マルグスさんは俺に向かって剣を振り下ろす。
手加減した速度、重さとはいえ、俺にとっては十分な脅威。防戦一方になり攻められない。
「───ぐッ!」
「おらおらどうした!?鈍っちまったかぁ!」
「誰が!」
「お?」
振り下ろされた木剣と打ち合うふりをして膝を曲げながら左に移動し俺の木剣をマルグスさんの木剣を起点に梃子の要領で傾ける。下がりながらじゃないと持ち上げることも出来ないからだ。
左に流れた木剣を即座に踏みつけるとそのまま喉に向かって膝を放つ。が、その前に顎で挟まれ止められた。どういう首の筋力してるんだ。
「──っぅ」
ギリギリと鎖骨と顎の骨に挟まれた膝に力が加わる。このまま折れるんじゃないかと思うほどの力……いや、この人ならその気になれば出来るな。
だが固定されているなら好都合と木剣を上段に構えてから振り下ろす。踏ん張れないから腕だけの力だが、マルグスさんは顎から力を抜き距離を取る。
慌てて着地しようとするも関節を押さえられていたせいでうまく開けず不格好な形で地面に落ち、マルグスさんが迫ってくる。今度は横からすくい上げるような形。とっさに地面の土をマルグスさんの顔面に向かって投げる。
此処でもやはりステータス補正が働き目潰しにはならないが目に物が向かえば反射的に固まる。その間に距離を取る。
「ふっ、は、と」
気の抜けるような掛け声と共に木剣が迫る。マルグスさんからしたら本気でもないから当然だがやる気の失せそうな掛け声だ。そんな事になったら速効で吹っ飛ばされるだろうが!
「つぅ、あぶね!」
「気を抜くからだ!」
カアァァンッ!!と軽い音を立て木剣がぶつかり合い、吹き飛ばされる。とっさに防げたが、腕がビリビリ痺れる。腕をブンブン振り回したくなるがマルグスさんが待つはずもない。
が、地の利は俺に味方した。後ろにあった木を蹴りマルグスさんの背後に跳ぶ。マルグスさんの木剣が木をへし折り、俺は背後から木剣を叩きつける。が、敵わない。マルグスさんはへし折った木を掴むと振り回して来た。肺の中の空気をカハッ、と吐き出す。
「ぐぅ……あづ!」
地面を転がり息を慌てて吸う。
追撃してきたマルグスさんに向かって木剣を投げつける。驚いた顔で木剣を上に弾くマルグスさん。一時的とはいえ、確かに固まった。剣を振り上げた状態で。
「───!」
「うお!?」
膝、肩と足場にして上に跳び木剣を掴むと回転しながら遠心力と全体重をかけ頭を叩く。ガァァン!と鈍い音が響く。
「いよっし!」
一撃入れた!
「────!」
「───あ」
ニィ、と楽しそうに笑ったマルグスさんを見てやらかした、と頬がひきつる。好戦的なマルグスさんのスイッチが入ったっぽい───。
ドゴォォォ!
