絆の証は契約と共に   作:伊達 翼

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第八話『大人達の思惑』

 帝国騎士達を見て…

 

「なっ!? なんでここに騎士団の連中が!!?」

 

 妖怪の男が驚く。

 

「帝都での不穏な出来事には常に眼を光らせていたからな」

 

「くそっ!!」

 

 妖怪の男が逃げようとするが…

 

「…………………」

 

シュタッ!

 

 突然、空からフードを深く被った黒装束の男が現れたかと思うと…

 

「がっ!?!」

 

 そのまま男を組み伏せていた。

 

「捕らえろ」

 

 隊長格らしい騎士の号令で騎士達も動き出し、周囲にいた者達も次々と確保されていく。

 

「さて…」

 

 隊長騎士の視線が忍達へと向く。

 

『……………………』

 

「「……………………」」

 

 天狼、白雪、アリアが警戒する中…

 

「報告では女性型の妖怪もいたと記憶していたが…」

 

 隊長騎士がそのように言って白雪とアリアを見る。

 

「っ…」

 

『この者達は既に契約を済ましている、契約獣だ』

 

 白雪が怯む中、天狼が前に出てそのように言う。

 

「ほぉ、魔獣…いや、霊獣かな? しかも人語を介してるところから見て契約獣か。主はどこにいる?」

 

『……貴様の目は節穴か? 我が主なら、お前の目の前にいるだろう』

 

 魔獣と間違われて些か気分を害したようだが、隊長騎士にそう言って天狼は後ろの忍を見やる。

 

「ふむ。まさか…こんな子供が契約者とは…」

 

 忍の顔に浮かぶ契約紋を見て隊長騎士が興味深そうに忍を見る。

 

「しかもあなたの言が正しいのならば、さらに新たな契約獣と契約したことになる。複数の契約獣を従える少年か…」

 

 そう言って忍を好奇の目で見る隊長騎士の視界から忍を守るように天狼と白雪が立ち、アリアもユウマとアイリを抱き寄せていた。

 

「この場の妖怪は既に確保はしたものの、あくまで対象は"妖怪"であって、契約獣までは対象外だったな。この場での不穏分子の確保は完了したと言っていいだろう。そこの契約獣が関係者なら事情聴取もしないとだが…主が子供なら保護者にも連絡しないとならない。さて、どうしたものかな…」

 

 という風に悩む素振りを見せながらも隊長騎士の目は忍を見ていた。

 よほど気になる存在なのだろう。

 

 このご時世、契約に対する認識は上がってきたし、契約獣も珍しくない存在になってきた。

 しかし、それでも複数の契約獣を持つ者はそれほど多くはない。

 契約出来たとしても多くても2、3体の場合が多く、4体以上となるとかなり珍しがられる。

 そのため、国としては契約獣とその主は喉から手が出るほど欲しい人材でもある。

 しかも忍はこの歳で既に2体の契約獣と契約しており、今後も増える可能性が高く将来有望だと言える。

 

 そんな子供をここで逃してもいいものか?

 答えは、恐らく"ノー"だろう。

 何かしらの理由を付け、国で保護した方が絶対に将来、国の力となると隊長騎士は考えていた。

 妖怪確保のために人員を多めに用意したので、このまま物量で押し切っても構わない。

 相手は子供数人と契約獣3体のみ。

 しかも場所は人気があまりない倉庫街なのも相俟ってそのような考えがちらつく。

 

 人としては間違っているかもしれない。

 だが、騎士として国のためとなるのなら、一時の(そし)りくらい受けても構わないとも考えた結果…。

 

「君達にも同行を願いたい。一体何があったのか、それを聞かなくてはならないからね」

 

 この場での忍の確保を優先した。

 言葉は柔らかくもっともらしいことを言っているが…。

 

「え、えっと…」

 

 忍が答えに戸惑っていると…

 

「ボソッ(忍君、ここは逃げた方がいいと思う)」

 

「え? でも…」

 

 明香音が忍に耳打ちすると、忍が驚いたように明香音を見る。

 

「相手がこの国の騎士とは言え、素直について行く必要はないわよ。なんだか、嫌な予感がするし…」

 

「う~ん…」

 

 忍と明香音がコソコソと話していると…

 

「親御さんへの連絡もある。さぁ、一緒に行こ…」

 

 隊長騎士が手を差し伸べた時だ。

 

ヒュッ!!

