絆の証は契約と共に   作:伊達 翼

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第十六話『緊急時につき、王都を出ることにした』

 朝陽という少女との邂逅から数日。一行は武器屋へと通い続けていた。特に買い物をするわけでもないが、朝陽との組み手という名の模擬戦を行っていたからだ。武器屋のオヤジは微妙な顔をしていたが…。

 

 その過程で、忍にもちょっとした変化が起きていた。それは、刀を使い始めたのだ。

 いつまでも素手だけというわけにもいかず、ゼロが武器の使用を解禁したのだ。それで使い始めたのが、刀というわけだ。

 

 父親から多少教わっていたとは言え、素人に毛が生えた程度の腕だったが、持ち前の吸収力でみるみる内に上達していく。

 ただ、やはりと言うべきか…忍は剣の扱いよりも刀の扱いの方が馴染んだようだった。

 

「(流石は流転の息子…刀の扱いが様になってきたな…)」

 

 今日も今日とてゼロの監督下で忍と明香音、朝陽の模擬戦が行われていた。今は刀を使い出した忍と剣を使っている朝陽の模擬戦である。

 

「ふっ…!」

 

「シャッ!」

 

ガキンッ!

 

 忍の刀と朝陽の剣が交差し、甲高い音を立てる。忍も刃物を扱うにあたり、当初の新しい稽古相手に嬉しそうな表情は出さないようにゼロに釘を刺されていた。相手が不気味がるし、相手に失礼だと教えたためだ。それを言われた忍も素直に頷き、今の真剣な表情で稽古に取り組むようになった。

 まぁ、ゼロとしても忍の両親から息子を預かっている以上、下手な癖や振る舞いをさせるわけにはいかない、と頭の片隅では考えているので問題ない(と思いたい)。

 

「(しかし、あいつ…器用というか、そっちの方が性に合ってるのか?)」

 

 ゼロは忍の手元を見ながら少し首を傾げる。

 

 忍の手元…刀を右手で持ちながら、鞘を左手に逆手で持っており、あたかも二刀流のように扱っているのだ。

 

「(特に教えた訳じゃないんだがな…)」

 

 忍のこの疑似二刀流の戦い方はゼロから模倣した訳ではなく、忍自身がこの方がいいと考えて導き出された戦法であり、忍が好んだ戦法であるとも言える。

 

「(まぁ、それを言ったら向こうの嬢ちゃんもかなりの才覚がある訳だが…)」

 

 逆に朝陽の方は鞘を捨てて剣一本で疑似二刀流の忍と互角に渡り合っている。

 

「(天賦の才、ってのは惹かれ合うのかね?)」

 

 そんなどうでもいい考えをゼロがしている合間にも2人の近接戦闘は続いているが…

 

「狼影斬!」

 

「ちっ…!」

 

 忍は魔力を刀の刀身に纏わせて振るい、魔力斬撃を朝陽に向けて放つ。それを舌打ちしながらもバックステップやバク宙を駆使して回避してみせる朝陽。

 

 こういうところで忍と朝陽の差が出てしまう。片や3体の異なる契約獣を従える忍、片や気以外には野生の勘と見事な体捌きでそのハンデをものとしない朝陽。

 どちらが凄いかと言われると…正直、どちらも異常と言えよう。

 

 忍の方は年齢と契約している契約獣の数と質が異常。龍がないにせよ、魔・気・霊・妖の4つの力をこの年齢で使えているのがそもそも常識から外れている。現状、属性もバラバラであるからバランスもかなり良いと言える。訓練だから属性攻撃はしていないものの、いくつか考えているらしい。それらも踏まえるとこの年齢では異常としか称せないだろう。

 

