絆の証は契約と共に   作:伊達 翼

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第五話『小さな出会い』

 五大陸の北に位置する極寒の大陸『リテュア』。

 大陸全土が白銀の世界に覆われた地。

 

 その南側に点在する唯一の港町にゼロ達は降り立つ。

 

「流石にやっぱ寒いな」

 

 何度来てもやはり寒いものは寒いんだな、と笑うゼロを他所に…

 

「明香音ちゃん、この時期なのに雪だよ! 雪!」

 

 忍はこの時期に見る雪に興奮していた。

 

「流石は極寒の大陸と言われるだけありますね……くしゅん…」

 

 魔法で防寒コート内を暖かく保っているとは言え、やはり雰囲気的にも寒いらしく明香音は可愛らしいくしゃみをする。

 

「大丈夫?」

 

「え、えぇ…平気です。ちょっと鼻がムズムズしただけですから…」

 

 そんな明香音を心配して顔を覗き込む忍を見て…

 

「ふむ、顔が無防備だったか。俺はあんま気にしたことないからうっかりしたな…」

 

 と言ってゼロは港町を軽く散策することにした。

 こうして忍と明香音には追加で帽子とマフラー、手袋、ブーツを近くの仕立て屋で買って装備させることにしたゼロだった。

 ちなみに費用は銀貨10枚程度くらい掛かったらしい。

 

「これで子供組はいいとして…天狼、お前は平気か?」

 

『流石にこの寒さは堪えるが…結界術を応用すれば外気と触れる面も少なく出来るし、何とでもなる』

 

「流石は元霊獣だな。霊力の扱いを心得てる」

 

『当たり前だ』

 

 当然とばかりに天狼は胸を張る。

 

「さてと…今後の行動についての会議もしたいし、近くの茶店に入るか」

 

 そんなゼロの発案で仕立て屋の側にあった茶店に入る。

 天狼は外で待機だが…。

 

「さて、思わぬ出費もしたし…俺は魔獣討伐でもして稼ぎたいとこだが…残念ながらこのリテュアではそれも難しい」

 

 席に着くとゼロは適当にコーヒーとホットココア二つを注文してから話を切り出す。

 

「そうなの?」

 

「あぁ、この大陸では大抵の場合、耐寒能力を備えている魔獣が多いんだが、こんな寒い中を積極的に動こうって魔獣はそうはいないんだよ。だから"地上"での被害や討伐なんかは比較的少なめなんだよな」

 

 忍の問いにゼロはそう答えていた。

 

「"地上"?」

 

 明香音はゼロの言葉の中で引っ掛かる物言いに疑問符を浮かべる。

 

「あぁ、この大陸では古代文明の遺跡が地下に埋まってるケースが多くてな。そこに魔獣達が住み着いてるってこともよくあることなんだよ。だから魔獣討伐の場所は地下遺跡が多いんだよ」

 

「へぇ~」

 

「……詳しいんですね…」

 

 ゼロの説明に忍は感嘆の声を上げ、明香音はちょっと驚いたような声を上げる。

 

「ま、伊達に一人旅を続けてる訳じゃなかったからな」

 

 今じゃ子連れだしな、とボヤいていたが、それは聞き流された。

 

「お待ちどうさま~」

 

 ウェイトレスの女性が注文していた飲み物を持ってきてくれた。

 

「あんがとさん。ねぇ、お姉さん」

 

 するとゼロがウェイトレスの女性に声を掛ける。

 

「ん~? ナンパなら子供のいない時にしなよ?」

 

「子供いなきゃいいのかい?」

 

「ん~…お兄さんの気持ち次第?」

 

 そんなやり取りの後…

 

「なんだ、そりゃ…ってのは置いといて。"帝都との道は出来たのかい"?」

 

 ゼロは少し真面目な口調で尋ねる。

 

「あら、お客さんはこっちの出身かい? 最近になってようやくこの港町にも"道"が出来てね」

 

「いや、出身ではないが…旅の期間が長くてね。それで何回かこの大陸にも来たことがあるんだよ。それで"道"のことも知ってるんだよ」

 

「そうだったの。大変じゃない?」

 

「まぁな。でも、面白いからやめられないんだよ、これが」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべて答えるゼロに…

 

「変わった人ねぇ」

 

 ウェイトレスの女性は若干呆れたようにその場から去る。

 

「「"道"…?」」

 

 ゼロとウェイトレスの女性の会話に疑問符を浮かべる忍と明香音。

 

「この国が研究してる『古代遺物(アーティファクト)』ってやつの技術を応用して作られた門のことさ。確か、転移系古代遺物の技術を今の世に応用した代物さ」

 