スタッ!!

 

「その保護者が迎えに来たぞい、っと…」

 

 何処からともなく…というか、さっきの黒装束の男のように空から忍達と騎士達の間に着地する者がいた。

 

「「おじさん!?」」

 

 ゼロだ。

 登場の仕方に驚いたわけではなく、"どうしてここがわかったのか?"という意味で忍と明香音は驚きの声を上げた。

 

「まったく、どうしてこう目を離すと、すぐに変なことに巻き込まれるかねぇ?」

 

 そう言って周りを観察してから忍達の方に歩いていくゼロは物凄く自然体なのだが、かえってそれがゼロの不自然さを強調させているような気がしてならない。

 

「てか、この波動…妖力ってことは妖怪と契約したな? しかもお隣のユウマもかよ。どういうこった?」

 

 などと言ってから…

 

ゴツンッ!

 

「あぅ!?」

 

 忍の脳天に拳骨を見舞っていた。

 

「もうちっと周りのことも考えろ。付き合わされた明香音やユウマ達にも後でもう一回ちゃんと謝れ。いいな?」

 

「……はい…」

 

 頭を押さえながら涙目になってゼロに答える忍を見て、一つ頷くと…

 

「さてと、騎士様よ。悪いが、俺達はお暇させてもらうぜ?」

 

「……なに?」

 

 ゼロの登場に驚いていた隊長騎士が、今のゼロの言葉に目を細める。

 

「ちゃんと保護者が迎えに来たんだ。これ以上は子供達の負担になる。こんな場面に出くわして精神的な疲れもあるだろうしな。それとも何かい? そんなの関係なく、"保護"を称して連れて行くのかい?」

 

「ッ……あなたは一体何を言っているのですか? 誰もそのようなことは言っていませんよ」

 

 一瞬、考えを見抜かれたかと思い、背中に冷や汗を掻くが、隊長騎士はそのように答えていた。

 

「じゃあ、帰っても文句ねぇよな?」

 

「(この男は一体…?)……えぇ、そうですね。ですが、このように事態が動いたのもそこの少年がそちらの妖怪の女性2人を連れて逃げたからです。こちらとしては事情を聞きたいところですね」

 

 帰ろうと言うゼロに対し、隊長騎士もなかなか引き下がる様子がない。

 

「ふむ。それも一理あるか」

 

「なら、我等騎士団が駐屯している宿舎に来てもらった方が…」

 

 ゼロが理解を示したと思ってゼロ共々、騎士団の宿舎へと誘導しようとするが…

 

「なら、この場で話せばさっさと済むな」

 

「……………………」

 

 ゼロもゼロで隊長騎士の話を全然取り合わない。

 

「それで、忍。なんだって、そんなことをしたんだ?」

 

 話の矛先を向けられた忍は…

 

「えっと…白雪さんもアリアさんも困ってそうだったから……それに、最初は怒鳴り声が聞こえて…それで気になって見に行ったら…なんだか、空気が怖くて…」

 

 2人の手を取って逃げた状況を思い出しながら言葉にする。

 

「ふむふむ、それで?」

 

「それで…無我夢中で走って…そしたらここで囲まれて…それから、僕は白雪さんと契約して……これから、どうしようか悩んでたら騎士の人達が来たの」

 

 ゼロは忍の話を聞き、うんうんと頷く。

 

「そうかそうか。まぁ、お前はあいつに似てそういうとこは無鉄砲だよな。だが、周りのこともちゃんと考えないとな。振り回される人間は苦労するんだよ。それは今回のことでわかったな?」