 朝陽の方は契約獣と契約してる訳でもないのに、気と体捌き、剣技、そして何より野生の勘とも言える直感で忍の攻撃を受け流したり、回避したりと忍と同年代にしては動ける体にずば抜けた反射神経を見せている。何より思い切りも良い。邪魔だと判断したのか鞘は早々に捨てているし、状況に応じて剣を器用に左右の手で入れ替えて使っている辺り、その才は同じ騎士学区希望の生徒の中でも群を抜いて高いのかもしれない。

 

「(どっちも末恐ろしいもんだ…これからの成長を見るのがおっかなくなるぜ)」

 

 ゼロの内心はともかく、実際問題として確かに今後の成長を見るのはちょっと怖い2人である。

 

『そこまで! 両者、刃を引け!』

 

 するとゼロに代わり、天狼が忍と朝陽の模擬戦の幕を引く。

 

「ぁ、もう時間か…」

 

「ちっ…今日も決着つかずか…」

 

 天狼の声に忍と朝陽はそれぞれ戦闘態勢を解き、忍は鞘に刀を収め、朝陽も開始早々捨てた鞘を拾って剣を収める。

 

「お疲れさん。しっかし、門限ってのがあると学生ってのは大変だ~ね」

 

 ゼロがそのように呟きながら2人の元へと歩いていく。

 そう、この幕引きは朝陽が学生寮の門限を守るために設けられたものであり、最初の時はギリギリだったが故に今は余裕を持って学生寮へと帰している。

 

「うっさい。基礎学区の門限はこのくらいなのよ。基礎学区から上がれば、もう少し門限も増えるはずだけど…」

 

 制服に付着した土埃を払いながら朝陽がそのように返す。

 

「ま、仕方ないだろ。学園がどんなとこか具体的には知らんが、預かってる子供をそんな遅くまで放っておくわけにもいかねぇだろうしな」

 

「なにを当たり前のことを…」

 

 ゼロの言葉に白雪が呆れたように溜息を吐く。

 

「次こそ決着つけてやるんだから、覚悟しときなさいよ!」

 

 朝陽はそう言い残すと、その場を後にしたのだった。

 

「やれやれ。せわしない奴だ」

 

 朝陽のそんな態度にゼロは肩を竦める。

 

「またね~、朝陽ちゃん」

 

 忍は無邪気にも手を振って別れを告げていたが…。

 

 だが、お互い知る由もない。これがしばしの別れの言葉になるとは…。

 

………

……

 

 朝陽に続き、一行が武器屋から出てしばらく…

 

「……………………」

 

 いつかの噴水広場で再び"彼女"と出会う。銀髪紅眼の美女だ。

 

「……………………」

 

 表情には出さないが、明らかに白雪の機嫌が悪くなる。

 

 夕方となり、人通りが少なくなってきたとは言え、まだ人はいる。そんな中、銀髪紅眼の美女は、ジッと忍を見る。

 

「?」

 

 見られている忍はその視線を受けながらも首を傾げる。

 

「……………………」

 

 美女は右手で噴水の水を自然な動作で一掬いすると、その水を弄ぶように掌で遊ばせる。不思議と水は掌からは零れず、まるで柔らかい粘土でも捏ねているようにも見える。

 

「(何かしらの力が働いてる?)」

 

「(妖力を持ってて、水を操れる…普通なら人魚を想像するとこだが…)」

 

 明香音とゼロが美女の動作を見てそれぞれ考えている。

 

「今夜は良い月が見れそうね」

 

 不意に美女からそのような言葉が呟かれる。

 

「月?」

 

「(やっぱ、こいつ…)」

 

 忍が首を傾げたまま呟く隣でゼロが美女の正体を察する。

 

「坊やの血は美味しいのかしら?」

 

ポチャン…

 

 美女の言葉と共に右手で掬っていた水が噴水へと還される。

 

「え…?」

 

 美女の言ってる意味がわからず、忍も間抜けな声を漏らす中…

 

「また厄介なのに目を付けられたな…」

 

 ゼロが溜息を吐きながら美女の出方を窺う。

 

「安心なさい。こんな人通りの多いところで騒ぎなんて起こさないわ」

 

