絆の証は契約と共に   作:伊達 翼

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第一話『山籠もり』

 青年と少年の旅が始まって約半年が過ぎようとしていた。

 

 彼らは未だティエーレンにいた。

 

「旅にも先立つモノが必要なんだよな、これが…」

 

 とは、青年の言葉。

 

 中央の三都から離れ、他の大陸に渡ろうと東側の地域に来たまではよかったが、そこで路銀が心許ないことに気付き、しばしの間、路銀稼ぎと少年の修行を行うことにしたのだ。

 

 宿代がもったいないと言って野宿を選んでいるが、山で修行するにもサバイバル技術の向上という面では役立つので基本的に食料も自力で取ることにしていた。

 まぁ、少年の方はまだ戦力外なのと体作りをしている最中なので、主に青年が食料を確保しているのだが…。

 

「一人旅が早くも恋しいぜ」

 

 とは言え、親友との約束を違えるほど腐ってもいないと自負していた。

 

「いいか、"忍"。俺らは日々食料という糧を得ている山や、糧となった命に対して感謝をしなきゃならん。わかるな?」

 

「うん、"ゼロ"おじさん。命を糧にするってことは、その命を奪うことであってその命を無駄にしないようにすること。人も動物も自然も、それに魔獣達も等しく命を持ってるから、それを忘れて感謝を怠っちゃいけない、だからだよね?」

 

「そうだ。命には敬意と感謝を常に持っておけよ。そうでなくなった時、人はその尊厳を失うと俺は考えてるからな」

 

「うん」

 

 少年は青年の言葉に頷く。

 

「あと…」

 

「?」

 

「"おじさん"じゃなくて"師匠"な」

 

 そこだけはどうにも譲れないらしい。

 おじさん呼びがどうにも嫌らしい青年だった。

 

………

……

 

「…………………」

 

 少年の名は『紅神(べにがみ) (しのぶ)』。

 

「すぅ……ふぅ……」

 

 肩に掛かるくらいの黒髪と右は琥珀、左は紫色のオッドアイを持ち、まだあどけなさと幼さが色濃い顔立ちをしており、体格はまだまだ成長途中なのか華奢な部類だが、現在は鍛えてる最中だからか所々引き締まってる…ように見えなくもないが、まだまだプニプニしてる、のかな?

 年齢は9歳なので、まだまだこれからとも言える。

 

 今は人里離れた山奥で、人が元来持っている『気』の扱い方を会得しようとしている。

 

「そうだ。余計な力は抜け。それでいて意識は自分の体内に向けるんだ」

 

 青年の名は『ゼロ』と言い、色々と謎多き人物である。

 

「『気』ってのは俺達が生きてく上で常に体から発せられてる生体エネルギーだ。ま、量は微弱だし、普通の人は知覚することは殆どない。普通に生きる分には知覚する必要がないからな」

 

 背中まで伸ばした金髪と右は赤、左は蒼のオッドアイを持ち、20代前半に見える端正な顔立ちをしており、体格もそれほど特筆した特徴があまりない平凡そうだが、そこそこ鍛えているせいかちょっとだけ筋肉質だったりする。

 何者にも縛られない自由人であり、普段から飄々としていて掴み所のないが、その反面、腕っ節は強く博識で色々な知識を持っている。

 年齢不詳でファミリーネームも不明だが、忍の両親…特に父親とは親友という間柄なのだそうだ。

 ハッキリ言って、とても怪しい人物であるが、忍は父親から紹介されて外の世界の話をよく聞かされていたのでそれなりに懐いており、今は旅を共にしていて師事もしている。

 

「だが、お前は魔獣達と契約したいんだろう? なら、遅かれ早かれ戦いは避けては通れない道だ。だからこそ、今の内に気の扱い方は覚えておいた方がいい。気の基本は身体強化が主流だが、極めれば色々と応用が利き、他の力を得た時の感覚も掴みやすくなるだろう」

 

「…………………」

 