 

「うん…」

 

「それがわかれば次に活かすことだ。ま、こんなこと何度も起きないでほしいがな」

 

「全くです」

 

 反省する忍にゼロがそのようなことを言うと、明香音が同意するように頷く。

 

「さて、これで忍の証言も得たな?」

 

「え、えぇ…そうですね」

 

「じゃあ、こいつらは連れて帰るから、お仕事ご苦労さ~ん」

 

「……………………」

 

 そう言って忍達を促して先に行かせた後、ゼロは1人残ると…

 

「あ~、そうそう。それとこれは忠告だ。下手に俺達のことは嗅ぎ回らないことだ。ユウマんとこにもあんま変な探りを入れるなよ? あの家族とはたまたま隣に住んでるだけであいつらの遊び相手にもなってるだけなんだからな。もし、それでも探りを入れようなんて思ったなら…」

 

 顔だけ振り返らせたゼロの眼は…

 

「命を落とす覚悟を持つことだ」

 

 酷く冷たかった。

 殺気も何もないのに、隊長騎士は身に襲い掛かる何かを感じ、頭の中で警鐘を鳴らす。

 

「ッ……………」

 

「沈黙は肯定と捉えるぞ? これ以上、俺達に関わるこたぁない。俺達は、しがない旅人だからな」

 

 そう言って振り返っていた顔を戻すと…

 

「じゃあな」

 

 片手を挙げて今度こそその場を後にした。

 

「はぁ……はぁ………なんなのだ……彼は…?」

 

「隊長、本当に行かせてもよろしかったのですか?」

 

「お前達も彼のあの眼を見ただろう? アレは本気の眼だ。いったい、彼は…」

 

 控えていた騎士の1人がそのように言うが、隊長騎士はそう答えてゼロの正体を考える。

 

「……探りますか?」

 

 そこに黒装束の男がやってきて隊長騎士に尋ねる。

 

「いや、やめておこう。彼を刺激して下手な被害は出せない。名も名乗らなかったから調べようもないしな」

 

「……承知しました」

 

「皆も下手な行動は慎むように。今回は不穏分子の確保が出来ただけでも良しとしよう」

 

『はっ!』

 

 隊長騎士の言葉に他の騎士達も敬礼で応える。

 

「(しかし、本当に彼…いや、この場合は彼等か。いったい、何者なんだろうか?)」

 

 そんな中、隊長騎士はゼロ達が去った方向を見てそのように考えていた。

 

………

……

 

 帰り道のこと。

 

「明香音ちゃん、リースリングちゃん、ノージェラスちゃん、本当にごめんなさい」

 

 ゼロに叱られたのもあって、忍が改めて巻き込んでしまったことへの謝罪を明香音、ユウマ、アイリにしていた。

 

「もういいですよ。過ぎたことですし…これを教訓に同じ失敗をしなければ、ですが…」

 

「ぼくももう気にしてませんから……アイリちゃんも、ね?」

 

「……………………」

 

 ユウマの背にずっとしがみついているアイリだが、チラリと忍の方を見て…

 

「……うぅ…」

 

 再びユウマの首筋の辺りに顔を埋めてしまう。

 どうにもまだ許してもらえなさそうだった。

 

「ま、しゃあないわな」

 

 その様子を見てゼロもやれやれといった感じに肩を竦める。

 ちなみに子供達は先を歩き、ゼロや天狼達は後ろをついていく感じで視界から離れないように子供達を見守っている。

 

「あのぉ~…ところで、こちらの方は?」

 

 少し重苦しい空気を察し、アリアがゼロのことを天狼に尋ねる。

 

『あぁ、こやつはゼロ。一応、主の師だ』

 

「し…?」

 

「一応?」

 

 アリアが"師"という言葉になかなか辿り着けずに首を傾げ、白雪が"一応"の部分に引っ掛かる。

 

「一応とは失敬な。俺はれっきとした忍と明香音の師匠だ。ちゃんとあいつらから忍と明香音を預かるよう頼まれてるしな」

 

「「……………………」」

 

 ゼロの説明にどこか胡散臭そうな目を向ける白雪とアリア。

 さっき見せた大人な対応とは打って変わっておどけているせいだろうか?

