まだ、日は落ちきっていないにも関わらず、森は薄闇に侵食されていた。
木の陰に何かが潜んでいたとしても、事前に察知することは難しいだろう。
だとしたら、動き続ける方がいいのかもしれない。
ただ、確実に白露達は道に迷っている。このまま、いたづらに走り続けてよいものか。
この道を行くことが、森を抜けるということなのか、ただ深みにはまっていると言うのか、全く分からない。
どこかでじっとしていた方が、珊揮と戒莉の助けを期待できるかもしれない。
いや、助けどころか、妖魔が相手だ。あの二人もどうなったのか、分からない。
白露の思考は、めまぐるしく巡るものの、絶望的な方向を目指すばかりだ。
そうこう惑ううちにも、陽が傾き始めている。
このまま、走り続けていいものなのだろうか。
馬もこれ以上走るのは負担だろう。荷を棄てた方が、いいかもしれない。いっそ、車を乗り捨てようか。
白露は、闇に飲まれつつある周囲に目を凝らした。
何か、どこかに、隠れ込む場所はないのか。
目の端に、奇妙な木が映った。
それは、周囲のどの木とも似ていない。
白露が見た木の中で、それに似た木は確かにあった。
記憶の中のその木は、枝にとりつけられたとりどりの帯が風にそよぎ、大きな実をつける木だった。
―― 里木……
もちろん、里木がこんな森の中にあるはずがない。
あるとしたら、それは野木だ。
「大丈夫なのでしょうか」
御者は、白露の様子を窺いながら、おそるおそる尋ねてきた。
「ええ、野木の下ならばどんな獣も襲ってこないのよ」
確か、そのはずだが、白露も本で読んだだけで、実際にどうなのかは自信がない。だが、御者に対してはその不安は隠して笑顔を見せた。
「そうですか」
御者は、白露の微笑みにようやく肩に入った力を落とした。
「馬を休ませましょう。それから、どうするかを考えないといけないわね」
「はい」
御者は、いそいそと馬の方へ向いて行った。
白露は、御者に見えぬところで溜息を小さく落とした。
野木の下に逃げ込んだものの、この後どうしたものかが考え付かない。
白露は、それでも考えを広げようとした。
野木の下は、安全。確かに、そのはずだ。夜、山野や森で休むにはここより安全な場所はない。
―― ああ、でも
野盗に対しては、有効ではない。
そう考えると、白露はふとおかしくなった。この野木の下で危険なのは、獣ではなく、人なのだ。
おかしなものだ。
ここで、白露からふっと良い感じに力が抜けた。
おかしなものだ。
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