 ゼロの言葉に耳を傾けていながらも体内に流れているだろう『気』を知覚しようと意識を体内に向ける。

 

「(まだ子供のくせに大した集中力だな…)」

 

 忍の集中力にゼロも感心しているが…

 

「(ま、流石にそう簡単には感じられんか。なら、少しだけ手本を見せてやるかな)」

 

 まだまだ幼い忍に手本を見せようと軽い気持ちでいた。

 

 が、それはゼロにとって思いもよらないことに気付かされることとなる。

 

「いいか、忍。これが『気』だ」

 

 ゼロが自らの体内を流れる生体エネルギー『気』を右手に集中させ、それを視覚的に見えるように高密度の圧縮した小さな気の球を忍に見せる。

 

「わぁ…」

 

 それを見た途端、集中していた忍も魅入るようにしてゼロの気の球を見る。

 

「触ってもいい?」

 

「あぁ、いいぞ。但し、注意しろよ? ただでさえお前はまだ『気』を扱えないんだからな」

 

「うん!」

 

 そう言うと、忍はゼロの右手にある気の球をペタペタと触る。

 

「こらこら、あんまそんな風に触んな」

 

 ゼロも忍の触り方を注意しながら、そろそろいいだろう、と気の球を消す。

 

「『気』って温かいんだね」

 

「人の命の波動とも言われてるからな。そう感じるのかもしれんな」

 

「へぇ~」

 

 目をキラキラさせてゼロの話を聞く忍に…

 

「よし。じゃあ、続きだ。気の知覚は一朝一夕じゃ出来んからな。まずは体内に意識を…」

 

 そこまで言った時だった。

 

「ん~…!」

 

 忍が右手に"気を集中させ、小さな…ゼロのよりも小さな気の球を作っていた"。

 

「なに…!?」

 

 その光景にゼロも驚きの表情を見せた。

 

「(嘘だろ!? たった一回、俺の気に触れただけだぞ!?)」

 

 さっきまで集中していたのが嘘のように気の球を作った忍を見ていると…

 

「おじさん! 出来たよ!」

 

 嬉しそうに師であるゼロに報告する無邪気な忍。

 

「あ、あぁ…そう、だな…」

 

 そんな忍に、少し空恐ろしいものを感じるゼロだった。

 

「(おい、親友。お前の息子…なんか、とんでもねぇ天賦の才でも持ってたか?)」

 

 親友の姿を思い出しながら、少し恨めしい気分になったものの…

 

「(いや、こいつにどんな才能があろうと、それを上手く導いてやるのが今の俺の仕事みたいなもんだ)」

 

 すぐさま気持ちを切り替えて、忍の前に屈んで忍の両肩を掴む。

 

「? おじさん?」

 

 少しだけ表情の硬いゼロに忍は首を傾げる。

 

「師匠と呼べ。いいか、忍。お前には間違いなく才能がある。それは俺が保証してやる。だがな…今はその才能を磨く時じゃない」

 

「? どういうこと?」

 

 言ってる意味はわからないが、ゼロの真剣な表情に忍もゼロの眼を見る。

 

「お前の才能はきっと将来役に立つ。それは間違いない。ただ、今のお前はまだまだ成長途中で幼い体のままだ。わかるな? 才能という力を使おうとすると、きっと今のままじゃ体に負荷が掛かり、下手すると完治不能の障害を引き起こす可能性もある。そんなのはお前も嫌だろう?」

 

「う、うん…」

 

 ゼロの真剣な声音に忍もおっかなびっくり気味に頷く。

 

「お前は聡いし、賢い。だからこそ今、釘を刺しておく。俺が許しを出すまでの間、俺や人の真似をするのを禁ずる。ただ、これからも俺はお前に知識や技術を与えていくが、今はまだ使うな。これはお前のためでもあるんだ。だから、約束してくれるな?」

 

 これはゼロが直感的に忍がゼロの気を触ったことで気の扱いを習得したのだろうと考えたからだ。

 だからこそ、自分がそれを許すまで自分や他人の真似をしないように釘を刺していた。

 