 これもまた自業自得と言うべきなのか…。

 

『まぁ、気持ちはわからんでもないがな』

 

「わかるんか~い!」

 

『だが、こやつが師に向いているのは確かだ。言動に眼を瞑れば問題ない』

 

「なに、その評価?! 俺は傷付くぞ!?」

 

『はぁ…』

 

 このやり取りに天狼の方が溜息を吐く。

 

「(本当に大丈夫なんでしょうか?)」

 

 ゼロが忍の師と知り、白雪は一抹の不安を覚えていた。

 

「しっかし、どうすっかな~」

 

「何がです?」

 

 ゼロが困ったような声を出すと、アリアが反応する。

 

「いや、そりゃユウマんとこの両親に謝りに行くのは当然だとして、アンタのことをどう説明するよ?」

 

「……ぁ」

 

 言われて気付いたのか、アリアの顔が見る見るうちに不安の色に染まっていく。

 

「ど、どどど、どうしましょう!?」

 

「いや、落ち着けよ。契約については仕方ないから、俺もユウマの両親に説明してやるけどよ。そっから先…気に入られるかどうかはアンタ次第だろうよ」

 

 慌てだすアリアをゼロが正論で落ち着かせる。

 

「うぅ…そう、ですよね…」

 

「ま、何事も出たとこ勝負だろ。そういや、アンタらが妖怪ってのはわかるんだが、種族的にはなんなんだ?」

 

『そういえば、聞いていなかったな』

 

 落ち込むアリアを見ながら思い出したようにゼロが2人に尋ねる。

 天狼もそこは失念していたようで、ゼロの質問に乗っかる。

 

「……私は"雪女"です」

 

「私は、その…"人魚"、です」

 

 白雪とアリアはゼロの質問にそう答える。

 

~~~

 

 ここで、妖怪についての追加解説を…。

 

 妖怪の多くは人型をベースにしていることが多い傾向にあり、人間社会に溶け込むために人の姿を模した姿を取る必要性があるからである。

 元から人型である場合ももちろんあるが、基本的には人型に近しい姿であることが多い。

 それらを含め、妖怪内では『種族』と呼称している場合もある。

 

 今回判明した白雪の『雪女』とアリアの『人魚』。

 

 『雪女』は読んで字の如く、氷結の先天属性を持つ女性型の妖怪を指し、人型妖怪の中でも比較的知名度が高い部類に入り、環境的にリテュアにしかいないとされている。

 種族的に対となる『雪男』もいるが、折り合いが悪く険悪な関係となっている。

 そのため、種族の繁栄には人間と交わることもあり、人の血を受け継いでいても必ず雪女が生まれるという不思議な現象が起きている。

 この原理については現在も研究者が調べているとか…。

 

 『人魚』は上半身が人型、下半身が魚を模した姿の妖怪を指し、こちらは男性型と女性型が両方いる。

 基本的には水辺付近か、水中を生活圏内にしているが、妖力の変質の力を用いて下半身を人型へと変化させることで陸地での活動も可能にしている。

 雪女と同様、先天属性は流水で固定されている。

 呼吸法も二通りあり、水中では鰓呼吸に近しい呼吸法を取り、陸地では肺呼吸というように使い分けている。

 

 このように『妖怪』と一括りに言われている中にも『種族』という区分があり、それぞれ個性や特性、種族固有の能力を持っていることがわかる。

 

 以上、解説終わり。

 

~~~

 

「ほぉ、雪女に人魚か。また、メジャーな種族じゃねぇの。ただ、種族が特定されれば先天属性が丸わかりになる可能性が高いな。いや、攻撃や防御しただけでもわかりやすい種族だな。ユウマはいいとしても忍の方は一工夫しないとな。とは言え、あいつの潜在的な能力を加味すると、もしかしたら…(ブツブツ)」