「「???」」

 

 2人にはまだ小難しいことはわからないようだ。

 

「要するにその門を通れば、その門と繋がった別の場所に行けるってことだ」

 

 かなり噛み砕いて説明する。

 

「へぇ~」

 

「そんな移動法があるなんて…」

 

「ま、今んとこはこの大陸限定の移動法だけどな」

 

 感嘆したり驚いてたりする2人にそう言ってゼロがコーヒーを一口飲む。

 

「その門を潜って帝都まで行くの?」

 

「そういうことだ。ただ、通行料があったはずだが…さて、いくら掛かるのやら…」

 

 忍の質問に答えつつゼロは持ち金を確かめる。

 

「ん~…ここでの滞在費を込みに考えて……まぁ、なんとかなるだろ」

 

 真面目に考えていたようだが、最終的には楽観的な物言いになっていた。

 

「あったかいね」

 

「そうですね…」

 

 そんなゼロの言葉など聞いてなかったのか、忍と明香音はホットココアを飲み合っていた。

 

「お子様は気楽でいいね」

 

 そんな2人の様子を横目に見つつゼロもコーヒーを飲むのだった。

 

………

……

 

「ご馳走さん」

 

「は~い、また近くに来たら寄ってね」

 

 代金を支払い、茶店を後にしたゼロ達は…

 

『話は終わったのか?』

 

 茶店の外で待っていた天狼と合流した。

 

「あぁ、門を潜って帝都に行く。それが最短であり、最速でもあるしな」

 

『門…やたら魔力が集まっている所があるようだが…そこか?』

 

「多分そこだな」

 

 天狼もただ待っていた訳ではなく、鼻による索敵を行っていたようだった。

 その地点へと向けて足を運ぶと…

 

「わぁ~」

 

「これは…」

 

 港町の北へと着き、門がその姿を現す。

 柱が二本並び、柱の天辺には淡く光る宝石のような物体が置かれており、その間を何やら魔術的な魔法陣が展開されていて煌々と輝きを放っていた。

 

「ま、一応は徒歩というか、乗り物を借りるルートもあるんだがな」

 

 驚いている忍と明香音の横からゼロが付け足すように柱の左右を見る。

 見れば、柱の外側にも道があった。

 

「今はこんな移動だけで時間をかけてられんからな。それはそれで修練になりそうだが…それはそれ、これはこれ、ってな」

 

 ゼロにはゼロの思惑があるようだった。

 

「さ、お前ら行くぞ」

 

 ゼロを先頭に門の前まで行くと…

 

「止まれ」

 

 防寒鎧を着た騎士風の男に呼び止められる。

 

「はいはい、通行料とかかい?」

 

「やけに物分かりがいいな……そうだ。大人一人に子供二人、そして契約獣が一匹…ん?」

 

 騎士風の男は眉を顰めて天狼を見る。

 

「おい、この契約獣の契約者は貴様か?」

 

 そう言ってゼロに聞くが…

 

「いんや、俺じゃないぜ? てか、全員の顔見りゃ誰が契約者かわかるだろ?」

 

 肩を竦めてそう答えると忍を見る。

 

「?」

 

 首を傾げる忍の顔には契約紋である狼の刻印がくっきりと浮かび上がっている。

 まぁ、今はマフラーをしてるから見えにくいかもしれないが…。

 

「なっ?! まさか、こんな子供が契約者だというのか!?」

 

「そりゃ世の中そういうこともあるっしょ? 第一、俺に契約紋なんて無いですし」

 

 飄々とした態度で言い切るゼロだった。

 ※真っ赤な嘘です。

 

「ぬぅ…ならば仕方ないか…ちゃんと躾けてあるんだろうな?」

 

『(イラッ)』

 

 そう聞いてきた騎士風の男に対して微妙に殺気を出そうとした天狼だったが…

 

「? 天狼は良い子だよ?」

 

『我が主よ…』

 

 忍の言葉に毒気が抜かれた様子になってしまう。

 

「ふんっ…ならいいが……帝都には何をしに行くんだ?」

 

「観光みたいなもんですよ。しばらく滞在して帝都にある古代遺物の博物館にでも繰り出そうかなってね」

 

「ほぉ、随分と詳しいんだな?」

 

 ゼロの受け答えに騎士風の男も少し怪訝な目で見ると…

 

「まぁ、旅が長いんでね」

 

 ゼロはそよ風でも受け流すかのように自然体で流す。

 

「…………いいだろう。大人は金貨1枚、子供2人で銀貨80枚、契約獣が銀貨20枚分だ」

 

