絆の証は契約と共に   作:伊達 翼

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第三話『新たな旅の仲間』

 忍が天狼と契約を果たしたその頃…

 

 近場の集落の酒場では…

 

「酒場に子供を連れ込むとか…この酒場に個室がなきゃ色々とマズいだろ…」

 

 それ以前に子供を酒場に連れてくな。

 

「仕方あるまい。他に個室を借りられる場所がないのだからな」

 

「そりゃまぁ、そうだがよ…」

 

 テーブルに右肘を乗せて手で顔を支えて呆れるゼロを傍目に瞬弐は隣に座るしょんぼりした様子の明香音を見る。

 

「まだ納得がいかんか?」

 

「当たり前です。実質的な破門じゃないですか…」

 

 しょんぼりしながらも恨めしげな眼で実父を睨む。

 

「何度も説明したが、これはお前のためでもあるんだ。別にお前自身は俺のように隠密になる必要はない。お前はお前の道を歩むべきなんだ」

 

「むぅ~」

 

 瞬弐の言葉に頬をぷくっと膨らませて抗議するような表情になる。

 

「お前、相当口下手だな」

 

 その様子を見てたゼロもそんなことを言う。

 

「ふむ…」

 

 無表情ながら悩んでる雰囲気がゼロに伝わってくる。

 

「はぁ…やれやれ…」

 

 そんな瞬弐に呆れながらも…

 

「そろそろ本題に入りたいが、いいか?」

 

 忍のことも考え、早めに本題に移ることにした。

 

「あぁ、わかった」

 

 明香音の視線をものともせず、ゼロの話を聞くことにしたらしい。

 それでいいのか、父親よ?

 

「これが竜也達に渡してほしいあいつの手紙だ」

 

 テーブルに忍の書いた手紙を置いて瞬弐に差し出す。

 

「確かに受け取った。では、こちらからもこれを…」

 

 その手紙と交換するように瞬弐も懐から手紙を出してゼロに手渡す。

 

「ん、確かに受け取った。で、そっちの状況はどうなってる?」

 

 手紙の交換を終えると、今度は情報交換が行われ始める。

 

「あまり良くはない。2人共、ほぼ監禁状態が続いている。幸い、2人は同じ部屋で過ごしているから特に問題はないようだ」

 

「そっか……忍を捜す動きの方は?」

 

 2人の無事が確認出来て少し安堵した表情になるゼロは次の質問に移る。

 

「そちらに関してはこの西地域を中心に捜索する動きが出てきた。北や南も捜索範囲には入っているが、基本はこの西地域になりそうだ」

 

「東って選択肢はなかったのか?」

 

「既に捜索済みだ。上もたかが子供だけだと思っていたが、足取りが思うように掴めないことから第三者の手引きも考えるようになり、今では大陸を渡る可能性も見出してきた」

 

「今頃かよ。対応が遅ぇなぁ…」

 

 ゼロがそんなことを呟くと…

 

「あまり表沙汰にしたくない案件でもあるからな。どうしても後手になりやすいんだ」

 

 瞬弐がすぐさまそう言い返していた。

 

「ま、しばらくはその捜索も出来ないだろうがな」

 

「では、やはり?」

 

「あぁ、俺は忍を連れて大陸を渡る。行き先は…とりあえず、リテュアかな?」

 

「そうか…」

 

 ゼロの言葉に瞬弐も軽く頷く。

 

「それと、竜也と汐乃に伝えておいてくれ。お前らの倅は才能の塊だってな」

 

「? どういうことだ?」

 

「あいつ、俺の気に触れただけで気の扱いを習得しやがった」

 

「なに…?」

 

 その発言に瞬弐も片眉をぴくりと動かす。

 

「時間をかけてじっくり教えるつもりだったんだがな…まったく末恐ろしいガキだよ」

 

 そう言うゼロだが、その表情はなんだか楽しげであった。

 

「……わかった。伝えておこう」

 

「で、大陸を渡った後の連絡手段なんだが…」

 

「先も言ったが、俺が大陸を渡ることは出来ない」

 

「かと言って俺がこっちに戻るとしても時間がかかるし、要領も悪いしな…何よりも旅先で忍一人にするってのが心配だ。変な騒動に巻き込まれないとも限らないし」

 

 ※この時点でもう既に巻き込まれております。

 

「だからこそ明香音を連れて行ってほしい」

 

 そう言って瞬弐は明香音の頭を撫でる。

 

「なんか手段でもあんのか?」

 

「武者修行としてお前の旅に同行させ、定期的に荷物のやり取りを行う。仕送りと土産物の交換だな」

 