 

 2人の種族を聞き、思案顔になるゼロは色々と考えているようだった。

 

「……彼はいつもこのような?」

 

『まぁ、奴には奴の考えがあるんだ。それが主の糧になるなら我は別に構わないと思っている』

 

「そうですか…」

 

 白雪の言葉に天狼が返していると…

 

「ところで、天狼さんの先天属性は? 私達だけわかられても困ります。それに私達の処遇も気になりますし」

 

 ふと気になったのか、白雪が天狼に尋ねるも…

 

『それは仮住まいに着いてからでいいだろう。アリアはともかく、白雪。お前はどうせ、我等と行動を共にすることになるからな』

 

「? それはどういう? それに"仮住まい"?」

 

 その答えに首を傾げる白雪だった。

 

 こうして一行は無事家に着いた。

 その後、ゼロはお隣に赴き、ユウマの両親に事のあらましを大まかに説明し、ユウマの両親に謝罪してからアリアを紹介していた。

 アリアも最初緊張していたが、自己紹介で自分が妖怪であること、その中の人魚であることも打ち明けたが、いきなりのこともあってなかなか受け入れてもらえそうになかったが、家事の手伝いが出来ると言った辺りで父親の方が是非手伝ってもらいたいと申し出て泣いて歓迎していた。

 『どうして、泣くのかしら?』と母親の方が首を傾げていたが、ユウマも内心アリアが来てくれたことに感謝の念を覚えていたとか…。

 

 ゼロは思った。

 

「(この家族、普段どういう生活を送ってんだ?)」

 

 父親とユウマの僅かな安堵の表情に、母親の首を傾げた姿を見てゼロは不躾だと思いながらもそう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 そして、その夜…。

 

「そうですか。しず…いえ、アリアさんは大丈夫ですか」

 

「あぁ、あの様子ならすぐに馴染むだろ」

 

 忍と明香音が寝付いた頃にゼロが戻ってきて白雪と話していた。

 ちなみに天狼も今後の話をするために室内に入っている。

 

『それで、ゼロ。次の目的地は考えているのか?』

 

「ん~、それなんだけどな。次は『フィアラム』に行こうかと思ってる」

 

『フィアラム……確か、中央の大陸だったか?』

 

「あぁ、ここリテュアからだとちょうど南に行けばいい。が、中央の北は山脈地帯でな。北からのルートだと山越えする必要があるんだよ」

 

『また面倒な…それなら別の大陸を経由して行くべきではないのか?』

 

「いや、山越えは修行にもなる。帝都だと気候が保たれてるからな。悪環境での順応能力を鍛えられなかったんだ。出来れば、そこをここで解消したい」

 

『なるほど…』

 

 そんな会話を繰り広げるゼロと天狼に…

 

「ちょ、ちょっと待ってください! いったい、何の話をしているんですか?」

 

 白雪が慌てたように口を挟む。

 

「なにって、今後の旅の計画だが?」

 

「た、旅? どういうことです?」

 

『そうだったな。今回からお前も旅に加わるんだから説明せねばなるまい』

 

「はぁ…あいつに契約獣が増える度に説明しないとなのか」

 

『それは仕方あるまい』

 

「仕方ねぇな」

 

 困惑する白雪に天狼の言葉もあってゼロが説明を始める。

 

「そもそもの話。本来なら俺1人の勝手気ままの旅だったんだがな。何の因果か、俺はティエーレンにいる親友の子供…つまり、忍を預かって旅することになった。最初の半年はティエーレンの東地域の山で山籠もりをして忍の体力作りをやっていた」

 