 ゼロの行動を見て美女は水を掬っていた右手をヒラヒラさせてみせる。

 

「つまり、人通りが少なきゃ仕掛けてくるってことだろ? 安心出来ねぇな」

 

 そう言いつつ、ゼロは元来た道を戻るように忍達に目配せする。

 

「「……?」」

 

 何故元来た道を戻るのか、子供達は少し理解していないようだった。

 

「ちょっとした物入りだ」

 

 そう言うゼロは最後尾で「さぁ、行った行った」と言わんばかりに忍と明香音の背を押す。

 

「その内、再び会いましょう。坊や」

 

 美女は噴水の縁に座ったまま、忍へと向けて言葉を投げかけた。

 

………

……

 

「ん? どうした、兄ちゃん達、忘れもんか?」

 

 本当に武器屋まで戻ってきた一行。武器屋の入り口にはそろそろ店仕舞いでもしようかと店主のオヤジが出てきていた。

 

「まぁ、忘れもんっちゃ忘れもんだな」

 

 ゼロはそう一言告げると…

 

「こいつらが使ってた刀と剣。引き取らせてくれ」

 

 金貨2枚を見せて店主のオヤジに忍と朝陽が使ってた刀と剣を引き取ると言う。

 

「また、急だな。どんな心境の変化か聞かせてくれねぇか?」

 

 店主のオヤジは驚きながらも訳を聞く。

 

「なに、剣の方は置き土産だ。あの嬢ちゃんが来たら譲ってやってくれ」

 

「その言い方。こんな時間に王都を出ようってか?」

 

「あぁ。ちょいと面倒事に巻き込まれそうでな。街中で騒ぎを起こすのも嫌だしな。それで忍の護身用に刀を貰ってこうかな、ってな」

 

「……………………」

 

「釣りはいらねぇからさ…頼むわ」

 

 ゼロの眼を見た店主のオヤジは…

 

「わかったよ。ちょっと待ってな」

 

「悪ぃな」

 

 キン、とゼロが金貨を指で弾くと、店主のオヤジがそれを受け取り、店の中へと入っていく。

 

「もう行くの?」

 

 2人の会話を聞いてた忍が少し悲しそうに尋ねる。

 

「あぁ、あんなのが相手となると、王都を出ないとならないからな。どうするにしてもそれからだ」

 

「朝陽ちゃんにお別れも言えないんだね」

 

「旅をしてれば、こういうこともある。だが、お前等ならいずれまた会えるさ」

 

「本当?」

 

「あぁ。だが、今はあの女の対処が先だ。嬢ちゃんには悪いが、ここで一時のお別れさ」

 

「……うん…」

 

 忍とゼロが話し終えたタイミングで店主のオヤジが戻ってきた。

 

「ほらよ。こいつでいいな?」

 

 店主のオヤジの手には忍がここ最近使っていた刀が握られていた。

 

「ありがとよ。ほら、忍。受け取れ」

 

「うん。武器屋のおじさん、今までありがとう!」

 

 そう言いながら忍は店主のオヤジから刀を受け取る。

 

「よせやい。本当に感謝してるなら、次は坊主が大きくなった時にでも利用してくれよ」

 

「うん!」

 

 店主のオヤジの言葉に忍は大きく頷いてみせる。

 

「世話になったな。じゃあな」

 

「おう。元気でな」

 

 こうして武器屋を後にした一行は、荷物を取りに一度宿屋へと戻り、世話になった宿屋の家族にも軽く挨拶してから南西にある門へと向かうのだった。

 

………

……

 

 夕方から夜の帳へと変わる中、一行は王都を後にし、南へと進路を取る。

 

『それで、次の行き先は?』

 

「南国の大陸、『アクアマリナー』だな」

 

 天狼の問いにゼロは簡潔に答える。

 

「私としては、あまり行きたくない場所ですが…」

 

