鬼少女の幻想奇譚 作:らくしゅみ
昔、昔、あるところに、二人の幸せな夫婦が住んでおりました。夫は商売上手で家族思い、妻は気立ても器量も良く、まさに何一つ申し分のない夫婦でありました。
夫は里で最も大きな酒屋の主人で、まだ30前後であるにも関わらず、商売を切り盛りし、生活には困りませんでした。
しかし、そんな2人にも、ある一つの悩みがあったのです。
—子が生まれない。
別に2人の仲が冷えているというわけではありません。しかし、どうしても妻の腹には子は宿りませんでした。夫は金にものを言わせて、子宝お守り、お札、まじない、イモリの黒焼きなどを手に入れましたが、どれも効果は無く、一向に子は生まれません。
—もう駄目なんじゃないか。
2人がそう言って、養子を迎えようかと相談を始めた頃—待望の赤ん坊が妻の腹の中に現れたのでした。
夫は躍り上がって狂喜し、妻も嬉し涙を流しました。ついに、ついに、ついに待ち望んだ子が生まれるのです。夫は買い集めるお守りを子宝から安産へと変え、妻は赤ん坊のため、家の手伝いを控えて安静にしていました。
それからしばらくして、待望の子は生まれました。が、それを取り上げた産婆が、腰を抜かしてしまいました。
—どうしたんだね、何かあったのか。
子供が無事に生まれるのか、気が気でならない夫は、気を揉んで産婆に尋ねます。産婆は相変わらず腰を抜かして、しかし赤ん坊は抱えたまま、答えます。
—角が、この子には、角が生えている。
夫は、驚いて赤ん坊の額を見ます。なるほど、短く白い角が一本、にょきりと立っておりました。
—これはどういうことだ。我が子の角は、いったいなぜ生えてきたのだ。
夫は慌てましたが、そこはやはり酒屋の大旦那。すぐに落ち着いて、博麗の巫女に伺いを立てることにしたのです。博麗の巫女は代々貧乏でありましたから、金持ちの夫に呼ばれるとすぐにやって来て、赤ん坊を見ました。
—これはいけない。この子は呪われている。このまま家に置いておけば、あなたの家は傾くし、あなた方以外の者にも災厄をふりまくでしょう。
巫女は、顔を青ざめさせて言いました。それを聞いて、最も悲しんだのはもちろんこの夫婦でした。ようやく授かった子が、どういうわけか呪われているのですから。
—しかし、このまま放逐して殺せば、分別のない赤ん坊のことだ、きっと悪霊になるでしょう。10歳になるまで育てて、それから捨てなさい。育てている間に降りかかる厄は、この子に私が封じ名をつけることで、抑えておきます。
巫女の命令は、絶対でした。2人は泣く泣くそれを受け入れ、我が子をきっちりと10歳まで育て、里の外に追いやりました。育てている間、商売は傾き、他の里人から嫌がらせを受けましたが、それは〝鬼子〟を追い出してからは、ぷっつりと途絶えました。
そうして夫婦の家は何とか元通りになりましたが、その鬼子が里を追われた後、どこへ行ってしまったのかはもはや誰にも分からなくなってしまいました。