傷はルセリアに癒してもらい泥のように眠った翌日。メイ・インとの無手での戦闘訓練。
剣すら使わないのでいよいよ無関係なネロは観戦にすら来ずにタルトとどっか行った。本人曰く剣の形状を取るので剣について詳しく聞くそうだ。今のままでは単なる堅い剣の形をした物体だとか言ってた。
木刀で森を切り裂くような奴に剣の知識があるのかは知らないが……。
「あるヨ。だから『鍛冶の魔女』エルゼとは仲良いネ」
「そうか」
「案外今ハそっちに向かったかもネ」
「因みにその魔女は?」
「人里に住んでるヨ。まあ、彼女ハ剣を造って売って旅立つさすらいの鍛冶師だけどネ」
「………そもそも魔女同士で国を造ったりはしねーのか?お互い不死だろ」
人との繋がりが欲しく人に関わる魔女も、その繋がりを失う恐怖に耐えられず人に関わらない魔女もどちらも不死者だ。ならば彼女達同士で国でも造ればいい。不死かつ強力な力を持つ魔女の国に攻め込む者など居ないだろうし、居たとしても返り討ちにすればいい。
強大な力を持つ故に人の世の戦争に関わらないようにしていると言っても向こうから向かってくるならその限りではないだろうし。
「………魔女同士は長い間同じ場所に留まれないヨ。世界が歪んで何が起きるか解らないネ」
「そういうもんなのか?」
「そーいうもん。今はルセリアいるシ、3人だけデ期間も短いカラ平気ヨ」
ここでルセリアの名が出てくる辺り、やはり魔女の中でも特別な存在なのだろう。話の流れから察するに世界の歪みとやらを押さえているのだろうか?
「マ、それより修行修行……タルトから聞いたヨ。才能はあるテ」
「才能」
「才能ある、素晴らしいことヨ。才能もなく英雄になった奴居る訳ないネ」
この魔女も名前からして完全に武闘派なのに目立った傷はない。大戦時代は回復魔法も発展していたと聞いたがそれでもタルトの台詞を思い出すに彼女もまた才能に恵まれていたのだろう。魔女になるほどの……
「オ前概念体、魂の操作できるんだって?」
「ああ……てか、改めて魂魄魔法ってなんだって思ってきた」
「魂魄魔法は精神魔法の上位ヨ。確かに概念体に干渉出来るケド、別の肉体に定着させたリするぐらい」
「それって、生きてる間にやらなきゃ駄目なのか?しかし、魂の定着………ゴーレムの核とかに定着させれば……」
「止めといた方が良いヨ。本来の肉体じゃないと効率化……レベルアップが難しくなル」
なら止めておこう。魔族殺せなくなるし、とあっさり止めたルークに呆れた目を向けるメイ・イン。どんだけ魔族殺したいんだろうか………。
「まあ、復讐者の気持チも解らなくないネ………魔女の中にはそう言っタ経緯で特技を伸ばして至った者、少なくないヨ」
「復讐は莫迦らしいと思うか?」
「思ウ……何百人殺したところで、殺されタ奴戻って来ないヨ」
「……………」
「でも、人それぞれだけどスッキリするヨ。私もそだった………だから、否定ハしない」
「そうか……」
「…………」
どこか安心したようなルークを見てメイ・インは頭をポリポリかく。ルセリアと似ているとは良く言ったものだ、実はかなりの寂しがり屋だな此奴。
自分が進む道を肯定して欲しかったのだろう。一人でも肯定してくれる者が居なくては不安だったのだろう。まあ、あの闇精霊とかいうネロなら肯定するだろうが彼女の場合それはルークの心の闇を食らうためだしかなり胡散臭い。だからこうして復讐の話題が出て話を振ったのだろう。
「面倒な性格ネ」
「自覚はしている。もう大丈夫だ、元々何言われようと止める気はなかったが、その言葉さえあればこの先他の奴の言葉なんて無視できる」
「そ……なら修行始めるヨ………概念体の操作に付いて、お前どう見えル?」
「靄みたいなのが身体から溢れる感じ」
「ん、じゃ私も見てみるヨ」
その言葉に霊視を発動しメイ・インを見る。自分の倍近くはある量のオーラが溢れていた。と、そこで違和感を覚える。倍近く?おかしくないか?