 次の目的地を聞いて白雪はあまり気乗りしてなさそうだ。彼女は種族的に暑い場所は苦手なのだ。

 

『南国? どういうところなんですか?』

 

 忍の右肩に留まっていた焔鷲が首を傾げる。

 

「そうだな。お前さんのいた火口とはまた違った暑さの場所だな」

 

『ザックリし過ぎだろう。まぁ、我もよくはわからんが…』

 

『違った暑さ、ですか?』

 

「ま、行けばわかるさ」

 

 というような具合にゼロ達が話をしている合間…

 

「……………………」

 

 忍はチラチラと背後の王都を見ていた。

 

「あの嬢ちゃんのことか?」

 

「ちゃんとお別れ、出来なかったから…」

 

「ま、今回は緊急だったからこうして王都を離れちまったが…俺等は旅人だ。出会いと別れは唐突に、ってな。あんま気にすんなよ。あの嬢ちゃんだってわかってくれるさ…(多分な)」

 

 ゼロの言葉に忍も「うん…」と頷くのみだった。

 

「とは言え、あの女が追いかけてくる可能性もある訳だから油断は出来ねぇが…」

 

 ゼロや天狼が警戒しながら道を南下していく。

 

「結局、あの人って何なの? 見た目からして人間離れしてるから多分、妖怪っぽかったけど…」

 

 道を進む中、明香音が疑問の声を上げる。

 

「なかなか良い読みだ。あの女の種族は妖怪で間違ってねぇ。あいつから感じたのは、妖力だったしな。同じ妖力を持つ身としてはそこはわかるな?」

 

「そこは否定したいのですが…えぇ、間違いなく彼女は妖怪です」

 

 ゼロから向けられた言葉に白雪は不承不承と言いたげに肯定する。

 

「人型の妖怪…白雪さんみたいな雪女?」

 

「水を操ってたし、アリアさんみたいな人魚?」

 

 忍と明香音がそのように推測する中…

 

「いや、あいつはおそらく…『吸血鬼』だな」

 

 ゼロが美女の正体についての答えを出す。

 

『「「吸血鬼?」」』

 

 あまり聞いたことのない種族名に忍と明香音、さらに焔鷲が首を傾げる。

 

『吸血鬼。確か、人魚に並び各大陸に存在するという人型か。夜の住人と聞き及んでいるが…』

 

「そうだ。属性で言えば、暗闇と流水のどちらかを持つ場合が多い妖怪でな。基本的には夜行性だが、稀に昼間からでも行動出来る個体がいると聞く。多分、あの女はその稀な例だろうな。そして、保有属性は流水。上位個体でないことを祈るばかりだが…稀に稀が重なるようなことはそうそうないだろう、と思いたい」

 

『確かにな』

 

 天狼の簡単な説明にゼロの詳しい説明が加わり、その説明を聞いて天狼も頷く。

 

「で、吸血鬼の特性の一つに血を吸う。つまり、吸血行動がある。これは人間の血を吸うと同時にその人間の生気を吸うのと同義でな。よほどのことがない限り、吸い尽くすなんて事例は聞かないが…まぁ、あいつらにとっては食事と同じだから、好みもあるんだろう。あと、力…妖力を用いて腕力とか脚力とかを強化する術を持ってる。妖術の類はあまり聞かないが…多分、何かしらの術式を持ってるんだろうと踏んでる」

 

『なるほどな。ならば、あの馬鹿力も納得できる』

 

 ティエーレンで起きた出来事を思い出し、天狼も納得する。

 

 すると…

 

「勝手に納得されても困るのだけれど?」

 

 空から聞こえる女の声。

 

「あちゃ~…他にも能力があったか…」

 

 ゼロも自分の情報不足にやれやれと肩を竦めて空を見上げる。

 

「ぁ…」

 

「また会ったわね。坊や」

 

 登り出た月を背に銀髪紅眼の美女が背中から蝙蝠の羽を出現させ、一行を見下ろしていた。

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