 そこまで聞いてゼロも大体のことを察する。

 

「なるほど。それ自体が偽装にもなるか…しかも家族からの荷物ってことならそっちの目も掻い潜れるか」

 

「そういうことだ。それに娘の近況も聞け、さらに情報交換や手紙の交換もしやすくなる」

 

 つまり、武者修行に向かわせた娘の旅先に仕送りと共にこちらの近況や竜也達の手紙も一緒にして送ろうということである。

 そうすることで明香音経由でゼロ達にも情報が渡り、ティエーレンでの状況も把握出来る。

 さらにお返しとして旅先から明香音が実家に荷物を送ることで、今度はゼロ達の近況や情報を瞬弐経由で竜也達にも伝えられる。

 まさか、家族間での荷物を偽装として扱うなどとは夢にも思わないだろう。

 

「ちなみに検品される可能性は?」

 

「無い、とは言い切れないが…疑われる可能性は低いだろう」

 

 大陸を渡った娘と実家を結ぶため、定期的に行われる行為なので疑われる可能性も低いとしている。

 

「わかった。なら、そうするか」

 

 ゼロも瞬弐の案に同意し、その方向で事を進めようと決心する。

 

「明香音。これはお前にしか出来ない任務だ。この者ともう一人と共に大陸を渡り、見聞を広めつつ己の生き方を見つめ直すんだ」

 

 そんな瞬弐の言葉に…

 

「私にしか出来ない…?」

 

 明香音も瞬弐の顔を見上げる。

 

「そうだ。これは主家とは関係ない案件ではあるが、俺にとっては友との約束も守らねばならない。だが、お前は俺のように主家に縛られることなく、己の目と耳で見聞きしたことを糧に己の道を進め。そして、一回りも二回りも成長し、己が信じるに値する主を見極めるんだ」

 

 娘にそのようなことを伝える。

 

「お父さんは…主家に仕えてることを後悔してるの?」

 

 そんな明香音の質問に…

 

「いや、そんなことはない。だが…そうだな。もっと別の選択肢もあったのではないか、と時折考えることもある」

 

 瞬弐はそう答えていた。

 

「…………………」

 

 そんな風に言う瞬弐を初めて見た気がして、明香音は…

 

「……わかった。私、外の世界に出てみる」

 

「そうか…」

 

 その言葉を聞いて瞬弐も少し安堵したような雰囲気を出す。

 

「でも、それはお父さんみたいな隠密になるって夢を諦めた訳じゃないから!」

 

 そんな風に明香音は意気込んでいた。

 

「ま、世界は広いからな…色々と学ぶことも多いだろうぜ?」

 

 その様子を見てゼロもそんな風に言う。

 

「では、明香音のことは頼んだぞ」

 

「あいよ。忍共々面倒見てやるよ」

 

 娘を託してきた瞬弐にゼロもそう答える。

 

「明香音もしっかりと学んで来い」

 

「はい、お父さん!」

 

 父の言葉に元気よく返事をする明香音。

 

 こうしてまたも小さな旅の仲間が増えるゼロ一行でした。

 そして、瞬弐と別れ、明香音はゼロと共に忍の待つ野宿の拠点へと戻るのだった。

 

 忍の身に何があったのかも知らずに…。

 

………

……

 

 ゼロが明香音を連れて山奥の拠点に戻ってくると…

 

「あ、おじさん。お帰りなさい」

 

『………………』

 

 自分と狼の傷の手当てをした後らしい忍と天狼が待っていた。

 しかも忍の顔には契約紋が浮かんでいた。

 

「…………何があった…?」

 

 その光景にゼロは少しの間だけ固まりながらも何があったのかを忍に尋ねる。

 

「………………」

 

 ちなみに明香音は明香音で呆然としていた。

 

「えっと…実は…」

 

 忍がゼロにこの状況の説明をする。

 

 森の中を走っていたら遠吠えが聞こえ、興味本位で見に行ってしまったこと。

 そしたら盗賊の一味と天狼が対峙していて、隠れて様子を見てたが、盗賊の一人に見つかってしまったこと。

 盗賊の頭に殴られ、その勢いで地面に転がって天狼の側まで吹っ飛ばされたこと。

 そんな盗賊に怒りを覚え、自分なりの言葉で立ち向かおうとし、天狼もそれに応えるように立ち上がると契約の儀式が発現したこと。

 それから天狼に自分の気持ちを伝えた後、天狼が遠吠えをしたと思ったら顔が熱くなって契約紋が表れたこと。

 そして、言いつけを破って天狼と共に立ち向かおうとした矢先、突如として謎の美女が現れて盗賊の頭を蹴り飛ばして去っていったこと。

 その隙を突いてここまで逃げてきて、ゼロが来るまでの間に手当てを済まして待ってたこと。

 

