絆の証は契約と共に   作:伊達 翼

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第十七話『この場合、どうするよ?』

 月を背に一行を見下ろす銀髪紅眼の美女。

 ゼロの考察が正しければ、『吸血鬼』という種族の妖怪であるらしい。

 

「わ…妾に血を捧げよ」

 

「(なんだ、今の微妙な間は?)」

 

 美女の言葉にゼロが一瞬訝しげな視線を送っていると…

 

『我が主の血を求めるか。吸血鬼…』

 

 天狼を筆頭に白雪と焔鷲が臨戦態勢を取っていた。

 

「契約獣に成り下がった者達が、妾の邪魔だてをするのかえ?」

 

「?(この人、こんな口調だったかしら?)」

 

 直に言葉を交わした白雪がそんな違和感を覚えている中…

 

「やれやれ、血の気の多い奴等だな。数の優位がこっちにある以上、向こうも下手な手は打てねぇよ。まぁ、何かしら策があると踏むべきだろうが…」

 

 ゼロが冷静に今の状況を口に出していた。

 

 確かにゼロの言う通り、自分を含めて忍、明香音、天狼、白雪、焔鷲と一行は計6名のメンバーとなっている。対して吸血鬼はたったの1人。数の優位が一行側にある以上、彼女はこれからどうするつもりなのだろうか?

 

「こうするのよ」

 

 言うが早いか、吸血鬼は赤い液体の入った小瓶を取り出すと、それを天狼達契約獣3体に向けて投げる。

 

「っ、お任せを!」

 

 即座に白雪が対応し、大気中の水分を圧縮・凝固した氷柱で迎撃する。

 

バキンッ!

 

 小瓶が砕け、中身の赤い液体が霧散する。

 

「降り注げ、血の雨。そして、檻と化せ。『ブラッディ・プリズン』!」

 

 吸血鬼の詠唱と共に、赤い液体が雨となって降り注ぎ、天狼達の周りで固まると、まるで鳥籠のような檻状へと変化する。

 

『あぁ!?』

 

『この程度で!』

 

 天狼が迅雷の力をその身に纏い、血の檻を突破しようとする。

 

「くっ!?」

 

『あぅ!?』

 

 が、その迅雷の力が白雪と焔鷲の身を少しだけ焦がす。

 

「下手に動かぬ事よ。仲間の身を案じるのであればな」

 

『ッ!』

 

 吸血鬼の言葉に天狼もこの狭い檻の仕様を理解し、迅雷の力を解除する。

 

「すみません…私が迎撃したばかりに…」

 

『今言っても詮無いことだ』

 

 謝罪する白雪に天狼はそう返していた。

 

『(奴に頼るのは癪だが…背に腹は代えられんか…)』

 

 天狼がゼロに助力を頼もうとした時…

 

「よし、俺は手出ししない」

 

 戦況を見ていたゼロがこの状況に介入しないと宣言した。

 

『「な!?」』

 

 その言葉に天狼と白雪が驚きの声を上げる。

 

「これも一つの試練だ。俺の力ばかりに頼ってても仕方ないだろ?」

 

 至極当然のようにゼロはその場に座り、傍観を決め込むという体勢を取る。

 

「つ~わけで、忍、明香音。お前達でこの場を切り抜けてみせろ」

 

 その言葉に…

 

「は~い」

 

「えぇ~…」

 

 忍は呑気に答え、明香音はダメな大人を見るような視線でゼロを見ていた。

 

「ふむ? そやつは介入しないと?」

 

 見下ろしていた吸血鬼もゼロの戦闘不参加を訝しげに見ていたが、人数が減ったのならと特に意に介した様子はなかった。なにせ、相手は子供2人になったのだし、血を吸う相手は忍と見定めている。吸血鬼にとってやりやすくなったと言えるかもしれない。

 

「まぁよい。邪魔が入らないのであれば、妾の勝利は揺るぎなかろう」

 

ストンッ

 

 吸血鬼は夜空から地上に降りると、静かに忍に向けて歩を進める。

 

「…………」

 

 その吸血鬼を見つめながら、忍は静かに刀の柄に手を掛ける。その手は若干震えてるようにも見える。

 

 対人戦闘は朝陽との模擬戦で散々やってきたことだが、それはあくまでも模擬戦であって実戦ではない。実戦形式ではあったが、何も本気で殺しにかかるようなことはなかった。しかし、外に出る以上、こういう事態も起こりえる。

 

「(助けてもらったけど…それとこれとは、別問題…)」

 

 頭ではそう考えていても、忍の心は助けてくれた時のことを思い出していた。それが単なる偶然だったとしても、助けてくれた相手に刀を向けていいのか、と考えていた。

 

 すると…

 

「無理しなくていいよ」

 

 明香音が忍の前に出て、腰裏に備えていた2本の短刀を両手で抜き放ち、逆手で構える。

 

「忍くんって、変なところで義理堅いよね」

 

「明香音ちゃん…」

 

「でもさ。割り切るところは割り切らないと…周りにも迷惑になっちゃうからさ」

 