『その頃に我と主は契約した。当時、我は盗賊団に襲われていた。その時に我も傷を負い、生きることを諦めかけていた。が、その時だ。主と出会ったのは…あの時、主は盗賊団に捕まり、首領に殴り飛ばされ、我の元へと飛んできた。当初は食料と考えていたが、子供ながらに大人に立ち向かった主に触発される形で、我も生きるために足掻こうと考えた。その時に契約の儀式が発動した。戸惑っていた我に主は言った。"この契約を断ってもいい"と…だが、我は主と共にあることを選んだ。だが、その時は逃げ切れるかは微妙なところでな。あの女…おそらくは妖怪だ。そいつが首領を蹴り飛ばした隙を突いて逃げ出したのだ』

 

「その時、俺はちょうど仲間に会っててな。そこで明香音を預かった。そうして戻ってきたら忍のやつが契約してたから驚いたもんさ」

 

 わりとざっくりしながらもちゃんと説明したゼロと天狼に…

 

「そんなことが……ということは、皆さんはティエーレンからこちらに?」

 

 白雪はそう尋ねた。

 

「ま、そういうこった。で、今日の件もあるし、国にマークされても面倒だから旅の準備を進めようってな」

 

「なるほど…」

 

 ゼロの説明に白雪もある程度は納得する。

 

「ちなみに資金は基本俺持ちだ。稼ぐのも大変なんだよな。特にこの大陸だと魔獣狩りもままならんし、遺跡にも許可なく入れないからな」

 

「一応、私にも貯えがあるので、明日持ち出してきましょうか?」

 

「そりゃ助かる。だったら、出発は…そうだな。お前さんの身辺整理を考えて一週間後くらいかな?」

 

「ご配慮、痛み入ります。なら、明日から私も行動を開始します」

 

「そうしてくれ。俺達もその間に準備を整えとくさ」

 

 ゼロの言葉に白雪がお礼を言う。

 

『来てもらって早々、慌ただしくてすまんな』

 

「いえ、我が君と契約したからにはこのくらいのことで動揺してもいられませんので…」

 

 天狼も白雪に一言謝意を表すが、白雪も忍と契約したからにはと答える。

 

『強かな女だ』

 

「だな。その調子で忍と明香音の教育も頼むわ」

 

 というゼロの発言に…

 

「はい?」

 

『なに…?』

 

 白雪と天狼が揃ってゼロを見やる。

 

「だって、ほら。俺ってば師匠であって、教師ではない。そういうことはお前等に任せる」

 

 なんという投げやりっぷりだろうか…。

 

『そんな屁理屈を…』

 

「……はぁ…わかりました。我が君と明香音さんへの教育は私も気を付けましょう」

 

『すまんな。我では人の理はよくわからん』

 

「お任せを。この身は妖怪ではありますが、人の世で生活してきましたから多少の心得はあります」

 

 契約獣同士が互いに苦労が絶えなさそうにしていると…

 

「うんうん。これで一安心だな」

 

 ゼロが茶を一口飲んでそのように宣う。

 

『お前が言うな』

「あなたが言わないでください」

 

 というツッコミを契約獣2体がゼロに向かって言い放つ。

 

「ところで、天狼さん。あなたの属性は?」

 

『我は疾風と迅雷を持っている』

 

「っ! 上位個体でしたか…」

 

『あぁ、一応な』

 

 そういった会話を契約獣同士でしていると…

 

「あれ? なんか俺の時よりすんなり話してない?」

 

 対面時にゼロが天狼に属性を聞いた時より、白雪と話してる方がうんなり教えたことにゼロが疑問を持つ。

 

『それはお前が胡散臭かったからだ』

 

「なんとなくわかります」

 

「わかるんか~い! って、酷くね!?」

 

 ゼロがそのように喚くが…

 

『酷くなどない』

「酷くなんてありませんよ」

 

 再び揃って言われたゼロは…

 

「解せぬ…」

 

 一言、そう漏らしていた。

 こういうところが胡散臭さを倍増させているのだが…果たして、ゼロのこれはわざとなのか、素なのか…判断が難しいところではある。

 

『(やはり、喰えん男だ…)』

 

 天狼はそう思いながら次の旅先で何が起こるのか、それが気掛かりであった。

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