雲一つなく澄み渡る青空。朝の日差しがこの見滝原を優しく照らしていた。ほむらは息を切らせながらいつもと同じ通学路を通って学校へ登校中である。
そんな中、後ろからほむらの名前を呼ぶ声が一つ…それはやはりこの見滝原を守るベテランの魔法少女、巴マミであった。
マミの声に可愛らしく編まれた三つ編みを揺らし、赤フレームの眼鏡をかけたほむらが振り向く。
「暁美さん!おはよう!あら、イメチェンかしら?可愛らしくてとっても似合ってるわよ!」
「えっ…あっ…はい、ありがとう…ございます…」
彼女の口から発せられたぎこちない敬語と小動物のような大人しさと言うべきだろうか…いつもの堂々とした暁美ほむらではない事に少し違和感を覚えたマミだったが、すぐさま昨日にあった魔女との戦いの会話へと移る。
「昨日はごめんなさいね…夜更かししすぎちゃいけないと思って寝ちゃってたの。大丈夫だった?何か問題とかなかった?」
「えっと…その…その事なんですけど…実は問題があったようで…」
歯切れの悪いほむらにマミはグイッと顔を近づけて何があったか問いただす。それにはワッと驚いた様子で顔を赤くしていたほむらだったが…やがて衝撃の事実を口にした!
「私の記憶がちょっとだけ無くなっちゃったみたいなんです…!」
………
……
…【昨日の出来事】
「ん…んんっ…あれ…ここは?…むぎゅっ!?」
「ほむらちゃん…良かったっ!良かったよぉ!」
魔女の攻撃を受けて、ダウンしていたほむらがゆっくりと身体を起こす。キョロキョロと周りを見渡した彼女が見たのは天井の屋根に穴が開き、老朽化が進んでいる廃工場だ。
なにやら目が点となって首を傾げている彼女へすぐさま隣でずっと看病をしていたまどかが彼女を抱き締める。無事で良かったとワンワンと泣くまどかにほむらはボッと顔から湯気が出そうな程、赤くなって戸惑っていた。
「…か、鹿目さん…苦しいよ…!私は大丈夫、大丈夫だからっ」
ほむらはなぜか少し照れながらまどかの抱擁から抜け出す。その様子に違和感を覚えたまどかとカービィ。そんな中、魔法少女の姿から制服姿に戻ったさやかがばつが悪そうな顔で彼女に声をかける。
「転校生…その、あんたの忠告は無視して魔法少女になっちゃった。でも、あたしにはどうしても叶えたい願いがあった!だから、後悔はしてないよ」
「えっ…?あ…いえ、美樹さんさえ良ければ私は構わないと思いますっ。これから一緒に頑張ろうね?」
「「「!?」」」
さやかは絶句していた。いや、さやかだけではなくその場にいるまどかやカービィ、杏子ですら以前のほむらの口からは発せられないであろうその言葉に驚きを隠す事はできないでいた。
巴マミに次ぐベテランである佐倉杏子は今のこのほむらの状態について様々な思考を巡らせる。やがて、一つの答えにたどり着いた。
「…おい、ほむら。アタシやカービィの事はわかるか?」
「…?佐倉さんはわかりますけど…カービィ?」
「「「!?」」」
Σ(╹o╹c)<ぽよ!?
なんと!ほむらはカービィの事を綺麗さっぱり忘れてしまっていたのだ。杏子に呼ばれ、ほむらの前に出たカービィを暁美ほむらは「魔女の使い魔!?」だなんて言って驚いている。
「…おそらくこいつは魔女の攻撃で記憶が飛んじまったんだ。だから、言葉遣いも変だし…このピンクヤローの事も忘れちまってる」
「まってよ!確かカービィはあたしやまどかより転校生との付き合いは長いはずだよ!?なんであたしたちは転校生に覚えられてるわけ?」
さやかの言うとおりでまどかやさやか、杏子の本人たちはほむらに対してカービィよりも付き合いが薄い。
しかし、杏子はまどかに促されおそるおそるカービィへと手を伸ばすほむらを見ながらこう告げる。
「アタシもこないだほむらとあったばかりだったが…ほむらの方はどういう訳かアタシの事を知っていた。それにこいつ、カービィの好きな食いもんは知らない癖にアタシの好きな食いもんは把握していたんだ」
「…っ!?まどかもなんか似たような事を言ってたっけ…転校生とは昔からの友達だったみたいとか、夢で見た事があるだとか…」
「…まあ、詳しい事は専門外だからわからねえ。明日、マミのヤローにでも話を聞いてみるんだな」
そう言うと杏子は変身を解いてほむらと彼女の腕に抱かれたカービィを引き連れてこの場を後にした。
帰った後に杏子が色々な質問をほむらにした所、基本的な事は覚えているらしく、忘れているのは皆と出会った経緯と言葉遣い、そして…カービィの事だけのようで魔法少女に変身する事も問題なく出来るようだった。
その為、普通に生活は出来そうでたいした問題ではないと判断した杏子はふとしたきっかけで思い出すかもしれないと考え、これまで通りの生活を送るように彼女に言ったのだという。
………今に戻り
「…という事があったんです。巴さん、何かわかる事はないですか?」
「えっ!…ええと…そうね…」
可愛らしく首を傾げてそう聞く眼鏡をかけたほむらにマミは少しドキッとしてしまう。彼女がいつも見ていたのはクールで冷静沈着なほむらで時折見せる年相応の自然な表情がマミは好きであった。
目の前の暁美ほむらと以前の暁美ほむらのギャップにマミは戸惑いつつも自身の知っている事を彼女に話し始める。
「本当に身体はなんともないのよね?」
「あっ…はい!カービィの事とか皆と出会った時の事とかの記憶がすっぽりなくなって落ち着かない気持ちはありますけど、身体の方は平気へっちゃらですっ」
「なら、私も佐倉さんの言うとおりで今までと同じように生活して少しずつ思い出していくというのがいいと思うわ」
「そうですか…わかりました…」
「それにしても私がいない所で凄い事になってたみたいね…」
ハコの魔女により集団自殺がなされようとしていた所にほむらとカービィが乱入。一時的に仲間になった杏子とその場にいたまどかが周囲の人々を避難させ、ほむらとカービィがハコの魔女とその使い魔を抑える。
しかし、魔女の一撃でほむらが倒れ、絶体絶命となった所で契約を交わし、魔法少女となった美樹さやかが助太刀。カービィとさやかでハコの魔女の撃破に成功するがほむらの記憶がなくなってしまった…
昨日の間に起こったこの出来事に参戦できなかった自分を責めつつも杏子の協力とさやかの契約に彼女は喜びを覚えていた。
「美樹さんの契約で仲間が増えたのは嬉しいけど…まさか佐倉さんも力を貸してくれていただなんて…」
「そういえば二人は知り合いだと佐倉さんから聞きました。二人はどんな関係だったんですか?」
「…彼女が新米の魔法少女だった時に手を組んでいた時期があったの。あなたとカービィみたいな関係…あっ、ごめんなさい。覚えていないのね…」
「…カービィは私を友達って言ってくれました。彼の事だけでも早く思い出したいです…」
杏子に預けられ、今頃彼女と朝ご飯を食べているカービィの事を思い出すほむら。
記憶をなくしてしまう前のほむらとカービィは相棒のような間柄であったと杏子から聞かされたが、彼の事は一向に思い出す事はできなかった。
なので、ほむらはなくなった記憶を取り戻す為、まずはカービィの事について調べる事にした!
ほむらは記憶喪失に、契約の内容こそ覚えているものの魔法少女になる事やキュゥべえの事は特に思う事もない様子。