 明香音は目の前の吸血鬼に何の義理もない。ただ、忍に牙を剥く敵であるという認識だけで十分だと思っていた。

 

「今度は、私が忍くんを守るから…」

 

 おそらくは最初に魔獣を狩った時のことを言っているのだろう。あの時は忍に助けてもらい、自分の修行不足にも嘆いたが、今は違う。短い間だが、朝陽という近い年齢の少女との邂逅で明香音も変わったと思っている。その朝陽との訓練で培った自分の戦闘技能を発揮する良い機会だと思っていた。

 

「すぅ…ふぅ…」

 

 深呼吸を一つして明香音は吸血鬼を見据える。

 

「そんな小娘が妾の相手かえ?」

 

 一方の吸血鬼は明香音のことを侮っているようにも見えた。

 

 彼女は忍のように契約獣と契約しているわけではない。むしろ、朝陽に近しくも遠い戦闘スタイルの持ち主だ。気と暗器という手札を用いて相手を翻弄し、一瞬の隙を突く。その一瞬の隙を作るために様々な手を用意する。

 

「…ッ!」

 

 まぁ、今回に限っては相手が侮ってるのもあり、明香音は気を用いた歩法で吸血鬼との距離を一気に詰め、その首に向けて刃を振るう。

 

「は…?」

 

 明香音のあまりにも思い切った動作に間の抜けた声を漏らす吸血鬼。

 

ザシュッ!!

 

 振るわれた刃が吸血鬼の首を斬り裂き、血が噴き出す。

 

ベチャッ!

 

 生々しくも生温かな液体が顔に付着する感触を感じ、明香音は…

 

「(あぁ…私、妖怪って言っても人を初めて斬ったんだ…どんな顔してるんだろ? 忍くんに、幻滅されてないかな…?)」

 

 そんなことを思いながら吸血鬼の背後に着地する。刃に付いた血を振り払うと同時に短刀を腰裏へと戻そうとした時…

 

「小娘如きが…妾の首を斬るとはな…」

 

 吸血鬼の方から声がした。

 

「!?」

 

 その一言に明香音もバッと後ろを振り向くと、そこには…

 

「妖力の無駄使いをさせおってからに…」

 

 首と胴が完全には離れていないが、それなりに深く傷ついた首に左手を添えて妖力らしき力で回復する吸血鬼の姿があった。

 

「なっ…!?」

 

 その姿に明香音も絶句する。

 

「(不死身って訳じゃないだろうが…おそらく致命傷でも妖力を用いて瞬間的に回復する術か。厄介なもんだな)」

 

 静観してたゼロも吸血鬼の行動を分析していた。

 

「もう終わりかえ? なら…」

 

 明香音が絶句して無防備な状態のところへ、回し蹴りの要領で蹴りを入れる。

 

「ッ?!」

 

「早々に退場せよ」

 

 防御する間もなく、明香音は吸血鬼によって蹴り飛ばされる。

 

「がはっ!?」

 

 その威力は凄まじく街道部分に何度もバウンドしながら転がっていく。

 

「明香音ちゃん!?」

 

 それを見ていた忍も声を上げる。

 

「流石にありゃマズいか…」

 

 不参加を表明してたゼロも今の一撃はヤバいと判断し、明香音の元へと走る。

 

「おじさん!?」

 

「お前はそいつをどうにかしろ。出来なきゃ…この先には連れていけんな」

 

 そう一言残し、ゼロはそのまま明香音の元へ、残された忍は…

 

「僕は…」

 

 初めて魔獣を狩った時のことを思い出す。そして、その後に言われたゼロの言葉も…。

 

「っ…!!」

 

 忍が刀を抜き、朝陽との模擬戦で確立させた二刀流で吸血鬼と対峙する。

 

「ただでは血は寄越さぬ。そう捉えていいのだな?」

 

「…あなたには恩がありますが、それとこれとは別です」

 

 忍の行動をそう捉えた吸血鬼が問い掛けると、忍はそう答える。

 

「そうかえ。なら、妾の流儀に反するが、力づくといこうかの」

 

 そう言って左手を首から離すと、明香音が付けた傷が綺麗さっぱりなくなっていた。

 

「…………」

 

 忍も覚悟を決め、刀と鞘を握る手に力を少し込める。

 

「ッ!!」

 

 瞬時に霊鎧装を展開すると、気を全身に巡らせて身体能力を強化し、明香音と同じように一気に距離を詰める。

 

「その手はもう見た!」

 

 だが、吸血鬼も同じ手が通用する程に甘くはなく、即座に右足での蹴り上げを放って迎撃する。しかし、明香音と忍の違いは明香音は跳んだのに対し、忍は駆けて近寄ったことにある。これによって忍は鞘で吸血鬼の蹴りを受け流しながらバク転して一旦後ろへと下がる。

 

「ほぉ?」

 

「(あの人の一撃は受けちゃダメだ…)」

 

 受け流したにも関わらず、微妙にヒリヒリする左手を気にしながら忍は思考する。

 

「(今のところ、蹴り以外は放ってこないけど…いつ手なり拳なりが来てもおかしくはないよね…)」

 

