絆の証は契約と共に   作:伊達 翼

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第十四話『露呈する名』

 噴水広場での一件の後、忍達は武器や防具などを取り扱う通りを歩いていた。

 

「流石、王都。色々と品揃えが良いな」

 

「物流の中心地ですからね。地理的にも中央は各大陸との接点も多いと聞きますし」

 

「まぁな。ま、子供は目移りしそうだが…いい機会だ。こういうのにも触れさせてやらんとな」

 

「ふぅ…あまりこういうものとは関わってほしくないと思いますが、旅をしている以上、仕方ないと割り切ります」

 

 適当な武器屋へと入った一行は武器を見繕っており、店内でゼロと白雪がそのような会話をしている傍らでは…

 

「やっぱり、小太刀の方がしっくりくる気がする」

 

 明香音がティエーレンから流通されたと思われる小太刀の感触を確かめていた。やはり、隠密の一族らしく目の付け所が普通とは若干違っているようにも思える。

 

「う~ん…僕はよくわからないや」

 

 対して忍は頭を悩ませていた。当然ながら武器を扱ったことのない忍には少しハードルが高かったのだろう。

 

『僕もよくわかりません…』

 

『焔鷲よ。これらの危険性だけは覚えておくがいい。人間は、なにも主のような人間ばかりではないからな』

 

『はい、天狼さん』

 

 天狼と焔鷲の方は、天狼が武器を使う人間に対しての危険度を焔鷲に教えていた。

 

「契約獣はともかく、子供連れでこんな場所に来るとは物好きな奴等だ」

 

 店主らしきガタイのいいおっさんがゼロと白雪に声を掛ける。

 

「ま、社会勉強みたいなもんさ」

 

 ゼロがそのように答えると…

 

「って旦那が言ってるが、嫁さんとしてはどうなんだ?」

 

「はい?」

 

 店主の言葉に白雪から冷気が漏れ出す。

 

「ありゃ、違うのかい?」

 

「ち・が・い・ま・す! 誰がこんな男の嫁ですか! 考えただけで背筋が粟立ちます!」

 

 店主に詰め寄り、白雪が怒声を上げる。ついでに店内の気温が急激に低下していく。

 

「うぉ?! アンタも契約者だったか!?」

 

 人の姿をしているせいか、初見だと契約者に間違われることが多いのが、人型妖怪だったりする。だからこそ、人間社会に溶け込め易いとも言えるが…。

 

「違います! 私は妖怪で、契約者はそちらの我が君です!」

 

 そう言って白雪が忍の方に手を向けて叫ぶ。

 

「ふぇ?」

 

 いきなりのことに忍がそんな声を漏らす。

 

「こっちのガキが契約者だってのか!?」

 

「そうです! 何か文句がありまして!?」

 

 驚いた店主になおも詰め寄る白雪。さっきの美女とのやり取りでフラストレーションでも溜まっていたのだろうか?

 

「あ、いや、別にそういうわけじゃ……なんか、すんません」

 

 店主もしどろもどろになって白雪に頭を下げる。

 

「わかればいいんです。わかれば」

 

 やっと落ち着いてきたのか、店内の気温が正常になりつつある。

 

「(やれやれ…)」

 

 その一幕を見てゼロが肩を竦めている。

 

「じゃあ、そっちの2匹は兄さんの契約獣かい?」

 

「いんや。ここにいる契約獣は全員契約者が同じでな」

 

「ってことは…そのガキンチョが契約者だって!?」

 

 この場にいる3体の契約獣が忍と契約していることに店主は目が点になって仰天する。

 

「あぁ。ちなみに今年10歳になってな」

 

「はぁ~…その歳でもう契約たぁ、恐れ入る」

 

「ま、旅をしてたら自然とな。どうにもトラブル体質らしくて毎回毎回こっちも驚きさ」

 

 そんな風にゼロと店主が話をしていると…

 

カランカラン♪

 

 どうやら他のお客が来たようだ。

 