「ぐえっへぇ!?」
木剣が粉々に吹っ飛び腹に衝撃が走る。景色が真っ白になり浮遊感が襲う。地面を転がっているらしいのが何となく解るが痛みを感じる暇もなく意識が暗闇に沈んだ。
「─────あ」
マルグスは10数メートル吹き飛んだルークを見てマルグスはしまったと固まる。
手加減しているとはいえ自分の頭に一撃を入れた6歳に興奮して、加減を間違えた。無意識下でも殺さぬように手加減はしたが、アレは確実に意識も飛んでいる。
「やっべ、おい!大丈夫か!?」
回復薬を持って慌てて駆け寄る。どうやら気絶しているだけのようだ。目立った外傷はない。
「流石俺、咄嗟でも最低限の加減は出来てたみたいだな!ならば謝れば良し」
「んなわけあるかぁ!」
「ルーク君!」
ドゴォ!と後頭部に衝撃が走る。痛くはないが、振り向くと怒り心頭の様子のミアナと横を通り過ぎ目を回しているルークに駆け寄るニーナの姿が。
2人して修行を覗いていたのだろう。
「あんたバカァ!?ルーク君まだ6歳よ、やりすぎでしょう!」
「す、すまねぇお嬢……」
「謝るのは私にじゃないでしょうが!」
ミアナの言うとおり、少なくとも子供に向かって放つ一撃ではなかったと自覚はしているので頭を下げるマルグス。
「ル、ルーク君!ルーク君しっかり!」
「あ~、ニーナの嬢ちゃん、とりあえず揺するのを止めろ。今薬飲ませる」
「は、はい!」
ルークに呼び掛けるニーナをどかし回復薬を飲ませる。取り敢えずこれで大丈夫だろう。
「で、何であんな事したの?」
「思いの外強くて血が騒いだ。お嬢の方がステータスは上だが、実力なら坊主が上だな」
「この環境下って条件なしで?」
「そりゃステータス上のお嬢なら開けた場所でなら追いかけっこで勝てるだろうよ。けど、戦いになったら別だ。坊主が勝つ」
「何でよ」
「技術……それと駆け引きだな。お嬢は心のどっかでこう行けばこうこうなるって確実と思いこむ。坊主は、臆病ともいえるが防がれる、避けられる、その前提で動く。技の切り替えが早いんだよ」
だから強い、そう言ってルークを担ぐマルグスはそのまま別荘に向かって歩き出す。可愛い弟弟子を気絶させられ、その弟弟子より弱いと言われ不満げなミアナはしかし弟弟子が心配なので後を追う。もちろん、そもそも模擬戦が始まる前から心配していたニーナも。
「あのクソやろう!」
掛け布団を乱暴に投げ捨て起きあがる。
クソ、あの野郎!木剣で木を叩き折るようなステータスで突き放つか普通!?あぶねーだろ!下手したら俺の身体に穴空いてたぞ!
…………まあ、ギリギリで速度が落ちていくのは見えたが。
その後ミアナに土下座させられるマルグスさんの姿を見て、溜飲は下がったが
「魔法四大元素は覚えてますね?」
「『火』『風』『土』『水』……理由は人間の生活に馴染み深くイメージしやすいから」
「はい、正解です」
アイリさんはよしよしと俺の頭を撫でる。剣の修行の後は魔法の修行だ。今は魔法の基礎知識の復習。
魔法って言うのは本人のイメージを現実に上書きする行為のこと。故に食材を焼き、暖をとる『火』に、常に肌を撫で、温もりや寒波を運ぶ『風』に、自分達の足下にあり、作物を育てる『土』、喉を潤し身体を清める『水』と言った常に身の回りにある、親しみ深くイメージしやすい現象が魔法四大元素と呼ばれている。
雪国では『土』の代わりに『氷』だったりするが。因みに海に住む
「そして火の派生に『熱』、風の派生に『雷』、土の派生に『鉱石』、水の派生に『氷』。まあ、あくまで連想しやすいからその系統を得意とする者が覚えやすい、ってだけですけど。後どの派生でもない属性には『無』と『光』と『影』、でしたっけ?」
「その通りです。そして『概念魔法』と呼ばれる『空間』、『時間』、『重力』、『魂』、『精神』、『生命』。『根源魔法』と呼ばれる『聖』と『闇』があります……」
概念魔法は魔力消費が属性魔法に比べて多く、扱いづらいらしい。
根源魔法はイメージを形にする魔法の根底とも呼ばれていて属性という概念はない。魔法を扱うのに必要なイメージ力を生む精神の根本的な部分、本人の意思によってそのあり方を変える魔法だ。聖は誰かを守りたいとか、助けたいとか正の感情で形作られ闇は憎しみや怒り、悲しみなど負の感情で形作られる。
「魔法とは本人のイメージの他に相性も存在します。これは遺伝しやすいですが、ルーク君のご両親は魔法を使えませんでしたね。ルーク君自身、どの系統が得意、などは見つかりましたか?」
「基本的に全部可もなく不可もなくですね」
苦手な系統こそないが、得意な系統もない。アイリさん曰わくステータスから考えれば平均的なのだとか。
「まあ、苦手系統がないのは凄いことですが」
「因みにアイリさんは?」
「私は全属性特化です。同じ魔力のステータスをした平均的な魔法使いの方々と同じ量の魔力で同じ魔法を使うと私の方が威力が上です」
「………………」
この人何で商会のお嬢様の護衛なんてやってるんだろう?