 忍は相手を観察しながら間合いを測るように円を描くような横移動をすり足で行う。

 

「狼影斬…!」

 

 牽制のつもりで忍が横一閃に魔力斬撃を放つ。

 

「小賢しい…!」

 

 しかし、吸血鬼はそれを妖力を纏った左足での回し蹴りで、文字通り粉砕してみせた。

 

「(ここで仕掛けてみよう)」

 

 気で強化した脚力で一気に回し蹴りでクルリと回っている吸血鬼まで駆け寄る。

 

「甘い!」

 

 吸血鬼はさらにクルリと回転して回し蹴りを放ってくる。

 

「ッ!!」

 

 それを忍は屈んで回避すると、その反動を利用して跳び上がるにして鞘の方で吸血鬼の腹を思いっきり殴りつける。

 

「ぐっ…!」

 

 子供が殴りつけたとは言え、駆け寄ってから屈んでその反動を利用し、それなりに力が篭っているから吸血鬼の表情も苦悶に満ちたものとなる。

 

 ただ、不思議なことにここまで接近されているというのに、吸血鬼は手を使う素振りすら見せなかった。

 

「(あそこまで接近されているにも関わらず手を使わない? 何か意図でもあるのか?)」

 

 明香音の治療をしながら戦いを見ていたゼロが吸血鬼の行動に少し眉を顰めていた。

 

「ごめんなさい!」

 

 忍なりの気遣いなんだろうか、そう言って忍は左手に持った鞘を軸にして反回転を行い、右手に持った刀の柄頭で思いっきり吸血鬼の側頭部を殴りつけた。

 

ゴッ!!

 

 鈍くも重たそうな音がその場に響くと…

 

「ぐっ…がっ…!!?」

 

 吸血鬼が意識を手放してしまったかのように前のめりに倒れる。それに合わせて天狼達を囲んでいた鳥籠状の檻も霧散していく。

 

「はぁ…はぁ…」

 

 忍が大きく息を漏らしている姿を見たゼロは…

 

「(明香音の方がよっぽど肝が据わってるか。まぁ、こればかりは旅に出る前の環境もあるんだろうが…少しずつでも割り切らせねぇとな。でなきゃ、あいつは自分で自分の身を滅ぼすことになりかねん)」

 

 そのような感想を抱きつつも今後のことも視野に入れて考えていた。

 

「(ま、無力化したのは事実だから、それはいいんだが…さて、これからどうするか…)」

 

 悩みの種が増えたとも感じるゼロだった。

 

………

……

 

 その後、吸血鬼の手首を後ろ手に、両足も足首の所をそれぞれ縄で縛り、天狼が嫌々ながらに背負う形で夜の道を進む一行。

 

「(これ、絶対誤解されるやつだな…)」

 

 ……夜だから擦れ違う人も今のところいないが、これを見たら人攫いと勘違いされても仕方がないと思う。

 

「(仕方ないとは言え、連れてっても何のメリットもねぇんだよな…)」

 

 ゼロがどうしたもんかと頭を悩ませていると…

 

「っ…う、ここは…?」

 

「目が覚めましたか?」

 

「あ、アンタは…!」

 

 吸血鬼が起きたらしく、それを見ていた白雪が話し掛けたところ、少し身を捩っていた。

 

『えぇい、暴れるな! 落ちるぞ』

 

 不承不承で背に乗せている天狼としては一向に構わないといった感じだが、主に頼まれた手前、そういう訳にもいかずに声を上げる。

 

「ふぎゅ!?」

 

 が、しかし、その心配も虚しく地面に落ちてしまう。

 

「大丈夫ですか?」

 

 そこに忍がしゃがみ込んで声を掛ける。ちなみに吸血鬼の一撃で吹き飛ばされてゼロの治療を受け、そのまま気絶してる明香音は忍が背負っている。

 

「くっ…私をどうするつもりよ?

 

「その口調が素だとすると…お前、キャラ作りでもしてたのか?」

 

 吸血鬼の口調に違和感を覚えていたゼロがそう質問すると…

 

「そうよ! 何か文句でもあるの!?」

 

「いや、別に…若いくせにどうしてあんな古めかしい口調にしてるのか、ちょっと疑問だっただけだ」

 

 キッとゼロを睨む吸血鬼だが…

 

「きゃらづくり?」

 

 忍が小首を傾げて不思議そうな表情をする。

 

「我が君は気にしなくても良いことですよ」

 

 忍の疑問に白雪が笑顔で答える。

 

「くっ…この縄を解きなさいよ!」

 

「襲い掛かってきそうな奴の縄を解くほどなぁ」

 

 吸血鬼に対し、ゼロはそのように言葉を漏らす。

 

「でも、おじさん。このままだと可哀想だよ」

 

「お前なぁ…一応、狙われた身だろうに、甘いこった」

 

 忍の言い分にゼロは頭が痛そうにしている。

 

「ふんっ…」

 

「う~ん…」

 

 そっぽを向く吸血鬼と困ったような表情で吸血鬼を見る忍。

 

 

 

 果たして、この吸血鬼の処遇はどうなるのか?

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