ニーナを正気に戻しヤンクとアレン、アンに再戦の約束をされ家に帰る。
六年。
この家の子供になり、六年が経った。
「…………ただいま」
ノブもない、取っ手がついた木の板という原始的なドアを押す。すぐに開き、野菜や香辛料の臭いがする。
「ルーク、お帰りなさい」
「帰ったか。今日も怪我してないだろうな?」
ふくよかなおばさんといった見た目のこの世界での俺の母親であるニルナと畑仕事で土を何度も掘り返して筋肉をつけたこの世界での俺の父親ガルス。俺を見て、笑みを浮かべ出迎える。
「……………」
前世の俺の親父は、平凡な会社員。だけどホワイト企業だから定時に上がって家に帰るとご飯を作ってくれた。母さんは同じ会社社員だけど優秀だから帰りが遅いのもザラで、たまに早く帰れた日には食卓にダークマターが生成される。
六年経っても色あせない俺の記憶。
「おにーちゃん!」
「───ッ!」
と、腰にひっついてきたノエルにハッと気がつく。ニコニコ笑顔でこちらを見てくるノエルの頭を撫でると嬉しそうな顔をする。
前世の妹は素直じゃなかったからなぁ、ノエルも何時かああなるんだろうか?
友達にお兄さんかっこいいね、紹介してよと言われるたんびに「は?兄貴がかっこいい訳ないじゃん。他にいい男探しなよ」とか言うんだろうか?
昔は一緒に手作りしたバレンタインチョコも作りすぎただけだから、とか言って渡してきたっけ………あれ、あいつ俺のこと好きすぎない?ノエルも何時かツンデレになるんだろうか?いや、原作じゃお兄ちゃんっ娘だけど。
「………ルーク、ご飯はまだよ。体洗ってきなさい?」
「あ、はい……」
因みにこんな辺境に湯船なんてあるわけもなく、沸かしたお湯で体を拭くだけだ。今日の成果である肉を母さんに渡しお湯を受け取り体洗い専用の部屋にはいる。
窓一つない部屋だから冬はそこまで寒くならない。代わりに夏はとても暑いけどな。
体の汚れを落とし髪をお湯で洗う。タオルで水気を払うと新しい服を着る。
時間にして数分だが、テーブルに料理が並べられていた。
「ほらルーク、座って」
「ご飯ご飯~」
「ルークが昨日穫ってきた兎の肉入りだぞ?」
兎肉って前世じゃ食ったことないけどうまいんだよね、意外と。鶏肉みたいな食感。肉なんてこの村で毎日食えるのはアンの家とうちの家ぐらいだろうなぁ。
「おにいちゃん大人になったらりょーしになるの?」
「俺は………いや、どうだろ」
このまま魔族が襲ってこなければ良いと思うが、そうなった場合俺は何をすることになるのだろうか?
ガルスの仕事を継いで畑?いや、畑の手伝いなんて殆どしてないぞ俺。となるとやっぱり狩人?一応村には3人いるけど受け継がれている袋が一つなのに、自分で買ったとはいえ子供の俺が道具袋持ってることから解るように今人材不足だし。
前世は何になりたかったんだっけ?夢とかなく、適当に生きてたからな。
「…………ルークのしたいようにしろ」
「ザフエロ商会からもお誘い受けてるものね、なんなら中央領域に行くのも良い」
ザフエロ商会、か。あんまり活躍できる気がしないな。確かに俺はアラビア数字を売りはしたが、あれを買った理由はぶっちゃけると
第四、第三領域にはないが第二以降からチラホラ、中央には一般教養として伝わる数字。発案者は
異世界転生での知識チートであるはずのボードゲームも既に第三領域辺りにすら販売されている。中央領域の都会には冷蔵庫とかもあるらしい。流石に魔力式だけど。
そんな世界の中央領域の都会に本拠を構えるザフエロ商会に入っても俺ができる事なんて何もなさそうだけどな。
「おにいちゃんミアナおねえちゃんのところに行くの?」
ザフエロ商会の会長エドモンズ・ザフエロの一人娘ミアナ・ザフエロ。二歳年上のヒロインの一人だ。ザフエロ商会が俺達を保護した理由でもある。
「行くのかね………俺が活躍できるとは思えないが」
国の所属ですらない第四領域の辺境の出でありながら発想力を買っていると言われたが、発想力なんか俺にはない。記憶があるだけだ、十分に発展した中央領域で何かできるとは思えない。
「何なら冒険者になるなんてどうだ?人間界は結界内だけとは言え、未だ未開の地もあるほど広いからな……」
「何時か暗黒領域に行くかもしれないんでしょう?魔族は怖いけれど、外の世界には見たこともない景色が広がっているんでしょうね」
「おいおいニルナ、暗黒領域は人が住めんのだぞ?」
「でも人が住まなくなったのは何千年も前の話でしょう?どこか人の住めるようになった領域もあるかもしれないでしょう?」
冒険者、か。大戦時代の遺物は今でも時折見つかる。何千年と続いた戦争は各種族に衰退も生んだ。その過去の遺物の中には現代の技術では再現不可能な代物も存在する。
「………………」
でも、仮に帰ったとしてどうなる?今の俺は前世の姿とは似ても似つかない。髪の色は黒から茶色に、目は青に………。顔立ちだって日本人のそれではない。でも、俺がこの世界に来た理由を知ることなら或いは出来るかもしれない。
「……冒険者もありかもな」
それが不可能だとしても、せめてあの世界を一目だけでも………。
「やっぱやめとくか」
仮に他の世界を見る
世界を越えるなんて規格外の
「…………おにいちゃん?」
顔に出ていたのかノエルが心配そうな顔でのぞき込んできた。
「……俺は冒険者にはならないよ。この村で暮らす……」
ノエルも、
余計な期待などせず、この村で、平穏に過ごせばいい。そのためには魔族襲撃の際、なんとかこの三人だけでも生き残らせないとな!
…………非情かもしれないが、やっぱり勝ち目なんてないし全員は絶対無理だろうからな。一人でも多く、それでもこの三人だけは……。
「ん、どうしたルーク」
「何か考え事?」
「………いや、俺皆のこと好きだなぁって」
少し照れくさいけど、本心だ。
この三人は俺が前世の記憶を持ってると知ったらどうなるんだろうか?受け入れてくれるのか、本当なら此処には何の記憶もない無垢な子供を育てていたはずなのに。
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