「私可愛い子供が好きなんです。男の子でも女の子でも……」
うっとりと頬を染めるアイリさん。よしよしと俺の頭を撫でてくる。
「私子供が欲しかったんです……それに宮廷魔術師は………」
「アイリさんまだ若いんだから相手なんて幾らでも探せるでしょうに……」
「それにメイド服着てみたかったんです。似合うでしょう?私、美人だから」
クルリと回転するアイリさん。ロングスカートがふわりと広がり金色の髪がサラサラ流れる。首を傾げながら微笑むアイリさんは自分が一番可愛く見える角度を理解しているようだ。
「鏡を見て毎日練習してます」
見た目はクールビューティーなメイドなのにな。本性知った時はかなりポカンと固まっていたな、俺。
「ねえねえどんな気持ち?ひょっとしたら初恋になったかもしれない綺麗なお姉さんがこんな性格だったのどんな気持ち?」
「…………初恋?」
「そこで首を傾げられるとお姉さん傷つく」
少なくとも俺のタイプじゃないな。俺のタイプは母性の主張がしっかりしてて明るい性格で髪はショートかアップ。
「巨乳など所詮脂肪」
「心読むな残念メイド」
「お姉さん傷付いた………ま、良いですけど。時にルーク君は詠唱魔法を覚えてますか?」
「多くの人間の意識に刷り込ませて集合的無意識に登録された詠唱を唱えて魔力操作の補助、ですよね?」
「はい。正解です……この補助を必要とせず己のイメージで補填できるようになると無詠唱魔法が使えるわけですね」
因みに俺は無詠唱魔法が使える。アニメや漫画の記憶でイメージ力はバッチリだからな。
「………せっかく教えたのに……ならそろそろ創造魔法でもやってみますか?」
「創造魔法?」
「創造魔法。簡単に言えば自分で想像し創造する、オリジナル魔法です」
「…………」
「簡単ですよ、無詠唱が出来るんですから。ただ、現存する魔法に対して集合的無意識の補助が完全に途絶えるので自分のイメージのみで補填しなくてはなりません。だからイメージ力の固定のためにまた詠唱を唱える人も多いですね」
「自分のイメージ、か………」
バックアップ無しとなると、俺はどの程度出来るんだろうか?
「今回も楽しかったわ。また来るわね」
最終日になり、迎えに集まった村人達。ミアナはスノーホワイトを竜籠の一つに積ませ満足そうだ。
「……ところでルーク、少し早いけど、うちに来ない?アイリもマルグスも、今のうちから修行させたいって言ってたわよ?」
と、ミアナが提案してくる。レベルは俺より下なのにステータスは上。それはアイリさんやマルグスさんの修行が俺が行っている狩りや自主練よりよほど効率的だからだろう。そこで学べば、俺もかなり強くなれるかもしれない。だが………
「………やめとく。俺は、この村で暮らすから」
「………そ、勧誘は失敗みたいね。お父さんにも伝えておくわ」
「ありがと、ミアナ姉さん」
仕方ない、というように肩をすくめるミアナ。ポン、と俺の頭に手を置く。
「やりたいことが見つかった?それなら、何よりなんだけど………まあ、見つける気にはなったみたいね」
「…………意外と人を見てる?」
「意外は余計。私は商人よ?相手がどんな奴か見抜くのも、商人には必要な才能。じゃ、次回からは勧誘しないから、普通に遊びましょうね」
ミアナはそう言うと竜籠に乗り込む。ワイバーン達が翼を動かし浮き上がると、空へと消えていく。
やりたいこと、か……取り敢えず今日は、罠の見回りだな。7歳になってから、改めて本気で探せばいい。
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