 そして、最後の方は優しく忍の頭を撫でて言い聞かせるように言っていた。

 

「よくわからないけど…うん、僕はおじさんを信じる。約束も守るよ」

 

 ゼロの手から伝わる温もりと、その言葉を信じて忍も約束を守ると誓った。

 

「良い子だ。あと、師匠な」

 

 撫でてた手で、ポンと軽く忍の頭を叩いてからゼロも立ち上がる。

 

「さて、思わぬ収穫もあったが、やることは変わらん。気を感じることが出来たのなら体作りの再開だな」

 

「は~い」

 

 元気よく返事をしてゼロの後を付いていく忍だった。

 

「(しかし、こいつと契約するような魔獣達がどんなのになるのか…ちょっと想像がつかんくなったな…)」

 

 ゼロはそのようなことを考えていた。

 

「(ま、契約自体がまだ解明出来てない部分もあるから何とも言えんが……忍も俺と同じ五気使いになるのかもな)」

 

 そんな確信にも似た予感を覚えながらも忍を鍛えるための計画を考えるのだった。

 

………

……

 

 それから数日後のこと。

 

「海を渡るにしても、何処から回るかね…」

 

 深夜、ゼロは忍が眠った頃合いを見計らって考えを纏めていた。

 一人だった頃と違い、今は忍もいるのでどの大陸に渡るか悩んでいたのだ。

 

「近場で言えば、フィアラムが妥当なんだが…リテュアで修行させるのも手なんだよな…もしくはアクアマリナーでもいいか。一番遠いが、ストライムって手もあるか…("奴等"の目を掻い潜るならな…)」

 

 温暖な気候で様々な環境があるフィアラム。

 極寒の環境で厳しめの修行が出来そうなリテュア。

 熱帯の環境で持久力を上げるのに良さそうなアクアマリナー。

 平原ばかりだが、追手のことを考えたら有力候補となるストライム。

 

 ティエーレンでの潜伏もそろそろ厳しいかなと考えてたゼロはそれなりに悩んでいた。

 忍の修行も大切だが、それ以上に忍の身柄を保護することも大切なのだ。

 理由は訳あって忍本人にも秘密にしているが…。

 

「(木を隠すには森の中とも言うが…さてはて、どうするか…)」

 

 そこまで考えると、木々の合間から見える深夜の月を見上げる。

 

「("あいつら"とは別行動中だしな。下手に頼る気もないが…ま、いざとなったら"呼び出す"か)」

 

 そう考えて自らの右腕を見る。

 

「(路銀はそこそこ稼いだし、いつでも動けるが…やっぱ、行き先だよな~)」

 

 忍が山奥で修行してる合間、ゼロは近場の集落に赴いては懸賞金の掛かった魔獣退治を行っていたりする。

 それで得た懸賞金はそのまま路銀として活用するのだが、大陸を渡る船に乗るために必要な硬貨は2人分必要だったので、それなりに掛かってしまった。

 

 というのも近場の集落が少なめで、魔獣退治もそれほど出ていなかったのもあり、雑用なんかも手伝っていた。

 港のある集落に行ってもよかったが、忍もあまり一人にしておくのも危ないと考えて近場でコツコツと集めていたのだ。

 そして、その帰りに食料調達も行わないとならないので、必然的に近場で稼ぐしかなかった。

 そこは一人旅じゃなくなった自由度の低下も要因だが、ゼロは仕方ないと割り切っていた。

 

 さらに忍のことも考えての行き先の選定も最近はこうして深夜に行うことが多かった。

 しかし、それでも堂々巡り…なかなか行き先を決めることが出来なかった。

 いずれの大陸も修行という観点ではティエーレンと並んで別に困らないし、追手を撒ける可能性があるならストライムに行くべきだが、ティエーレンの反対側の大陸故にそれだけ移動に時間が掛かるのも問題だった。

 その間に本来なら気の習得もさせたかったが、先の出来事からそれも断念せざるを得なかった。

 