 以上の説明をゼロにした忍だった。

 

「よく無事だったな、おい…」

 

 呆れ半分、お怒り半分といった具合の微妙な表情で忍を見下ろす。

 

「ごめんなさい…」

 

 シュンとした様子で忍もゼロに謝る。

 

「しかも知らん内に契約までしちまうとか…お前なぁ…」

 

 だんだんとお怒りよりも呆れの感情が勝ってきていた。

 

「色々とすっ飛ばし過ぎだろうに…」

 

 心底呆れた風に溜息を吐くと…

 

「まぁ、契約しちまったもんは仕方ないけどな。余計な出費がまた増えるなぁ~」

 

 明香音のこともそうだが、"こんな狼まで面倒見んのかよ"、という気分で路銀を確認していた。

 

『…………………』

 

 そんなふざけてるように見えるゼロのことを見て天狼は天狼でゼロのことを警戒していた。

 

「っと、そうだ。それはまた別問題として…忍。今日から旅の仲間がもう一人増えるぞ」

 

 そう言ってさっきから呆然と突っ立ってる明香音に視線を向ける。

 

「ぁ、初めまして。僕の名前は紅神 忍。よろしくね?」

 

「(べにがみ?)」

 

 忍の苗字に少しだけ疑問を抱くが…

 

「ぁ、こちらこそ初めまして。久瀬 明香音と言います」

 

 挨拶されたからには挨拶を返さないと、という感じにお互い自己紹介していた。

 

「えっと…明香音ちゃんって呼んでいい?」

 

「え? えぇ、別にいいけど…」

 

 呼び方なんて特に気にしてなかったから頷く。

 

「明香音ちゃんっていくつ?」

 

「9歳になったばかりよ」

 

「じゃあ、僕と同い年なんだね」

 

 同い年だとわかり、ニコニコする忍はさらに質問をする。

 

「明香音ちゃんはどうして旅を?」

 

「お父さんに世界を見て自分の道を探すように、って言われたから…」

 

「そうなんだ」

 

「あなたはどうなの?」

 

「僕は…外の世界を見たかったら、おじさんと旅してるんだ。それと契約にも興味があったし」

 

「そう…」

 

 とても同い年とは思えない理由に明香音は不思議な感覚を覚えていた。

 

「(さっきのお父さん達の会話からすると…この子が捜索対象? でも、どうして…?)」

 

 ゼロと瞬弐の会話を側で聞いてたこともあり、明香音は目の前の忍が捜索対象だと考えたが、その理由はわからなかった。

 

「(それに、『べにがみ』って…なんか引っ掛かるような…)」

 

 明香音の表情が少しだけ険しくなったのを見て…

 

「? どうかしたの、明香音ちゃん?」

 

 忍が尋ねると…

 

「あ、いえ…なんでもないわ(多分、気のせい…よね…)」

 

 明香音もふるふると首を横に振った。

 

「さて、お前ら…雑談もその辺にしてよく聞け。俺達はこれから北の大陸『リテュア』に向かう」

 

 パンパンと手を叩いて注目を集めるとゼロがそのように言う。

 

「リテュア…確か、寒い大陸なんだっけ?」

 

 忍が目をキラキラさせながらゼロに尋ねる。

 

「あぁ。そのために防寒対策は必須だな。港町で色々と買い込まないとな。三人分の防寒着に長持ちしそうな食料とかな…」

 

「まぁ、念入りな準備は必要ですよね」

 

 ゼロの言葉に明香音も同意する。

 

「特にお前ら2人と、狼は初めて大陸を渡ることになるだろうしな。準備しておいて損はない」

 

 忍と明香音、天狼にとって初めての体験になるだろう。

 

「港町ってことは船で移動するんだよね?」

 

「そういうことになるな」

 

「天狼もちゃんと乗れるよね?」

 

 船旅も楽しみではあるが、天狼が乗れないのではと心配する忍だった。

 

「そこは大丈夫だ。昔はともかく、今はちゃんと契約獣って証明出来るなら船に乗れるからな。まぁ、顔に契約紋が浮かんじまってるお前なら問題は無いだろうさ。それにそこの狼も喋れるようになってるだろ?」

 

「それは…うん」

 

「なら、堂々としてりゃいいんだよ。俺もフォローしてやっから」

 

 そう言って忍の頭をポンポンと撫でてやる。

 