「いらっしゃい。お? また来たのかい、嬢ちゃん」

 

 ゼロと話していた店主がその客を見ると、そのように言葉を発していた。

 

「なに? 来ちゃ悪いっての?」

 

 そう声を発して返答するのは、忍と同じくらいの背丈で背中まで伸ばした金髪を黒い布でポニーテールに結い、ちょっとつり目気味で鳶色の瞳を持ち、まだあどけなさの残る幼い顔立ちをしている女の子だった。ただ、服装は白を基調に赤の刺繍をあしらったセーラー服を思わせる制服姿だ。

 

「(この制服…確か、学園区画の…)」

 

 その女の子の登場に、ゼロが若干眉を顰める。

 

「いやいや、未来のお得意様になるかもしれない嬢ちゃんだからな。で、今日もかい?」

 

「えぇ、お願い」

 

「あいよ。じゃあ、兄さん。また後で」

 

 そんな受け答えの後、店主が店の奥へと引っ込む。

 

「(忍と同じくらいか? それにあの制服の刺繍の色は、確か…)」

 

 嫌な予感を覚えつつも、ついジロジロとした視線を送ってしまったのか…

 

「なによ、おっさん?」

 

 その視線に気づいたのか、女の子がつり目気味の目をさらにつり上げてゼロを見上げる。

 

「(なんで、みんな…俺をおじさんとかおっさんとか言うかな…)」

 

 女の子の言葉を聞き、少し遠い目をしたゼロに…

 

「用がないなら見ないでくれる?」

 

 女の子は追撃を加えてきた。

 

「お~、怖い怖い。見たところ、学園区画の生徒らしいが…」

 

「だったら何よ? おっさんには関係ないじゃない」

 

 大人相手にも物動じしない女の子である。

 

「まぁ、俺はな。ただ、こいつらはちょいと別でな」

 

「こいつら?」

 

「忍、明香音。ちょっとこっち来い」

 

 ゼロが忍と明香音を手招きして呼び出す。

 

「なに、おじさん?」

 

「なんですか?」

 

 女の子と同世代っぽい忍と明香音の登場に女の子も訝しげになる。

 

「しのぶ? あかね?」

 

「どっちもティエーレン出身でな。今は俺の旅に同行させてる。親の承諾もちゃんと取ってあるから誘拐したとか言うなよ?」

 

「ふ~ん?」

 

 ゼロの紹介にまるで値踏みでもするかのような視線を忍と明香音に向ける。

 

「……………………」

 

「?」

 

 明香音の方も女の子を訝しげに見るが、忍は不思議そうに首を傾げている。

 

「「……………………」」

 

 明香音と女の子の微妙な沈黙を無視して…

 

「僕は紅神 忍。君は?」

 

 忍が女の子に名乗る。

 

「(べにがみ…?)……『流星(ながほし) 朝陽(あさひ)』。須佐之男が武家出身よ」

 

 忍の苗字に違和感を覚えつつも、名乗られたからには名乗り返すのがティエーレン流なのか、女の子こと『朝陽』は自ら名乗る。

 

「久瀬 明香音よ」

 

 そんな子供達の名乗り合いを聞いたゼロはというと…

 

「(げっ…マジか。制服の刺繍の色が色だったから気になったが……こんなとこでティエーレンの武家の娘と遭遇とか…最悪なんだが…)」

 

 朝陽の出身を聞いて内心で冷や汗を流す。

 

「(ホント、嫌な予感ばかり当たるな…)」

 

 ゼロの内心はともかく、子供達の方は…

 

「へぇ、ティエーレンからリテュア経由でこのフィアリムに、ね」

 

「うん。色々と大変だったけど、明香音ちゃんも一緒だったから」

 

「まぁ、足手纏いになったりもしたけど、忍君もいたし…」

 

 朝陽にこれまでの旅の話を簡潔にだがしている様子だった。

 

「ふ~ん…仲良いのね」

 

「べ、別にそういう訳じゃ…」

 

