め振り返るとルークに向かって手を振る。

 

「死ぬことには恐怖はしないが、忌避はあるつもりだ。死ねば魔族を殺せないからな」

「そうか、じゃあ殺す気で行こう」

「は?───ぐっ!!」

 

 ヒュン、と空気を切り裂く木刀。手加減はしているのだろう。反応できる速度。それでもかなり早いだろうが、所詮木刀。ルークのステータスなら耐えられそうだが、全身の細胞が警告を発しルークはその警告に従い慌てて近くの木の上に飛び移る。

 その木が近くの岩ごと切り裂かれた。

 

「………………」

「木刀で止めようとする分には、弾き飛ばすだけで勘弁しよう。ただし、その体に触れればその部分を切り落とす」

「………木刀だよな?」

「人を斬るのに鉄の剣など不要だ。何なら、無手で斬ってやろうか?」

 

 ブンと木刀を持つ手とは反対の手を剣を持つような形して振るうと見渡す限りの木々が切り裂かれる。枝同士が絡み合い倒れることがないのは救いか……。

 

「………ところで、君は『生命魔法』は得意か?」

「基本的に苦手な魔法はないが……」

「森の木々を治してやってくれ……」

「無駄に魔力は使いたくないが………まあ、此方は教わる身だしな」

 

 魔法の練習になると割り切り木々に触れる。切れ目から覗く木目が蠢き斬られた箇所と繋がり歪な形であるがくっ付く。残りは、と視線を向ければ、終わりが見え無いことだけは解った。思わずタルトを睨みつけると流石に気まずいのか視線を逸らされた。

 

 

 

 

「剣を振るう時、常に己の体の状態を意識しろ。体重移動はもちろん、次の動作に移る際に行う動きで意味のないところを見つけ、効率的に動かせる方法を見つけ、その上で動け。出来なければ死ぬと思え」

「…………」

 

 森の木々を全て治し終えると再び相対する。効率的に動けと言われても、いきなりは不可能だろう。だから、取り敢えず己の動きを意識しながら避けに徹する。

 

「…………」

 

 体重がどちらに傾くと、どこに意識が向き、それに対してタルトの攻撃が何処から来るかを必死に記憶する。タルト曰わく今のルークのステータスに合わせて手加減しているらしい。技術以外は、だが……

 その技術だってルークを殺せる程度に手加減している。

 

「─────ふぅ」

「………ふむ」

 

 全身切り傷だらけ。森の再生のせいで魔力を殆ど使ってしまったので治す必要のある傷だけ治し、細かい傷は放置。血が乾き、しかし流石に流しすぎた。生命魔法で血を生み出すが魔力もそろそろ底をつく。

 

「魔力が尽き掛けてるのは私のせいだからな、次どちらが攻撃を受けたら終わりにしよう」

 

 と、言いつつも初めから最後まで攻撃を受けているのはルークだけ。

 

「……………」

 

 魔族との戦い、死者の谷で得た戦闘方法を思い出す。霊視を発動し己の概念体を認識、操作……。足に移動させ、地面を蹴る。

 

「ほぉ……」

 

 ステータスを超えた爆発的な加速。しかし反応され、振り下ろされる木刀。右に重心を傾けると追うように木刀の向かう先が変わる。ルークは次の瞬間左に飛んだ。

 傾けていた状態から無理矢理右足を伸ばし地面を蹴り、股関節がビキリと鳴る。しかし無視して左足で空を蹴りつける。

 これも概念体を集中して行った蹴り。音速を超えた蹴りは空気を踏み込み衝撃波を発生させ、勢いそのままタルトに向かって木刀を振り───

 

「惜しかったね」

 

 タルトの微笑み

 

 

 

「─────」

 

 目を開くとネロに膝枕されていた。ルークが起きたことに気づいたネロが顔をのぞき込んでくる。

 

「やられちゃったね?悔しい?悔しいよね……」

 

 ルークから悪感情を吸おうとしているのかケラケラ煽ってくるネロ。特に何も感じないがネロに食われているだけかもしれない。

 

「悲観することはないぞ。手加減しているとは言え殺す気でやったんだ。生き残ったことをまず誇ると良い」

 

 と、ネロの隣に座っていたタルトが頭を撫でてくる。ネロも真似して撫でてくる。

 

「ひとまずこの強さで君と戦おう。一撃でも入れられたら少し強く、また一撃入れるまでその強さ。これを繰り返そう……もちろん殺す気でな」

「……………」

 

 今日とて攻撃を当てるより避けることのみを考えてこれだというのに、これをずっと続けるらしい。明日はメイ・インとの修行………。

 

「メイ・インは、うん……ボコボコにされたあとペロペロされるかもしれないが、まあ……頑張れ」

「早く二ヶ月半経たねえかな」

「あれはあくまで君が強くなること前提の条件だ。時間をとばしても意味はない……それに、気づかなかったか?今日一日の時間の流れが遅い。この辺り、時間の流れが操られている…ルセリアの仕業だろうな。二ヶ月半という期間から考えてルセリアもある程度君の才能を信じているが、やはり不安のようだ。まるで本当に母のようだな」

「………母親、か……」

 

 最初の、前世の母親とは世界を分かち、二度目の、この世界の母親は死んだ。二度だ、二度も大切な家族を失った。失うのは、とても怖い。とても辛い。二度会ったのだ、三度目は?ルセリアは不死だ、死別することはない。でも、自分は違う。簡単に死ぬし、この世界に来たみたいにまた別の世界に行くかもしれない。

 その時に、大切な者が一人もいなかったら?もう二度と、会えなかったら?

 

「家族はいらない。仲間も……俺にとって死んでも良い奴だけ集める」

「拗らせているな……血の繋がりは無いはずだが、君とルセリアは良く似ているよ。本当は別れが怖い寂しがり屋なんだな」

「………かもな」

「訂正しよう。君はルセリアよりずっと素直だ」




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