「さて、そうと決まればさっさと移動するか。忍達の遭ったっていう盗賊共と遭遇しても嫌だしな」

 

 そう言って野宿の後始末を始めるゼロと忍、明香音だった。

 

「(やれやれ…勝手気ままの一人旅だったはずなんだが…親友の頼みで二人旅になり、そして今度は三人と一匹の旅とはな…)」

 

 ゼロはこの子連れ+一匹の旅を考えて少し気が滅入った。

 

「(ま、なるようにしかならんか……ついでにこの2人を一緒に鍛えてやるとしますかね)」

 

 相手がいることで共に切磋琢磨していくだろう、という魂胆も少なからずあった。

 

「(しかし、忍が霊力を得たのはいいが…狼の先天属性はどうなんだ?)」

 

 ふと気になってので…

 

「なぁ、狼君よ。君の先天属性はなんだい?」

 

 直接聞いてみることにした。

 

『何故、お主に我が先天属性を教えねばならん?』

 

「だって、俺は忍の師匠よ? 弟子の力を把握するのは当然っしょ?」

 

『むぅ…』

 

 その言葉に天狼は言葉を詰まらせる。

 

「ほら、言っちゃいなよ。どうせ、忍にだって教えないとなんだからよぉ~」

 

『…………………』

 

 ゼロが天狼の頬を指でグリグリして追求していると…

 

『我が先天属性…それは"迅雷"と"疾風"だ』

 

 折れたらしく天狼が自分の先天属性を告げる。

 

「迅雷と疾風か。ふむふむ…」

 

 それを聞いて何度か頷くゼロだったが…

 

「って、お前…"上位個体"じゃねぇか!?」

 

 天狼が『上位個体』であることに驚いていた。

 

~~~

 

 ここで、再び解説を…。

 

 用語説明の先天属性の項目を見て頂いた方はご存じだろうと思うが、この先天属性というものは原則的に魔獣達一体に対して必ず一つは備わっているものである。

 

 が、稀に二つ以上の先天属性を持って生まれる個体も存在する。

 そういった複数の先天属性を持つ個体のことを『上位個体』と呼ぶ。

 

 この『上位個体』は非常に数が少なく、且つ珍しいので上位個体と契約を結べたケースも数える程度しかない。

 しかし、大抵の場合は契約した者がその契約獣が上位個体であることを隠すこともあるので、正確な数はわかってはいないのが実情である。

 

 それだけ上位個体というのは貴重で、一体で複数の属性を得られるのはそれだけで強みとなる。

 上位個体と契約しても一つの属性しか使わなければ、それだけで情報を隠せる。

 大抵の場合、属性は一つしか持てないので、そういった思い込みを突いた戦術を取る者も中にはいる。

 

 総じて珍しく貴重であり、遭遇する確率もそんなに高くなく、それと契約するとなるとさらに確率が低下するような稀少な存在。

 

 以上、解説終わり。

 

~~~

 

「マジかよ…」

 

『ここで嘘を吐く必要性はあるまい』

 

「まぁ、そりゃそうだが…」

 

 すると…

 

『お主こそ"人のことは言えぬ匂い"をしているようだが…?』

 

 天狼がゼロを見てそう言う。

 

「……さて、何のことやら…」

 

 明らかに白を切るゼロに…

 

『我が鼻を舐めるな。お主こそ…』

 

「ストップ。わかった、わかったよ。そこは認めてやる。だから、それ以上は言うな」

 

 天狼が何かを言いかけ、それを制止するようにゼロが言葉を遮る。

 

「ま、俺にも俺の事情があんだよ。今は"あいつら"とも別行動の身だし、あんま詮索しないでくれると助かる」

 

 そう言って天狼の側に座って野宿の後始末してる忍と明香音の様子を見てると…

 

『我が主との関係は…?』

 

「あいつが望む限りは続くさ」

 

『つまり、いずれは…』

 

「さてな…そればかりわからん。未来を見通せる訳でもないしな」

 

 そんな意味深な会話をしていたが、ゼロの方がはぐらかしてるようにも見えた。

 

「ま、もしもそうなった時、あいつになら………」

 

『…………………』

 

 その先は天狼にも聞こえなかった。

 

 そうして野宿の後始末を終えたゼロ達はリテュアへと渡る準備を行うために港町へと向かうのだった。

 

 

 

 天狼とゼロの会話…その意味とは、何か?

 未だ明かされないゼロの素性に関係があるのか?

 

 そんなことなど露知らず、忍はまだ見ぬ地へと想いを馳せるのだった。

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