 明香音の方は朝陽の言葉に少し照れてるようにも見える。

 

「それに、一緒に旅してるのは僕達だけじゃないしね」

 

「まだいるの?」

 

「うん。天狼に、白雪さん、焔鷲も一緒に旅をしてるんだよ」

 

「そいつらもティエーレン出身なの?」

 

 名前のニュアンス的に朝陽はそう問うが…

 

「ううん。天狼はティエーレンで出会ったけど、白雪さんはリテュアで、焔鷲とはフィアラムの北の山脈のところで出会たんだ」

 

 忍は朗らかな笑みを浮かべて答える。

 

「? どういうこと?」

 

「まぁ、見た方が早いかもね」

 

 朝陽が首を傾げる中、明香音が苦笑していると…

 

『主よ。どうかしたか?』

 

『呼びましたか?』

 

「何か御用でしょうか、我が君」

 

 そこへ忍の声を聞いたらしく天狼、白雪、焔鷲の3体がやってくる。

 

「……は?」

 

 黒の混ざった白銀の毛並みを持つ狼、3対6枚の翼と紅蓮の羽衣を持つ鳥、白い着物を身に纏った美人さんが同い年くらいの忍を"主"なり、"我が君"などと言って近寄ってきては、どんな人でも固まるというものだ。

 

「……………………」

 

 今更ながらフィアリムに入る前に隠蔽に関する技術をゼロから教わっており、忍は契約紋を隠している。まぁ、天狼との契約紋は顔にあるせいか、目立ち過ぎるというのもあるので、必然的に隠す必要があるのだ。両手の甲にある白雪と焔鷲の契約紋は比較的隠しやすいから、あまり問題はないが…。

 

「? 朝陽ちゃん、どうかしたの?」

 

 固まる朝陽に忍が声を掛ける。

 

「アンタ、何者よ?」

 

「? 僕は僕だけど?」

 

 朝陽の問いに忍は首を傾げながらそう答える。

 

「そういう意味じゃなくて…」

 

 求めていた答えと違うので、少し頭を抱える朝陽。

 

「?」

 

「はぁ…もういいわよ」

 

 そんな風に会話が一区切りついたところで…

 

「待たせたな、嬢ちゃん」

 

 店主が店の奥から戻ってきた。その手には子供用なのか、少し小さめに造られている一本の鞘に収まった剣と一振りの鞘に収まった刀があった。

 

「で、今日は"どっち"だい?」

 

「ん」

 

 差し出された剣と刀の内、朝陽から見て左側の剣を指差す。

 

「こっちかい。じゃあ、裏庭で試しをしてきな」

 

「いつも悪いわね」

 

「別にいいってことよ」

 

 朝陽は剣を受け取ると、店の奥へと向かう。

 

「朝陽ちゃんは何をするの?」

 

 朝陽のことが気になったのか、忍が店主に尋ねる。

 

「ちょっとした試し斬りってやつだな。あの嬢ちゃん、ティエーレン出身だろ? だから出身地で馴染みの刀を使うか、騎士が使うような剣を使うかで迷ってるんだと」

 

「ほぉ、そいつはまた珍しいな」

 

 店主の答えにゼロが興味深げに声を漏らす。

 

「そんなに珍しいの?」

 

 忍が不思議そうに首を傾げると…

 

「あぁ、各大陸での癖や特性、体質ってのはなかなか抜けないもんだからな。それなのに、刀か剣で迷うとは…」

 

「なんとなくわかるかも。私も小太刀とかの方がしっくりくるし…逆に短剣を持つのは…なんだか、変な感覚になるから」

 

 ゼロの簡潔な説明に明香音が同意している。

 

「へぇ~」

 

ペシッ

 

「他人事みたいに言ってるが、お前もちったぁ気にしろ」

 

 感心する忍の頭を優しくチョップしながらゼロが呆れる。

 

「ねぇねぇ、おじさん。朝陽ちゃんの様子を見に行ってもいい?」

 