「合わせて金貨2枚ね。随分と高いんだな…」

 

「維持費やメンテナンスなどもあるのでな」

 

「そうかい」

 

 そう言ってゼロは金貨を2枚、騎士風の男に手渡す。

 

「帝都へようこそ。異邦の方々よ」

 

 その声を背にゼロ達は魔法陣の中へと入っていく。

 

………

……

 

・帝都『リティア』、港町方面転移門前

 

「わっわっ…景色がもう違うよ!?」

 

「これが…転移門…」

 

「ふむ…俺も転移門での移動は初めての経験だったが…凄いな」

 

『あまり寒くない…?』

 

 四者四様の驚き方をしていると…

 

「はいはい。後がつかえるかもしんないから早く移動してくださいね」

 

 今度は騎士風の女がゼロ達に話し掛けていた。

 

「あぁ、すまんね。ほら、行くぞ」

 

「は~い」

 

「わかりました」

 

『うむ』

 

 その場から移動を開始すると、その街並みが見えてくる。

 

「流石は帝都。結界の維持も並大抵じゃねぇな…」

 

 空を見ながらゼロがそう言うと…

 

『結界だと…?』

 

 天狼が訝しげに尋ねる。

 

「あぁ。帝都はドーム状の結界で覆われててな。それも古代遺物による技術応用なんだが、そのせいか気候はわりと安定してるんだよ」

 

『確かに…魔力での結界のようだが…ここまでの規模のものとは…』

 

 天狼も少なからず驚いていると…

 

「ん~…何年か前に来た時とそれほど変わってないなら…中央に城があって、北に古代遺物の研究機関が密集してて、南が商業区域の、東西が住宅街って構図だったはず」

 

 そんな風に思い出している。

 

「じゃあ、ここは?」

 

 ゼロの右横を歩く忍が尋ねてくる。

 

「ここは…多分、南の商業区域の大通り、かな? ほら、正面に城があんだろ? 確か、この向きだと南だった気がするんだよな。それに周りにも店がいっぱいあんだろ?」

 

 言われて周りを見ると、確かに店が多く賑わってる様子だった。

 

「(さてと…しばらくは滞在するつもりだし、宿も探さねぇとな……ついでに魔獣討伐の依頼なんかも確かめられればいいんだが…門を通る度に通行料払うのも嫌だし、節約もしたいしなぁ~)」

 

 という風にゼロが思い悩んでいた。

 

 実際問題として、ゼロの資金も当然ながら無限ではない。

 しかも今回の船旅(港町での出費も含め)で金貨を既に5枚近く消費している。

 あと、何枚持ってるか知らないが、節約したいのは当然だと思う。

 これからまた別の大陸に渡るための船旅もしなくてはならないので、ここでの無駄遣いは避けたいところなのだ。

 

 しかし、地下遺跡に潜るとしても、このリテュアではリデアラント帝国が古代文明の遺跡を管理しているので、おいそれとは入れないのも事実。

 特に帝都の地下遺跡には学者達も出歩くせいで定期的に帝国騎士団による魔獣狩りも実施されている。

 学者がたまに民間に個人的な依頼を出すこともあるが、それは旅人にとっては貴重な収入源なので、応募も殺到するし、確実に請け負える保証もない。

 

 それだったら金貨2枚を切って他の集落にいる魔獣を狩るか…。

 しかし、それもそれで問題である。

 古代文明の遺跡を管理しているだけあって、余所者に対して風当たりが強いのだ。

 しかも金貨2枚を切ってまで行って戻ったとしても報酬が割に合わない可能性がかなり高い。

 

 さらに言えば、ゼロが留守の間、忍と明香音の身に何かが起きても対応出来ない。

 実際、それで忍は天狼と契約することになったし、その際に危ない目にも遭ってる。

 余計に目が離せないのが実情である。

 

 そんな風に頭の中で状況を整理していたゼロだった。

 

「(困った…ホントに困った)」

 

 これが一人旅だったのなら、なんとでもなったのだが……今や子供二人と狼一匹が増えている。

 

「(とにかく、まずは数ヵ月くらい泊まらせてくれる安めの宿を探すか…)」

 

 まずは寝泊りする場所を探すことにしたらしい。

 

「(最悪、明香音の仕送りで飯代を浮かすこともある程度の視野に入れとくか…)」

 

 仕送りの目的が少し違ってないか?