 が、ゼロには一つの懸念があった。

 

 魔獣退治をする傍らで情報収集もしていたのだが、最近この近辺で傷を負った霊獣らしき生物を目撃したという情報があったのだ。

 霊獣くらいならゼロにとっては大した存在ではないのだが、ゼロがいない時に忍が遭遇しないという保証もない。

 傷を負った獣ほど怖いモノはない、とゼロの経験上は結論付けている。

 

 しかし、間の悪いことに明日は近場の集落に出向かなければならない用事があった。

 それは忍の父親が個人的に雇っている隠密と接触し、忍の書いた手紙と両親からの手紙の交換を行いつつ、色々と情報交換をしないとならないからだ。

 特に次の行き場所についても話さなくてはならないので、ゼロは大いに悩んでいる訳である。

 

「(はぁ~……面倒が起きなきゃいいが…こういう時って確実に面倒事が起きんだよな…)」

 

 ゼロはその経験から面倒事が起きる予感を覚えつつも、"何事もないように"と願わずにはいられなかった。

 

 そして、それは見事に的中することとなるのだった。

 

………

……

 

「じゃあ、ちょっくら行ってくるから、あんまここから離れんなよ?」

 

「うん、いってらっしゃい」

 

「ん」

 

 忍の声を受け、軽く手を上げることで応えてゼロは出発する。

 

 

 

 ゼロが出発してからしばらくして、忍も日課となりつつある体作りを開始していた。

 

「1、2…1、2…」

 

 入念な準備体操をしてから山道を軽く走り始める。

 

 山道と言っても整備されてる訳ではないので、通れそうな所を走るだけでも色々な筋肉を刺激するにはもってこいなのである。

 それに自然の障害物もあったりするので、咄嗟の判断力を養うには程良い場所とも言える。

 

 そんな山奥の険しい道なき道的なものを走っている時だった。

 

『ウオオオオン!!』

 

 行く先から何やら遠吠えのような声が聞こえてきた。

 

「?」

 

 忍も"なんだろう?"と思って立ち止まってしまう。

 

「…………よし」

 

 恐怖よりも好奇心の方が勝ったのか、声のした方へと歩いていくことにしたらしい。

 それともゼロと一緒にいたためか、危機察知能力が少し鈍感な方になってしまっているのではなかろうか?

 

「(さっきの、遠吠えだったのかな…?)」

 

 そんなことを考えながら進んでいくと、開けた場所が見えてきた。

 

「(ぁ…)」

 

 物陰に身を潜め、目の前の開けた場所を見ると、そこには…

 

『グルルルル…!!』

 

「へへっ、こりゃ上物の霊獣じゃねぇか!」

 

 手傷を負って血で汚れているが、黒の混ざった白銀の毛並みが美しく真紅の瞳を血走らせた狼が、巨漢の男を前に威嚇していた。

 対する巨漢の男は背後に何人かの部下を引き連れて余裕の態度を取っていた。

 

「頭ぁ! こいつ、どうしやしょうか?」

 

「こんな上物、狩らない訳にはいかねぇよなぁ?」

 

『ヒャッハー!』

 

 どうも男達は盗賊の類らしく、狼の霊獣を狩る気でいるようだ。

 

「ま、既に傷物なんだ。多少いたぶっても問題ないだろうよ!」

 

 いくら魔獣達が人に害を成す存在だとしてもそのような非道が許されることはない。

 

「(…………っ)」

 

 男達のやろうとしていることに少なからず怒りを覚える忍だった。

 

 しかし、多勢に無勢。

 狼の劣勢は一目でわかる。

 そこに子供の忍が出て行っても焼け石に水か、下手したらもっと状況が悪くなるかもしれなかった。

 

 そんなことを考えをしていたせいか…

 

ザザッ!

 

「っ!?」

 

 忍は背後から近付いてくる気配に気付くのが遅れた。

 

 

 

 果たして、忍と狼の運命は…!?

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