「邪魔にならない程度にな。試し斬りだからそこまで気を張ってる訳でもないだろうが…ま、気ぃつけていってこい。オヤジさん、いいかい?」

 

「あぁ、別にいいぜ」

 

「だそうだ。くれぐれも変なことすんなよ?」

 

「うん!」

 

 元気よく頷くと忍も店の奥へと消えていく。

 

「(何事もなきゃいいが…)」

 

 店の奥へと消えた忍を見送った後、ゼロはそんな不安を覚えながらも店主との世間話を再開する。

 

………

……

 

 店の裏手にある小さな庭で、朝陽は左手に鞘を持ちながら剣の柄に右手を添えていた。

 

「……………………」

 

 そして…

 

「ふっ! しゃっ!」

 

 抜刀術のように剣を振るうが、何か違和感を覚えるのか…

 

「…………………」

 

 すぐに手を止めてしまう。

 

パチパチ

 

「?!」

 

 小さな拍手がしたので、朝陽も驚いて背後を見ると…

 

「凄いね! 朝陽ちゃん!」

 

 そこには拍手を送った人物、忍がいた。

 

「アンタ…なんで…?」

 

「ちょっと気になったから。邪魔しちゃった?」

 

「別に…」

 

 剣を鞘に収めるのを見てから忍が朝陽へと近寄る。

 

「いつも、あんな風に剣を使ってるの?」

 

「大したことじゃないわよ。騎士学区志望なら、このくらいの訓練は必要だし…」

 

「へぇ、凄いんだね!」

 

「別に凄くなんかないわよ。騎士学区の先輩の方があたしなんかより何倍も凄いって聞くし」

 

 プイっとそっぽを向きながら朝陽はそのように言葉を漏らす。

 

「でも、朝陽ちゃんだって凄いよ。僕はあんまり武器とか持ったことないから…」

 

「ふ~ん?」

 

「僕もおじさんから色々な基礎を教わってる最中なんだけど、おじさんも武器は持ってないからその辺りは全然教えてくれなくて……あ、でもでも、お父さんからはちょっとだけ刀の扱い方を教えてもらったことがあったんだ」

 

「刀を…じゃあ、アンタも武家の人間なの?」

 

 武家の人間として朝陽は感じたことをそのまま口にしたが…

 

「え? う~ん…どうなんだろう?」

 

 忍は首を傾げてしまった。

 

「自分の家のことなのにわからないの?」

 

「お父さんもお母さんも特に何も言ってなかったから…それにあんまり僕は家から出たことないし…」

 

「家から出たことがない…?(どういうこと? 何か秘密でもあるのかしら?)」

 

「うん。それで去年くらいだったかな? おじさんと一緒に家の外の世界を見ることになったんだ」

 

「(なんか、妙に浮世離れしたような答えね…)」

 

 忍の受け答えに朝陽はそんな印象を覚える。

 

「ちなみに、さ。アンタ、苗字が"べにがみ"って言ってたけど…どういう風に書くの?」

 

「えっとね」

 

 朝陽の問いに、忍はその場にしゃがみ込むと、地面に指を当てて苗字を書き始める。

 

 『紅』と『神』の二文字を…。

 

「-------」

 

 それを見た瞬間、朝陽の雰囲気がガラリと変わる。それは…殺気立つ、とも言えるような感じだが…。

 

「朝陽ちゃん?」

 

 忍は妙に殺気立った朝陽を見て首を傾げる。

 

 気付いていない。もしくは、"本当に知らない"のか。いずれにせよ、忍はここで大きな過ちを犯した。ゼロに言い含められていなかったのもあるだろう。他の大陸の人間なら誤魔化しも出来ただろう。だが…忍の苗字は、"同じ大陸出身の者に決して見られてはいけなかった"のだ。

 

「アンタ…あたしに喧嘩売ってんの?」

 

 シュッと抜いた剣の切っ先を忍の顔へと突きつける。

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