概念体は本来の量に加え他生物を食らうか殺すかをして吸収出来る。そしてある程度溜まると概念体の量に耐えられるように器を更新する。これがレベルアップだ。自分の今のレベルは32。大戦時代以降から生きていて魔女へと至った程のメイ・インの概念体が倍近くしか無いのはどう考えても可笑しい。
「ん、正しく見えてるみたいネ……じゃ、注目」
「……………!!」
ブワ、とオーラの……概念体の量が増えた。自分の意志で増やせるもんなのか?だとしたらレベルなんて簡単にあげられそうだが………。
「お前考えること、多分勘違い。これ、増えた訳じゃない。元々中にあったヨ」
「?」
「概念体大きくなっても器も丈夫になれば容量も増えるネ。これは中に入ってた概念体を解放したヨ……で、これを……」
「…………」
ルークの視界の中で揺らめいていたメイ・インのオーラから揺らぎが消え、ゆっくりと体に引き寄せられていく。最後には体を僅かに覆う程度になる。
「減った………いや、圧縮?」
「ソウ……概念体の圧縮………これ硬気巧呼ばれてた技ネ…移動させて他の部分の防御力減らすよりよっぽど実用的ヨ」
「………やり方は?」
「まずは器に詰まった概念体を外に出すヨ。どんな生物も普段器の中に圧縮してるかラ圧縮なんて簡単簡単……」
と、メイ・インがルークの肩に触れる。途端、内側に何かが入ってくる感覚。そして───
「─────」
内側から力が溢れ、抜けていく………霊視を発動したままの視界には大量の概念体が溢れだしていた。
「これ、を……どうやって……圧縮する?」
「……さあ?私初めてやて出来たヨ」
「………………」
取りあえず自分で放出できるようになるためにこの感覚だけは覚えておこう。
「……?」
いっこうに圧縮しようとしないルークを見て首を傾げるメイ・イン。才能があるとは言われたが、魔女に至るような天才に比べられても困る。
「んー……じゃあ今日は放出の練習だけで良いよ」
魔物を狩る。
魔獣を狩る。
敢えて攻撃を受け、敢えて毒を食らい、敢えて焼かれ、敢えて凍らされ、敢えて雷を落とされ、そんな事を繰り返して殺して喰らう。
「……んぐ……ぷは……」
元のレベルは低いがこの世に完全に定着し死体をそのまま残した魔物。その肉を食らい血を啜っていたルークは息継ぎのために口を離す。
「二ヶ月半、あっと言う間だったねぇ………ルークは強くなれたかな?」
「付け焼き刃だ。実践には殆ど役に立たない……剣術修行は精々反射神経と胴体視力が上がっただけだしメイ・インとの修行は基礎を始めたばかり。漸く圧縮が出来始めたがムラだらけだ」
「大丈夫大丈夫。ネロも手伝うから、ね?」
「……そういうお前はどうなんだ?」
「うん。剣について大分学んできたよ。前より切れ味も丈夫さも上がったはずさ」
「そうか、頼りにしてる」
ノーランス。
革命戦争が起き、未だ倒壊した建物の修復も行われていない国の一角で冒険者風の男達が暇そうに話しあっていた。彼等の後ろにあるのは収監所。中には今回の革命で捕まった私腹を肥やす元貴族や皇族、その配下達が捕らえられている。
「見張りとかマジ面倒くせぇ………奴隷どもにやらせりゃ良いのによぉ」
「馬鹿、言葉を選べ!ライアス殿に聞かれたらどうする気だ!」
「あー、あの人平等主義者だからな、亜人に対しても……」
「亜人も人権が~だっけ?奴隷制度無くそうとしてるんだよな」
「まあ、俺も革命戦争で命救われたけどよ」
「俺も……てかあの人がいちいち言うってことは預言者のお告げじゃねーの?」
「ああ、じゃあ逆らわねー方が良いな……それに俺ユウナちゃんと美味い酒飲みたかったし」
「それ水商売の奴隷だろ?お前仕事の一環で相手されてただけだろ」
「………う」
などと下らないことを話し合えるのは、彼等の中ではこの国が平和になったからだろう。
「でもなぁ、やっぱり亜人と同列なんて反対派も出るだろ」
「まぁな、どんな奴でも亜人の扱いに比べればマシって思えてる奴多いからなぁ……亜人つえば知ってるか?第二皇女のペット、逃げたらしいぜ」
「ああ?その日の見張り何してたんだよ……逃げたって何処に」
「地上は目が多いし、ダンジョンに逃げてたりするかもな。ほら、負けたわけだし強くなりたくて」
「ははは。だとしてもライアス殿に勝てるわけ………ん?」
と、男の片方が不意に声を止める。短髪の女が此方に向かって歩いてきていた。狼人系の
「おい女、ここに何のようだ。関係者以外立ち入り禁止だぞ」
「…………」
「………お?」
男がシッシッと手を払うと女はニコリと微笑む。美しい女の笑顔に思わずドキリとする男達。片方は俺にはユウナちゃんが、と首を振る。と、今度は女はゆっくりした動作で胸のボタンを外す。男達の視界が女に釘付けになり、女は今度はスルリとスカートを捲っていく。
「お兄さん達、革命軍ですよね?私を抱きませんか?タダで良いですから」
屈んで胸元を見せるようにし、片腕で胸を強調して上目遣いで見つめてくる女。ゴクリと喉が鳴る。
「……ど、どうするよ?」
「まあ俺達ヒーローだし?良い思いするべきだろうしなぁ……?」
「見張りはどうすんだよ……」
「今まで何もなかったろ?少しぐらい良いだろ……ほら、来いよ。宿直室があるから……」
と、男の片方が扉を開け女を案内する。片方だけずるいと思ったのか、もう一人もしょうがねぇなぁと口では言いながらにやけてついて行く。
そして宿直室に付いた瞬間、案内していた男が女に股間を蹴り上げられた。
「ッ!!……か、あぺ……」
「な、テメッ!何を───が!?」
後ろから付いてきた男も慌てて剣を抜こうとするがその前に頭を捕まれ壁に叩きつけられる。そこそこレベルが高いのか石壁に罅が入る。それでもかなりの痛みに固まり、喉を爪で切り裂かれる。
女は叫ぼうとしてヒュウヒュウ喉から息を漏らす男を放り捨て股間を押さえうずくまる男の首根っこを掴む。
「殺されたくなかったら答えろ。第二皇女の閉じ込められている部屋と、鍵は何処だ……」
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