 ※こちらでの近況や向こうでの状況、手紙や情報の交換が主な目的です(もちろん、明香音への支援も忘れてはいない)。

 

………

……

 

「わぁ~、凄いね。明香音ちゃん」

 

「そうですね…」

 

 忍と明香音が並んで歩き、その後ろを天狼がついてきていた。

 

『何故、我が…』

 

 解せん、と言わんばかりの表情の天狼だが、ちゃんと2人のことを見てる辺り面倒見がいいのかもしれない。

 

 ゼロが宿を探す間、子供らが暇になるだろうと思い、ちょっと天狼にお守を頼んで探検させることにしていた。

 で、現在2人は東の住宅街へと繰り出していた。

 仮に迷ったとしても天狼がゼロの匂いを覚えているので問題ないとのこと。

 

「ねぇ、紅神君」

 

「僕のことは忍でいいよ?」

 

 そう言われ…

 

「じゃあ、忍君。そんなに街の風景が珍しい?」

 

 改めて尋ねてみると…

 

「うん。僕にとってはみんな新鮮に見えるよ! あんまり家の外に出たことなかったし…」

 

 そんな風に忍はあっけらかんと答えていた。

 

「え…?」

 

『………?』

 

 その言葉に明香音は驚き、天狼もきょとんとする。

 

「ん~…お父さんとお母さんからあまり外に出ちゃいけないって言われてて…須佐之男の街外れに家があったから、町への買い出しもあまりついてけなかったかな。でもお父さんやたまに来てくれるゼロおじさんが遊んでくれたからあまり寂しくはなかったかな」

 

 負の感情を微塵も出さない様子の忍の語りに明香音は困惑した。

 

「(どういうこと? 外に出ちゃ何かマズい理由でもあったのかしら…?)」

 

 父親である瞬弐なら何か知ってるかもしれない…とも思ったが、あの父が秘密を語るなどあり得ないと即座に切り捨てた。

 

「(でも、確かに…ちょっと世間ズレしてるところもあるし…そういう環境で育ったなら仕方ない…のかな?)」

 

 あまり釈然としなかったが、明香音はそう思うようにすることにした。

 

『して、主よ。ならば、どうして家の外に出れたのだ?』

 

「う~ん…おじさんが外の世界を見せてくれるって…それにお父さんとお母さんの許可も取ってるみたいだから」

 

『そ、そうか…(あの男に対する信頼はそれなりに高いようだな…それが心配でもあるが…)』

 

 天狼は天狼で自らの主の純粋さを心配していた。

 

 そうこうしていると、一行はちょっと広めの公園へと辿り着く。

 

「外は雪なのに、中はあったかいから不思議だよね~」

 

「まぁ、確かに…」

 

『無駄な霊力を使わずに済むのは確かにありがたい』

 

 子供の感想と一匹の本音が出たところで…

 

「ちょっとここで休憩してこ?」

 

「はい」

 

『わかった』

 

 その公園で休憩することにしたらしい。

 公園へと足を踏み入れると…

 

ぽよん、ぽよん…

 

 一つのボールが弾んで転がってきた。

 

「?」

 

 それを忍がキャッチすると…

 

「ぁ、すみません…その、ボール…」

 

 そのボールを追ってきただろう忍よりも小さな子供が忍を見上げる。

 

「これ? はい、どうぞ」

 

 忍は快くボールを子供に渡す。

 

「ありがとうございます…」

 

「どういたしまして」

 

 お礼を言う子供に忍もそう返していた。

 

「ゆ、ユウ…」

 

「…………………」

 

 さらに子供の後ろから別の子供が少し距離を取ろうとし、その子供の背中にはさらに小さな子供がぬいぐるみを抱きしめてこちらの様子を窺っていた。

 

「天狼が珍しいのかな?」

 

 その様子に忍がそう言うと…

 

「怖いの間違いでは?」

 

 間髪入れずに明香音がそう言う。

 

『失敬な…』

 

 明香音の言葉に反応し、天狼が喋ると…

 

「わっ!?」

 

 ユウと呼ばれたボールを持つ子供が驚く。

 

「しゃ、喋ったってことは…契約獣?」

 

 ボールを持つ子供をユウと呼んでた子供がそんな風に呟く。

 

「僕の契約獣、天狼っていうんだ。驚かせちゃった?」

 

 優しい笑みを浮かべて忍が目の前のユウという子供に尋ねる。

 

「ちょ、ちょっとだけ、ですけど…」

 

「大丈夫だよ。天狼は良い子だから」

 

 そんな風に天狼の弁護をする忍だった。

 

 

 

 東の住宅街にある公園での小さな出会い。

 これが忍や明香音にとってどのような巡り合わせになるのだろうか?

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